陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体およびその製造方法
【課題】より膜厚の大きな筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を提供する。
【解決手段】アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1が準備される。中空構造体1を陽極とし、対応する陰極3との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜36が中空構造体1の表面に形成される。アルミナ酸化皮膜36を形成する工程においては、中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作と、中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜36が形成される。処理液Cは、中空構造体1を、軸方向Xを法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点21、22、23を少なくとも始点として噴出される。
【解決手段】アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1が準備される。中空構造体1を陽極とし、対応する陰極3との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜36が中空構造体1の表面に形成される。アルミナ酸化皮膜36を形成する工程においては、中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作と、中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜36が形成される。処理液Cは、中空構造体1を、軸方向Xを法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点21、22、23を少なくとも始点として噴出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体およびその製造方法に関し、特に、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムに電気化学的な陽極酸化処理を施した際、アルミナ皮膜が表面に形成される。このアルミナ皮膜の内、多孔質組織(一般的には、基板表面に膜を成長させるときに、基板に対して垂直に形成される直立孔で構成されている)を有するものはアルマイトと呼ばれる。この陽極酸化処理によりアルマイトを形成する技術は、耐食性や耐磨耗性の向上、また様々な着色による装飾を目的とした、純アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理技術の一つとして周知である。
【0003】
特開2009−120892号公報(特許文献1)には、膜厚が230μm以上でありアスペクト比が10000以上である平板状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造する方法が記載されている。
【0004】
特開2010−53427号公報(特許文献2)には、電解液の濃度、電解液の温度、化成電圧の少なくとも一つを上昇させることにより、膜厚が3mm以上の平板状の陽極酸化ポーラスアルミナを製造する方法が記載されている。
【0005】
特開2005−118767号公報(特許文献3)には、化学研磨を施した金属アルミニウム管を用いて、円筒状の多孔質基材を作成する方法が記載されている。
【0006】
冨田節夫「アルマイト皮膜はどこまで厚いものが出来るか」(非特許文献1)には、硫酸中でアルミニウムのパイプの内面を水冷却する方法により、厚さが300μmの円筒状の硬質アルマイト皮膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−120892号公報
【特許文献2】特開2010−53427号公報
【特許文献3】特開2005−118767号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】冨田節夫 「アルマイト皮膜はどこまで厚いものが出来るか」 ARSコンファレンス講演予稿集 vol.3 1986年 p.46−48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の円筒状の多孔質基材と非特許文献1に記載の円筒状のアルマイト皮膜の厚みは、ともに300μm以下である。そのため、自立膜としてハンドリングするには強度が十分ではないと考えられる。
【0010】
それゆえに、この発明の主たる目的は、膜厚の大きな筒状の陽極酸化アルミナ自立膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、膜厚が大きくかつ膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を製造する方法について鋭意検討をした結果、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかを回転させることにより陰極と中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成されることが重要であることを見出した。
【0012】
そこで、本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法は、軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、アルミニウムを含む材質からなる中空構造体を準備する工程と、中空構造体を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を中空構造体の表面に形成する工程とを備えている。アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかを回転させることにより陰極と中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成される。処理液は、中空構造体を、軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含んでいる。
【0013】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法において好ましくは、アルミナ酸化皮膜を形成する工程において、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液が噴出される操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかが回転させられることにより中空構造体と陰極とが互いに相対的に変位させられる操作との双方の操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成されることである。
【0014】
これにより、より膜厚が大きくかつより膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造することができる。
【0015】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法において好ましくは、アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体の表面温度が10℃以下に維持されることである。
【0016】
これにより、より膜厚が大きくかつより膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造することができる。
【0017】
本発明者は、強度が大きくハンドリングしやすい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体について鋭意検討をした結果、陽極酸化アルミナ自立膜構造体の外径と内径の差が320μm以上であることが重要であることを見出した。
【0018】
そこで、本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、軸方向に貫通孔を有する筒状であり、外径と内径との差が320μm以上である。
【0019】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、外径と内径との差が345μm以上である。
【0020】
これにより、より強度が大きくハンドリングしやすい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができる。
【0021】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は表面全体に光沢を有している。
【0022】
これにより、表面品質の優れた陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができる。
【0023】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、軸方向を法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である。
【0024】
これにより、多様な形状の機能性材料を得ることができるので、多用途展開が可能である。
【0025】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、直立孔を含んでいる。直立孔は、外径側の表面と内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口している。直立孔のアスペクト比は10000以上である。
【0026】
これにより、直立孔に機能性物質を充填した場合に機能性物質の反応性が向上するために、機能性物質の効果を増大させることができる。
【0027】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、延在方向の途中で径が変化している。
【0028】
これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体をフィルタとして用いるときに、ガス成分の透過率を変化させたり、透過物質の分離、遮蔽、滞留などの操作が可能となる。
【0029】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の外径側の表面から内径側の表面へ貫通している。
【0030】
これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体をフィルタとして用いるときに、貫通孔を通じて物質が通過可能である。
【0031】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の内部に底部を有している。
【0032】
これにより、磁性体、蛍光体などの機能性物質を直立穴の内部に留めておくことにより、ハイブリッド機能材料などの多目的用途への展開が可能になる。
【0033】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は外径側の表面および内径側の表面の少なくとも一方の表面に3次元網目構造層を含んでいる。
【0034】
3次元網目構造は空隙率がより高いために、触媒等の充填量をより大きくすることができるので、より長寿命のフィルタを提供することが可能である。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によれば、より膜厚の大きな筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】処理液の噴射方向の一例を示す模式図である。
