説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】 繰り返し使用時の接触ストレスの低減効果と、繰り返し使用時の電位安定性との両立に優れた電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供する。
【解決手段】 支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、該電荷輸送層が特定構造のポリエステル樹脂を含有する電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に搭載される電子写真感光体には、有機光導電性物質(電荷発生物質)を含有する有機電子写真感光体(以下、「電子写真感光体」という)がある。電子写真プロセスにおいて、電子写真感光体の表面には、現像剤、帯電部材、クリーニングブレード、紙、転写部材などの種々のもの(以下「接触部材等」ともいう)が接触する。そのため、電子写真感光体は、これら接触部材等との接触ストレスによる画像劣化の発生を低減させることが求められている。特に、近年、電子写真感光体の耐久性が向上し、長期間使用されるようになってきたのに伴い、使用初期だけでなく、長期使用後も、電子写真感光体は、接触ストレスによる画像劣化の低減効果を有していること(以下、「長期使用後の接触ストレスの低減効果」という)が求められている。
【0003】
長期使用後の接触ストレスの低減効果を得るために、特許文献1には、シロキサン構造を分子鎖中に有するシロキサン含有樹脂を電子写真感光体の表面層に含有させることが提案されている。そして、特定のシロキサン構造を組み込んだポリエステル樹脂を含有することにより、長期使用後の接触ストレスの低減効果と感光体の繰り返し使用時の電位安定性(変動の抑制)とを両立させることが示されている。また、特許文献2には、ポリエステル樹脂の末端にシロキサン構造を組み込んだ樹脂を表面層に含有させることにより、電位安定性と、接触ストレスを低減させることを両立させることが報告されている。また、特許文献3、4、及び5には、分岐シロキサン構造を有するポリカーボネート樹脂の提案がなされ、耐摩耗性の向上、離型性、撥水性向上、電気特性の向上といった効果の報告がそれぞれなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/008094号公報
【特許文献2】特開2002−128883号公報
【特許文献3】特開2008−195905号公報
【特許文献4】特開平10−232503号公報
【特許文献5】特開2010−39449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されている電子写真感光体は、繰り返し使用時の電位安定性と長期使用後の接触ストレスの低減効果とが両立されている。しかしながら、本発明者らが検討を進めた結果、特定構造のシロキサン構造を含有するポリエステル樹脂を用いた場合は、シロキサン鎖の自由度が高くなり、長期使用後の接触ストレスの低減効果をより改善できる余地があることがわかった。
【0006】
特許文献2では、ポリエステル樹脂の末端にシロキサン構造を組み込んだ樹脂は、初期における接触ストレスの低減効果はある。しかしながら、特許文献2の樹脂は、長期使用後の接触ストレスの低減効果は十分ではない。
【0007】
また、特許文献3、及び4には、分岐シロキサン構造を有するポリカーボネート樹脂の提案がなされている。しかしながら、本発明者らが検討を進めた結果、特許文献3、及び4に記載の樹脂では、長期使用後の接触ストレスの低減効果が十分ではない。
【0008】
本発明の目的は、長期使用後の接触ストレスの低減効果と、繰り返し使用時の電位安定性との両立に優れた電子写真感光体を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
本発明は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、ポリエステル樹脂αを含有し、該ポリエステル樹脂αは、下記式(A)で示される繰り返し構造単位、および下記式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、下記式(C)で示される繰り返し構造単位を有することを特徴とする電子写真感光体に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
式(A)中、R11〜R13は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Vは、下記式(V1)または(V2)で示される構造を示す。
【0012】
【化2】

【0013】
式(V1)及び式(V2)中、R14〜R16は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。a、b、c、d及びeは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示し、該ポリエステル樹脂αに対するaの平均値は10以上150以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するbの平均値は3以上20以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するc+dの平均値は10以上150以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するeの平均値は3以上20以下である。
【0014】
【化3】

【0015】
式(B)中、Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Wは、下記式(W)で示される構造を示す。
【0016】
【化4】

【0017】
式(W)中、R21は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。k、l及びmは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示し、該ポリエステル樹脂αに対するk及びlの平均値はそれぞれ独立に1以上10以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するmの平均値は20以上150以下である。
【0018】
【化5】

