説明

電動パワーステアリング装置

【課題】ラックバーに加工誤差が発生しても当該ラックバーと2つのピニオンギヤとを適切に噛合し得る電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置において、一対のピニオンギヤである第1、第2出力軸14,22及びラックバー30を収容するハウジングを第1、第2ハウジング41,42に分割して構成すると共に、該両ハウジング41,42の接合に係るフランジ部51,52のうち、第1フランジ部51に周方向に延びる長孔53を設け、第2フランジ部52に前記各長孔53に挿通されたボルト50が螺合する雌ねじ孔54を設けることにより、前記各長孔53の周方向幅の範囲において両ハウジング41,42の相対角度位置を調整可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのラック歯を有する1つのラック軸に操舵側及びアシスト側に係る1対のピニオン軸が噛合することにより構成される、いわゆるデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデュアルピニオンタイプの電動パワーステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
この電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイールに連係して操舵力の伝達に供する第1ピニオンギヤと、操舵アシスト力を発生させる電動機に連係して操舵アシスト力の伝達に供する第2ピニオンギヤと、を分離して構成することで当該装置のレイアウト性の向上が図られ、これによって、他の装置との干渉を回避可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−39032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の電動パワーステアリング装置の場合は、前記第1、第2ピニオンギヤと、これらに噛合する所定の位相角をもって形成された一対のラック歯を有するラックバーと、を収容するハウジングが一体に形成されていることから、前記所定の位相角をもって形成された各ラック歯の加工誤差によっては、前記各ピニオンギヤとラックバーとの間において適切な噛み合いが得られなくなってしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたものであって、ラックバーに加工誤差が生じても当該ラックバーと2つのピニオンギヤとを適切に噛合し得る電動パワーステアリング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、操舵側とアシスト側とにそれぞれ連係される別異の第1、第2ピニオンギヤと、該各ピニオンギヤにそれぞれ噛合する第1、第2ラック歯が形成されたラックバーとを備えた電動パワーステアリング装置において、とりわけ、前記両ピニオンギヤ及びラックバーを収容するハウジングを、第1ピニオンギヤ及びラックバーの第1ラック歯の少なくとも一部を収容する第1ハウジングと、第2ピニオンギヤ及びラックバーの第2ラック歯の少なくとも一部を収容する第2ハウジングと、に分割して構成すると共に、第1ハウジングの第2ハウジングとの接続に供する第1接続部と、第2ハウジングの第1ハウジングとの接続に供する第2接続部と、の一方又は両方について、ラックバーの長手方向を回転軸方向としたときの前記両ハウジングの回転方向における相対位置が調整可能となるように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本願発明によれば、第1、第2ピニオンギヤ及びラックバーを収容するハウジングを噛合部毎に分割して構成すると共に、当該分割したハウジングの回転方向における相対位置を調整可能に構成したことにより、高精度な加工を施すことなく、各ピニオンギヤとラックバー(各ラック歯)との最適な噛み合いを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置の斜視図である。
【図2】図1に示す電動パワーステアリング装置の縦断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1に示す両ハウジングの接合部に係る要図である。
【図5】図1に示す第1ブラケットの縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置の斜視図である。