【図3】処理液の噴射始点の一例を示す模式図である。
【図4】折筒状白金板の一例を示す斜視図である。
【図5】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触する前の状態を示す概略平面図である。
【図6】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触する前の状態を示す概略側面図である。
【図7】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触した後の状態を示す概略平面図である。
【図8】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触した後の状態を示す概略側面図である。
【図9】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の一例の一部を拡大した斜視図である。
【図11】直立孔が貫通している例を示す図である。
【図12】直立孔の径が延在方向で変化している例を示す図である。
【図13】直立孔が底部を有している例を示す図である。
【図14】陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体が3次元網目構造を有する例を示す図である。
【図15】陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚と処理温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0038】
まず本発明の一実施の形態における陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置について、図1〜図3を用いて説明する。
【0039】
図1に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置は、中空構造体1と、斜め噴射ノズル2と、陰極3と、駆動モータ4と、処理槽5と、処理槽密閉蓋6と、絶縁性はめ込みキャップ7とを主に有している。中空構造体1は、円筒状であり主にアルミニウムを主成分とする材質から構成されている。中空構造体1はプラス側の電源に接続されて陽極として機能するように設けられている。中空構造体1は、その表面にアルミナ酸化皮膜を形成させるものである。中空構造体1としては、たとえば外径10mm×内径6mm×肉厚2mm×長さ30mmであり、99.99%の高純度アルミニウムを400℃でフルアニールしたものを使用することができる。
【0040】
斜め噴射ノズル2は、少なくとも所定の処理温度以下に制御された処理液Cを中空構造体1に向けて噴射するように配置されている。斜め噴射ノズル2の方向は、図2に示すように、中空構造体1の軸方向Xに対して斜め方向を向いている。これにより、斜め噴射ノズル2の方向は、中空構造体1の外周表面に対して角度θをなして斜めに傾いている。なお、この図では省略してあるが、後述するように中空構造体1を、軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点とする同様の斜め噴射ノズルを構成している。陰極3は、マイナス側の電源に接続可能である。陰極3は、たとえば円筒状である白金が処理槽5の内面に貼り付けるように設けられている。陰極3として、たとえば純度99.98%であり、線径0.07mm、100meshの白金網を使用することができる。陰極3と中空構造体1との間隔は、たとえば20mmである。
【0041】
駆動モータ4は、陽極である中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを軸方向Xを回転軸として回転させるように設けられている。また、駆動モータ4は、中空構造体1および陰極3の双方を独立して回転させるようにすることも可能である。処理槽5には、処理液Cが中空構造体1および陰極3を浸漬させるように注入される。処理液Cとしては、硫酸や蓚酸を使用することができる。たとえば、処理液Cは1mol/lの硫酸である。処理槽密閉蓋6は、処理槽5の上部に配置されることで、処理槽5を密閉するためのものである。陰極3に接続される配線はたとえば処理槽密閉蓋6を介して外部の電源に接続することができる。絶縁性はめ込みキャップ7は、円筒状の中空構造体1の両方の端部にはめ込まれている。円筒の端部は電界が集中しやすいため、絶縁性はめ込みキャップ7を端部にはめ込むことで局所的な電界集中を防止し、中空構造体1の表面の電界を平均化することができる。
【0042】
図3に示すように、斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の断面を内部に含む外接3角形の3つの頂点に配置されている。外接3角形は、たとえば外接正3角形である。斜め噴射ノズル2は、外接3角形の2つの接線の挟角よりも所定の角度θ大きい角度で、処理液Cを中空構造体1に向けて噴射できるように配置されている。
【0043】
陽極となる中空構造体1は、折筒状白金板8を用いて電気的接続がとられても良い。陽極となる中空構造体1が外部電源のプラス側に電気的に接続される方法について、図4〜図8を用いて説明する。
【0044】
中空構造体1は、折筒状白金板8を介して導電性軸11と電気的に接続されている。折筒状白金板8は、図4に示すように筒状の白金板を断面が多角形になるように折って形成されている。折筒状白金板8は、たとえば肉厚0.02mm×幅20mm×長さ200mmのリボン状白金薄板を折り曲げ高さ0.5mmで作成することができる。図5に示すように、折筒状白金板8は、中空構造体1と樹脂製ストッパー9の間に設けられている。樹脂製ストッパー9は、中空構造体1の内部に設けられ、中空構造体1の軸方向の全長よりも短い全長を有している。図7および図8に示すように、導電性軸11を上方に引き上げることにより、押上げ部13が押し上げられる。そして、樹脂製ストッパー9が押上げ部13と上部ストッパ15に挟まれることにより、樹脂製ストッパー9は図中横方向に膨らむ。それにより、筒状の白金板が円筒状の中空構造体1の内側面に押し当てられて、折筒状白金板8と中空構造体1は電気的に接続される。
【0045】
一方、折筒状白金板8と導電性軸11は導電性結合膜10を介して電気的に接続されている。導電性結合膜10としては、たとえば白金線を用いることができる。導電性軸11は電源のプラス側へ接続可能である。
【0046】
次に、本発明の一実施の形態に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法について説明する。
【0047】
本実施の形態の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法は、軸方向Xに貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1を準備する工程と、中空構造体1を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を中空構造体1の表面に形成する工程とを備えている。
【0048】
アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1は、アルミナ酸化皮膜を形成する基材となるものである。そのため、中空構造体1として、たとえば円筒状のアルミニウムやアルミニウム合金が使用される。より好ましくは、中空構造体1の主成分はアルミニウムである。
【0049】
中空構造体1はプラス側の電源に接続され陽極として機能する。対応する陰極がマイナス側の電源に接続されることにより、両者に電圧を印加することにより、アルミナ酸化皮膜が中空構造体1の表面に形成される。陰極3としては、たとえば図1に示すような白金で形成された円筒状の陰極3が用いられる。また、陰極3として、処理槽5の内面に導電性材料が溶射塗布されたものも使用することができる。導電性材料としては、たとえば、白金、金、銅、チタン、カーボンなどの曲板、網などが挙げられる。
【0050】
陽極と陰極3の間に電圧を印加することにより、陽極酸化処理が始まりアルミナ酸化皮膜が中空構造体1の表面に形成される。印加する電圧として、直流、パルス流、方形波、三角波、サイン波などの電圧を使用することができる。
【0051】
アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cが噴出される操作と、中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とが互いに相対的に変位させられる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成される。
【0052】
中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作とは、図2に示すように、中空構造体1の表面に対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作のことである。処理液Cが斜め方向に噴出されることにより、中空構造体1が発するジュール熱によって温められた処理液Cは、処理液Cの噴射口には戻らずに、噴射口と反対の方向に移動する。そのため、中空構造体1には、常に所定の処理温度以下に制御された処理液Cが噴出されるために、陽極酸化処理中に発生するジュール熱を急速に除去することができる。従来からこのジュール熱によるアルマイト皮膜溶解が厚膜形成の障害であることは考えられ処理系の処理液温度の管理を重視している。しかしながら、もっとも制御が重要であることはアルマイトが成長していく表面層からいかにジュール熱を急速除去することに注目されていないために、長年に亘って厚膜を容易に得られていなかった。
【0053】
斜め噴射ノズル2は、複数のノズルが中空構造体1の軸方向Xに複数並んで列を形成している。ノズルの列は複数設けることもできる。また斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の軸対称に複数設けられることが好ましい。斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の外側に設けられているが、中空構造体1の内側に設けることも可能である。なお、この場合は中空構造体1への導通は処理液の接触を防止した中空構造体端部から得る。あるいは、中空構造体1の内部冷却をたとえば、プロピレングリコール・エチレングリコール系からなる絶縁性冷却剤を利用することもできる。これにより、中空構造体1が内部から冷却される。また、斜め噴射ノズル2を中空構造体1の外部と内部の両方に設けることで、外側と内側の両方から中空構造体1が冷却される。
【0054】
斜め噴射ノズル2からは、温度が制御された処理液Cが噴射される。処理液Cの温度は、たとえば10℃である。処理液Cは、処理液入口16から入り、中空構造体1の表面に噴射され、処理液出口17から排出される。排出された処理液Cは、たとえば処理槽5の外部に設けられた冷却装置により冷却して、再度処理液入口16に戻すことにより、処理液Cを循環させることもできる。
【0055】
