説明

防護服

【課題】ある特定の色相を有し、また洗濯耐久性や強度などの機械的物性に優れた防護服を提供すること。
【解決手段】先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する酸化鉄(III)微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、該微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製し、当該ポリマー溶液を用いて繊維を製造し、さらに、得られた繊維を一定量用いることにより、特定の色相を有しかつ色ムラがなく、また洗濯耐久性や強度などの機械的物性に優れた防護服を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯などによる色落ちが抑制され、色ムラが少なく、引き裂き強度などの機械的物性に優れた防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を主成分としてなるアラミド繊維、特にパラ型アラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性などの特徴を有することから様々な産業資材用途や、消防服、防弾・防刃材といった防護衣料用途などで幅広く用いられている。
昨今、消防服などの防護衣料の分野では、機械的物性や難燃性といった繊維そのものの諸物性に加え、様々な色のバリエーションを有する意匠性も重要な要素の一つとなっている。繊維元来の色以外に繊維を着色するためには、繊維を染色する方法や、製糸の段階で原料着色する方法などが挙げられる。
【0003】
代表的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維として知られるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下「PPTA」と記す)繊維の場合には、主として液晶性のポリマードープを用いて製糸するため、無機顔料を添加すると、その液晶性や曳糸性、機械的物性が阻害されてしまう。このため、無機顔料の適用は困難であり、主として染色によって繊維に色を付けることが一般的である。
【0004】
このようなPPTA繊維の染色に関しては、これまで様々な検討がなされており、たとえば特許文献1(特開2007−16343号公報)においては、座屈部(キンクバンド)を有し、かつこの座屈部をカチオン性または分散染料で染色したパラ系全芳香族ポリアミド繊維を含んだ繊維構造体に関する報告がされている。しかしながら、一般にPPTA繊維は高い耐薬品性を有することに起因して染まりにくいため、優先的に染色される座屈部を物理的により多く付与しなければ、色ムラなく十分染色することができない。そして、座屈部を多く付与した場合には、繊維の欠陥が増えることになり、強度などの機械的物性が大きく損なわれる問題が生じてしまう。また一般に、染色により着色した繊維は、繊維と染料との物理的な結合力が弱いために、たとえば洗濯等により容易に色落ちする問題も生じていた。
【0005】
一方、等方性のポリマードープを用いて製糸するパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、ポリマードープに無機顔料等を添加しても、曳糸性や結晶構造、機械的物性に大きな影響はない。このため、主として原料着色(以下「原着」と記す)によって繊維への着色が行われる。
このような原着糸に関しても、これまで様々な検討がなされており、たとえば特許文献2(特開2005−232642号公報)においては、酸化チタン微粒子などを添加することにより、ある特定の色相を備えさせたパラ型全芳香族ポリアミド繊維が報告されている。本公報のような方法により、特定の色相を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることは可能であり、また原着によりポリマー中に顔料が含有されているため洗濯等により色落ちなどは抑制されると考えられるが、その色相のバラつきや色ムラに関しては未だ満足できるものではなかった。
したがって、色ムラに対する高い要求を満足しつつ洗濯などの色落ちが抑制され、かつ機械的物性に優れた防護服は、いまだ探索中であり、が大いに望まれていた。
【特許文献1】特開2007−016343号公報
【特許文献2】特開2005−232642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術を背景になされたものであり、ある特定の色相を有し、また洗濯耐久性や強度などの機械的物性に優れた防護服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、本課題達成のため、先ず、一般的な粉体の溶媒中における沈降速度を表し、式1のように示されるストークスの式に着目した。
【0008】
【数1】

【0009】
この式に示されるように、粉体の沈降速度は、粉体と溶媒との比重差に比例し、溶媒の粘度に反比例する。微粒子を含有したパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する場合、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対して良溶媒であるアミド系溶媒に微粒子を分散させたスラリーを作製し、これを同じくアミド系溶媒に溶解したパラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液と混合させる方法が一般的である。しかしながら、アミド系溶媒の比重は1前後のものが多く、また粘度も低いために、たとえば酸化鉄のような高比重の微粒子を分散させたスラリー中では、仮に微粒子表面を表面加工し溶媒との親和性を高めたとしても容易に微粒子の沈降が起こり、スラリーを安定的に貯蔵することが困難であった。そればかりでなく、たとえ十分な撹拌等により貯蔵中のスラリーの十分な分散性が達成できたとしても、これをパラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液と混合させるまでの輸送中に容易に沈降するため、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液中の微粒子の分散は不均一となり、結果として繊維中に微粒子が偏析してしまう。このため、著しい機械的物性の低下を避けることができず、また、微粒子が顔料のような原着を目的とした微粒子の場合には、繊維に顕著な色ムラが発生する問題が生じていた。したがって、このような繊維を用いて防護服を作製した場合には、明らかに色ムラが見られ、意匠性の観点からも好ましいものではなかった。