【図7】図6に示す第1ブラケット近傍の電動パワーステアリング装置の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る電動パワーステアリング装置の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、下記の各実施形態では、本発明に係る電動パワーステアリング装置を、従来と同様、自動車に適用したものを示している。
【0011】
図1〜図5は本発明の第1実施形態を示しており、この電動パワーステアリング装置は、図1に示すように、図示外のステアリングホイールに連係され、運転者の操舵力を図外の転舵輪へ伝達する操舵系ラック・ピニオン構成部10と、電動機である電動モータMに連係され、該電動モータMにより発生させた操舵アシスト力を図外の転舵輪へ伝達するアシスト系ラック・ピニオン構成部20と、を備えてなるものであり、一対の第1、第2ブラケット60,70を介して車体に取り付けられる。
【0012】
すなわち、この電動パワーステアリング装置は、図1、図2に示すように、図示外のステアリングホイールに連係する第1出力軸11と、前記電動モータMに連係する第2出力軸21と、が1つのラックバー30を共有するかたちで構成され、当該ラックバー30を介して運転者による操舵力及び電動モータMによる操舵アシスト力が図示外の転舵輪へと伝達される。
【0013】
前記操舵系ラック・ピニオン構成部10は、その一端側が図示外のステアリングホイールと一体回転可能に連係する入力軸12と、その一端側がトーションバー13を介して入力軸12の他端側に相対回転可能に連結された第1出力軸14と、該第1出力軸14の回転運動をラックバー30の直線運動へと変換することで転舵に供する第1ラック・ピニオン機構11と、入力軸12の外周側に配置され、当該入力軸12と第1出力軸14の相対回転変位量に基づいて操舵入力トルクを検出するトルクセンサ15と、から主として構成されている。
【0014】
前記第1ラック・ピニオン機構11は、第1出力軸14の他端部外周に形成された第1ピニオン歯P1(本発明に係る第1ピニオンギヤ)と、第1出力軸14の他端側にほぼ直交するかたちで配置されるラックバー30の軸方向一端側の所定範囲に形成される第1ラック歯R1と、が噛合してなり、第1出力軸14の回転方向に応じてラックバー30が軸方向へと移動することによって、当該ラックバー30の両端部に連係される図外の転舵輪の向きが変更されるようになっている。
【0015】
一方、前記アシスト系ラック・ピニオン構成部20は、所定の減速機構を介して電動モータMの駆動軸に連係される第2出力軸22と、該第2出力軸22の回転運動をラックバー30の直線運動へと変換することで転舵に供する第2ラック・ピニオン機構21と、から主として構成されている。なお、前記減速機構については、後述する第2ハウジング42の上部側に設けられた第1ギヤ収容部内に収容されるものであって、電動モータMの駆動軸先端に連結されるウォームシャフト23と、第2出力軸22の基端部外周に固定されたウォームホイール24と、からなるウォーム歯車により構成されている。
【0016】
前記第2ラック・ピニオン機構21は、第2出力軸22の先端部外周に形成された第2ピニオン歯P2(本発明に係る第2ピニオンギヤ)と、第2出力軸22の先端部にほぼ直交するかたちで配置されるラックバー30の軸方向他端側の所定範囲に形成される第2ラック歯R2と、が噛合してなり、第1ラック・ピニオン機構11と同様に、第2出力軸22の回転方向に応じてラックバー30が軸方向へ移動することとなる。この際、電動モータMが前記トルクセンサ15による検出結果や図外の車輪等に配設された車速センサからの車速信号等に基づいて制御され、これによって、運転者の操舵トルクに応じた適切な操舵アシストトルクが図示外の転舵輪に伝達されることとなる。
【0017】
前記ラックバー30は、図2に示すように、2つの軸部材を結合(接合)してなるもので、第1ラック歯R1が形成された第1部材31と、第2ラック歯R2が形成された第2部材32と、が周方向において互いに同位相となるように摩擦圧接されることで構成されている。
【0018】
そして、前記第1部材31は、その全体がほぼ丸棒状に構成されたもので、その所定の軸方向範囲に第1ラック歯R1が一面状に鍛造されると共に、当該第1ラック歯R1が形成された部位を除き、横断面がほぼ円形状となるように構成されている。換言すれば、前記一面状の第1ラック歯R1と、その周方向反対側の部分(背部)に形成される円形部B1と、により、第1ラック歯R1を有する第1ラック歯形成部が構成されている。そして、かかる第1部材31は、その円筒状に形成された一端部が摩擦圧接によって第2部材32の一端部に接合される。