中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とを互いに相対的に変位させる操作とは、具体的には、陽極である中空構造体1および陰極3のいずれかもしくは双方を回転させることにより、中空構造体1と陰極3とを互いに相対的に変位させることである。陽極と陰極3とを相対的に変位させることで、たとえば任意の断面形状を有する中空構造体1を電界処理した場合に、陽極である中空構造体1と陰極3との間に生じる電界分布の変動を時間的に平均化することができる。たとえば、中空構造体1の断面形状が3角形の場合、頂点付近では電界分布の不連続性が生じるために電界集中が起こり、局所的な温度上昇が発生してしまう。それゆえ、このような局所的な電界集中を陽極と陰極3とを相対的に変位させることによって時間的に平均化することができる。また、中空構造体1の断面形状が正円の場合でも、実際の材料ではミクロな表面欠陥(たとえば、圧延条痕、研磨疵、圧痕、材料偏析、転位、汚れなど)があるために、それらの箇所では発生するジュール熱に相違がでてくる。そのため、陽極酸化アルミナ皮膜の成長とともに応力集中が現れてくる。厚膜形成は数時間以上の長時間処理であるため、表面での溶解量の差異が次第に大きくなる。結果として、中空構造体1が正円筒であったとしても、局所的な応力集中サイトが発生するため、クラックが発生する場合がでてくる。
【0056】
処理液Cは、中空構造体1を、軸方向Xを法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含んでいる。
【0057】
図3に示すように、たとえば中空構造体1の断面を内部に含む外接3角形20を求めて、その3つの頂点21、22、23の場所を決定する。外接3角形20は、たとえば外接正3角形である。そして、その3つの頂点21、22、23の場所に斜め噴射ノズル2を配置する。斜め噴射ノズル2は、上記の外接3角形20を形成する2つの接線の挟角よりも所定の角度θだけ大きい角度で、処理液Cを噴出する。所定の角度θとは、たとえば0〜3°である。これにより、中空構造体1の全面にわたって処理液Cが噴きかけられるので、中空構造体1の表面温度を均一にすることができる。処理液Cの噴出始点は、上記の3つの頂点21、22、23を含んでいれば、さらにそれ以外の場所にあってもよい。より多くの地点から処理液が噴出されることで、より効果的に中空構造体1の温度上昇が防止される。
【0058】
中空構造体1の表面温度は10℃以下であることが好ましい。ここで、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚と処理温度の関係について、図15を用いて説明する。本発明者は、鋭意検討した結果、図15に示す結果を得た。図15から分かるように、処理温度が低い程、膜厚は大きくなる傾向を示す。これは、より低温の処理液Cを用いることにより、より効率的に陽極酸化処理で発生するジュール熱が取除かれるため、アルミナ酸化皮膜が処理液Cに再溶解することを抑制することができるからである。処理液Cの温度が10℃以下になると、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚が急激に大きくなる。なお、処理液Cの温度は氷結しない温度であることが好ましい。
【0059】
アルミナ酸化皮膜を中空構造体1の表面に形成した後に、下地の中空構造体1が除去される。これにより、自立膜としての陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体が出来上がる。
【0060】
次に、本実施の形態の製造方法の作用効果について説明する。
本実施の形態の製造方法によれば、外接3角形20の頂点21、22、23の位置から処理液Cを斜めに噴射することにより、中空構造体1の表面の温度分布が平均化される。また、陽極と陰極3とを相対的に変位させることにより、中空構造体1表面の電界分布が平均化される。このように、外接3角形20の頂点21、22、23の位置から処理液Cが斜めに噴射されることや、もしくは陽極と陰極3が相対的に変位させられることにより、アルミナ酸化皮膜の成長に寄与する温度や電界などの成長寄与パラメータの分布が平均化されるので、効率的にアルミナ酸化皮膜が成長する。本実施の形態の製造方法により、膜厚が大きくかつ膜厚のばらつきが小さい、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。また、本実施の形態の製造方法により、表面の全面に光沢があり、クラックが少なく、ハンドリング時に破壊しない陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。
【0061】
次に、本実施の形態の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の構成について、図9〜図11を用いて説明する。
【0062】
陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、筒状であり、本体部36と、貫通孔37と直立孔30とを主に有している。本体部36は、中空構造体1の表面に形成されたアルミナ酸化皮膜の部分である。貫通孔37は軸方向Xに延在している。陽極酸化処理を行っているときは、中空構造体1が貫通孔37の内部に配置されている。直立孔30は、膜の成長方向(すなわち厚みtの方向)に対して略平行に延在している。直立孔30の直径dは、陽極酸化処理のときに印加する電圧と正の相関があることが知られている。すなわち、印加する電圧が高いほど、直立孔30の直径dは大きくなる。また、直立孔30はナノホールとも呼ばれている。直立孔30の直径dは、たとえば10nm〜50nmである。陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径と内径との差が厚み(すなわち膜厚)tである。直立孔30の深さ(陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚みt方向の長さ)を直立孔30の直径dで割り算した値はアスペクト比と呼ばれている。高いアスペクト比を目指す上で、直立孔30の直径dが小さい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を形成するためには、処理電圧を小さくする必要がある。しかしながら、処理電圧を小さくすると単位時間あたりの総クーロン量も小さくなるため、皮膜成長速度は極端に遅くなってしまう。そのため、ある程度大きな処理電圧をかけながら高いアスペクト比を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造するためには、上記で説明したような製造方法が有効である。
【0063】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径と内径との差が320μm以上である。さらに好ましくは、外径と内径との差が345μm以上である。これにより、より強度が高くハンドリングしやすい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を得ることができる。
【0064】
立体構造を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、平板状のアルミナ自立膜と比べると応用範囲が広くなる。たとえば、軸受やモーター磁石(直立孔に磁性材料を充填する)にも応用できる。さらに中空内部に機能物質を充填することで直立孔を通して分離通過してきたガスや液体等の物質と選択的に反応させることができる。
【0065】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は表面全体に光沢を有している。
陽極酸化処理を行うことによって形成されるアルミナ皮膜は外的強制変動(例えば、処理中に処理温度が適正温度範囲から外れる、あるいは、電流・電圧変動など)が発生したり、内的材料異常(特に、偏析など管理組成から外れた領域など)のある場合、その領域での直立孔に異常が発生する(孔径変動、直立孔の成長停止、直立孔方向の傾斜、3次元網目組織化など)。特に、3次元網目組織化は上述の外的強制変動の場合、全面的に発生する。最表面層が直立孔組織の場合にはミクロ孔が一方向に整列しているため、投光に対して光沢を呈する。一方、この最表面層の整列直立孔が乱れるとその割合によって光沢は低下する。特に、後述する3次元網目組織化を適用した最表面では乱反射が発生するため無光沢となる。光沢の有無は例えば、一般的な蛍光灯による投光の反射を用いた場合、肉眼でも十分判断できるものである。なお、空隙領域に触媒を充填することによって機能を高める等、用途によっては自立膜中空構造体を形成後、最表面層を後処理によって3次元網目組織を形成してもよい。
【0066】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は軸方向Xを法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である。これにより、多様な形状の機能性材料を得ることができるので、多用途展開が可能である。
【0067】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、外径側の表面と内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口した直立孔30を有し、直立孔30のアスペクト比が10000以上である。アスペクト比が大きいほど、直立孔30の表面積が大きくなる。そのため、直立孔30に機能性物質を充填した場合、機能性物質の反応性が向上するため、機能性物質の効果が増大する。
【0068】
内面側(内径側)の表面のみが開口した陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40および、内面側(内径側)および外面側(外径側)が開口した陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を作成する(言い換えれば、内面側(内径側)の表面を陽極酸化する)場合は、たとえば以下のプロセスを用いることができる。
【0069】
内面側(内径側)を陽極酸化処理する場合には、軸中心から少なくとも中空構造体1の外面に向かって少なくとも2方向以上に斜め噴射点を構成する。なお、各方向の放射角の合計は360度以上をなす。
【0070】
次に、直立孔の形状について図11〜図13を用いて説明する。
図11に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径側の表面から内径側の表面へ貫通している。これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40をフィルタとして用いるときに、貫通した直立孔30を通じて物質が通過可能である。
【0071】
図12に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、延在方向の途中で径が変化していても良い。延在方向の途中で直立孔の径を変える方法としては、たとえば処理電圧を途中で変化させることである。たとえば、低い電圧で陽極酸化処理が行われれば、小さい径d1で長さがt1の直立孔31が形成され、高い電圧で陽極酸化処理が行われれば、大きい径d2で長さがt2の直立孔32が形成される。これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40をフィルタとして用いるときに、ガス成分の透過率を変化させたり、透過物質の分離、遮蔽、滞留などの操作が可能となる。
【0072】
図13に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の内部に底部34を有している。陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40が内部に底部34を有していることにより、磁性体、蛍光体などの機能性物質を直立孔30の内部に留めておくことにより、ハイブリッド機能材料などの多目的用途への展開が可能になる。
【0073】
