電動歯ブラシ
【課題】電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供する。
【解決手段】電動歯ブラシは、駆動源と、ブラシを有する振動部材と、前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する伝達機構と、前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備える。前記制御手段は、前記ブラシに所定の動作をさせるための複数の動作モードを有しており、該複数の制御モードを高速に切り替えることで、動作モード切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする。異なる方向に共振する2つ共振点を利用した動作モードの間で高速に切り換えることが好適である。
【解決手段】電動歯ブラシは、駆動源と、ブラシを有する振動部材と、前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する伝達機構と、前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備える。前記制御手段は、前記ブラシに所定の動作をさせるための複数の動作モードを有しており、該複数の制御モードを高速に切り替えることで、動作モード切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする。異なる方向に共振する2つ共振点を利用した動作モードの間で高速に切り換えることが好適である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
高速に振動するブラシを歯面にあてることによって歯磨き(歯垢除去)を行うタイプの電動歯ブラシが知られている。このタイプの電動歯ブラシでは、歯垢除去力の向上や施療感の向上をねらって様々な駆動機構や駆動方法が提案されている。
【0003】
例えば、機械共振を利用して振動振幅特性を極大化する手法を用いた電動歯ブラシが市販されている。
【0004】
また、特許文献1には、電動歯ブラシのモータを1〜10秒おきに正転・逆転を切り替え、1〜5回程度の切替が起きたときに、ブラシの動作を一時的に停止させたり強さを変えたりすることで、利用者に歯磨きをしている時間を把握させる電動歯ブラシが開示されている。
【0005】
また、マッサージモードとして連続的に電動歯ブラシの振動数を変化させる電動歯ブラシも存在している。
【特許文献1】特表平8−140738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術は動作モードを切り替える制御を行っているが、動作モードの切り替え周期が長いため、それぞれの動作モードを交互に行うのと同等の歯垢除去力が得られるだけである。
【0007】
本発明の目的は、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【0008】
また本発明のさらなる目的は、構成の複雑化、コスト増、消費電力の増大を招くことなく、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用する。
【0010】
本発明に係る電動歯ブラシは、駆動源と、ブラシを有する振動部材と、前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と、前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記振動部材の駆動振動数を高速に繰り返す(切り替える)制御を行うことで、駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能としている。
【0011】
振動部材の駆動時に、安定状態においてはブラシが定常的な動きをするが、その切り替え時期(過渡状態)においては安定状態では得られないような不規則なブラシの動きが得られる。この不規則なブラシの動きによって、より高い歯垢除去力が得られると考えられる。そこで、本発明における制御手段は、駆動振動数を高速に切り替えることで、歯磨きを行っている時間に対する過渡状態の割合を高め、このような過渡状態における不規則な
ブラシ動作による刷掃を可能とした。したがって、本発明に係る電動歯ブラシによれば、高い歯垢除去力が得られるとともに施療感の向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明では上記のような不規則なブラシ動作を駆動源の出力制御だけで実現しているので、駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって、電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。
【0013】
本発明における制御手段は、2つの駆動振動数の間を交互に切り換えるものであっても良く、3つ以上の駆動振動数を所定の順序あるいはランダムに切り換えるものであっても良い。
【0014】
前記複数の異なる振動数の少なくとも1つは、前記振動部材の共振振動数であることが好適である。さらに、複数の異なる振動数に、複数の共振振動数が含まれることが好適である。共振を利用することで、ブラシの振幅が大きくなるためである。
【0015】
ここで、本発明における振動部材は、ブラシが第1の方向に共振する第1共振点と、ブラシが第2の方向に共振する第2共振点と、を有しており、前記制御手段は、第1の方向の共振が生じるように駆動源の出力を制御する第1の動作モードと、第2の方向の共振が生じるように駆動源の出力を制御する第2の動作モードと、を有しており、第1および第2の動作モードを高速に切り換えることが好適である。
【0016】
上記第1、第2の動作モードのように共振を利用する動作モード(以下、「共振動作モード」という。)では、共振を利用しない動作モード(以下、「通常動作モード」という。)よりも、ブラシの振幅が大きくなる。安定状態におけるブラシの振幅が大きいので、過渡状態におけるブラシの振幅も大きくなる。したがって、切り替え前後における動作モードの少なくともいずれかに共振動作モードが含まれていれば、安定状態および過渡状態の両方で(すなわち、全施療期間にわたって)ブラシの振幅を大きくすることができ、より高い歯垢除去効果および施療感が得られる。また、共振現象を利用しているので、通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ、効率的である。
【0017】
さらに、本発明における制御手段が、第1の動作モードと第2の動作モードとを交互に切り替えることが好適である。ブラシ振幅の大きい2つの共振動作モードを繰り返すことで、過渡状態におけるブラシの振幅も大きくなり、高い歯垢除去力が得られる。
【0018】
前記第1の方向は、ブラシ面に対して平行な方向であり、前記第2の方向は、前記ブラシ面に対して垂直な方向であることが好ましい。ここで「ブラシ面」とは、ブラシの繊維と直交し、かつ、繊維の先端部分に位置する仮想的な面をいう。第1の方向の共振では、ブラシの毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので、歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られ、第2の方向の共振では、ブラシの毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので、歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られると期待できる。そして、過渡状態においては、これら第1および第2の方向が組み合わされた不規則な動きをするので、両動作モードの効果を両立して得ることが可能となる。
【0019】
前記第1共振点は、前記運動伝達機構に依存する特性であり、前記第2共振点は、前記ブラシに依存する特性であることが好ましい。
【0020】
前記制御手段が、前記ブラシに作用する負荷を検知し、検知された負荷に応じて前記駆動源の出力を調整することが好ましい。ブラシに作用する負荷に依存して、振動部材の振動特性が変動するからである。
【0021】
前記運動伝達機構が前記振動部材に内包されており、前記振動部材が弾性部材を介して電動歯ブラシ本体に取り付けられていることが好ましい。この構成によると、運動伝達機構が振動部材に内包されていることからブラシ近傍が効率的に振動する一方で、弾性部材の介在によって振動部材の振動が電動歯ブラシ本体に伝わりにくくなるので使用感の向上を図ることができる。
【0022】
前記駆動源がモータであり、前記運動伝達機構が前記モータの回転軸に連結された偏心軸であり、前記振動部材が、前記偏心軸の軸受を有するステムを備えることが好ましい。このような駆動原理の電動歯ブラシでは、振動部材(ブラシ)が回転軸に垂直な面内を2次元的に振動する。そして、その振動面内の略直交する2方向においてそれぞれ共振が現れる。この2方向を上記第1、第2の方向として利用できる。
【0023】
なお、切り替え前の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡と切り替え後の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡とが異なるものであれば、これらの動作モードが共振を利用したものでなくても構わない。切り替え前後でブラシ動作の軌跡が異なれば、その過渡状態においてはブラシの軌跡が不規則となり、歯垢除去効果の向上が得られるためである。
【0024】
本発明における制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間の1/3以上、すなわち、全動作期間に占める過渡状態期間の割合が1/4以上となるように、駆動振動数を高速に切り替えることが好適である。さらに、過渡状態期間が安定動作時間以上となるように、すなわち、全動作期間に占める過渡状態期間の割合が半分以上となるように、駆動振動数を高速に切り換えることが好適である。なお、ここで、安定動作期間はブラシの動作が安定している期間であり、過渡状態期間は駆動振動数を切り替えてからブラシの動作が安定するまでの期間である。
