説明

電動工具及び電動工具の製造方法

【課題】回路基板やステータコイルの防塵性能を向上させると共に回路基板の冷却性を確保した電動工具及び電動工具の製造方法の提供。
【解決手段】先端工具を駆動するブラシレスモータを備え、モータは、筒状に形成されたステータ31と、ステータ31内部に配置されたロータと、ステータ31に接続されたモータ駆動回路装置33と、を有し、ステータ31は、モータ駆動回路装置33に電気的に接続されるコイル31Bを有し、コイル31Bはコーティング材31Dにより被覆され、モータ駆動回路装置33は、絶縁カバー部材33Dで被覆されている電動工具及び電動工具の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動工具に関し、特にブラシレスモータを備える電動工具及び電動工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ブラシレスモータ(DCモータ)は、小形化が可能であり、回転軸に取り付けられるロータに対しブラシおよび整流子を用いた電気的接続が不要となるので、高寿命が可能である。ブラシレスモータには、ロータの回転を制御するインバータ回路基板(モータ駆動回路基板)が設けられており、インバータ回路基板のスイッチング素子を構成する出力トランジスタは、ロータ周囲に配置されるステータコイルに大電流の駆動信号を供給する。
【0003】
これらインバータ回路基板等に対し、雨水や粉塵に対する保護構造として下記特許文献1に開示されているように、スイッチング素子の発熱を放出させるための放熱部材を備え、更に、上記電子回路部が有する電子部品、コイル接続部、制御回路部接続部、回路基板、及び上記放熱部材を一体に覆うように、絶縁カバー部材をモールド成形した構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−062803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の電動工具では、インバータ回路基板に対する冷却と雨水や粉塵に対する保護を両立させねばならず、放熱部材を一体に保護するため、工具が大型化するといった問題があった。また、ステータコイルに対する保護は、ステータコイルにコーティングされているエナメル被覆とワニス被覆のみで非常に薄く、微小な粉塵環境であっても、長時間使用することで、ステータコイル被覆が剥離し、ステータコイルの巻き線同士がショートし、モータの特性が変化する可能性があった。そこで本発明は、回路基板やステータコイルの防塵性能を向上させると共に回路基板の冷却性を確保した電動工具及び電動工具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、先端工具を駆動するブラシレスモータを備え、該ブラシレスモータは、筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該ステータに接続された回路基板と、を有し、該ステータは、該回路基板に電気的に接続されるコイルを有し、該コイルは第一樹脂材により被覆されている電動工具を提供する。
【0007】
このような構成によると、コイルが第一樹脂材により被覆されて保護されるため、コイルを塵や水滴等から保護することができる。
【0008】
上記構成の電動工具において、該回路基板は第二樹脂材により該回路基板全体が被覆されていることが好ましい。
【0009】
このような構成によると、回路基板が第二樹脂材により被覆されて保護されるため、回路基板を塵等から保護することができる。
【0010】
該コイルは、該第一樹脂材の一部が該第二樹脂材により覆われるように該回路基板に接続されていることが好ましい。
【0011】
このような構成によると、例えばコイルにおいて回路基板に電気的に接続される引出部が、第二樹脂材により覆われる構成を得ることができる。よって回路基板とコイルとのすべてを第一樹脂材若しくは第二樹脂材の少なくともいずれかで覆うことができ、ブラシレスモータにおいて電流が流れる箇所を樹脂で覆うことができる。
【0012】
また該第一樹脂材は、熱硬化性樹脂であることが好ましい。また該第一樹脂材は、主剤と硬化剤とを混合して硬化する樹脂であってもよい。
【0013】
