説明

難燃性ポリエステル樹脂およびそれからなるフィルム

【課題】優れた難燃性を耐久性良く有しながらも、ブリードアウトが少なく、ハンダ加工性などの高温での加工性や耐デラミ性も有する難燃性ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いたフィルムを提供すること。
【解決手段】エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰返し単位とし、特定のホスホネート化合物を、ポリエステルの分子鎖中に、全繰り返し単位を基準として、リン元素量で0.1〜4モル%の範囲で共重合させた難燃性ポリエステル樹脂およびそれを用いたフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性ポリエステル樹脂に関する。さらに詳しくは、ハロゲンフリーでありながら優れた難燃性を呈するポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飽和ポリエステル樹脂、特にポリアルキレンナフタレートは、その優れた電気絶縁性や耐水性などの特微を生かして電気部品などの成形用材料として利用されている。
これらの用途における樹脂の難燃化は、従来ハロゲン系難燃剤を添加する方法が主として採用されている。しかし、このハロゲン系難燃剤を含有するポリエステル樹脂は、燃焼時にダイオキシンを発生する等の理由で、環境を配慮した難燃剤が望まれている。
【0003】
このため、ハイドロタルサイト系難燃剤等のノンハロゲン系難燃剤が提案されている(特許文献1)。しかし、これらの難燃剤は、十分な難燃性を発現させるためにはその添加量を多くする必要があり、得られる成形品の機械的特性の低下を招いたり、ポリエステル樹脂中から難燃剤がブリードアウトしたりするという問題がある。
【0004】
一方、ポリエステル樹脂に化学的に結合させる反応型難燃剤は、従来、種々提案されている。例えば、特許文献2〜3には、不飽和ポリエステルの不飽和結合の一部に特定のリン化合物を付加させてなるリン含有不飽和ポリエステルが提案されている。しかしながら、全部の不飽和結合に該リン化合物を結合させることは困難であり、残存する不飽和結合に起因して耐熱性が不十分となり、例えば酸化劣化が起こりやすくなり、その結果、フィルムや成型体で通常行われるリサイクル工程を通過すると、難燃性や物性が損なわれるという問題がある。
【0005】
また、電気部品などの材料として用いる場合、例えばフレキシブルプリントサーキット等の電気部材用途では、はんだ付け工程など高温での熱処理を経るため、はんだに接する際の成形品の変形を小さくすることや、成形加工時に生じるデラミ(層間剥離による白化現象)などの抑制も求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−214047号公報
【特許文献2】特開昭53−112997号公報
【特許文献3】特開2000−309697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた難燃性を耐久性良く有し、難燃剤のブリードアウトが少なく、ハンダ加工性などの高温での加工性や耐デラミ性にも優れたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂からなる難燃性ポリエステル樹脂およびそれを用いたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂に特定のリン化合物を共重合するとき、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰返し単位とし、下記一般式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数2以上のアルキレン基であり、mおよびnは整数で、m+nは3〜10の範囲である。)で表されるホスホネート化合物を、ポリエステルの分子鎖中に、全繰り返し単位を基準として、リン元素量で0.1〜4モル%の範囲で共重合させた難燃性ポリエステル樹脂が提供される。また、本発明によれば、上記一般式(1)におけるRおよびRが、それぞれエチレン基である難燃性ポリエステル樹脂も提供され、さらにそれら本発明の難燃性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステルフィルムも提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた難燃性を耐久性良く有し、難燃剤のブリードアウトが少なく、ハンダ加工性などの高温での加工性や耐デラミ性にも優れたエチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰返し単位とする難燃性ポリエステル樹脂が提供されることから、フィルムなどの成形体として好適に利用することができ、特にフレキシブルプリントサーキット等の電気部材用のベースフィルムとして好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
先ず、本発明で用いられるポリエステル樹脂は、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰返し単位とするものであり、好ましくは全繰返し単位の80モル%以上、さらに90モル%以上、特に95モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルが好ましい。かかるポリエステルであることによって、ハンダなどの高温での加工性を高度に発現でき、さらに難燃剤による耐デラミ性向上効果もより顕著に発現される。
【0012】
かかる飽和ポリエステルの固有粘度(重量比が6/4のフェノール/トリクロロエタン混合溶媒を用いて温度35℃で測定)は、小さすぎると機械的特性が不十分になる場合があり、逆に大きすぎると成形が難しくなる場合があるので0.40〜0.90dl/gの範囲が適当である。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、従来公知の各種添加剤を含有していてもよく、例えば有機または無機の滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤充填材、補強材などをあげることができる。
