説明

防錆処理方法並びに亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物

【目的】 有害なクロムを使用することなく、クロメート系処理剤による防錆処理方法と同等以上の優れた防錆性を発揮する亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の防錆処理方法、並びに、クロメート系処理剤と同等以上の優れた防錆力を有する非クロメート系の塗布型防錆組成物であって、特に亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼に塗布後熱乾燥することができるか、又は、熱時塗布乾燥することができるものを提供する。
【構成】 水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを前記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物を、亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼に塗布し、その後前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃となるように加熱して乾燥するか、又は、予め前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃に加熱し、その後前記組成物を塗布し乾燥する防錆処理方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、亜鉛系被覆鋼又は亜鉛系被覆を施さない冷延鋼板等の無被覆鋼の防錆処理方法、並びに、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物に関し、更に詳しくは、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の一次防錆処理又は塗装下地処理に適用される防錆処理方法、並びに、その方法に使用される非クロメート系の塗布型防錆組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】鋼表面に亜鉛を含む金属をメッキ又は溶射により被覆した亜鉛系被覆鋼、及び、上記被覆を施さない無被覆鋼の一次防錆処理又は塗装下地処理には、従来からクロムイオンを含有するクロメート系処理剤が広く用いられている。上記クロメート系処理剤としては、例えば、特開平5−279867号公報には、クロムイオン(Cr6+、Cr3+)と水分散性樹脂からなる塗布型クロメート系処理剤が開示されている。しかし、上記クロメート系処理剤は、有毒なクロムイオンを含有しているため、無公害化するための排水処理のコストアップ、作業環境における人体への悪影響等の問題があり、また、処理剤により形成されるクロメート被膜を有する製品からのクロム溶出による環境汚染等のおそれもある。
【0003】上記欠点を解決する方法として、クロムを含有しない非クロメート系の防錆若しくは防食処理剤又は防錆若しくは防食処理方法の開発が考えられる。このようなものとして、特公平5−37234号公報には、硫化水素ガス又は硫化水素ガスを溶解させた水溶液と亜鉛メッキ鋼板又は無被覆鋼板を接触させ、その後塗装する防食処理方法が開示されている。特公平5−38790号公報には、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト等の金属の硫化物であって、特定の範囲の溶解度積を有するものを含有する防食用被覆組成物が開示されている。また、特公平5−76552号公報には、硫化水素と反応しうる金属表面に塗膜を形成後、硫化水素を含有する水溶液又は硫化水素を含有する水蒸気を接触させて、塗膜下面に金属硫化物を生成させる防食処理方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、硫化水素ガス又は硫化水素ガスを溶解させた水溶液を用いて塗装下地の防食処理を行う方法は、硫化物層を形成させるに際して、直接硫化水素ガスと金属表面とを接触させるので、有害な硫化水素ガスが環境中に漏れやすく工業的な利用は困難であった。また、金属硫化物を含有する防食用被覆組成物は、金属表面に塗布して使用されるが、塗布後相当期間が経過して塗膜中に水分が浸入したとき又は腐食したときに、組成物中に含有される金属硫化物が一部溶解して硫化物イオンを放出し、被塗物である金属と反応して金属表面に硫化物層を形成するものであるので、塗膜形成時に積極的に被塗物金属表面に硫化物層を形成させる方法に比べ、防錆力、耐剥離性に劣っていた。硫化水素を含有する水溶液又は硫化水素を含有する水蒸気を接触させて塗装後に金属の防食処理を行う方法は、作業中に硫化水素ガスが発生しやすく、作業環境下における人体への悪影響等の問題があった。
【0005】有害な硫化水素ガスを用いることなく、クロメート系処理剤と同等以上の優れた防錆力を有し、耐剥離性に優れた非クロメート系の塗布型防錆組成物としては、例えば、水性樹脂及び水からなる溶液に、硫化物イオンを含有させてなるか、又は、更に、難溶性の硫化物を分散させてなる亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物等を提案することも可能である。
