説明

電力分配合成器

【課題】電力分配合成器の周囲の外部導体による伝送特性の劣化を軽減する。
【解決手段】矩形状の誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に配置される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に配置される複数の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポートと前記複数の出入力分配ポートとを接続する導体線路とを備える電力分配合成器において、前記導体線路は、前記入出力共通ポートに接続される分岐部と、前記分岐部から分岐して前記誘電体基板の長さ方向の辺に沿って並行に延び前記複数の出入力分配ポートにそれぞれ接続される複数の分岐路と、前記複数の分岐路と前記複数の出入力分配ポートとの接続部間を抵抗結合する結合部と、を備え、前記分岐路は、前記分岐部と前記結合部との間において、最大のピークと最小のピークとが交互に繰り返して連続する三角波形状をしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力分配合成器に係り、特に無線通信等に用いられる高周波信号を複数の高周波信号に分配し、または複数の高周波信号をそれより少ない数の高周波信号に合成する電力分配合成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電力分配合成器として伝送線路型(ウィルキンソン型)の電力分配合成器が知られている。ウィルキンソン型の電力分配合成器は、矩形状の誘電体基板の一面に共通ポート、分配ポート、これらのポートを接続する導体線路(マイクロストリップライン)が形成されて構成されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1のものでは、導体線路を構成する分配路と合成路とを兼用せずに独立して設けることにより所望の整合特性を容易に実現できるようにしたものである。特許文献2のものでは、導体線路を山部と谷部とが交互に繰り返すU字波形状とすることにより、小型化を図り、さらに誘電体基板の表面に形成した接地導体と導体線路との間隔を、共通ポート側よりも分配ポート側の方を狭くすることにより、優れた特性を実現できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−28507号公報
【特許文献2】特許第2682737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような構成の電力分配合成器では、その周囲に導体が配置されると、その導体の存在により伝送特性が劣化する。したがって、電力分配合成器を、これにアンテナやアンプなどを一体化して組み込んだ無線端末等として設置する場合、無線端末等の特性が劣化するおそれがあり、その一体化が困難となる。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、電力分配合成器の周囲に配置される導体による伝送特性の劣化を軽減することが可能な電力分配合成器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施の態様によれば、矩形状の誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に配置される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に配置される複数の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポートと前記複数の出入力分配ポートとを接続する導体線路とを備える電力分配合成器において、
前記導体線路は、前記入出力共通ポートに接続される分岐部と、前記分岐部から分岐して前記誘電体基板の長さ方向の辺に沿って並行に延び前記複数の出入力分配ポートにそれぞれ接続される複数の分岐路と、前記複数の分岐路と前記複数の出入力分配ポートとの接続部間を抵抗結合する結合部と、を備え、
前記分岐路は、前記分岐部と前記結合部との間において、最大のピークと最小のピークとが交互に繰り返して連続する三角波形状をしている電力分配合成器が提供される。
【0007】
この場合、前記分岐路の線路幅を電力分配合成比に応じた寸法に形成するか、前記三角波形を前記誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに非対称に形成する、または前記三角波形を前記誘電体基板の幅方向に引いた直線に対して互いに非対称に形成することも
できる。
【0008】
