説明

陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法および、陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製されたナノインプリント用モールド

【課題】煩雑な操作を必要とせず、細孔が特定の格子配列に制御された陽極酸化ポーラスアルミナおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面細孔が所定配列にて形成された陽極酸化ポーラスアルミナからなる第1のモールドを用いて略同一配列をなすように表面突起が形成された第2のモールドを作製し、第2のモールドを用いて略同一配列をなすように表面細孔が形成された第3のモールドを作製し、第3のモールドを変形させて表面細孔の配列を変更した配列変更後の状態にて、第3のモールドから表面細孔の配列を転写することにより、配列変更後の状態における表面細孔の配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された第4のモールドを作製し、第4のモールドを用いてアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成し、該細孔発生点を起点として前記アルミニウム基材を陽極酸化処理することを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔が特定の格子配列に制御された陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法および、陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製されたナノインプリント用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化ポーラスアルミナは、アルミニウムを酸性またはアルカリ性の電解浴中で陽極酸化することにより形成される多孔質性の酸化皮膜であり、細孔が膜面に対して垂直に直行したホールアレー構造を有する。このため、陽極酸化ポーラスアルミナは各種機能性デバイスを作製するための出発構造として関心を集めている。通常の陽極酸化ポーラスアルミナでは細孔配列は六方格子状であるが、陽極酸化に先駆けて、アルミニウム表面に細孔発生点を規則的に配列することで、細孔発生点にもとづく配列格子を有した陽極酸化ポーラスアルミナの作製が可能である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Masuda, H. Asoh, M. Watanabe, K. Nishio, M. Nakao, and T. Tamamura, Adv. Mat. 13, 189 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陽極酸化ポーラスアルミナはナノメートル〜サブマイクロメートルの大きさのセルの集合体であり、セルの中心に直行細孔を有する。適切な条件下でアルミニウムを陽極酸化すると陽極酸化ポーラスアルミナのセルは、自己組織的に、六方格子状に規則配列する。細孔の形状はセル形状を反映した形となり、一般的には円形となる。これまでに、アルミニウム表面にくぼみ配列を形成した後に陽極酸化を施すと、くぼみが細孔発生の開始点として働くため、所望の形状を有するセルおよび細孔が得られることが報告されている。くぼみ配列を形成するには突起の規則配列を表面に有するモールドをアルミニウム表面に押し付ける。しかし、前記モールドは電子線描画装置などを用いて形成するため、広い領域に突起配列を形成することは困難であった。
【0005】
そこで本発明の課題は、電子線描画装置のような特殊装置を用いずに細孔が特定の格子配列に制御された陽極酸化ポーラスアルミナを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、表面に凹凸が所定配置にて形成された一のモールド(第1のモールド)を用いて、前記配置と略同一配置をなすように表面に突起またはくぼみが形成された他のモールド(第3のモールド)を作製し、該他のモールド(第3のモールド)を変形させて前記突起またはくぼみの配置を変更した配置変更後の状態にて、前記他のモールド(第3のモールド)を直接または間接的に用いて前記突起またはくぼみの配置に対応した配置をなすようにアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成し、該細孔発生点を起点として前記アルミニウム基材を陽極酸化処理することを特徴とする方法からなる。上記他のモールド(第3のモールド)は、変形を施す必要があることから、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、熱収縮性樹脂、アルミニウム、またはそれらの複合材料からなるものとすることが好ましい。
【0007】