次に、3次元網目構造層を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体について図14を用いて説明する。図14に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、一方の表面に3次元網目構造層35を有している。3次元網目構造層35は外径側の表面および内径側の表面の少なくとも一方の表面に有していれば良い。3次元網目構造層35はたとえばアルミナに多数の微細な空孔が3次元的に形成されており、複数の空孔が互いに連結して、微小なアルミナが3次元的に網目状に互いに絡み合うように連なった構造をしている。3次元網目構造層35は空隙率がより高いために、触媒等の充填量をより大きくすることができるので、より長寿命のフィルタを提供することが可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明に係る実施例について表1を用いて説明する。
まずはじめに、実験の目的について説明する。
【0075】
本実験は、斜め噴射ノズル2によって中空構造体1に向けて処理液Cを噴射して陽極酸化処理すること(以下、斜噴射という)の有無、および陽極を陰極3に対して相対的に回転させて陽極酸化処理すること(以下、相対回転という)の有無による、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み、厚みのばらつき、表面光沢およびクラックについての影響を調べたものである。
【0076】
また、本実験では、中空構造体1の真円度と、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み、厚みのばらつき、表面光沢およびクラックとの関係についても調べた。
【0077】
次に、実験の内容について説明する。
処理液Cの噴射は、図3に示すように正円の外接3角形20の頂点21、22、23を噴射始点として行った。まず最初に中空構造体1の真円度を真円度測定器により測定した。真円度は中空構造体1の軸方向X(筒状の長軸方向)を法線とする平面で切った断面形状から求めた。この断面形状を内部に含む最小の正円を算出することで、この正円の外接3角形20の頂点21、22、23を決定した。そしてこの3つの頂点21、22、23に斜め噴射ノズル2が設置された。また、ノズル口の内側に正円への2つの接線で構成される挟角よりも3度広い放射角を設けることにより、3つの斜め噴射ノズル2によって中空構造体1の全面に処理液Cが当たるようにした。処理温度は8±1℃であり、処理時間は27時間とされた。
【0078】
実験では、処理1として斜噴射の有無の影響を調べ、処理2として相対回転の有無の影響を調べた。相対回転させる場合は、陽極を毎秒3℃で回転させた。
【0079】
「max厚み」とは下地のアルミニウム(中空構造体1)を除去した後の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み(すなわち外径と内径の差)を、0度、90度、180度、270度と4点測定したときの最大の厚みのことである。「厚みのバラツキ」とは、上記4点の厚みの最大値と最小値の差のことである。「表面光沢」とは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の表面に、蛍光灯反射を行い、肉眼で表面の光沢を判断したものである。ここで、良好な直立孔30(ナノホール)組織形成部には光沢がみられるので、直立孔30の品質を判断する指標の一つと考えられている。「クラック」は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を実体顕微鏡で観察した。倍率は50〜100倍である。このとき、全面にクラックがない場合は「◎」と判断し、端部付近に一部クラックがあるもののハンドリングで破壊しない場合は「○」と判断した。そして、全面にクラックがあるがハンドリングで破壊しない場合は「×」と判断した。
【0080】
次に、実験の結果について表1を用いて説明する。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明例1〜3、本発明例4〜6および本発明例7〜9は、それぞれ真円度が0.1mm/φ10mm、1mm/φ10mmおよび2mm/φ10mmの中空構造体を使用した場合の結果である。
【0083】
比較例1〜3は、斜噴射および相対回転の両方を行わずに陽極酸化処理を行った場合のデータである。本発明例1、4および7は、斜噴射と相対回転の両方を行って陽極酸化処理を行った場合の結果である。本発明例2、5および8は、斜噴射を行ったが、相対回転は行わずに陽極酸化処理を行った場合の結果である。本発明例3、6および9は、斜噴射を行わず、相対回転を行って陽極酸化処理を行った場合の結果である。
【0084】
この結果より、斜噴射と相対回転の双方を行わない場合(比較例1〜3)と比べて、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3、本発明例5と6および本発明例8と9)の方が、max厚みが大きくなり、厚みバラツキが小さくなり、表面光沢が全面にみられ、ハンドリング時に大割れのない、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができた。
【0085】
また、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3、本発明例5と6および本発明例8と9)と比べて、斜噴射および相対回転の双方を行った場合(本発明例1、4および7)の方が、厚みバラツキが小さくなり、クラックが少なくなった。また、真円度が0.1mm/φ10mmと1mm/φ10mmの場合には、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3および本発明例5と6)と比べて、斜噴射および相対回転の双方を行った場合(本発明例1および4)の方が、max厚みが大きかった。さらに、真円度が大きくなるほど厚みバラツキが大きくなるという傾向が見られた。
【0086】
なお、本発明例1の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30の直径dは23nmであり、アスペクト比は15260であった。
【0087】
次に、この実験により得た知見について説明する。
アルミナ酸化皮膜を形成する工程において斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを有することによって、膜厚が大きく、膜厚のばらつきが小さく、表面光沢が全面にみられ、ハンドリング時に大割れのない、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を得ることができることが分かった。
【0088】
また、アルミナ酸化皮膜を形成する工程において斜噴射と相対回転の双方を組み合わせることによって、より膜厚が大きく、より膜厚のばらつきが小さく、よりクラックが少ない筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を得ることができる傾向を示すことが分かった。
【0089】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、陽極酸化アルミナ皮膜およびその製造方法について好適に利用される。
【符号の説明】
【0091】
1 中空構造体、2 斜め噴射ノズル、3 陰極、4 回転用駆動モータ、5 処理槽、6 処理槽密閉蓋、7 樹脂製はめ込みキャップ、8 折筒状白金板、9 樹脂製ストッパ、10 導電性結合膜、11 導電性軸、13 押上げ部、15 上部ストッパ、16 処理液入口、17 処理液出口、20 外接3角形、21,22,23 頂点、30,31,32,33 直立孔、34 底部、35 3次元網目構造、36 本体部、37 貫通孔、40 陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体、d,d1,d2 直径、t 厚み、t1,t2 長さ、θ 角度、X 軸方向。
【技術分野】
【0001】
陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体およびその製造方法に関し、特に、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムに電気化学的な陽極酸化処理を施した際、アルミナ皮膜が表面に形成される。このアルミナ皮膜の内、多孔質組織(一般的には、基板表面に膜を成長させるときに、基板に対して垂直に形成される直立孔で構成されている)を有するものはアルマイトと呼ばれる。この陽極酸化処理によりアルマイトを形成する技術は、耐食性や耐磨耗性の向上、また様々な着色による装飾を目的とした、純アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理技術の一つとして周知である。
【0003】
特開2009−120892号公報(特許文献1)には、膜厚が230μm以上でありアスペクト比が10000以上である平板状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造する方法が記載されている。
【0004】
特開2010−53427号公報(特許文献2)には、電解液の濃度、電解液の温度、化成電圧の少なくとも一つを上昇させることにより、膜厚が3mm以上の平板状の陽極酸化ポーラスアルミナを製造する方法が記載されている。
【0005】
特開2005−118767号公報(特許文献3)には、化学研磨を施した金属アルミニウム管を用いて、円筒状の多孔質基材を作成する方法が記載されている。
【0006】
冨田節夫「アルマイト皮膜はどこまで厚いものが出来るか」(非特許文献1)には、硫酸中でアルミニウムのパイプの内面を水冷却する方法により、厚さが300μmの円筒状の硬質アルマイト皮膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−120892号公報
【特許文献2】特開2010−53427号公報
【特許文献3】特開2005−118767号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】冨田節夫 「アルマイト皮膜はどこまで厚いものが出来るか」 ARSコンファレンス講演予稿集 vol.3 1986年 p.46−48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の円筒状の多孔質基材と非特許文献1に記載の円筒状のアルマイト皮膜の厚みは、ともに300μm以下である。そのため、自立膜としてハンドリングするには強度が十分ではないと考えられる。
【0010】
それゆえに、この発明の主たる目的は、膜厚の大きな筒状の陽極酸化アルミナ自立膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、膜厚が大きくかつ膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を製造する方法について鋭意検討をした結果、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかを回転させることにより陰極と中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成されることが重要であることを見出した。
【0012】
そこで、本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法は、軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、アルミニウムを含む材質からなる中空構造体を準備する工程と、中空構造体を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を中空構造体の表面に形成する工程とを備えている。アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかを回転させることにより陰極と中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成される。処理液は、中空構造体を、軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含んでいる。