また上記課題を解決するために、先端工具を駆動するブラシレスモータを備え、該ブラシレスモータは、筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該ステータに接続され複数のスイッチング素子を備える回路基板と、を有し、該回路基板は、樹脂材により該回路基板全体が被覆されている電動工具を提供する。
【0014】
このような構成によると、回路基板が樹脂材により被覆されて保護されるため、回路基板を塵等から保護することができる。
【0015】
上記構成の電動工具において、該樹脂材は、該スイッチング素子の形状に沿うように該回路基板を被覆していることが好ましい。
【0016】
このような構成によると、回路基板を被覆した樹脂材の肉厚を全体的に薄肉にすることができ、回路基板の冷却性を確保している。また薄肉にすることにより、樹脂材と一体の回路基板を小型化することができるので、ハウジング内に空間的余裕ができ、電動工具を構成する部品、例えばネジ等の配置を容易にすることができる。
【0017】
また該ステータと該回路基板との間には、該ステータと該回路基板とを接続する保持部材が介在し、該保持部材には該ステータの該筒状内部に連通する開口が二箇所以上形成されていることが好ましい。
【0018】
このような構成によると、回路基板をステータに装着した状態で回路基板に樹脂材を付設する際に、開口からステータ内部に位置する回路基板にまで樹脂材を行き渡らせることができ、確実に回路基板全体を樹脂材で覆うことができる。
【0019】
また該樹脂材は、主剤と硬化剤とを混合して硬化する樹脂であることが好ましい。また該樹脂材は、ウレタン樹脂であってもよい。
【0020】
また該ブラシレスモータを覆うハウジングを更に有し、該ブラシレスモータと該ハウジングとの間には、冷却通路が形成され、該回路基板は該冷却通路に面して配置されていることが好ましい。
【0021】
このような構成によると、確実に回路基板を冷却することができる。
【0022】
また上記課題を解決するために、引出部を備えるコイルを有し筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該引出部が電気的に接続された回路基板とを有し、先端工具を駆動するブラシレスモータを備えた電動工具の製造方法であって、該コイル及び該引出部を第一樹脂材で被覆するコイル被覆工程と、該引出部の端部に被覆された該第一樹脂材を剥離する引出部剥離工程と、該引出部の端部を該回路基板に電気的に接続する接続工程と、該回路基板と該引出部の該端部及び該第一樹脂材で覆われた部分とを第二樹脂で被覆する回路基板被覆工程と、を備える製造方法を提供する。
【0023】
このような方法によると、コイルと回路基板とを確実に第一樹脂及び第二樹脂の少なくとも一方で覆うことができ、ブラシレスモータにおいて電流が流れる箇所を樹脂で覆うことができる。

【発明の効果】
【0024】
本発明の電動工具によれば、回路基板やステータコイルの防塵性能を向上させ、かつ冷却性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバの側面断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバの後方上方からの部分切取斜視図。
【図3】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバのステータの斜視図。
【図4】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバのステータ及びモータ駆動回路装置の側面後方からの斜視図。
【図5】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバのステータ及びモータ駆動回路装置の側面一部断面図。
【図6】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバのステータ及びモータ駆動回路装置の断面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るインパクトドライバのステータ及びモータ駆動回路装置の側面前方からの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図7に基づき説明する。図1に示される電動工具であるインパクトドライバ1は、ビットやソケット等の先端工具により、ボルトやナット、ねじを締結する工具であり、図1に示されるように、主に、ハウジング2と、モータ3と、ギヤ機構4と、インパクト機構5と、から構成され、充電式の電池6を電源として駆動される工具である。