【0025】
なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図ることができる。また、本発明は、構成の複雑化、コスト増、消費電力の増大を招かない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0028】
(第1実施形態)
<電動歯ブラシの構成>
図1、図2、図3を参照して、電動歯ブラシの構成を説明する。図1は電動歯ブラシの外観を示す斜視図であり、図2は電動歯ブラシの内部構成を示す断面図であり、図3はブロック図である。
【0029】
電動歯ブラシは、駆動源であるモータ10を内蔵する電動歯ブラシ本体1(以下、単に「本体1」という。)と、ブラシ210を有する振動部材2とを備えている。本体1は、概ね円筒形状を呈しており、歯を磨く際に使用者が手で握るためのハンドル部を兼ねている。
【0030】
本体1には、電源のオン/オフおよび動作モードの切り替えを行うためのスイッチSが設けられている。また本体1の内部には、駆動源であるモータ10、モータ10の回転数を制御するための駆動回路12、2.4V電源である充電池13、充電用のコイル14な
どが設けられている。充電池13を充電する際には、充電器(不図示)に本体1を載置するだけで、電磁誘導により非接触で充電可能である。駆動回路12は、図3に示すように、CPU(中央演算処理装置)120、プログラムや各種設定値を記憶するメモリ121、タイマ122などを有している。
【0031】
振動部材2は、本体1側に固定されているステム部20と、このステム部20に装着されるブラシ部品21とを備える。ブラシ部品21の先端にはブラシ210が植毛されている。ブラシ部品21は消耗部品ゆえ、新品に交換できるよう、ステム部20に対して着脱自在な構成となっている。
【0032】
ステム部20は、樹脂材からなるステム200およびホルダ201と、エラストマからなる弾性部材202とから構成される。この弾性部材202は、インサート成形によりステム200およびホルダ201に一体成形されることが好ましい。弾性部材202は、ステム200とホルダ201の間に介在しており、ホルダ201に設けられた複数の貫通孔からそれぞれ突出する複数(たとえば3個)の突起部202Aを備えている。ステム部20は、本体1の外ケースに対して、弾性部材202の3個の突起部202Aによる3点接触により位置決めされる。このように、本実施形態の振動部材2は、弾性部材202を介して本体1に取り付けられている。
【0033】
ステム200は、先端(ブラシ側の端部)が閉じた筒状の部材であり、筒の内部の先端に軸受203を有している。モータ10の回転軸11に連結された偏心軸30の先端が、ステム200の軸受203に挿入される。この偏心軸30は、軸受203の近傍に重り300を有しており、偏心軸30の重心はその回転中心からずれている。なお、偏心軸30の先端と軸受203の間には微小なクリアランスが設けられている。
【0034】
<電動歯ブラシの基本動作>
電動歯ブラシの基本動作について説明する。
【0035】
電源オンの状態になると、CPU120がパルス幅変調信号(PWM信号)をモータ10に供給し、モータ10の回転軸11を回転させる。回転軸11の回転に伴って偏心軸30も回転するが、偏心軸30は重心がずれているために回転中心の回りに旋回するような運動を行う。よって、偏心軸30の先端が軸受203の内壁に対して衝突を繰り返し、ステム200とそれに装着されたブラシ部品21とを高速に振動させることとなる。つまり、偏心軸30は、モータ10の出力(回転)を振動部材2の振動に変換する運動伝達機構(運動変換機構)の役割を担っている。本体1を手で持ち、高速に振動するブラシ210を歯に当てることで、歯垢を除去することができる。なお、CPU120はタイマ122を用いて継続動作時間を監視しており、所定時間(たとえば2分間)が経過したら自動的にブラシの振動を停止させる。
【0036】
本実施形態の電動歯ブラシでは、運動伝達機構である偏心軸30が振動部材2に内包され、特に重り300がブラシ210の近傍に配置されている。よって、ブラシ210の部分を効率的に振動させることができる。その一方で、振動部材2(ステム部20)が弾性部材202を介して本体1に取り付けられているので、振動部材2の振動が本体1に伝わり難くなっている。よって、歯を磨く際の本体1および手の振動を低減でき、使用感の向上を図ることができる。
【0037】
<振動特性の説明>
本実施形態の電動歯ブラシでは、上述のように、偏心軸30の旋回運動を利用してブラシ210の振動を発生させている。このような駆動原理の場合、ブラシ210はモータの回転軸に垂直な面内を2次元的に振動し得る。図4は、ブラシの振動の軌道を模式的に示
している(X軸:モータ回転軸、Y軸:回転軸に対して垂直で且つブラシ面に対して平行な方向、Z軸:ブラシ面に対して垂直な方向)。図示の例ではブラシ210がYZ平面を楕円状の軌道40で振動している。ブラシ面とは、ブラシの繊維と直交し、かつ、繊維の先端部分に位置する仮想的な面のことをいう。
【0038】
本実施形態の電動歯ブラシは図5に示すような振動特性を有する。なお、図5は、ブラシに対してZ軸方向に100gの負荷を与えた状態における、振動数と振幅の関係を示している。横軸は振動数[Hz]であり、縦軸は振幅[mm]であり、実線のグラフはY軸方向(横方向)の振幅を表し、破線のグラフはZ軸方向(縦方向)の振幅を表している。
【0039】
図5のグラフから分かるように、本実施形態の電動歯ブラシは少なくとも2つの共振点(共振振動数)を有しており、各共振点における共振方向は異なっている。具体的には、振動数が低い側の共振点(第1共振点:約100Hz)ではブラシ面に平行な共振方向であるY軸方向の共振が発生し、振動数が高い側の共振点(第2共振点:約200Hz)ではブラシ面に垂直な共振方向であるZ軸方向の共振が発生する。
【0040】
方向の異なる複数の共振が出現する理由は、電動歯ブラシの構造やその駆動原理に依るところが大きいと考えられる。本発明者らは、偏心軸やブラシの構成を変更しながら実験を繰り返すことで、第1共振点が主に運動伝達機構に依存する特性であり、第2共振点が主にブラシに依存する特性であるとの知見を得ている。言い換えれば、運動伝達機構の構造や形状(簡単には偏心軸の重りの位置、大きさ、重量など)を変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき、また、ブラシの構造や形状を変更することで第2共振点の振動数や振幅を調整できることが分かった。
【0041】
第1共振点を利用する動作モード(以下、「第1共振動作モード」という。)では、図5から分かるようにZ軸方向の振動がほぼ発生していないため、ブラシの軌跡はY軸方向に往復する直線となる。第2共振点を利用する動作モード(以下、「第2共振動作モード」という。)では、Z軸方向の共振が発生するとともにY軸方向にも振幅があるため、ブラシの軌跡はZ軸方向を長軸とする楕円となる。
【0042】
本発明者らは、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを切り替える際に生じる過渡状態におけるブラシの振動によって、歯周ポケットに対して高い刷掃効果が得られることを見出した。
【0043】
第1共振動作モードと第2共振動作モードを交互に切り替えた際のブラシの動きを調べると、図6,7に示すような軌跡となることが分かった。図6はYZ平面におけるブラシの軌跡を示した図であり、図7は軌跡のYZ成分をそれぞれ示した図である。この例では、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを0.3秒ずつ交互に切り替えている。図7に示すように、各動作モードを切り替える際に、YZ軸方向の振動振幅が変化し、これに伴ってブラシが不規則な運動をすることが分かる。この不規則なブラシの運動によりブラシの毛先が施療部に対して様々な角度から当たることが、単一方向の刷掃に比べてより優れた歯垢除去効果が得られる理由であると考えられる。
【0044】
なお、この例では、第1共振動作モード(低振動数)から第2共振動作モード(高振動数)への移行の過渡状態期間は約0.07秒であり、第2共振動作モードから第1共振動作モードへの移行への過渡状態期間は約0.14秒となっている。第2共振動作モードから第1共振動作モードへの移行に時間を要するのは、慣性の影響による。
【0045】
本発明者らは、このような過渡状態における不規則なブラシの運動を利用して歯垢除去効果を高めるためには、動作モードを高速に切り替えて、ブラシが動作している期間に占
める過渡状態期間の割合を大きくすればよいことに想到した。
【0046】
<動作モードの説明>
本実施形態の電動歯ブラシは駆動振動数の異なる複数の動作モードを有している。電源オフの状態からスイッチSを押すたびに動作モードが順番に切り替わり、一巡するとオフ状態に戻る。図3に示すようにメモリ121には各動作モードに対応した設定値が予め格納されている。この設定値は各動作モードの駆動振動数に対応するパラメータであり、その具体的な数値は図5のような実験結果に基づき決定される。
【0047】
動作モードが切り替えられると、CPU120はメモリ121から該当する設定値を読み込み、その値に従ってPWM信号のデューティ比を決定する。デューティ比が大きくなるとモータ10の回転数が高くなり、結果的にブラシ210の振動数も高くなる。このように、本実施形態では、駆動回路12が、モータ10の出力(回転数)およびブラシ210の振動数を制御する制御手段の役割を担っている。
【0048】
(1)第1共振動作モード