上記他のモールド(第3のモールド)を間接的に用いてアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成する手法としては、上記他のモールド(第3のモールド)のくぼみの配置を転写することにより、当該配置と略同一配置をなすように表面突起が形成されたさらに別のモールド(第4のモールド)を作製し、当該別のモールド(第4のモールド)の突起をアルミニウム基材の表面に圧接させてアルミニウム基材にくぼみを形成する手法(圧接転写手法)のほか、上記別のモールド(第4のモールド)の表面にアルミニウムを蒸着してアルミニウム蒸着層を形成し、該蒸着層をモールドから剥離させることによって、アルミニウム基材の表面に、モールド表面の突起配置からくぼみ配置を転写する手法(蒸着転写手法)を採用することができる。一方、上記他のモールド(第3のモールド)から直接、アルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成する手法としては、上記他のモールド(第3のモールド)の表面にアルミニウムを蒸着してアルミニウム蒸着層を形成し、該蒸着層をモールドから剥離させることによって、アルミニウム基材の表面に、モールド表面の突起配置からくぼみ配置を転写する手法(蒸着転写手法)を採用することができる。
【0008】
このような本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法によれば、所望の細孔配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
【0009】
より具体的には、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、表面細孔が所定配列にて形成された陽極酸化ポーラスアルミナからなる第1のモールドを用いて前記配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された第2のモールドを作製し、第2のモールドを用いて前記配列と略同一配列をなすように表面細孔が形成された第3のモールドを作製し、第3のモールドを変形させて表面細孔の配列を変更した配列変更後の状態にて、第3のモールドから表面細孔の配列を転写することにより、前記配列変更後の状態における表面細孔の配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された第4のモールドを作製し、第4のモールドを用いてアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成し、該細孔発生点を起点として前記アルミニウム基材を陽極酸化処理することを特徴とする方法からなる。
【0010】
このような本発明の方法においては、前記一のモールド(第1のモールド)表面の前記凹凸が、自己組織的に形成された配置をなしていることが好ましい。また、前記配置変更前の状態における前記他のモールド(第3のモールド)表面の前記突起またはくぼみの配列が、六方格子配置であることが好ましい。さらに、前記配置変更後の状態における前記他のモールド(第3のモールド)表面の前記突起またはくぼみの配置が、正方形格子配置、長方形格子配置、面心長方形格子配置または斜交格子配置であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法においては、前記他のモールド(第3のモールド)を収縮させることにより、前記他のモールド(第3のモールド)表面の前記突起またはくぼみの間隔を小さくすることが可能である。このようにして、製品としての陽極酸化ポーラスアルミナの細孔配列を自在にデザインすることが可能となる。
【0012】
また、上記製造方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナを前記一のモールド(第1のモールド)として、ナノインプリント用モールドを作製することが可能である。さらに、上記製造方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナを用いて、該陽極酸化ポーラスアルミナの表面細孔の配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された、さらに他のモールド(第5のモールド)からなるナノインプリント用モールドを作製することが可能である。すなわち、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法は、ナノインプリント技術の高度化にも寄与し得るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法によれば、細孔形状の制御された陽極酸化ポーラスアルミナを形成することが可能となるので、そのポーラスアルミナを用いて種々の機能性デバイスの作製が可能になる。例えば、そのポーラスアルミナを蒸着マスクとして用いることで、ポーラスアルミナの細孔形状を反映した形状を有する金属ナノロッドアレイを得ることができる。貴金属ナノロッドの表面および表面近傍には局在表面プラズモン(LSP)に基づく強い電場増強が形成されることから、表面増強ラマン散乱(SERS)基板等のLSPを利用した非線形光学デバイスへの応用が期待できる。また、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製されたナノインプリント用モールドによれば、高品質のナノインプリントが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ポーラスアルミナの細孔の配列制御の原理を示す説明図である。
