説明

電子写真感光体、それを用いた電子写真カートリッジ及び画像形成装置

【課題】感光層を形成するための塗布液の安定性に優れ、且つ、電気特性の良好な単層型電子写真感光体、及び感光体を備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有し、電荷輸送材料が、下記一般式(I)で示されるスチリル化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体及び画像形成装置に関する。詳しくは、電気特性が良好で、且つ、感光層を形成するための塗布液の安定性に優れた電子写真感光体、及び該感光体を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、即時性、高品質の画像が得られること等から、複写機、各種プリンター等の分野で広く使われている。電子写真技術の中核となる電子写真感光体( 以下、単
に「感光体」ともいう。) については、無公害で成膜が容易、製造が容易である等の利
点を有する有機系の光導電物質を使用した感光体が使用されている。
電子写真感光体においては、電荷の発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる、いわゆる機能分離型の感光体が、材料選択の余地が大きく、感光体の特性の制御がし易いことから、開発の主流となっている。感光層構成の観点からは、感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有する電子写真感光体( 以下、単層型感光体
という。) と、電荷発生材料と電荷輸送材料とを別々の層( 電荷発生層と電荷輸送層)
中に分離、積層する電子写真感光体( 以下、積層型感光体という。)とが知られている。
【0003】
このうち積層型感光体は、感光体設計上からは、層ごとに機能の最適化が図り易く、特性の制御も容易なことから、現行感光体の大部分はこのタイプになっている。このような積層型感光体のほとんどのものは、基体上に少なくとも電荷発生層、電荷輸送層をこの順序で有している。該電荷輸送層においては、好適な電子輸送材料がきわめて少ないのに対して、電荷輸送材料は特性の良好な材料が数多く知られている。このような電荷輸送材料を用いた積層型感光体においては、帯電においては負帯電方式が採用される。本発明の電荷輸送材料も積層型負帯電感光体に使用されている例がある(特許文献1、2)。このような負帯電方式において、負のコロナ放電により感光体を帯電させる場合に、発生するオゾンが環境及び感光体特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0004】
それに対し、単層型感光体においては、負帯電方式であっても正帯電方式であっても利用できるので、正帯電方式を利用すれば、上記積層型感光体で問題になるオゾン発生を低く抑えることができる。そのため、電気特性面では負帯電の積層型感光体よりも劣るものが多いものの、一部実用化されている。このようなオゾン発生に対する効果の他にも、単層型感光体は、塗布工程が少なくなる、半導体レーザー光に対する干渉縞が生じ難い、等の利点がある。単層型感光体では、以上のような利点に加え、さらに、感光層の表面近傍で入射光のほとんどが吸収され、電荷が発生するので、入射光の感光層中での拡散はほとんど無視でき、さらに帯電後の表面電荷が中和するまでの電荷の移動距離が積層型感光体に比べて少ないという利点が挙げられる。このため、光の拡散及び電荷の拡散による画像ボケが起き難く、高解像度が期待できるだけでなく、感光層の膜厚をより厚くした場合にも電荷の拡散及び入射光の拡散の度合いがさほど変わらず、解像度もあまり低下しない(例えば特許文献3 〜 7 を参照) 。
【0005】
一方、単層型感光体では、積層型感光体に比し、層内に様々な機能の物質を一括して含むため、材料同士の相性によって感光体としての感度や残留電位が大きく変わるという特徴があり、特に好適な電荷輸送材料が求められてきた。その中で、アゾ化合物やペリレン誘導体を電荷発生材料として用いた場合には、トリアリールアミン系ジアミンの電荷輸送材料が良い電気特性を示すことが知られている( 例えば特許文献8 , 9 を参照) 。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公報第2812729号
【特許文献2】特許公報第3544079号
【特許文献3】特開昭6 1 − 7 7 0 5 4 号公報
【特許文献4】特開昭6 1 − 1 8 8 5 4 3 号公報
【特許文献5】特開平2 − 2 2 8 6 7 0 号公報
【特許文献6】特公平7 − 9 7 2 2 3 号公報
【特許文献7】特公平7 − 9 7 2 2 5 号公報
【特許文献8】特公平5 − 2 0 7 4 2 号公報
【特許文献9】特開2 0 0 5 − 4 3 8 1 4 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、これらトリアリールアミン系ジアミンの電荷輸送材料を用いた場合であっても、近年の高性能マシンに対して適切な電気特性を持たせる事が容易ではなく、画像濃度が薄くなったり濃くなったりといったケースがあった。感光体の光感度は、搭載するマシンによって適切な範囲が決まってくるが、単層型感光体の場合は、感度発現の中心的担い手の電荷発生材料が表面近傍に存在するため、材料そのものの性能がダイレクトに現れ、感度の微調整がなかなか行い難い事があった。
【0008】
また、単層型感光体としてこれらトリアリールアミン系ジアミンの電荷輸送材料を感光層形成用塗布液に含有する場合、常に析出の問題があった。つまり、塗布液調製直後に感光体を作製( 塗布) すれば問題はないが、塗布液を数日以上保管した後に塗布しようとした場合は、塗布液中でトリアリールアミン系ジアミンの電荷輸送材料が析出する。電荷輸送材料を増量すると電気特性は向上するが、析出はますます促進され、この対策では実使用には耐え難いという側面があった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決すべくなされたものである。即ち、本発明の目的は、感光層を形成するための塗布液の安定性に優れ、且つ、電気特性の良好な電子写真感光体、及び該感光体を備えた画像形成装置を提供することにある。
本発明者らは、上記問題点を改善するため鋭意検討した結果、特定の構造を持つスチリル化合物を用いることで、光感度、残留電位、電荷移動度、耐久時の電位安定性にすぐれた電子写真感が得られ、感光体塗布液の作製時における溶媒への溶解性も大幅に改良でき、塗布液の安定性も良好であることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、