第1共振動作モードは、第1共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第1共振点(約100Hz)またはその近傍に設定される。第1共振動作モードでは、デューティ比約50%のPWM信号を用いる。第1共振動作モードでは、通常動作モードよりもブラシ210のY軸方向(横方向)の振幅が増大し、歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に、第1共振動作モードでは、ブラシ210の毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので、歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0049】
(2)第2共振動作モード
第2共振動作モードは、第2共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第2共振点(約200Hz)またはその近傍に設定される。第2共振動作モードでは、デューティ比約90%のPWM信号を用いる。第2共振動作モードでは、通常動作モードよりもブラシ210のZ軸方向(縦方向)の振幅が増大し、歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に、第2共振動作モードでは、ブラシ210の毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので、歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0050】
(3)通常動作モード
通常動作モードは、共振を利用しない動作モードである。駆動振動数は第1共振点と第2共振点の間(たとえば150Hz)に設定される。なお、120Hz、140Hz、160Hz、180Hzのように多段階の通常動作モードを設け、スイッチSで切り替えられるようにしてもよい。また、第1共振点よりも低い振動数や第2共振点よりも高い振動数の通常動作モードを設けることも好ましい。
【0051】
(4)共振切替動作モード
共振切替動作モードは、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを短い時間間隔で交互に繰り返す動作モードである。共振切替動作モードでは、第1共振動作モードと第2共振動作モードを繰り返すので、PWM信号のデューティ比はメモリ121に格納された各共振動作モードの設定値から算出する。共振切替動作モードにおける、メモリ121に格納される設定値は、各共振動作モードの動作時間である。
【0052】
各共振動作モードの動作時間が0.3秒である場合には、図8Aに示すように、PWM信号の出力は0.3秒おきに第1共振動作モードと第2共振動作モードに対応するデューティ比に切り換えられる。上述のように、第1共振動作モードから第2共振動作モードへの過渡状態が約0.07秒、第2共振動作モードから第1共振動作モードへの過渡状態が
約0.14秒であるとすると、図8Bに示すように、第1共振動作モードでの安定動作期間が約0.16秒、第2共振動作モードでの安定動作期間が約0.23秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/3となる。このような動作モードでは、第1,第2共振動作モードの各安定動作期間における振幅の大きな刷掃と、過渡状態における不規則な刷掃の3種類の刷掃がそれぞれ同程度の時間現れることになる。それぞれの刷掃は異なる種類の刷掃効果が得られるものであるので、本動作モードによると、それぞれの刷掃効果を同時に得ることができる。
【0053】
なお、第1共振動作モードと第2共振動作モードの切り替え間隔は0.3秒である必要はない。例えば、0.2秒や0.4秒間隔で切り替えても良い。0.2秒および0.4秒間隔で切り替えた際の、ブラシの動作状態を図9A,Bにそれぞれ示す。
【0054】
図9Aに示すように、0.2秒間隔で切り替えると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.06秒、第2共振動作モードの安定動作期間が約0.13秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/2となる。
【0055】
図9Bに示すように、0.4秒間隔で切り替えると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.26秒、第2共振動作モードの安定動作期間が0.33秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/4となる。
【0056】
なお、切り替え間隔はこれより長くても短くても良いが、切り替え間隔が長すぎると全体の動作時間に占める過渡状態期間の割合が短くなってしまい、不規則な刷掃動作による歯垢除去の効果を十分に得ることができなくなる。また逆に、切り替え間隔が短すぎると、共振動作モードで安定動作しなくなってしまう。共振動作モードで安定しないということは、過渡状態における振幅を十分に大きくできていないことを意味し、歯垢除去効果が十分に得られていないことを意味する。
【0057】
また、切り替え動作間隔は、各共振動作モードについて異ならせても良い。例えば、第1共振動作モードの動作期間を0.24秒、第2共振動作モードの動作期間を0.17秒とすることが考えられる。この場合のブラシの動作状態を図9Cに示す。このような設定にすると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.10秒、第2共振動作モードの安定動作期間が約0.10秒、過渡状態期間の合計が約0.21秒となる。これは、過渡状態期間と安定動作期間が1対1であり、かつ、第1,2共振動作モードの安定動作期間が等しくなる設定である。
【0058】
また、切替をより高速に行って、動作時間のほぼ全体を過渡状態とすることもできる。すなわち、第1,2共振動作モードでの安定動作期間が、たとえば、0.02秒となるように、第1共振動作モードの動作期間を0.16秒、第2共振動作モードの動作期間を0.09秒とすることが考えられる。この場合のブラシの動作状態を図9Dに示す。この設定にすると、過渡状態期間がほぼ全動作期間を占める(0.21/0.25)ようにすることができる。
【0059】
このように、切り替え間隔を適宜設定することで、種々の動作を実現することができる。
【0060】
以上述べたように本実施形態によれば、共振方向の異なる複数の共振動作モードを切り替える際の過渡状態を利用し、不規則なブラシ振動を実現して、歯垢除去力および施療感の向上を図ることができる。共振を利用しているので、過渡状態におけるブラシの振動振幅も大きくなる。また、歯垢除去効果を得るために高い振動数で動作させる時間を削減できるため、歯肉への刺激も緩和することができる。また、複数の共振動作モードをモータ
の回転数制御だけで実現しているので、駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって、電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。さらに、共振現象を利用しているので、通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ、効率的である。
【0061】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、各動作モードで単一の設定値を用いている。しかし、図10に示すように、ブラシに作用する負荷が変わると、ブラシの振動特性が変動し、共振点の位置が変わってしまう。図10は負荷250gの場合の振動特性を示しているが、第1共振点は110Hzあたりに、第2共振点は250Hzあたりに現れており、負荷100gの場合(図5)に比べて、いずれの共振点も大きくなっていることが分かる。そこで、第2実施形態では、ブラシに作用する負荷を検知し、負荷の大きさに応じてモータの回転数を調整する。
【0062】
図11は、第2実施形態の電動歯ブラシのブロック図である。第1実施形態と異なる点は、電流検知回路123が設けられていることと、メモリ121の中に負荷の大きさに対応して複数の設定値が格納されていることである。
【0063】
電流検知回路123は、モータ10の電流値を検知する回路である。ブラシを歯面に強く押し当てるほどブラシに作用する負荷が大きくなる。そしてブラシに作用する負荷が増大すると、モータ10の負荷も増大し、モータ10に流れる電流値が増大する。よって、CPU120は、電流検知回路123の検知結果に基づいてブラシ210に作用する負荷の大きさを推定することができる。
【0064】
メモリ121には、動作モード別に、負荷70g〜250gの範囲に対応する設定値が格納されている。本実施形態では、負荷70g、100g、・・・、250gのように予め決められた負荷の値(代表値)に対応する設定値が用意されている。CPU120は、ブラシに作用している負荷の値に基づいて、これらの設定値の中から最適なものを選択するか、あるいは、これらの設定値を補間することにより適切な値を算出する。なお、設定値を負荷の大きさの関数で表現できる場合には、その関数を表すパラメータをメモリに格納することも好ましい。
【0065】
また、負荷の値が変わると、各動作モードを切り換える際の過渡状態の期間にも変動が生じる。したがって、共振切替動作モードにおいて、各モードの切替間隔の適切な値も変化する。そこで、負荷の値に応じた切替間隔が、メモリ121に格納される。
【0066】
このような構成により、ブラシに作用する負荷の大きさに応じてモータの回転数を適宜調整することで、負荷に依存する共振点のズレをカバーし、共振現象を正確に再現できるようになる。また、過渡状態期間の全体動作期間に占める割合も、正確に再現することができるようになる。
【0067】
(第3の実施形態)
本実施形態は、ブラシの種類によってその振動特性が異なることを考慮し、現在装着されているブラシ部品21の種類を検出し、その種類に応じた振動特性を利用する。ブラシの種類を検出するために、ブラシ部品21にブラシ種類毎に異なる識別マーカを付し、本体1に識別マーカ読み取り部を設けて、ブラシの種類を検出する。
【0068】
