説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、画像形成装置、及び画像形成方法

【課題】画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される電子写真感光体を提供する。
【解決手段】基体2と、基体2上に設けられ、金属酸化物粒子とアントラキノン骨格を有する電子輸送性化合物とを含有し、450nm以上1000nm以下の波長域で測定した吸収スペクトルにおいて最大吸光度を示す波長が475nm以上510nm以下の範囲である下引層4と、下引層4上に設けられた電荷発生層5と、電荷発生層5上に設けられた電荷輸送層6と、を備えた電子写真感光体1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、画像形成装置、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導電性支持体と感光層の間に中間層を有する電子写真感光体において、該中間層が粒子を含有しており、かつ中間層の膜厚1μm当たりの吸光度が、1000nmの波長に対して0.25以下である電子写真感光体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、導電性支持体上に中間層上、感光層を順次積層した有機感光体であり、該中間層が350〜500nmの波長領域に吸収特性を有する電子輸送性化合物と金属酸化物粒子を含有し、前記波長領域における中間層の最大吸光度が、0.05/μm〜0.50/μmである有機感光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−229237号公報
【特許文献2】特開2010−127963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される電子写真感光体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
請求項1に係る発明は、
基体と、
前記基体上に設けられ、金属酸化物粒子とアントラキノン骨格を有する電子輸送性化合物とを含有し、450nm以上1000nm以下の波長域で測定した吸収スペクトルにおいて最大吸光度を示す波長が475nm以上510nm以下の範囲である下引層と、
前記下引層上に設けられた電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられた電荷輸送層と、
を備えた電子写真感光体である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記金属酸化物粒子が、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理されてなる、請求項1に記載の電子写真感光体である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体を少なくとも備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジである。
【0009】
請求項4に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電させる帯電手段と、
帯電された前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
前記静電潜像を現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を被転写媒体に転写する転写手段と、
を有する画像形成装置である。
【0010】
請求項5に係る発明は、
前記転写手段によって前記トナー像が前記被転写媒体に転写された後、前記帯電手段によって前記電子写真感光体の表面が帯電される前に、前記電子写真感光体の表面における電荷を除電する除電手段を有さない、請求項4に記載の画像形成装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体の表面を帯電させる帯電工程と、
帯電された前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、
前記静電潜像を現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、
前記トナー像を被転写媒体に転写する転写工程と、
を有する画像形成方法である。
【0012】
請求項7に係る発明は、
前記転写工程において前記トナー像が前記被転写媒体に転写された後、前記帯電工程において前記電子写真感光体の表面が帯電される前に、前記電子写真感光体の表面における電荷を除電する除電工程を有さない、請求項6に記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、最大吸光度を示す波長が上記範囲から外れる場合に比べて、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、金属酸化物粒子がN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理されていない場合に比べて、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される。
【0015】
請求項3から請求項7に係る発明によれば、下引層における最大吸光度を示す波長が上記範囲から外れる電子写真感光体を用いた場合に比べて、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る電子写真感光体の一部の断面を示す概略図である。
【図2】第1実施形態の画像形成装置の基本構成を示す概略図である。
【図3】第2実施形態の画像形成装置の基本構成を示す概略図である。
【図4】プロセスカートリッジの一例の基本構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する場合がある。
【0018】
本実施形態の電子写真感光体(以下、「感光体」と称する場合がある)は、基体と、前記基体上に設けられた下引層と、前記下引層上に設けられた電荷発生層と、前記電荷発生層上に設けられた電荷輸送層と、を備える。そして前記下引層は、金属酸化物粒子と、アントラキノン骨格を有する電子輸送性化合物(以下、「特定電子輸送性化合物」と称する場合がある)と、を含有し、下引層を450nm以上1000nm以下の波長域で測定した吸収スペクトルにおいて最大吸光度を示す波長(以下「最大吸収波長」と称する場合がある)が475nm以上510nm以下の範囲である。
本実施形態の感光体は、上記構成であることにより、最大吸光度を示す波長が上記範囲から外れる場合に比べて、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制される。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0019】
下引層が金属酸化物粒子を含む感光体においては、下引層の抵抗が調整されて電気特性が安定化され、かぶりが抑制されやすいと考えられる。一方、下引層が金属酸化物粒子を含む場合、金属酸化物粒子を含まない場合に比べて露光部と非露光部との電位差が履歴として残りやすく、次の画像形成時にゴースト現象(画像の履歴に起因して残像が発生する現象)として現れる場合があると考えられる。
【0020】
この残像の発生は、例えば、感光体を露光する際に電荷発生層内で発生した電荷が、基体又は感光体表面に移動せずに感光層各層(例えば下引層)の内部に蓄積した状態で、次の画像形成が行われることに起因すると考えられる。そして、感光層内部に蓄積した電荷が、次の画像形成時に感光体表面に開放されることで、電位差を形成し、その電位差が画像濃度の差として顕在化することで、前記残像が発生すると考えられる。
そして前記残像は、除電手段を有さないイレーズレス画像形成装置(すなわち、トナー像を被転写媒体に転写した後、感光体表面に残留した電荷を除電する工程を経ずに、次の画像形成工程を行う形式の画像形成装置)において、特に顕著に現れやすくなると考えられる。
【0021】
一方、本実施形態では、下引層の最大吸収波長が前記範囲であるため、特定電子輸送性化合物を含有し、かつ、下引層の最大吸収波長が前記範囲から外れる場合に比べて、下引層が金属酸化物粒子を含んでいても画像の履歴が残りにくいと考えられる。