【0006】このような亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物を使用すれば、塗膜形成時に硫化物イオンによって被塗物である金属の硫化物層を金属表面に積極的に形成することが可能である。しかし、防錆性をより一層向上させるために、硫化物を多量にこのような防錆組成物に添加した場合、対イオンであるナトリウムイオン、マンガンイオン等のカチオンの塗膜中における残存量が多くなって、塗膜の透水性が増大するおそれがある。
【0007】本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、有害なクロムを使用することなく、クロメート系処理剤による防錆処理方法と同等以上の優れた防錆性を発揮する亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の防錆処理方法、並びに、クロメート系処理剤と同等以上の優れた防錆力を有する非クロメート系の塗布型防錆組成物であって、特に亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼に塗布後熱乾燥することができるか、又は、熱時塗布乾燥することができるものを提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の防錆処理方法を、水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを前記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物を、亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼に塗布し、その後前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃となるように加熱して乾燥するか、又は、予め前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃に加熱し、その後前記組成物を塗布し乾燥することにより構成するところにある。また、本発明の要旨は、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物を、水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを前記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物に、りん酸イオンを500〜5000ppm含有させるか、更に、硫化物イオンを0.1〜10000ppm含有させるか、難溶性硫化物を前記水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させるか、又は、硫化物イオンを0.1〜10000ppm、及び、難溶性硫化物を前記水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させて構成するところにもある。以下に本発明を詳述する。
【0009】本発明においては、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の防錆処理において、水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを上記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物(以下「組成物I」という)を使用する。上記水性樹脂は、塗膜を形成して硫化亜鉛、硫化鉄等の金属硫化物層の耐久性を高め、防錆力を向上させる機能を有する。上記水性樹脂としては、pH7以上で水に溶解又は分散するものであれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂等を挙げることができる。これらのうち、ポリオレフィン樹脂が好ましく、なかでも、防錆性の点で、カルボン酸変性されたポリエチレンが特に好ましい。
【0010】上記水性樹脂及び水からなる溶液における水性樹脂及び水の配合割合は、水性樹脂1〜80重量部、水99〜20重量部である。水性樹脂が1重量部未満であり、水が99重量部を超えると、上記本発明の組成物を用いて得られる塗膜の膜厚が充分とならず防錆力が不足し、水性樹脂が80重量部を超え、水が20重量部未満であると、上記組成物Iを用いて得られる塗膜の膜厚が大きくなりすぎ、また、含有する微粒子状イオウ又は必要に応じて含有される硫化物の水への溶解量が少なすぎるので、上記範囲に限定される。好ましくは水性樹脂10〜40重量部、水90〜60重量部である。
【0011】上記微粒子状イオウとしては特に限定されず、例えば、市販のイオウ粉末、コロイダルイオウ、イオウ崋等を挙げることができるが、分散性、溶解性の点から、粒径の小さいものが好ましい。
【0012】上記組成物I中における上記微粒子状イオウの含有量は、上記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部である。上記微粒子状イオウの含有量が0.5重量部未満であると、被塗物と塗膜との界面に被塗物である金属の硫化物層が充分に形成されず防錆性が低下し、200重量部を超えると、硫化ナトリウムや硫化マンガン等の場合のように対イオンを放出することがないので特に防錆性を低下させることはないが、イオウ粒子が塗膜表面に浮上し、ざらつき等による外観不良となるので、上記範囲に限定される。
