説明

電動工具

【課題】モータの下流側での冷却効果を向上させた電動工具を提供する。
【解決手段】駆動源であるモータ31と、モータ31のモータ軸32に連結される冷却ファン19と、を備える電動工具において、冷却ファン19に隣接して配置されるファンケーシング36に冷却ファン19により発生する冷却風の流れをモータ31の回転子31bの下流側端部であるコイルエンド部31cへ接近させるための偏向部材36bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動源とする電動工具の冷却技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、駆動源としてモータを使用する電動工具においては、冷却ファンをモータにより回転させることで発生する空気の流れをモータの冷却風として使用している。例えば、電動工具であるグラインダにおいては、モータケース内に冷却ファンを配置し、この冷却ファンの回転によりテールカバーより吸入された外気を冷却風として前方へ通過させ、モータケースに連結されたギアケースの排気口から外へ排出させることにより、モータ、モータケース、ギアケース等を冷却させる構成となっている。
【0003】
また、冷却効果の向上のために、例えば、下記特許文献1には、モータ冷却後の冷却風に新たに外気を導入混合することで、モータ冷却後の冷却風の温度を低下させ、モータより下流側の部材であるギアケース等の冷却効果を向上させる構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−193343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の構成では、電動工具の外部より吸入された外気は、冷却風としてモータ周辺を流れる過程において発熱源であるモータにより加熱されるため、モータの下流側においては上流側に比べて冷却風の温度が上昇し冷却効果が小さくなることとなる。その結果、モータの下流側の温度は上流側の温度に比べて高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、その目的はモータの下流側での冷却効果を向上させた電動工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動工具は、駆動源であるモータと、前記モータのモータ軸に連結される冷却ファンと、を備える電動工具において、前記冷却ファンにより発生する冷却風の流れを前記モータの回転子の下流側端部へ接近させる偏向部材を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る電動工具において、前記偏向部材は、前記冷却ファンに隣接して配置されるファンケーシングに設けられていることとすることができる。
【0009】
また、本発明に係る電動工具において、前記ファンケーシングは、前記モータ側へ延設し前記回転子の下流側端部と対向する延設部を有し、前記偏向部材は、前記延設部から前記回転子の下流側端部側へ突出して設けられていることとすることができる。
【0010】
また、本発明に係る電動工具において、前記ファンケーシングは、前記モータの固定子の前記モータ軸方向位置を規制していることとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータの下流側での冷却効果を向上させた電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る電動工具の外観正面図である。
【図2】本実施形態に係る電動工具の外観側面図である。
【図3】本実施形態に係る電動工具の縦断面正面図である。
【図4】本実施形態に係る電動工具の縦断面側面図である。
【図5】図3における要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図1〜図5を用いて説明する。なお、以下の実施形態では、本発明を手持ち式電動グラインダに適用する場合を例示して説明する。また、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は本実施形態に係る電動工具の外観正面図である。図2は本実施形態に係る電動工具の外観側面図である。図3は本実施形態に係る電動工具の縦断面正面図である。図4は本実施形態に係る電動工具の縦断面側面図である。図5は図3における要部拡大図である。
【0015】
図1〜図5に示されるように、本実施形態に係る電動工具である手持ち式電動グラインダ10は、作業者が把持することができるように略円筒状に形成されたハウジング11と、研削作業を行うための回転工具である円盤状の砥石21とを備えている。
【0016】
ハウジング11は、駆動源となるモータ31を内部に収納するケーシングとしてのモータケース12と、モータ31からの回転駆動力を受けてこの回転駆動力を砥石21に伝達するための複数の歯車群等からなる駆動力伝達手段を収納するギアケース13と、モータ31に対して電力を供給するための電力コードやスイッチボックス等の給電機器が収納されたカバー部材としてのテールカバー14とを主要な構成部材として形成されている。
【0017】
モータケース12は、樹脂又はアルミニウム合金などの金属製の部材によって構成されており、このモータケース12におけるモータ収納部分の外周箇所が、操作者に把持される把持部として構成される部材である。モータケース12の外郭形状は、操作者が把持し易いように略円筒状に形成されており、その表面には、滑り止めのための凹凸形状12aが形成されている。
【0018】
モータケース12の前方側にインナーケース16を介在させて連結されるギアケース13は、例えばアルミニウム合金などの金属製の部材により構成されている。そして、このギアケース13の下部には、研削作業を行うこととなる回転工具としての砥石21が配置されており、砥石21の背面側(後側)には、操作者に対して切粉などが飛散しないようにするために、安全カバー22が設置されている。
【0019】
テールカバー14は、樹脂によって構成されている。このテールカバー14は、上下で分割できるように構成されており、例えば、下面側の半割部材を取り外すことによって、内部に設置された給電機器等のメンテナンスを行えるようになっている。
【0020】
手持ち式電動グラインダ10の内部構造を描いた図3〜図5にて示されるように、モータケース12の内部には砥石21を駆動するための駆動源となるモータ31が収納されている。モータ31は、モータケース12内に固定される固定子31aと、固定子31aの内部に回転可能に配置される回転子31bとを備えている。モータ31のモータ軸32は、その前端部32aがモータケース12内からギアケース13内へと突出し、インナーケース16に装着された前部ベアリング17に支持されている。一方、モータ軸32の後端部32bは、モータケース12の後部において後部ベアリング18に支持されている。したがって、モータ軸32は、前後部のベアリング17,18により両端部32a,32bを支持されることで、高速回転できるように構成されている。
【0021】