具体的には、前記特定電子輸送性化合物が単体で存在する場合、最大吸収波長は475±2nm(すなわち473nm以上477nm以下の領域)であるが、金属酸化物粒子と相互作用した前記特定電子輸送性化合物の最大吸収波長は520±2nm(すなわち518nm以上522nm以下の領域)であると考えられる。
【0022】
したがって、上記のように下引層の最大吸収波長が475nm以上510nm以下の範囲である場合は、金属酸化物粒子と相互作用した前記特定電子輸送性化合物と、金属酸化物粒子に影響を受けずに単体で存在する前記特定電子輸送性化合物と、が混合した状態であるか、又は、前記特定電子輸送性化合物すべてが単体で存在していると考えられる。すなわち、最大吸収波長が前記範囲である下引層には、少なくとも金属酸化物粒子に束縛されずに単体で存在する前記特定電子輸送性化合物が存在していると考えられる。なお、特定電子輸送性化合物の最大吸収波長は、金属酸化物粒子と相互作用していれば上記範囲内となり、金属酸化物粒子の種類には依存しないと考えられる。
【0023】
そして本実施形態では、上記の通り、単体の特定電子輸送性化合物が下引層中に存在し、その単体で存在する特定電子輸送性化合物が、下引層内部に蓄積された電子を基体に移動しやすくすると考えられる。そのため、単体の前記特定電子輸送性化合物が下引層中に存在しない場合に比べて、下引層に残留して次の画像形成時に下引層から感光体表面に開放される電子が少なく、感光体表面における前記電位差も形成しにくいと考えられる。よって、下引層が金属酸化物粒子を含んでいても、画像の履歴が残りにくく、残像が発生しにくくなると推測される。
なお、下引層の最大吸収波長は、前記の通り、475nm以上510nm以下であり、480nm以上500nm以下が望ましく、490nm以上495nm以下がより望ましい。
【0024】
また本実施形態では、前記金属酸化物粒子として表面処理剤で表面処理されたものを用いてもよい。一般的には、表面処理された金属酸化物粒子が下引層に含まれることによって、表面処理された金属酸化物粒子が含まれない場合に比べて、上記残像の発生が起こりやすくなると考えられる。しかしながら本実施形態では、上記の通り下引層の最大吸収波長が前記範囲であるため、下引層が表面処理された金属酸化物粒子を含んでいても、下引層の最大吸収波長が前記範囲から外れた場合に比べて上記残像の発生は抑制される。
【0025】
そして本実施形態では、特に、前記金属酸化物粒子の表面処理剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いる形態、すなわちN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理された金属酸化物粒子を用いる形態が望ましい。
なお、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理された金属酸化物粒子は、金属酸化物粒子の表面における金属原子に、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランのSi原子が化学的に結合した状態のものである。
また、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理された金属酸化物粒子であることを確認する方法としては、例えば、FT−IR、ラマン分光法、XPSなどによる分子構造解析が挙げられる。
上記のように、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理された金属酸化物粒子を用いることにより、理由は定かではないが、他の表面処理剤で表面処理されたものや表面処理されていない金属酸化物粒子を用いる場合に比べて、より上記残像が発生しにくくなる。
【0026】
本実施形態の感光体は、上記の通り、感光体の表面における画像の履歴が残りにくいため、本実施形態の感光体を用いたプロセスカートリッジ、画像形成装置、及び画像形成方法によれば、前記条件を満たさない感光体を用いた場合に比べて、画像の履歴に起因する残像が発生しにくく、繰り返し安定性が良好である。
特に本実施形態の感光体は、前記のように残像が顕著に発生しやすいイレーズレス画像形成装置(除電手段を有さない画像形成装置)に適用しても、感光体の表面における画像の履歴が残りにくいため、画像の履歴に起因する残像が発生しにくく、繰り返し安定性が良好である。
【0027】
ここで、前記「450nm以上1000nm以下の波長域で測定した吸収スペクトル」は、例えば、ダブルビーム分光光度計U−2910(日立製)を用い、450nm以上1000nm以下の範囲で1nmおきに下引層の吸光度を測定することで、吸収スペクトルを得る。
測定試料としては、例えば、下引層に含まれる成分と溶剤とを含有する下引層用塗布液を、ガラスプレートにブレード塗布法で塗布し、170℃で24分間乾燥させて硬化することにより、ガラスプレート上に厚さ15μmの下引層を形成したものを、吸収スペクトル測定用試料としてもよい。
また、感光体を構成する下引層の吸収スペクトルを測定する場合は、例えば、下引層の外周面に形成された層(例えば、電荷発生層及び電荷輸送層)を剥離し、露出した下引層について、反射型の分光光度計を用いて上記と同様にして吸収スペクトルを測定してもよい。
【0028】
また、単体で存在する前記特定電子輸送性化合物の最大吸収波長を測定する方法としては、例えば、前記特定電子輸送性化合物5質量部をメチルエチルケトンに溶解し、ガラス基板にブレード塗布したものを測定試料として用い、上記と同様にして吸収スペクトルを測定する方法が挙げられる。
また、金属酸化物粒子と相互作用した前記特定電子輸送性化合物の最大吸収波長を測定する方法としては、例えば、前記特定電子輸送性化合物3質量部と、前記金属酸化物粒子(すなわち下引層に含まれる金属酸化物粒子)1.25質量部と、硬化剤としてブロック化イソシアネート(スミジュール3173、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部と、ブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学社製)15質量部とを、メチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部と、メチルエチルケトン25質量部とを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間の分散を行い、分散液をガラス基板上にブレード塗布したしたものを測定試料として用い、上記と同様にして吸収スペクトルを測定する方法が挙げられる。
【0029】
以下、本実施形態の感光体について、更に詳細に説明する。
【0030】
<電子写真感光体>
図1は本実施形態に係る電子写真感光体の一部の断面を概略的に示している。図1に示した電子写真感光体1は、電荷発生層5と電荷輸送層6とが別個に設けられた機能分離型の感光層3を備え、導電性基体2上に、下引層4、電荷発生層5、電荷輸送層6がこの順序で積層された構造を有している。
図1に示す電子写真感光体1においては、導電性基体2が前記「基体」である。
なお本明細書において、絶縁性とは、体積抵抗率で1012Ωcm以上の範囲を意味する。一方、導電性とは、体積抵抗率で1010Ωcm以下の範囲を意味する。
以下、感光体1の各要素について説明する。
【0031】
−導電性基体−
導電性基体2としては、従来から使用されているものであれば、如何なるものを使用してもよい。例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、及びアルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼、金、バナジウム、酸化錫、酸化インジウム、ITO等の薄膜を設けたプラスチックフィルム等、導電性付与剤を塗布又は含浸させた紙、プラスチックフィルム等が挙げられる。
基体2の形状はドラム状に限られず、シート状、プレート状としてもよい。
【0032】
導電性基体2として金属パイプを用いる場合、表面は素管のままであってもよいし、予め鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニングなどの処理が行われていてもよい。
【0033】
−下引層−