【0027】
ハウジング2は、6ナイロンから構成されている樹脂ハウジングであり、モータ3等が収容される胴体部2Aと、胴体部2Aから延出されるハンドル2Bとを備えており、胴体部2A及びハンドル2B内部に収容空間が画成され、後述の上下方向及び前後方向に延びる平面で二分割され略対称な分割ハウジングで構成されている。収容空間において胴体部2A内に該当する箇所には、上述のモータ3とギヤ機構4とインパクト機構5とが同軸上に一端側から他端側に向かって並んで配置されている。このモータ3とギヤ機構4とインパクト機構5とが並んでいる軸方向においてモータ3側を後側として前後方向と定義する。また前後方向と直交する方向であって胴体部2Aからハンドル2Bが延出される方向を下方向として上下方向を定義する。
【0028】
胴体部2Aにおいて、モータ3の前後位置かつ胴体部2Aの左右側面位置には、それぞれ図示せぬ排気口、吸気口2a(図2)が形成されている。ハウジング2において、ハンドル2Bの下端位置には、電池6が装着されて電気的に接続される端子部21が配置されている。端子部21の上部にはモータ3の回転を制御する制御回路部100が配置されている。ハンドル2Bの根元部分には、作業者が操作するトリガ23Aが設けられると共に、トリガ23A及び制御回路部100に接続されモータ3への導通を制御するスイッチ部23Bが設けられている。またハンドル2Bの根元であってトリガ23Aの上方には、モータ3の回転方向を切り替える図示せぬ正逆切換レバーが設けられている。ハウジング2において前端であってインパクト機構5の下方には、制御回路部100に接続され前側に向けて照射するLEDライト25が設けられている。また図1、図2に示されるようにハウジング2内には、モータ3周囲であって吸気口2aから図示せぬ排気口に跨る冷却通路2cが形成されている。
【0029】
モータ3は、DCブラシレスモータであり、ステータ31と、ロータ32と、モータ駆動回路装置33とを主に備えている。ステータ31は、筒状に構成されてモータ3の外殻をなし、外周面がハウジング2に保持されている。図3に示されるように、ステータ31は、内部に前後方向に延びるスロット31aが周方向に均等配置されるように六本形成されており、隣り合うスロット31aの間には、それぞれ巻回部31Aが規定されている。それぞれの巻回部31Aには、絶縁導線が巻回されてコイル31Bが構成されており、コイル31Bからは絶縁導線の両端である引出部31Cが延出されている。この引出部31Cを含むコイル31Bにおいて少なくとも露出している箇所は、熱硬化性の第一樹脂材であるコーティング材31Dでコーティングされている。
【0030】
図1に示されるように、ロータ32は、ステータ31内に回転可能に配置され、その回転軸位置に前後方向に延びるロータシャフト32Aが同軸一体回転するように設けられている。ロータシャフト32Aおいて前端には、ファン32Bとピニオンギヤ32Cとが同軸一体回転するように装着されると共にベアリング32Dが装着されて後述の枠体4Aに支承されている。またロータシャフト32Aにおいて後端には、ベアリング32Eが装着されて胴体部2Aに支承されている。これらベアリング32D、32Eによりロータシャフト32Aは回転可能に支持されている。ロータシャフト32Aと一体にファン32Bが回転することにより、吸気口2aから胴体部2A内収容空間の冷却通路2cを通り、図示せぬ排気口へと抜ける気流が形成される。
【0031】
回路基板であるモータ駆動回路装置33は、図4に示されるように中心にロータシャフト32Aの後端が貫通可能な開孔33aが形成されて平板状に構成され、図5に示されるようにその平板が前後方向と直交するようにステータ31の後方に配置されて保持部材であるインシュレータ34を介してステータ31に固定されており、図6に示されるように引出部31Cがハンダ等により電気的に接続されている。図5に示されるようにモータ駆動回路装置33の後面には、大型スイッチング素子33A、小型スイッチング素子33B、複数のハンダ部33Cが後方へ向けて突出するように配置されている。小型スイッチング素子33Bの後方への突出量は大型スイッチング素子33Aの後方への突出量より小さくなるように構成されている。ハンダ部33Cは、制御回路部100に接続される導線の、ハンダが盛られた端部である。
【0032】
