説明

陽極酸化ポーラスアルミナおよびその製造方法

【課題】平滑性に優れ、かつ細孔配列の規則性を保持した陽極酸化ポーラスアルミナとその製造方法を提供する。
【解決手段】(a)基板上にMgを0.5〜10重量%含むAl合金膜を形成する工程と、(b)基板に形成されたAl合金膜を陽極酸化し酸化膜を形成する工程と、(c)前記(b)工程により形成された酸化膜を基板から除去する工程と、(d)酸化膜が除去された基板のAl合金膜を、前記(b)工程と同一の化成電圧で陽極酸化する工程を含むことを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法、およびその方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔配列の規則性に優れた陽極酸化ポーラスアルミナとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si、ガラス等の基板上へ形成された陽極酸化ポーラスアルミナは、電子エミッターや磁気記録媒体など種々のナノデバイスを作製する上で重要であることに加え、ナノ加工による基板のエッチングを行う際のマスクとしても有望である。従来から,真空蒸着法やスパッタ法により基板上に薄膜状Alの形成を行い、酸性電解浴中で陽極酸化を施すことによりポーラスアルミナを形成することが検討されてきている。基板上に形成されたポーラスアルミナに基づく種々のナノデバイス作製においては、細孔が規則的に配列したポーラスアルミナの作製が求められている。
【0003】
これまでに、細孔が規則的に配列したポーラスアルミナを形成する手法として、非特許文献1によるインプリント法、非特許文献2による2段階陽極酸化法が提案されている。インプリント法によれば、規則的な突起配列を有するモールドをAl表面に押し付け、突起に対応した窪み配列を形成したのち陽極酸化を行うことにより、細孔が理想配列したポーラスアルミナの形成が可能である。また、2段階陽極酸化法によれば、長時間の陽極酸化により細孔が自己組織的に規則配列したポーラスアルミナの形成したのち、一旦酸化皮膜を除去し、再び同一の化成電圧で陽極酸化を行うことにより、試料表面から細孔が規則配列したポーラスアルミナを作製することが可能である。どちらの手法においても、Alの表面形状が平滑であることが重要であるが、高純度Al(典型的な純度は99.99%以上)により基板上に形成される薄膜状Alでは、結晶粒の成長が著しいことから表面凹凸が大きくなり、平滑な面が得られないという問題点を有していた。その結果、インプリント法では、凹凸の大きい薄膜状Alに対しては、精度良く突起配列の転写を行うことが難しいことから、100nm以下の微細な細孔周期を有する理想配列ポーラスアルミナの作製は困難であった。また、自己組織的に細孔が規則配列したポーラスアルミナを形成することが難しく、2段階陽極酸化法の適用が困難であった。
【0004】
一方、陽極酸化とは別に、平滑な薄膜状Alを得る手法として、Alに他の金属を添加させる手法がある。この手法によれば、基板上に形成される薄膜状Alの結晶粒を微細化することが可能であり、平滑な面を得ることができる。しかしながら、Al合金を用いて形成されるポーラスアルミナの細孔配列は一般的に高純度Alの細孔配列に対して著しく劣ることから、Al以外の金属を含む膜を用いて自己組織的に規則的な細孔配列を形成することは困難であると考えられてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Masuda et al., Appl. Phys. Lett., 71, 2770 (1997)
【非特許文献2】H. Masuda and M. Satoh, Jpn. J. Appl. Phys., 35, L126 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、高純度Alを用いる方法では、インプリント法や2段階陽極酸化法の適用による高規則性ポーラスアルミナの作製は困難であり、また、合金Alを用いた場合においても、高規則性ポーラスアルミナを形成することは困難であると認識されていた。
【0007】
ところが、この度、上記のような従来の認識にもかかわらず、合金Alを用いた場合においても、細孔配列の規則性に優れた陽極酸化ポーラスアルミナを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、上記従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、平滑性に優れ、かつ細孔配列の規則性を保持した陽極酸化ポーラスアルミナとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法であって、(a)基板上にMgを0.5〜10重量%含むAl合金膜を形成する工程と、(b)前記基板に形成された前記Al合金膜を陽極酸化し酸化膜を形成する工程と、(c)前記(b)工程により形成された前記酸化膜を前記基板から除去する工程と、(d)前記酸化膜が除去された前記基板の前記Al合金膜を、前記(b)工程と同一の化成電圧で陽極酸化する工程、を含むことを特徴とする方法からなる。すなわち、本発明は、基板表面に上記(a)の工程にてAl及びAlと異なる特定の金属(Mg)を含む薄膜を形成することにより平滑性に優れたAl合金膜の形成が可能であり,これを上記(b)〜(d)の工程にて陽極酸化することで平滑な陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができることを見出したものである。
【0010】