下引層4は、少なくとも前記金属酸化物粒子及び前記特定電子輸送性化合物を含有し、必要に応じてその他の材料を含んでもよい。
下引層4としては、例えば、前記金属酸化物粒子と前記特定電子輸送性化合物とを結着樹脂中に分散して形成されたものが挙げられる。
【0034】
(金属酸化物粒子)
前記金属酸化物粒子としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫、酸化ジルコニウム等が挙げられ、2種以上混合して用いてもよい。
金属酸化物粒子の体積平均粒径としては、例えば50μm以上200μm以下が挙げられる。
なお、上記金属酸化物粒子の体積平均粒径の測定は、例えばレーザー回析式粒度分布測定装置(LA−700:堀場製作所製)を用いて測定を行う。測定法としては、分散液となっている状態の試料を固形分で2gになるように調整し、これにイオン交換水を添加して、40mlにする。これをセルに適当な濃度になるまで投入し、2分待ったところで測定する。得られたチャンネルごとの体積平均粒径を小さい方から累積し、累積50%になったところを体積平均粒径とする。
【0035】
下引層中に含まれる金属酸化物粒子の含有量としては、例えば、下引層全体に対し、2.5質量%以下の範囲が挙げられる。
【0036】
金属酸化物粒子は、表面処理剤によって表面処理されたものでもよい。
金属酸化物粒子の表面処理に用いる上記表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性剤などが挙げられる。特に、抵抗を調整することでかぶりが抑制される表面処理剤として、シランカップリング剤が挙げられる。
【0037】
上記シランカップリング剤は、有機シラン化合物(シリコン原子を含有する有機化合物)であり、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0038】
表面処理の方法は、特に限定されないが、例えば乾式法又は湿式法が挙げられる。
乾式法にて表面処理を施す場合には、例えば、金属酸化物粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接表面処理剤を滴下するか、又は有機溶媒に溶解させた表面処理剤を滴下し、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させる。前記滴下又は前記噴霧は、例えば溶剤の沸点以下の温度で行われる。前記滴下又は前記噴霧の後、さらに100℃以上に加熱して焼き付けを行ってもよい。
【0039】
前記湿式法としては、例えば、金属酸化物粒子を溶剤中で攪拌し、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミルなどを用いて分散し、表面処理剤溶液を添加し攪拌又は分散したのち、溶剤を除去する。溶剤除去方法としては、例えば、ろ過又は蒸留が挙げられる。溶剤除去後には、さらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。湿式法においては表面処理剤を添加する前に金属酸化物粒子含有水分を除去してもよく、その例としては、例えば、前記表面処理剤溶液に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、又は前記溶剤と共沸させて除去する方法が挙げられる。
【0040】
金属酸化物粒子100質量部の表面に付着した前記表面処理剤の量(以下「表面処理量」と称する場合がある)は、例えば0.5質量部以上1.25質量部以下の量が挙げられ、1.25質量部以上2.00質量部以下であってもよく、0.5質量部以下であってもよい。
また、表面処理量を上記範囲とするための手段としては、例えば、前記表面処理の方法において、用いる表面処理剤の量や種類によって調整する方法等が挙げられる。
上記表面処理量(すなわち、金属酸化物粒子に付着した表面処理剤の量)を測定する方法としては、例えば、FT−IR、ラマン分光法、XPSなどによる分子構造解析する方法が挙げられる。
【0041】
(特定電子輸送性化合物)
前記特定電子輸送性化合物は、前記の通り、アントラキノン骨格を有する電子輸送性化合物である。ここで、「アントラキノン骨格を有する化合物」は、具体的には、アントラキノン及びアントラキノン誘導体から選択される少なくとも1種であり、さらに具体的には、下記一般式(1)で表される化合物を意味する。
【0042】
【化1】

【0043】
上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、メチル基、メトキシメチル基、フェニル基、アミノ基を表し、m及びnは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。
なお、上記一般式(1)中、m及びnがいずれも0である化合物が前記アントラキノンであり、上記一般式(1)中、m及びnの少なくとも一方が1以上4以下の整数である化合物が前記アントラキノン誘導体である。すなわち前記アントラキノン誘導体は、アントラキノンが有する水素原子の少なくとも1つが、水酸基、メチル基、メトキシメチル基、フェニル基、アミノ基等の置換基によって置換された化合物を意味する。
【0044】
前記特定電子輸送性化合物としては、上記の中でも特に、例えば、上記一般式(1)において、m及びnがいずれも0であるアントラキノン、又は、Rが水酸基であり、mが1以上3以下であり、かつ、nが0であるヒドロキシアントラキノンが挙げられる。
前記特定電子輸送性化合物の具体例としては、例えば、アントラキノン、プルプリン、アリザリン、エチルアントラキノン、アミノヒドロキシアントラキノン等が挙げられる。
【0045】
単体で存在する前記特定電子輸送性化合物の最大吸収波長としては、上記の通り、例えば473nm以上477nm以下の領域が挙げられる。
また、金属酸化物粒子と相互作用した前記特定電子輸送性化合物の最大吸収波長としては、例えば518nm以上522nm以下の領域が挙げられる。
【0046】
下引層中に含まれる特定電子輸送性化合物の含有量としては、例えば、下引層に含まれる金属酸化物粒子100質量部に対し、0.5質量部以上が挙げられ、2.5質量部以上5質量部以下であってもよい。
下引層中に含まれる特定電子輸送性化合物の含有量が多ければ多いほど、下引層における最大吸収波長が、単体で存在する特定電子輸送性化合物の最大吸収波長の値に近くなる。すなわち、単体で存在する特定電子輸送性化合物の量が多くなると考えられる。そして、特定電子輸送性化合物の含有量が上記範囲であることにより、上記範囲よりも多い場合に比べて、繰り返し特性が良好となり、製造の観点からも有利になると考えられる。
【0047】
下引層における最大吸収波長を前記範囲内にするために必要な特定電子輸送性化合物の添加量は、金属酸化物粒子の材料種及び粒径には大きく依存しないと考えられるが、表面処理の有無、並びに表面処理剤の種類及び表面処理量には大きく依存しやすいと考えられる。
具体的には、例えば、表面処理を行っていない金属酸化物粒子を用いた場合、例えば金属酸化物粒子100質量部に対して2.5質量部以上であれば、下引層における最大吸収波長が前記範囲内となると考えられるが、表面処理量が多くなるほど、下引層の最大吸収波長が前記範囲内となる特定電子輸送性化合物の添加量が多くなると考えられる。
そして、例えば表面処理剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、表面処理量が金属酸化物粒子100質量部に対して1.25質量部である場合、特定電子輸送性化合物の添加量としては、例えば3質量部以上が挙げられ、2.4質量部以上であってもよい。
また、例えば表面処理剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、表面処理量が金属酸化物粒子100質量部に対して0.75質量部である場合、特定電子輸送性化合物の添加量としては、例えば2.9質量部以上が挙げられ、2.3質量部以上であってもよい。
また、例えば表面処理剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、表面処理量が金属酸化物粒子100質量部に対して1.25質量部である場合、特定電子輸送性化合物の添加量としては、例えば2.8質量部以上が挙げられ、2.4質量部以上であってもよい。
【0048】