【図2】細孔が長方形格子状に配列した陽極酸化ポーラスアルミナの作製プロセスの一例を示す説明図である。
【図3】陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の配列間隔微細化プロセスを示す説明図である。
【図4】細孔が長方形格子状に配列した陽極酸化ポーラスアルミナの作製プロセスの他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法においては、例えば、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔配列を樹脂表面に写し取り、その樹脂を変形させることで樹脂表面の細孔配列の制御を行い、さらには、制御された細孔配列を陽極酸化前のアルミニウム表面に転写することで、細孔の配列が制御された陽極酸化ポーラスアルミナの形成を行う。
【0016】
本発明によれば、従来の一般的な配列格子である六方格子とは異なり、目標とする制御された特定の格子配列をなす細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを製造することができる。
【0017】
特定の格子配列としては、例えば正方形格子、長方形格子、面心長方形格子、斜交格子がある。このように細孔が特定の格子配列に制御されることにより、これら細孔の格子配列を備えた陽極酸化ポーラスアルミナには特定の異方性を付与できる。したがって、この陽極酸化ポーラスアルミナを出発構造として作製される各種機能性デバイスにも、同様に特定の異方性を付与でき、そのような異方性が要求される分野にまで、適用範囲が拡大される。
【0018】
第1のモールド表面に形成されている凹凸パターンを所定の樹脂表面に転写し、樹脂を変形させることで、凹凸パターンに見られる突起もしくはくぼみの配列間隔を変化させることができる。変化方向および変化量を適切に制御することで、例えば凹凸パターンである六方格子配列を正方形格子配列等に変換することが可能となる。樹脂の変形方法には、延伸と収縮が挙げられる。延伸は、樹脂の向かいあう両端を冶具で固定し、機械的に引っ張ること等で行う。収縮は、加熱することで収縮する樹脂をホットプレート等で加熱すること等で行う。
【0019】
第1のモールドとなる陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の配列間隔は、例えば10nm〜1μmであることが好ましい。
【0020】
上記樹脂表面には、ポリビニル層を形成することが好ましい。このポリビニル層は、樹脂表面に形成された凹凸パターンが樹脂変形時に消失することを防ぐために機能する。
【0021】
第1のモールドの表面凹凸パターンが転写された樹脂(PET板等)を延伸させる場合には、温風を吹き付けることにより70℃〜80℃に加熱しながら延伸することができる。この加熱処理によって、樹脂は均質に延伸させることが可能となり、表面に形成された凹凸パターンも均質に変形されることとなる。このとき延伸方向に対して、例えば樹脂が元の大きさの2倍になるように延伸する。
【0022】
第1のモールドの表面凹凸パターンが転写された樹脂(PET板や熱収縮樹脂)の収縮は、ホットプレートを用いて150℃に加熱することで行う。このとき収縮方向に対して、樹脂が元の大きさの2分の1以下になることが好ましい。
【0023】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の配列制御の原理を示す説明図であり、(A)は樹脂モールド(第3のモールド)1のくぼみ配列を示す概略平面図、(B)は陽極酸化ポーラスアルミナ(製品)12の細孔配列を示す概略平面図である。表面に凹凸が形成された第1のモールドをPET等の所定の基材表面に押し付けることで、表面にくぼみ2が形成された第3のモールド1を作製する(図1(A)(a-1))。これを元に第4のモールドを作製し、アルミニウム基材の表面に押し付けて陽極酸化の細孔発生点を形成させた後に、アルミニウム基材を陽極酸化することで、図1(A)(a-1)のくぼみ2の配列に対応した表面細孔5の配列をなすセル3を有する陽極酸化ポーラスアルミナ12が得られる(図1(B)(b-1))。以上が、第3のモールド1から陽極酸化ポーラスアルミナ12への配列転写の基本原理である。
【0024】