【0019】
式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を表す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基または酸素原子を示す。
【0020】
また、本発明は、前記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジに関する。
【0021】
また、本発明は、前記電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長期使用後の接触部材等との接触ストレスの低減効果を発揮することができ、かつ、繰り返し使用時の電位安定性にも優れた電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の電子写真感光体は、上記のとおり、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、該電荷輸送層が、ポリエステル樹脂αを含有し、該ポリエステル樹脂αが、式(A)で示される繰り返し構造単位、および式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂を含有する。これにより、長期使用後の接触部材等との接触ストレスの緩和効果を発揮することができ、かつ、繰り返し使用時の電位安定性にも優れた電子写真感光体が得られる。
【0025】
本発明者らは、本発明の電子写真感光体が、このような優れた効果を奏する理由を以下のように推測している。本発明の電荷輸送層に含有されるポリエステル樹脂αは、ビスフェノールの二つの芳香環(ベンゼン環)から分岐したシロキサン構造を有しているため、主鎖にシロキサン構造を有している場合に比べて、接触ストレスの低減効果をより発揮することができる。
【0026】
そして、本発明のポリエステル樹脂α中のシロキサン構造の分岐部に存在するビスフェノールの二つのベンゼン環の立体障害により、樹脂の末端にシロキサン構造が組み込まれている場合に比べて、シロキサン構造の配向が抑制するようにはたらく。これにより、表面層中にポリエステル樹脂αが留まりやすく、表面層中に散在することにより、長期使用後の接触ストレスの低減効果が得られていると考えられる。また、本発明のポリエステル樹脂αは、ジカルボン酸のベンゼン環と、ビスフェノールのベンゼン環との分子間相互作用により、さらに表面層中にポリエステル樹脂αが留まりやすく、表面層中に散在することにより、長期使用後の接触ストレスの低減効果が得られていると考えられる。
【0027】
さらに、ポリエステル樹脂αが有するビスフェノール部位について特定の構造を用いることにより、長期使用後の接触ストレスの低減効果と電位安定性とを高いレベルで両立させることができることがわかった。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂αは、式(A)で示される繰り返し構造単位、および式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、式(C)で示される繰り返し構造単位を有する。
【0029】
【化6】

【0030】
式(A)で示される繰り返し構造単位について説明する。R11〜R13は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。
【0031】
式(A)中のVについて説明する。
【0032】
【化7】

【0033】
Vはシロキサン部位を有し、式(V1)または式(V2)で示される。式(V1)及び式(V2)中のR14〜R16は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、t−ブチル基(ターシャリーブチル基)である。
【0034】
式(V1)中のaは、括弧内の構造の繰り返し数を示す。長期使用後の接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性との両立の観点から、ポリエステル樹脂αに対するaの平均値は10以上150以下である。また、括弧内の構造の繰り返し数aは、aの平均値で示した値の±10%の範囲内であることが、本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0035】
式(V1)中のbは、括弧内の構造の繰り返し数を示す。長期使用後の接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性との両立の観点から、ポリエステル樹脂αに対するbの平均値は3以上20以下である。また、括弧内の構造の繰り返し数bの最大値と最小値との差は、0以上3以下であることが本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0036】
式(V2)中のc及びdは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示す。長期使用後の接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性との両立の観点から、ポリエステル樹脂αに対するc+dの平均値は10以上150以下である。また、括弧内の構造の繰り返し数の和c+dは、c+dの平均値で示した値の±10%の範囲内であることが、本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0037】
式(V2)中のeは、括弧内の構造の繰り返し数を示す。ポリエステル樹脂αに対するeの平均値は3以上20以下である。また、括弧内の構造の繰り返し数eの最大値と最小値との差は、0以上3以下であることが本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0038】
以下に、上記式(A)で示される括弧内の構造の具体例を示す。
【0039】
【化8】

【0040】
式(B)で示される繰り返し構造単位について説明する。
【0041】
【化9】

【0042】
上記式(B)中、Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を表す。Wはシロキサン部位を有し、下記式(W)で示される構造を示す。
【0043】
【化10】

【0044】
式(W)中のR21は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基、t−ブチル基(ターシャリーブチル基)である。
【0045】
式(W)中のk及びlは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示す。ポリエステル樹脂αに対するk及びlの平均値はそれぞれ独立に1以上10以下である。さらに、括弧内の構造の繰り返し数k及びlの最大値と最小値との差が、それぞれ独立に0以上3以下であることが好ましい。式(W)中のmは、括弧内の構造の繰り返し数を示す。長期使用後の接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性の両立の観点から、ポリエステル樹脂αに対するmの平均値は、20以上150以下である。さらに、括弧内の構造の繰り返し数mは、mの平均値で示した値の±10%の範囲内であることが、本発明の効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0046】
以下に、式(B)で示される括弧内の構造の具体例を示す。
【0047】
【化11】