【0013】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法において好ましくは、アルミナ酸化皮膜を形成する工程において、中空構造体に向けて軸方向に対して斜め方向に処理液が噴出される操作と、中空構造体および陰極の少なくともいずれかが回転させられることにより中空構造体と陰極とが互いに相対的に変位させられる操作との双方の操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成されることである。
【0014】
これにより、より膜厚が大きくかつより膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造することができる。
【0015】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法において好ましくは、アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体の表面温度が10℃以下に維持されることである。
【0016】
これにより、より膜厚が大きくかつより膜厚のばらつきが小さい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜を製造することができる。
【0017】
本発明者は、強度が大きくハンドリングしやすい筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体について鋭意検討をした結果、陽極酸化アルミナ自立膜構造体の外径と内径の差が320μm以上であることが重要であることを見出した。
【0018】
そこで、本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、軸方向に貫通孔を有する筒状であり、外径と内径との差が320μm以上である。
【0019】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、外径と内径との差が345μm以上である。
【0020】
これにより、より強度が大きくハンドリングしやすい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができる。
【0021】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は表面全体に光沢を有している。
【0022】
これにより、表面品質の優れた陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができる。
【0023】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体において好ましくは、軸方向を法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である。
【0024】
これにより、多様な形状の機能性材料を得ることができるので、多用途展開が可能である。
【0025】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、直立孔を含んでいる。直立孔は、外径側の表面と内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口している。直立孔のアスペクト比は10000以上である。
【0026】
これにより、直立孔に機能性物質を充填した場合に機能性物質の反応性が向上するために、機能性物質の効果を増大させることができる。
【0027】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、延在方向の途中で径が変化している。
【0028】
これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体をフィルタとして用いるときに、ガス成分の透過率を変化させたり、透過物質の分離、遮蔽、滞留などの操作が可能となる。
【0029】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の外径側の表面から内径側の表面へ貫通している。
【0030】
これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体をフィルタとして用いるときに、貫通孔を通じて物質が通過可能である。
【0031】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の直立孔は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の内部に底部を有している。
【0032】
これにより、磁性体、蛍光体などの機能性物質を直立穴の内部に留めておくことにより、ハイブリッド機能材料などの多目的用途への展開が可能になる。
【0033】
上記の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は外径側の表面および内径側の表面の少なくとも一方の表面に3次元網目構造層を含んでいる。
【0034】
3次元網目構造は空隙率がより高いために、触媒等の充填量をより大きくすることができるので、より長寿命のフィルタを提供することが可能である。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によれば、より膜厚の大きな筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】処理液の噴射方向の一例を示す模式図である。
【図3】処理液の噴射始点の一例を示す模式図である。
【図4】折筒状白金板の一例を示す斜視図である。
【図5】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触する前の状態を示す概略平面図である。
【図6】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触する前の状態を示す概略側面図である。
【図7】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触した後の状態を示す概略平面図である。
【図8】折筒状白金板が筒状の中空構造体に接触した後の状態を示す概略側面図である。
【図9】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の一例を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の一例の一部を拡大した斜視図である。
【図11】直立孔が貫通している例を示す図である。
【図12】直立孔の径が延在方向で変化している例を示す図である。
【図13】直立孔が底部を有している例を示す図である。
【図14】陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体が3次元網目構造を有する例を示す図である。
【図15】陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚と処理温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0038】
まず本発明の一実施の形態における陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置について、図1〜図3を用いて説明する。
【0039】
図1に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造装置は、中空構造体1と、斜め噴射ノズル2と、陰極3と、駆動モータ4と、処理槽5と、処理槽密閉蓋6と、絶縁性はめ込みキャップ7とを主に有している。中空構造体1は、円筒状であり主にアルミニウムを主成分とする材質から構成されている。中空構造体1はプラス側の電源に接続されて陽極として機能するように設けられている。中空構造体1は、その表面にアルミナ酸化皮膜を形成させるものである。中空構造体1としては、たとえば外径10mm×内径6mm×肉厚2mm×長さ30mmであり、99.99%の高純度アルミニウムを400℃でフルアニールしたものを使用することができる。
【0040】
斜め噴射ノズル2は、少なくとも所定の処理温度以下に制御された処理液Cを中空構造体1に向けて噴射するように配置されている。斜め噴射ノズル2の方向は、図2に示すように、中空構造体1の軸方向Xに対して斜め方向を向いている。これにより、斜め噴射ノズル2の方向は、中空構造体1の外周表面に対して角度θをなして斜めに傾いている。なお、この図では省略してあるが、後述するように中空構造体1を、軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点とする同様の斜め噴射ノズルを構成している。陰極3は、マイナス側の電源に接続可能である。陰極3は、たとえば円筒状である白金が処理槽5の内面に貼り付けるように設けられている。陰極3として、たとえば純度99.98%であり、線径0.07mm、100meshの白金網を使用することができる。陰極3と中空構造体1との間隔は、たとえば20mmである。
【0041】
駆動モータ4は、陽極である中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを軸方向Xを回転軸として回転させるように設けられている。また、駆動モータ4は、中空構造体1および陰極3の双方を独立して回転させるようにすることも可能である。処理槽5には、処理液Cが中空構造体1および陰極3を浸漬させるように注入される。処理液Cとしては、硫酸や蓚酸を使用することができる。たとえば、処理液Cは1mol/lの硫酸である。処理槽密閉蓋6は、処理槽5の上部に配置されることで、処理槽5を密閉するためのものである。陰極3に接続される配線はたとえば処理槽密閉蓋6を介して外部の電源に接続することができる。絶縁性はめ込みキャップ7は、円筒状の中空構造体1の両方の端部にはめ込まれている。円筒の端部は電界が集中しやすいため、絶縁性はめ込みキャップ7を端部にはめ込むことで局所的な電界集中を防止し、中空構造体1の表面の電界を平均化することができる。
【0042】
図3に示すように、斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の断面を内部に含む外接3角形の3つの頂点に配置されている。外接3角形は、たとえば外接正3角形である。斜め噴射ノズル2は、外接3角形の2つの接線の挟角よりも所定の角度θ大きい角度で、処理液Cを中空構造体1に向けて噴射できるように配置されている。
【0043】
陽極となる中空構造体1は、折筒状白金板8を用いて電気的接続がとられても良い。陽極となる中空構造体1が外部電源のプラス側に電気的に接続される方法について、図4〜図8を用いて説明する。
【0044】
中空構造体1は、折筒状白金板8を介して導電性軸11と電気的に接続されている。折筒状白金板8は、図4に示すように筒状の白金板を断面が多角形になるように折って形成されている。折筒状白金板8は、たとえば肉厚0.02mm×幅20mm×長さ200mmのリボン状白金薄板を折り曲げ高さ0.5mmで作成することができる。図5に示すように、折筒状白金板8は、中空構造体1と樹脂製ストッパー9の間に設けられている。樹脂製ストッパー9は、中空構造体1の内部に設けられ、中空構造体1の軸方向の全長よりも短い全長を有している。図7および図8に示すように、導電性軸11を上方に引き上げることにより、押上げ部13が押し上げられる。そして、樹脂製ストッパー9が押上げ部13と上部ストッパ15に挟まれることにより、樹脂製ストッパー9は図中横方向に膨らむ。それにより、筒状の白金板が円筒状の中空構造体1の内側面に押し当てられて、折筒状白金板8と中空構造体1は電気的に接続される。