【0019】
一方、前記第2部材32は、第2ラック歯R2の形成領域が異形に構成されたもので、その所定の軸方向範囲に第2ラック歯R2が前記第1ラック歯R1と同様に一面状に鍛造されると共に、その背部が横断面Y字状となるように鍛造されて、第2ラック歯R2の形成されていない両端部32a,32bのみがほぼ円筒状に形成されている。換言すれば、前記一面状の第2ラック歯R2と、その背部に形成される異形部B2と、により、第2ラック歯R2を有する第2ラック歯形成部が構成されている。また、かかる第2部材32は、その一端部32aの外端側が段差縮径状に形成されることで第1部材31の一端部とほぼ同径に形成され、前記摩擦圧接によって第1部材31と段差なく接合される。
【0020】
また、前記ラックバー30の一端側(第1部材31)と第1出力軸14とは、図1及び図2に示すように、2つに分割して構成されたハウジングのうち第1ハウジング41の下部側に設けられた第1ギヤ収容部内にて収容されている。この第1ギヤ収容部は、前記ラックバー30の一端側を軸方向へと移動可能に収容する第1ラック収容部43と、該第1ラック収容部43と交差するようにラックバー30の一端側正面(第1ラック歯R1)へと臨むように設けられ、第1出力軸14を回転自在に収容する第1ピニオン収容部44と、から構成されていて、これら両収容部43,44の連通部においてラックバー30と第1出力軸14とが噛合することとなる。
【0021】
また、前記第1ハウジング41内には、ラック収容部43に対してほぼ直交するかたちで穿設され、一端側が外部へと開口して他端側がラックバー30の一端側背面に臨むようにして構成されたほぼ円筒状の第1リテーナ収容部45が設けられていて、かかる第1リテーナ収容部45内には、ラックバー30の一端側を第1出力軸14側(第1ラック歯R1と第1ピニオン歯P1との噛み合い方向)へと付勢することで当該ラックバー30と第1出力軸14との適正な噛み合い状態を保持する第1リテーナ機構が収容されている。
【0022】
一方、前記ラックバー30の他端側(第2部材32)と第2出力軸22とは、前記分割形成された他方のハウジングである第2ハウジング42の下部側に設けられた第2ギヤ収容部内にて収容されている。この第2ギヤ収容部は、前記第1ハウジング41に係るギヤ収容部と同様、ラックバー30を軸方向へ移動可能に収容する第2ラック収容部46と、該第2ラック収容部46と交差するようにしてラックバー30の他端側正面(第2ラック歯R2)へと臨むように配置され、第2出力軸22を回転自在に収容する第2ピニオン収容部47と、から構成されていて、これら両収容部46,47の連通部においてラックバー30と第2出力軸22とが噛合することとなる。
【0023】
また、前記第2ハウジング42内には、前記第1ハウジング41と同様に、ラック収容室46に対してほぼ直交するかたちで穿設され、一端側が外部へと開口し他端側がラックバー30の他端側背面に臨むように構成されたほぼ円筒状の第2リテーナ収容部48が設けられていて、この第2リテーナ収容部48内には、ラックバー30の他端側を第2出力軸22側(第2ラック歯R2と第2ピニオン歯P2との噛み合い方向)へと付勢することで当該ラックバー30と第2出力軸22との適正な噛み合い状態を保持する第2リテーナ機構が収容されている。
【0024】
ここで、前記第1ハウジング41と第2ハウジング42との連結は、当該各ハウジング41,42の接合端部にそれぞれ拡径状に形成された接続部である第1、第2フランジ部51,52を介して、複数のボルト50をもって行われている。具体的には、図3に示すように、前記第1フランジ部51には、前記両ハウジング41,42の連結時に後記の各雌ねじ孔54に対し所定の周方向範囲ω(本実施形態では±5°の範囲)で重合可能な複数の長孔53(本発明に係るボルト挿通孔)が、それぞれ第2フランジ部52と対峙する方向(第1ラック収容部43の延出方向)に沿って、当該第1フランジ部53の径方向に対し周方向へと延びるかたちで貫通形成されている。一方、前記第2フランジ部52には、第1フランジ部51との対峙方向(第2ラック収容部46の延出方向)において前記各長孔53に重合すると共に前記各ボルト50がそれぞれ螺合可能な複数の雌ねじ孔54が、当該第1フランジ部51との対峙方向に沿って貫通形成されている。このような構成から、前記電動パワーステアリング装置では、第2ハウジング42に対し第1ハウジング41の回転方向(ラックバー30の長手方向を回転軸方向としたときの回転方向)へと相対回転可能に構成され、前記所定の周方向範囲ω内で角度位置をずらして組み付けることが可能となっている。
