説明

防錆剤組成物

【課題】 簡単に適用でき且つ用済み後は簡易に除去することができるうえ、密閉空間だけでなく、開放された空間においても適用でき、高い防錆性を有する防錆剤組成物を提供する。
【解決手段】 エアゾール状に噴霧して使用する防錆剤組成物であって、液状のアクリル樹脂10〜30重量%と、気化性防錆成剤10〜20重量%と、噴射剤(ジメチルエーテル/LPG)40〜60重量%とを混合したものである。この防錆剤組成物は、防錆対象物表面に被膜として付着すると共に、その被膜の離型性にも優れている。更に離型性を向上させるため、脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレンアルコールから選ばれた少なくとも1種を、それぞれ1〜5重量%含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気化性防錆剤を含み、エアゾール状に噴霧して使用する防錆剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な防錆剤には、防錆油や気化性防錆剤などがある。防錆油は、防錆対象物の金属表面に塗布して油膜を形成することにより、大気中における変色や錆の発生を防止する油脂のことである。防錆油の塗布により金属製品を一時的に錆から守る方法は、手軽且つ安価であり、しかも特別な技術を要しないため、古くから非常に多くの分野で利用されている。
【0003】
しかし、防錆油は、上述したように簡易で安価であるという利点を有しているが、用済み後の油膜の拭き取りに多大な手間と時間を要するという欠点がある。特に防錆箇所が可動部分である場合、例えば射出成形機の突き出しピンなどにおいては、一旦塗布した防錆油を完全に除去することは困難である。更に、防錆油の油膜の除去が不完全である場合には、残った防錆油が他の部分に付着して、汚染をもたらす可能性もある。
【0004】
一方、気化性防錆剤は、それ自体がガス化して密閉空間内に充満し、その密閉空間内にある防錆対象物の金属表面に対して防錆効果を発揮するものである。気化性防錆剤は、ガス化した防錆剤成分が金属表面を覆うため、直接塗布する必要がない。また、防錆対象物を密閉空間から出す際に、用済みの防錆剤を除去する必要がないか若しくは除去が非常に簡易である。このような利点から、機械部品や自動車部品などを保管、搬送又は輸送する際の防錆剤としては、防錆油よりも気化性防錆剤が好まれている。
【0005】
上記気化性防錆剤は、VCI(Volatile Corrosion Inhibitor)あるいはVRI(Volatile Rust Inhibitor)と公用語化されている。従来から知られている気化性防錆剤としては、粉末状ないしペレット状などのほか、紙あるいは合成樹脂フィルムに塗布又は含浸したものがあり、それぞれ気化性防錆紙あるいは気化性防錆フィルムとも呼ばれている。
【0006】
例えば、特開2001−031966号公報や特開2003−213462号公報には、粉末状の気化性防錆剤、あるいは粘結剤を含有させて粒状ないし錠剤状とした気化性防錆剤が記載されている。また、特公平02−57092号公報には、熱可塑性樹脂粒に発泡剤と防錆剤を含浸させたペレット状の気化性防錆剤が記載されている。更に、特開平09−031672号公報には、防錆剤成分としてブチンジオールを含有し、通気性の袋に収容された気化性防錆剤が記載されている。
【0007】
しかしながら、上記した従来の気化性防錆剤は、適用場所が限られるという問題がある。即ち、これらの気化性防錆剤は、防錆剤成分が自然に気化して金属表面に付着し、薄い塗膜を形成することにより防錆効果を発揮する。そのため、保管容器内などの密閉された空間でなければ、ほとんどの防錆剤成分が大気中に拡散してしまい、充分な防錆効果を発揮することができない。例えば、ペレット状の気化性防錆剤は、金型内などの密閉空間では有効であるが、開放された空間では適用が困難である。また、ペレットなどに成形する際の加熱工程で気化性防錆剤成分が昇華し、防錆剤成分のロスが生じるという欠点も有している。
【0008】
また、特開平11−071471号公報には、熱可塑性樹脂中に気化性防錆剤を含有したフィルムが記載されている。この気化性防錆フィルムは、防錆対象の金属製品を包装することによって、自ら密閉空間を形成して防錆効果を発揮するものである。しかし、気化性防錆フィルムのサイズを防錆対象物の形状に応じて変更する必要があるため、一つの形態で全ての場合に適用することは難しく、簡易性に劣っている。また、フィルム状に成形する際の加熱工程において、気化性防錆剤成分が昇華するためロスが生じるという欠点も有している。
【0009】
更に、気化性防錆剤成分を有機溶剤と共に噴射剤に封入し、エアゾール状に噴射して使用するタイプのものも知られている。このタイプの従来の気化性防錆剤は、噴霧することで簡単に適用でき、用済みの防錆剤成分の除去も簡易である。しかしながら、防錆剤成分が大気中に拡散しやすいため、防錆対象物の特定箇所に噴霧したとしても、防錆剤成分が被膜として留まらず大部分が大気中に拡散してしまう。そのため、密閉空間で適用しなければ大気中に拡散する防錆剤成分の量が増え、満足すべき防錆効果が得られないという欠点があった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−031966号公報
【特許文献2】特開2003−213462号公報
【特許文献3】特公平02−57092号公報
【特許文献4】特開平09−031672号公報