下引層4に含まれる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの高分子化合物、電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂などが用いられる。
下引層中に含まれる結着樹脂の含有量としては、例えば、下引層全体に対し、5質量%以上25質量%以下の範囲が挙げられ、25質量%以上35質量%以下であってもよく、35質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0049】
下引層4の形成の際には、上記成分を溶媒に加えた塗布液(下引層形成用の塗布液)が使用される。
溶媒としては、例えば有機溶剤が挙げられ、具体的には、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n―ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤;アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状又は直鎖状エーテル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤;等が挙げられる。上記溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよく、特に限定されないが、上記結着樹脂を溶解する溶剤を用いることがよい。
下引層形成用の塗布液に用いる溶媒の量は、上記結着樹脂が溶解する量であれば特に限定されないが、例えば、結着樹脂1質量部に対し、0.05質量部以上200質量部以下が挙げられる。
【0050】
下引層形成用の塗布液中に金属酸化物粒子を分散させる方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機等が挙げられる。また、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などの方法を用いてもよい。
下引層形成用の塗布液を基体2上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
下引層4の厚さは15μm以上が望ましく、20μm以上50μm以下がより望ましい。
【0051】
下引層4には、表面粗さ調整のために樹脂粒子を添加してもよい。樹脂粒子としては、例えば、シリコーン樹脂粒子、架橋型PMMA樹脂粒子等が挙げられる。
また、表面粗さ調整のために下引き層4の表面を研磨してもよい。研磨方法としては、例えば、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウエットホーニング、研削処理等が挙げられる。
【0052】
−中間層−
電気特性向上、画質向上、画質維持性向上、感光層接着性向上などのために、下引層4上に必要に応じて中間層(図示せず)をさらに設けてもよい。中間層に用いられる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂などの高分子樹脂化合物のほかに、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、シリコン原子などを含有する有機金属化合物などがある。
中間層の形成は、例えば上記結着樹脂を溶媒に溶解させた塗布液を用いる。塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の公知の方法が用いられる。
中間層の厚さは例えば0.1μm以上3μm以下の範囲に設定される。
【0053】
−電荷発生層−
電荷発生層5は、電荷発生材料が結着樹脂中に分散して形成されている。
電荷発生材料としては、無金属フタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニン等のフタロシアニン顔料が使用され、特に、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.4゜、16.6゜、25.5゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.7゜、9.3゜、16.9゜、17.5゜、22.4゜及び28.8゜に強い回折ピークを有する無金属フタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.5゜、9.9゜、12.5゜、16.3゜、18.6゜、25.1゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも9.6゜、24.1゜及び27.2゜に強い回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶等が使用される。その他、電荷発生材料としては、キノン顔料、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスベンゾイミダゾール顔料、アントロン顔料、キナクリドン顔料等が使用される。これらの電荷発生材料は、単独又は2種以上を混合して使用される。
【0054】
電荷発生層における結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプ又はビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が用いられる。これらの結着樹脂は、単独又は2種以上混合して用いられる。
電荷発生材料と結着樹脂の配合比(質量比)は、使用する材料にもよるが例えば10:1から1:10の範囲である。
【0055】
電荷発生層5の形成の際には、上記成分を溶剤に加えた塗布液が使用される。
電荷発生材料を結着樹脂中に分散させるために、塗布液には分散処理が施される。分散手段としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液−液衝突や、液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0056】
このようにして得られる電荷発生層形成用の塗布液を下引層4上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
電荷発生層5の厚さは、望ましくは0.01μm以上5μm以下、より望ましくは0.05μm以上2.0μm以下の範囲に設定される。
【0057】
−電荷輸送層−
電荷輸送層6は、例えば、電荷輸送材料を結着樹脂中に分散して形成される。
かかる電荷輸送材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、トリ(p−メチルフェニル)アミニル−4−アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ジフェニルベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4′−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4′−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体などの正孔輸送物質、クロラニル、ブロアントラキノン等のキノン系化合物、テトラアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物等の電子輸送物質、および上記した化合物からなる基を主鎖または側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、1種または2種以上を組み合わせて使用する。
【0058】
結着樹脂としては、例えば、ビフェニル共重合型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAタイプ又はビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、塩素ゴム等の絶縁性樹脂、およびポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられ、単独又は2種以上混合して用いる。
【0059】
また、電荷輸送層6が電子写真感光体の表面層(感光層の導電性基体2から最も遠い側に配置される層)である場合、電荷輸送層6に潤滑性粒子(例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子)を含有させてもよい。これらの潤滑性粒子は、2種以上を混合して用いてもよい。