【0045】
一方、折筒状白金板8と導電性軸11は導電性結合膜10を介して電気的に接続されている。導電性結合膜10としては、たとえば白金線を用いることができる。導電性軸11は電源のプラス側へ接続可能である。
【0046】
次に、本発明の一実施の形態に係る陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法について説明する。
【0047】
本実施の形態の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法は、軸方向Xに貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1を準備する工程と、中空構造体1を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を中空構造体1の表面に形成する工程とを備えている。
【0048】
アルミニウムを含む材質からなる中空構造体1は、アルミナ酸化皮膜を形成する基材となるものである。そのため、中空構造体1として、たとえば円筒状のアルミニウムやアルミニウム合金が使用される。より好ましくは、中空構造体1の主成分はアルミニウムである。
【0049】
中空構造体1はプラス側の電源に接続され陽極として機能する。対応する陰極がマイナス側の電源に接続されることにより、両者に電圧を印加することにより、アルミナ酸化皮膜が中空構造体1の表面に形成される。陰極3としては、たとえば図1に示すような白金で形成された円筒状の陰極3が用いられる。また、陰極3として、処理槽5の内面に導電性材料が溶射塗布されたものも使用することができる。導電性材料としては、たとえば、白金、金、銅、チタン、カーボンなどの曲板、網などが挙げられる。
【0050】
陽極と陰極3の間に電圧を印加することにより、陽極酸化処理が始まりアルミナ酸化皮膜が中空構造体1の表面に形成される。印加する電圧として、直流、パルス流、方形波、三角波、サイン波などの電圧を使用することができる。
【0051】
アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cが噴出される操作と、中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とが互いに相対的に変位させられる操作との少なくともいずれかの操作を行いながらアルミナ酸化皮膜が形成される。
【0052】
中空構造体1に向けて軸方向Xに対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作とは、図2に示すように、中空構造体1の表面に対して斜め方向に処理液Cを噴出する操作のことである。処理液Cが斜め方向に噴出されることにより、中空構造体1が発するジュール熱によって温められた処理液Cは、処理液Cの噴射口には戻らずに、噴射口と反対の方向に移動する。そのため、中空構造体1には、常に所定の処理温度以下に制御された処理液Cが噴出されるために、陽極酸化処理中に発生するジュール熱を急速に除去することができる。従来からこのジュール熱によるアルマイト皮膜溶解が厚膜形成の障害であることは考えられ処理系の処理液温度の管理を重視している。しかしながら、もっとも制御が重要であることはアルマイトが成長していく表面層からいかにジュール熱を急速除去することに注目されていないために、長年に亘って厚膜を容易に得られていなかった。
【0053】
斜め噴射ノズル2は、複数のノズルが中空構造体1の軸方向Xに複数並んで列を形成している。ノズルの列は複数設けることもできる。また斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の軸対称に複数設けられることが好ましい。斜め噴射ノズル2は、中空構造体1の外側に設けられているが、中空構造体1の内側に設けることも可能である。なお、この場合は中空構造体1への導通は処理液の接触を防止した中空構造体端部から得る。あるいは、中空構造体1の内部冷却をたとえば、プロピレングリコール・エチレングリコール系からなる絶縁性冷却剤を利用することもできる。これにより、中空構造体1が内部から冷却される。また、斜め噴射ノズル2を中空構造体1の外部と内部の両方に設けることで、外側と内側の両方から中空構造体1が冷却される。
【0054】
斜め噴射ノズル2からは、温度が制御された処理液Cが噴射される。処理液Cの温度は、たとえば10℃である。処理液Cは、処理液入口16から入り、中空構造体1の表面に噴射され、処理液出口17から排出される。排出された処理液Cは、たとえば処理槽5の外部に設けられた冷却装置により冷却して、再度処理液入口16に戻すことにより、処理液Cを循環させることもできる。
【0055】
中空構造体1および陰極3の少なくともいずれかを回転させることにより陰極3と中空構造体1とを互いに相対的に変位させる操作とは、具体的には、陽極である中空構造体1および陰極3のいずれかもしくは双方を回転させることにより、中空構造体1と陰極3とを互いに相対的に変位させることである。陽極と陰極3とを相対的に変位させることで、たとえば任意の断面形状を有する中空構造体1を電界処理した場合に、陽極である中空構造体1と陰極3との間に生じる電界分布の変動を時間的に平均化することができる。たとえば、中空構造体1の断面形状が3角形の場合、頂点付近では電界分布の不連続性が生じるために電界集中が起こり、局所的な温度上昇が発生してしまう。それゆえ、このような局所的な電界集中を陽極と陰極3とを相対的に変位させることによって時間的に平均化することができる。また、中空構造体1の断面形状が正円の場合でも、実際の材料ではミクロな表面欠陥(たとえば、圧延条痕、研磨疵、圧痕、材料偏析、転位、汚れなど)があるために、それらの箇所では発生するジュール熱に相違がでてくる。そのため、陽極酸化アルミナ皮膜の成長とともに応力集中が現れてくる。厚膜形成は数時間以上の長時間処理であるため、表面での溶解量の差異が次第に大きくなる。結果として、中空構造体1が正円筒であったとしても、局所的な応力集中サイトが発生するため、クラックが発生する場合がでてくる。
【0056】
処理液Cは、中空構造体1を、軸方向Xを法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含んでいる。
【0057】
図3に示すように、たとえば中空構造体1の断面を内部に含む外接3角形20を求めて、その3つの頂点21、22、23の場所を決定する。外接3角形20は、たとえば外接正3角形である。そして、その3つの頂点21、22、23の場所に斜め噴射ノズル2を配置する。斜め噴射ノズル2は、上記の外接3角形20を形成する2つの接線の挟角よりも所定の角度θだけ大きい角度で、処理液Cを噴出する。所定の角度θとは、たとえば0〜3°である。これにより、中空構造体1の全面にわたって処理液Cが噴きかけられるので、中空構造体1の表面温度を均一にすることができる。処理液Cの噴出始点は、上記の3つの頂点21、22、23を含んでいれば、さらにそれ以外の場所にあってもよい。より多くの地点から処理液が噴出されることで、より効果的に中空構造体1の温度上昇が防止される。
【0058】
中空構造体1の表面温度は10℃以下であることが好ましい。ここで、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚と処理温度の関係について、図15を用いて説明する。本発明者は、鋭意検討した結果、図15に示す結果を得た。図15から分かるように、処理温度が低い程、膜厚は大きくなる傾向を示す。これは、より低温の処理液Cを用いることにより、より効率的に陽極酸化処理で発生するジュール熱が取除かれるため、アルミナ酸化皮膜が処理液Cに再溶解することを抑制することができるからである。処理液Cの温度が10℃以下になると、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の膜厚が急激に大きくなる。なお、処理液Cの温度は氷結しない温度であることが好ましい。
【0059】
アルミナ酸化皮膜を中空構造体1の表面に形成した後に、下地の中空構造体1が除去される。これにより、自立膜としての陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体が出来上がる。
【0060】
次に、本実施の形態の製造方法の作用効果について説明する。
本実施の形態の製造方法によれば、外接3角形20の頂点21、22、23の位置から処理液Cを斜めに噴射することにより、中空構造体1の表面の温度分布が平均化される。また、陽極と陰極3とを相対的に変位させることにより、中空構造体1表面の電界分布が平均化される。このように、外接3角形20の頂点21、22、23の位置から処理液Cが斜めに噴射されることや、もしくは陽極と陰極3が相対的に変位させられることにより、アルミナ酸化皮膜の成長に寄与する温度や電界などの成長寄与パラメータの分布が平均化されるので、効率的にアルミナ酸化皮膜が成長する。本実施の形態の製造方法により、膜厚が大きくかつ膜厚のばらつきが小さい、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。また、本実施の形態の製造方法により、表面の全面に光沢があり、クラックが少なく、ハンドリング時に破壊しない陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造することができる。
【0061】
次に、本実施の形態の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の構成について、図9〜図11を用いて説明する。
【0062】
陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、筒状であり、本体部36と、貫通孔37と直立孔30とを主に有している。本体部36は、中空構造体1の表面に形成されたアルミナ酸化皮膜の部分である。貫通孔37は軸方向Xに延在している。陽極酸化処理を行っているときは、中空構造体1が貫通孔37の内部に配置されている。直立孔30は、膜の成長方向(すなわち厚みtの方向)に対して略平行に延在している。直立孔30の直径dは、陽極酸化処理のときに印加する電圧と正の相関があることが知られている。すなわち、印加する電圧が高いほど、直立孔30の直径dは大きくなる。また、直立孔30はナノホールとも呼ばれている。直立孔30の直径dは、たとえば10nm〜50nmである。陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径と内径との差が厚み(すなわち膜厚)tである。直立孔30の深さ(陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚みt方向の長さ)を直立孔30の直径dで割り算した値はアスペクト比と呼ばれている。高いアスペクト比を目指す上で、直立孔30の直径dが小さい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を形成するためには、処理電圧を小さくする必要がある。しかしながら、処理電圧を小さくすると単位時間あたりの総クーロン量も小さくなるため、皮膜成長速度は極端に遅くなってしまう。そのため、ある程度大きな処理電圧をかけながら高いアスペクト比を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を製造するためには、上記で説明したような製造方法が有効である。