識別マーカとして、ブラシ種類に応じて異なる抵抗値を有する導電性素材を利用することができる。本体1の識別マーカ読み取り部は、導電性素材の抵抗値を読み取ることでそのブラシ種類を判別可能である。
【0069】
また、識別マーカとして、永久磁石などの電磁素子を利用可能であり、ブラシ種類に応じて磁石の磁力の強さや磁石の設置位置を変えて、ブラシ取り付け時に識別マーカ読み取り部にかかる磁界の強さを異ならせる。本体1の識別マーカ読み取り部は、コイルを備えており、ブラシ部品21の取り付け時に生じる誘導起電力の強さを検出する。誘導起電力の強さはコイルに係る磁界の強さに比例するため、誘導起電力に基づいてブラシ種類を判別可能である。
【0070】
また、識別マーカ読み取り部として複数の光電素子を利用し、識別マーカとしては光電素子に対応する位置における穴部を採用することができる。ブラシの種類に応じてどの位置に穴を設けるか異ならせておくことで、識別マーカ読み取り部ではどの光電素子から受光しているかによってブラシ種類を判別可能である。光電素子が3つある場合には、8種類の状態(7種類のブラシと非装着状態)を判別可能である。
【0071】
また、識別マーカ読み取り部として異なる種類の波長を検知可能な複数の光電素子を利用して、識別マーカとして特定波長の光を透過させる光学フィルタ素材を採用可能である。ブラシの種類に応じてフィルタが透過する波長を変えておくことで、ブラシ種類の判別が可能となる。
【0072】
また、識別マーカ読み取り部としてメカニカルな複数のスイッチを利用し、識別マーカとして各スイッチに対応する位置に設けられたスリット状の切り欠きや穴を採用することができる。ブラシ種類によって切り欠きや穴を設ける箇所を異ならせることで、装着時に切り替えられるスイッチの位置が異なる。したがって、どのスイッチが切り替えられたかを判断することで、ブラシ種類を判別可能である。
【0073】
このようにして、識別マーカを利用して取り付けられているブラシ部品21の種類を判別可能であるので、種々のブラシ種類についての振動特性をメモリ121に格納しておけば、取り付けられたブラシ種類に応じた振動特性を利用することができる。また、振動特性以外に、動作モードなどをブラシ種類毎に変えることも可能である。つまり、取り付けられたブラシ種類に対応して、歯垢除去効果を最適にすることができる。
【0074】
なお、上記のような仕組みを使えば、ブラシ部品21が取り付けられているか否かを判断することができる。したがって、ブラシ部品21が取り付けられていない状態では、電源ボタンが押されても電源をオンしないように制御することができる。近年、電動歯ブラシの小型化が進み携帯性に優れたものが登場しているが、持ち運び中やカバンに保管中などに不意の外力が加わって意図せずに電源がオンになって、動作音や振動で不快な思いをしたり電池を消耗してしまうという問題があった。上記のように、ブラシ部品21が非装着の状態では電源をオンにできないようにすれば、このような問題を解消することができる。
【0075】
また、上記のような意図しない電源オンを防止するための別の仕組みとして、次のような方法を採用することもできる。すなわち、電源ボタン長押しによりボタン操作を受け付けないキーロックモードを採用するとともに、利用者にあらかじめロックを解除するためのボタン操作を登録させておき、キーロック時にこの操作が行われた場合のみキーロックを解除して電源オンするようにすればよい。解除用の操作パターンとしては、例えば、電源ボタンを1秒間に3回押した後に1秒以上長押しするというパターンを利用可能である。このような動作を利用者にあらかじめ行わせ、その信号パターンを記憶しておく。そして、キーロック時に記憶したパターンと一致した信号入力があったときに、キーロックを解除する。このような複雑な操作が意図せずに行われる可能性は低いため、意図しない電源オンを防止することができる。なお、ロック解除用の動作は、1つのボタンの操作だけ
でなく、複数のボタンの操作パターンを採用しても良い。
【0076】
(変形例)
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。上述の説明で用いた数値等は例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0077】
また、上記実施形態の共振切替動作モードでは、第1共振動作モードと第2共振動作モードを交互に切り替えたが、切替態様はこれに限らない。過渡状態における不規則なブラシ軌道が生じる原因は、切り替え前後での、安定動作状態におけるブラシの軌跡が異なることにあると考えられる。したがって、ブラシ動作の軌跡が互いに異なる動作モードの間を切り替えるものであれば、上記の実施形態と同様の効果が得られる。
【0078】
たとえば、第1共振動作モードと通常動作モードを交互に切り換えても良いし、第2共振動作モードと通常動作モードを交互に切り換えても良い。このように、切替前後の一方に共振動作モードが含まれていれば、少なくとも一時的に共振を利用した振幅の大きなブラシ運動が得られる。また、共振を利用しない通常動作モード間で高速に切替を行っても良い。この場合も、過渡状態における不規則なブラシ運動が得られる。また、駆動振動数が共振振動数でなくても、共振振動数の前後で駆動振動数を切り換えると、過渡状態において共振振動数を通過するため、過渡状態においてブラシの振幅を大きくすることができる。
【0079】
また、上記実施形態の共振切替動作モードでは2つの動作モードの間で切替を行ったが、3つ以上の動作モードの間で切替を行っても良い。たとえば、2つの共振動作モードの間に通常動作モードを挟んだ切替態様や、それら複数の動作モードをランダムに切り替える切替態様も好ましい。また、ブラシの第3の共振点を利用し、共振を利用した3つの動作モード間で高速に切り換えても良い。この場合、3つの共振点の中から選択された任意の2つの動作モード間で高速に切り換えても良いし、3つの動作モードを順次切り替えたり、3つの動作モードをランダムで切り換えたりしても良い。
【0080】
また、第1共振動作モードや第2共振動作モードのような1つの共振点のみを利用する動作モードを無くして、共振切替モードのように複数の共振点を高速に切り換える動作モードだけにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、電動歯ブラシの外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、電動歯ブラシの内部構成を示す断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態のブロック図である。
【図4】図4は、ブラシの振動を模式的に示す図である。
【図5】図5は、負荷100gの場合の共振点を示すグラフである。
【図6】図6は、過渡状態におけるブラシの軌跡を示す図である。
【図7】図7は、過渡状態におけるY軸(横)方向およびZ軸(縦)方向のブラシの軌跡を示す図である。
【図8】図8Aは共振切替動作モードでのPWM信号の波形を示す図であり、図8Bは共振切替動作モードでのブラシの振動状態を示す図である。
【図9】図9A〜Dは、共振切替動作モードでのブラシの駆動状態の別の例を示す図である。
【図10】図10は、負荷250gの場合の共振点を示すグラフである。
【図11】図11は、第2実施形態のブロック図である。
【符号の説明】
【0082】
1 電動歯ブラシ本体
10 モータ
11 回転軸
12 駆動回路
121 メモリ
122 タイマ
123 電流検知回路
13 充電池
14 コイル
2 振動部材
20 ステム部
200 ステム
201 ホルダ
202 弾性部材
202A 突起部
203 軸受
21 ブラシ部品
210 ブラシ
30 偏心軸
300 重り
40 軌道
S スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
高速に振動するブラシを歯面にあてることによって歯磨き(歯垢除去)を行うタイプの電動歯ブラシが知られている。このタイプの電動歯ブラシでは、歯垢除去力の向上や施療感の向上をねらって様々な駆動機構や駆動方法が提案されている。
【0003】
例えば、機械共振を利用して振動振幅特性を極大化する手法を用いた電動歯ブラシが市販されている。
【0004】
また、特許文献1には、電動歯ブラシのモータを1〜10秒おきに正転・逆転を切り替え、1〜5回程度の切替が起きたときに、ブラシの動作を一時的に停止させたり強さを変えたりすることで、利用者に歯磨きをしている時間を把握させる電動歯ブラシが開示されている。
【0005】
また、マッサージモードとして連続的に電動歯ブラシの振動数を変化させる電動歯ブラシも存在している。
【特許文献1】特表平8−140738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術は動作モードを切り替える制御を行っているが、動作モードの切り替え周期が長いため、それぞれの動作モードを交互に行うのと同等の歯垢除去力が得られるだけである。
【0007】
本発明の目的は、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【0008】
また本発明のさらなる目的は、構成の複雑化、コスト増、消費電力の増大を招くことなく、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図るための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を採用する。
【0010】
本発明に係る電動歯ブラシは、駆動源と、ブラシを有する振動部材と、前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と、前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記振動部材の駆動振動数を高速に繰り返す(切り替える)制御を行うことで、駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能としている。
【0011】