【0010】
そこで、本発明者は、ポリマー溶液および結果として得られる繊維における微粒子の高い分散性をより効率的に達成させるため、鋭意検討を重ねた。その結果、先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製すれば、たとえ高比重の酸化鉄(III)微粒子であっても貯蔵中のポリマー溶液における微粒子の偏析を抑制することができることを見出し、さらに、当該ポリマー溶液を用いて繊維を製造すれば、繊維における微粒子の偏析を抑制でき、その結果、機械的物性を損なうことなく効率的かつ均一に微粒子が分散され、色相のバラつきが非常に小さいパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られ、さらに得られた繊維を一定量用いた防護服を作製したところ、従来に比べて洗濯などによる色落ちが少ない上、色ムラが小さく、また引き裂き強度などの機械的物性に優れた防護服が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
かくて、本発明は、構成繊維に、少なくとも平均粒子径(D50)が0.05μm〜2μmである酸化鉄(III)微粒子を含有し、その色相を表す表色系のL値a値b値の平均値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であり、かつその色相の標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、a値が0.5以下、b値が0.3以下であって、その引張強度が18cN/dtex以上25cN/dtex未満であるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を含み、かつその配合比率が全質量に対して40質量%以上である防護服であって、JIS L0844 A−2号に準拠して評価した洗濯耐久性がグレースケール判定で変退色4級以上であることを特徴とする防護服に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の防護服は、ある特定の色相を有しかつ色ムラがなく、また洗濯耐久性や強度などの機械的物性に優れた防護服となるため、高い意匠性や洗濯耐久性、機械的物性が要求される消防服などの防護衣料の分野などにおいて、非常に有用に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<防護服>
本発明における防護服としては、繊維からなる布帛を縫製して得られるものを指し、その構造や積層枚数、目付け、撥水加工などの表面処理の有無など特に限定させるものではなく、引き裂き強度が90N以上を達成できれば、作製する防護服の用途や目的に応じて適宜適用することができる。なお。ここで言う布帛とは、前記繊維を用いた織布、編み物、不織布を指し、各繊維を捲縮加工した上、カットして得られる各々のステープルファイバーを混紡し得られる紡績糸や不織布を用いることが好ましい。その際の捲縮加工条件やカット長、混紡方法、紡績糸の番手、織構造、編み構造、不織布加工条件等は特に限定されるものではなく、用途や目的に応じて適宜選択することができる。また、異なる紡績糸の番手や織構造、編み構造、不織布についても用途や目的に応じて複数組み合わせても差し支えない。
【0014】
(防護服を構成する繊維)
本発明に用いる繊維としては、防火服などの防護衣料用途で一般によく用いられる有機繊維であるパラ型全芳香族コポリアミド繊維や、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、メタ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンザゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維などが挙げられ、その具体例としては、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミド等のパラ型全芳香族コポリアミド繊維や、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール等のポリベンザゾール繊維、またポリアリレート等の全芳香族ポリエステル繊維を挙げることができる。
【0015】
本発明においては、これら繊維のうち、1種類もしくは2種類以上を用いることができるが、得られる防護服の機械的物性や洗濯耐久性などの観点から、少なくともパラ型全芳香族コポリアミド繊維を含み、その割合は全質量に対して40質量%以上である。それ以外の繊維の種類やその比率、組み合わせなどは特に限定されるものではないが、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のパラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等のメタ型全芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
【0016】
<パラ型全芳香族コポリアミド>
ここで、本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミドとは、2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られる。このとき、前記芳香族基は、2個の芳香環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基などの低級アルキル基や、メトキシ基、また塩素基などのハロゲン基で置換されていても差し支えは無く、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0017】
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドは、一般に公知の方法に従って、アミド系溶剤中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得ることができる。
【0018】