【0025】
そして、かかる組付角度位置を調整可能にすることに伴い、前記第1、第2フランジ部51,52の外周面には、図4に示すように、両ハウジング41,42の相対位置合わせの目印となる切欠溝状の第1、第2マーク55,56が設けられており、当該両マーク55,56を合致させるように組み付けることで、前記両ハウジング41,42が適正に組み付けられ、前記両ラック・ピニオン機構11,21についての適正な噛み合いが得られる構成となっている。具体的には、第1マーク55については、第1ピニオン歯P1を基準に設けられるものであって、第1ハウジング41の製造時に第1ピニオン収容部44を基準として第1フランジ部51に付与される。一方、第2マーク56については、第1ラック歯R1を基準に設けられるものであって、第2ハウジング42に第2出力軸22及びラックバー30を組み付けた後に、当該組付後のラックバー30の第1ラック歯R1を基準として第2フランジ部52に付与される。これにより、第1ラック・ピニオン機構11における適正な噛み合いと、第2ラック・ピニオン機構21の適正な噛み合いと、の両立が可能となる。
【0026】
また、図2に示すように、前記第1フランジ部51の第2フランジ部52との対向端面には、その内周側部分に、第1ラック収容部43の延出方向に沿うように突出する嵌合凸部57が突設されている一方、第2フランジ部52の第1フランジ部51との対向端面には、第2ラック収容部46の延出方向に沿うように窪むことにより前記嵌合凸部57を受容可能とする嵌合凹部58が穿設されていて、これら両フランジ部51,52の接続時には、前記嵌合凸部57と嵌合凹部58とが嵌合することによって、当該両フランジ部51,52の径方向の位置決めを行いながら、これら両フランジ部51,52の対向端面同士がより密着可能となるように構成されている。
【0027】
前記第1、第2ブラケット60,70は、図1及び図5に示すように、それぞれ第1、第2ハウジング41,42と一体形成された第1、第2筒状部61,71と、該第1、第2筒状部61,71内にそれぞれ装入されるほぼ円筒状の第1、第2緩衝部材である第1、第2ブッシュ62,72と、から主として構成されている。なお、これら両ブラケット60,70は、いずれも同一の形態をもって構成されていることから、当該各ブラケット60,70の詳細につき、以下では第1ブラケット60のみについて説明する。
【0028】
前記第1筒状部61は、第1ラック収容部43の接線方向に沿って設けられ、その内周側に、前記第1ブッシュ62の収容保持に供する横断面ほぼ円形状の第1ブッシュ収容部63が構成されている。この第1ブッシュ収容部63は、その軸方向両端から中間部へ向かって漸次縮径することによって当該中間部が最も細くなる括れ部63aとして構成されると共に、その軸方向両端側には、後述する第1ブッシュ62の各大径部65d,66dを受容する1対の逃げ溝64a,64bが切欠形成されている。そして、これら一対の逃げ溝64a,64bは、その径方向範囲が第1ブッシュ62の前記各大径部65d,66dの外径よりも十分に大きく設定されている。
【0029】
前記第1ブッシュ62は、例えば合成ゴム等の弾性材料によって形成され、2つに分割して構成された一対のアッパブッシュ65とロワブッシュ66からなり、これら両ブッシュ65,66はいずれも同一の形態をもって構成されている。すなわち、これら両ブッシュ65,66は、第1ブッシュ収容部63内において互いに突き合わせ状態に収容される小径部65a,66aと、該各小径部65a,66aの両端部に切欠状に設けられた基端側縮径部65b,66b及び先端側縮径部65c,66cと、前記各小径部65a,66aから基端側縮径部65b,66bを挟んでそれぞれ拡径状に形成され、第1ブッシュ収容部63の両開口端の内径よりも大きな外径に設定された大径部65d,66dと、を有し、前記各小径部65a,66aが第1ブッシュ収容部63内に圧入されることで当該第1ブッシュ収容部63に保持されている。
【0030】