【0013】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、上記の飽和ポリエステルに前記一般式(1)で表されるホスホネート化合物を、リン元素含有量として0.1〜4モル%、好ましくは0.2〜3.5モル%、特に好ましくは0.3〜3モル%の範囲で共重合している必要がある。この共重合量が下限未満の場合には本発明の目的を達成するのに十分な難燃性を発現するに至らず、逆に上限を超える場合には、ゲル化が生じ得られるポリエステルの反応性が損なわれ、得られる成形体の物性が損なわれる。
【0014】
前記一般式(1)で表されるホスホネート化合物のRおよびRは炭素数2以上のアルキレン基であって、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキレン基としては、炭素数2〜18、好ましくは炭素数2〜8のアルキレン基であり、具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソプロレン基、t−ブチレン基、sec−ブチレン基等を例示することができる。また、シクロアルキレン基としては、炭素数3〜18、好ましくは炭素数3〜8のシクロアルキレン基であり、具体的には、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等を例示することができる。なお、式中のRとRは、それぞれが同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0015】
上記一般式(1)において、mおよびnは整数であって互いに同一であっても異なっていてもよく、m+nの範囲は3〜10の範囲である。3未満であると、耐加水分解性に劣ったり、鯛デラミ性の向上効果が乏しく、一方上限を超えるとがR基の熱安定性に劣るようになる。好ましいm+nの範囲は4〜8であり、特に好ましい範囲は4〜7である。
【0016】
前記一般式(1)で表されるホスホネート化合物の具体例としては、例えば下記の表1に召されるような化合物が挙げられる。
【表1】

【0017】
なお本発明において、前記したホスホネート化合物は、1種に限定されず、2種以上を併用してもかまわない。
上記一般式(1)で示されるホスホネート化合物は、公知の方法により製造することができる。すなわち、ヒドロキシメチルリン酸に所望のジオールをエステル化反応することで得ることができる。
【0018】
以上で説明した本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、その製造方法について特に限定されず、任意の方法により製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂の重合の任意の段階で添加すればよく、例えば、ポリエステルの重縮合反応終了前に前記一般式(1)で示されるホスホネート化合物を添加してもよいし、別の方法としては、真空吸引可能なベント機構を有する二軸混練押出機にポリエステル樹脂および前記一般式(1)で示されるホスホネート化合物を添加供給し、溶融押し出しすればよい。
【0019】
このようにして得られた難燃性ポリエステル樹脂は、一旦ペレット状に成形した後に再度溶融して、あるいはペレット状に成形することなく連続して種々の成形品に成形することができる。例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形、紡糸成形、フィルム製膜などにより、板状、シート状、フィルム状、糸状等の任意の形状に成形することができ、特にフィルムに好適に使用できる。得られた成形品は、工業機材、自動車・車両、電気・電子部品等の各種分野に使用することができる。
【0020】
これらの成形で用いられる成形機は特に限定されないが、例えば、通常の射出成形機や、いわゆる射出圧縮成形機、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、ベント付き二軸スクリュー押出機、ベント付き一軸スクリュー押出機などが好ましく用いられる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明における各種特性は、以下の測定方法にしたがった。
【0022】
(1)固有粘度
フェノール/トリクロロエタン=6/4(重量比)を溶媒に用いて35℃恒温下オストワルト型粘度計を用いて測定した。
【0023】
(2)難燃性
試料を175℃で4時間乾燥した後、成型温度300℃、プレス圧力30MPa、成型時間1分間の条件でメルトプレスして未延伸シートを得た。この未延伸シートを150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ3.8倍に同時二軸延伸し、次いで210℃で15秒間熱固定処理を行い、厚さが75μmのフィルムとなし、UL−94規格にしたがって、VTMを評価した。このとき、同時に消炎するまでの時間も測定した。
【0024】
(3)ヤング率
上記(2)の難燃性の試験と同様にして得たサンプルフィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り試料片を得た。この試料片を、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分でインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる加重−伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を測定した。
【0025】
(4)耐久難燃性
上記(2)の難燃性の試験と同様にして得た未延伸シートを10メッシュに破砕し、粉砕したポリマーと未延伸シートに成形する前の同組成の難燃性ポリエステル樹脂ペレットとを、6:4の重量比で配合し、175℃で4時間乾燥した後、上記の難燃性評価方法と同様にしてVTMを評価した。このとき、同時に消炎するまでの時間も測定した。
【0026】
(5)耐デラミ性
上記(2)の難燃性の試験と同様にして得たサンプルフィルムを80×80mmの大きさに切り出し、折目ができるように手で軽く2つに折りながら、平坦な一対の金属板で挟んだ後、プレス機により所定の圧力P1(MPa)で20秒間プレスした。プレス後、プレスを開放し、次いで、2つ折りのフィルムサンプルを手で元の状態に戻し、前記金属板に挟んで圧力P1(MPa)で20秒間プレスした。その後、フィルムサンプルを取り出し、折目にあらわれた白化部分の長さ(mm)を顕微鏡で測定する。それぞれ新しいフィルムサンプルを使用し、プレス圧P1=0.1,0.3,0.5(MPa)について測定を繰り返す。各プレス圧における白化部分の長さ(mm)の合計の平均値が折目の全長(80mm)に占める割合をもって折目デラミネーション白化率とし、この値をフィルムのデラミネ−ション(層間剥離)の起こり易さを示す指標として使用する。この折目デラミネーション白化率の値が小さいほど耐デラミネーションが良好と判断した。
