説明

難燃・不燃性放射線遮蔽部材及びそれを用いた積層部材、構造部材又はケース

【課題】難燃性、不燃性と放射線の遮蔽性に優れたシート部材等の提供を目的とする。
また、このシート部材と積層することでα線,β線,γ線,χ線及び中性子線等を総合的に遮蔽できる難燃性、不燃性の構造物やケース等の提供も目的とする。
【解決手段】樹脂組成物中に、当該樹脂組成物に対する質量%で、5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、10〜400%の金属の粉末又はフィラーとを混合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃・不燃性と放射線遮蔽性を備えた部材及びそれを用いた構造物及びケースに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を取り扱う診断、医療用設備あるいは放射線の発生する恐れがある原子力発電所等の施設においては、放射線が外部にもれないように遮蔽する必要がある。
また、放射線に汚染された土壌やガレキ等の放射性汚染物質の保管においても放射線が外に放出されないようにする必要がある。
さらには、これらの設備を取り扱う場所や施設においては、放射線の遮蔽のみならず、難燃又は不燃性が要求される場合も多い。
特許文献1には、コンクリートの間にボロン含有シートを挟んだり、あるいはボロン含有の低放射化コンクリートを用いた中性子線遮蔽構造体を開示するが、コンクリート打ち作業は大変であり、汎用性に劣る問題もあった。
また、コンクリート中にはホウ素を約3%程度しか含有させることができないので、中性子線の遮蔽効果も不充分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−58922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は難燃性、不燃性と放射線の遮蔽性に優れたシート部材等の提供を目的とする。
また、このシート部材と積層することでα線,β線,γ線,χ線及び中性子線等を総合的に遮蔽できる難燃性、不燃性の構造物やケース等の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
放射線には、α線,β線,γ線,χ線及び中性子線等が存在する。
このうち、α線は紙や木材で遮蔽でき、β線はアルミニウム等の薄い金属板で遮蔽でき、γ線及びχ線は鉛,鉄,タングステン等の比較的重い金属にて遮蔽できる。
また、中性子線は水やパラフィン及び特許文献1に記載されるようにホウ素を含有する材料にて遮蔽することができる。
【0006】
また、ポリホウ酸ナトリウムは約150℃以上の温度にて発泡し、難燃性や不燃性を発現することが本発明者らの実験により確認されていて、本願出願人である株式会社トラストライフから商品名ファイアレスBとして販売されている。
本発明はこれらを複合的に考慮することで完成したものである。
【0007】
本発明に係る難燃・不燃性放射線遮蔽部材は、樹脂組成物中に、当該樹脂組成物に対する質量%で、5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、10〜400%の金属の粉末又はフィラーとを混合したことを特徴とする。
本発明で樹脂組成物はポリホウ酸ナトリウムの粉末及び金属の粉末、フィラーを分散保持するマトリックスとして作用する。
【0008】
ポリホウ酸ナトリウムの粉末とは、ポリホウ酸ナトリウムが成分として含まれている粉末を意味し、ポリホウ酸ナトリウムの溶液を噴霧乾燥させると平均粒径10〜30μmの粉末を得ることができる。
また、ジェットミル等にて平均粒径10μm以下の1〜5μmの微粉末にして混合することもできる。
ポリホウ酸ナトリウムは発泡により難燃性、不燃性を発現するとともにホウ素は主に中性子線を遮蔽する。
ここで難燃性は例えば米国「Underwriter's Laboratoies,Inc」が制定した94V,94VTMに規定されている。
難燃性は試験材に火炎を当てると火が付くが、この火炎を遠ざけるとすぐに自己消火するレベルをいう。
不燃性は例えばJIS A 1323,A種〜C種として規定されている。
不燃性は火炎を試験材に当てても着火しないことをいう。
ポリホウ酸ナトリウムの粉末を樹脂組成物に対して質量比で5〜200%の範囲にて混合比率を上げることで難燃性から不燃性まで調整できる。
【0009】
金属はβ線等を遮蔽する力があり、鉛やタングステン等の重金属はγ線,χ線等も遮蔽することから、樹脂組成物にこれらの金属を粉末又はフィラーにして混合することでこれらの放射線遮蔽部材として利用できることが発明者らの実験で明らかになった。
また、タングステンには鉄、コバルト、銅等が含まれていてもよい。
金属粉末等の配合料は樹脂組成物に対して10〜400質量%の範囲で調整可能である。
【0010】
樹脂組成物中にこれらのポリホウ酸ナトリウムの粉末や金属の粉末等を分散させるには、樹脂組成物に溶融混合するのが好ましい。
この場合に射出成形,押出,延伸等にて成形体,シート材,フィルム材等を製造する際に樹脂組成物を加熱溶融することになるが、ポリホウ酸ナトリウムは約150℃以上で発泡することから、溶融温度が150℃以下、好ましくは140℃以下の樹脂組成物を用いるのが好ましい。
このような樹脂組成物にはエチレン−酢酸ビニル共重合体が好適である。
この樹脂は酢酸ビニルの配合量を相対的に多くすることで、例えば融点を95℃以下に下げることも可能であるとともにポリホウ酸ナトリウムとの親和性が高い。
例えば樹脂組成物中の酢酸ビニルの含有量を10質量%にすると融点が約94℃で、33質量%にすると融点が約61℃になる。
【0011】
このようなポリホウ酸ナトリウムの粉末と金属の粉末等を分散させた樹脂材料を用いてシート状に成形したシート部材は、放射線を取り扱う設備や放射線汚染物質を簡易的に覆うのに便利である。
また、シート部材に成形する際に綿布,化学繊維布,不織布等を内層とし、これに樹脂組成物にポリホウ酸ナトリウム及び金属粉末等を混合したものを練り込み、3層構造にしてもよい。
