説明

難燃性芯鞘型複合繊維とその製造方法

【課題】 難燃性とアクリル系繊維の特徴である発色性等を有する芯鞘型複合繊維とその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 塩化ビニルポリマーまたは、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーから構成される芯部と、アクリロニトリル系ポリマーから構成される鞘部とからなり、芯部の塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーの質量比率が100/0〜80/20であり、且つ繊維中の塩素含有量が15〜35質量%である芯鞘型複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色性、耐フィブリル化特性に優れた難燃性芯鞘型複合繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、火災予防の観点から合成繊維の難燃化の要望が高まっている。特にアクリル繊維が使用されるカーペット、カーテン、マットなどのインテリア分野においてはその要望が高い。難燃繊維を開発する技術手法として、塩化ビニルや塩化ビニリデン、臭化ビニル等の難燃性モノマーをアクリロニトリルと共重合する方法、又はアクリロニトリル系ポリマーと塩化ビニルポリマーを複合化する方法等が知られ、種々の難燃性アクリル繊維や、モダクリル繊維が上市されている。
例えば、特許文献1には、アクリロニトリルに塩化ビニル又は塩化ビニリデンを共重合し、且つ繊維中に五酸化アンチモンを含有する方法がある。又、特許文献2には、塩化ビニルポリマー、アクリロニトリル系ポリマー及び相溶化剤を原液中で混合し紡糸する方法がある。しかしながら、これらの方法は、重合方法が複雑であったり、塩化ビニルポリマーを繊維全体に混合するためアクリル系繊維の特徴である発色性を維持するのは困難であった。また、繊維の力学的特性が劣り、特にフィブリル化が起こり易くなることに起因して磨耗に対する抵抗力が小さくなるなどの問題があった。
【特許文献1】特開平06−212514号
【特許文献2】特開昭47−32130号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーを複合化することで難燃性を向上させるとともに、アクリル繊維の特徴である染色性、力学的特性などを有する芯鞘型複合繊維とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち本発明の第一の要旨は、塩化ビニルポリマーまたは、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーから構成される芯部と、アクリロニトリル系ポリマーから構成される鞘部とからなり、芯部の塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーの質量比率が100/0〜80/20であり、且つ繊維中の塩素含有量が15〜35質量%であることを特徴とする芯鞘型複合繊維である。
本発明の第二の要旨は、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーの質量比率が100/0〜80/20であり、且つ50℃における粘度が50〜150ポイズになるように溶剤に溶解させた紡糸原液を芯部に、アクリロニトリル系ポリマーを50℃における粘度が30〜130ポイズになるように溶剤に溶解させた紡糸原液を鞘部に、それぞれ用いて凝固浴中で湿式紡糸させ、その後湿熱条件下で延伸させることを特徴とする芯鞘型複合繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、難燃性を必要とする衣料用途、建寝装用途において、優れた難燃性能と染色性、耐フィブリル化性能を兼備した繊維製品を、提供する事を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるアクリロニトリル系ポリマーは、通常のアクリル系繊維の製造に用いられるアクリロニトリル系ポリマーであればよく、特に限定しない。しかし、そのモノマーは、少なくとも80質量%以上、好ましくは85質量%以上のアクリロニトリルを含有していることが必要である。モノマー組成は、アクリロニトリルと、アクリロニトリルと共重合するモノマーを用いることが好ましく、これによりアクリル繊維本来の特性を発現することができる。アクリロニトリルと共重合するモノマーとしては、通常アクリル系繊維を構成するアクリル系ポリマーを構成するモノマーであれば特に限定されず、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、さらにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニルなどが挙げられる。また、アクリロニトリル系ポリマーに、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸、及びこれらの塩を共重合すると、染色性が改良されるために好ましい。
【0007】
また、本発明で用いられる塩化ビニルポリマーについては特に限定しないが、還元粘度測定により測定した重合度が900〜1200程度のものが、紡糸性の点で好ましい。
