説明

防災瓦

【課題】特殊な金具を使用することなく、アンダラップの損傷を回避し、低コストで軒先瓦の下地材へ強固に固定する。防災瓦の場合の係合突起が破損したときの確実な補強を可能とする。
【解決手段】一方の側面にアンダラップ21を、他方の側面にオーバラップ(図示せず)を形成した粘土瓦2において、前記アンダラップ21に配置した堤状の水返し22の頭部に寄った部分に設けた固定用穴に固定用ねじ31をねじ込み、屋根の下地材41に固定可能としたもので、この固定用ねじ31をねじ込むための固定用穴は、隠し固定穴とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、葺き上げ時に、軒先先端部分に葺かれる粘土瓦の耐風構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
平板状屋根瓦、例えばスレート系平板瓦の場合、その軒先瓦を下地材に強固に固定する方法として、特許文献1では、軒先瓦用耐風クリップを提案している。このクリップは、図4(斜視図)に示すような帯状基板10aの先端をT字状に成形し、その一方端は軒先スタータ(図示せず)と係合可能なかぎ形10bに、他方端は軒先瓦の先端(図示せず)と係合可能なかぎ形10cに構成したものである。
【0003】
軒先の施工において、軒先スタータとかぎ形10bを係合させ、釘などで一体に下地に固定し、次いで、軒先瓦をその先端をかぎ形10cと係合させて葺設すれば、従来用いた固定用穴の穿設、釘打ち作業などを行うことなく、軒先瓦を固定することだできることになる。このような耐風クリップを粘土瓦に応用可能ではあるが、軒先に耐風クリップが露出するため、特に外観上、好ましくないという問題があった。
【0004】
クリップが露出しないで軒先瓦を下地材に強固に固定する方法として、軒先瓦固定用クリップが特許文献2で提案されている。このクリップの斜視図である図5によると、このクリップ11は、周縁部に爪11aを設けた土台板11b、柱板11c、引掛け部11dを先端に設けた押え板11eから構成されている。
【0005】
このクリップ11は、図6に示すように用いられる。すなわち、軒先瓦12のアンダラップ12aの上面に押え板11eを押し当てながら土台板11bを屋根下地材13に爪11aを突き刺して仮固定する。その後、土台板11bを釘やネジ(13a)でもって、屋根下地材13に固定すれば、一連の軒先瓦を強固に固定する葺設作業を効率よく行うことができるのである。
【0006】
この場合は、クリップ11は隣り合う軒先瓦によって覆われるから、外部に露出することはない利点が得られる。しかしながら、専用の軒先瓦固定用クリップを予め準備して置く必要があり、コストアップになるなど不利な面があった。
【0007】
比較的手軽に行える軒先瓦の固定手段として、図7に示すような、通常、L釘(14)と呼ばれる逆L字形金具が用いられている。軒先瓦12の葺設に際して、図7(a)のように、アンダラップ12aにそって、下地材、たとえば広小舞に対して、ハンマを用いてL釘14を打ち込み、図7(b)に示すように、L釘14の係合折り曲げ部14aをアンダラップ12aに係合させれば、軒先瓦を下地に強固に固定することができる。
【0008】
このようなL釘14を用いる方法では、ハンマの操作を誤るとアンダラップ12aを損傷するなどの不具合があり、熟練した技術が要求される他、L釘14を異常に変形させてしまい十分な固定強度が得られない、あるいは汎用金具ではないため、コスト増などの問題もあった。
【0009】
さらに、耐風性能を改善した防災瓦として、瓦の尻部上面に係合突起(フック)を形成し、葺き上げ時に、上側に配置される瓦のアンダラップの側端部分が下側に配置された瓦の前記係合突起の下側に挿入され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた粘土瓦がある。この種の防災瓦の場合も、軒先瓦として用いられる場合には、下側に配置される瓦が存在しないので、軒先に配置される瓦は、前記した各種の方法で、下地材に固定する必要があり、前記した問題を含んでいた。
【0010】