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド)
本発明における芳香族ジカルボン酸ジクロライドとは、たとえばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドなどが挙げられ、これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドを1種類又は2種類以上用いることができ、その種類や組成比は特に限定されるものではなく、繊維の機械的物性や重合後に得られるポリマードープの取扱い性などを考慮し適宜調整することできる。
【0019】
(芳香族ジアミン)
本発明における芳香族ジアミンとは、たとえばパラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラビフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、芳香族環に置換基がついていたり、その他複素環等がついていたりしても差し支えない。本発明においては、これらのうち、2種類以上用いる。その組み合わせや組成比は特に限定されるものではなく、繊維の機械的物性や重合後に得られるポリマードープの取扱い性などを考慮し適宜調整することできる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性などの観点から、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組み合わせが最も好ましく、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%が好ましく、さらに好ましくはそれぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくはそれぞれ45〜55モル%、55〜45モル%である。
【0020】
(アミド系溶剤)
本発明の防護服の材料となる全芳香族コポリアミド繊維を得るにあたり、その原料となる全芳香族コポリアミドの重合や紡糸に用いられるにおけるアミド系溶剤としては、たとえばN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と記す)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられ、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対する溶解性、汎用性、有害性、取扱い性などの観点から適宜選択することができる。
【0021】
(色づけ)
以上のパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、得られる防護服の意匠性などの観点から適宜色づけを行う。前記の繊維は、それぞれ、繊維元来の色が異なるため、製糸段階において顔料を添加する原料着色(以下「原着」と記す)や、得られた繊維を染色して色付けを行う。各繊維の製造工程や物性などの観点から、原着や染色の方法を適宜選択することができる。たとえば、パラ型全芳香族コポリアミドであるコポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミド繊維の場合、製糸段階において顔料を添加し、製糸する方法が好ましい。その際、色ムラなどを十分に考慮し、顔料を繊維中に偏析させることなく均一に分散させる必要がある。
【0022】
(酸化鉄(III)微粒子)
特に、本発明の中で用いる酸化鉄(III)微粒子の場合、比重が大きく製糸段階において沈降などが発生し偏析の原因となるため、たとえば酸化鉄(III)などの顔料を予めポリマー溶液中に高濃度に分散させ、更にこれと該顔料を含まないポリマー溶液とを混合しこれを用いて製糸することで、偏析を抑制した、色ムラの少ない全芳香族コポリアミド繊維、たとえばコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミド繊維を得ることができるが、この方法に特に限定されるものではない。染色については、各繊維により最適な染色条件は異なるが、公知の染料を用い、公知の染色方法により色付けを行うことができる。
【0023】
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミド繊維に添加する顔料としては、得られる繊維の色相や汎用性などの観点から酸化鉄(III)微粒子が最も好ましい。この酸化鉄(III)微粒子の形状、表面処理の有無等は特に限定されるものではないが、その平均粒子径(D50)は0.05μm〜2μmである。平均粒子径(D50)が0.05μm未満の場合、このような酸化鉄(III)微粒子そのものの調製が困難であるばかりでなく、この程度の大きさまでポリマードープ中に均一に分散させるためには、長時間および/または高剪断力による撹拌が必要となり、生産性を考慮した場合、効率的なポリマー溶液の調製が困難となるため好ましくない。一方、平均粒子径(D50)が2μmを超える場合、得られる繊維の繊維径にもよるが、一般な繊維径である5〜20μmである場合、繊維径に対する微粒子のサイズが大きくなることにより、繊維中のポリマーの連続層が微粒子による阻害されるため、微粒子が存在する部分が欠点となり、繊維の機械的物性が著しく損なわれるため好ましくない。
【0024】
パラ型全芳香族コポリアミド繊維における酸化鉄(III)微粒子の含有率は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の色相を表す表色系のL値a値b値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であり、かつその色相の標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、a値が0.5以下、b値が0.3以下を達成できる範囲であれば特に限定されるものではないが、繊維の色相や機械的物性の観点から、パラ型全芳香族コポリアミド繊維質量に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。パラ型全芳香族コポリアミド繊維中の酸化鉄(III)微粒子の含有率が0.1質量%未満の場合、繊維元来の色相が支配的となり、目標とする色相を有する繊維を得ることが困難のため好ましくない。一方、10質量%を超える場合、酸化鉄(III)微粒子の繊維中での分散が均一であったとしても、繊維中で強度に寄与するポリマー自体の量が少なくなるために、18cN/dtex以上の引張強度の達成が困難となるため好ましくない。また、たとえばパラ型全芳香族コポリアミド繊維の一種であるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の場合、たとえ酸化鉄(III)微粒子を含まない繊維であっても25cN/dtex以上の強度を達成することは困難であり製造限界である。そのため、本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張り強度は、18cN/dtex以上25cN/dtex未満である。