【0048】
次に式(C)で示される繰り返し構造単位について説明する。
【0049】
【化12】

【0050】
式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を表す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基または酸素原子を表す。
【0051】
以下に、式(C)で示される繰り返し構造単位の具体例を示す。
【0052】
【化13】

【0053】
【化14】

【0054】
本発明におけるポリエステル樹脂αは、式(A)で示される繰り返し構造単位、および式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、式(C)で示される繰り返し構造単位を有する。
【0055】
式(A)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αに関して説明する。以下、式(A)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αをポリエステル樹脂Aと呼ぶ。式(A)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位は、同一の構造単位でも異なる構造単位でもよい。ポリエステル樹脂Aの好ましい重量平均分子量は、20,000以上200,000以下である。本発明において、樹脂の重量平均分子量とは、常法に従い、特開2007−79555号公報に記載の方法により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0056】
ポリエステル樹脂Aは、該ポリエステル樹脂Aの全質量に対してシロキサン部位を20質量%以上50質量%以下で含有することが好ましい。該ポリエステル樹脂Aの全質量に対するシロキサン部位の含有量が、20質量%以上50質量%以下であると、持続的な接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性とをより両立することができる。
【0057】
本発明において、シロキサン部位とは、シロキサン部分を構成するケイ素原子、及びそれらに結合する基と、該ケイ素原子に挟まれた酸素原子、ケイ素原子、及びそれらに結合する基を含む部位である。具体的にいえば、シロキサン部位とは、たとえば、下記式(A−S−1)、及び(A−S−2)で示される構造の場合、下記破線で囲まれた部位のことである。
【0058】
【化15】

【0059】
式(A)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αにおいて、シロキサン部位は、以下に示す構造である。
【0060】
【化16】

【0061】
式(B)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αに関して説明する。以下、式(B)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αをポリエステル樹脂Bと呼ぶ。式(B)で示される繰り返し構造単位、及び式(C)で示される繰り返し構造単位は、同一の構造でも異なる構造でもよい。ポリエステル樹脂Bの好ましい重量平均分子量は、20,000以上200,000以下である。本発明において、樹脂の重量平均分子量とは、常法に従い、特開2007−79555号公報に記載の方法により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0062】
ポリエステル樹脂Bは、該ポリエステル樹脂Bの全質量に対してシロキサン部位を20質量%以上50質量%以下で含有する。該ポリエステル樹脂Bの全質量に対するシロキサン部位の含有量が、20質量%以上50質量%以下であると、持続的な接触ストレスの低減と繰り返し使用時の電位安定性とを両立することができる。
【0063】
ポリエステル樹脂Bおいて、シロキサン部位とは、たとえば、下記式(B−S)で示される構造の場合、下記破線で囲まれた部位のことである。
【0064】
【化17】

【0065】
式(B)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αにおいて、シロキサン部位は、以下に示す構造である。
【0066】
【化18】

【0067】
本発明のポリエステル樹脂αの全質量に対するシロキサン部位の含有量は、一般的な分析手法で解析可能である。以下に、分析手法の例を示す。
【0068】
まず、電子写真感光体の表面層である電荷輸送層を溶剤で溶解させる。その後、サイズ排除クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの各組成成分を分離回収可能な分取装置で、表面層である電荷輸送層に含有される種々の材料を分取する。分取されたポリエステル樹脂αを、H−NMR測定による水素原子(樹脂を構成している水素原子)のピーク位置、及びピーク面積比による換算法によって構成材料構造、及び含有量を確認することができる。それらの結果より、シロキサン部位の繰り返し数やモル比を算出し、含有量(質量比)に換算する。また、分取されたポリエステル樹脂αをアルカリ存在下などで加水分解させ、カルボン酸部分とビスフェノール部分に分解する。得られたビスフェノール部分に対し、核磁気共鳴スペクトル分析や質量分析により、シロキサン部位の繰り返し数やモル比を算出し、含有量(質量比)に換算することができる。
【0069】
本発明においても上記の手法を用いて、ポリエステル樹脂α中に含有されるシロキサン部位の含有量を測定した。
【0070】
また、本発明のポリエステル樹脂α中に含有されるシロキサン部位の含有量は、重合時のシロキサン部位を含むモノマー単位の原材料の使用量と関係するため、目的のシロキサン部位の含有量とするために、原材料の使用量を調整した。
【0071】
本発明に用いられるポリエステル樹脂αは、たとえば、エステル交換法、界面重合法、直接重合法などの公知の方法から適宜の方法を選択して製造することができる。
【0072】
以下に本発明に用いられるポリエステル樹脂αの製造例を示す。
【0073】
式(A−1)で示される構造、及び(C−3)で示される構造を有するポリエステル樹脂A(1)の製造は以下のように行なった。イソフタル酸クロライド2.76gとテレフタル酸クロライド6.44gをジクロロメタンに溶解させ、酸ハロゲン化物溶液を調製した。また酸ハロゲン化物溶液とは別に、下記式(1)で示されるシロキサン誘導体3.35g及び、下記式(2)で示されるジオール7.09gを10%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。さらに、重合触媒としてトリブチルベンジルアンモニウムクロライドを添加して撹拌し、ジオール化合物溶液を調製した。
【0074】
【化19】