該感光層が電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有する感光体で、該電荷輸送材料が、特定のスチリル化合物であることにより、感光層形成用塗布液が安定となり、且つ、感光体が要求されている適切な電気特性を得られる事を見出し、本発明の完成に至った。すなわち本発明の第一の要旨は、導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有し、該電荷輸送材料が、下記一般式(I)で示されるスチリル化合物であることを特徴とする、電子写真感光体に存する。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中において、R、R,R,Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していても良い複素環基を表し、RとRとは相互に結合して環を形成してもよく、Zはインドリン環の二つの炭素原子と共に、飽和の5〜8員環を形成するのに必要とされる原子群を表す。)
また、本発明の第二の要旨は、上記本発明の電子写真感光体と、少なくとも当該電子写真感光体を帯電させる帯電部材と、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置と、電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置、のうちの1つを備えることを特徴とする電子写真カートリッジに存する。
【0013】
また、本発明の第三の要旨は、上記本発明の電子写真感光体と、当該電子写真感光体を帯電させる帯電部材と、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置と、電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置と、を備えたことを特徴とする画像形成装置に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気特性に優れ、且つ感光層用の塗布液が安定である電子写真感光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置の一実施例を示す概念図である。
【図2】実施例で用いたオキシチタニウムフタロシアニンのX線回折図である。
【図3】実施例で用いたオキシチタニウムフタロシアニンのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有し、該感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有し、該電荷輸送材料は、下記一般式(1)で表されるスチリル化合物である。この電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層は、電荷輸送材料及びバインダー樹脂を含有する層中に電荷発生材料を分散させたものである。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中において、R、R,R,Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していても良い複素環基を表し、RとRとは相互に結合して環を形成してもよく、Zはインドリン環の二つの炭素原子と共に、飽和の5〜8員環を形成するのに必要とされる原子群を表す。)
【0019】
ここで、R1〜R4は各々独立して水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していても良い複素環基を表す。ここで、アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、アラルキル基としては、炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。また、アリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ピレニル基等が挙げられる。また、複素環基は、芳香族性を有する複素環が好ましく、例えばフリル基、チエニル基、ピリジル基等が挙げられ、単環の芳香族複素環が更に好ましい。以上の中でも、バインダー樹脂との相溶性や電荷輸送速度を十分にするためには、R1〜Rにおいて、最も好ましいものはメチル基及びフェニル基である。
【0020】
また、RとRとは相互に結合して環を形成してもよく、その場合、単結合、メチレン基、エチレン基、カルボニル基、ビニリデン基、エチレニレン基等を介した炭素環基;酸素原子、硫黄原子、窒素原子等を含む、複素環基の構造が挙げられる。
また、Zはインドリン環の二つの炭素原子と共に、飽和の5〜8員環を形成するのに必要とされる原子群を表す。ここで、合成し易さ、製造コストの観点から、飽和の5または6員環であることが好ましい。また、共役系の広がりを持たせて電荷の受け渡しを円滑に行う事が出来るとの理由から、飽和の5〜8員環を形成するのに必要とされる原子群は全て炭素原子であることが好ましい。
【0021】
式(1)で表される化合物の代表例として、以下の例示化合物CT−1〜CT−14が挙げられる。ただし、本発明に係る式(1)で表される化合物はこれらの化合物に限定されるものではない。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0022】
これらの化合物は積層型の電子写真感光体における電荷輸送剤として公知であるが、トリアリールアミン系化合物に比べると電荷輸送速度が遅く、近年のサイクルの速いマシンへの使用は難しい。一方で単層型感光体の場合は電荷発生が表面近傍で起こるために、表面電荷の減衰速度は、積層型ほど電荷輸送能力差を反映せず、高速マシンにおいても十分
に使用可能であることがわかった。
【0023】
さらに、フタロシアニンに代表される電荷発生材料との相互作用で起こる感度発現現象では、他のトリアリールアミン系化合物にはない特性である、感度低下を引き起こす事がわかった。この特性が、感度の微調整し難い単層型感光体においては好都合で、トナー消費量のコントロールなどに非常に効果的であることがわかった。
これらの化合物は、公知の方法により容易に合成することが出来る。例えば、本発明の例示化合物CT−は、次の反応式に従って製造することができる。
【0024】
【化8】

【0025】
式(2)のアルデヒド体(3.31g)とジエチルベンズヒドリルホスホナート(3.95g)の1,2−ジメトキシエタン溶液(25ml)に0℃にて、カリウムt−ブトキシド(1.46g)を加えた。同温にて20分間、さらに室温で1時間撹拌した後、反応物を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。シリカゲルカラムクトマトで精製することにより、例示化合物(3)を3.63g
得た。
【0026】
以下に、本発明に係わる電子写真感光体の構成について説明する。本発明に係わる電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有し、該感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有し、該電荷輸送材料が上述した一般式(1)で表される化合物であるものである。
【0027】