振動部材の駆動時に、安定状態においてはブラシが定常的な動きをするが、その切り替え時期(過渡状態)においては安定状態では得られないような不規則なブラシの動きが得られる。この不規則なブラシの動きによって、より高い歯垢除去力が得られると考えられる。そこで、本発明における制御手段は、駆動振動数を高速に切り替えることで、歯磨きを行っている時間に対する過渡状態の割合を高め、このような過渡状態における不規則な
ブラシ動作による刷掃を可能とした。したがって、本発明に係る電動歯ブラシによれば、高い歯垢除去力が得られるとともに施療感の向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明では上記のような不規則なブラシ動作を駆動源の出力制御だけで実現しているので、駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって、電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。
【0013】
本発明における制御手段は、2つの駆動振動数の間を交互に切り換えるものであっても良く、3つ以上の駆動振動数を所定の順序あるいはランダムに切り換えるものであっても良い。
【0014】
前記複数の異なる振動数の少なくとも1つは、前記振動部材の共振振動数であることが好適である。さらに、複数の異なる振動数に、複数の共振振動数が含まれることが好適である。共振を利用することで、ブラシの振幅が大きくなるためである。
【0015】
ここで、本発明における振動部材は、ブラシが第1の方向に共振する第1共振点と、ブラシが第2の方向に共振する第2共振点と、を有しており、前記制御手段は、第1の方向の共振が生じるように駆動源の出力を制御する第1の動作モードと、第2の方向の共振が生じるように駆動源の出力を制御する第2の動作モードと、を有しており、第1および第2の動作モードを高速に切り換えることが好適である。
【0016】
上記第1、第2の動作モードのように共振を利用する動作モード(以下、「共振動作モード」という。)では、共振を利用しない動作モード(以下、「通常動作モード」という。)よりも、ブラシの振幅が大きくなる。安定状態におけるブラシの振幅が大きいので、過渡状態におけるブラシの振幅も大きくなる。したがって、切り替え前後における動作モードの少なくともいずれかに共振動作モードが含まれていれば、安定状態および過渡状態の両方で(すなわち、全施療期間にわたって)ブラシの振幅を大きくすることができ、より高い歯垢除去効果および施療感が得られる。また、共振現象を利用しているので、通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ、効率的である。
【0017】
さらに、本発明における制御手段が、第1の動作モードと第2の動作モードとを交互に切り替えることが好適である。ブラシ振幅の大きい2つの共振動作モードを繰り返すことで、過渡状態におけるブラシの振幅も大きくなり、高い歯垢除去力が得られる。
【0018】
前記第1の方向は、ブラシ面に対して平行な方向であり、前記第2の方向は、前記ブラシ面に対して垂直な方向であることが好ましい。ここで「ブラシ面」とは、ブラシの繊維と直交し、かつ、繊維の先端部分に位置する仮想的な面をいう。第1の方向の共振では、ブラシの毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので、歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られ、第2の方向の共振では、ブラシの毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので、歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られると期待できる。そして、過渡状態においては、これら第1および第2の方向が組み合わされた不規則な動きをするので、両動作モードの効果を両立して得ることが可能となる。
【0019】
前記第1共振点は、前記運動伝達機構に依存する特性であり、前記第2共振点は、前記ブラシに依存する特性であることが好ましい。
【0020】
前記制御手段が、前記ブラシに作用する負荷を検知し、検知された負荷に応じて前記駆動源の出力を調整することが好ましい。ブラシに作用する負荷に依存して、振動部材の振動特性が変動するからである。
【0021】
前記運動伝達機構が前記振動部材に内包されており、前記振動部材が弾性部材を介して電動歯ブラシ本体に取り付けられていることが好ましい。この構成によると、運動伝達機構が振動部材に内包されていることからブラシ近傍が効率的に振動する一方で、弾性部材の介在によって振動部材の振動が電動歯ブラシ本体に伝わりにくくなるので使用感の向上を図ることができる。
【0022】
前記駆動源がモータであり、前記運動伝達機構が前記モータの回転軸に連結された偏心軸であり、前記振動部材が、前記偏心軸の軸受を有するステムを備えることが好ましい。このような駆動原理の電動歯ブラシでは、振動部材(ブラシ)が回転軸に垂直な面内を2次元的に振動する。そして、その振動面内の略直交する2方向においてそれぞれ共振が現れる。この2方向を上記第1、第2の方向として利用できる。
【0023】
なお、切り替え前の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡と切り替え後の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡とが異なるものであれば、これらの動作モードが共振を利用したものでなくても構わない。切り替え前後でブラシ動作の軌跡が異なれば、その過渡状態においてはブラシの軌跡が不規則となり、歯垢除去効果の向上が得られるためである。
【0024】
本発明における制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間の1/3以上、すなわち、全動作期間に占める過渡状態期間の割合が1/4以上となるように、駆動振動数を高速に切り替えることが好適である。さらに、過渡状態期間が安定動作時間以上となるように、すなわち、全動作期間に占める過渡状態期間の割合が半分以上となるように、駆動振動数を高速に切り換えることが好適である。なお、ここで、安定動作期間はブラシの動作が安定している期間であり、過渡状態期間は駆動振動数を切り替えてからブラシの動作が安定するまでの期間である。
【0025】
なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、電動歯ブラシの歯垢除去力および施療感のさらなる向上を図ることができる。また、本発明は、構成の複雑化、コスト増、消費電力の増大を招かない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0028】
(第1実施形態)
<電動歯ブラシの構成>
図1、図2、図3を参照して、電動歯ブラシの構成を説明する。図1は電動歯ブラシの外観を示す斜視図であり、図2は電動歯ブラシの内部構成を示す断面図であり、図3はブロック図である。
【0029】
電動歯ブラシは、駆動源であるモータ10を内蔵する電動歯ブラシ本体1(以下、単に「本体1」という。)と、ブラシ210を有する振動部材2とを備えている。本体1は、概ね円筒形状を呈しており、歯を磨く際に使用者が手で握るためのハンドル部を兼ねている。
【0030】
本体1には、電源のオン/オフおよび動作モードの切り替えを行うためのスイッチSが設けられている。また本体1の内部には、駆動源であるモータ10、モータ10の回転数を制御するための駆動回路12、2.4V電源である充電池13、充電用のコイル14な
どが設けられている。充電池13を充電する際には、充電器(不図示)に本体1を載置するだけで、電磁誘導により非接触で充電可能である。駆動回路12は、図3に示すように、CPU(中央演算処理装置)120、プログラムや各種設定値を記憶するメモリ121、タイマ122などを有している。
【0031】
振動部材2は、本体1側に固定されているステム部20と、このステム部20に装着されるブラシ部品21とを備える。ブラシ部品21の先端にはブラシ210が植毛されている。ブラシ部品21は消耗部品ゆえ、新品に交換できるよう、ステム部20に対して着脱自在な構成となっている。
【0032】
ステム部20は、樹脂材からなるステム200およびホルダ201と、エラストマからなる弾性部材202とから構成される。この弾性部材202は、インサート成形によりステム200およびホルダ201に一体成形されることが好ましい。弾性部材202は、ステム200とホルダ201の間に介在しており、ホルダ201に設けられた複数の貫通孔からそれぞれ突出する複数(たとえば3個)の突起部202Aを備えている。ステム部20は、本体1の外ケースに対して、弾性部材202の3個の突起部202Aによる3点接触により位置決めされる。このように、本実施形態の振動部材2は、弾性部材202を介して本体1に取り付けられている。
【0033】
ステム200は、先端(ブラシ側の端部)が閉じた筒状の部材であり、筒の内部の先端に軸受203を有している。モータ10の回転軸11に連結された偏心軸30の先端が、ステム200の軸受203に挿入される。この偏心軸30は、軸受203の近傍に重り300を有しており、偏心軸30の重心はその回転中心からずれている。なお、偏心軸30の先端と軸受203の間には微小なクリアランスが設けられている。
【0034】
<電動歯ブラシの基本動作>
電動歯ブラシの基本動作について説明する。
【0035】
電源オンの状態になると、CPU120がパルス幅変調信号(PWM信号)をモータ10に供給し、モータ10の回転軸11を回転させる。回転軸11の回転に伴って偏心軸30も回転するが、偏心軸30は重心がずれているために回転中心の回りに旋回するような運動を行う。よって、偏心軸30の先端が軸受203の内壁に対して衝突を繰り返し、ステム200とそれに装着されたブラシ部品21とを高速に振動させることとなる。つまり、偏心軸30は、モータ10の出力(回転)を振動部材2の振動に変換する運動伝達機構(運動変換機構)の役割を担っている。本体1を手で持ち、高速に振動するブラシ210を歯に当てることで、歯垢を除去することができる。なお、CPU120はタイマ122を用いて継続動作時間を監視しており、所定時間(たとえば2分間)が経過したら自動的にブラシの振動を停止させる。