また、この種類の防災瓦の場合、軒先瓦以外の使用形態において、前記係合突起が何らかの理由で損傷した場合には、シリコン系接着剤を用いて下地材に接着固定するという補強を行うのが通例であったが、補強強度または耐久性にバラツキが生じるという問題もあって、軒先使用の場合と同様に改善が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
(1)特開平8−114006号公報:段落(0000)、図・
(2)特開2004−84426号公報:特許請求の範囲、図1、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、L釘の他、特殊なクリップなどを使用することなく、アンダラップの損傷を回避し、低コストで軒先瓦の下地材への安定した固定の実現を図るとともに、前記アンダラップの側端部分と係合突起との係合による耐風瓦の場合の係合突起が破損したときの確実な補強を可能とする防災瓦を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の問題は、一方の側面にアンダラップを、他方の側面にオーバラップを形成した粘土瓦において、前記アンダラップに配置した水返しの頭部に寄った部分に、表面を閉鎖した隠し固定用穴を設けたことを特徴とする本発明の防災瓦によって、解決することができる。
【0014】
また、本発明は、前記粘土瓦が、その尻部上面に係合突起を形成し、葺き上げ時に、下側に配置された瓦の係合突起が上側に配置された瓦の係合部に係合され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた粘土瓦である形態に好ましく具体化できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防災瓦は、軒先瓦として用いられる場合は、前記隠し固定用穴を開通させて利用して単純な釘またはネジなどの金具で下地材に強固に固定することができる。そして、その固定作業も単純な釘うちあるいはねじ込み操作なので、作業に格別の経験を必要とせず、また瓦を損傷することもない。さらに、本発明に用いられる固定釘やねじには、汎用的な形状の金物が応用可能なので、コスト面でも有利であり、また、固定後のねじ頭などは、隣接して葺かれる瓦のオーバラップによって覆われるので、外観上の不具合を生じないという利点もある。
【0016】
また、本発明の防災瓦は、軒先瓦以外の用途の場合など、それら隠し固定用穴を利用しないときには、当該部分の表面は閉鎖されているので下地材の方への漏水のおそれもない。さらに、本発明の防災瓦は、軒先瓦以外の用途の場合でも、必要に応じて、この瓦をそれら隠し固定用穴を利用して、下地材に強固に固定することができる。
【0017】
また、本発明の防災瓦が、その尻部上面に係合突起を形成し、葺き上げ時に、下側に配置された瓦の係合突起が上側に配置された瓦の係合部に係合され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備える場合において、前記係合突起が何らかの理由で損傷した場合には、このように、隠し固定用穴を利用して瓦を個別に下地に固定できるから、接着剤などの補修方法に比較して長期に耐風性能を保持できる利点も得られる。 よって本発明は、従来の問題点を解消した防災瓦として、工業的価値はきわめて大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の防災瓦の固定状態を示す要部俯瞰図(a)。
【図2】実施形態1を示す要部俯瞰図、表面(a)裏面(b)表面の開通した隠し固定用穴(c)。
【図3】実施形態2を示す要部俯瞰図、正常な状態(a)、係合突起が損傷した状態(b)、釘打ち補修した状態(c)。
【図4】従来の平板形軒先瓦固定用クリップを示す斜視図。
【図5】他の軒先瓦固定用クリップを示す斜視図(a)(b)。
【図6】図5に示す軒先瓦固定用クリップに使用状況を示す要部断面図。
【図7】従来のL釘の使用状況を示す要部俯瞰図、固定前(a)、固定後(b)。
【図8】実施形態3を示す要部俯瞰図。
【図9】実施形態4を示す要部俯瞰図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の防災瓦に係る実施形態1、2について、図1〜3を参照しながら説明する。
(実施形態1)