また、本発明においては、感度の高い感光体が得られるとの理由から、前記電荷輸送材料が、金属フタロシアニンであることが好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンまたはヒドロキシガリウムフタロシアニンであることがより好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンであることが特に好ましい。前記オキシチタニウムフタロシアニンとしては、C u K α 特性X 線を用いた粉末X 線回折において、ブラッグ角2θ±0.2°が27.2°に明瞭なピークを示すことが好ましい。また、本発明においては、発生した電荷を層内でより効率的に移動させるためには、前記単層型感光層が、ペリレン誘導体を含有することが好ましい。更に、本発明においては、基体との接着性を確保したり、干渉縞を抑えて画像欠陥を防ぐという理由から、前記導電性支持体と前記単層型感光層との間に下引き層を有することが好ましい。
【0028】
[導電性支持体]
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO( インジウム− スズ酸化物) 等
の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状等のものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
【0029】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合には、陽極酸化処理、
化成皮膜処理等を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
導電性支持体の表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。
【0030】
[下引き層]
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。
下引き層としては、樹脂単独、あるいは、樹脂に金属酸化物等の粒子や有機顔料等の分散剤を分散したもの等が用いられる。下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1
種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。このように、一種類の粒子のみを用いても良いし複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理が施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
【0031】
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上100nm以下が好ましく特に好ましくは、10nm以上50nm以下である。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が単独あるいは硬化剤とともに硬化した形で使用できるが、中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示すので好ましい。
【0032】
特に本発明の電子写真感光体においては、積層型感光体を構成する電荷発生層を下引き層の代用とすることもできる。この場合は、フタロシアニン顔料やアゾ顔料をバインダー樹脂中に分散して塗布したもの等が好適に用いられる。この場合、特に電気特性が優れる場合があり、好ましい。バインダー樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂類が好ましく用いられ、特にはポリビニルブチラール樹脂が好ましく用いられる。
【0033】
バインダー樹脂に対する粒子や顔料等の分散剤の添加比は任意に選べるが、10重量%以上、500重量% 以下の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ま
しい。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性から0.1μmから25μmが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加しても良い。
【0034】
[感光層]
本発明における単層型感光層では、バインダー樹脂中に、電荷輸送材料が溶解又は分散されると共に電荷発生材料が分散され、同一の層となる。具体的には、例えば電荷輸送材料及び電荷発生材料等とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを導電性支持体上に( 下引き層を設ける場合は下引き層上に) 塗布、乾燥して得ることができる。
【0035】
感光層に使用されるバインダー樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等が挙げられ、またこれらの部分的架橋硬化物も使用できる。上記バインダー樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が特に好ましい。これらの樹脂は単独でも、複数を混合して用いてもよい。
【0036】
本発明における感光層は、電荷輸送材料として、上述した一般式(1)で表されるスチリル化合物が少なくとも一種用いられるが、さらに異なる化学構造のスチリル化合物や、トリアリールアミン系化合物、エナミン系化合物など他の電荷輸送材料と併用してもよい。
さらに、本発明では電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層に電子輸送材料を含有させてもよい。電子輸送材料としては、従前公知の材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質や、従前公知の環状ケトン化合物やペリレン顔料(ペリレン誘導体)が挙げられる。中でも、前記フタロシアニン顔料との相性がよく、塗布液にした時の安定性も良好との理由から、電荷輸送材料がペリレン顔料であることが好ましい。電子輸送材料としては、例えば下記式(I)〜(XI)の構造からなる化合物を例示できる。
【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
好ましい電子輸送材料としては、下記一般式P−1〜P−3で表されるペリレン誘導体を挙げることができる。
【0040】
【化11】

【0041】
上記一般式P−1〜P−3中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。置換基を有していてもよいアルキル基においては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert.-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数6以下のアルキル