本発明においては、第3のモールド1を変形させることで、くぼみ2の間隔を変化させる(図1(A)(a-2))。これを元に第4のモールドを作製し、アルミニウム基材の表面に押し付けて陽極酸化の細孔発生点を形成させた後に、アルミニウム基材を陽極酸化することで、図1(A)(a-2)のくぼみ2の配列に対応した表面細孔5の配列をなすセル3を有する陽極酸化ポーラスアルミナ12が得られることになる(図1(B)(b-2))。
【0025】
図2には、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナ作製例として、長方形格子を有する陽極酸化ポーラスアルミナ13の作製プロセスの一例を示す。自己組織的に形成された細孔配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナを第1のモールド6とし(図2(A))、直流めっきプロセスにてその細孔配列をNi表面に転写することでNiモールド8を得る(図2(B))。次に、得られたNiモールド8をPET板9の樹脂表面に押し付けて(図2(C))、Niモールド8の突起配列に対応したくぼみ10の配列が樹脂表面に形成された樹脂モールド1を作製する(図2(D))。そして、樹脂モールド1を延伸させることで、くぼみ配列を六方格子から長方形格子に変形させる(図2(E))。このとき延伸方向に対して、樹脂モールド1が元の大きさの2倍になるように延伸する。直流めっきプロセスにて樹脂モールド1の表面に形成された長方形格子状のくぼみ配列をNi表面に転写することでNiモールド11を得る(図2(F))。このNiモールド11をアルミニウム基材7の表面に押し付けて(図2(G))、アルミニウム基材7を陽極酸化することで、細孔が長方形格子状に配列した陽極酸化ポーラスアルミナ13を得る(図2(H))。
【0026】
図3には、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔の配列間隔の微細化プロセスを示す。自己組織的に形成された細孔配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナ6を第1のモールドとし(図3(A))、直流めっきプロセスにてその細孔配列をNi表面に転写することでNiモールド8を得る(図3(B))。次に、得られたNiモールド8をPET板9の樹脂表面に押し付けて(図3(C))、Niモールド8の突起配列に対応したくぼみ10の配列が樹脂表面に形成された樹脂モールド1を作製する(図3(D))。そして、樹脂モールド1を加熱により収縮させることで、くぼみ10の配列間隔を微細化する(図3(E))。直流めっきプロセスにて樹脂モールド1の表面に形成されたくぼみ配列をNi表面に転写することでNiモールド11を得る(図3(F))。このNiモールド11をアルミニウム基材7の表面に押し付けて(図3(G))、アルミニウム基材7を陽極酸化することで、細孔配列の微細化された陽極酸化ポーラスアルミナ14が得られる(図3(H))。
【0027】
図4には、本発明に係る陽極酸化ポーラスアルミナ作製例として、長方形格子を有する陽極酸化ポーラスアルミナ13の作製プロセスの他の例を示す。自己組織的に形成された細孔配列を有する陽極酸化ポーラスアルミナを第1のモールド6とし(図4(A))、第1のモールド6をPET板9の樹脂表面に押し付けて(図4(B))、第1のモールドの細孔配列に対応した突起20の配列が樹脂表面に形成された樹脂モールド21を作製する(図4(C))。そして、樹脂モールド21を延伸させることで、突起20の配列を六方格子から長方形格子に変形させる(図4(D))。このとき延伸方向に対して、樹脂モールド21が元の大きさの2倍になるように延伸する。この樹脂モールド21の表面にアルミニウムを蒸着してアルミニウム基材7を形成させ(図4(E))、アルミニウム基材7を陽極酸化することで、細孔が長方形格子状に配列した陽極酸化ポーラスアルミナ15を得る(図4(F))。
【実施例】
【0028】
〔実施例1〕
[細孔が長方形格子状に配列した陽極酸化ポーラスアルミナの作製]
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、0.5Mシュウ酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、40Vの定電圧条件下にて陽極酸化を16時間行うことで、Al板表面にポーラスアルミナを形成した。その後、クロム酸とリン酸の混合溶液、浴温50℃に、5時間浸漬することでポーラスアルミナ層を溶解除去した。そして、0.5Mシュウ酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、40Vの定電圧条件下にて陽極酸化を1分間行うことで、Al板表面に細孔が高規則配列したポーラスアルミナ層を形成した。その後、5wt%リン酸水溶液、浴温30℃に3分間浸漬させることで、細孔の孔径を拡大した。
【0029】
次に、イオンビームスパッタリング装置を用いて、陽極酸化ポーラスアルミナ(第1のモールド)の表面に膜厚2nmのNi層を形成した。このNi層を導通層とし、定電位−1.4VにてNiを電析した。その後、10wt%NaOH水溶液に浸すことで、ポーラスアルミナおよびアルミニウムを溶解除去し、Niモールド(第2のモールド)を得た。