そして、このように構成された第1ブッシュ62では、前記各ブッシュ65,66の前記各小径部65a,66aの両端部にそれぞれ前記各縮径部65b,65c、66b,66cが設けられることで、前記各縮径部65b,65c、66b,66cが設けられる上端側、下端側及び中間部の3点において、比較的脆弱な第1〜第3変形容易部F1〜F3が構成されている。すなわち、前記第1ブラケット60では、第1ブッシュ62に前記各変形容易部F1〜F3が設けられると共に、前記第1ブッシュ収容部63の中間部に括れ部63aが、また、その両端部に前記各逃げ溝64a,64bが設けられていることにより、第1ブッシュ62が、第1ブッシュ収容部63内において、第1ブッシュ収容部63の内周面に圧接する前記各小径部65a,66aを中心(支点)として図5中の左右方向へと回動状に弾性変形することが可能となっている。
【0031】
また、前記両ブッシュ65,66の内周側には、図示外のボルトが挿通することによって前記各ハウジング41,42の車体への取付に供するボルト挿通孔65e,66eが設けられていて、これら各ボルト挿通孔65e,66eは、それぞれ両端側が、軸方向外側へ向かって漸次拡径する一対のテーパ状拡径部65f,65g、66f,66gとして構成されている。なお、かかるテーパ状拡径部65f,65g、66f,66gのテーパ角δは、第1ブッシュ収容部63の両端側の曲面に係る接線のなす角δxに応じて設定される。
【0032】
以下、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の組立ないし車体への組付方法について、図1〜図5に基づいて説明する。
【0033】
まず、前記第2ハウジング42に対し、第2出力軸22やラックバー30等を適正に組み付けることによって、第2ラック・ピニオン機構21の組み付けを完了させる。その後、この組み付けたラックバー30の第1ラック歯R1を基準として第2フランジ部52に第2マーク56を付与すると共に、第1ハウジング41に第1出力軸14を組み付ける。
【0034】
続いて、前記第2ラック・ピニオン機構21が構成された第2ハウジング42の嵌合凹部58に対し、前記第1出力軸14が組み付けられた第1ハウジング41の嵌合凸部57を嵌挿することによって、当該両ハウジング41,42を仮組みする。その後、前記両マーク55,56が相互に合致するように前記両ハウジング41,42の相対角度位置を調整した後、前記各長孔53を通じ前記各雌ねじ孔54に前記各ボルト50を螺着することによって、当該両ハウジング41,42を締結する。そして、前記第1リテーナ機構を組み付けることで、電動パワーステアリング装置自体の組立が完了する。
【0035】
次に、この組立が完了した電動パワーステアリング装置の前記両ブラケット60,70のボルト挿通孔62a,72aへとそれぞれ図示外のボルトを挿通させ、該各ボルトを介してこの電動パワーステアリング装置を車体に締結することによって、該電動パワーステアリング装置を車体へ組み付ける。
【0036】
ここで、前記両ハウジング41,42の接合工程において当該両ハウジング41,42の相対角度位置の調整を行ったことにより、特に当該位置調整可能(相対回動可能)に構成された第1ハウジング41においては、これと一体に構成された第1ブラケット60につき、車体に対する角度位置にズレが生じてしまうこととなる。
【0037】
ところが、本実施形態では、前記第1ブッシュ収容部63内で第1ブッシュ62(前記各ブッシュ65,66)が回動(傾倒)するように弾性変形可能に収容配置されていることから、第1ブラケット60を前記図示外のボルトを介して車体へと締結したときに当該ボルトの延出軸方向と第1ブラケット60(第1筒状部61)との間に前述のような角度位置ズレが生じている場合には、当該ボルトの延出軸方向に応じて第1ブッシュ62が第1ラック収容部43の周方向である前記第1ハウジング41の回転方向(図5中のほぼ左右方向)へ傾倒するように弾性変形することとなる。すなわち、前記第1ハウジング41の相対角度位置の調整に伴い第1ブラケット60の前記車体に対する角度位置にズレが生じてしまっていても、上記傾倒変形した第1ブッシュ62をもって装置を車体へと適切に組み付けることができる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置においては、前記第1、第2出力軸14,22及びラックバー30を収容するハウジングを噛合部毎に相当する第1ハウジング41及び第2ハウジング41,42に分割して構成すると共に、当該分割した両ハウジング41,42につき、前記第2ハウジング42の回転方向における第1ハウジング41の相対角度位置を調整可能に構成したことによって、特に高精度な加工を施すことなく前記各出力軸14,22(前記各ピニオン歯P1,P2)とラックバー30(前記各ラック歯R1,R2)との良好な噛み合いを実現することができる。