基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数3以下のアルキル基が特に好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基としては、アルキル基又はアリール基が挙げられ、好ましくは炭素数3以下のアルキル基又は2以下の環を有するアリール基が好ましい。また、置換基を有していてもよいアリール基においては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基等の3以下の環を有するアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。アリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基又はアリール基が挙げられ、好ましくは炭素数3以下のアルキル基又は2以下の環を有するアリール基が好ましい。
【0042】
また、上記一般式P−1〜P−3 中、R,R,Rは、2価芳香族炭化水素であ
ることが好ましく、フェニレン基であることが特に好ましい。
上記一般式P−1〜P−3の中でも、R,Rが置換基を有していてもよいアリール基である、下記一般式P−4で表されるペリレン誘導体を好ましく挙げることができる。
下記式中、R〜R10は、それぞれ独立に低級アルキル基を表す。低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert.−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が例示される。
【0043】
【化12】

【0044】
一般式P−4で表されるペリレン誘導体の具体例としてはN,N‘−ビス(3,5−ジメチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミドN,N‘−ビス(3−メチル−5−エチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N’−ビス(3,5−ジエチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス(3,5−ジプロピルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−(3,5−ジイソプロピルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス3−メチル−5−イソプロピルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス(3−エチル−5−イソプロピルフェニル)ペリレンー3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス(3,5−ジブチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス(3−メチル−5−ジ−tert−ブチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N’−ビス(3,5−ジペンチルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド、N,N‘−ビス(3,5−ジヘキシルフェニル)ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボキシジイミド等を挙げることができ、これらを単独で又は2種以上混合して用いてもよい。
【0045】
電子輸送材料としてのペリレン誘導体を含有させる場合、ペリレン誘導体の含有割合は特に制限されないが、例えば感光層中のバインダー樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部以上20重量部以下であり、特に好ましくは2重量部以上10重量部以下である。
また、本発明においては、電荷輸送材料である上記スチリル化合物以外の他の電荷輸送材料を併用しても良い。併用する電荷輸送材料としては、従前公知の材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中で、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、或いはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。なお、併用するこれらの電荷輸送材料の数にも特に制限はない。
【0046】
上述した従前公知の電荷輸送材料を併用する場合、本発明の化合物は少量の混合でも電気特性を改善する事が可能であるため、他の電荷輸送材料の総量に対する本発明のエナミン化合物の重量比率が、5重量%以上となるように併用することが好ましく、20重量%以上となるように併用することがさらに好ましく、30重量%以上が特に好ましい。
感光層を構成するバインダー樹脂と上記電荷輸送材料(電子輸送材料及び/又は電荷輸送材料)との配合割合は任意であるが、通常はバインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送材料を20重量部以上の比率で配合する。中でも、残留電位低減の観点からは、バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送材料を30重量部以上の割合で配合することが好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点からは、電荷輸送材料を40重量部以上の割合で配合することがより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、バインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送材料を150重量部以下の割合で配合することが好ましく、更に電荷輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点からは、電荷輸送材料を120重量部以下の割合で配合することが好ましく、更に耐刷性の観点から
は、電荷輸送材料を100重量部以下の割合で配合することがより好ましく、更に耐傷性の観点からは、電荷輸送材料を80重量部以下の割合で配合することが特に好ましい。なお、複数の電荷輸送材料を用いる場合は、それらの電荷輸送材料の合計が上記範囲内になるようにする。
【0047】
また、電荷発生材料としては、例えばセレニウム及びその合金、硫化カドミウム、その他無機系光導電材料、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等の有機顔料等各種光導電材料が使用でき、特に有機顔料、更にフタロシアニン顔料、アゾ顔料、ペリレン顔料が好ましく、中でもフタロシアニン顔料が好ましい。
【0048】