【0036】
本実施形態の電動歯ブラシでは、運動伝達機構である偏心軸30が振動部材2に内包され、特に重り300がブラシ210の近傍に配置されている。よって、ブラシ210の部分を効率的に振動させることができる。その一方で、振動部材2(ステム部20)が弾性部材202を介して本体1に取り付けられているので、振動部材2の振動が本体1に伝わり難くなっている。よって、歯を磨く際の本体1および手の振動を低減でき、使用感の向上を図ることができる。
【0037】
<振動特性の説明>
本実施形態の電動歯ブラシでは、上述のように、偏心軸30の旋回運動を利用してブラシ210の振動を発生させている。このような駆動原理の場合、ブラシ210はモータの回転軸に垂直な面内を2次元的に振動し得る。図4は、ブラシの振動の軌道を模式的に示
している(X軸:モータ回転軸、Y軸:回転軸に対して垂直で且つブラシ面に対して平行な方向、Z軸:ブラシ面に対して垂直な方向)。図示の例ではブラシ210がYZ平面を楕円状の軌道40で振動している。ブラシ面とは、ブラシの繊維と直交し、かつ、繊維の先端部分に位置する仮想的な面のことをいう。
【0038】
本実施形態の電動歯ブラシは図5に示すような振動特性を有する。なお、図5は、ブラシに対してZ軸方向に100gの負荷を与えた状態における、振動数と振幅の関係を示している。横軸は振動数[Hz]であり、縦軸は振幅[mm]であり、実線のグラフはY軸方向(横方向)の振幅を表し、破線のグラフはZ軸方向(縦方向)の振幅を表している。
【0039】
図5のグラフから分かるように、本実施形態の電動歯ブラシは少なくとも2つの共振点(共振振動数)を有しており、各共振点における共振方向は異なっている。具体的には、振動数が低い側の共振点(第1共振点:約100Hz)ではブラシ面に平行な共振方向であるY軸方向の共振が発生し、振動数が高い側の共振点(第2共振点:約200Hz)ではブラシ面に垂直な共振方向であるZ軸方向の共振が発生する。
【0040】
方向の異なる複数の共振が出現する理由は、電動歯ブラシの構造やその駆動原理に依るところが大きいと考えられる。本発明者らは、偏心軸やブラシの構成を変更しながら実験を繰り返すことで、第1共振点が主に運動伝達機構に依存する特性であり、第2共振点が主にブラシに依存する特性であるとの知見を得ている。言い換えれば、運動伝達機構の構造や形状(簡単には偏心軸の重りの位置、大きさ、重量など)を変更することで第1共振点の振動数や振幅を調整でき、また、ブラシの構造や形状を変更することで第2共振点の振動数や振幅を調整できることが分かった。
【0041】
第1共振点を利用する動作モード(以下、「第1共振動作モード」という。)では、図5から分かるようにZ軸方向の振動がほぼ発生していないため、ブラシの軌跡はY軸方向に往復する直線となる。第2共振点を利用する動作モード(以下、「第2共振動作モード」という。)では、Z軸方向の共振が発生するとともにY軸方向にも振幅があるため、ブラシの軌跡はZ軸方向を長軸とする楕円となる。
【0042】
本発明者らは、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを切り替える際に生じる過渡状態におけるブラシの振動によって、歯周ポケットに対して高い刷掃効果が得られることを見出した。
【0043】
第1共振動作モードと第2共振動作モードを交互に切り替えた際のブラシの動きを調べると、図6,7に示すような軌跡となることが分かった。図6はYZ平面におけるブラシの軌跡を示した図であり、図7は軌跡のYZ成分をそれぞれ示した図である。この例では、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを0.3秒ずつ交互に切り替えている。図7に示すように、各動作モードを切り替える際に、YZ軸方向の振動振幅が変化し、これに伴ってブラシが不規則な運動をすることが分かる。この不規則なブラシの運動によりブラシの毛先が施療部に対して様々な角度から当たることが、単一方向の刷掃に比べてより優れた歯垢除去効果が得られる理由であると考えられる。
【0044】
なお、この例では、第1共振動作モード(低振動数)から第2共振動作モード(高振動数)への移行の過渡状態期間は約0.07秒であり、第2共振動作モードから第1共振動作モードへの移行への過渡状態期間は約0.14秒となっている。第2共振動作モードから第1共振動作モードへの移行に時間を要するのは、慣性の影響による。
【0045】
本発明者らは、このような過渡状態における不規則なブラシの運動を利用して歯垢除去効果を高めるためには、動作モードを高速に切り替えて、ブラシが動作している期間に占
める過渡状態期間の割合を大きくすればよいことに想到した。
【0046】
<動作モードの説明>
本実施形態の電動歯ブラシは駆動振動数の異なる複数の動作モードを有している。電源オフの状態からスイッチSを押すたびに動作モードが順番に切り替わり、一巡するとオフ状態に戻る。図3に示すようにメモリ121には各動作モードに対応した設定値が予め格納されている。この設定値は各動作モードの駆動振動数に対応するパラメータであり、その具体的な数値は図5のような実験結果に基づき決定される。
【0047】
動作モードが切り替えられると、CPU120はメモリ121から該当する設定値を読み込み、その値に従ってPWM信号のデューティ比を決定する。デューティ比が大きくなるとモータ10の回転数が高くなり、結果的にブラシ210の振動数も高くなる。このように、本実施形態では、駆動回路12が、モータ10の出力(回転数)およびブラシ210の振動数を制御する制御手段の役割を担っている。
【0048】
(1)第1共振動作モード
第1共振動作モードは、第1共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第1共振点(約100Hz)またはその近傍に設定される。第1共振動作モードでは、デューティ比約50%のPWM信号を用いる。第1共振動作モードでは、通常動作モードよりもブラシ210のY軸方向(横方向)の振幅が増大し、歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に、第1共振動作モードでは、ブラシ210の毛先が施療部に対し平行な方向に小刻みに動くので、歯周ポケットの刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0049】
(2)第2共振動作モード
第2共振動作モードは、第2共振点を利用する動作モードである。駆動振動数は第2共振点(約200Hz)またはその近傍に設定される。第2共振動作モードでは、デューティ比約90%のPWM信号を用いる。第2共振動作モードでは、通常動作モードよりもブラシ210のZ軸方向(縦方向)の振幅が増大し、歯垢除去力および施療感を高めることができる。特に、第2共振動作モードでは、ブラシ210の毛先が施療部に対し垂直な方向に小刻みに動くので、歯間部や歯周ポケットや歯面の刷掃に高い効果が得られるものと思われる。
【0050】
(3)通常動作モード
通常動作モードは、共振を利用しない動作モードである。駆動振動数は第1共振点と第2共振点の間(たとえば150Hz)に設定される。なお、120Hz、140Hz、160Hz、180Hzのように多段階の通常動作モードを設け、スイッチSで切り替えられるようにしてもよい。また、第1共振点よりも低い振動数や第2共振点よりも高い振動数の通常動作モードを設けることも好ましい。
【0051】
(4)共振切替動作モード
共振切替動作モードは、第1共振動作モードと第2共振動作モードとを短い時間間隔で交互に繰り返す動作モードである。共振切替動作モードでは、第1共振動作モードと第2共振動作モードを繰り返すので、PWM信号のデューティ比はメモリ121に格納された各共振動作モードの設定値から算出する。共振切替動作モードにおける、メモリ121に格納される設定値は、各共振動作モードの動作時間である。
【0052】
各共振動作モードの動作時間が0.3秒である場合には、図8Aに示すように、PWM信号の出力は0.3秒おきに第1共振動作モードと第2共振動作モードに対応するデューティ比に切り換えられる。上述のように、第1共振動作モードから第2共振動作モードへの過渡状態が約0.07秒、第2共振動作モードから第1共振動作モードへの過渡状態が
約0.14秒であるとすると、図8Bに示すように、第1共振動作モードでの安定動作期間が約0.16秒、第2共振動作モードでの安定動作期間が約0.23秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/3となる。このような動作モードでは、第1,第2共振動作モードの各安定動作期間における振幅の大きな刷掃と、過渡状態における不規則な刷掃の3種類の刷掃がそれぞれ同程度の時間現れることになる。それぞれの刷掃は異なる種類の刷掃効果が得られるものであるので、本動作モードによると、それぞれの刷掃効果を同時に得ることができる。
【0053】
なお、第1共振動作モードと第2共振動作モードの切り替え間隔は0.3秒である必要はない。例えば、0.2秒や0.4秒間隔で切り替えても良い。0.2秒および0.4秒間隔で切り替えた際の、ブラシの動作状態を図9A,Bにそれぞれ示す。
【0054】
図9Aに示すように、0.2秒間隔で切り替えると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.06秒、第2共振動作モードの安定動作期間が約0.13秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/2となる。
【0055】
図9Bに示すように、0.4秒間隔で切り替えると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.26秒、第2共振動作モードの安定動作期間が0.33秒となる。過渡状態期間の合計は約0.21秒であり、全体の約1/4となる。