【0039】
しかも、前記第1、第2ブラケット60,70のうち少なくとも位置調整側となる第1ハウジング41の車体への取付に供する第1ブラケット60につき、第1筒状部61内において第1ブッシュ62を傾倒変形可能となるように構成したことから、前記第2ハウジング42に対する第1ハウジング41の相対角度位置の調整によって装置の車体取付に不具合を招来してしまうおそれがなく、当該装置(第1ハウジング41)の車体への組付の最適化に供される。
【0040】
また、前記両ハウジング41,42のフランジ部51,52には、それぞれ前記各マーク55,56を設けたことによって、当該両ハウジング41,42を、前記両マーク55,56を合致させるように組み付けるのみで、前記第2ハウジング42に対する第1ハウジング41の相対角度位置を確実かつ容易に調整することが可能となることから、これによって、装置の組立作業性が低下してしまうといった不都合の抑制に供され、当該装置の組立作業性の向上が図れる。
【0041】
さらに、前記両フランジ部51,52を、前記凹凸嵌合をもって接合する構成としたことによって、前記第2ハウジング42に対する第1ハウジング41の相対角度位置の調整時における当該両ハウジング41,42の径方向位置についての位置決めが可能となり、これによって、当該位置調整作業をさらに容易に行うことができると共に、前記両ハウジング41,42の組付精度向上による前記各ピニオン歯P1,P2と前記各ラック歯R1,R2との一層良好な噛み合いの実現に供される。
【0042】
図6及び図7は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の第2実施形態を示したものであって、前記第2ブラケット60の構成を変更したものである。なお、かかる構成以外の基本的構成については前記第1実施形態と同様であるため、当該第1実施形態と同一の構成及び作用については、当該第1実施形態と同一の符号を付すことによってその説明を省略する。
【0043】
すなわち、本実施形態に係る第2ブラケット80は、第2ハウジング42とは別体に構成され、該第2ハウジング42の外周に相対回転可能に嵌着されて、装置の車体への組付に伴って第2ハウジングに42に対し強固に固定される。より詳しくは、前記第2ブラケット80は、第2ハウジング42における第2ラック収容部46の外周壁に沿って当該外周壁の半周以上を抱時するように構成された嵌着部83を有する非円形状のブッシュ81と、該ブッシュ81の外周に前記嵌着部83側から外嵌可能に構成され、その両端部に設けられた一対のフランジ部84,84を介して車体への取付に供する取付部材82と、から構成され、ブッシュ81に嵌着された取付部材82を、前記両フランジ部84,84を介して図示外のボルトにより車体に組み付けることで、第2ハウジング42がブッシュ81を介して車体に取り付けられることとなる。
【0044】
前記ブッシュ81は、前記第1実施形態に係る各ブッシュ62,72と同様、合成ゴム等の弾性材料によって形成され、前記嵌着部83が形成される円形状部81aと、該円形状部81aの一側部(半周部)に設けられ、取付部材82との相対回転防止に供する矩形状部81bと、から構成され、その外周部には、前記円形状部81aから前記矩形状部81bへと連続して取付部材82の外嵌に供する一連の嵌着溝85が切欠形成されている。前記矩形状部81bの幅方向の中間位置には、ブッシュ81の第2ハウジング42への嵌着に供するスリット86が設けられていて、該スリット86を挟んだ両側に一対の抱持部87,87が構成されている。
【0045】
前記取付部材82は、金属製の帯板をほぼU字形状に曲折してなるもので、当該U字形状に形成されてブッシュ81の保持に供する保持部88と、該保持部88の長手方向両端部に折曲形成された前記一対のフランジ部84,84と、を有している。ここで、前記保持部88は、ブッシュ81に対して所定の締め代をもって外嵌するように構成されていて、該ブッシュ81に外嵌した状態で保持可能となっている。また、前記両フランジ部84,84は、ブッシュ81の矩形状部81bの車体接地面90と面一となるよう折曲形成され、そのほぼ中央部に、前記図示外のボルトが挿通するボルト挿通孔84a,84aが貫通形成されている。
【0046】