また、前記分岐路、前記抵抗結合部からなる導体線路を、直列に繰り返し接続して多段に構成することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電力分配合成器の周囲に配置される導体による伝送特性の劣化を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態による電力分配器の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による電力分配器の周囲に導体が近接した状態を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態による電力分配器の周囲に導体が無い場合と近接した場合における電力分配器としての伝送特性を比較した図であり、(a)は第1の出力ポートの伝送損失特性図、(b)は第2の出力ポートの伝送損失特性図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態による電力分配器の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態による不等分配合成比の電力分配器の平面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態による多段構成の電力分配器の平面図である。
【図7】従来例の電力分配器の平面図である。
【図8】従来例の電力分配器の周囲に導体が近接した状態を示す説明図である。
【図9】従来例の電力分配器の周囲に導体が無い場合と近接した場合における電力分配器としての伝送特性を比較した図であり、(a)は第1の出力ポートの伝送損失特性図、(b)は第2の出力ポートの伝送損失特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について述べる。
【0012】
[第1の実施の形態]
(電力分配器の構成)
電力分配合成器はウィルキンソン型であり、誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に配置される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に配置される複数の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポートと前記複数の出入力分配ポートとを接続する導体線路とを備える。この導体線路は、入出力共通ポートに接続される分岐部から誘電体基板の長さ方向の辺(外縁)に沿って並行に延び複数の出入力分配ポートにそれぞれ接続される複数の分岐路を備える。
【0013】
電力分配合成器は、入出力共通ポートを入力共通ポート(以下、単に入力ポートという)とし、出入力分配ポートを出力分配ポート(以下、単に出力ポートという)とすることにより電力分配器になる。このとき分岐部は分配部、複数の分岐路は複数の分配路となり、分配部から複数の分配路へ分配された複数の高周波信号を複数の出力分配ポートに伝送する。逆に、電力分配合成器は、出入力分配ポートを入力分配ポート(以下、単に入力ポートという)とし、入出力共通ポートを出力共通ポート(以下、単に出力ポートという)とすることにより電力合成器になる。このとき複数の分岐路は複数の合成路、分岐部は合成部となり、複数の合成路から送られてくる複数の高周波信号を合成部に伝送し、それより少ない数の高周波信号に合成する。
【0014】
このように構成された電力分配合成器は、既述したように、その周囲に導体が配置されると、その導体の存在により伝送特性が劣化する。この理由は、電力分配合成器を構成す
る誘電体基板の一辺と近接する導体線路部分の長さが長かったり、誘電体基板の一辺と平行する導体線路部分の長さが長かったりすると、電力分配合成器の周囲に近接配置される導体による影響を受けて導体線路が伝送特性の劣化を起すからである。
【0015】
そこで、本実施の形態では、複数の分岐路を、前記分岐部と前記結合部との間において、最大のピークと最小のピークとが交互に繰り返して連続する三角波形状となるように構成している。このように構成することにより、誘電体基板の長さ方向の辺と近接する分岐路部分の長さが短くなる。また、誘電体基板の長さ方向の辺と平行する分岐路部分の長さが短くなるため、電力分配合成器の周囲に配置される外部導体による電力分配合成器の伝送特性の劣化を軽減することができる。
【0016】
また、本発明の他の実施の態様では、矩形状の誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に配置される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に配置される複数の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポート及び前記複数の出入力分配ポートを接続する導体線路とを備える電力分配合成器において、