【0013】特開平4−94772号公報には、ジンクリッチペイントを被塗物に乾燥膜厚10〜20μmに塗布し乾燥させた後、アクリロニトリルブタジエン樹脂とイオウ又はイオウ化合物の加硫化剤を100:0.2〜100:10の重量比で含むプライマー組成物を乾燥膜厚30〜100μmに塗布乾燥させ、その後、プラスチック粉体を1〜3mmの膜厚に溶射塗装する防食被覆方法が開示されている。上記発明においては、上記プライマー組成物中のイオウ又はイオウ化合物は、被塗物とプラスチック塗膜との接着性を向上させている。本発明における上記微粒子状イオウも被塗物と上塗り塗膜との接着性を向上させるものであることから、この点においては、本発明と上記発明とは同様である。しかしながら、上記発明が、イオウ又はイオウ化合物の加硫化剤により接着性の向上したプライマー組成物塗膜を介して、ジンクリッチペイントを塗布した被塗物と厚さ数mmに及ぶ溶射プラスチック塗膜との付着性を向上させて、海洋構造物等の防食効果を高めるものであるのに対して、本発明は、上記微粒子状イオウが、被塗物と塗膜との界面に被塗物である金属の安定な硫化物層を形成することによって、厚さ数μm〜十数μm程度の上塗り塗膜と被塗物との接着性を高めて耐剥離性を発現し、亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼の耐食性を向上させるものである。したがって、本発明は、上記発明と構成が異なり、また、その目的及び作用においても上記発明と全く別異のものである。
【0014】本発明の組成物Iの水素イオン濃度は、pH7以上である。pH7未満であると、水に分散した水性樹脂がゲル化するおそれがあり、また、硫化物を含有する場合、硫化水素が発生して悪臭を放つので、上記範囲に限定される。好ましくはpH8〜pH12である。pH調整は、例えば、アンモニア水又はその他のアミン系化合物;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物等を用いて行うことができる。
【0015】本発明の組成物Iには、更に、他の成分が配合されていてもよい。上記他の成分としては、例えば、シリカ粒子、顔料、界面活性剤等を挙げることができる。また、水性樹脂とイオウ粒子、顔料又は難溶性硫化物粒子との親和性を向上させ、更に、水性樹脂と亜鉛又は鉄の硫化物層との密着性等を向上させるために、シランカップリング剤が配合されていてもよい。
【0016】上記シリカ粒子は、防錆力、耐擦傷性、塗膜密着性等の改善剤として用いられる。上記シリカ粒子としては、ナトリウム等の不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば特に限定されず、例えば、スノーテックスN(日産化学工業社製)、アデライトAT−20N(旭電化工業社製)等の市販のシリカゾル;市販のアエロジル粉末シリカ粒子等を挙げることができる。上記シリカ粒子の粒径は、10〜20mμが好ましい。
【0017】上記顔料としては、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO3 )、硫酸バリウム(BaSO4 )、アルミナ(Al2 3 )、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe2 3 、Fe3 4 )等の無機顔料;有機顔料等の各種着色顔料等を挙げることができる。上記シランカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0018】また、水性樹脂の造膜性を向上させ、より均一で平滑な塗膜を形成するために、溶剤を用いてもよい。上記溶剤としては、塗料に一般的に用いられるものであれば特に限定されず、例えば、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系のもの等を挙げることができる。
【0019】本発明においては、上記組成物Iを使用して亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼の防錆処理を行うことができる。上記防錆処理は、上記組成物Iを被塗物に塗布し、塗布後に被塗物を熱風で加熱し、乾燥させる方法であってもよく、予め被塗物を加熱し、その後上記組成物Iを熱時塗布し、余熱を利用して乾燥させる方法であってもよい。上記加熱の温度は、上記いずれの方法であっても、50〜250℃である。50℃未満であると水分の蒸発速度が遅く充分な成膜性が得られないので、防錆力が不足し、250℃を超えると水性樹脂の熱分解等が生じるので、塩水噴霧試験(以下「SST」という)性、耐水性が低下し、また、外観も黄変するので、上記範囲に限定される。好ましくは70〜100℃である。塗布後に被塗物を熱風で加熱し、乾燥させる場合、乾燥の時間は、1秒〜5分が好ましい。
【0020】上記防錆処理において、上記組成物Iの塗布膜厚は、乾燥膜厚が0.1μm以上であることが好ましい。0.1μm未満であると、防錆力が不足する。乾燥膜厚が厚すぎると、塗装下地処理としては不経済であり、塗装にも不都合であるので、より好ましくは0.1〜20μmである。更に好ましくは0.1〜10μmである。上記防錆処理においては、上記組成物Iの塗布方法は特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬等によって塗布することができる。