この方法においては、スパッタ法あるいは真空蒸着法により基板上にAl合金膜を形成することができる。とくにスパッタ法あるいは真空蒸着法により薄膜状Al合金を形成することで、非平衡状態を含むAl合金膜を均質に広い面積で基板表面に形成することが可能であることから、基板上において広範囲で陽極酸化ポーラスアルミナを形成することができる。
【0011】
Al合金が含むAlと異なる金属としては、本発明では、後述の実施例に示すように、明らかに効果が得られた金属としてMgが用いられる。Mgを含む薄膜状Al合金では、平滑な薄膜形成が可能であることに加え、安定な陽極酸化が可能であり、再現性良く陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。Mgを含むAl合金膜を形成する場合には、Al合金中のMg濃度を10重量%以下とすることが好ましく、とくに本発明では、0.5〜10重量%の範囲からMg濃度を設定することができる。このようなMg濃度とすることにより、細孔が自己組織的に規則配列した陽極酸化ポーラスアルミナを再現性良く得ることができる。
【0012】
そして本発明に係る方法においては、基板に形成されたAl合金膜を陽極酸化した後、一旦酸化膜を除去し、再び同一の化成電圧で陽極酸化すること、つまり、2段階陽極酸化法を適用することができる。とくに、Mgを含む薄膜状Alでは、陽極酸化により自己組織的に細孔が規則配列したポーラスアルミナの形成が可能であることから、2段階陽極酸化法を適用することにより、試料表面から細孔が規則的に配列した高規則性陽極酸化ポーラスアルミナの作製が可能になる。
【0013】
本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナは、上記のような方法により製造されたものであり、平滑性に優れ、かつ細孔配列の規則性を保持したものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、基板に形成されたAl合金膜を用いて平滑性及び細孔配列の規則性に優れた陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。とくに、Mgを含むAl合金膜を用いることにより、より望ましい陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高純度Alからなる薄膜状Alの陽極酸化プロセスを示す模式図である。
【図2】薄膜状Al−Mg合金の陽極酸化プロセスを示す模式図である。
【図3】インプリント法による高規則性ポーラスアルミナの作製プロセスを示す模式図である。
【図4】2段階陽極酸化法による高規則性ポーラスアルミナの作製プロセスを示す模式図である。
【図5】図3に示したインプリント法により形成された高規則性ポーラスアルミナの電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【図6】図4に示した2段階陽極酸化法により形成された高規則性ポーラスアルミナの電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、従来の高純度Alからなる薄膜状Alに陽極酸化を行うことにより形成される陽極酸化ポーラスアルミナの構造を模式的に示したものである。基板1上に形成された高純度のAlからなる薄膜状Al(2a)では、表面凹凸が大きいために、陽極酸化により形成される陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4は試料表面に対し直交した構造を形成することが困難であり、細孔4の配列は不規則なものとなる。
【0017】
一方、図2は、本発明で用いた薄膜状合金Al(2b)に陽極酸化を行うことにより形成されるポーラスアルミナの構造を模式的に示したものである。合金Al(2b)では、平滑な表面を得ることができることから、陽極酸化を行った際に形成される陽極酸化ポーラスアルミナ3の細孔4は、試料表面に対し直交した構造を形成することが可能となる。
【0018】
図3は、参考例としての、インプリント法の適用により形成される、理想配列陽極酸化ポーラスアルミナ作製プロセスを示したものである。Al以外の金属を添加することにより、平滑な薄膜状合金Al(2b)を作製することができることから、規則的な突起配列を有するモールド5を合金Al表面に押し付け突起配列の転写を行う際に、精度良く構造の転写を行うことができる。この後、合金Al(2b)の表面に形成された窪み配列の間隔に対応した条件下で陽極酸化を行うことにより、理想配列陽極酸化ポーラスアルミナを得ることができる。
【0019】
そして、図4に本発明のプロセスを模式的に示すように、基板1上にMgを0.5〜10重量%含むAl合金膜(2b)を形成し、基板1に形成されたAl合金膜(2b)を陽極酸化して酸化膜10を形成し、形成された酸化膜10を基板1から除去し、酸化膜10が除去された基板1の前記Al合金膜を、前記陽極酸化と同一の化成電圧で陽極酸化することにより、試料表面から細孔4が規則的に配列した高規則性ポーラスアルミナ3を作製することができる。
【0020】
基板にAl合金薄膜を形成する手法としては、スパッタ装置あるいは真空蒸着装置を用いることにより、より平滑性に優れた膜を作製することができる。Alに合金として含ませる金属は、基板上に薄膜を形成した際の平滑性に優れ、かつ陽極酸化処理により規則的な細孔配列を形成する金属を用いるが、Mgを用いることにより、特に細孔配列の規則性に優れた高規則性ポーラスアルミナを得ることができる。更に、合金Al中のMg含有量を10重量%以下、とくに0.5〜10重量%の範囲内、さらに好ましくは2〜10重量%の範囲内とすることにより、表面を鏡面研磨した高純度Al板を用いた場合と同様の高規則性細孔配列を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により更に本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