以上のように構成された本実施形態に係る電動パワーステアリング装置では、前記両ハウジング41,42の相対角度位置を調整して当該両ハウジング41,42を前記各ボルト50によって締結した後、当該装置を車体へと組み付ける前に、第2ブラケット80を第1ハウジング41へと組み付ける。具体的には、ブッシュ81の前記両抱持部87,87を径方向外側へと開くように弾性変形させて、この広げたスリット86を介して当該第1ブッシュ81を第1ハウジング41の第2ラック収容部46の外周壁に嵌着させ、その後、当該ブッシュ81に対し円形状部81a側から取付部材82を嵌着溝85に沿って外嵌することによって、当該取付部材82をブッシュ81に組み付ける。そして、このアッセンブリされた第2ブラケット80について第2ハウジング42に対する回転方向位置を調整した後、前記図示外のボルトを取付部材82のボルト挿通孔84a,84aに挿通して車体に螺着することにより、当該第2ブラケット80を介して第2ハウジング42(前記電動パワーステアリング装置)が車体へと組み付けられることとなる。なお、第1ハウジング41については、前記第1実施形態と同様の方法により前記第1ブラケット60をもって車体に組み付けられることとなる。
【0047】
このように、本実施形態では、前記角度位置調整に係る第2ハウジング42の固定に供する第2ブラケット80につき、その取付角度位置が前記第2ハウジング42の回転方向において調整可能となるように構成したことから、前記両ハウジング41,42の接合後における装置の車体組付前に第2ブラケット80を第2ハウジング42へと適切に固定することが可能となり、かかる手段によっても、前記第2ハウジング42の角度位置調整による装置の車体組付に係る不具合を抑制できると共に、車体に対する装置(第2ハウジング42)の組付の最適化を図ることができる。
【0048】
また、とりわけ、本実施形態の場合には、前記第2ハウジング42に対する第2ブラケット80の相対角度位置を自由に決定できるため、当該第2ハウジング42に対する取付位置(相対角度位置)をより最適化できると共に、装置の汎用性の向上にも供される。
【0049】
本発明は前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記各長孔53の周方向長さ(前記両ハウジング41,42の相対回転可能量)については、電動パワーステアリング装置の仕様やコスト等に応じて自由に変更することができる。
【0050】
また、前記第2実施形態に係る第2ブラケット80についても、前述のようにブッシュ81を取付部材82で締結することによって第2ハウジング42に固定する方法のほか、例えば特開2011−126479号公報に記載されているように第2ハウジング42に対する回転方向位置を調整した後に当該第2ハウジング42に対しブラケットを溶接するかたちで固定する方法を採用することも可能であって、第2ハウジング42に対する回転方向位置が調整可能に構成されてさえいれば、具体的な固定手段は問わない。
【0051】
前記各実施形態から把握される本願の特許請求の範囲に記載した以外の技術的思想につき、以下に説明する。
【0052】
(1)請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記第1ハウジング及び第2ハウジングの一方又は両方に、該両ハウジングの回転方向位置の決定に供する目印を設けたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0053】
かかる構成とすることで、前記目印を基準として、ハウジング内における両ピニオンギヤ及びラック歯の角度を判断することができ、装置の組立作業性の向上に供される。
【0054】
(2)請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記第1ハウジングに、車両への搭載に供する第1ブラケットを設けると共に、
前記第2ハウジングに、車両への搭載に供する第2ブラケットを設け、
前記第1ブラケット及び第2ブラケットの一方又は両方について、前記第1ハウジング又は第2ハウジングに対する前記回転方向の相対位置を調整可能に構成したことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0055】
このように、第1ハウジングと第2ハウジングの前記回転方向における相対位置を調整可能とすることに伴って第1ブラケット又は第2ブラケットの回転方向に係る位置を調整可能としたことにより、車両に対する装置の取付を最適化することが可能となる。
【0056】
換言すれば、前記両ハウジングの回転方向の相対位置を調整可能とすることにあたって、装置の車両への取付に係る不都合を招来するおそれがなくなる。
【0057】
(3)請求項3に記載の電動パワーステアリング装置であって、