【0021】本発明においては、上記組成物Iにりん酸イオンを500〜5000ppm含有させた亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物(以下「亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物II」という)、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIに硫化物イオンを0.1〜10000ppm含有させた亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物(以下「亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物III」という)、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIに難溶性硫化物を水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させた亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物(以下「亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IV」という)、又は、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIに硫化物イオンを0.1〜10000ppm含有させ、更に、難溶性硫化物を水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させた亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物(以下「亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物V」という)を使用することもできる。
【0022】上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIにおいては、上記りん酸イオンの供給源としては特に限定されず、例えば、りん酸(H3 PO4 )、りん酸ナトリウム(Na3 PO4 )、りん酸一水素ナトリウム(Na2 HPO4 )、りん酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )、りん酸カリウム(K3 PO4 )、りん酸一水素カリウム(K2 HPO4 )、りん酸二水素カリウム(KH2 PO4 )、りん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )、りん酸一水素アンモニウム((NH4 2 HPO4 )、りん酸二水素アンモニウム((NH4 )H2 PO4 )等を挙げることができ、更に、りん酸ヒドラジニウム等のりん酸の低分子アミン塩、りん酸エチル等の比較的低分子のりん酸エステル等を挙げることができる。これらのうち、りん酸アンモニウム、りん酸一水素アンモニウム、りん酸二水素アンモニウム等の揮発性塩基との塩;りん酸ヒドラジニウム等のりん酸の低分子アミン塩等が好ましい。
【0023】上記りん酸イオンの含有量は、500〜5000ppmである。りん酸イオンの含有量が500ppm未満であると被塗物である金属と塗膜との界面におけるりん酸亜鉛層等のりん酸金属塩層の形成が不充分となり、硫化物イオンにより形成される硫化亜鉛層等の防錆性を補充する効果がなくなる。りん酸イオンの含有量が5000ppmを超えると塗膜中の電解質量が増大し塗膜の透水性が増すので、耐SST性や耐水性の低下を引き起こす。また、過剰のりん酸イオンの添加は、防錆組成物中において、経時的に水性樹脂をゲル化させるので、防錆組成物の貯蔵安定性を悪化させる。好ましくは1000〜5000ppmである。
【0024】上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIにおいては、上記硫化物イオンは、HS- 又はS2-である。上記硫化物イオンは、塗布時、熱乾燥時等において、被塗物である金属と反応して金属表面に金属硫化物層を形成する機能を有する。上記硫化物イオンの供給源としては、水性樹脂及び水からなる溶液中に、0.1ppm以上の硫化物イオンを溶解させ得る水可溶性硫化物であれば特に限定されず、例えば、硫化ナトリウム(Na2 S)、硫化カリウム(K2 S)、硫化アンモニウム((NH4 2 S)、硫化水素アンモニウム(NH4 HS)、硫化カルシウム(CaS)、硫化ストロンチウム(SrS)、硫化アルミニウム(Al2 3 )、硫化バリウム(BaS)、硫化ゲルマニウム(GeS)、硫化マンガン(MnS)、硫化ランタン(La2 3 )等を挙げることができる。これらのうち、硫化マンガン(MnS)、硫化アンモニウム((NH4 2 S)、硫化水素アンモニウム(NH4 HS)が好ましい。これらは、単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】上記硫化物イオンの含有濃度は、水性樹脂及び水からなる溶液中において0.1〜10000ppmである。0.1ppm未満であると、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIの塗布乾燥時に被塗物と亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIの塗膜との界面に、均一な亜鉛又は鉄の硫化物層を形成することができず、10000ppmを超えると、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIの塗膜中に水可溶性物が過剰に残存して、塗膜の透水性が増大しブリスター(ふくれ)の発生等による防錆力の低下が生じ、また、硫化物特有の臭気が問題となる。好ましくは1〜1000ppmである。