【0075】
次に、上記酸ハロゲン化物溶液を上記ジオール化合物溶液に撹拌しながら加え、重合を開始した。重合反応は、反応温度を25度以下に保ち、撹拌しながら3時間行った。その後、酢酸の添加により重合反応を終了させ、水相が中性になるまで水で洗浄を繰り返した。その後、樹脂を分離、精製したのち、撹拌下のメタノールに滴下して、重合物を沈殿させ、この重合物を真空乾燥させて、目的のポリエステル樹脂A(1)を得た。上記のとおりにしてポリエステル樹脂A(1)中のシロキサン部位の含有量を算出したところ、30質量%であった。またポリエステル樹脂A(1)の重量平均分子量は90,000であった。
【0076】
上記の製造例で示した製造方法を用い、式(A)、(C)、(V1)、(V2)、で示される構造に応じた原材料を用いて、表1に示す式(A)で示される構造単位、及び式(C)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂Aを製造した。
【0077】
式(B−1)で示される構造、及び(C−3)で示される構造を有するポリエステル樹脂B(1)の製造は以下のように行なった。イソフタル酸クロライド2.76gとテレフタル酸クロライド6.44gをジクロロメタンに溶解させ、酸ハロゲン化物溶液を調製した。また酸ハロゲン化物溶液とは別に、下記式(3)で示されるシロキサン誘導体3.57g及び、下記式(4)で示されるジオール7.09gを10%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。さらに、重合触媒としてトリブチルベンジルアンモニウムクロライドを添加して撹拌し、ジオール化合物溶液を調製した。
【0078】
【化20】

【0079】
次に上記酸ハロゲン化物溶液を上記ジオール化合物溶液に撹拌しながら加え、重合を開始した。重合反応は、反応温度を25度以下に保ち、撹拌しながら3時間行った。その後、酢酸の添加により重合反応を終了させ、水相が中性になるまで水で洗浄を繰り返した。その後、樹脂を分離、精製したのち、撹拌下のメタノールに滴下して、重合物を沈殿させ、この重合物を真空乾燥させて、目的のポリエステル樹脂B(1)を得た。上記のとおりにしてポリエステル樹脂B(1)中のシロキサン部位の含有量を算出したところ、30質量%であった。またポリエステル樹脂B(1)の重量平均分子量は90,000であった。
【0080】
上記の製造例で示した製造方法を用い、式(B)、(C)、(W)で示される構造に応じた原材料を用いて、表2に示す式(B)で示される構造単位、及び式(C)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂Bを製造した。
【0081】
合成したポリエステル樹脂A、及びポリエステル樹脂Bの重量平均分子量、及びシロキサン部位の含有量を表1及び表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1中の「式(A)」は、式(A)で示される繰り返し構造単位を意味する。「シロキサン含有量A(質量%)」は、ポリエステル樹脂Aに対するシロキサン部位の含有量を意味する。表2中の「式(B)」は、式(B)で示される繰り返し構造単位、「式(C)」は、式(C)で示される繰り返し構造単位を意味する。「シロキサン含有量B(質量%)」は、ポリエステル樹脂Bに対するシロキサン部位の含有量を意味する。
【0085】
製造例1において、上記式(A−1)で示される構造の括弧内の繰り返し数aの最大値は32、最小値は28であり、bの最大値と最小値との差は0であった。製造例2において、上記式(A−1)で示される構造の括弧内の繰り返し数aの最大値は11、最小値は9であり、bの最大値と最小値との差は0であった。製造例3において、上記式(A−1)で示される構造の繰り返し数aの最大値は160、最小値は140であり、bの最大値と最小値との差は0であった。
【0086】
製造例21において、上記式(B−1)で示される構造の括弧内の繰り返し数kの最大値と最小値との差は0であり、lの最大値と最小値との差は0であり、mの最大値は32、最小値は28であった。製造例22において、上記式(B−1)で示される構造の括弧内の繰り返し数kの最大値と最小値との差は0であり、lの最大値と最小値との差は0であり、mの最大値は22、最小値は18であった。製造例23において、上記式(B−1)で示される構造の括弧内の繰り返し数kの最大値と最小値との差は0であり、lの最大値と最小値との差は0であり、mの最大値は160、最小値は140であった。
【0087】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、結着樹脂として式(A)で示される繰り返し構造単位、および式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、式(C)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂αを含有するが、他の樹脂を混合して用いても良い。混合して用いてもよい結着樹脂としては、たとえば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂が好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。混合して用いてもよいポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂の繰り返し構造単位の具体例を以下に示す。なお、(D−1)〜(D−9)は、ポリカーボネート樹脂の繰り返し構造単位例であり、(E−1)〜(E−10)は、ポリエステル樹脂の繰り返し構造単位例を示す。
【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
【化23】