前記第1ハウジングは、該第1ハウジングの外周側に設けられてほぼ筒状に形成された第1筒状部と、該第1筒状部内に収容される合成ゴム又は合成樹脂材からなる第1緩衝部材と、を有する、車両への搭載に供する第1ブラケットを備える一方、
前記第2ハウジングは、該第2ハウジングの外周側に設けられてほぼ筒状に形成された第2筒状部と、該第2筒状部内に収容される合成ゴム又は合成樹脂材からなる第2緩衝部材と、を有する、車両への搭載に供する第2ブラケットを備え、
前記第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方又は両方について、前記第1ハウジング又は第2ハウジングに対する前記回転方向の取付角度が調整可能に構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0058】
このように、第1ハウジングと第2ハウジングの前記回転方向における相対位置を調整可能とすることに伴って第1緩衝部材又は第2緩衝部材の前記回転方向に係る位置を調整可能としたことにより、車両に対する装置の取付を最適化することが可能となる。
【0059】
換言すれば、前記両ハウジングの回転方向の相対位置を調整可能とすることにあたって、装置の車両への取付に係る不都合を招来するおそれがなくなる。
【符号の説明】
【0060】
14…第1出力軸(第1ピニオンギヤ)
22…第2出力軸(第2ピニオンギヤ)
30…ラックバー
41…第1ハウジング
42…第2ハウジング
43…第1ラック収容部(第1ラックバー収容部)
44…第1ピニオン収容部(第1ピニオンギヤ収容部)
46…第2ラック収容部(第2ラックバー収容部)
47…第2ピニオン収容部(第2ピニオンギヤ収容部)
51…第1フランジ部(第1接続部)
52…第2フランジ部(第2接続部)
M…電動モータ(電動機)
P1…第1ピニオン歯(第1ピニオンギヤ)
P2…第2ピニオン歯(第2ピニオンギヤ)
R1…第1ラック歯
R2…第2ラック歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵操作に伴って回転する第1ピニオンギヤと、
前記第1ピニオンギヤと噛合する第1ラック歯が軸方向一方側に形成され、他方側に第2ラック歯が形成されるラックバーと、
前記第2ラック歯と噛合する第2ピニオンギヤと、
前記第2ピニオンギヤを介してラック軸に操舵アシスト力を付与する電動機と、
前記第1ピニオンギヤを収容し、かつ、回転自在に支持する第1ピニオンギヤ収容部と、前記ラックバーの前記第1ラック歯の少なくとも一部を収容し、かつ、回転自在に支持する第1ラックバー収容部と、を有する第1ハウジングと、
前記第2ピニオンギヤを収容し、かつ、回転自在に支持する第2ピニオンギヤ収容部と、前記ラックバーの前記第2ラック歯の少なくとも一部を収容し、かつ、回転自在に支持する第2ラックバー収容部と、を有する第2ハウジングと、
前記第1ハウジングに係る前記第2ピニオンギヤ側の端部に設けられ、前記第2ハウジングとの接続に供する第1接続部と、
前記第2ハウジングに係る前記第1ピニオンギヤ側の端部に設けられ、前記第1ハウジングとの接続に供する第2接続部と、を備え、
前記第1接続部及び第2接続部の一方又は両方について、前記ラックバーの長手方向を回転軸方向としたときの前記両ハウジングの回転方向における相対位置が調整可能となるように構成されていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記第1接続部及び第2接続部は、それぞれの径方向に対し周方向へ延びるように設けられたボルト挿通孔を有し、
前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとは、前記第1接続部と前記第2接続部のそれぞれに設けられた前記各ボルト挿通孔に挿通されるボルトにより連結されることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記第1接続部と前記第2接続部とは、相対回転可能な凹凸嵌合をするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−71684(P2013−71684A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213612(P2011−213612)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】