説明

隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料

【課題】 環境問題等を生じることが無く、しかも比重の小さな隔壁形成用複合材料を提供する。
【解決手段】 プラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料であって、ZnO−B23 −SiO2 系ガラス粉末とフィラー粉末からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料に関し、特に35〜50×10-7/℃の熱膨張係数を有する無アルカリガラスを基板として用いたプラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】プラズマディスプレイ装置(PDP)等のプラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置は、従来のCRTディスプレイ装置に比べて薄型化、軽量化できるため、盛んに開発が行われている。これらディスプレイ装置は、2枚のガラス基板が一定の間隔を保持して気密封止され、両ガラス基板間に隔壁形成材料によってプラズマ放電空間が形成される。
【0003】ガラス基板には、歪点が600℃前後の板ガラスが使用されており、放電空間を形成する隔壁材料には600℃以下で熱処理可能な材料が選択される。このような隔壁材料には、例えば特開平4−337226号や特開平6−144871号等に開示されているような、焼結性に優れ、低軟化点化が容易なPbO系ガラス粉末を用いた複合材料が使用されている。
【0004】また特開平5−297363号に開示されているようなプラズマアドレスド電気光学装置では、液晶層に悪影響を与えないようにガラス基板に無アルカリガラスが使用されているが、この種のガラスは一般に熱膨張係数が約35〜50×10-7/℃と低いため、隔壁材料にはPbO系ガラス粉末とともにPbTiO3 粉末等の低膨張フィラーが使用される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら鉛元素等の重元素を含有するガラスやフィラーを使用すると、環境汚染や人的健康を損なうおそれがある。
【0006】また、放電空間を形成する隔壁材料は使用量が多く、装置の重量に与える影響が大きいが、PbO系ガラスは比重が大きいために装置が重くなる、という問題を有している。
【0007】本発明の目的は、環境問題等を生じることが無く、しかも比重の小さな隔壁形成用複合材料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料は、プラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料であって、ZnO−B23 −SiO2 系ガラス粉末とフィラー粉末からなることを特徴とする。
【0009】
【作用】本発明の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料は、ZnO−B23 −SiO2 系のガラス粉末を使用する。この系のガラスを使用すると、600℃以下の温度で緻密に焼結することが可能であり、またPbO系ガラスよりも比重が小さいため、装置を軽量化することが可能である。さらにPbO系に比べて容易に低膨張化できる。
【0010】ZnO−B23 −SiO2 系の結晶性ガラス粉末としては、種々の組成を有するものが使用可能であるが、Pb、Tl、Bi等の重元素を含むものは避けるべきである。即ち、これらの重元素は環境上好ましくなく、またガラスの比重を大きくしてしまう。
【0011】また600℃以下の熱処理によってZnO・B23 系結晶やZnO・SiO2 系結晶を析出する性質を有する結晶性ガラスを使用すると、焼成後の熱膨張係数を著しく低下させることができ、無アルカリガラス基板のそれに適合させることができる。このような低膨張のガラス粉末には、重量%でZnO 50〜65%、B23 20〜35%、SiO2 7〜15%、R2 O+RO 3〜10%(ただしR2 O:Li2 O+Na2 O+K2 O、RO:MgO+CaO+SrO+BaO)の組成を有するガラスを使用することが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由は以下の通りである。