電荷発生材料としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、又はその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類が使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、上に示した酸素原子、塩素原子の他、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B 型等のオキシチタニウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニ
ン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。なお、ここで挙げたオキシチタニウムフタロシアニンの結晶型のうち、A型、B型についてはW.HellerらによってそれぞれI相、II相として示されており( Z e i t . K r i s t a l l o g r . 1 5 9 ( 1 9 8 2 ) 1 7 3
)、A型は安定型として知られているものである。そして、本発明においては、CuKα線を用いた粉末X線回折において、高感度の感光体が得られ、マシンスピードが向上するなどの理由から、との回折角2θ±0.2°が27.2°に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型を用いることが好ましい。フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いても良いし、いくつかの混合状態でも良い。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態における混合状態として、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じせしめたものでも良い。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0049】
この場合の電荷発生材料の粒子径は充分小さいことが必要であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下で使用される。感光層内に分散される電荷発生材料の量は少なすぎると充分な感度が得られず、多すぎると帯電性の低下、感度の低下等の弊害があり、例えば感光層の総重量に対して、好ましくは0.5〜50重量%の範囲で、より好ましくは1〜20重量%の範囲で、特に好ましくは1〜5重量%の範囲で使用される。これらの電荷輸送材料及び電荷発生材料が、バインダー樹脂に結着した形で感光層が形成される。感光層は、単一の層から成っているのが好ましい形態だが、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでも良い。後者の場合でも、層中の材料の働きから、単層型感光体と呼ぶ。
【0050】
感光層の膜厚は通常5〜50μm、より好ましくは10〜45μmで使用される。またこの場合にも成膜性、可とう性、機械的強度等を改良するための公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤、例えばシリコーンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤が添加されていても良い。
【0051】
感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減したりする目的で保護層を設けても良い。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を軽減する目的で、表面の層にはフッ素系樹脂、
シリコーン樹脂等を含んでいても良い。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含んでいても良い。
【0052】
[電子写真感光体の調製方法]
本実施の形態が適用される電子写真感光体の調製方法は特に限定されないが、通常、この感光体を構成する層は、電子写真感光体の感光層形成方法として公知な、浸漬塗布法、スプレー塗布法、ノズル塗布法、バーコート法、ロールコート法、ブレード塗布法等により支持体上に塗布して形成される。これらの中でも生産性の高さから浸漬塗布方法が好ましい。
該層の形成方法としては、層に含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を順次塗布する等の公知の方法が適用できる。
【0053】
[電子写真カートリッジ及び画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた電子写真カートリッジ及び画像形成装置の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
【0054】
図1に示すように、まず画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2,露光装置3, 現像装置4, 転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0055】
帯電装置2は、電子写真感光体1を正に帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置等がよく用いられる。
【0056】
電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(以下適宜、感光体カートリッジと言う)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1,帯電装置2,トナーが全て備えられたカートリッジを用いることもある。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光等で露光を行なえばよい。
【0057】
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分導電トナー現像、
二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等の任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
【0058】
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄,ステンレス鋼,アルミニウム,ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
【0059】
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼,アルミニウム,銅,真鍮,リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は0.05〜5N/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
【0060】
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト上の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