【0030】
得られたNiモールドをPET板表面に接触させ、これらを電気ヒーターで100℃に加熱しながら、油圧プレス機を用いて100kgf/cmの圧力で3分間加圧した。その後、加熱を停止し自然冷却させて80℃に到達したのちに加圧も停止した。
【0031】
次に、PET板表面に重合度が約500のポリビニルアルコール2wt%水溶液を滴下し、乾燥させた。
【0032】
PET板(第3のモールド)をラック・ピニオン機構からなる延伸機に装着し、約80℃の熱風で加熱しながらPET板を延伸させた。その後、PET板を延伸装置から取り外し、純水に浸漬し超音波洗浄機にて15分間洗浄することで、PET板表面のポリビニル層を除去した。
【0033】
イオンビームスパッタリング装置にてPET板の表面に膜厚2nmのNi層を形成した。次に、離形剤である0.1wt%オプツールに1分間浸漬して引き上げた後、1日乾燥させた。そして、再度、イオンビームスパッタリング装置にてPET板の表面に膜厚2nmのNi層を形成した。このNi層を導通層とし、定電位−1.4VにてNiを電析した。その後、Niモールド(第4のモールド)をPET板から機械的に剥離した。
【0034】
得られたNiモールドを、電解研磨処理を施した高純度アルミニウム板の表面に接触させ、これらを電気ヒーターで150℃に加熱しながら、油圧プレス機を用いて2500kgf/cmの圧力で加圧した。その後、加熱を停止し自然冷却させた後、Niモールドをアルミニウム表面から剥離した。そして、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温16℃、弱攪拌条件下、47.6Vの定電圧条件下にて陽極酸化を10分間行うことで、Al板表面に細孔の配列が長方形格子状のポーラスアルミナ(製品)を形成した。
【0035】
〔実施例2〕
[陽極酸化ポーラスアルミナが有する細孔の配列間隔の微細化]
純度99.99%のAl板を、過塩素酸/エタノール浴を用い電解研磨を施した後、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温0.5℃、強攪拌条件下、195Vの定電圧条件下にて陽極酸化を18時間行うことで、Al板表面にポーラスアルミナを形成した。その後、クロム酸とリン酸の混合溶液、浴温50℃に、12時間浸漬することでポーラスアルミナ層を溶解除去した。そして、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温0.5℃、強攪拌条件下、195Vの定電圧条件下にて陽極酸化を5分間行うことで、Al板表面に細孔配列の間隔が500nmのポーラスアルミナ層を形成した。その後、5wt%リン酸水溶液、浴温30℃に60分間浸漬させることで、細孔の孔径を拡大した。
【0036】
次に、イオンコーター(EIKO)にて陽極酸化ポーラスアルミナ(第1のモールド)の表面に膜厚10nmのPt−Pd層を形成した。このPt−Pd層を導通層とし、定電位−1.4VにてNiを1日間電析した。その後、10wt%NaOH水溶液に5時間浸漬することで、ポーラスアルミナおよびアルミニウムを溶解除去し、Niモールド(第2のモールド)を得た。
【0037】
得られたNiモールドを高純度アルミニウム板の表面に接触させ、油圧プレス機を用いて400kgf/cmの圧力で室温にて加圧した。次に、PET板表面に重合度が約1500のポリビニルアルコール2wt%水溶液をディップコートした。そして、ホットプレートにて150℃で加熱することで、PET板(第3のモールド)を収縮させた。これにより、PET板の平面方向の長さは縦方向、横方向ともに収縮前の約2分の1となった。その後、収縮したPET板を純水に浸漬し超音波洗浄機にて15分間洗浄することで、PET板表面のポリビニル層を除去した。
【0038】
イオンビームスパッタリング装置にてPET板の表面に膜厚10nmのNi層を形成した。次に、このNi層を導通層とし、定電位−1.4VにてNiを電析した。その後、NiモールドをPET板から機械的に剥離することで、Niモールド(第4のモールド)を得た。
【0039】
得られたNiモールドを、電解研磨処理を施した高純度アルミニウム板の表面に接触させ、これらを電気ヒーターで150℃に加熱しながら、油圧プレス機を用いて3200kgf/cmの圧力で加圧した。その後、加熱を停止し自然冷却させた後、Niモールドをアルミニウム表面から剥離した。そして、0.1Mリン酸水溶液を電解液として、浴温0.5℃、強攪拌条件下、132Vの定電圧条件下にて陽極酸化を60分間行うことで、細孔配列の間隔が250nmのポーラスアルミナ(製品)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナは、細孔が特定の格子配列に制御されており、これら細孔の格子配列を備えた陽極酸化ポーラスアルミナには特定の異方性を付与できる。したがって、この陽極酸化ポーラスアルミナを出発構造として作製される各種機能性デバイスにも、同様に特定の異方性を付与でき、そのような異方性が要求される分野への応用が期待される。