このモータ駆動回路装置33は、ウレタン樹脂を主剤とし、硬化剤を混合することにより硬化する二液混合型の第二樹脂材である絶縁カバー部材33Dにより覆われている。この絶縁カバー部材33Dは、図5、図6に示されるようにモータ駆動回路装置33全体を覆うように構成されている。モータ駆動回路装置33は、上述のように大型スイッチング素子33A、小型スイッチング素子33B、複数のハンダ部33Cを有しているため、その表面が凹凸状に構成されている。これに対して絶縁カバー部材33Dは、その凹凸に応じてモータ駆動回路装置33を覆っている。即ち、絶縁カバー部材33Dは、過度の肉厚部分が設けられることなく、全体的に薄肉になるようにモータ駆動回路装置33を覆っている。また図6に示されるように、絶縁カバー部材33Dは、モータ駆動回路装置33に接続された引出部31Cを保護しているコーティング材31Dに重なってこの保護しているコーティング材31Dを覆うように構成されている。
【0033】
インシュレータ34は、筒状に構成されており、ステータ31とモータ駆動回路装置33との間に介在している。図4及び図7に示されるようにインシュレータ34の後端位置であってモータ駆動回路装置33の前面に対応する位置には、二箇所の開口34a、34bが形成されている。開口34a、34bはそれぞれインシュレータ34の上部及び下部に形成されており、インシュレータ34内部を通じてステータ31内部と連通している。上述のようにロータ32にはファン32Bが同軸一体回転するように装着されているため、このファン32Bによる気流はステータ31内部にも発生する。ステータ31の後方はモータ駆動回路装置33により塞がれた構成になるため、ステータ31内部に発生した気流により、開口34a、34bを介して外気がステータ31内に取り込まれることになる。開口34a、34bが配置された箇所はモータ駆動回路装置33前面であるがこの位置は吸気口2aに開口する冷却通路2c内であるため、開口34a、34bからステータ31内に取り込まれる外気は、吸気口2aから冷却通路2cを通過するハウジング2外の外気である。
【0034】
胴体部2A内においてモータ3の前側にはギヤ機構4が配置されている。ギヤ機構4は、ピニオンギヤ32Cを太陽ギヤとする遊星歯車機構であり、枠体4Aを外殻としてハウジング2に装着されており、スピンドル41と、リングギヤ42と、複数の遊星ギヤ43とから構成されている。スピンドル41は、遊星ギヤ43を複数支承する遊星キャリアであり、その前端で後述のアンビル52を同軸回転可能に支承し、その後端で枠体4Aにベアリング4Bを介して回転可能に支承されている。スピンドル41において後端近傍位置には、遊星ギヤ43を支承すると共に、後述の第一スプリング54Aを受ける鍔部41Aが設けられている。またスピンドル41には、後述のハンマ53が前後方向へと移動可能に環装されると共に、軸方向に対して斜めに延びる一対の溝41a、41aが形成されており、この溝41a内にそれぞれボール41B、41Bが挿入され、このボール41B、41Bによりハンマ53と接続されている。
【0035】
リングギヤ42は、スピンドル41外周に同軸上に位置するように配置されて枠体4Aに回転不能に固定されている。複数の遊星ギヤ43はそれぞれスピンドル41に回転可能に支承され、リングギヤ42に噛合すると共にピニオンギヤ32Cに噛合している。上記構成により、ピニオンギヤ32Cの回転が減速されてスピンドル41に伝達される。
【0036】
図1に示されるように、インパクト機構5は主に、ハンマケース51と、アンビル52と、ハンマ53と、第一スプリング54Aとから主に構成されている。
【0037】
ハンマケース51は、前端が窄まった円筒状を成しており後端部分でハウジング2の胴体部2Aにモータ3と同軸的に接続され、前端部分にアンビル52を回転可能に支承する軸受51Aを有している。
【0038】
アンビル52は、前後方向に延びる円柱状に構成され、軸受51Aによってハンマケース51に回転可能に支承されると共に、後端に形成された穿孔52a内にスピンドル41の先端部分が隙間嵌めされてスピンドル41に回転可能に支承されている。アンビル52の前端部分には、図示せぬソケットが装着される先端工具装着部52Aが設けられている。先端工具装着部52Aは、アンビル52の前端に形成された装着孔52b内に突出可能な複数のボール52Cと、バネにより後方に付勢されると共に、後方に付勢された状態でボール52Cと当接してボール52Cを装着孔52b内に突出させる操作部52Dとから主に構成されている。またアンビル52の後端には、半径方向かつ相反する方向にそれぞれ延びる一対の被係合部である羽根部52E、52Eが一体に設けられている。