【0056】
なお、切り替え間隔はこれより長くても短くても良いが、切り替え間隔が長すぎると全体の動作時間に占める過渡状態期間の割合が短くなってしまい、不規則な刷掃動作による歯垢除去の効果を十分に得ることができなくなる。また逆に、切り替え間隔が短すぎると、共振動作モードで安定動作しなくなってしまう。共振動作モードで安定しないということは、過渡状態における振幅を十分に大きくできていないことを意味し、歯垢除去効果が十分に得られていないことを意味する。
【0057】
また、切り替え動作間隔は、各共振動作モードについて異ならせても良い。例えば、第1共振動作モードの動作期間を0.24秒、第2共振動作モードの動作期間を0.17秒とすることが考えられる。この場合のブラシの動作状態を図9Cに示す。このような設定にすると、第1共振動作モードの安定動作期間が約0.10秒、第2共振動作モードの安定動作期間が約0.10秒、過渡状態期間の合計が約0.21秒となる。これは、過渡状態期間と安定動作期間が1対1であり、かつ、第1,2共振動作モードの安定動作期間が等しくなる設定である。
【0058】
また、切替をより高速に行って、動作時間のほぼ全体を過渡状態とすることもできる。すなわち、第1,2共振動作モードでの安定動作期間が、たとえば、0.02秒となるように、第1共振動作モードの動作期間を0.16秒、第2共振動作モードの動作期間を0.09秒とすることが考えられる。この場合のブラシの動作状態を図9Dに示す。この設定にすると、過渡状態期間がほぼ全動作期間を占める(0.21/0.25)ようにすることができる。
【0059】
このように、切り替え間隔を適宜設定することで、種々の動作を実現することができる。
【0060】
以上述べたように本実施形態によれば、共振方向の異なる複数の共振動作モードを切り替える際の過渡状態を利用し、不規則なブラシ振動を実現して、歯垢除去力および施療感の向上を図ることができる。共振を利用しているので、過渡状態におけるブラシの振動振幅も大きくなる。また、歯垢除去効果を得るために高い振動数で動作させる時間を削減できるため、歯肉への刺激も緩和することができる。また、複数の共振動作モードをモータ
の回転数制御だけで実現しているので、駆動系や伝達系に特殊な機構や部品が必要ない。よって、電動歯ブラシの構成の複雑化やコスト増を招くことがない。さらに、共振現象を利用しているので、通常動作モードと同等の消費電力で振幅の増大(歯垢除去力の向上)を図ることができ、効率的である。
【0061】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、各動作モードで単一の設定値を用いている。しかし、図10に示すように、ブラシに作用する負荷が変わると、ブラシの振動特性が変動し、共振点の位置が変わってしまう。図10は負荷250gの場合の振動特性を示しているが、第1共振点は110Hzあたりに、第2共振点は250Hzあたりに現れており、負荷100gの場合(図5)に比べて、いずれの共振点も大きくなっていることが分かる。そこで、第2実施形態では、ブラシに作用する負荷を検知し、負荷の大きさに応じてモータの回転数を調整する。
【0062】
図11は、第2実施形態の電動歯ブラシのブロック図である。第1実施形態と異なる点は、電流検知回路123が設けられていることと、メモリ121の中に負荷の大きさに対応して複数の設定値が格納されていることである。
【0063】
電流検知回路123は、モータ10の電流値を検知する回路である。ブラシを歯面に強く押し当てるほどブラシに作用する負荷が大きくなる。そしてブラシに作用する負荷が増大すると、モータ10の負荷も増大し、モータ10に流れる電流値が増大する。よって、CPU120は、電流検知回路123の検知結果に基づいてブラシ210に作用する負荷の大きさを推定することができる。
【0064】
メモリ121には、動作モード別に、負荷70g〜250gの範囲に対応する設定値が格納されている。本実施形態では、負荷70g、100g、・・・、250gのように予め決められた負荷の値(代表値)に対応する設定値が用意されている。CPU120は、ブラシに作用している負荷の値に基づいて、これらの設定値の中から最適なものを選択するか、あるいは、これらの設定値を補間することにより適切な値を算出する。なお、設定値を負荷の大きさの関数で表現できる場合には、その関数を表すパラメータをメモリに格納することも好ましい。
【0065】
また、負荷の値が変わると、各動作モードを切り換える際の過渡状態の期間にも変動が生じる。したがって、共振切替動作モードにおいて、各モードの切替間隔の適切な値も変化する。そこで、負荷の値に応じた切替間隔が、メモリ121に格納される。
【0066】
このような構成により、ブラシに作用する負荷の大きさに応じてモータの回転数を適宜調整することで、負荷に依存する共振点のズレをカバーし、共振現象を正確に再現できるようになる。また、過渡状態期間の全体動作期間に占める割合も、正確に再現することができるようになる。
【0067】
(第3の実施形態)
本実施形態は、ブラシの種類によってその振動特性が異なることを考慮し、現在装着されているブラシ部品21の種類を検出し、その種類に応じた振動特性を利用する。ブラシの種類を検出するために、ブラシ部品21にブラシ種類毎に異なる識別マーカを付し、本体1に識別マーカ読み取り部を設けて、ブラシの種類を検出する。
【0068】
識別マーカとして、ブラシ種類に応じて異なる抵抗値を有する導電性素材を利用することができる。本体1の識別マーカ読み取り部は、導電性素材の抵抗値を読み取ることでそのブラシ種類を判別可能である。
【0069】
また、識別マーカとして、永久磁石などの電磁素子を利用可能であり、ブラシ種類に応じて磁石の磁力の強さや磁石の設置位置を変えて、ブラシ取り付け時に識別マーカ読み取り部にかかる磁界の強さを異ならせる。本体1の識別マーカ読み取り部は、コイルを備えており、ブラシ部品21の取り付け時に生じる誘導起電力の強さを検出する。誘導起電力の強さはコイルに係る磁界の強さに比例するため、誘導起電力に基づいてブラシ種類を判別可能である。
【0070】
また、識別マーカ読み取り部として複数の光電素子を利用し、識別マーカとしては光電素子に対応する位置における穴部を採用することができる。ブラシの種類に応じてどの位置に穴を設けるか異ならせておくことで、識別マーカ読み取り部ではどの光電素子から受光しているかによってブラシ種類を判別可能である。光電素子が3つある場合には、8種類の状態(7種類のブラシと非装着状態)を判別可能である。
【0071】
また、識別マーカ読み取り部として異なる種類の波長を検知可能な複数の光電素子を利用して、識別マーカとして特定波長の光を透過させる光学フィルタ素材を採用可能である。ブラシの種類に応じてフィルタが透過する波長を変えておくことで、ブラシ種類の判別が可能となる。
【0072】
また、識別マーカ読み取り部としてメカニカルな複数のスイッチを利用し、識別マーカとして各スイッチに対応する位置に設けられたスリット状の切り欠きや穴を採用することができる。ブラシ種類によって切り欠きや穴を設ける箇所を異ならせることで、装着時に切り替えられるスイッチの位置が異なる。したがって、どのスイッチが切り替えられたかを判断することで、ブラシ種類を判別可能である。
【0073】
このようにして、識別マーカを利用して取り付けられているブラシ部品21の種類を判別可能であるので、種々のブラシ種類についての振動特性をメモリ121に格納しておけば、取り付けられたブラシ種類に応じた振動特性を利用することができる。また、振動特性以外に、動作モードなどをブラシ種類毎に変えることも可能である。つまり、取り付けられたブラシ種類に対応して、歯垢除去効果を最適にすることができる。
【0074】
なお、上記のような仕組みを使えば、ブラシ部品21が取り付けられているか否かを判断することができる。したがって、ブラシ部品21が取り付けられていない状態では、電源ボタンが押されても電源をオンしないように制御することができる。近年、電動歯ブラシの小型化が進み携帯性に優れたものが登場しているが、持ち運び中やカバンに保管中などに不意の外力が加わって意図せずに電源がオンになって、動作音や振動で不快な思いをしたり電池を消耗してしまうという問題があった。上記のように、ブラシ部品21が非装着の状態では電源をオンにできないようにすれば、このような問題を解消することができる。
【0075】
また、上記のような意図しない電源オンを防止するための別の仕組みとして、次のような方法を採用することもできる。すなわち、電源ボタン長押しによりボタン操作を受け付けないキーロックモードを採用するとともに、利用者にあらかじめロックを解除するためのボタン操作を登録させておき、キーロック時にこの操作が行われた場合のみキーロックを解除して電源オンするようにすればよい。解除用の操作パターンとしては、例えば、電源ボタンを1秒間に3回押した後に1秒以上長押しするというパターンを利用可能である。このような動作を利用者にあらかじめ行わせ、その信号パターンを記憶しておく。そして、キーロック時に記憶したパターンと一致した信号入力があったときに、キーロックを解除する。このような複雑な操作が意図せずに行われる可能性は低いため、意図しない電源オンを防止することができる。なお、ロック解除用の動作は、1つのボタンの操作だけ
でなく、複数のボタンの操作パターンを採用しても良い。
【0076】
(変形例)
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。上述の説明で用いた数値等は例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0077】
また、上記実施形態の共振切替動作モードでは、第1共振動作モードと第2共振動作モードを交互に切り替えたが、切替態様はこれに限らない。過渡状態における不規則なブラシ軌道が生じる原因は、切り替え前後での、安定動作状態におけるブラシの軌跡が異なることにあると考えられる。したがって、ブラシ動作の軌跡が互いに異なる動作モードの間を切り替えるものであれば、上記の実施形態と同様の効果が得られる。