【0026】上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IVにおいては、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIに、更に、難溶性硫化物の粒子を含有させる。上記難溶性硫化物の粒子は、腐食環境下で防錆組成物塗膜中に水分が浸入した場合、硫化物イオンを徐々に放出し、被塗物と防錆組成物塗膜との界面に予め形成されている硫化亜鉛、硫化鉄等の金属硫化物層の腐食部位を補修するので、本発明の目的達成をより確実にする機能を有する。しかし、このとき、対イオンであるカチオンをそのまま界面や塗膜中に残存させ、塩素イオン等のアニオンの透過性や透水性を促進させることがある。この理由によって、本発明においては、上記現象を生じることがなく防錆性に優れた微粒子状イオウを組成物の主要構成要素として使用している。上記難溶性硫化物としては水溶液中で硫化物イオンを解離するものであれば特に限定されず、例えば、硫化マンガン(MnS2 )、硫化モリブデン(MoS3、MoS4 )、硫化鉄(FeS、FeS2 、Fe2 3 )、硫化バナジウム(VS4 、V2 5 、V2 3 )、硫化ニッケル(NiS)、硫化ランタン(La23 )、硫化アンチモン(Sb2 3 )等を挙げることができる。
【0027】上記難溶性硫化物の含有量は、水性樹脂100重量部に対して2.5〜200重量部である。2.5重量部未満であると、硫化物イオンの供給が少なすぎて硫化亜鉛、硫化鉄等の金属硫化物層を充分補修することができないので、防錆効果がなく、200重量部を超えると、難溶性硫化物の量が過剰となり対イオンであるカチオンの塗膜中における残存量が多くなり、透水性が増大して防錆力が低下する。好ましくは5〜50重量部である。
【0028】更に、本発明においては、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIに硫化物イオンを0.1〜10000ppm含有させ、更に、難溶性硫化物を水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させて上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物Vとする。上記硫化物イオンの供給源としては、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIに使用することができるものを、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IIIと同様の含有量で使用することができる。上記難溶性硫化物としては、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IVに使用することができるものを、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IVと同様の含有量で使用することができる。
【0029】本発明においては、上記亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物II、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物III、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IV、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物Vを使用して、亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼の防錆処理を行うこともできる。上記防錆処理は、上述した本発明の組成物Iを使用して行う防錆処理と同様にして行うことができる。
【0030】
【作用】本発明の組成物I、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物II、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物III、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IV、並びに、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物Vは、微粒子状イオウを含有する。イオウは、水に対しては安定であって溶解しないが、酸又はアルカリに対しては微量溶解して硫化物イオンとなる。このため、腐食環境下において、イオウが溶解した硫化物イオンによって金属硫化物が形成され、予め形成されている金属硫化物層の腐食部位を補修する。また、イオウの溶解性は加温によって促進される。従って、水性樹脂水溶液のpHを7以上とすることによって、熱乾燥時にイオウが微量溶解し、被塗物である金属の表面に安定な硫化物層を形成する。更に、イオウは、加熱すると多くの金属と直接反応して硫化物を形成する性質を有しているので、加熱乾燥時にイオウと被塗物である金属とが直接反応して被塗物の表面に硫化物層を形成する。
【0031】一般に、鉄や亜鉛等の金属の硫化物は安定性が大きく、例えば、鉄は天然では黄鉄鉱として存在しており、亜鉛は90%以上が閃亜鉛鉱として産出される等、長期にわたって変質することがない。また、溶解度積からもわかるとおり、極めて水に溶けにくい。更に、実験によっても、鉄や亜鉛等の金属の硫化物の安定性は確かめられ、例えば、亜鉛メッキ表面を硫化処理により硫化亜鉛に変えたものについて、腐食電流密度を測定すると、未処理の場合の10%以下であり、クロメート系処理剤による腐食抑制効果と同等以上の防錆効果があることが判明した。このため、本発明の防錆処理方法によって、硫化鉄、硫化亜鉛等の金属硫化物層による極めて安定な防錆層が形成される。また、本発明の防錆処理方法においては、硫化水素ガス又はその水溶液を使用することがなく、安全である。