前記導体線路は、前記入出力共通ポートに接続される分岐部と、前記分岐部から分岐して前記誘電体基板の長さ方向の辺に沿って並行に延びる複数の分岐路と、前記複数の分岐路及び前記複数の出入力分配ポートをそれぞれ接続する複数の分流路と、前記複数の分岐路と前記複数の分流路との接続部間を抵抗結合する結合部と、を有し、
前記複数の分岐路は、前記分岐部と前記結合部との間に連続する三角波形状で、かつその三角波形形状が、前記誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに対称となるように構成されている。
【0017】
このように複数の分岐路は、分岐部と結合部との間に連続する三角波形形状で、かつその三角波形形状が、誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに対称となるように構成されていることにより、誘電体基板の長さ方向の辺と近接する分岐路部分の長さが短くなる。また、誘電体基板の長さ方向の辺と平行となる導体線路の長さが短くなるため、電力分配合成器の周囲に配置される導体による電力分配合成器の伝送特性の劣化を軽減することができる。
【0018】
また、本発明の別な実施の態様では、矩形状の誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に形成される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に形成される2本の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポート及び前記2本の出入力分配ポートを接続する導体線路とを備える電力分配合成器において、
前記導体線路は、前記入出力共通ポートに接続される分岐部と、前記分岐部から分岐して前記誘電体基板の長さ方向の辺に沿って並行に延びる2本の分岐路と、前記2本の分岐路及び前記2本の出入力分配ポートとそれぞれ接続する2本の分流路と、前記2本の分岐路と前記2本の分流路との接続部間を抵抗結合する結合部と、を有し、
前記2本の分岐路は、前記分岐部と前記結合部との間に連続する三角波形形状で、かつその三角波形形状が、前記誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに対称となるように構成されている。
【0019】
このように2本の分岐路は、分岐部と結合部との間に連続する三角波形形状で、かつその三角波形形状が、誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに対称となるように構成されていることにより、誘電体基板の長さ方向の辺と近接する分岐路部分の長さが短くなる。また、誘電体基板の長さ方向の辺と平行となる分岐路部分の長さが短くなるため、電力分配合成器の周囲に配置される導体による電力分配合成器の伝送特性の劣化を軽減することができる。
【0020】
以下、図1を用いてこの電力分配合成器について詳細に説明する。ここでは電力分配合
成器について電力分配器を代表して説明する。
【0021】
図1は、電力等分配のウィルキンソン型電力分配器の構成を示す。図1に示すように、電力分配器20は、誘電体基板15を有し、その誘電体基板15の一面8に入力ポート11と、2つの出力ポート12、13と、導体線路9と、結合部10とが主に設けられている。誘電体基板15の一面8と反対側の他面7に接地導体(図示せず)が設けられている。
【0022】
誘電体基板15は矩形状をしており、導体線路9が延びる長さ方向の辺16、17、入力ポート11、出力ポート12、13が設けられる幅方向の辺18、19の合計4つの辺を有する。誘電体基板15には、例えばテフロン(登録商標)材、ガラスエポキシ材、フッ素樹脂などの誘電材料が用いられる。
【0023】
入力ポート11は、誘電体基板15の幅方向の一辺18の中央に形成されている。この入力ポート11から無線通信等に用いられる高周波信号が導体線路9に入力されるように構成される。
【0024】
2つの出力ポート12、13は、誘電体基板15の幅方向の一辺18と反対側の他辺19の両端側に分離して形成されている。2つの出力ポート12、13からは分配された複数の高周波信号が出力されるように構成される。
【0025】
導体線路9は金属、例えば銅箔から構成される。なお、接地導体も金属、例えば銅箔で構成される。導体線路9は、入力ポート11から誘電体基板15の長さ方向に延びる1本の共通路21と、この共通路21に接続される分岐部22と、分岐部22から2つに分岐して誘電体基板15の長さ方向の対向二辺16、17に沿って並行に延びる2本の分岐路29とを備える。さらに2本の分岐路29と2本の出力ポート12、13とをそれぞれ接続する2本の分流路14と、2本の分岐路29と2本の分流路14との接続部23とを備える。
【0026】