【0063】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径と内径との差が320μm以上である。さらに好ましくは、外径と内径との差が345μm以上である。これにより、より強度が高くハンドリングしやすい陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を得ることができる。
【0064】
立体構造を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、平板状のアルミナ自立膜と比べると応用範囲が広くなる。たとえば、軸受やモーター磁石(直立孔に磁性材料を充填する)にも応用できる。さらに中空内部に機能物質を充填することで直立孔を通して分離通過してきたガスや液体等の物質と選択的に反応させることができる。
【0065】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は表面全体に光沢を有している。
陽極酸化処理を行うことによって形成されるアルミナ皮膜は外的強制変動(例えば、処理中に処理温度が適正温度範囲から外れる、あるいは、電流・電圧変動など)が発生したり、内的材料異常(特に、偏析など管理組成から外れた領域など)のある場合、その領域での直立孔に異常が発生する(孔径変動、直立孔の成長停止、直立孔方向の傾斜、3次元網目組織化など)。特に、3次元網目組織化は上述の外的強制変動の場合、全面的に発生する。最表面層が直立孔組織の場合にはミクロ孔が一方向に整列しているため、投光に対して光沢を呈する。一方、この最表面層の整列直立孔が乱れるとその割合によって光沢は低下する。特に、後述する3次元網目組織化を適用した最表面では乱反射が発生するため無光沢となる。光沢の有無は例えば、一般的な蛍光灯による投光の反射を用いた場合、肉眼でも十分判断できるものである。なお、空隙領域に触媒を充填することによって機能を高める等、用途によっては自立膜中空構造体を形成後、最表面層を後処理によって3次元網目組織を形成してもよい。
【0066】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は軸方向Xを法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である。これにより、多様な形状の機能性材料を得ることができるので、多用途展開が可能である。
【0067】
好ましくは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、外径側の表面と内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口した直立孔30を有し、直立孔30のアスペクト比が10000以上である。アスペクト比が大きいほど、直立孔30の表面積が大きくなる。そのため、直立孔30に機能性物質を充填した場合、機能性物質の反応性が向上するため、機能性物質の効果が増大する。
【0068】
内面側(内径側)の表面のみが開口した陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40および、内面側(内径側)および外面側(外径側)が開口した陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を作成する(言い換えれば、内面側(内径側)の表面を陽極酸化する)場合は、たとえば以下のプロセスを用いることができる。
【0069】
内面側(内径側)を陽極酸化処理する場合には、軸中心から少なくとも中空構造体1の外面に向かって少なくとも2方向以上に斜め噴射点を構成する。なお、各方向の放射角の合計は360度以上をなす。
【0070】
次に、直立孔の形状について図11〜図13を用いて説明する。
図11に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の外径側の表面から内径側の表面へ貫通している。これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40をフィルタとして用いるときに、貫通した直立孔30を通じて物質が通過可能である。
【0071】
図12に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、延在方向の途中で径が変化していても良い。延在方向の途中で直立孔の径を変える方法としては、たとえば処理電圧を途中で変化させることである。たとえば、低い電圧で陽極酸化処理が行われれば、小さい径d1で長さがt1の直立孔31が形成され、高い電圧で陽極酸化処理が行われれば、大きい径d2で長さがt2の直立孔32が形成される。これにより、たとえば陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40をフィルタとして用いるときに、ガス成分の透過率を変化させたり、透過物質の分離、遮蔽、滞留などの操作が可能となる。
【0072】
図13に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の内部に底部34を有している。陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40が内部に底部34を有していることにより、磁性体、蛍光体などの機能性物質を直立孔30の内部に留めておくことにより、ハイブリッド機能材料などの多目的用途への展開が可能になる。
【0073】
次に、3次元網目構造層を有する陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体について図14を用いて説明する。図14に示すように、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40は、一方の表面に3次元網目構造層35を有している。3次元網目構造層35は外径側の表面および内径側の表面の少なくとも一方の表面に有していれば良い。3次元網目構造層35はたとえばアルミナに多数の微細な空孔が3次元的に形成されており、複数の空孔が互いに連結して、微小なアルミナが3次元的に網目状に互いに絡み合うように連なった構造をしている。3次元網目構造層35は空隙率がより高いために、触媒等の充填量をより大きくすることができるので、より長寿命のフィルタを提供することが可能である。
【実施例】
【0074】
次に、本発明に係る実施例について表1を用いて説明する。
まずはじめに、実験の目的について説明する。
【0075】
本実験は、斜め噴射ノズル2によって中空構造体1に向けて処理液Cを噴射して陽極酸化処理すること(以下、斜噴射という)の有無、および陽極を陰極3に対して相対的に回転させて陽極酸化処理すること(以下、相対回転という)の有無による、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み、厚みのばらつき、表面光沢およびクラックについての影響を調べたものである。
【0076】
また、本実験では、中空構造体1の真円度と、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み、厚みのばらつき、表面光沢およびクラックとの関係についても調べた。
【0077】
次に、実験の内容について説明する。
処理液Cの噴射は、図3に示すように正円の外接3角形20の頂点21、22、23を噴射始点として行った。まず最初に中空構造体1の真円度を真円度測定器により測定した。真円度は中空構造体1の軸方向X(筒状の長軸方向)を法線とする平面で切った断面形状から求めた。この断面形状を内部に含む最小の正円を算出することで、この正円の外接3角形20の頂点21、22、23を決定した。そしてこの3つの頂点21、22、23に斜め噴射ノズル2が設置された。また、ノズル口の内側に正円への2つの接線で構成される挟角よりも3度広い放射角を設けることにより、3つの斜め噴射ノズル2によって中空構造体1の全面に処理液Cが当たるようにした。処理温度は8±1℃であり、処理時間は27時間とされた。
【0078】
実験では、処理1として斜噴射の有無の影響を調べ、処理2として相対回転の有無の影響を調べた。相対回転させる場合は、陽極を毎秒3℃で回転させた。
【0079】
「max厚み」とは下地のアルミニウム(中空構造体1)を除去した後の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の厚み(すなわち外径と内径の差)を、0度、90度、180度、270度と4点測定したときの最大の厚みのことである。「厚みのバラツキ」とは、上記4点の厚みの最大値と最小値の差のことである。「表面光沢」とは、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の表面に、蛍光灯反射を行い、肉眼で表面の光沢を判断したものである。ここで、良好な直立孔30(ナノホール)組織形成部には光沢がみられるので、直立孔30の品質を判断する指標の一つと考えられている。「クラック」は、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40を実体顕微鏡で観察した。倍率は50〜100倍である。このとき、全面にクラックがない場合は「◎」と判断し、端部付近に一部クラックがあるもののハンドリングで破壊しない場合は「○」と判断した。そして、全面にクラックがあるがハンドリングで破壊しない場合は「×」と判断した。
【0080】
次に、実験の結果について表1を用いて説明する。
【0081】
【表1】
【0082】
本発明例1〜3、本発明例4〜6および本発明例7〜9は、それぞれ真円度が0.1mm/φ10mm、1mm/φ10mmおよび2mm/φ10mmの中空構造体を使用した場合の結果である。
【0083】
比較例1〜3は、斜噴射および相対回転の両方を行わずに陽極酸化処理を行った場合のデータである。本発明例1、4および7は、斜噴射と相対回転の両方を行って陽極酸化処理を行った場合の結果である。本発明例2、5および8は、斜噴射を行ったが、相対回転は行わずに陽極酸化処理を行った場合の結果である。本発明例3、6および9は、斜噴射を行わず、相対回転を行って陽極酸化処理を行った場合の結果である。
【0084】
この結果より、斜噴射と相対回転の双方を行わない場合(比較例1〜3)と比べて、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3、本発明例5と6および本発明例8と9)の方が、max厚みが大きくなり、厚みバラツキが小さくなり、表面光沢が全面にみられ、ハンドリング時に大割れのない、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を得ることができた。
【0085】
また、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3、本発明例5と6および本発明例8と9)と比べて、斜噴射および相対回転の双方を行った場合(本発明例1、4および7)の方が、厚みバラツキが小さくなり、クラックが少なくなった。また、真円度が0.1mm/φ10mmと1mm/φ10mmの場合には、斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを行った場合(本発明例2と3および本発明例5と6)と比べて、斜噴射および相対回転の双方を行った場合(本発明例1および4)の方が、max厚みが大きかった。さらに、真円度が大きくなるほど厚みバラツキが大きくなるという傾向が見られた。
【0086】
なお、本発明例1の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体40の直立孔30の直径dは23nmであり、アスペクト比は15260であった。
【0087】
次に、この実験により得た知見について説明する。