【0039】
ハンマ53は、スピンドル41に環装される貫通孔53aが形成された筒状に構成されている。ハンマ53の前端には一対の係合部であり、羽根部52E、52Eとそれぞれ係合可能な爪部53A、53Aが設けられている。爪部53A、53Aは、ハンマ53の前端から前側に突出し、それぞれ軸周りに180°離れた位置に配置されており、軸周りに対称な形状に形成されている。この爪部53A、53Aの周方向と交差する側面は爪部53Aが先細りするように斜めに構成されている。よってアンビル52に対してハンマ53に負荷がかかった場合には、この側面に沿ってアンビル52がハンマ53に対して相対的に前側へと移動することにより、羽根部52E、52Eが爪部53A、53Aを乗り越え、アンビル52に対してハンマ53が回転することができる。実際の作業時には、アンビル52がハウジング2に対して前側へと移動することが不能であるため、アンビル52に対してハンマ53が後退することにより、同様に羽根部52E、52Eが爪部53A、53Aを乗り越えてアンビル52に対してハンマ53が回転することができる。
【0040】
ハンマ53において貫通孔53a内表面には、一対のボール41B、41Bがそれぞれ挿入される前後方向に延びる溝53b、53bが形成されている。この溝53b、53bと、溝41a、41aとにそれぞれ一対のボール41B、41Bが挿入されることにより、スピンドル41に対してハンマ53が同軸一体回転可能になる。またハンマ53の後端側には、第一スプリング54Aを受ける受部53cが貫通孔53aを画成する壁回りに一連に形成されている。
【0041】
第一スプリング54Aはワッシャを介してスピンドル41の鍔部41Aに担持されており、スピンドル41の鍔部41Aより前端部分が第一スプリング54A内部を挿通し、受部53cに挿入されてハンマ53をスピンドル41に対して軸方向かつ前側方向へ付勢している。よって第一スプリング54Aの付勢方向は軸方向かつ前側方向に一致する。第一スプリング54Aがハンマ53を前側へと付勢することにより、ハンマ53の爪部53A、53Aがアンビル52の羽根部52E、52Eと係合することができる。
【0042】
また上述の負荷時においてハンマ53がアンビル52に対して後退した際にも、羽根部52E、52Eが爪部53A、53Aを乗り越えたと同時に第一スプリング54Aにより、ハンマ53が前側であるアンビル52側へと移動し、爪部53A、53Aと羽根部52E、52Eとが当接する。このようにハンマ53がアンビル52に対して回転し、爪部53A、53Aが羽根部52E、52Eと当接することにより、アンビル52に回転方向の打撃力が加えられる。
【0043】
上記構成のインパクトドライバ1において、モータ3にコーティング材31D及び絶縁カバー部材33Dを付設する工程について以下説明する。先ず、ステータ31において、巻回部31Aに絶縁導線を巻回してコイル31Bを形成し、この状態で粉末状の熱硬化樹脂を含んだスラリーをコイル31B及び引出部31Cを含んだステータ31に塗布し、コイル31B及び引出部31Cに通電する。この通電によりコイル31B及び引出部31Cが発熱し、コイル31B及び引出部31Cに付着した熱硬化性樹脂のみが溶融する。次にコイル31B及び引出部31C以外の箇所に付着している熱硬化性樹脂を除去し、再度より高い出力でコイル31B及び引出部31Cに通電する。この通電により、コイル31B及び引出部31Cに付着している熱硬化性樹脂が硬化し、コーティング材31Dが形成される(コイル被覆工程)。
【0044】
次に引出部31Cの延出端部に被覆されたコーティング材31D及び絶縁被覆を剥離し、導線を露出させる(引出部剥離工程)。
【0045】
次にインシュレータ34を介してモータ駆動回路装置33をステータ31に装着しつつ、導線が露出した引出部31Cをモータ駆動回路装置33上のパターンにハンダ付けして電気的に接続する(接続工程)。この時にハンダ部33Cを構成するその他導線もハンダ付けにより上記パターンに接続する。
【0046】