前述した2本の分岐路29は、導体線路9の主要部を構成する。分岐路29は、分岐部22と接続部23との間で、最大ピークと最小ピークが交互に繰り返して連続する三角波形状をして構成される。三角波形のピークは尖らすように(鋭角で)構成されていてもよいが、若干丸くなっている形態も含まれる。また、ここでは三角波形は二等辺三角波形としている。本実施の形態では、電力分配器の分配比を等分配比とするために、その2本の三角波形状は、誘電体基板15の長さ方向の中心線Cに対して互いに対称となるように構成されている。また、その2本の三角波形状は、誘電体基板15の幅方向に引いた直線Dに対しても互いに対称となるように構成されている。三角波の繰り返し回数は2回以上である(図1では2回)。入力ポート11から結合部10までの導体線路9のトータルの電気長はλ/4である。
【0027】
このような構成により、誘電体基板15の長さ方向の辺16、17と近接する分岐路部分の長さを短くし、誘電体基板15の長さ方向の辺16、17と平行となる分岐路部分の長さを短くすることにより、電力分配器20の周囲の導体による伝送特性の劣化を軽減するようになっている。また、三角波形は、誘電体基板15の長さ方向、幅方向の直線のいずれに対しても対称に形成されているので、分配比率を等分配することができる。
【0028】
なお、2本の分流路14は、従来と同じ形状をしている。すなわち、2本の分岐路29と2本の分流路14との接続部23から誘電体基板15の幅方向に立ち上がり、その後、誘電体基板15の長さ方向の一辺16、17と近接して平行に延びる矩形波形状をしている。
【0029】
結合部10は、2本の分岐路29と2本の分流路14との接続部23間を抵抗結合する。結合部10は、例えば、抵抗素子から構成される。
【0030】
図1に示す本実施の形態の電力分配器20は、以上説明したように構成される。
【0031】
図2は、このような構成の電力分配器20の周囲に導体24が近接した状態を示している。この図示例では、電力分配器20を平面視したとき、その2次元的な平面において、三角波形状の分岐路29に導体24が、誘電体基板15の長さ方向と平行に近接した状態を示している。このように電力分配器20に導体24が近接しても、誘電体基板15の長さ方向の辺と近接する分岐路部分の長さが短く、しかも誘電体基板15の長さ方向の辺と平行となる分岐路部分の長さが短いため、入力ポート11から2本の出力ポート12、13への伝送損失はほとんど劣化しない。
【0032】
(実施の形態の効果)
(1)本実施の形態によれば、導体線路9の主要部を構成する分岐路29を三角波形状に構成したことにより、誘電体基板15の長さ方向の一辺と近接する分岐路部分の長さを短くすることができる。また、誘電体基板15の長さ方向の辺16、17と平行となる分岐路部分の長さも短くすることができる。したがって、電力分配器20の周囲に近接する導体24による伝送特性の劣化を軽減することができる。特に誘電体基板15の長さ方向と平行に導体24が分岐路29に近接配置されるときに、その軽減効果はおおきい。なお、誘電体基板15の長さ方向の一辺と近接するピークを尖らすようにすることで、ピークが丸くなっているものと比べて、さらに誘電体基板15の長さ方向の一辺と近接する分岐路部分の長さを短くでき、電力分配器20の周囲に近接する導体24による伝送特性の劣化を軽減できる。
【0033】
(2)また、近接する導体による特性劣化が軽減することができることにより、無線端末等の機器に電力分配器を搭載して、導体もしくは導体を含むアンテナ、アンプを電力分配器と一体化しても、電力分配器の特性が劣化するおそれが解消される。したがって、電力分配器へのアンテナ、アンプの一体化を促進できる。例えば、ワンセグ微弱電波送信システムにおいて、送信機から送信される信号を分配する電力分配器に適用可能である。
【0034】
(3)上述した実施の形態では電力分配器について述べたが、入力ポートと出力ポートとを逆にして用いれば、本発明は電力合成器にも適用可能である。
【0035】
(4)また、分岐路の形状を三角波形状とすることにより、分岐路長を誘電体基板15の長さ方向に圧縮することができる。したがって、電力分配器20の長さ方向を縮小することができ、分岐路が矩形波状をしたものより小型化が可能となる。また、小型化するので低コスト化が可能となる。
【0036】
(5)本実施の形態では、電力分配器20の周囲として、三角波の進行方向と平行な誘電体基板15の長さ方向の辺16、17に近接する場合について説明したが、幅方向の辺18、19に導体24が近接する状態においても、長さ方向の辺16、17に近接する場合と同様な効果がある。分岐路29を三角形としたことにより、長さ方向の辺16、17と近接する分岐路部、及び誘電体基板15の幅方向の辺18、19と平行となる導体線路部の長さが短くなっているからである。
【0037】