【特許文献5】特開平11−071471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、簡単に適用でき且つ用済み後は簡易に除去することができるうえ、密閉空間だけでなく、開放された空間においても適用でき、高い防錆効果を有する防錆剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、時間の経過により粘着性から非粘着性に変化する液状のアクリル樹脂を発泡させ、その中に気化性防錆剤成分を含有させることにより、エアゾール形態で使用するうえ、密閉空間だけでなく開放空間においても適用可能な新しい防錆剤組成物を見出し、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明による防錆剤組成物は、エアゾール状に噴霧して使用する防錆剤組成物であって、液状のアクリル樹脂に気化性防錆成剤と噴射剤を混合したことを特徴とするものである。
【0014】
上記本発明の防錆剤組成物においては、前記アクリル樹脂の配合量が組成物全体の10〜30重量%であること、あるいは前記気化性防錆剤の配合量が組成物全体の10〜20重量%であることが好ましい。また、前記噴射剤がジメチルエーテルと液化天然ガスの混合ガスであり、その配合量が組成物全体の40〜60重量%であることが好ましい。
【0015】
上記本発明の防錆剤組成物では、更に、脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレンアルコールから選ばれた少なくとも1種を含むことができる。その場合、前記脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、及びプロピレングリコールの配合量は、いずれも組成物全体の1〜5重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エアゾール状に噴霧して使用するため簡単に適用でき、用済み後は簡易に除去することが可能な、気化防錆力(初期防錆能及び長距離の有効到達性能)に優れた防錆剤組成物を提供することができる。しかも、時間の経過によりアクリル樹脂が粘着性から非粘着性に変化し、密閉空間を形成する。樹脂中で気化した防錆剤成分は大気中へはほとんど拡散することがなく、防錆対象物の表面に単分子膜の防錆被膜を形成して保持される。
【0017】
従って、本発明の防錆剤組成物は、従来のように密閉空間だけでなく、開放された空間においても適用することができ、且つ大小や形状の如何にかかわらず幅広い防錆対象物への適用が可能である。また、防錆対象物表面に被膜として付着した防錆剤組成物は、離型性に優れるため、用済み後は簡易に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の防錆剤組成物に用いる気化性防錆剤は、従来から使用されているものでよく、例えば、脂肪酸アミン塩、有機酸アミン塩、特殊脂肪酸塩、トリアゾール類、無機酸塩などを用いることができる。その中でも、脂肪酸アミン塩は、防錆効果が高く、アクリル樹脂や噴射剤との相溶性に優れているため好ましい。かかる脂肪酸アミン塩の具体例としては、ジシクロアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、オレイルアミン、ジドデシルアミン、ベンゾトリアゾールトリエチルアミン、ジエチルアミン、トリデシルアミン、ヘキサメチレンジアミンなどがある。
【0019】
防錆剤組成物中における気化性防錆剤の配合量は、防錆効果及びアクリル樹脂との相溶性を考慮して定めることができる。ただし、JIS K2246 5.39に準拠する気化性さび止め性試験に適合するためには、組成物全体の10重量%以上の配合量を必要とする。しかし、気化性防錆剤の配合量が組成物全体の20重量%を超えると、アクリル樹脂との相溶性が低下して析出する可能性がある。従って、気化性防錆剤の配合量は、組成物全体の10〜20重量%とすることが好ましい。
【0020】
アクリル樹脂は、気化性防錆剤成分及び噴射剤成分を包み込むことで、適度な気化性(蒸気圧)と発泡性を付与するものである。そして、アクリル樹脂を含むことによって、本発明の防錆剤組成物はエアゾール状に噴射され、防錆対象物の表面に発泡体の被膜を形成することができ、しかもアクリル樹脂は時間の経過に伴い粘着性から非粘着性に変化する。そのため、被膜中の防錆剤成分が防錆対象物の表面に留まり、大気中への拡散を減らすことができると同時に、満足すべき防錆効果を発揮する。アクリル樹脂としては、防錆剤組成物の製造時及び使用時に液状のものを用いる。
【0021】
防錆剤組成物中のアクリル樹脂の配合量は、組成物全体の10〜30重量%が望ましい。配合量が組成物全体の10重量%未満では強固な発泡体ないし被膜が得られず、防錆剤成分が揮発しやすいため、満足すべき防錆効果が得られない。また、配合量が組成物全体の30重量%を超えると、樹脂成分が多くなるため噴射時に詰まりを生じやすい。尚、噴射剤100重量部に対する配合量では、アクリル樹脂50重量部程度が適当である。
【0022】
噴射剤は、組成物をエアゾール状に噴霧するために必要であり、その際にアクリル樹脂を発泡させる作用を有している。アクリル樹脂はジメチルエーテル(DME)ガスへの溶解性が良好であり、アクリル樹脂以外の成分は液化天然ガス(LPG)への溶解性に優れている。そのため、噴射剤としては、DMEとLPGの混合ガス(例えば、DME/LPG=70:30)の使用が好ましい。また、噴射剤の配合量は、組成物全体の40〜60重量%が望ましい。噴射剤の配合量が組成物全体の40重量%未満では、樹脂成分が多くなり、噴射時に詰まりの懸念がある。また、配合量が組成物全体の60重量%を超えると、強固な発泡体ないし被膜が得られず防錆効果に影響をもたらす。