【0012】
上記のシート部材のみではパネル材や構造物として利用しにくい場合には、シート状に成形した請求項1記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材と、ポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル部材とを張り合せた積層部材にしたり、金属製パネル材に、ポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル部材又は/及びシート状に成形した請求項1記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材とを積層部材にすることができる。
このような積層部材にすると建物の壁や室内を仕切る構造部材にすることも放射線で汚染された土壌やガレキの簡易保管ケースにすることもできる。
ケースは汚染物を収納できるものであれば、コンテナ型の容器でもボックス体でもよい。
ケースにするとそのまま中間処理場に持ち込み、保管することもできる。
【0013】
木質のパネル(板材)にポリホウ酸ナトリウムを含浸させる方法としては、単板や合板等のパネル材にポリホウ酸ナトリウムの溶液を含浸させることで得られる。
ポリホウ酸ナトリウムの含浸量は50〜200kg/m(木質)の範囲が好ましい。
50kg未満では難燃性効果が小さく、200kgを超えて含浸させてもそれ以上の不燃化効果が小さい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る難燃・不燃性放射線遮蔽部材はシート材,フィルム材,射出成形部材等に容易に成形が可能であり、ポリホウ酸ナトリウムによる優れた難燃・不燃性と中性子線等の優れた放射線遮蔽性が得られる。
また、このようにして得られたシート材は、はさみ等で容易に切断加工ができる。
ポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル部材や金属製パネル材と組み合せることで、難燃・不燃性のある放射線遮蔽構造物や放射線汚染物物質の保管ケースとしても利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)に、株式会社トラストライフ社のファイアレスBリキッド(固形分濃度約23%,比重1.1,pH=7)を噴霧乾燥させたポリホウ酸ナトリウムの粉末をEVA樹脂に対して質量比で約50%を混合し、さらにタングステンの粉末をEVA樹脂に対して質量比で約3〜4倍混合した。
これを用いて、内材としてポリホウ酸ナトリウムを含浸させた綿生地を用い、3層構造の厚み約1mmのシート材を得た。
このシート材の比重は約9.0であった。
福島県本官市内で採取した11.0μSv/hの汚染土にこのシート材を被せて同様に放射線量を計測したところ、5.0μSv/hと放射線量が約55%減少した。
これにより、放射線の遮蔽効果が高いことが明らかになった。
また、このシート材を厚み9.0mmの合板の内側に張り合せ、この合板の外側に0.5mmの厚みのアルミ板又は鉄板を張り合せた3層の積層部材を用いて、幅180cm×長さ360cm×高さ90cmのケース(コンテナ)を試作した。
このようなケースは中に放射線汚染物質を入れることで外部への放射線の放出を大幅に低減することができる。
また、ケースのサイズの統一化を図ることで中間貯蔵施設への搬入及び保管が容易になると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物中に、当該樹脂組成物に対する質量%で、5〜200%のポリホウ酸ナトリウムの粉末と、
10〜400%の金属の粉末又はフィラーとを混合したことを特徴とする難燃・不燃性放射線遮蔽部材。
【請求項2】
必要に応じて布地を内在し、シート状に成形した請求項1記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材と、ポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル部材とを張り合せたことを特徴とする難燃・不燃性放射線遮蔽積層部材。
【請求項3】
金属製パネル材に、ポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル部材又は/及び必要に応じて布地を内在し、シート状に成形した請求項1記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材とを積層したことを特徴とする難燃・不燃性放射線遮蔽積層部材。
【請求項4】
前記樹脂組成物はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であり、
前記金属の粉末又はフィラーは、鉛又はタングステンあるいはそれらの合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材又は積層部材。
【請求項5】
外側に金属製パネル材、その内側にポリホウ酸ナトリウムを含浸させた木質パネル又は/及び必要に応じて布地を内在し、シート状に成形した請求項1記載の難燃・不燃性放射線遮蔽部材とを積層したことを特徴とする構造部材又はケース。
【請求項6】
前記樹脂組成物はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂であり、前記金属の粉末又はフィラーは、鉛又はタングステンあるいはそれらの合金であることを特徴とする請求項5記載の構造部材又はケース。

【公開番号】特開2013−108931(P2013−108931A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256057(P2011−256057)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(302001952)株式会社 トラストライフ (6)