モータ軸32の前端部32aの側には、モータ31に隣接して設置される略椀形状のファンケーシング36と、ファンケーシング36に隣接して設置され、モータ軸32に固定される冷却ファン19が備えられている。ファンケーシング36の中央部は通風孔36cが形成されており、さらに、図5で示されるように、モータ31の固定子31a側に延設された延設部36aを2箇所備えている。この延設部36aは回転子31bの前側端部(後述の冷却風の流れ方向において下流側端部)であるコイルエンド部31cと対向している。さらに、延設部36aのコイルエンド部31c側には、コイルエンド部31c側に向かって突設された偏向部材36bが一体的に形成されている。この偏向部材36bは、固定子31aと回転子31bの間の隙間を通過した冷却風の流れをコイルエンド部31c側に偏向させるためのものであり、これにより冷却風の流れはコイルエンド部31cに接近させられる。
【0022】
また、ファンケーシング36の延設部36aの先端は、モータ31の固定子31aの前側端部に当接することで固定子31aのモータ軸32方向前側への移動を規制している。すなわち、ファンケーシング36は、固定子31a及びスペーサ37と共に、モータケース12の当接面12bとインナーケース16により挟持されることで、各部材のモータ軸32方向位置を規制している。
【0023】
冷却ファン19は、モータケース12内に配置されることで、モータケース12の内部に冷却風を通す役割を果たしている。すなわち、モータ軸32と共に冷却ファン19が回転すると、外気がテールカバー14の開口から取り込まれ、モータケース12内の隙間を通ってモータ31等を冷却した後、図4において矢印線Aで示すように、ギアケース13の排出口から機外に排出されることとなる。
【0024】
なお、モータ軸32の後端部32bの側には整流子33が取り付けられており、モータケース12に取り付けられたブラシ35がこの整流子33に接触している。整流子33およびブラシ35についても、上述した冷却ファン19の作用によって取り入れられた冷却風により、冷却が実施される。
【0025】
ギアケース13内には、モータ軸32の前端部32aに固定される小傘歯車23と、この小傘歯車23に噛み合う大傘歯車24が収納されている。大傘歯車24は、ギアケース13内にベアリング25,26を介して垂直に支持された駆動軸27に固定されており、この駆動軸27がギアケース13の下方に突出し、この突出箇所に砥石21が着脱自在に固定されている。これら小傘歯車23、大傘歯車24、駆動軸27等の部材が駆動力伝達手段として機能することにより、直交配置されたモータ軸32と駆動軸27との間での回転駆動力の伝達が実現されている。したがって、モータ31が回転すると、この回転駆動力がモータ軸32から小傘歯車23、大傘歯車24へと伝達され、最終的に駆動軸27を介して砥石21が回転することになるので、被加工対象物に対する研削加工が実行可能となる。
【0026】
また、テールカバー14には、オン・オフスイッチ28やその他の給電機器が収納されており、操作者がオン・オフスイッチ28を切り替え操作することによって、モータ31が回転又は停止し、手持ち式電動グラインダ10の操作を行うことが可能となっている。
【0027】
上記構成の手持ち式電動グラインダ10で加工作業を行う場合、操作者がモータケース12を片手で把持し、他方の手の指でオン・オフスイッチ28をONにすると、モータ31が回転し、モータ軸32から小傘歯車23、大傘歯車24へと動力が伝達され、砥石21が回転する。これにより、被加工対象物に対して研削加工を行うことができる。このとき、モータ軸32の回転と同時に冷却ファン19が回転するので、外気がテールカバー14の開口から取り込まれ、モータケース12の内の隙間を通ってモータ31や整流子33、ブラシ35などの発熱源を冷却した後、ギアケース13の排出口を通り抜けて機外に排出される。モータ31を冷却するために固定子31aと回転子31bの間の隙間を通過した冷却風は冷却ファン19に向かってそのまま直進運動を続けようとするが、本実施形態においては、図5において矢印線Bで示すように、ファンケーシング36に形成された偏向部材36b周辺の冷却風の流れは、偏向部材36bの作用により回転子31bのコイルエンド部31c側に偏向させられることでコイルエンド部31c近傍の流速が増加するため、熱交換が促進され冷却効果が向上することになる。その結果、回転子31bのコイルエンド部31c周辺の温度上昇が抑制され、安全・安定した手持ち式電動グラインダ10の動作が実現されている。
【0028】
また、本実施形態においては、ファンケーシング36は固定子31a及びスペーサ37と共に、モータケース12の当接面12bとインナーケース16により挟持されることで、各部材のモータ軸32方向の位置を規制しているので、固定子の位置規制にボルト等の規制手段を設ける必要がなく、製造コストの低減が可能となる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の技術的範囲に限定さない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 手持ち式電動グラインダ、11 ハウジング、12 モータケース、12a 凹凸形状、12b 当接面、13 ギアケース、14 テールカバー、16 インナーケース、17 前部ベアリング、18 後部ベアリング、19 冷却ファン、21 砥石、22 安全カバー、23 小傘歯車、24 大傘歯車、27 駆動軸、28 オン・オフスイッチ、31 モータ、31a 固定子、31b 回転子、31c コイルエンド部、32 モータ軸、32a 前端部、32b 後端部、33 整流子、35 ブラシ、36 ファンケーシング、36a 延設部、36b 偏向部材、36c 通風孔、37 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、
前記モータのモータ軸に連結される冷却ファンと、を備える電動工具において、
前記冷却ファンにより発生する冷却風の流れを前記モータの回転子の下流側端部へ接近させる偏向部材を備えていることを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記偏向部材は、前記冷却ファンに隣接して配置されるファンケーシングに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記ファンケーシングは、前記モータ側へ延設し前記回転子の下流側端部と対向する延設部を有し、
前記偏向部材は、前記延設部から前記回転子の下流側端部側へ突出して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記ファンケーシングは、前記モータの固定子の前記モータ軸方向位置を規制していることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−250337(P2012−250337A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126939(P2011−126939)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)