さらに、電荷輸送層6が電子写真感光体の表面層である場合、電荷輸送層6にフッ素変性シリコーンオイルを添加してもよい。フッ素変性シリコーンオイルとしては、例えばフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられる。
なお、電荷輸送層6中における電荷輸送材料と結着樹脂との質量比としては、例えば10:1から1:5の範囲が挙げられる。すなわち、電荷輸送層6全体に対する電荷輸送材料の含有量としては、例えば17質量%以上91質量%以下の範囲が挙げられる。
【0060】
電荷輸送層6は、上記成分を溶剤に加えた電荷輸送層形成用の塗布液を用いて形成される。
上記溶剤としては、公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状又は直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。また、これらの溶剤は、単独又は2種以上混合して用いてもよい。混合して使用される溶剤は、混合溶剤として結着樹脂を溶解するものであれば、いかなるものでもよい。
【0061】
上記電荷輸送層形成用の塗布液中に前記潤滑性粒子を分散させるための分散方法としては、例えば、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー等のメディアレス分散機を利用する方法が挙げられる。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0062】
電荷輸送層6の形成方法としては、例えば、下引層4及び電荷発生層5が形成された導電性基体2の電荷発生層5上に、上記電荷輸送層形成用の塗布液を塗布し、乾燥することにより、電荷発生層6を形成する方法が挙げられる。
上記電荷輸送層形成用の塗布液を電荷発生層5上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
そして上記塗布液を電荷発生層5上に塗布した後、加熱乾燥工程により塗布液中の溶剤を除去する。電荷輸送層6の膜厚としては、例えば5μm以上50μm以下の範囲が挙げられ、10μm以上40μm以下の範囲であってもよい。
【0063】
画像形成装置中で発生するオゾンや窒素酸化物、又は光、熱による感光体の劣化を防止する目的で、感光層3を構成する各層中に酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン及びそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機リン化合物等が挙げられる。光安定剤の例としては、ベンゾフェノン、ベンゾアゾール、ジチオカルバメート、テトラメチルピペン等の誘導体が挙げられる。
【0064】
なお、本実施形態の感光体1は、電荷輸送層6が最表面層であるが、電荷輸送層上にさらに保護層が形成された構成であってもよい。
次に、本実施形態に係る電子写真感光体を備えた画像形成装置及びプロセスカートリッジについて説明する。
【0065】
<画像形成装置>
−第1実施形態−
図2は、第1実施形態の画像形成装置の基本構成を概略的に示している。図2に示す画像形成装置は、感光体表面のトナー像が転写された後、感光体表面に残留した電荷を除去する除電手段を備えた方式である。
【0066】
図2に示す画像形成装置200は、例えば、上記実施形態の電子写真感光体1と、電源209に接続され、電子写真感光体1を帯電させる接触帯電方式の帯電装置208(帯電手段)と、帯電装置208により帯電された電子写真感光体1を露光して静電潜像を形成する露光装置210(静電潜像形性手段)と、露光装置210により形成された静電潜像を、トナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像装置211(現像手段)と、電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像を被転写媒体500に転写する転写装置212(転写手段)と、転写後、電子写真感光体1の表面に残留するトナーを除去するトナー除去装置213(トナー除去手段)と、電子写真感光体1の残留電位を除去する除電器214(除電手段)と、被転写媒体500に転写されたトナー像を被転写媒体500に定着させる定着装置215(定着手段)と、を備える。なお、例えば、除電器214は必ずしも設けられている必要はない。
【0067】
帯電装置208は帯電部材を有しており、感光体1を帯電させる際には帯電部材に電圧が印加される。電圧の範囲としては、直流電圧を印加する場合、要求される感光体帯電電位に応じて、正又は負の50V以上2000V以下が挙げられ、100V以上1500V以下であってもよい。
なお、本実施形態では直流電圧のみを印加する形態であるが、交流電圧を重畳する場合は、ピーク間電圧として、例えば400V以上1800V以下が挙げられ、望ましくは800V以上1600V以下、さらに望ましくは1200V以上1600V以下が挙げられる。交流電圧の周波数は、例えば50Hz以上20000Hz以下が挙げられ、望ましくは100Hz以上5000Hz以下が挙げられる。
【0068】
帯電部材としては、例えば、ローラ、ブラシ、フィルム等が挙げられる。その中でもローラ状の帯電部材(以下、「帯電ローラ」と称する場合がある)としては、例えば電気抵抗が10Ω以上10Ω以下の範囲に調整された材料から構成されるものが挙げられる。また帯電ローラは、単層でもよく、複数の層から構成されていてもよい。
帯電部材として帯電ローラを用いる場合、感光体1に接触する圧力としては、例えば、250mgf以上600mgf以下の範囲が挙げられる。
【0069】
帯電部材を構成する材質としては、例えば、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)、エピクロルヒドリンゴム等の合成ゴムやポリオレフィン、ポリスチレン、塩化ビニル等からなるエラストマーを主材料とし、導電性カーボン、金属酸化物、イオン導電剤等の導電性付与剤を適量配合したもの等が挙げられる。
さらにナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン等の樹脂を塗料化し、そこに導電性カーボン、金属酸化物、イオン導電剤等の導電性付与剤を適量配合し、得られた塗料をデイッピング、スプレー、ロールコート等の手法により、積層して用いてもよい。
【0070】
帯電部材として帯電ロールを用いる場合、帯電ロールを感光体1の表面に接触させることにより、帯電手段が駆動手段を有していなくても感光体1に従動して回転するが、帯電ロールに駆動手段を取り付け、感光体1と異なる周速度で回転させてもよい。
【0071】
露光装置210としては、公知の露光手段が用いられる。具体的には、例えば、半導体レーザ、LED(Light Emitting Diode)、液晶シャッター等の光源により露光する光学系装置等が用いられる。書きこみ時の光量としては、例えば、感光体表面上で0.5mJ/m以上5.0mJ/mの範囲が挙げられる。
【0072】
現像装置211としては、例えば、キャリアとトナーとからなる現像剤が付着した現像ブラシ(現像剤保持体)を静電潜像保持体に接触させて現像させる二成分現像方式の現像手段、導電ゴム弾性体搬送ロール(現像剤保持体)上にトナーを付着させ静電潜像保持体にトナーを現像する接触式一成分現像方式の現像手段等が挙げられる。
トナーとしては、公知のトナーであれば特に限定されない。具体的には、例えば、少なくとも結着樹脂が含まれ、必要に応じて着色剤、離型剤等が含まれたトナーであってもよくい。
トナーを製造する方法は、特に制約されるものではないが、例えば、通常の粉砕法、分散媒中で作製する湿式溶融球形化法、懸濁重合、分散重合、乳化重合凝集法等の既知の重合法によるトナー製造法等が挙げられる。
現像剤がトナーとキャリアとからなる二成分現像剤である場合、キャリアとしては特に制限はなく、例えば、酸化鉄、ニッケル、コバルト等の磁性金属、フェライト、マグネタイト等の磁性酸化物などの芯材のみからなるキャリア(ノンコートキャリア)、これら芯材の表面に樹脂層を設けた樹脂コートキャリア等が挙げられる。二成分現像剤では、例えばトナーとキャリアとの混合比(質量比)として、トナー:キャリア=1:100から30:100の範囲が挙げられ、3:100から20:100の範囲であってもよい。