【0032】本発明の亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物II、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物III、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物IV、亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物Vは、更に、りん酸イオンを含有している。りん酸イオンも被塗物である金属と反応して、水に不溶のりん酸亜鉛、りん酸鉄等のりん酸塩を形成する性質を有しているので、硫化物層が未形成である金属素地の部分を補修して、イオウ粒子又は可溶性若しくは難溶性硫化物による効果と相乗的に防錆効果を発揮する。これらのりん酸塩は、中性、アルカリ性環境下では、硫化物に比べて安定性が劣るが、酸性環境下では、硫化物よりも安定である。従って、腐食環境下でのアノード部位等の酸性環境下において、被塗物と塗膜との界面に濃化溶出したりん酸イオンと亜鉛、鉄等の被塗物である金属のイオンとが反応して、安定なりん酸塩層を形成することができるので、防錆助剤として機能することができ、防錆処理の耐酸性を向上させる。
【0033】
【実施例】以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0034】実施例1水性樹脂としてポリエチレン系樹脂エマルジョン20重量%を、水80重量%と混合した。イオウ粉末を樹脂100重量部に対して0.5重量部添加し、ディスパーで30分間攪拌分散させ、pH9.0となるように調整して組成物を得た。得られた組成物を、予め板温が80℃になるよう加熱した市販の溶融亜鉛メッキ鋼板(Z−27、日本テストパネル社製、70×150×2.3mm)に、バーコート(#5)で、乾燥膜厚が2〜3μmとなるように塗布し、乾燥した。溶融亜鉛メッキ鋼板は、スコッチブライトで表面を研磨した後、アルカリ脱脂剤(SCL53、日本ペイント社製)で脱脂、水洗、乾燥後に使用した。
【0035】得られた組成物を塗布し、乾燥した溶融亜鉛メッキ鋼板を下記項目について評価した。結果を表1に示した。
(1)SST5%食塩水を35℃で組成物塗布面に噴霧し、72時間後の白錆の程度を5点満点で評価した。
(2)耐水試験室温で水道水に1週間浸漬後、表面の白化の程度を5点満点で評価した。
【0036】実施例2〜8、比較例2〜3イオウ粉末を、表1に示す添加量で使用し、表1に示すpHに調整し、予め板温が表1に示す温度になるよう加熱したこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表1に示した。
【0037】実施例9イオウ粉末を、表1に示す添加量で使用し、表1に示すpHに調整し、実施例1と同様にして、組成物を得た。得られた組成物Iを、バーコート(#5)で、実施例1と同様の膜厚となるように塗布後、250℃で5秒間乾燥させ、評価した。結果を表1に示した。
【0038】比較例1イオウ粉末を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表1に示した。
【0039】比較例4乾燥温度を表1に示す温度とし、乾燥時間を5分間としたこと以外は、実施例9と同様にして、組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表1に示した。
【0040】比較例5乾燥温度を表1に示す温度としたこと以外は、実施例9と同様にして、組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表1に示した。
【0041】比較例6イオウ粉末の代わりに、ストロンチウムクロメートを樹脂100重量部に対して5.0重量部添加し、表1に示すpHに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表1に示した。
【0042】
【表1】


【0043】実施例10〜18、比較例8〜10イオウ粉末を、表2に示す添加量で使用し、更に、りん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )をりん酸イオン((PO4 3-)が表2に示す濃度になるように添加し、表2に示すpHに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表2に示した。ただし、SSTは、312時間後の白錆の程度を5点満点で評価した。
【0044】比較例7イオウ粉末及びりん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )を使用しなかったこと以外は、実施例10と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表2に示した。
【0045】比較例11りん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )を使用せず、イオウ粉末の代わりにストロンチウムクロメートを樹脂100重量部に対して5.0重量部添加し、表2に示すpHに調整したこと以外は、実施例10と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表2に示した。