【0061】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
【0062】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。
定着装置7は、上部定着部材(加圧ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウム等の金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等が公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を
向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
【0063】
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
【0064】
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の正電位(例えば+600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
【0065】
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、正極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
【0066】
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
【0067】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づき本実施の形態をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例及び参考例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「重量部」を示す。
【0069】
<感光体ドラムの製造>
(実施例1)
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入
し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1− プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処
理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表される化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表される化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表される化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0重量%の下引き層用分散液とした。
【0070】
【化13】

【0071】
このようにして得られた下引き層形成用塗布液を、外径30mm、長さ244mm、肉厚0.75mmのアルミニウム合金よりなるシリンダー上に、乾燥後の膜厚が1.2μmになるように浸漬塗布、乾燥して下引き層を設けた。
次に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3°に強い回折ピークを示し、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン4重量部をトルエン60重量部と共にサンドグラインドミルにより分散した。同様に下記構造で示される電子輸送材料であるペリレン誘導体6重量部をトルエン83重量部と共にサンドグラインドミルにより分散した。
一方、先に示した具体例中の電荷輸送材料(CT−9)60重量部と、下記構造を繰り返し単位として持つポリカーボネート樹脂100重量部とをトルエン410重量部に溶解し、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05重量部を加え、これに上記の2種の分散液を、ホモジナイザーにより均一になるように混合した。このように調製した塗布液を、上述の下引き層上に、乾燥後の膜厚が25μmになるように浸漬塗布して感光層を形成し、単層型感光体Aを得た。
【0072】
【化14】

【0073】
(実施例2)
実施例1において、電荷輸送材料を(CT−9)の代わりに(CT−14)にした以外はすべて実施例1と同様に行い、単層型感光体Bを得た。
【0074】
(実施例3)
CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示し、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン10重量部を1,2−ジメトキシエタン150重量部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行ない、顔料分散液を作製した。こうして得られた160重量部の顔料分散液を、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名#6000C)の5%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部と適量の1,2−ジメトキシエタンに加え、最終的に固形分濃度4.0%の分散液を作製した。
【0075】
この分散液を、外径30mm、長さ244mm、肉厚0.75mmのアルミニウム合金よりなるシリンダー上に、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように浸漬塗布した後、乾燥して下引き層を形成した。この上に、実施例2と同様の感光層を25μm浸漬塗布することで、単層型感光体Cを得た。
【0076】
(実施例4)
実施例3において、電荷輸送材料(CT−4)を60部使用する代わりに、(CT−4)を20部と下記構造式の電荷輸送材料を60部使用した以外は、すべて実施例3と同様に行い、単層型感光体Dを得た。
【0077】
【化15】

【0078】
(実施例5)
実施例4において、電荷輸送材料(CT−14)20部の代わりに、(CT−18)を20部使用した以外は、すべて実施例4と同様に行い、単層型感光体Eを得た。
(実施例6)
実施例4において、電荷輸送材料(CT−14)20部の代わりに、(CT−22)を20部使用した以外は、すべて実施例4と同様に行い、単層型感光体Fを得た。
【0079】
(実施例7)
実施例3において、電荷発生材料として、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニンを使用する代わりに、図3(B型)に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニンを使用した以外は、すべて実施例3と同様に行い、単層型感光体Gを得た。
【0080】