【0078】
たとえば、第1共振動作モードと通常動作モードを交互に切り換えても良いし、第2共振動作モードと通常動作モードを交互に切り換えても良い。このように、切替前後の一方に共振動作モードが含まれていれば、少なくとも一時的に共振を利用した振幅の大きなブラシ運動が得られる。また、共振を利用しない通常動作モード間で高速に切替を行っても良い。この場合も、過渡状態における不規則なブラシ運動が得られる。また、駆動振動数が共振振動数でなくても、共振振動数の前後で駆動振動数を切り換えると、過渡状態において共振振動数を通過するため、過渡状態においてブラシの振幅を大きくすることができる。
【0079】
また、上記実施形態の共振切替動作モードでは2つの動作モードの間で切替を行ったが、3つ以上の動作モードの間で切替を行っても良い。たとえば、2つの共振動作モードの間に通常動作モードを挟んだ切替態様や、それら複数の動作モードをランダムに切り替える切替態様も好ましい。また、ブラシの第3の共振点を利用し、共振を利用した3つの動作モード間で高速に切り換えても良い。この場合、3つの共振点の中から選択された任意の2つの動作モード間で高速に切り換えても良いし、3つの動作モードを順次切り替えたり、3つの動作モードをランダムで切り換えたりしても良い。
【0080】
また、第1共振動作モードや第2共振動作モードのような1つの共振点のみを利用する動作モードを無くして、共振切替モードのように複数の共振点を高速に切り換える動作モードだけにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、電動歯ブラシの外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、電動歯ブラシの内部構成を示す断面図である。
【図3】図3は、第1実施形態のブロック図である。
【図4】図4は、ブラシの振動を模式的に示す図である。
【図5】図5は、負荷100gの場合の共振点を示すグラフである。
【図6】図6は、過渡状態におけるブラシの軌跡を示す図である。
【図7】図7は、過渡状態におけるY軸(横)方向およびZ軸(縦)方向のブラシの軌跡を示す図である。
【図8】図8Aは共振切替動作モードでのPWM信号の波形を示す図であり、図8Bは共振切替動作モードでのブラシの振動状態を示す図である。
【図9】図9A〜Dは、共振切替動作モードでのブラシの駆動状態の別の例を示す図である。
【図10】図10は、負荷250gの場合の共振点を示すグラフである。
【図11】図11は、第2実施形態のブロック図である。
【符号の説明】
【0082】
1 電動歯ブラシ本体
10 モータ
11 回転軸
12 駆動回路
121 メモリ
122 タイマ
123 電流検知回路
13 充電池
14 コイル
2 振動部材
20 ステム部
200 ステム
201 ホルダ
202 弾性部材
202A 突起部
203 軸受
21 ブラシ部品
210 ブラシ
30 偏心軸
300 重り
40 軌道
S スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
ブラシを有する振動部材と、
前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と、
前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記振動部材の駆動振動数を複数の異なる振動数の間で高速に繰り返す制御を行うことで、駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする
電動歯ブラシ。
【請求項2】
前記複数の異なる振動数の少なくとも1つは、前記振動部材の共振振動数である
請求項1に記載の電動歯ブラシ。
【請求項3】
前記振動部材は、前記ブラシが第1の方向に共振する第1共振点と、前記ブラシが第2の方向に共振する第2共振点と、を有しており、
前記複数の異なる振動数には、前記第1共振点に対応する振動数と、前記第2の共振点に対応する振動数が含まれる
請求項1または2に記載の電動歯ブラシ。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1共振点に対応する振動数と前記第2共振点に対応する振動数とで前記振動部材を繰り返して駆動するように出力を交互に切り替える
請求項3に記載の電動歯ブラシ。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1の方向の共振が生じるように前記駆動源の出力を制御する第1の動作モードと、前記第2の方向の共振が生じるように前記駆動源の出力を制御する第2の動作モードと、を有しており、該第1および第2の動作モードを高速に繰り返す
請求項3または4に記載の電動歯ブラシ。
【請求項6】
前記第1の方向は、ブラシ面に対して平行な方向であり、
前記第2の方向は、前記ブラシ面に対して垂直な方向である
請求項3〜5のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項7】
前記第1共振点は、前記運動伝達機構に依存する特性であり、
前記第2共振点は、前記ブラシに依存する特性である
請求項3〜6のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項8】
切り替え前の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡と、切り替え後の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡とが、異なるものである
請求項1に記載の電動歯ブラシ。
【請求項9】
ブラシの動作が安定している期間を安定動作期間とし、駆動振動数を切り替えてからブラシの動作が安定するまでの期間を過渡状態期間とし、
前記制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間の1/3以上となるように、駆動振動数を切り替える
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項10】
前記制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間以上となるように、駆動振動数を切り替える
請求項9に記載の電動歯ブラシ。
【請求項1】
駆動源と、
ブラシを有する振動部材と、
前記駆動源の出力を前記振動部材の振動に変換する運動伝達機構と、
前記駆動源の出力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記振動部材の駆動振動数を複数の異なる振動数の間で高速に繰り返す制御を行うことで、駆動振動数切替時における過渡状態を利用した刷掃を可能とする
電動歯ブラシ。
【請求項2】
前記複数の異なる振動数の少なくとも1つは、前記振動部材の共振振動数である
請求項1に記載の電動歯ブラシ。
【請求項3】
前記振動部材は、前記ブラシが第1の方向に共振する第1共振点と、前記ブラシが第2の方向に共振する第2共振点と、を有しており、
前記複数の異なる振動数には、前記第1共振点に対応する振動数と、前記第2の共振点に対応する振動数が含まれる
請求項1または2に記載の電動歯ブラシ。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1共振点に対応する振動数と前記第2共振点に対応する振動数とで前記振動部材を繰り返して駆動するように出力を交互に切り替える
請求項3に記載の電動歯ブラシ。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1の方向の共振が生じるように前記駆動源の出力を制御する第1の動作モードと、前記第2の方向の共振が生じるように前記駆動源の出力を制御する第2の動作モードと、を有しており、該第1および第2の動作モードを高速に繰り返す
請求項3または4に記載の電動歯ブラシ。
【請求項6】
前記第1の方向は、ブラシ面に対して平行な方向であり、
前記第2の方向は、前記ブラシ面に対して垂直な方向である
請求項3〜5のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項7】
前記第1共振点は、前記運動伝達機構に依存する特性であり、
前記第2共振点は、前記ブラシに依存する特性である
請求項3〜6のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項8】
切り替え前の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡と、切り替え後の駆動振動数に対応するブラシ動作の軌跡とが、異なるものである
請求項1に記載の電動歯ブラシ。
【請求項9】
ブラシの動作が安定している期間を安定動作期間とし、駆動振動数を切り替えてからブラシの動作が安定するまでの期間を過渡状態期間とし、
前記制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間の1/3以上となるように、駆動振動数を切り替える
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電動歯ブラシ。
【請求項10】
前記制御手段は、過渡状態期間が安定動作期間以上となるように、駆動振動数を切り替える
請求項9に記載の電動歯ブラシ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−219756(P2009−219756A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69405(P2008−69405)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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