【0023】
本発明の防錆剤組成物は、防錆対象物を配置した密閉空間で噴霧するか、あるいは開放空間で防錆対象物に向かって噴霧することで、上述したように、防錆対象物の表面に防錆剤成分を含む発泡体の被膜を形成する。この被膜は用済み後に除去することができるが、防錆剤組成物中に脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレンアルコールから選ばれた少なくとも1種を更に含むことにより、一層簡易に除去することが可能となる。その理由は、脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレンアルコールが、いずれも金属に対する離型作用を高める可塑剤的な作用を示すからである。
【0024】
上記脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、及びプロピレングリコールの配合量は、いずれも組成物全体の1〜5重量%が好ましい。脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレングリコールのいずれの場合も、配合量が組成物全体の1重量%未満では、金属表面に付着した発泡体ないし被膜の離型性が改善されない。また、いずれかの配合量が5重量%を超えると、発泡体が不安定になり、金属表面上に強固な発泡体の被膜を得ることが難しくなるため、防錆効果が低減する。尚、脂肪酸としては、ベヘン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などの使用が好ましい。
【実施例】
【0025】
気化性防錆剤の脂肪酸アミン塩としてジシクロアミン20重量%、アクリル樹脂24重量%、脂肪酸としてオレイン酸3重量%、シリコーンオイル1.5重量%、界面活性剤1.0重量%、プロピレングリコ−ル0.5重量%、及びDMEとLPGの混合ガス(DME/LPG=70:30)からなる噴射剤50重量%を、エアゾ−ル缶内で充填混合し、本発明例の防錆剤組成物を製造した。
【0026】
この本発明例の防錆剤組成物について、JIS K2246 5.39に準拠する気化性さび止め性試験(簡便法)を行い、気相状態にある防錆剤組成物の気化防錆力を評価した。即ち、1リットルの広口瓶内に、防錆剤組成物(噴射物)と鋼(SGD3)試験片を隔てて配置し、35%グリセリン水溶液を用いて瓶内を20℃×90%RHに保った。一定時間経過後(H型は1時間、L型は20時間)、鋼試験片の表面に穿った穴部に冷水(2.0±0.5℃)を注いで鋼試験片を結露させ、更に3時間経過後に鋼試験片の発錆の有無を調べた。
【0027】
上記試験は鋼試験片3個で同時に行い、3個中2個以上に錆びが認められた場合に錆びの発生有りと判定する。また、鋼試験片3個中の1個に錆びが認められた場合には、再度鋼試験片3個について試験を繰り返し、再び3個中の1個以上に錆びが認められた場合に錆びの発生有りと判定する。得られた結果を下記表1に示した。尚、判定結果は、錆びの発生無しを○、錆びの発生有りを×として表示した。
【0028】
一方、比較例の防錆剤組成物として、一般に市販されているエアゾ−ル形態の気化性防錆剤を用い、上記と同様の気化性さび止め性試験(簡便法)を行った。この比較例の気化性防錆剤は、上記本発明例と同じ脂肪酸アミン塩に、炭化水素系溶剤と噴射剤(LPG)をエアゾ−ル缶内で充填混合したものであり、その噴射物を用いて試験を実施した。また、参考のために、防錆剤を使用しない例(ブランク)についても上記と同様に試験した。得られた結果を下記表1に併せて示した。
【0029】
【表1】

【0030】
上記表1の結果から、本発明例の防錆剤組成物は、気化性さび止め試験のH型及びL型試験ともに合格することが分かった。一方、比較例である従来の気化性防錆剤は、H型試験では、3個中1個の鋼試験片に錆びが認められたため、再試験を行ったところ、同様に3個中1個に錆びが発生し、判定は不合格であった。また、L型試験では、初回の試験で不合格であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール状に噴霧して使用する防錆剤組成物であって、液状のアクリル樹脂に気化性防錆成剤と噴射剤を混合したことを特徴とする防錆剤組成物。
【請求項2】
前記アクリル樹脂の配合量が組成物全体の10〜30重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の防錆剤組成物。
【請求項3】
前記気化性防錆剤の配合量が組成物全体の10〜20重量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の防錆剤組成物。
【請求項4】
前記噴射剤がジメチルエーテルと液化天然ガスの混合ガスであり、その配合量が組成物全体の40〜60重量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の防錆剤組成物。
【請求項5】
更に、脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、プロピレンアルコールから選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の防錆剤組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸、シリコーンオイル、界面活性剤、及びプロピレングリコールの配合量が、いずれも組成物全体の1〜5重量%であることを特徴とする、請求項5に記載の防錆剤組成物。