【0012】ZnOは軟化点を著しく上昇させることなく熱膨張係数を低下させる働きがあり、また析出結晶の結晶核となる成分である。ZnOが50%より少ないと熱処理時の結晶特性が弱くなって低膨張化が困難になり、無アルカリガラス基板に使用し難くなる。65%より多くなると溶融時に結晶が析出し易くなってガラス化が困難となる。なおZnOの好適な範囲は50〜63%である。
【0013】B23 はガラス構造体を形成する成分であり、またガラスの溶融温度や軟化点を下げる成分である。B23 が20%より少ないとガラス化が困難になり、35%より多いと熱処理時の結晶特性が弱くなって低膨張化が困難になる。なおB23 の好適な範囲は22〜30%である。
【0014】SiO2 はガラス構造体の形成に不可欠な成分である。SiO2 が7%より少ないとガラス化が困難になり、15%より多いとガラスの軟化点が上昇して600℃以下での焼成が困難になる。なおSiO2 の好適な範囲は8〜12%である。
【0015】R2 O(Li2 O、Na2 O、K2 O)及びRO(MgO、CaO、SrO、BaO)はガラスの溶融温度及び軟化点を下げる成分である。これらの合量が3%より少ないとガラスの軟化点が低下せず、600℃以下の温度で焼成が困難になる。またこれらの合量が10%より多い場合は熱膨張係数が大きくなって無アルカリガラス基板に使用し難くなる。なおこれら成分の合量の好適な範囲は3〜7%であり、また各成分の範囲はLi2 O 0〜3%(好ましくは0〜2%)、Na2 O 0〜5%(好ましくは0〜3%)、K2 O 0〜5%(好ましくは0〜3%)、MgO 0〜5%(好ましくは0〜3%)、CaO 0〜5%(好ましくは0〜3%)、SrO 0〜5%(好ましくは0〜3%)、BaO 0〜5%(好ましくは0〜3%)である。
【0016】なお上記以外にも、Al23 、SnO2 等を各5%まで添加することが可能である。
【0017】また本発明の複合材料は、焼結時の収縮を防止したり、熱膨張係数や焼結強度を調整するために従来より知られている種々のフィラー粉末を含有する。例えば収縮率や焼結強度の調整のためにアルミナ等のフィラーを使用することができる。また基板に無アルカリガラスを使用する場合、低膨張化するためにコージエライト、ウイレマイト、ジルコン、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−スポジュウメン等の低膨張フィラー粉末を使用することができる。中でもコージエライト、ウイレマイト、ジルコンから選ばれる1種以上を使用することが好ましい。またフィラー粉末全体の80重量%以上をこれら低膨張フィラー粉末で占めるようにするとより効果的である。なおPbTiO3 のようにPb等の重元素を含むフィラーの使用は環境上好ましくないため避けるべきである。
【0018】本発明において、ガラス粉末とフィラー粉末の混合割合は、重量%でガラス粉末15〜60%、フィラー粉末40〜85%からなることが好ましい。混合割合をこのように限定する理由は、ガラス粉末が15%より少ないとセラミック粉末を焼結させることが困難になり、60%より多いと焼成時の収縮率が大きくなって、隔壁のクラックや断線等が生じ易くなるためである。なおプラズマアドレスド電気光学装置に使用する場合は、無アルカリガラス基板と隙間なく接着させる必要があり、緻密に焼結することが要求される。このためガラス粉末とフィラー粉末の混合割合をガラス粉末25〜60%、フィラー粉末40〜75%にすることが好ましい。
【0019】また本発明の材料は、さらに色調を調整するために無機顔料粉末を15重量%まで含有させてもよい。
【0020】上記各成分からなる複合材料は、焼成後の比重が2.0〜4.0g/cm3 、体積収縮率が15%以下の隔壁材料を得ることができる。また無アルカリガラスに用いる場合、ガラス組成、フィラーの種類等を調整して、焼成後の熱膨張係数が30〜45×10-7/℃(30〜300℃)となるようにすればよい。
【0021】なお、本発明の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料を用いて、隔壁を形成するには、例えば上記材料と有機ビークルとを混合してペーストを作製し、これをスクリーンを介して印刷積層する方法や、ペーストを塗布、乾燥させ、ドライレジストフィルムを密着させて露光、現像した後に、サンドブラストする方法を採用することができる。
【0022】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0023】表1は本発明の実施例で使用するガラス粉末(試料A〜D)、及び従来より使用されているPbO系ガラス粉末(試料E)を示している。
【0024】
【表1】