【符号の説明】
【0041】
1、21 樹脂モールド(第3のモールド)
2、10 くぼみ
3 セル
4 セルの境界
5 表面細孔
6 陽極酸化ポーラスアルミナ(第1のモールド)
7 アルミニウム基材
8 Niモールド(第2のモールド)
9 PET板
11 Niモールド(第4のモールド)
12、13、14、15 陽極酸化ポーラスアルミナ(製品)
20 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸が所定配置にて形成された一のモールドを用いて、前記配置と略同一配置をなすように表面に突起またはくぼみが形成された他のモールドを作製し、該他のモールドを変形させて前記突起またはくぼみの配置を変更した配置変更後の状態にて、前記他のモールドを直接または間接的に用いて前記突起またはくぼみの配置に対応した配置をなすようにアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成し、該細孔発生点を起点として前記アルミニウム基材を陽極酸化処理することを特徴とする陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項2】
表面細孔が所定配列にて形成された陽極酸化ポーラスアルミナからなる第1のモールドを用いて前記配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された第2のモールドを作製し、第2のモールドを用いて前記配列と略同一配列をなすように表面細孔が形成された第3のモールドを作製し、第3のモールドを変形させて表面細孔の配列を変更した配列変更後の状態にて、第3のモールドから表面細孔の配列を転写することにより、前記配列変更後の状態における表面細孔の配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された第4のモールドを作製し、第4のモールドを用いてアルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成し、該細孔発生点を起点として前記アルミニウム基材を陽極酸化処理する、請求項1に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項3】
前記一のモールド表面の前記凹凸が、自己組織的に形成された配置をなしている、請求項1または2に記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項4】
前記配置変更前の状態における前記他のモールド表面の前記突起またはくぼみの配置が、六方格子配置である、請求項1〜3のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項5】
前記配置変更後の状態における前記他のモールド表面の前記突起またはくぼみの配置が、正方形格子配置、長方形格子配置、面心長方形格子配置、または斜交格子配置である、請求項1〜4のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項6】
前記他のモールドを収縮させることにより、前記他のモールド表面の前記突起またはくぼみの間隔を小さくする、請求項1〜5のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項7】
前記他のモールドが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、熱収縮性樹脂、アルミニウム、またはそれらの複合材料からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナを前記一のモールドとして、前記製造方法を再び実施することにより作製された陽極酸化ポーラスアルミナからなるナノインプリント用モールド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の陽極酸化ポーラスアルミナの製造方法により製造された陽極酸化ポーラスアルミナを用いて作製され、該陽極酸化ポーラスアルミナの表面細孔の配列と略同一配列をなすように表面突起が形成された、さらに他のモールドからなるナノインプリント用モールド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46802(P2012−46802A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191006(P2010−191006)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月26日 社団法人電気化学会発行の「電気化学会第77回大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)