説明

防錆組成物およびこれを用いた防錆フィルム

【課題】気体状の水分(水蒸気)に対してだけでなく、液体状の水分が付着した場合でも防錆効果を発揮できる防錆組成物を提供する。
【解決手段】金属体に対して防錆作用を有する防錆組成物を用いる。この防錆組成物は、防錆作用を有する防錆剤と、ケイ酸塩と、不飽和脂肪酸アミドとを含む。防錆剤は、例えば安息香酸ナトリウムや安息香酸アンモニウムのような安息香酸塩であり、ケイ酸塩は、例えば、ケイ酸ナトリウムであり、不飽和脂肪酸アミドは、例えば、オレイン酸アミドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属に対して防錆作用を有する防錆組成物およびこれを用いた防錆フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
気相中に存在する金属体の腐食は、空気中に存在する気体状の水分(水蒸気)が金属の表面に吸着することにより発生及び進行する。空気中から水蒸気を完全に除去することは困難であるため、金属体の表面を腐食から保護するための処理が必要となる。
【0003】
気相中で防錆効果を発揮するものには、例えば気化性防錆剤がある。この気化性防錆剤は、例えば樹脂フィルムに練り込まれ、防錆フィルムとして用いられる。この防錆フィルムで金属体を包装すると、フィルムに含有された気化性防錆剤が包装内部に気散して防錆剤が金属体の表面に付着し、皮膜を形成する。この皮膜により、気相中の水分や酸素を遮断し、防錆効果が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−308726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、温度及び湿度の変化が激しい環境下に金属が晒された場合、金属の表面に結露水が発生することがあり(特に防錆フィルムと金属との接触部分は、毛細管現象により結露水が発生しやすい)、その部分が腐食してしまう。従って、結露水のような液体状の水分が金属表面に接触した状態においても腐食を防止する必要がある。
【0006】
それ故に、本発明では、気体状の水分(水蒸気)に対してだけでなく、液体状の水分が付着した場合でも防錆効果を発揮できる防錆組成物およびそれを用いた防錆フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、防錆作用を有する防錆組成物に関するものである。防錆組成物は、少なくとも1種類の防錆剤と、オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩とを含む。
【0008】
また、本発明は、防錆フィルムに関する。防錆フィルムは、樹脂フィルムと、樹脂フィルムに含有される少なくとも1種類の防錆剤と、樹脂フィルムに含有される、オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩と、樹脂フィルムに含有される不飽和脂肪酸アミドとを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る防錆組成物は、ケイ酸塩が水に溶解して金属体の表面に防錆剤の皮膜及び不動態皮膜を形成するので、防錆対象となる金属体が吸着水や結露水に接触した場合でも防錆作用を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る防錆組成物は、鉄、銅、アルミニウム等の単体または組み合わせよりなる金属部品や金属製品(以下、単に「金属体」という)の表面を防錆するために用いられる。この防錆組成物を用いるには、例えば、防錆組成物を溶媒に溶かして、金属体を収容する容器の内面への塗布、樹脂フィルムへの塗布又は練り込み、紙・木材・不織布への含侵・塗布・すき込み等、様々な方法がある。
【0011】
防錆組成物は、少なくとも1種類の防錆剤と、オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩とを含む。また防錆組成物は、防錆助剤として不飽和脂肪酸アミドを含むことが好ましい。
【0012】
防錆組成物を樹脂フィルムに練り込んで作製される防錆フィルムは、樹脂フィルムと、少なくとも1種類の防錆剤と、オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩と、不飽和脂肪酸アミドとを備える。尚、樹脂フィルムには、例えばポリエチレンやポリプロピレン等、フィルム状に形成できる様々な樹脂を用いることができる。
【0013】
防錆剤は、例えば、安息香酸ナトリウムや安息香酸アンモニウムのような安息香酸塩、有機アミン−安息香酸塩(ジイソプロピルアミン-安息香酸塩、ジベンジルアミン-安息香酸塩、シクロヘキシルアミン-安息香酸塩など)、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸マグネシウム又はジシクロヘキシルアンミニウム亜硝酸塩又はジイソプロピルアンモニウム亜硝酸塩のような亜硝酸塩、ベンゾトリアゾールを使用できる。
【0014】
ケイ酸塩は、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウムを使用することができ、特に、ケイ酸ナトリウムを好適に用いることができる。尚、本明細書において、ケイ酸ナトリウムとは、オルトケイ酸ナトリウム以外のケイ酸ナトリウムであって、例えば、メタケイ酸ナトリウムやメタ二ケイ酸ナトリウムである。
【0015】
不飽和脂肪酸アミドは、例えば、クロトン酸アミド、バルトミン酸アミド、オレイン酸アミド、エライジン酸アミド、バクセン酸アミド、ガドレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、エルカ酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミドを使用できる。
【0016】
防錆剤は、気化して、金属体の表面に物理的又は化学的に可逆吸着することにより皮膜を形成する。また、防錆剤が溶解した水溶液に接触する金属体の表面にも皮膜が形成される。これら防錆剤の皮膜は、水分や酸素が金属体の表面へ接触することを抑制し、金属体に対して防錆効果を発揮する。
【0017】
ケイ酸塩は、水に溶解してアルカリ水溶液となる。アルカリ水溶液に接触した金属体の表面には、緻密な酸化膜である不動態皮膜が形成される。この不動態皮膜は、水や酸素が不動態皮膜の内部の金属体の表面に接触することを効果的に抑制し、金属体に対する防錆効果が発揮される。
【0018】
また、水溶液がアルカリ性である場合、防錆剤の溶解度を高めることができる。防錆剤の溶解量が多いほど、水溶液に接触する金属体の表面に対する防錆効果が高くなる。このように、防錆剤及びケイ酸塩を共存させることで、防錆剤による防錆効果が助長されるという効果を奏する。
【0019】
金属体を防錆フィルムで包装した場合には、温度や湿度の変化により、包装内部の金属体の表面に吸着水が発生し、更に、金属体と防錆フィルムとの接触部分には結露水が発生する。ケイ酸塩は、防錆フィルムから防錆剤が包装内部に気化する際に同時に運ばれて金属体表面の吸着水や結露水に溶解したり、防錆フィルムから直接結露水に溶解したりして、金属体の表面に不動態皮膜を形成する。このように、ケイ酸塩によって、吸着水や結露水に接触する金属体に対しても防錆効果が発揮される。
【0020】
更に、防錆組成物に不飽和脂肪酸アミドが含まれる場合、防錆剤と不飽和脂肪酸アミドとの間で反応が起こり、防錆剤の成分が外部に放出される。このように、防錆剤の気化性が促進されることで、防錆剤の防錆効果が助長される。特に、防錆組成物を樹脂成形品に練り込んだ形態の防錆フィルムにおいては、包装した金属体を防錆するには、防錆フィルムに含まれる防錆剤を外部に気化させる必要があるため、防錆組成物に不飽和脂肪酸アミドを加えることが、防錆剤の防錆効果を助長するのに特に有効となる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態に係る防錆組成物及び防錆フィルムによれば、防錆剤とケイ酸塩と相乗効果により、気相中の水分のみならず、温度変化によって生じる吸着水や結露水に対しても効果的に金属体を防錆し、かつ、防錆効果の持続時間を向上させることが可能となる。また、複数種類の金属に対する防錆作用を有する防錆剤を使用することで、金属部品や金属製品に含まれる複数種類の金属に対して同時に防錆効果を発揮することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を具体的に実施した実施例について説明する。尚、実施例1及び比較例1〜3では防錆組成物を蒸留水に溶解させて用い、実施例2及び比較例4〜6では防錆組成物を樹脂フィルムに含有させて用いた。
【0023】
(実施例1)
実施例1に係る防錆組成物は、安息香酸ナトリウムとメタケイ酸ナトリウムを1対1の重量比で配合したものである。蒸留水100mlに対して、0.001重量%、0.01重量%、0.1重量%の防錆組成物を添加し、3種類の水溶液を作製した。
【0024】
(比較例1)
比較例1では安息香酸ナトリウムのみを用いた。蒸留水100mlに対して、0.001重量%、0.01重量%、0.1重量%の安息香酸ナトリウムを添加し、3種類の水溶液を作製した。
【0025】
(比較例2)
比較例2ではメタケイ酸ナトリウムのみを用いた。蒸留水100mlに対して、0.001重量%、0.01重量%、0.1重量%のケイ酸ナトリウムを添加し、3種類の水溶液を作製した。
【0026】
(比較例3)
比較例3では、蒸留水のみを用いた。
【0027】
ガラス瓶に実施例1及び比較例1〜3の水溶液を満たし、その中に、30×40×3mmの鉄製プレート、銅製プレート及びアルミニウム製プレートを浸漬した。その後、ガラス瓶を密封し、25℃の環境下で放置した。そして、所定期間経過後、各プレートを水溶液から取り出し、表面を目視観察し、[○:腐食なし、△:僅かに腐食、×:腐食有り]で評価した。各実施例及び各比較例の試験結果を、プレートの種類及び蒸留水に対する防錆組成物の重量%毎に表1〜9に示す。
【0028】
表1〜3には、実施例1及び比較例1〜3の水溶液に鉄製プレートを浸漬した結果を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表4〜6には、実施例1及び比較例1〜3の水溶液に銅製プレートを浸漬した結果を示す。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
表7〜9には、実施例1及び比較例1〜3の水溶液にアルミニウム製プレートを浸漬した結果を示す。
【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
【表9】