【0008】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯部は、上記に示した塩化ビニルポリマーまたは、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーからなるものであり、芯部の塩化ビニルとアクリルニトリル系ポリマーの質量比率は、100/0〜80/20である事が必要である。芯部の塩化ビニルの含有量が、80質量%未満では、難燃性能発現と、発色性及び力学的特性とのバランスをとる事が難しい。
また、芯鞘型複合繊維の鞘部に用いるアクリロニトリル系ポリマーは、上記に示したアクリロニトリル系ポリマーを用いる。
このように、繊維芯部の塩化ビニルポリマーを鞘部のアクリロニトリル系ポリマーで被覆することで、通常のアクリル系繊維と同等の染色性及び力学的特性を有し、これまで問題とされていたフィブリル化を抑制する効果を有する。
【0009】
本発明における芯鞘型複合繊維中の塩素含有量は15〜35質量%が必要である。15質量%未満では、JIS K7201により測定した酸素指数が23未満となるため、カーペットやカーテンなどのインテリア分野で必要とされる難燃性能を十分に達成することが難しい。また、35質量%を超える場合には繊維強度、繊維伸度等の物性面で劣り、紡績工程など製品加工工程の通過性が悪化する。難燃性付与と紡績加工性のバランスの点で、芯鞘型複合繊維中の塩素含有量は20〜30質量%とするのがより好ましい。
更に、難燃性を一層向上するためには、繊維中の塩素含有量を増加する必要があるが、前述の通り、35質量%以上導入するのは繊維物性及び工程通過性の面で困難である。その解決策として、繊維芯部、又は鞘部に三酸化アンチモンや五酸化アンチモンの如きアンチモン化合物を共存せしめることは有用な方法である。
【0010】
次に、本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法を説明する。まず、芯部の成分となる塩化ビニルポリマーまたは、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーとの有機溶剤溶液の50℃における落球粘度法により測定した粘度が、50〜150ポイズとなるように、芯部紡糸原液を調製する。芯部紡糸原液が50ポイズ未満の場合、鞘部紡糸原液中に芯部紡糸原液を導入することが難しく、その結果、複合繊維の芯鞘構造が得られにくくなる。また、150ポイズを超えると芯部紡糸原液の流動性が著しく低下するため紡糸することは困難となる。芯鞘構造発現と紡糸性のバランスの点で、70〜130ポイズとするのがより好ましい。
【0011】
一方、鞘部の成分となるアクリロニトリル系ポリマーの有機溶剤溶液の50℃における落球粘度法により測定した粘度が、30〜130ポイズとなるように紡糸原液を調製する。鞘部の紡糸原液の粘度が30ポイズ未満では、紡糸して得られた複合繊維中にボイドが発生しやすく、結果として繊維物性の低下や、生産性の低下につながる。また、130ポイズを越える場合は、複合繊維の芯鞘構造が得られにくくなる。より好ましくは、繊維物性と紡糸性のバランスの点で、50〜100ポイズがより好ましい。
【0012】
上記の各紡糸原液を調整するための有機溶剤は、アクリル系繊維の紡糸で一般的に使用される有機溶剤の使用が可能であり、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機溶剤を好ましく用いることができる。
【0013】
鞘部の紡糸原液の温度については、特に限定しないが、通常のアクリル系繊維製造で用いられる温度である50〜90℃が好ましい。
更に、必要に応じて各紡糸原液中に染料、顔料などの着色剤、抗菌剤、消臭剤などの機能剤を添加することも可能である。
【0014】
次に、準備した鞘部、芯部の紡糸原液を、芯鞘型紡糸口金を用いて、紡糸原液調整の際に使用した有機溶剤と同じ有機溶剤と水からなる凝固浴中に吐出させ凝固し繊維化する。この凝固浴の溶剤濃度、温度は特に制限しないが、溶剤濃度は20質量%以上とすると、紡糸性を一定のレベルに保つことができ、70質量%未満とすると、凝固浴中での接着繊維の発生などを抑制することができるため好ましい。また、凝固浴の温度は30〜55℃とすることで紡糸性と繊維物性を良好に保つことが可能となるため好ましい。
【0015】
この紡糸原液を用いて凝固浴中に紡出した後、60℃以上の熱水中で、延伸を行う。延伸倍率は、3.5〜8.0倍が好ましい。3.5倍以上であれば、十分な繊維物性のアクリル系繊維が得られ、8.0倍を超えると、紡糸安定性が低下し、複合繊維の芯鞘界面の剥離生ずるので、好ましくない。繊維物性、紡糸安定性のバランスの点で、4.0〜6.0倍と設定するのが更に好ましい。
【0016】
延伸させたあと、油剤付与、乾燥させた後に緩和処理を施される。また、乾燥、緩和処理は、従来アクリル系繊維の製造に用いられる、熱ロールやネットプロセスによる乾燥とアニール、熱板緩和、スチーム緩和といった緩和方法を単独あるいは組み合わせて行うことができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
[実施例1]