【0091】
これらの中でも、上記式(E−1)、(E−2)、(E−3)、(E−5)、(E−8)、(E−9)、(D−1)、(D−4)、(D−9)で示される繰り返し構造単位が好ましい。特には、式(E−2)、(E−3)、(E−5)、(E−9)、(D−1)、(D−9)で示される繰り返し構造単位が好ましい。
【0092】
本発明の電子写真感光体の電荷輸送層に含有される電荷輸送物質としては、たとえばトリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。これら電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0093】
好ましい電荷輸送物質の具体例を以下に示す。
【0094】
【化24】

【0095】
【化25】

【0096】
これらの中でも、繰り返し使用時の電位安定性の観点から、式(F−1)、(F−7)、(F−9)、(F−11)、(F−12)で示される電荷輸送物質が好ましい。特には、式(F−7)、(F−9)で示される電荷輸送物質が好ましい。
【0097】
次に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。
【0098】
上記のとおり、本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有する電子写真感光体である。また、電荷輸送層が電子写真感光体の表面層(最上層)である電子写真感光体である。
【0099】
また、本発明の電子写真感光体の電荷輸送層は、ポリエステル樹脂αを含有する。また、電荷輸送層を積層構造としてもよく、その場合は、少なくとも最も表面側の電荷輸送層が本発明のポリエステル樹脂αを含有する。
【0100】
電子写真感光体は、一般的には、円筒状支持体上に感光層(電荷発生層および電荷輸送層)を形成してなる円筒状の電子写真感光体が広く用いられるが、ベルト状、シート状などの形状とすることも可能である。
【0101】
〔支持体〕
本発明の電子写真感光体に用いられる支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。アルミニウム、またはアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨、湿式または乾式ホーニング処理した支持体を用いることもできる。また、金属支持体や樹脂支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電材料の薄膜を形成したものが挙げられる。支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0102】
また、干渉縞を抑制するためには支持体の表面を適度に荒らしておくことが好ましい。具体的には、上記支持体表面をホーニング、ブラスト、切削、電界研磨等の処理をした支持体、または、アルミニウムもしくはアルミニウム合金の支持体上に導電性粒子及び樹脂を含む導電層を有する支持体を用いることが好ましい。導電層表面で反射した光が干渉して出力画像に干渉縞が発生することを抑制するために、導電層に、導電層表面を粗面化するための表面粗し付与材を添加することも可能である。
【0103】
〔導電層〕
本発明の電写真感光体において、支持体上に導電性粒子及び樹脂を有する導電層を設けてもよい。導電性粒子及び樹脂を有する導電層を支持体上に形成する方法では、導電層中に導電性粒子を含む粉体が含有される。
【0104】
導電性粒子としては、カーボンブラック、アセチレンブラックや、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀のような金属粉や、導電性酸化スズ、ITOのような金属酸化物粉体が挙げられる。
【0105】
導電層に用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂及びアルキッド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
導電層用塗布液の溶剤としては、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、及び芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましい。さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0107】
〔中間層〕
本発明の電子写真感光体では、支持体または導電層と、電荷発生層との間に中間層を設けてもよい。
【0108】
中間層は、樹脂を含有する中間層用塗布液を支持体上、または導電層上に塗布し、これを乾燥または硬化させることによって形成することができる。
【0109】
中間層の樹脂としては、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。中間層に用いられる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には、熱可塑性のポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、溶液状態で塗布できるような低結晶性または非結晶性の共重合ナイロンが好ましい。
【0110】
中間層の膜厚は、0.05μm以上40μm以下であることが好ましく、0.1μm以上7μm以下であることがより好ましい。
【0111】
また、中間層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0112】
〔電荷発生層〕
支持体、導電層または中間層上には、電荷発生層が設けられる。
【0113】
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、及びペリレン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンのような金属フタロシアニンは、高感度であるため好ましい。電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、及び尿素樹脂が挙げられる。これらの中でも、特には、ブチラール樹脂が好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0114】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂及び溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0115】
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
【0116】
電荷発生物質と結着樹脂との割合は、結着樹脂1質量部に対して、電荷発生物質が0.1質量部以上10質量部以下の範囲が好ましい。特には、電荷発生物質が1質量部以上3質量部以下の範囲がより好ましい。
【0117】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、例えば、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0118】
電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0119】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質、または電子受容性物質を含有させてもよい。
【0120】
〔電荷輸送層〕
電荷発生層上には、電荷輸送層(表面層)が設けられる。本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、本発明のポリエステル樹脂αを含有する。他の樹脂をさらに混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂は、上述のとおりである。
【0121】
電荷輸送層は、電荷輸送物質及び上記各樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。電荷輸送物質と樹脂との割合は、樹脂1質量部に対して、電荷輸送物質が0.4質量部以上2質量部以下が好ましく、0.5質量部以上1.2質量部以下がより好ましい。
【0122】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤及び芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独で使用してもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤、または芳香族炭化水素溶剤を使用することが、樹脂溶解性の観点から好ましい。
【0123】
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0124】
本発明の電子写真感光体の各層には、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤や、有機微粒子、無機微粒子などの微粒子が挙げられる。劣化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤、硫黄原子含有酸化防止剤、リン原子含有酸化防止剤が挙げられる。有機微粒子としては、フッ素原子含有樹脂粒子、ポリスチレン微粒子、ポリエチレン樹脂粒子などの高分子樹脂粒子が挙げられる。無機微粒子としては、シリカ、アルミナなどの金属酸化物が挙げられる。
【0125】