【0027】
(6)ハンダ加工性:
得られたポリエステル樹脂を300℃でダイ型より押し出し、厚さ3mmの注型板を得た。これらの注型板から長さ125mm×幅13mm×厚さ3mmの試験板を切り出し、温度を260℃にしたはんだを1mm径で無加圧下5秒接触させ、下記の基準に従って評価した。○と△が合格である。
○: 凹深が0.2mm以下
△: 凹深が0.2mm超0.5mm以下
×: 凹深が0.5mm超
【0028】
(7)ポリマー中のリン元素量:
ポリマーチップ中のリン元素量はサンプルを加熱溶融して円形ディスクを作成し、リガク社製蛍光X線測定装置3270を用いて測定した。
【0029】
(8)ブリードアウト性
上記ヤング率の測定で作成した二軸配向フィルムを、130℃に飽和湿熱保持したエスペック(株)製プレッシャクッカーTPC−412Mに仕込み、50時間処理したのち、フィルムサンプルを取り出し、試験片表面をクロロホルムで洗浄し、洗浄液中に含まれる難燃剤量を定量し、樹脂組成物の重量を基準として、ブリードアウト量とした。なお、測定値が0.01重量%より小さいものは、0.01重量%未満と表示した。
【0030】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、NDCMという)100モル(24.4kg)、エチレングリコール(以下、EGという)180モル(11.2kg)、酢酸マンガン四水和物0.03モルを反応器に仕込み、窒素雰囲気下で240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、NDCM100モルに対して三酸化二アンチモン0.02モルとジオキシエチレントリオキシエチレンヒドロキシメチルホスホネート(CBW社製、商品名:Wofaplexx33、m+n=5)をポリステルの繰返し単位を基準として、3モル%添加し、260℃で30分間保持した。その後、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に300℃、0.1kPa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で、反応を終了して固有粘度0.63のポリエチレンナフタレート樹脂を得た。
【0031】
このようにして得られた樹脂組成物を175℃で4時間乾燥した後、成型温度300℃、プレス圧力30MPa、成型時間1分間の条件でメルトプレスして、厚さ350μmの未延伸シートを得た。この未延伸シートを150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ3.8倍に同時二軸延伸し、次いで210℃で15秒間熱固定処理を行い、厚さが25μmのフィルムとした。
得られた樹脂組成物およびそれを用いたフィルムの特性を表2に示す。
【0032】
[実施例2〜3、比較例1および2]
ホスホネート化合物の種類および共重合量を表2に示すとおり変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた樹脂組成物およびそれを用いたフィルムの特性を表2に示す。
【0033】
[比較例3]
ホスホネート化合物の代わりに、トリメチルホスフェートを添加した以外は実施例1と同様な操作を繰り返したが、樹脂の粘度が上がらず、樹脂を得ることができなかった。
【0034】
[比較例4]
ホスホネート化合物の代わりに、ビスオキシエチレンヒドロキシメチルホスホネート(m+n=2)を添加した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた樹脂組成物およびそれを用いたフィルムの特性を表2に示す。
【0035】
[比較例5]
酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルの代わりにテレフタル酸ジメチルを用いた以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた樹脂組成物およびそれを用いたフィルムの特性を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2中の、Aはジオキシエチレントリオキシエチレンヒドロキシメチルホスホネート(m+n=5)、Bはオキシエチレンテトラオキシエチレンヒドロキシメチルホスホネート(m+n=5)、Cはトリメチルフォスフェート、Dはビスオキシエチレンヒドロキシメチルホスホネート(m+n=2)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂は、優れた難燃性を耐久性良く有しながらも、ブリードアウトが少なく、ハンダ加工性などの高温での加工性や耐デラミ性も有することから、種々の成形品の材料、例えば電気部品などの成形用材料に好適である。特に、フレキシブルプリントサーキット等の電気部材用途に用いるフィルムとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰返し単位とし、下記一般式(1)で表されるホスホネート化合物を、ポリエステルの分子鎖中に、全繰り返し単位を基準として、リン元素量で0.1〜4モル%の範囲で共重合させたことを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ炭素数2以上のアルキレン基であり、mおよびnは整数で、m+nは3〜10の範囲である。)
【請求項2】
上記一般式(1)におけるRおよびRが、それぞれエチレン基である請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂からなる難燃性ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2007−182470(P2007−182470A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−442(P2006−442)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】