(比較例1)
実施例4において、電荷輸送材料として、上記構造式の電荷輸送材料−1のみを80部使用した以外は、すべて実施例4と同様に行い、単層型感光体Hを得た。
(比較例2)
実施例3において、電荷輸送材料(CT−14)の代わりに、下記構造式の電荷輸送材料−2を使用した以外は、すべて実施例3と同様に行い、単層型感光体Iを得た。
【0081】
【化16】

【0082】
(比較例3)
比較例2において、電荷輸送材料−2の代わりに、電荷輸送材料−1を使用した以外は、すべて実施例3と同様に行い、単層型感光体Jを得た。
(比較例4)
実施例4において、電荷輸送材料(CT−4)20部の代わりに電荷輸送材料−2を20部使用した以外は、すべて実施例4と同様に行い、単層型感光体Kを得た。
【0083】
(比較例5)
実施例7において、電荷輸送材料(CT−14)の代わりに電荷輸送材料−2を使用した以外は、すべて実施例7と同様に行い、単層型感光体Lを得た。
上記実施例で作製した感光体はすべて均一で析出のない塗膜が得られた。これらの塗布液を2ヶ月間25℃で保管し、同様に再塗布して、感光層上の析出の有無を確認した。結果を表1に示した。
作製した感光体ドラムA〜Kについて、以下の電気特性試験及び画像評価試験を行ない、これらの結果を表1にまとめた。
【0084】
<電気特性試験>
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(電子写真学会編、「続電子写真技術の基礎と応用」、コロナ社1996年発行、404頁〜405頁)を使
用し、上記感光体ドラムを一定回転数60pmで回転させ、帯電、露光、電位測定、除
電のサイクルによる電気特性評価試験を行なった。その際、感光体の初期表面電位が+700になるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色
光とした光を露光し、表面電位が350Vに低下するまでの露光量(以下、感度と呼ぶことがある。)を測定した。感度測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
【0085】
<画像評価試験>
上記感光体ドラムを、正帯電で使用される市販のレーザープリンタHL−5140(ブラザー製)のドラムカートリッジ(DR510)に装着し、ハーフトーン画像を出力し、標準ドラム(DR510純正)を用いた画像との濃度差と、黒点発生の有無を確認した。画像濃度は「濃」「良好」「薄」「極薄」で示し、黒点発生した場合に限り、「黒点」と表記した。
【0086】
【表1】

【0087】
以上の結果より、単層型電子写真感光体は、電荷輸送材料として本発明のスチリル化合物を用いることによってのみ、良好な画像が得られ、且つ、感光層形成用塗布液が電荷輸送材料の析出を起こさず、安定であることがわかった。
【0088】
特に、比較例のように、従来用いられてきたトリフェニルアミン化合物では、十分な濃
度が出せる程の低い明部電位を得ることができないが、本発明の化合物を単独で用いた場合は言うまでもないが、少量添加するだけでも、十分な効果が得られる事がわかった。
また、実施例3のように、フタロシアニン化合物を下引き層に用いることで、より低い明部電位を達成できることも明らかとなった。
【符号の説明】
【0089】
1 感光体
2 帯電装置( 帯電ローラ)
3 露光装置
4 現像装置
5 転写装置
6 クリーニング装置
7 定着装置
41 現像槽
42 アジテータ
43 供給ローラ
44 現像ローラ
45 規制部材
71 上部定着部材( 加圧ローラ)
72 下部定着部材( 定着ローラ)
73 加熱装置
T トナー
P 記録紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、電荷発生材料と電荷輸送材料とを同一層中に含有する層を有し、該電荷輸送材料が、下記一般式(I)で示されるスチリル化合物であることを特徴とする、電子写真感光体。
【化1】

(式中において、R、R,R,Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していても良い複素環基を表し、RとRとは相互に結合して環を形成してもよく、Zはインドリン環の二つの炭素原子と共に、飽和の5〜8員環を形成するのに必要とされる原子群を表す。)
【請求項2】
前記電荷発生材料が、金属フタロシアニンであることを特徴とする、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記金属フタロシアニンが、オキシチタニウムフタロシアニンであることを特徴とする、請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記オキシチタニウムフタロシアニンが、C u K α 特性X 線を用いた粉末X 線回折において、ブラッグ角2θ±0.2°が27.2°に明瞭なピークを示すことを特徴とする、請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層が、ペリレン誘導体を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記導電性支持体と前記感光層との間に下引き層を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記下引き層がフタロシアニン化合物を含有することを特徴とする、請求項6に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1 〜7のいずれかに記載の電子写真感光体と、少なくとも当該電子写真感光体
を帯電させる帯電部材と、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置と、電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置、のうちの1つを備えることを特徴とする、電子写真カートリッジ。
【請求項9】
請求項8に記載の画像形成装置であって、前記電子写真感光体を正に帯電させる帯電部材を備えたことを特徴とする、電子写真カートリッジ。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体と、当該電子写真感光体を帯電させる帯電部材と、帯電した前記電子写真感光体を露光させて静電潜像を形成する露光装置と、電子写真感光体上に形成された前記静電潜像を現像する現像装置と、を備えたことを特徴とする、画像形成装置。
【請求項11】
請求項10に記載の画像形成装置であって、前記電子写真感光体を正に帯電させる帯電部材を備えたことを特徴とする、画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−158650(P2011−158650A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19304(P2010−19304)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】