上記各層の塗布液を塗布する際には、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0126】
〔電子写真装置〕
図1に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0127】
図1において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0128】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーで反転現像により現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送される。
【0129】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ搬送されてトナー像の定着処理を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ搬送される。
【0130】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0131】
本発明においては、上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6及びクリーニング手段7などの構成要素の中から複数のものを選択し、これらを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例】
【0132】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0133】
〔実施例1〕
直径30mm、長さ357mmのアルミニウムシリンダーを支持体として用いた。次に、SnOコート処理硫酸バリウム(導電性粒子)10部、酸化チタン(抵抗調節用顔料)2部、フェノール樹脂6部及びシリコーンオイル(レベリング剤)0.001部を、メタノール4部及びメトキシプロパノール16部の混合溶剤を用いて導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を上記アルミニウムシリンダー上に浸漬塗布し、これを140℃で30分間硬化(熱硬化)させて、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0134】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン3部、及び共重合ナイロン3部を、メタノール65部及びn−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させて、中間層用塗布液を調製した。この中間層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥させて、膜厚が0.7μmの中間層を形成した。
【0135】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°、及び28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部を用意した。それに、シクロヘキサノン250部及びポリビニルブチラール樹脂(電気化学工業社製、商品名:#6000C)5部を混合し、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下1時間分散した。分散後、酢酸エチル250部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を上記中間層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥さて、膜厚が0.26μmの電荷発生層を形成した。
【0136】
次に、上記式(F−7)で示される構造を有する電荷輸送物質10部、製造例1で合成したポリエステル樹脂A(1)1部、及び式(E−3)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂(重量平均分子量60,000)9部を、テトラヒドロフラン20部及びトルエン60部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを110℃で1時間乾燥させることによって、膜厚が16μmの電荷輸送層(表面層)を形成した。
【0137】
電荷輸送層(表面層)に含有されるポリエステル樹脂α(シロキサン含有ポリエステル樹脂)、他の樹脂、ポリエステル樹脂αと他の樹脂との混合比、電荷輸送物質を表3〜6に示す。
【0138】
次に、評価について説明する。
【0139】
評価は、10,000枚繰り返し使用時の明部電位の変動(電位変動)ならびに10,000枚繰り返し使用時のトルクの相対値について行った。
【0140】
評価装置としては、キヤノン(株)製レーザービームプリンターLBP−2510(帯電(一次帯電):接触帯電方式、プロセススピード:94.2mm/s)を、電子写真感光体の帯電電位(暗部電位)を調整できるように改造して用いた。また、ポリウレタンゴム製のクリーニングブレードを、電子写真感光体の表面に対して、当接角25°及び当接圧35g/cmとなるように設定した。評価は、温度23℃、相対湿度50%環境下で行った。
【0141】
<電位変動評価>
評価装置の780nmのレーザー光源の露光量(画像露光量)については、電子写真感光体の表面での光量が0.3μJ/cmとなるように設定した。
【0142】
電子写真感光体の表面電位(暗部電位及び明部電位)の測定は、電子写真感光体の端部から130mmの位置に電位測定用プローブが位置するように固定された冶具と現像器とを交換して、現像器位置で行った。電子写真感光体の非露光部の暗部電位が−450Vとなるように設定し、レーザー光を照射して暗部電位から光減衰させた明部電位を測定した。また、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を10,000枚行い、その前後での明部電位の変動量を評価した。結果を表8中の電位変動に示す。なお、テストチャートは、印字比率5%のものを用いた。
【0143】
<トルクの相対値評価>
上記電位変動評価条件と同条件において、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を10,000枚行った。なお、テストチャートは、印字比率2%のものを用いた。その後、10,000枚繰り返し使用後の電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)を測定した。この評価は、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量を評価したものである。得られた電流値の大きさは、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の大きさを示す。
【0144】
さらに、以下の方法でトルク相対値の対照となる電子写真感光体を作製した。実施例1の電子写真感光体の電荷輸送層の結着樹脂に用いたポリエステル樹脂A(1)を、上記式(E−3)で示されるポリエステル樹脂(重量平均分子量60,000)に変更し、樹脂として式(E−3)で示される繰り返し構造単位を有するポリエステル樹脂のみの構成に変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。これを対照用電子写真感光体とした。作製された対照用電子写真感光体に対しても、実施例1と同様に10,000枚繰り返し使用後の電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)を測定した。
【0145】
このようにして得られた本発明に係るポリエステル樹脂αを用いた電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)と、本発明に係るポリエステル樹脂αを用いなかった対照用の電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)との比を算出した。得られた(電流値A)/(電流値B)の数値を、トルクの相対値として比較した。このトルクの相対値の数値は、本発明のポリエステル樹脂αを用いたことによる電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度を示し、トルクの相対値の数値が小さいほうが電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度が大きいことを示す。結果を、表8中の10,000枚後のトルクの相対値に示す。
【0146】
〔実施例2〜120〕
実施例1において、電荷輸送層(表面層)に含有されるポリエステル樹脂α、他の樹脂、ポリエステル樹脂αと他の樹脂との混合比、電荷輸送物質を表3〜4に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表8に示す。
【0147】
〔実施例201〜316〕
実施例1において、電荷輸送層(表面層)に含有されるポリエステル樹脂α、他の樹脂、ポリエステル樹脂αと他の樹脂との混合比、電荷輸送物質を表5〜6に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表9に示す。
【0148】
〔比較例1〜6〕
実施例1のポリエステル樹脂αにおいて、式(C−3)で示される繰り返し構造単位を、下記式(C−11)で示される繰り返し構造単位に変更した樹脂Kに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。
【0149】
【化26】