本発明の防災瓦は、軒先瓦として用いられる場合には、汎用的な形状の金物である固定釘やねじを用いて、下地材に強固に固定することができるようにしたものであり、具体的には、図1に示すように、一方の側面にアンダラップ21を、他方の側面にオーバラップ(図示せず)を形成した粘土瓦2において、前記アンダラップ21に配置した堤状の水返し22の頭部に寄った部分に設けた固定用穴23に固定用ねじ31をねじ込み屋根の下地材41に固定可能としたものである。
【0020】
そして、本発明の特徴は、固定用ねじ31をねじ込むための、固定用穴23は、図2に示すように、表面を覆った隠し固定穴としたところにある。すなわち、図2(a)に示すように、使用前には、表面には固定用穴23は露出していないが、図2(b)に示すように、裏面の当該位置に内部に向けて穿孔加工し、貫通しない程度の厚さの薄肉部を残して穿設しておくことにより、表面が閉鎖された隠し固定穴とすることができる。この場合、裏面には開口部23bが形成される。
【0021】
このような隠し固定穴は、瓦生地のプレス成形時または成形後可塑性のあるうちに、裏面から直径3〜6mmのピンを圧入し、かつ貫通しないよう薄肉部を残して穿孔加工すればよい。この薄肉部は、隠し固定穴の利用に際して、尖った尖端を持つハンマなどで表面に軽く衝撃を与える程度で容易に欠落して開口して、固定用穴23として開通する厚さに設定されている。この厚さは好ましくは3mm以下である。
この薄肉部を設けない場合は、後工程の施釉工程において液状の釉薬が流入して穴を閉塞してしまうので、必要になったときの開口加工が不可能となるから、前記穿孔加工の加工条件を十分に管理しなければならない。
【0022】
そして、軒先瓦として用いられる際になって、この薄肉部を尖った尖端を持つハンマなどで軽く衝撃を与えれば、図2(c)に示すように、固定用ねじ31をねじ込むための固定用穴23を開口させることができ、図1に通り、固定用ねじ31をねじ込んで屋根の下地材41に固定することができるのである。
なお、図2に示すように、隠し固定穴を設けた堤状の水かえし22の部分の強度を補強するために、その部分が幅広に形成するのがよい。
【0023】
ここでは、固定金具として、固定用ねじ31で説明したが、これは固定用釘であってもなんら差支えなく、本発明の防災瓦は、このような単純な釘またはネジなどで下地材に強固に固定することができるうえ、その作業も単純な釘うちあるいはねじ込み操作なので、経験の浅い作業者でも瓦を損傷することなく行えるメリットがある。その他、本発明では、汎用的な金物が応用可能なので、安価であり、固定後のネジ頭は隣接する瓦によって隠されるので、外観上も好ましいものとなる。
【0024】
また、本発明の防災瓦は、軒先瓦以外の用途の場合など、それら隠し固定用穴を利用しないときであっても、当該部分の表面は閉鎖されているので下地材の方への漏水のおそれもない。さらに、軒先瓦以外の用途の場合でも、必要に応じて、この瓦を隠し固定用穴を利用して下地材に強固に固定することができる。
【0025】
(実施形態2)
本発明は、図3に示すような防災瓦の場合には、より好ましく具体化できる。
すなわち、図3(a)に示す粘土瓦2のその尻部上面に係合突起25を形成し、葺き上げ時に、上側に配置される瓦のアンダラップの側端部分23が下側に配置された瓦の前記係合突起25の先端部分の下側に挿入されることにより、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた防災粘土瓦の場合である。
なお、ここではストレート葺きの場合を図示して説明しているが、本発明は千鳥葺きにも同様に適用できるものであることは言うまでもない。また後記の実施形態3、4の場合も同様である。
【0026】
この防災瓦において、何らかの原因で、前記係合突起25で損傷し欠損した場合(図3(b)参照)には、係合関係がなくなるから耐風構造が維持できなくなるが、その場合には、図3(b)→(c)のように、隠し固定用穴を加工して固定用穴23を出現させ、固定用ねじ31をもって瓦を個別に下地に確実に固定するという補修が可能となる。
かくして、前記係合突起25で損傷し欠損した場合には、従来、接着剤などで補修せざるを得なかったのであるが、本発明によって、長期に耐風性能を保持できる利点も得られるのである。