次に予め構成された図示せぬ外枠内にモータ駆動回路装置33を配置し、この外枠内に主剤と硬化剤とを混合した樹脂を流し込む。この外枠の内部形状は、絶縁カバー部材33Dの外形と一致する形状である。この状態において、モータ駆動回路装置33の上面には、インシュレータ34内部が装着されているため、インシュレータ34内部に位置するモータ駆動回路装置33の上面には樹脂が行き渡らないことが懸念される。しかしインシュレータ34には、上述の開口34a、34bが形成されているため、この開口34a、34bから液状の樹脂がインシュレータ34内部に位置するモータ駆動回路装置33の上面に行き渡り、モータ駆動回路装置33の全周を樹脂で覆うことができる。またモータ駆動回路装置33の全周を樹脂で覆う際に、モータ駆動回路装置33には、引出部31Cが接続されているため、引出部31Cのモータ駆動回路装置33への接続箇所および接続箇所近傍も樹脂で覆われる。引出部31Cにおいてモータ駆動回路装置33に継線された箇所以外は、コーティング材31Dでコーティングされているため、引出部31Cにおいてコーティング材31Dで覆われた箇所も樹脂で覆われることになる。この樹脂が硬化することにより絶縁カバー部材33Dが形成され(回路基板被覆工程)、モータ3がコーティング材31D及び絶縁カバー部材33Dで保護される。
【0047】
上記構成のインパクトドライバ1では、モータ3において通電箇所であるコイル31B及びモータ駆動回路装置33をコーティング材31D及び絶縁カバー部材33Dで覆っているため、ハウジング2内に水滴や塵等の異物が侵入したとしても、コイル31Bやモータ駆動回路装置33が傷つくことが抑制される。よってコイル31Bやモータ駆動回路装置33のショートに起因するモータ特性変化を抑制することができる。
【0048】
また上述のように冷却通路2cにはモータ駆動回路装置33が面しているため、ファン52よってモータ3内に外気を取り込むことにより、モータ駆動回路装置33を好適に冷却することができる。特に本実施の形態では、モータ駆動回路装置33をその形状に沿うよう薄肉に絶縁カバー部材33Dで覆っているため、絶縁カバー部材33Dによってモータ駆動回路装置33の冷却性が損なわれることはなく、好適にモータ駆動回路装置33を冷却することができる。また薄肉にすることにより、絶縁カバー部材33Dと一体のモータ駆動回路装置33を小型化することができるので、ハウジング2内に空間的余裕ができ、インパクトドライバ1を構成する部品、例えばネジ等の配置を容易にすることができる。
【0049】
またハウジング2内に外気を取り込む吸気口2aがハウジング2の左右側面に配置されているのに対して、モータ3内に外気を取り込む開口34a、34bはインシュレータ34の上部及び下部に配置されている。この構成により、吸気口2aから塵等の異物がハウジング2内に侵入したとしても、開口34a、34b内まで侵入することが抑制され、ロータ32の回転が異物によりロックすることを抑制することができる。
【0050】
また上述の製造方法によれば、コイル31Bとモータ駆動回路装置33、及びコイル31Bとモータ駆動回路装置33との継線箇所も確実に樹脂で覆うことができる。特にコイル31Bでは、熱硬化樹脂により上記工程を実施することにより、巻回部31Aに巻回されて外部に露出する表面のすべてを樹脂で覆うことができ、延出される引出部31Cも確実に樹脂で覆うことができる。またモータ駆動回路31Bでは、主剤と硬化剤とを混合した樹脂を用いるが、これらの樹脂は混合後一定の時間が経過した後に硬化し、それまでは流動性を保っているため、絶縁カバー部材33Dの凹凸形状といった複雑な形状を形成することが可能になる。また流動性を保っているため、開口34a、34bからインシュレータ34内部に侵入してモータ駆動回路装置33全体を確実に覆うことができる。また絶縁カバー部材33Dをウレタン樹脂で構成することで、安価にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の電動工具は、上述のインパクトドライバに限定されず、ブラシレスモータを用いる電動工具に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:インパクトドライバ 2:ハウジング 2A:胴体部 2B:ハンドル
2a:吸気口2c:冷却通路 3:モータ 4:ギヤ機構 4A:枠体
4B:ベアリング 5:インパクト機構 6:電池 21:端子部 23A:トリガ
23B:スイッチ部 25:ライト 31:ステータ
31A:巻回部 31B:コイル 31C:引出部 31D:コーティング材
31a:スロット 32:ロータ 32A:ロータシャフト 32B:ファン
32C:ピニオンギヤ 32D:ベアリング 32E:ベアリング
33:モータ駆動回路装置 33A:大型スイッチング素子