【0046】
【表2】


【0047】実施例19〜25イオウ粉末及びりん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )をそれぞれ表3に示す添加量及びりん酸イオン濃度で使用し、更に、表3に示す水可溶性硫化物を表3に示す硫化物イオン濃度で使用し、表3に示すpHに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表3に示した。ただし、SSTは、384時間後の白錆の程度を5点満点で評価した。
【0048】実施例26〜29イオウ粉末及びりん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )をそれぞれ表3に示す添加量及びりん酸イオン濃度で使用し、更に、表3に示す難溶性硫化物を表3に示す添加量で分散させ、表3に示すpHに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表3に示した。ただし、SSTは、384時間後の白錆の程度を5点満点で評価した。
【0049】実施例30〜32イオウ粉末及びりん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )をそれぞれ表3に示す添加量及びりん酸イオン濃度で使用し、更に、表3に示す水可溶性硫化物及び難溶性硫化物を、それぞれ表3に示す硫化物イオン濃度及び添加量で使用し、表3に示すpHに調整したこと以外は、実施例1と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表3に示した。ただし、SSTは、384時間後の白錆の程度を5点満点で評価した。
【0050】比較例12イオウ粉末、りん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )及び水可溶性硫化物を使用せず、表3に示すpHに調整したこと以外は、実施例19と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表3に示した。
【0051】比較例13りん酸アンモニウム((NH4 3 PO4 )及び水可溶性硫化物を使用せず、イオウ粉末の代わりにストロンチウムクロメートを樹脂100重量部に対して5.0重量部添加し、表3に示すpHに調整したこと以外は、実施例19と同様にして、防錆組成物を得、塗布、乾燥し、評価した。結果を表3に示した。
【0052】
【表3】


【0053】
【発明の効果】本発明は、上述の構成であるので、有害なクロムを使用することがなく、クロメート系処理剤を使用する防錆処理方法と同等以上の優れた防錆力を有し、しかも、硫化水素の発生がなく工業的に容易に利用が可能である亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼の防錆処理方法を実現することができる。また、本発明によって、クロメート系処理剤と同等以上の優れた防錆力を有する非クロメート系の塗布型防錆組成物であって、特に亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼に塗布後熱乾燥できるか、又は、熱時塗布乾燥できるものを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを前記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物を、亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼に塗布し、その後前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃となるように加熱して乾燥するか、又は、予め前記亜鉛系被覆鋼又は無被覆鋼を50〜250℃に加熱し、その後前記組成物を塗布し乾燥することを特徴とする防錆処理方法。
【請求項2】 水性樹脂1〜80重量部及び水99〜20重量部からなる溶液に、微粒子状イオウを前記水性樹脂100重量部に対して0.5〜200重量部含有させてなるpH7以上である組成物に、りん酸イオンを500〜5000ppm含有させてなることを特徴とする亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物。
【請求項3】 請求項2記載の亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物に、更に、硫化物イオンを0.1〜10000ppm含有させてなることを特徴とする亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物。
【請求項4】 請求項2記載の亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物に、更に、難溶性硫化物を前記水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させてなることを特徴とする亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物。
【請求項5】 請求項2記載の亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物に、更に、硫化物イオンを0.1〜10000ppm、及び、難溶性硫化物を前記水性樹脂100重量部に対して0.1〜200重量部含有させてなることを特徴とする亜鉛系被覆鋼及び無被覆鋼用防錆組成物。