【0027】
この固定用穴23(隠し固定穴)が設けられる位置は、アンダラップ21に配置した堤状の水返し22の頭部に寄った部分であるが、前記固定用ねじ31が、葺き上げ状態で下側に配置される瓦の尻部と干渉しない位置に頭部先端からずらして設定されるものである。より具体的には、アンダラップ頭端より尻方向に50mm〜150mmに範囲内の設けるのが好ましい。
【0028】
(実施形態3)
本発明は、図8に示すような防災瓦の場合においても、より好ましく具体化できる。
すなわち、図8に示す粘土瓦3の尻部上面に係合突起35を形成し、葺き上げ時に、上側に配置される瓦の頭側オーバラップの裏面付け根に設けた凹部36に、下側に配置された瓦の前記係合突起35の先端部分が挿入され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた防災粘土瓦の場合である。
【0029】
この防災瓦において、何らかの原因で、前記係合突起35で損傷し欠損した場合には、実施形態2の場合と同様に、隠し固定用穴を加工して固定用穴33を出現させ、固定用ねじ(図示せず)をもって瓦を個別に下地に確実に固定するという補修が可能となる。
【0030】
(実施形態4)
本発明は、図9に示すような防災瓦の場合においても、より好ましく具体化できる。
すなわち、図9に示す粘土瓦4の尻側上面に係合突起45を形成し、葺き上げ時に、上側に配置される瓦の頭部の側端部分46が下側に配置された瓦の前記係合突起45の先端部分の下側に挿入され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた防災粘土瓦の場合である。
【0031】
この防災瓦においても、何らかの原因で、前記係合突起45で損傷し欠損した場合には、実施形態2、3の場合と同様に、隠し固定用穴を加工して固定用穴43を出現させ、固定用ねじ(図示せず)をもって瓦を個別に下地に確実に固定するという補修が可能となるのである。
【0032】
本発明の防災瓦の実施形態1、2では、アンダラップ21に配置した堤状の水返し22の頭部に寄った部分に固定用ねじ31をねじ込み可能とした隠し固定用穴を1箇所設けたもの例示しているが、これは複数箇所配置してもよい。すなわち、軒先瓦として用いられる場合、固定用ねじ31が固定されるための好ましい屋根下地材は広小舞であるが、軒先瓦ではない場合、固定用ねじ31は瓦桟木の固定されるのが強度上好ましい。従って、この広小舞と瓦桟木のそれぞれの位置に適合するよう前後に間隔を設けて少なくとも2ヶ所に隠し固定用穴を配置するのが好ましい。これらは、実施形態3、4の場合も同様であることはいうまでもない。
【0033】
なお、本発明の防災瓦は、軒先瓦以外の用途の場合、それら隠し固定用穴を利用しないときであっても、当該部分の表面は閉鎖されているので下地材の方への漏水のおそれもない。さらに、本発明の防災瓦は、軒先瓦以外の用途の場合でも、この瓦をそれら隠し固定用穴を利用して下地材に強固に固定することができるなどの利点もある。
【符号の説明】
【0034】
2:粘土瓦、21:アンダラップ、22:水返し、23:固定用穴、23b:開口部
31:固定用ねじ
41:下地材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の側面にアンダラップを、他方の側面にオーバラップを形成した粘土瓦において、前記アンダラップに配置した水返しの頭部に寄った部分に、表面を閉鎖した隠し固定用穴を設けたことを特徴とする防災瓦。
【請求項2】
前記粘土瓦が、その尻部上面に係合突起を形成し、葺き上げ時に、下側に配置された瓦の係合突起が上側に配置された瓦の係合部に係合され、上下の瓦が係合状態を構成する耐風構造を備えた粘土瓦である請求項1に記載の防災瓦。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−261149(P2010−261149A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110325(P2009−110325)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(392005470)新東株式会社 (15)