33B:小型スイッチング素子 33C:ハンダ部 33D:絶縁カバー部材
33a:開孔 34:インシュレータ 34a、34b:開口 41:スピンドル
41A:鍔部 41B:ボール 41a:溝 42:リングギヤ 43:遊星ギヤ
51:ハンマケース 51A:軸受 52:アンビル 52A:先端工具装着部
52C:ボール 52D:操作部 52E:羽根部 52a:穿孔 52b:装着孔
53:ハンマ 53A:爪部 53a:貫通孔 53b:溝 53c:受部
54A:第一スプリング 55:スラストベアリング部 100:制御回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端工具を駆動するブラシレスモータを備え、
該ブラシレスモータは、筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該ステータに接続された回路基板と、を有し、
該ステータは、該回路基板に電気的に接続されるコイルを有し、
該コイルは第一樹脂材により被覆されていることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
該回路基板は第二樹脂材により該回路基板全体が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
該コイルは、該第一樹脂材の一部が該第二樹脂材により覆われるように該回路基板に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
該第一樹脂材は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の電動工具。
【請求項5】
該第一樹脂材は、主剤と硬化剤とを混合して硬化する樹脂であることを特徴とする請求項2又は請求項3のいずれかに記載の電動工具。
【請求項6】
先端工具を駆動するブラシレスモータを備え、
該ブラシレスモータは、筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該ステータに接続され複数のスイッチング素子を備える回路基板と、を有し、
該回路基板は、樹脂材により該回路基板全体が被覆されていることを特徴とする電動工具。
【請求項7】
該樹脂材は、該スイッチング素子の形状に沿うように該回路基板を被覆していることを特徴とする請求項6に記載の電動工具。
【請求項8】
該ステータと該回路基板との間には、該ステータと該回路基板とを接続する保持部材が介在し、該保持部材には該ステータの該筒状内部に連通する開口が二箇所以上形成されていることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載の電動工具。
【請求項9】
該樹脂材は、主剤と硬化剤とを混合して硬化する樹脂であることを特徴とする請求項6又は請求項8のいずれかに記載の電動工具。
【請求項10】
該樹脂材は、ウレタン樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の電動工具。
【請求項11】
該ブラシレスモータを覆うハウジングを更に有し、
該ブラシレスモータと該ハウジングとの間には、冷却通路が形成され、
該回路基板は該冷却通路に面して配置されていることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか一に記載の電動工具。
【請求項12】
引出部を備えるコイルを有し筒状に形成されたステータと、ステータ内部に配置されたロータと、該引出部が電気的に接続された回路基板とを有し、先端工具を駆動するブラシレスモータを備えた電動工具の製造方法であって、
該コイルを第一樹脂材で被覆するコイル被覆工程と、
該引出部の端部に被覆された該第一樹脂材を剥離する継線部剥離工程と、
該引出部の端部を該回路基板に電気的に接続する接続工程と、
該回路基板と該引出部の該端部及び該第一樹脂材で覆われた部分とを第二樹脂で被覆する回路基板被覆工程と、を備えることを特徴とする電動工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−39653(P2013−39653A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179827(P2011−179827)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)