【0040】
表1〜9を参照して、実施例1と比較例1〜3とを比較すると、安息香酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウムとを併用した実施例では、比較例に比べて、水溶液中の全ての金属プレート(鉄、銅及びアルミニウム)に対する防錆効果の持続期間が長くなることが確認された。特に、防錆組成物の添加量が0.01重量%以上の場合、比較例1〜3の防錆効果の持続期間が1週間〜1ヶ月であるのに対して、実施例1では1年以上の長期に渡り防錆効果を発揮しており、防錆剤とケイ酸ナトリウムとの相乗効果が確認された。
【0041】
(実施例2)
実施例2に係る防錆組成物は、安息香酸ナトリウムとメタケイ酸ナトリウムとオレイン酸アミドとを1対1対1の重量比で配合したものである。この防錆組成物を樹脂フィルムに含有させて防錆フィルムを作製した。具体的には、まず、低密度ポリエチレンと安息香酸ナトリウムの重量比が100対20であるマスターバッチと、低密度ポリエチレンとメタケイ酸ナトリウムの重量比が100対20であるマスターバッチと、低密度ポリエチレンとオレイン酸アミドの重量比が100対20であるマスターバッチとを作製した。そして、低密度ポリエチレンにこれらのマスターバッチの添加量を変えて混練し、押出し成形により、低密度ポリエチレンに対する安息香酸ナトリウムの添加比率が、1重量%、0.1重量%、0.01重量%となる3種類の防錆フィルムを作製した。
【0042】
(比較例4)
比較例4では安息香酸ナトリウムのみを樹脂フィルムに含有させて防錆フィルムを作製した。具体的には、低密度ポリエチレンと安息香酸ナトリウムの重量比が100対20であるマスターバッチを作製し、低密度ポリエチレンとマスターバッチの比率を変えて混練し、押出成形により、低密度ポリエチレンに対する安息香酸ナトリウムの濃度が、1重量%、0.1重量%、0.01重量%となる3種類の防錆フィルムを作製した。
【0043】
(比較例5)
比較例5ではメタケイ酸ナトリウムのみを樹脂フィルムに含有させて防錆フィルムを作製した。具体的には、低密度ポリエチレンとメタケイ酸ナトリウムの重量比が100対20であるマスターバッチを作製した。そして、低密度ポリエチレンとマスターバッチの比率を変えて混練し、押出成形により、低密度ポリエチレンに対するメタケイ酸ナトリウムの濃度が、1重量%、0.1重量%、0.01重量%となる3種類の防錆フィルムを作製した。
【0044】
(比較例6)
比較例6では、低密度ポリエチレン単体を押出成形したフィルムを用いた。
【0045】
実施例2及び比較例4〜6の防錆フィルムは、押出時にインフレーション成膜することにより、厚み100μm、径600mmのチューブ形状に成形した。作製した各チューブの内部に鉄製、銅製及びアルミニウム製の金属部品を入れ、端部をヒートシールにより封止した。その後、金属部品の表面に結露が発生するように、「温度15℃・湿度50%の環境下で6時間放置、その後、温度50℃・湿度95%の環境下で6時間放置」を1サイクルとして、繰り返しのサイクル試験を実施した。所定回数のサイクルを経た後、防錆フィルムから各金属部品を取り出し、表面の腐食の発生を目視観察し、上記サイクルにおいて、金属部品の表面において、気相に晒された箇所(以下「気相部」という)と、結露水が発生した箇所(以下「液接触部」という)とについて、夫々の表面状態を目視観察し、[○:腐食なし、×:腐食有り]で評価した。実施例及び各比較例の試験結果を、防錆フィルムに対する安息香酸ナトリウム(比較例5ではケイ酸ナトリウム)の重量%毎に表10、11及び12に示す。尚、表10〜12では、腐食が生じたサンプルについての結果を示している。
【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