参考実施例1〔基板上の陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
5cm×5cm×0.4mmのサイズのSiウェハを基板とし、DCスパッタ装置を用い、プラズマ出力400W、内圧2×10-4Pa,Arガス導入後内圧0.3Paの条件下で10分間成膜を行い、Si基板上に厚さ3μmの薄膜状Al−4.2wt%Mg合金の形成を行った。得られた試料を、0.3Mシュウ酸浴中、化成電圧40V、浴温17℃において10分間陽極酸化を行い、基板上のポーラスアルミナを得た。
【0022】
参考実施例2〔インプリント法による理想配列ポーラスアルミナの作製〕
5cm×5cm×0.4mmのサイズのSiウェハを基板とし、DCスパッタ装置を用い、プラズマ出力400W、内圧2×10-4Pa,Arガス導入後内圧0.3Paの条件下で10分間成膜を行い、Si基板上に厚さ3μmの薄膜状Al−4.2wt%Mg合金の形成を行った。得られた試料表面に、100nm周期で突起構造が規則的に配列したモールドを用い、3125kg/cm2の圧力でインプリント処理を施した。インプリント後試料のAl以外の部分には、エポキシ樹脂を被覆することにより絶縁層の形成を行った。その後,0.3Mシュウ酸浴中、化成電圧40V、浴温17℃において5分間陽極酸化を行い、理想配列ポーラスアルミナを得た。
【0023】
実施例3〔2段階陽極酸化法による高規則性ポーラスアルミナの作製〕
5cm×5cm×0.4mmのサイズのSiウェハを基板とし、DCスパッタ装置を用い、プラズマ出力400W、内圧2×10-4Pa,Arガス導入後内圧0.3Paの条件下で60分間成膜を行い、Si基板上に厚さ20μmの薄膜状Al−4.2wt%Mg合金の形成を行った。得られた試料のAl以外の部分には、エポキシ樹脂を被覆することにより絶縁層の形成を行った。Si基板上に形成された薄膜状Alに、0.3Mシュウ酸電解浴中、化成電圧40V、浴温17℃において60分間陽極酸化を行い、自己組織的に細孔が規則配列したポーラスアルミナの形成を行った。陽極酸化後の試料は、1.8wt%酸化クロム、6wt%リン酸混合水溶液中に3時間浸漬することにより、一旦、酸化物層(酸化膜)を溶解除去し、表面に規則的な窪み配列を有する薄膜状Alを得た。その後、同じ条件下で再度5分間陽極酸化を行い、高規則性ポーラスアルミナを得た。
【0024】
図3に示したインプリント法により形成された高規則性ポーラスアルミナの電子顕微鏡による観察結果を図5に、図4に示した2段階陽極酸化法により形成された高規則性ポーラスアルミナの電子顕微鏡による観察結果を図6に、それぞれ示す。
【0025】
比較例〔基板上の陽極酸化ポーラスアルミナの作製〕
5cm×5cm×0.4mmのサイズのSiウェハを基板とし、DCスパッタ装置を用い、プラズマ出力400W、内圧2×10-4Pa,Arガス導入後内圧0.3Paの条件下で10分間成膜を行い、Si基板上に厚さ3μmの純度99.99%のAlの形成を行った。得られた試料を、0.3Mシュウ酸浴中、化成電圧40V、浴温17℃において10分間陽極酸化を行い、基板上のポーラスアルミナを得た。細孔配列を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1で得られた試料と比較して表面の平滑性及び細孔配列の規則性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により製造される平滑で高規則性の細孔配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナは、各種分野に適用でき、特に電子エミッターや磁気記録媒体など種々のナノデバイスの作製に好適である。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
2a 高純度Alからなる薄膜状Al
2b 薄膜状合金Al
3 陽極酸化ポーラスアルミナ
4 細孔
5 モールド
10 酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法であって、
(a)基板上にMgを0.5〜10重量%含むAl合金膜を形成する工程と、
(b)前記基板に形成された前記Al合金膜を陽極酸化し酸化膜を形成する工程と、
(c)前記(b)工程により形成された前記酸化膜を前記基板から除去する工程と、
(d)前記酸化膜が除去された前記基板の前記Al合金膜を、前記(b)工程と同一の化成電圧で陽極酸化する工程、
を含むことを特徴とする、陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項2】
スパッタ法あるいは真空蒸着法により基板上にAl合金膜を形成することを特徴とする、請求項1の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項3】
非平衡状態のAl合金膜を基板上に形成することを特徴とする、請求項1または2の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−163696(P2010−163696A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101917(P2010−101917)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2004−39896(P2004−39896)の分割
【原出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)