(6)また、上述した電力分配器20の周囲に導体24が近接する状態として2次元的な平面の場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、3次元的な立体の場合も含まれる。例えば、図2において、導体24と電力分配器20との平面的な位置関係を保持したま
ま、導体24が紙面に垂直な方向に存在している場合でも、電力分配器20の周囲に導体24が近接する状態である。この立体的な近接状態でも、平面的な近接状態と同様な効果がある。さらに、幅方向の辺の場合についても同様の効果がある。
[第2の実施の形態]
【0038】
上述した実施の形態では三角波形を二等辺三角形としたが、三角形の形状はこれに限定されず、例えば、図4に示すように直角三角形ないし鋸歯状波形でもよいことは勿論である。直角三角形ないし鋸歯状波形は、誘電体基板15の幅方向に引いた直線Dに対して互いに非対称となるように構成されている。すなわち、三角波形は、上記直線Dが誘電体基板15の長さ方向の中心線C上のいずれの点に引かれても、全て非対称となっている。
【0039】
[第3の実施の形態]
上述した実施の形態では、等分配の電力分配器の例を説明したが、本発明は不等分配の電力分配器にも容易に適用できる。図5に不等分配の電力分配器の構成を示す。不等分配の電力分配器は、例えば、第1及び第2の分岐路29の線路幅が電力分配合成比に応じた寸法に形成される。または2本の三角波形状は、誘電体基板15の幅方向に引いた直線Dに対して互いに対称となるように構成されているが、誘電体基板15の長さ方向の中心線Cに対して互いに非対称に形成される。このような構成により、分配比率を等分配ではなく、任意の比率で分けることができ、電力不等分配器に適用できる。本実施の形態によれば電力分配器の周囲の導体による伝送特性の劣化軽減の効果が一層顕著になる。
【0040】
[第4の実施の形態]
また、本発明は広帯域化を狙った多段のウィルキンソン型電力分配器に適用することができる。図6はそのような多段の電力分配器の構成を示す。多段の電力分配器は、トーナメント状の分配構造ではなく、直列接続の分配構造である。すなわち、二段目から電気長λ/4の分岐路29、結合部10、電気長λ/4の分岐路29・・・のように順次に繋がり、電気長λ/4の分岐路29と結合部10の繋がりを繰り返すよう構成される。このように構造が多段になっても、分岐路29が三角波形状をしているので、電力分配器の周囲の導体による伝送特性の劣化軽減の効果を保持できる。
【0041】
なお、本発明は以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。例えば、矩形状の誘電体基板の一部に切欠き又は突起が形成されているものも、本発明の技術的思想内に含まれる。
【実施例】
【0042】
つぎに本発明の実施例を説明する。
図1に示す構成の電力等分配のウィルキンソン型電力分配器を製作した。
誘電体基板15の他面7に接地導体としてのグランドパターンを形成することにより、一面8に形成する導体線路9を2本のマイクロストリップラインとして構成した。結合部は抵抗素子で構成した。マイクロストリップラインは、入力ポート11から抵抗素子までの電気長はλ/4である。マイクロストリップラインは分岐部22から抵抗素子までを、連続した三角波形状に形成した。繰り返し回数は2周期とした。
【0043】
2本のマイクロストリップラインは同じ特性インピーダンスを持つ。入・出力インピーダンスは50Ωで設計し、マイクロストリップラインの特性インピーダンスを70.7Ω、抵抗素子を100Ωとした。また、設計周波数は700Hzとした。このときの線路長Lは理論値でλ/4≒107mmである。線路長Lは、誘電率を持つ材料を使用した基板で設計した場合、波長短縮効果により、前述した理論値の107mmよりも短縮される。本実施例では、誘電体基板15に0.8mm厚のテフロン(登録商標)材(誘電率2.6
)を使用した。このときの実際の線路長Lは72mmとした。
【0044】
図1において、各部位の寸法は次の通りである。
誘電体基板15の幅e=34.4mm
誘電体基板15の長さf=37.2mm
マイクロストリップライン幅g=1.2mm
入力ポート11から分岐部22までの長さh=6.0mm
分岐部22から最初の最大ピークまでの長さi=4.5mm
最大ピークから最小ピークまでの長さj=4.5mm
【0045】
図2において、距離Bは、上記のように製作した電力分配器における誘電体基板の長さ方向の辺(外縁)と平行になるマイクロストリップラインと、電力分配器のマイクロストリップラインに近接する導体24との距離である。ここではBを0.4mmとした。距離B=0mmは電力分配器の周囲に導体が無い状態を示す。
【0046】