【0025】各ガラス粉末は次のようにして調製した。まず表の組成となるように調合したガラス原料を1100〜1450℃で1〜3時間溶融し、薄板状に成形した。その後、粉砕、分級することによって、スクリーン印刷に適する粒径1.5〜3.0μmのガラス粉末を得た。
【0026】このようにして得られた試料A〜Dの各ガラス粉末は、ガラス軟化点が550〜585℃であり、焼成すると5ZnO・2B23 、ZnO・B23 、及び2ZnO・SiO2 を主結晶として析出する性質を有していた。また焼成後の比重は3.55〜3.70g/cm3 、30〜300℃における熱膨張係数は50〜55×10-7/℃、であった。一方、従来例である試料Eは、ガラス軟化点が550℃、比重が4.62g/cm3 、30〜300℃における熱膨張係数が67.5×10-7/℃の非晶質ガラスであった。
【0027】次に、これらのガラス粉末にフィラー粉末や無機顔料粉末を混合し、隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料とした。なおフィラー粉末及び無機顔料粉末には、平均粒径が0.5〜2.5μmのものを使用した。
【0028】表2〜4は本発明の実施例(試料No.1〜10)、及び従来例(試料No.11)を示している。
【0029】
【表2】


【0030】
【表3】


【0031】
【表4】


【0032】続いて各試料を600℃で5〜30分間焼成し、焼結性、体積収縮率、比重及び熱膨張係数を測定した。結果を各表に示す。
【0033】表から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1〜10は、焼結性が良好であり、体積収縮率が1〜7%、熱膨張係数が33〜42×10-7/℃であり、基板に無アルカリガラスを使用するプラズマアドレスド電気光学装置の隔壁形成用として好適である。また比重が3.99g/cm3 以下であり、従来例に比べてかなり小さい値であった。
【0034】なお焼結性は、熱処理時に試料粉末が焼結するかどうかで評価した。体積収縮率及び比重は、アルキメデス法を用いて測定した。熱膨張係数は、焼成した試料を棒状に加工し、熱膨張係数測定装置を用いて30〜300℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定したものである。
【0035】
【発明の効果】本発明の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料は、PbO系ガラスの代わりにZnO−B23 −SiO2 系ガラスを用いるために、従来の材料に比べて比重が小さく、プラズマ放電空間を有するディスプレイ装置の軽量化に有効な材料である。また環境や人体に悪影響を与えることがない。しかも600℃以下で焼成でき、焼成時の体積収縮も少ないため、隔壁形成材料として好適である。
【0036】さらにZnO−B23 −SiO2 系ガラスは低膨張化が容易であるため、無アルカリガラスを基板に用いるプラズマアドレスド電気光学装置の隔壁形成材料としても好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プラズマ放電空間を有する薄型ディスプレイ装置の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料であって、ZnO−B23 −SiO2 系結晶性ガラス粉末とフィラー粉末を含むことを特徴とする隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項2】 重量%でガラス粉末15〜60%、フィラー粉末40〜85%からなることを特徴とする請求項1の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項3】 ガラス粉末及びフィラー粉末が、Pb、Tl及びBiを含有しないことを特徴とする請求項1又は2の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項4】 ガラス粉末が、ZnO・B23 結晶及び/又はZnO・SiO2 系結晶を析出する性質を有することを特徴とする請求項1〜3の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項5】 ガラス粉末が、重量%でZnO 50〜65%、B2320〜35%、SiO2 7〜15%、R2 O+RO 3〜10%(ただしR2O:Li2 O+Na2 O+K2 O、RO:MgO+CaO+SrO+BaO)の組成を有することを特徴とする請求項1〜4の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項6】 焼成後の比重が2.0〜4.0g/cm3 であることを特徴とする請求項1〜5の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項7】 焼成による体積収縮率が15%以下であることを特徴とする請求項1〜6の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項8】 フィラー粉末が、コージエライト、ウイレマイト、ジルコンから選ばれる1種以上の低膨張フィラー粉末を含有することを特徴とする請求項1〜3の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項9】 フィラー粉末の総量に占める低膨張フィラー粉末の割合が、重量%で80%以上であることを特徴とする請求項8の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。
【請求項10】 焼成後の30〜300℃における熱膨張係数が30〜50×10-7/℃であることを特徴とする請求項8又は9の隔壁形成用ガラスセラミックス複合材料。