【0025】
なお、ここで言う繊維の色相を表す表色系のL値a値b値とは、公知の色彩色差計(装置名:CR−400、コニカミノルタ(株)製)を用いて測定することができる、繊維の色相を表す指標である。
また、ここで言う平均粒子径(D50)とは、微粒子を水に分散させ、レーザー回折式による粒度分布測定装置(装置名:SALD−200V ER、(株)島津製作所製)を用いて測定した微粒子の粒子径であり、D50とは、たとえば100サンプルの微粒子の粒径を測定した時、粒径が小さいほうから数えて50番目に当る粒径のことを指し、測定試料の平均の粒子径を意味する。
【0026】
(重縮合反応)
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの重縮合反応にあたっては、公知の方法により、例えば、系を加熱し、公知の撹拌機を用いて行うことができる。反応条件は、重合の進行を見ながら適宜調整することができる。
中和反応により発生する塩化カルシウムは、生成したポリマーの溶剤への溶解を高める溶解助剤としてそのまま用いることができるため、系内から除去する必要はない。
【0027】
重縮合により得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマーは、NMPなどのアミド系溶媒に溶解した等方性のポリマー溶液(ドープ)となっている。得られたポリマー溶液(ドープ)は、ポリマーを単離することなくそのまま、製糸工程に用いることができる。ただし、このときのパラ型全芳香族コポリアミドポリマーの濃度は、ポリマードープの粘度や安定性に著しく影響し、後の製糸工程において曵糸性などに大きく影響する。このため、ポリマー濃度は、2〜10質量%であることが好ましい。ポリマー濃度や粘度調整をするにあたっては、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒を、適量添加することができる。
【0028】
なお、上記パラ型全芳香族コポリアミドの固有粘度(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値)は、通常、2.5〜5程度である。ここでいう固有粘度とは、単離したパラ型全芳香族コポリアミドポリマーを、これに可溶な溶媒、たとえば硫酸などに溶解させ、このポリマー溶液をたとえばオストワルド粘度計等を用いた公知の粘度測定法により算出した、そのポリマー固有の粘度を指す。
【0029】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
[パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得るにあたっては、先ず、アミド系溶媒に分散した、ある特定の平均粒子径を有する微粒子スラリーを、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液に添加して混合することにより、微粒子を高濃度に含有するポリマー溶液(マスターバッチ)を調製し、次いで、この微粒子を含有するポリマー溶液(マスターバッチ)と微粒子を含有しないポリマー溶液とを混合してポリマー溶液を調製し、さらに、当該ポリマー溶液を用いて繊維を製造する。
【0030】
(マスターバッチの作成)
マスターバッチの作成にあたっては、得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマードープと酸化鉄(III)微粒子とを混合する。混合に用いる装置は、特に限定されるものではなく、公知の混合装置、たとえば、プラネタリミキサー、ニーダーやルーダー等、ポリマードープ中に微粒子を均一に分散させることができる混合機であれば特に差し支えなく、その形状や出力、容量は特に限定されるものではない。また、出力や時間等の混合条件についても、装置の形状や出力、容量を考慮し適宜調整することができる。
なお、効率的にポリマードープ中に酸化鉄(III)微粒子を分散させるために、予め酸化鉄(III)微粒子をポリマードープに用いられているアミド系溶媒に分散させたスラリーをポリマードープと混合することが好ましい。その際の酸化鉄(III)微粒子スラリーの濃度は、最終的に繊維に含有される酸化鉄(III)微粒子の量を考慮すれば特に限定されるものではないが、スラリー中の微粒子の分散性、取り扱い性などの観点から、1質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは2質量%〜15質量%、更に好ましくは3質量%〜10質量%である。
【0031】
また、ポリマードープに混合する酸化鉄(III)微粒子スラリーの量についても、最終的に得られる繊維中の微粒子量や酸化鉄(III)微粒子スラリー中の微粒子濃度を考慮すれば特に限定されるものではないが、ポリマードープ100質量部に対して、10質量部〜50質量部が好ましく、より好ましくは12質量部〜40質量部、更に好ましくは15質量部〜30質量部である。
【0032】
(マスターバッチとポリマー溶液との混合)
次いで、酸化鉄(III)微粒子を均一に混合したポリマードープと、酸化鉄(III)微粒子を含まないポリマードープを混合する。その混合方法に関しては、作業性や繊維の生産性などを考慮すると、公知のスタティックミキサーが最も好ましく、その形状や種類、長さ等、これらを均一に混合できるものであれば特に限定されるものではない。また、その方法としては、酸化鉄(III)微粒子を含まないポリマードープを送液する配管に、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを送液する配管を接合させ、それらの配管が接合した下流側に各種スタティックミキサーを設ける方法が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0033】