図3に、距離Bを0mmと0.4mmにしたときの上記電力分配器の伝送損失を計算した結果を示す。上記計算結果は、シミュレーションソフト「Sonnet(有限会社ソネット技研)」を使用し解析して求めたものである。図3(a)は入力ポート11から第1の出力ポート12への通過特性(伝送特性)、図3(b)は入力ポート11から第2の出力ポート13への通過特性(伝送特性)を示している。第1、第2の出力ポート12、13において、導体24との近接距離B=0.4mmのときと、導体無しの0mmのときと通過特性(伝送特性)はほとんど劣化がなかった。これにより作製した電力分配器の周囲の導体による伝送特性の劣化軽減の効果を確認できた。
【0047】
[比較例]
電力等分配(分配比1:1)のウィルキンソン型の従来の電力分配器を作製した。その構成を図7に示す。従来のものが図1の実施の形態と異なる点は、マイクロストリップラインで構成した分岐路1、2の形状を三角波形状ではなく矩形波形状として、誘電体基板の長さ方向の辺と近接した位置で分岐路1、2を該辺と平行になるよう配置させた点である。また、設計周波数は650MHzとした。
【0048】
図7において、各部位の寸法は次の通りである。
誘電体基板の幅a=32.4mm
誘電体基板の長さb=56.4mm
マイクロストリップラインの幅c=1.2mm
誘電体基板の長さ方向の辺と平行なマイクロストリップラインの長さd=38.4mm
【0049】
図8は、上記のように製作した電力分配器の周囲に導体27が近接した状態を示す。図の距離Aは、電力分配器における誘電体基板の長さ方向の辺(外縁)と平行となるマイクロストリップラインと、電力分配器に前記マイクロストリップラインに近接する前記導体27との距離である。ここでは、距離Bは0.4mmとした。距離B=0mmは電力分配器の周囲に導体が無い状態を示す。
【0050】
図9に、距離Aを0mmと0.4mmにしたときの上記電力分配器の伝送損失を計算した結果を示す。図9(a)は入力ポート4から第1の出力ポート5への伝送損失、図9(b)は入力ポート4から第2の出力ポート6への伝送損失を示す。同図より設計周波数650MHzにおいて、距離Aが0.4mmのとき、0mmと比べて第1及び第2の出力ポートの伝送特性(通過特性)は、いずれも劣化していることが分かる。
【0051】
なお、図示するように、伝送特性が左シフトするという劣化の特性を見越して、設計周
波数を720MHzとしたときの特性ピークが、劣化時に、実際に狙う周波数700MHzにおいて発現するようにして、実質的に劣化を防止することも可能である。しかし、この方法は全体的に伝送損失が劣化する点で好ましくない。
【符号の説明】
【0052】
1 マイクロストリップライン
2 マイクロストリップライン
3 抵抗素子100Ω
4 入力ポート
5 第1の出力ポート
6 第2の出力ポート
7 他面
8 一面
9 導体線路(マイクロストリップライン)
10 結合部(抵抗素子100Ω)
11 入力ポート(入出力共通ポート)
12 第1の出力ポート(出入力分配ポート)
13 第2の出力ポート(出入力分配ポート)
14 分流路
15 誘電体基板
16、17 誘電体基板の長さ方向の辺
18、19 誘電体基板の幅方向の辺
20 電力分配器
21 共通路
22 分岐部
23 接続部
24 導体
29 分岐路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形状の誘電体基板の一面に形成され、前記誘電体基板の幅方向の一辺に配置される入出力共通ポートと、前記誘電体基板の幅方向の他辺に配置される複数の出入力分配ポートと、前記入出力共通ポートと前記複数の出入力分配ポートとを接続する導体線路とを備える電力分配合成器において、
前記導体線路は、前記入出力共通ポートに接続される分岐部と、前記分岐部から分岐して前記誘電体基板の長さ方向の辺に沿って並行に延び前記複数の出入力分配ポートにそれぞれ接続される複数の分岐路と、前記複数の分岐路と前記複数の出入力分配ポートとの接続部間を抵抗結合する結合部と、を備え、
前記分岐路は、前記分岐部と前記結合部との間において、最大のピークと最小のピークとが交互に繰り返して連続する三角波形状をしている電力分配合成器。
【請求項2】
前記分岐路の線路幅が電力分配合成比に応じた寸法に形成される請求項1に記載の電力分配合成器。
【請求項3】
前記三角波形が前記誘電体基板の長さ方向の中心線に対して互いに非対称に形成される請求項1または2に記載の電力分配合成器。
【請求項4】
前記複数の分岐路、前記結合部からなる導体線路が、直列に繰り返し接続されて多段に構成されている請求項1ないし3に記載の電力分配合成器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21381(P2013−21381A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150596(P2011−150596)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)