アクリロニトリル94質量%、酢酸ビニル5.5質量%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.5質量%からなるアクリロニトリル系ポリマーをジメチルアセトアミドに溶解させ50℃における原液粘度50ポイズの鞘部用紡糸原液を調整した。また、芯部用紡糸原液として、市販の塩化ビニルポリマー(信越化学工業:TK−1100)をジメチルアセトアミドに溶解して、50℃における原液粘度100ポイズの原液を調整した。
各紡糸原液を80℃に加熱した後、孔数1000、孔径0.08mmの芯鞘複合紡糸口金を用い、更に、芯部/鞘部の紡糸原液吐出比は、繊維中の塩素含有量が22質量%になるように、ジメチルアセトアミド50質量%水溶液の凝固浴中へ吐出させた後、95℃の熱水中で延伸、脱溶媒を行い、続けて油剤付与、乾燥緻密化を行った後、130℃加圧水蒸気下で緩和することにより単繊維繊度3.3dtexの芯鞘型アクリル系複合繊維を得た。
【0018】
ここでは、50℃における各原液の粘度測定は、JIS Z8803 落球粘度法によって測定し、紡糸操業性については、延伸切れや紡浴切れが紡糸1時間中に2回以上発生した場合を×、1回以下のものを○として評価した。また、得られた繊維については、以下に示す繊維特性評価を実施した。
「難燃性」
難燃性は、JIS K7201により測定した。酸素指数が大きいほど繊維の難燃性が高いということができる。
「染色性」
染色性は、概芯鞘複合繊維を靴下編地し、0.2%owfの保土谷化学工業社製 Aizen Cathilon Blue-BRLH染料溶液で浴比1:100、温度97℃、時間50分間の条件で染色後、60℃の熱風乾燥機で乾燥、その編地の染色性を「ほとんど染色しない」を1級とし、「よく染色する」を5級として、目視判定を行った。
「フィブリル化評価」
ディスクリファイナーによる叩解処理後の濾水度評価によるフィブリル化評価を実施した。得られたトウ状繊維を長さ3mmのフロック状にした後、そのカットフロックを固形分6重量%となるように水中に分散させ、この液をディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製KRK高濃度ディスクリファイナーNo2500−I型)を用い、ディスククリアランス0.05mm、ディスク回転数5000rpmにて処理した。これを数回繰り返し、処理毎に処理液をJIS P−8121のカナダ標準濾水度試験方法に準じてその濾水度を測定し、この濾水度の処理前の数値をR0、5回繰り返し処理後の数値をR1とし、その差ΔR(R0−R1)を求めた。このΔRの数値が低いほど繊維が割繊し難くフィブリル化抑制効果が大きいことを表す。
【0019】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
芯部及び鞘部の原液粘度、芯部の組成、繊維中塩素含有量を表1に示す値とした以外は、実施例1と同様にして芯鞘型難燃性アクリル系繊維を製造し、実施例1と同様の評価を行った。
【0020】
各条件より得られた結果を表2に示した。
【表1】

【0021】
[比較例6]
アクリロニトリル系ポリマーを原液粘度130ポイズとなるように調整した紡糸原液と塩化ビニルポリマーを原液粘度100ポイズとなるように調整した紡糸原液を70/30の質量比率で紡糸原液段階でブレンドし、80℃に加熱した後、孔数1000、孔径0.08mmの紡糸口金を用い、ジメチルアセトアミド50質量%水溶液の凝固浴中へ吐出させた後、95℃の熱水中で延伸、脱溶媒を行い、続けて油剤付与、乾燥緻密化を行った後、130℃加圧水蒸気下で緩和することにより単繊維繊度3.3dtexのアクリル系複合繊維を得た。
【0022】
各条件より得られた結果を表2に示した。
【表2】

表2から明らかなように、紡糸原液の粘度条件、芯部原液組成、繊維中塩素含有量をそれぞれ制御することにより、紡糸操業性、難燃性、染色性、力学的特性、フィブリル化抑制に優れた繊維が得られることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルポリマーまたは、塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーから構成される芯部と、アクリロニトリル系ポリマーから構成される鞘部とからなり、芯部の塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーの質量比率が100/0〜80/20であり、且つ繊維中の塩素含有量が15〜35質量%であることを特徴とする芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
塩化ビニルポリマーとアクリロニトリル系ポリマーの質量比率が100/0〜80/20であり、且つ50℃における粘度が50〜150ポイズになるように溶剤に溶解させた紡糸原液を芯部に、アクリロニトリル系ポリマーを50℃における粘度が30〜130ポイズになるように溶剤に溶解させた紡糸原液を鞘部に、それぞれ用いて凝固浴中で湿式紡糸させ、その後湿熱条件下で延伸させることを特徴とする芯鞘型複合繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−7876(P2008−7876A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178221(P2006−178221)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】