酸化鉄(III)微粒子を均一に混合したポリマードープと、酸化鉄(III)微粒子を含まないポリマードープとの混合比率は、酸化鉄(III)微粒子を均一に混合したポリマードープ中の酸化鉄(III)微粒子濃度により異なるが、最終的に得られる全芳香族コポリアミド繊維中の酸化鉄(III)微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部になるように調整する必要がある。全芳香族コポリアミド繊維中の酸化鉄(III)微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1質量部未満の場合、繊維元来の色相が支配的となり、目標とする色相を有する繊維を得ることが困難のため好ましくない。一方、全芳香族コポリアミド繊維中の酸化鉄(III)微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して10質量部を超える場合、仮に酸化鉄(III)微粒子の繊維中での分散が均一であったとしても、繊維中で強度に寄与する全芳香族コポリアミドポリマー自体の量が少なくなるために、18cN/dtex以上の引張強度の達成が困難となるため好ましくない。全芳香族コポリアミド繊維中の酸化鉄(III)微粒子の量が全芳香族コポリアミドポリマー100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲になるように調整できれば、その混合比率に特に限定されるものではない。
【0034】
(製糸)
次に、酸化鉄(III)微粒子を混合したパラ型全芳香族コポリアミドポリマードープを用い製糸を行う。
先ず、ポリマードープを紡糸口金から吐出する。吐出する際に用いる紡糸口金の孔径やノズル長、ホール数、材質等は特に限定されるものではなく、得られる繊維の繊維径や単糸数、曳糸性等を考慮し適宜調整することができる。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は、用いるポリマードープの濃度や粘度により適宜調整することができるため特に限定されるものではないが、曵糸性やポリマードープの吐出圧、ポリマードープの劣化などを考慮すると、75〜120℃が好ましい。
【0035】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを凝固液中で凝固する。この際、紡糸口金と凝固液の温度が大きく異なる場合、紡糸口金と凝固液が接触するとそれぞれの温度が変化し、制御が困難になるため、エアギャップを設けることができる。このときのエアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、単糸の密着や温度の制御性、曵糸性などの観点から5〜15mmが好ましい。ここで用いる凝固液は、ポリマードープに使用しているアミド系溶剤の水溶液であり、その温度や溶剤濃度は、特に限定されるものではなく、出糸した糸の凝固状態や後の工程通過性等に問題がない範囲で適宜調整することができる。
【0036】
次に、凝固した糸を水洗する。この水洗工程では、水を用いて糸中のアミド系溶剤を可能な限り除くことを目的とする。その水洗条件は、特に限定されるものではなく、糸中のNMPを十分に除くことができる範囲で、その水洗浴の数や温度等を適宜調整することができる。
【0037】
次に、水洗後の繊維を乾燥する。このときの乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に含まれる水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃が好ましい。また乾燥は、ローラーなどの接触型の乾燥装置や、乾燥炉中を繊維が通過するなどといった非接触型の乾燥装置のいずれも用いることができる。
【0038】
次いで、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程では、繊維の熱延伸により、繊維中のポリマー分子を高度に配向させ、強度を付与することを目的とする。このときの熱延伸温度は十分な延伸および強度が発現する条件であれば特に限定されるものではないが、300〜600℃が好ましく、更に好ましくは320℃〜580℃、最も好ましくは350〜550℃である。この熱延伸工程での延伸倍率は、5倍〜15倍が好ましいが、十分な高強度が達成できれば特にこの範囲に限定されるものではない。また、この熱延伸工程では、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。なお、繊維を熱延伸する際に用いる装置としては、接触型の熱板や非接触型の炉などあるが特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であれば、適宜用いることができる。
【0039】
そして、必要に応じて繊維に対して帯電抑制や潤滑性を付与する目的で油剤を付与し、最後にワインダーで巻き取る。付与する油剤の種類や付与する量など特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途や繊維の取扱い性などを考慮し適宜調整することができる。また、ワインダーでの巻取り方法については、公知のワインダーを用い、適宜張力や接圧などの巻取り条件を調整して巻き取ることができる。
【0040】
[パラ型芳香族コポリアミド繊維の物性]
(色相)
かくして得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、色相を表す表色系のL値a値b値の平均がそれぞれL値が40〜65、好ましくは45〜60、a値が+20〜+30、好ましくは+20〜+25、b値が+12〜+18、好ましくは+15〜+18で、かつその標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、好ましくは0.8以下、a値が0.5以下、好ましくは0.3以下、b値が0.3以下、好ましくは0.25以下である。
得られる繊維のL値a値b値の平均値や、その色相の標準偏差を前記範囲にするには、無機微粒子である酸化鉄(III)微粒子が均一に分散したポリマードープと酸化鉄(III)微粒子を含まないポリマードープとを均一に混合し、かつ添加する酸化鉄(III)微粒子の割合を考慮とすればよい。
【0041】
(引張強度)