【0150】
〔比較例7〜12〕
実施例1において、ポリエステル樹脂αを、国際公開WO2010/008094号公報に記載されている構造である下記式(G−1−1)で示される繰り返し構造単位、および下記式(G−1−2)で示される繰り返し構造単位を有する樹脂Lに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。樹脂Lにおいて、式(G−1−1)で示される繰り返し構造単位と、式(G−1−2)で示される繰り返し構造単位の共重合比率は、20:80である。なお、式(G−1−1)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数を示す数値は、繰り返し数の平均値を示す。この場合、樹脂Lにおける式(G−1−1)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数の平均値は40である。
【0151】
【化27】

【0152】
〔比較例13〜18〕
実施例1において、ポリエステル樹脂αを、特開2002−128883号公報に記載されている構造である下記式(G−2)で示される繰り返し構造単位を有する樹脂Mに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。なお、式(G−2)で示される繰り返し構造単位中、nはシロキサン部位の繰り返し数を示す。そして、樹脂Mにおける式(G−2)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数nの平均値は、32である。
【0153】
【化28】

【0154】
〔比較例19〜24〕
実施例1において、ポリエステル樹脂αを、特開2008−195905号公報に記載されている構造である下記式(G−3)で示される繰り返し構造単位を有する樹脂Nに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。なお、式(G−3)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数を示す数値は、繰り返し数の平均値を示す。この場合、樹脂Nにおける式(G−3)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数の平均値は30である。
【0155】
【化29】