アルミナ酸化皮膜を形成する工程において斜噴射および相対回転の少なくともいずれかを有することによって、膜厚が大きく、膜厚のばらつきが小さく、表面光沢が全面にみられ、ハンドリング時に大割れのない、筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を得ることができることが分かった。
【0088】
また、アルミナ酸化皮膜を形成する工程において斜噴射と相対回転の双方を組み合わせることによって、より膜厚が大きく、より膜厚のばらつきが小さく、よりクラックが少ない筒状の陽極酸化アルミナ自立膜構造体を得ることができる傾向を示すことが分かった。
【0089】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、陽極酸化アルミナ皮膜およびその製造方法について好適に利用される。
【符号の説明】
【0091】
1 中空構造体、2 斜め噴射ノズル、3 陰極、4 回転用駆動モータ、5 処理槽、6 処理槽密閉蓋、7 樹脂製はめ込みキャップ、8 折筒状白金板、9 樹脂製ストッパ、10 導電性結合膜、11 導電性軸、13 押上げ部、15 上部ストッパ、16 処理液入口、17 処理液出口、20 外接3角形、21,22,23 頂点、30,31,32,33 直立孔、34 底部、35 3次元網目構造、36 本体部、37 貫通孔、40 陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体、d,d1,d2 直径、t 厚み、t1,t2 長さ、θ 角度、X 軸方向。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、
アルミニウムを含む材質からなる中空構造体を準備する工程と、
前記中空構造体を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を前記中空構造体の表面に形成する工程とを備え、
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体に向けて前記軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、前記中空構造体および前記陰極の少なくともいずれかを回転させることにより前記陰極と前記中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながら前記アルミナ酸化皮膜が形成され、
前記処理液は、前記中空構造体を、前記軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含む、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体に向けて前記軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、
前記中空構造体および前記陰極の少なくともいずれかを回転させることにより前記中空構造体と前記陰極とを互いに相対的に変位させる操作との双方の操作を行いながら前記アルミナ酸化皮膜を形成する、請求項1に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体の表面温度を10℃以下に維持する、請求項1または2に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項4】
軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体であって、
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の外径と内径との差が320μm以上である、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項5】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の前記外径と前記内径との前記差が345μm以上である、請求項4に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項6】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は表面全体に光沢を有する、請求項4または5に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項7】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を前記軸方向を法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である、請求項4〜6のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項8】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、前記外径側の表面と前記内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口した直立孔を含み、
前記直立孔のアスペクト比が10000以上である、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項9】
前記直立孔は、延在方向の途中で径が変化している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項10】
前記直立孔は、前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の前記外径側の表面から前記内径側の表面へ貫通している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項11】
前記直立孔は、前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の内部に底部を有している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項12】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は前記外径側の表面および前記内径側の表面の少なくとも一方の表面に3次元網目構造層を含んでいる、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項1】
軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法であって、
アルミニウムを含む材質からなる中空構造体を準備する工程と、
前記中空構造体を陽極とし、対応する陰極との間に電圧を印加することによりアルミナ酸化皮膜を前記中空構造体の表面に形成する工程とを備え、
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体に向けて前記軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、前記中空構造体および前記陰極の少なくともいずれかを回転させることにより前記陰極と前記中空構造体とを互いに相対的に変位させる操作との少なくともいずれかの操作を行いながら前記アルミナ酸化皮膜が形成され、
前記処理液は、前記中空構造体を、前記軸方向を法線とする平面で切断した断面の外形部を内部に含む最小の円に外接する3角形の頂点を少なくとも始点として噴出される工程を含む、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体に向けて前記軸方向に対して斜め方向に処理液を噴出する操作と、
前記中空構造体および前記陰極の少なくともいずれかを回転させることにより前記中空構造体と前記陰極とを互いに相対的に変位させる操作との双方の操作を行いながら前記アルミナ酸化皮膜を形成する、請求項1に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ酸化皮膜を形成する工程においては、前記中空構造体の表面温度を10℃以下に維持する、請求項1または2に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の製造方法。
【請求項4】
軸方向に貫通孔を有する筒状の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体であって、
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の外径と内径との差が320μm以上である、陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項5】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の前記外径と前記内径との前記差が345μm以上である、請求項4に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項6】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は表面全体に光沢を有する、請求項4または5に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項7】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体を前記軸方向を法線とする平面で切断した外形が3角形以上の多角形または円形である、請求項4〜6のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項8】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は、前記外径側の表面と前記内径側の表面との少なくともいずれかの表面に開口した直立孔を含み、
前記直立孔のアスペクト比が10000以上である、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項9】
前記直立孔は、延在方向の途中で径が変化している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項10】
前記直立孔は、前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の前記外径側の表面から前記内径側の表面へ貫通している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項11】
前記直立孔は、前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体の内部に底部を有している、請求項8に記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【請求項12】
前記陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体は前記外径側の表面および前記内径側の表面の少なくとも一方の表面に3次元網目構造層を含んでいる、請求項4〜7のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ自立膜中空構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−10979(P2013−10979A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142929(P2011−142929)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
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