また、本発明に用いられる全芳香族コポリアミド繊維の引張強度は、18cN/dtex以上、25cN/dtex未満、好ましくは20〜25cN/dtexである。18cN/dtex未満では、防護服として一定以上の引き裂き強度の達成が困難となり好ましくない。一方、製造上、25cN/dtex以上とすることは困難である。繊維の引張強度を18cN/dtex以上25cN/dtex未満にするには、たとえば延伸倍率や繊維中のポリマー成分に対する分散させる酸化鉄(III)微粒子の割合などをコントロールすることにより制御することができる。
【0042】
<防護服の製造方法>
(捲縮加工)
本発明の防護服に用いられる繊維は、捲縮加工が施されている。捲縮方法としては、公知のギア捲縮や押し込み捲縮といった方法が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、用いる繊維の種類により適宜適用することができる。このようにして得られた捲縮糸は、カットして一定長のステープルファイバーとする。カット長としては、後の混紡し紡績糸を得る工程、またはカードを通過させ不織布に加工する工程での工程通過性を考慮し、適宜調整することができるが、一般的なカット長としては20〜80mmであるがこれらに限定されるものではない。
【0043】
(紡績)
次いで、各々得られたステープルファイバーを混紡し、紡績糸を得る。混紡は公知の方法をそのまま適用することができるが、その際に含まれる繊維の混合比率については、得られる防護服の機械的物性や洗濯耐久性の観点から、少なくとも酸化鉄(III)微粒子を含有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の比率を全配合繊維に対して40質量%以上含む必要がある。酸化鉄(III)微粒子を含有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の比率が全配合繊維に対して40質量%未満の場合、得られる防護服の洗濯耐久性や引き裂き強度などの機械的物性が十分満足するものではないため好ましくない。それ以外の繊維の配合比率については、特に限定されるものではなく、得られる防護服の機械的物性、洗濯耐久性、耐摩耗性、難燃性、風合いなどを勘案し適宜調節することができる。得られる紡績糸の番手は特に限定されるものではなく、後の布帛に加工する際の製織性や製編性を考慮し適宜調整することができるが、一般的には10〜60番手である。
【0044】
(布帛加工)
次に、得られた紡績糸を布帛に加工する。布帛の種類としては、織物、編み物、もしくはステープルファイバーからの不織布のいずれも適用でき、またその織構造、編み構造は特に限定されるものではなく、得られる防護服の機械的物性や風合いなどを勘案し適宜適用することができる。その目付けは特に限定されるものではないが、取扱い性や易縫製の観点から100〜800g/mであることが望ましい。
【0045】
(縫製)
最後に、得られた布帛を縫製し、防護服を作製する。その縫製方法は、機械的物性や機動性、風合いなどを考慮し、一般に公知の方法で縫製できる。また複数の布帛を積層して縫製しても特に差し支えない。更に防護服に撥水性や耐摩耗性を付与する目的で、布帛表面にコーティングやスプレー法による表面加工を施すこともでき、また着衣快適性の観点から、透湿性や防水性を付与する目的で、複数に積層した布帛の間に透湿防水性を有する薄膜フィルムなどを布帛に付与しても特に差し支えない。
【0046】
<防護服の物性>
(洗濯耐久性)
かくして得られた防護服は、JIS L0844 A−2号に準拠して評価した洗濯耐久性がグレースケール判定で変退色4級以上、好ましくは4.5級以上である。変退色が4級未満では、防護服としての高い洗濯耐久性の達成が困難となるため好ましくない。防護服を、変退色4級以上にするには、一定の色相を有する本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を防護服全質量に対して40質量%以上混合させればよい。
【0047】
(色相)
また、本発明の防護服は、色相を表す表色系のL値a値b値の平均が、それぞれ、L値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であることが好ましい。さらに好ましくは、L値が45〜60、a値が+20〜+25、b値が+15〜+18である。L値a値b値の平均を前記範囲内にするには、配合する繊維の混合比や各繊維の色相を一定範囲内に制御すればよい。
【0048】
(引き裂き強度)
さらに、本発明の防護服は、JIS L1096に準拠して評価した引き裂き強度が好ましくは90N以上、さらに好ましくは100N以上である。90N未満では、防護服が引っ掻きなどにより容易に破損するため好ましくない。引き裂き強度を90N以上にするには、引張り強度が18cN/dtex以上25cN/dtex未満のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を防護服全質量に対して40質量%以上混合させればよい。
【0049】
(限界酸素指数)
さらに、本発明の防護服は、JIS K7201−2に準拠して測定した限界酸素指数(LOI値)が好ましくは25以上である。限界酸素指数が25未満では、防護服として使用した場合、容易に燃焼し、着用している作業者の火に対する安全性が確保できないため好ましくない。限界酸素指数を25以上にするには、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を防護服全質量に対して40質量%以上混合させればよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定・評価した。
【0051】
(1)ポリマーの固有粘度
98%濃度の硫酸に、ポリマー濃度0.5g/dlとなるようポリマーを溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0052】
(2)酸化鉄(III)微粒子の平均粒子径(D50)
微粒子を水に分散させ、レーザー回折式による粒度分布測定装置(装置名:SALD−200V ER、(株)島津製作所社製)を用いて微粒子の粒子径を測定した。100サンプルの粒径を測定し、粒径が小さいほうから数えて50番目に当る粒径を、「平均粒子径」とした。
【0053】
(3)防護服の洗濯耐久性
JIS L0844 A−2号に準拠し、下記条件により防護服の洗濯耐久性を評価した。