【0073】
転写装置212としては、ローラー状の接触型帯電部材の他、ベルト、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、又はコロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等、が挙げられる。
【0074】
トナー除去装置213は、転写工程後の電子写真感光体1の表面に付着する残存トナーを除去するためのもので、これにより清浄面化された電子写真感光体1は上記の画像形成プロセスに繰り返し供される。トナー除去装置213としては、異物除去部材(クリーニングブレード)の他、ブラシクリーニング、ロールクリーニング等が用いられるが、これらの中でもクリーニングブレードを用いることが望ましい。また、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
なお、例えば感光体1の表面にトナーが残留しにくい場合など、残留トナーが問題にならない場合は、トナー除去装置213は設ける必要がない。
【0075】
除電器214は、感光体1の残留電位を除電することで、残留電位が次のサイクルに持ち込まれるのを防止する。本実施形態では、残留電位が生じにくい感光体を用いているため、除電器214を設けなくてもよい。
【0076】
画像形成装置200の基本的な作像プロセスについて説明する。
まず、帯電装置208が感光体1の表面を、定められた電位に帯電させる。次に、帯電された感光体1の表面を、画像信号に基づいて、露光装置210によって露光して静電潜像を形成する。
【0077】
次に、現像装置211の現像剤保持体上に現像剤が保持され、保持された現像剤が感光体1まで搬送され、現像剤保持体と感光体1とが近接(又は接触)する位置で静電潜像に供給される。これによって静電潜像は顕像化されてトナー像となる。
現像されたトナー像は、転写装置212の位置まで搬送され、転写装置212によって被転写媒体500に直接転写される。
【0078】
次いで、トナー像が転写された被転写媒体500は、定着装置215まで搬送され、定着装置215によってトナー像が被転写媒体500に定着される。定着温度としては、例えば100℃以上180℃以下が挙げられる。
【0079】
一方、トナー像が被転写媒体500に転写された後、転写されずに感光体1に残留したトナー粒子がトナー除去装置213との接触位置まで運ばれ、トナー除去装置213によって回収される。
そして残留トナーが回収された後、除電器214によって、感光体1に残留した残留電位が除電される。
以上のようにして、画像形成装置200による画像形成が行われる。
【0080】
−第2実施形態−
図3は第2実施形態の画像形成装置の基本構成を概略的に示している。図3に示す画像形成装置220は中間転写方式の画像形成装置であり、ハウジング400内において4つの電子写真感光体1a,1b,1c,1dが中間転写ベルト409に沿って相互に並列に配置されている。例えば、感光体1aがイエロー、感光体1bがマゼンタ、感光体1cがシアン、感光体1dがブラックの色からなる画像をそれぞれ形成する。
また、図3に示す画像形成装置220は、感光体表面のトナー像が転写された後、感光体表面に残留した電荷を除去する除電手段を備えない、イレーズレス方式の画像形成装置である。
【0081】
ここで、画像形成装置220に搭載されている電子写真感光体1a,1b,1c,1dは、それぞれ本実施形態の電子写真感光体である。
電子写真感光体1a,1b,1c,1dはそれぞれ一方向(紙面上は反時計回り)に回転し、その回転方向に沿って帯電ロール402a,402b,402c,402d、現像装置404a,404b,404c,404d、1次転写ロール410a,410b,410c,410d、クリーニングブレード415a,415b,415c,415dが配置されている。現像装置404a,404b,404c,404dはそれぞれトナーカートリッジ405a,405b,405c,405dに収容されたブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色のトナーを供給し、また、1次転写ロール410a,410b,410c,410dはそれぞれ中間転写ベルト409を介して電子写真感光体1a,1b,1c,1dに接している。
【0082】
さらに、ハウジング400内にはレーザ光源(露光装置)403が配置されており、レーザ光源403から出射されたレーザ光を帯電後の電子写真感光体1a,1b,1c,1dの表面に照射する。これにより、電子写真感光体1a,1b,1c,1dの回転工程において帯電、露光、現像、1次転写、クリーニング(トナー等の異物除去)の各工程が順次行われ、各色のトナー像が中間転写ベルト409上に重ねて転写される。そして、中間転写ベルト409上にトナー像が転写された後の電子写真感光体1a,1b,1c,1dは、表面の電荷を除去する工程を経ずに次の画像形成プロセスが行われる。
【0083】
中間転写ベルト409は駆動ロール406、背面ロール408及び支持ロール407によって張力をもって支持されており、これらのロールの回転によりたわみを生じることなく回転する。また、2次転写ロール413は、中間転写ベルト409を介して背面ロール408と接するように配置されている。背面ロール408と2次転写ロール413とに挟まれた位置を通った中間転写ベルト409は、例えば駆動ロール406と対向して配置されたクリーニングブレード416により清浄面化された後、次の画像形成プロセスに繰り返し供される。
【0084】
また、ハウジング400内には被転写媒体を収容する容器411が設けられており、容器411内の紙などの被転写媒体500が移送ロール412により中間転写ベルト409と2次転写ロール413とに挟まれた位置、さらには相互に接する2個の定着ロール414に挟まれた位置に順次移送された後、ハウジング400の外部に排出される。
【0085】
なお、上述の説明においては中間転写体として中間転写ベルト409を使用する場合について説明したが、中間転写体は、上記中間転写ベルト409のようにベルト状であってもよいし、ドラム状であってもよい。ベルト状とする場合、中間転写体の基材を構成する樹脂材料としては、公知の樹脂が用いられる。例えば、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアルキレンテレフタレート(PAT)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)/PC、ETFE/PAT、PC/PATのブレンド材料、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド等の樹脂材料及びこれらを主原料としてなる樹脂材料が挙げられる。さらに、樹脂材料と弾性材料をブレンドして用いてもよい。
【0086】
また、上記実施形態にかかる被転写媒体とは、電子写真感光体上に形成されたトナー像を転写する媒体であれば特に制限はない。
また上記実施形態においては、帯電手段として帯電ロールを用いているが、これに限られず、スコロトロン等のコロナ放電方式等、非接触方式の帯電手段を用いてもよい。
【0087】
<プロセスカートリッジ>
図4は、本実施形態の電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジの一例の基本構成を概略的に示している。このプロセスカートリッジ300は、電子写真感光体1と共に、電子写真感光体1を帯電させる接触帯電方式の帯電装置208、露光により電子写真感光体1上に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像装置211、転写後、電子写真感光体1の表面に残留するトナーを除去するトナー除去装置213、露光のための開口部218、及び、除電露光のための開口部217を、取り付けレール216を用いて組み合わせて一体化したものである。
【0088】
そして、このプロセスカートリッジ300は、電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像を被転写媒体500に転写する転写装置212と、被転写媒体500に転写されたトナー像を被転写媒体500に定着させる定着装置215と、図示しない他の構成部分とからなる画像形成装置本体に対して着脱自在としたものであり、画像形成装置本体とともに画像形成装置を構成する。