【0156】
〔比較例101〜106〕
実施例201のポリエステル樹脂αにおいて、式(C−3)で示される繰り返し構造単位を、式(C−11)で示される繰り返し構造単位に変更した樹脂Oに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例201と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。
【0157】
〔比較例107〜112〕
実施例201において、ポリエステル樹脂αを、特開2002−128883号公報に記載されている構造である下記式(G−4−1)で示される繰り返し構造単位、および下記式(G−4−2)で示される繰り返し構造単位を有する樹脂Pに変更し、表7に示す変更を行った以外は、実施例201と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表10に示す。樹脂Pにおいて、式(G−4−1)で示される繰り返し構造単位と、式(G−4−2)で示される繰り返し構造単位の共重合比率は、15:85である。なお、式(G−4−1)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数を示す数値は、繰り返し数の平均値を示す。この場合、樹脂Pにおける式(G−4−1)で示される繰り返し構造単位中のシロキサン部位の繰り返し数の平均値は25である。
【0158】
【化30】

【0159】
【表3】

【0160】
【表4】

【0161】
【表5】

【0162】
【表6】

【0163】
【表7】

【0164】
表3〜6中の「ポリエステル樹脂αと他の樹脂との混合比」は、ポリエステル樹脂αとシロキサン構造を含有していない他の樹脂との質量比を意味する。表7中の「シロキサン含有ポリエステル樹脂と他の樹脂との混合比」は、シロキサン含有ポリエステル樹脂とシロキサン構造を含有していない他の樹脂との質量比を意味する。表3〜7中の「CTM」は電荷輸送物質を示す。
【0165】
【表8】

【0166】
【表9】

【0167】
【表10】

【0168】
実施例と比較例1〜6、及び比較例101〜106との比較により、ポリエステル樹脂α中の、式(C)で示される繰り返し構造単位が特定の構造の場合においてのみ、10,000枚の感光体繰り返し使用後の接触ストレスの低減効果が優れていることが示されている。
【0169】
実施例と比較例7〜12との比較により、ポリエステル樹脂αが本発明の構造を有すると、10,000枚の感光体繰り返し使用後の接触ストレスの低減効果が優れていることが示されている。これは、シロキサン部位の自由度が大きいので、低表面エネルギー性を発現するシロキサン構造の機能が、十分に発揮しているためと考えられる。
【0170】
実施例と比較例13〜18との比較により、ポリエステル樹脂αが本発明の構造を有すると、耐久後接触ストレスの低減効果が優れていることが示されている。これは、シロキサン構造の分岐部に存在するビスフェノールの二つの芳香環の立体障害により、シロキサン構造の配向を抑制するように働き、表面層中に留まりやすくなるため、10,000枚の感光体繰り返し使用後も十分な接触ストレスの低減効果が確認されると推測される。
【0171】
実施例と比較例19〜24、及び比較例107〜112との比較により、本発明の構造を有すると、耐久後接触ストレスの低減効果が優れていることが示されている。これは、ジカルボン酸の芳香環と、ビスフェノールの芳香環との分子間相互作用によって、樹脂が表面層中に留まりやすくなるために、10,000枚の感光体繰り返し使用後の十分な接触ストレスの低減効果が得られると推測される。
【符号の説明】
【0172】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、ポリエステル樹脂αを含有し、
該ポリエステル樹脂αは、下記式(A)で示される繰り返し構造単位、および下記式(B)で示される繰り返し構造単位の少なくとも一方と、
下記式(C)で示される繰り返し構造単位を有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】


(式(A)中、R11〜R13は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Vは、下記式(V1)または(V2)で示される構造を示す。)
【化2】


(式(V1)及び式(V2)中、R14〜R16は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。a、b、c、d及びeは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示し、該ポリエステル樹脂αに対するaの平均値は10以上150以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するbの平均値は3以上20以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するc+dの平均値は10以上150以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するeの平均値は3以上20以下である。)
【化3】


(式(B)中、Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Wは、下記式(W)で示される構造を示す。)
【化4】


(式(W)中、R21は、炭素数1〜4のアルキル基を示す。k、l及びmは、それぞれ独立に括弧内の構造の繰り返し数を示し、該ポリエステル樹脂αに対するk及びlの平均値はそれぞれ1以上10以下であり、該ポリエステル樹脂αに対するmの平均値は20以上150以下である。)
【化5】


(式(C)中、R31〜R34は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。Xは、m−フェニレン基、p−フェニレン基または2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を表す。Yは、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、フェニルエチリデン基または酸素原子を示す。
【請求項2】
前記式(C)のYが、メチレン基、エチリデン基、フェニルエチリデン基である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。


【図1】
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【公開番号】特開2012−242620(P2012−242620A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112774(P2011−112774)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】