【0048】
【表12】

【0049】
表10〜12を参照して、実施例2及び比較例4〜6を比較すると、安息香酸ナトリウムと、メタケイ酸ナトリウムと、オレイン酸アミドとを併用した実施例では、比較例に比べて、気相部及び液接触部の両方において、鉄製の金属部品に対する防錆効果の持続サイクルが長くなることが確認された。特に、防錆フィルム中の安息香酸ナトリウムが0.1重量%以上の場合、実施例2では40サイクル以上に渡り防錆効果が持続されているように、比較例4〜6に比べて格段に長く防錆効果が持続されており、防錆剤とケイ酸塩(ケイ酸ナトリウム)との相乗効果が発揮され、かつ、オレイン酸アミド添加により防錆剤の防錆効果が助長されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自動車部品等の金属体の防錆に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆作用を有する防錆組成物であって、
少なくとも1種類の防錆剤と、
オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩とを含む、防錆組成物。
【請求項2】
少なくとも1種類の不飽和脂肪酸アミドを更に含む、請求項1に記載の防錆組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸塩はケイ酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の防錆組成物。
【請求項4】
防錆フィルムであって、
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムに含有される少なくとも1種類の防錆剤と、
前記樹脂フィルムに含有される、オルトケイ酸ナトリウム以外の少なくとも1種類のケイ酸塩と、
前記樹脂フィルムに含有される不飽和脂肪酸アミドとを備える、防錆フィルム。
【請求項5】
前記ケイ酸塩はケイ酸ナトリウムである、請求項4に記載の防錆フィルム。

【公開番号】特開2012−1792(P2012−1792A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139826(P2010−139826)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】