なお、プロセスカートリッジ300は、電子写真感光体1、帯電装置208、現像装置211、トナー除去装置213、露光のための開口部218、及び除電露光のための開口部217のほかに、電子写真感光体1の表面を露光する露光装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例A]
<実施例A1>
−下引層の形成−
酸化亜鉛粒子(テイカ社製、平均粒子径:70nm、比表面積値:15m/g)60質量部をテトラヒドロフラン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(表面処理剤)として、KBM603(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製)1.25質量部を添加し、2時間攪拌した。その後、メタノールを減圧蒸留にて除去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛粒子を得た。
前記方法により、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛粒子における表面処理量を求めたところ、1.24質量部であった。
【0090】
前記シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛粒子60質量部と、プルプリン5質量部と、硬化剤としてブロック化イソシアネート(スミジュール3173、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部と、ブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学社製)15質量部とを、メチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部と、メチルエチルケトン25質量部とを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間の分散を行い、分散液を得た。得られた分散液に、触媒としてジオクチルスズジラウレート0.005質量部と、シリコーン樹脂粒子(トスパール145、GE東芝シリコーン社製)4.0質量部とを添加し、下引層形成用の塗布液を得た。この塗布液を、浸漬塗布法にて直径30mmのアルミニウム基材上に塗布し、170℃、24分の乾燥硬化を行い、厚さ15μmの下引層を得た。
【0091】
−電荷発生層の形成−
次に、電荷発生材料として、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.4゜、16.6゜、25.5゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶15質量部、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニオンカーバイト社製)10質量部及びn−ブチルアルコール300質量部からなる混合物を、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散して電荷発生層形成用の塗布液を得た。この電荷発生層形成用の塗布液を前記下引層上に浸漬塗布し、乾燥して、厚みが0.2μmの電荷発生層を得た。
【0092】
−電荷輸送層の形成−
次に、4フッ化エチレン樹脂粒子(平均粒径:0.2μm)8質量部と、フッ化アルキル基含有メタクリルコポリマー(重量平均分子量:30000)0.015質量部と、テトラヒドロフラン4質量部と、トルエン1質量部と、を20℃の液温に保って48時間攪拌混合し、4フッ化エチレン樹脂粒子懸濁液Aを得た。
【0093】
次に、電荷輸送物質として、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン4質量部と、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:40,000)6質量部と、酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1質量部と、を混合して、テトラヒドロフラン24質量部及びトルエン11質量部を混合溶解して、混合溶解液Bを得た。
【0094】
この混合溶解液Bに前記4フッ化エチレン樹脂粒子懸濁液Aを加えて攪拌混合した後、微細な流路を持つ貫通式チャンバーを装着した高圧ホモジナイザー(吉田機械興行株式会社製)を用いて、500kgf/cm(0.49N/m)まで昇圧しての分散処理を6回繰り返し、フッ素変性シリコーンオイル(商品名:FL−100 信越シリコーン社製)を5ppmとなるように添加し、撹拌して電荷輸送層形成用の塗布液を得た。この塗布液を電荷発生層上に21.0μm塗布して140℃で25分間乾燥して電荷輸送層を形成し、目的の電子写真感光体を得た。このようにして得た電子写真感光体を感光体A1とした。
【0095】
<実施例A2>
下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A2を作製した。
前記方法により、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛粒子における表面処理量を求めたところ、1.24質量部であった。
【0096】
<実施例A3>
下引層の作製において、プルプリンの添加量を2質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体A3を作製した。
【0097】
<実施例A4>
下引層の作製において、酸化亜鉛粒子の代わりに酸化チタン粒子(テイカ社製、平均粒子径:70nm、比表面積値:16m/g)を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A4を作製した。
前記方法により、シランカップリング剤で表面処理した酸化チタン粒子における表面処理量を求めたところ、1.24質量部であった。
【0098】
<実施例A5>
下引層の作製において、酸化亜鉛粒子の代わりに酸化チタン粒子(テイカ社製、平均粒子径:70nm、比表面積値:16m/g)を用い、プルプリン5質量部の代わりにアントラキノン5.5質量部を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A5を作製した。
【0099】
<実施例A6>
下引層の作製において、プルプリン5質量部の代わりにアントラキノン5.5質量部を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A6を作製した。
【0100】
<実施例A7>
下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、プルプリンの代わりにアントラキノンを用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A7を作製した。
【0101】
<実施例A8>
下引層の作製において、プルプリン5質量部の代わりにアントラキノン3質量部を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A8を作製した。
【0102】
<実施例A9>
下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤の添加量を1.00質量部とした以外は、感光体A8と同様にして、感光体A9を作製した。
前記方法により、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛粒子における表面処理量を求めたところ、0.99質量部であった。
【0103】
<実施例A10>
下引層の作製において、プルプリン5質量部の代わりにアリザリン5質量部を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体A10を作製した。
【0104】
<比較例A1>
下引層の作製において、プルプリン5質量部の代わりにアリザリン0.5質量部を用いた以外は、感光体A1と同様にして、感光体C1を作製した。
【0105】
<比較例A2>
下引層の作製において、プルプリンを用いない以外は、感光体A1と同様にして、感光体C2を作製した。
【0106】
<比較例A3>
下引層の作製において、プルプリンの添加量を0.5質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体C3を作製した。