(測定条件)
温度:50℃
時間:30分/回
試験片:10cm×4cm
変退色判定:JIS L0801に準拠し、洗濯前後の試験片につき、グレースケールを用いて等級判定を行った。
【0054】
(4)繊維および防護服の色相
用いる繊維および得られた防護服に関し、色彩色差計(装置名:CR−400、コニカミノルタ(株)製)を用い、異なる10箇所についてL値a値b値を測定した。更に、それらの測定結果について、それぞれの平均値および標準偏差を算出した。
【0055】
(5)防護服の引き裂き強度
JIS L1096に準拠し、下記条件により防護服の引き裂き強度を測定した。
(測定条件)
試験法 :A−1法(シングルタング法)
試験片 :10cm×25cm
試験速度:150mm/分
【0056】
(6)防護服の限界酸素濃度(LOI値)
JIS K7201−2に準拠し、下記条件により防護服のLOI値を測定した。
(測定条件)
温度 :室温
試験片 :14cm×5.2cm
接炎時間:5秒×6回
【0057】
(7)繊維の引張強度
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885に準拠し、糸試験用チャックを用いて、以下の条件により引張試験を行った。
(測定条件)
温度:室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離:500mm
【0058】
<実施例1>
先ず94質量部のNMPに赤色の酸化鉄(III)微粒子(戸田工業(株)製、製品名:Toda Color 130ED、平均粒子径(D50)=0.4μm、比重=5.1)6質量部を添加したスラリー30質量部と、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(テレフタル酸ジクロライドと、パラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのモル比が2:1:1で共重合して得られるパラ型全芳香族コポリアミドポリマー、固有粘度(IV)=3.4)の6質量%NMP溶液70質量部をプラネタリーミキサーで1.5時間混合し、酸化鉄(III)微粒子の質量分率がポリマー質量に対して30質量%のポリマードープを得た。
【0059】
次に、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと、微粒子を含まないポリマードープとをそれぞれ送液し、ケネックスタイプのスタティックミキサーを通過する過程で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと微粒子を含まないポリマードープとを均一に混合させた。なお、この際のそれぞれの送液量は、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープが125質量部/分、微粒子を含まないポリマードープが2,375質量部/分であった。
【0060】
次に、得られた酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを、孔径0.3mm、孔数が1,000の105℃に加熱された紡糸口金を介して吐出し、凝固、水洗、乾燥、熱延伸の工程を経て繊維を得た。なお、このときの繊維の繊度は1,670dtex、繊維数は1,000、また繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。また、このとき得られた繊維の引張り強度は23.1cN/dexであり、またその色相を表す表色系のL値a値b値はそれぞれL値が56.2、a値が+22.5、b値が+16.9であり、またその色相の標準偏差がそれぞれL値が0.24、a値が0.16、b値が0.12であった。
次に、得られた繊維に捲縮加工を施した後、カットしてステープルファイバーを得た。このときのカット長51mmであった。更に、このステープルファイバーを用い、20番手の紡績糸を得た。
【0061】
最後にこの紡績糸を用い、2/1の綾織となるように製織して織布を得、これを縫製して防護服を得た。このとき織布の目付けは495g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0062】
<実施例2>
79質量部のNMPに、実施例1と同じ酸化鉄(III)微粒子21質量部を添加したスラリー30質量部と、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(固有粘度(IV)=1.35)の21質量%NMP溶液70質量部をプラネタリーミキサーで1.5時間混合し、酸化鉄(III)微粒子の質量分率がポリマー質量に対して30質量%のポリマードープを得た。
次に、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと、微粒子を含まないポリマードープとをそれぞれ送液し、ケネックスタイプのスタティックミキサーを通過する過程で酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープと微粒子を含まないポリマードープとを均一に混合させた。なお、この際のそれぞれの送液量は、酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープが125質量部/分、微粒子を含まないポリマードープが2,375質量部/分であった。
【0063】
次に、得られた酸化鉄(III)微粒子を含むポリマードープを、孔径0.07mm、孔数が10,000の85℃に加熱された紡糸口金を介して吐出し、凝固、水洗、沸水延伸、乾燥、湿熱延伸の工程を経て繊維を得た。なお、このときの繊維の繊度は16,700dtex、繊維数は10,000、また繊維質量に対する酸化鉄(III)微粒子の含有量は1.5質量%であった。また、このとき得られた繊維の引張強度は4.5cN/dex、またその色相を表す表色系のL値a値b値はそれぞれL値が51.3、a値が+25.0、b値が+16.2であり、またその色相の標準偏差がそれぞれL値が0.33、a値が0.22、b値が0.19であった。
【0064】
次に、得られた繊維に捲縮加工を施した後、カットしてポリメタフェニレンイソフタルアミドのステープルファイバーを得た。このときのカット長51mmであった。
一方、PPTAのステープルファイバー(帝人テクノプロダクツ(株)製、トワロン 1072、繊度=1.7dtex、カット長=50mm)を下記条件で染色処理を行った。
染色条件:135℃、60分
染料:C.I. disperse Red 60(住化ケムテックス製、Sumikaron Red E−FBL) 5%owf
硝酸Na:25g/L
酢酸:0.5g/L
ベンジルアルコール:50g/L
浴比:1対20
【0065】
染色後、下記条件で洗浄し十分乾燥して、PPTAのステープルファイバーを得た。
洗浄条件:80℃、20分
スコアロール#400:1g/L
なお、このとき得られたステープルファイバーの引張り強度は16.3cN/dex、またその色相を表す表色系のL値a値b値はそれぞれL値が55.3、a値が+23.6、b値が+15.9であり、またその色相の標準偏差がそれぞれL値が0.33、a値が0.22、b値が0.19であった。
【0066】
次に、実施例1で得たコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのステープルファイバーを70質量部、先に作製したポリメタフェニレンイソフタルアミドのステープルファイバーを10質量部、更にPPTAのステープルファイバーを20質量部を混紡し、20番手の紡績糸を得た。そして、実施例1と同じ手法で織布を得、これを縫製して防護服を得た。このとき織布の目付けは501g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0067】
<実施例3>
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのステープルファイバーを40質量部、PPTAのステープルファイバーを60質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは500g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0068】
<実施例4>
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのステープルファイバーを40質量部、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのステープルファイバーを30質量部、PPTAのステープルファイバーを30質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは503g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0069】
<比較例1>
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのステープルファイバーを30質量部、PPTAのステープルファイバーを70質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは500g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0070】
<比較例2>
ポリメタフェニレンイソフタルアミドのステープルファイバーを50質量部、PPTAのステープルファイバーを50質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは498g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0071】
<比較例3>
PPTAのステープルファイバーを100質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは502g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。
【0072】
<比較例4>
ポリメタフェニレンイソフタルアミドのステープルファイバーを100質量部とした以外は、実施例2と同じ手法で紡績糸、織布、防護服を得た。このとき織布の目付けは499g/mであった。得られた防護服の洗濯耐久性、色相、引き裂き強度、LOI値の測定結果を表1に示す。






【0073】
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の防護服は、特定の色相を有し、また高い洗濯耐久性や強度などの機械的物性を有していることから、ポリマー元来の色相では展開でき得なかった高い意匠性および機械的物性が要求される消防服、防弾・防刃材といった防護衣料用途で特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維に、少なくとも平均粒子径(D50)が0.05μm〜2μmである酸化鉄(III)微粒子を含有し、その色相を表す表色系のL値a値b値の平均値がそれぞれL値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18であり、かつその色相の標準偏差がそれぞれL値が1.0以下、a値が0.5以下、b値が0.3以下であって、その引張り強度が18cN/dtex以上25cN/dtex未満であるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を含み、かつその配合比率が全質量に対して40質量%以上である防護服であって、JIS L0844 A−2号に準拠して評価した洗濯耐久性がグレースケール判定で変退色4級以上であることを特徴とする防護服。
【請求項2】
前記防護服の色相を表す表色系のL値a値b値の平均値がそれぞれ、L値が40〜65、a値が+20〜+30、b値が+12〜+18である請求項1記載の防護服。
【請求項3】
前記防護服の引き裂き強度が90N以上である請求項1または2記載の防護服。
【請求項4】
前記防護服のJIS K7201−2に準拠して測定した限界酸素指数(LOI値)が25以上である請求項1〜3いずれかに記載の防護服。
【請求項5】
前記パラ型全芳香族コポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1〜4いずれかに記載の防護服。

【公開番号】特開2010−156083(P2010−156083A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335671(P2008−335671)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】