【0107】
<比較例A4>
下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、プルプリンの添加量を0.5質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体C4を作製した。
【0108】
<最大吸収波長の測定>
上記実施例及び比較例の感光体を作製する際に用いた下引層形成用の塗布液を、それぞれガラスプレートにブレード塗布法により塗布し、170℃24分で乾燥硬化したものを、測定用試料とした。
得られた測定用試料について、ダブルビーム分光光度計U−2910(日立製)を用い、450nmから1000nmの範囲で吸収スペクトルの測定を行った。実施例及び比較例における最大吸収波長を表1に示す。
なお、実施例及び比較例で用いた特定電子輸送性化合物について、前記の方法により、単体で存在する特定電子輸送性化合物の最大吸収波長を測定したところ、それぞれ、プルプリンが474nm、アントラキノンが475nm、アリザリンが475nmであった。
また、実施例及び比較例で用いた特定電子輸送性化合物について、前記の方法により、金属酸化物粒子(酸化亜鉛粒子)と相互作用した特定電子輸送性化合物の最大吸収波長を測定したところ、それぞれ、プルプリンが519nm、アントラキノンが520nm、アリザリンが520nmであった。
【0109】
<感光体における下引層のゴースト(残像)評価>
上記実施例及び比較例で得られた感光体を、DocuCentre 505aの改造機に組みこみ、除電手段を備えた条件(イレーズあり)及び除電手段を備えない条件(イレーズなし)のそれぞれにおいて、低温低湿(すなわち室温:10℃、湿度:15%)の条件下にて画像形成を行った。具体的には、トナー載り量1.5mg/cm、2cm×2cmの画像を1枚形成した後、トナー載り量0.7mg/cm、5cm×5cmの画像を形成して画像の履歴に起因する残像(すなわち画像の履歴が残った領域がポジとなる現象)の程度を限度見本を用いた目視観察によって評価した。評価基準は以下の通りであり、結果を表1に示す。
【0110】
−評価基準−
G0:ゴースト未発生
G1:軽微なゴースト発生
G2:中程度のゴースト発生
G3:重度なゴースト発生
G4:非常に重度なゴースト発生
【0111】
【表1】

【0112】
[実施例B]
<実施例B1>
前記実施例A1の下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤を用いず、プルプリンの添加量を4質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体B1を作製した。
【0113】
<実施例B2>
前記実施例A1の下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤を用いず、プルプリンの添加量を1.8質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体B2を作製した。
【0114】
<比較例B1>
前記実施例A1の下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤を用いず、プルプリンの添加量を0.3質量部とした以外は、感光体A1と同様にして、感光体D1を作製した。
【0115】
<比較例B2>
前記実施例A1の下引層の作製において、金属酸化物粒子の表面処理剤を用いず、プルプリンを用いない以外は、感光体A1と同様にして、感光体D2を作製した。
【0116】
<下引層の最大吸収波長の測定、感光体における下引層のゴースト(残像)評価>
前記実施例Aと同様にして、下引層の吸収スペクトルの測定を行った。上記実施例及び比較例における最大吸収波長を表2に示す。
また前記実施例Aと同様にして、上記実施例及び比較例で得られた感光体について、残像の評価を行った。評価基準は前記の通りであり、結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
以上の評価結果より、実施例の電子写真感光体は、比較例の電子写真感光体に比べ、画像の履歴に起因する残像の発生が抑制されることが確認された。特に実施例の電子写真感光体は、金属酸化物粒子を表面処理した場合においても、比較例の電子写真感光体に比べ画像の履歴に起因する残像の発生が抑制されることが確認された。また実施例の電子写真感光体は、除電手段を有さないイレーズレス画像形成装置に用いても、比較例の電子写真感光体に比べ画像の履歴に起因する残像の発生が抑制されることが確認された。
【0119】
以上、実施形態及び実施例について説明したが、これらに限定されない。例えば、本実施形態に係る電子写真感光体は、図2から図4に示した画像形成装置に限定されず、電子写真方式等の画像形成方法を採用し、カラーや白黒の画像を形成する複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に使用される。
【符号の説明】
【0120】
1,1a,1b,1c,1d 電子写真感光体、2 基体、3 感光層、4下引層、5 電荷発生層、6電荷輸送層、200 画像形成装置、208 帯電装置、210 露光装置、211 現像装置、212 転写装置、213 トナー除去装置、214 除電器、215定着装置、220 画像形成装置、300 プロセスカートリッジ、404a,404b,404c,404d 現像装置、500 被転写媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に設けられ、金属酸化物粒子とアントラキノン骨格を有する電子輸送性化合物とを含有し、450nm以上1000nm以下の波長域で測定した吸収スペクトルにおいて最大吸光度を示す波長が475nm以上510nm以下の範囲である下引層と、
前記下引層上に設けられた電荷発生層と、
前記電荷発生層上に設けられた電荷輸送層と、
を備えた電子写真感光体。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子が、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランで表面処理されてなる、請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体を少なくとも備え、
画像形成装置に着脱されるプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電させる帯電手段と、
帯電された前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
前記静電潜像を現像剤により現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を被転写媒体に転写する転写手段と、
を有する画像形成装置。
【請求項5】
前記転写手段によって前記トナー像が前記被転写媒体に転写された後、前記帯電手段によって前記電子写真感光体の表面が帯電される前に、前記電子写真感光体の表面における電荷を除電する除電手段を有さない、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体の表面を帯電させる帯電工程と、
帯電された前記電子写真感光体の表面を露光して静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、
前記静電潜像を現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、
前記トナー像を被転写媒体に転写する転写工程と、
を有する画像形成方法。
【請求項7】
前記転写工程において前記トナー像が前記被転写媒体に転写された後、前記帯電工程において前記電子写真感光体の表面が帯電される前に、前記電子写真感光体の表面における電荷を除電する除電工程を有さない、請求項6に記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−203242(P2012−203242A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68565(P2011−68565)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】