説明

電子写真感光体、画像形成装置およびプロセスカートリッジ

【課題】かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生を抑制する。
【解決手段】基体1と、体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含む下引層4と、感光層2と、をこの順に有する電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、画像形成装置およびプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置に用いる電子写真感光体として、導電性を有する基体上に光導電材料を含む感光層を形成した感光体が知られ、前記基体と感光層との間に下引層を設けることが行われている。
【0003】
ここで従来において、導電性金属酸化物粒子を含有した下引層が試されており、例えば、シランカップリング剤で表面処理された導電性金属酸化物粒子、電子受容性物質、結着樹脂および硬化剤を含有し、前記導電性金属酸化物粒子が、酸化亜鉛、酸化チタン及び酸化錫の少なくとも一つを含む構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−322996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、下引層に体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含まない場合に比べ、かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
基体と、
体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含む下引層と、
感光層と、
をこの順に有する電子写真感光体である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記スズ−亜鉛複合酸化物粉体が非晶質体である請求項1に記載の電子写真感光体である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記スズ−亜鉛複合酸化物粉体が、減圧下にて450℃以上900℃以下での熱処理が施された粉体である請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体である。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記熱処理の際における真空度が10Pa以上3kPa以下である請求項3に記載の電子写真感光体である。
【0010】
請求項5に係る発明は、
請求項1に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する潜像形成装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
を備える画像形成装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、
請求項1に記載の電子写真感光体を有し、
且つ前記電子写真感光体を帯電する帯電装置、帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する潜像形成装置、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置、前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置、および前記電子写真感光体の表面を清掃する清掃装置から選択される少なくとも1つを備えたプロセスカートリッジである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、下引層に体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含まない場合に比べ、かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生が抑制される。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、スズ−亜鉛複合酸化物粉体が非晶質体でない場合に比べ、かぶりの発生が抑制される。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、減圧下での熱処理を施さないまたは熱処理の温度が450℃以上900℃以下の範囲でない場合に比べ、画質欠陥の発生が抑制される。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、熱処理の際における真空度が10Pa以上3kPa以下の範囲でない場合に比べ、画質欠陥の発生が抑制される。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含有した下引層を有さない電子写真感光体を用いる場合に比べ、かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生が抑制される。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含有した下引層を有さない電子写真感光体を用いる場合に比べ、かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の第1の態様に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
【図2】本実施形態の第2の態様に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
【図3】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図4】他の実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0020】
<電子写真感光体>
本実施形態に係る電子写真感光体(以下単に「感光体」と称す場合がある)は、基体と、体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含む下引層と、感光層と、をこの順に有する。
【0021】
従来においては、下引層に含有させる導電性金属酸化物粒子として、酸化亜鉛、酸化チタンおよび酸化錫等が用いられていたが、酸化チタンを粒子化して使用した場合には、下引層を形成するための塗布液中において分散性が得にくく、下引層中において酸化チタンのムラが生じる状況にあった。そのため、感光体の帯電電位と残留電位とで十分な電位差(電位のコントラスト)が得られず、結果として得られる画像においてかぶり(記録媒体の非画像領域にトナーが付着し画像欠陥が生じる現象)が生じることがあった。
また、酸化亜鉛を用いる場合も、酸化チタンと同じくかぶりを生じることがあった。
【0022】
一方で、酸化錫の粒子や、酸化アンチモンドープした酸化錫粒子、酸化錫をコートした硫酸バリウム粒子を用いた場合には、得られる下引層の電気抵抗が酸化チタンや酸化亜鉛を用いた場合に比べて低いという状況にあった。ここで、感光体を画像形成装置において繰り返し使用した際、感光体の表面には他の部材から剥離した導電性材料等が貫入し、この導電性材料が引き金となって帯電装置による帯電の際に感光体に異常電流が発生して感光体の電荷がリークすることがある。前述のごとく下引層の電気抵抗が低いと、感光体の電荷のリークに対する耐リーク性が得にくく、その結果記録媒体上でリーク電流による画質欠陥が現れることがあった。
【0023】
これに対し、本実施形態に係る感光体では、下引層に含有する導電性粒子として体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を用いるため、かぶりの発生およびリーク電流による画質欠陥の発生が抑制される。そのメカニズムは必ずしも明確ではないが、酸化チタンや酸化亜鉛を用いた場合に比べて、下引層用塗布液中での分散性に優れ、下引層でのムラが抑制されるためと考えられる。また、酸化錫を用いた場合に比べて、下引層の電気抵抗を高くし得るためと考えられる。
【0024】
次いで、本実施形態に係る感光体の構成について説明する。
【0025】
−感光体の構成−
本実施形態に係る感光体は、基体と、下引層と、感光層と、をこの順に有する。前記感光層は、電荷輸送層と電荷発生層とを含む機能分離型の感光層であってもよいし、電荷輸送能と電荷発生能とを併せ持つ機能一体型の感光層であってもよい。
【0026】
以下、本実施形態に係る感光体の構成について、図1乃至図2を参照して説明するが、本実施形態は図1乃至図2によって限定されることはない。
図1は、本実施形態に係る感光体の層構成の一例を示す模式断面図であり、図1中、1は基体、2は感光層、2Aは電荷発生層、2Bは電荷輸送層、4は下引層、5は保護層を表す。
図1に示す感光体は、基体1上に、下引層4、電荷発生層2A、電荷輸送層2B、保護層5がこの順に積層された層構成を有し、感光層2は電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの2層から構成される(第1の態様)。
【0027】
図2は、本実施形態に係る感光体の層構成の他の例を示す模式断面図であり、図2中、6は機能一体型の感光層を表し、他は、図1中に示したものと同義である。
図2に示す感光体は、基体1上に、下引層4、感光層6、保護層5がこの順に積層された層構成を有し、感光層6は、図1に示す電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの機能が一体となった層である(第2の態様)。
【0028】
尚、上記第1の態様および第2の態様の感光体は何れも、前記保護層5を有さない態様であってもよい。
【0029】
以下、本実施形態に係る感光体の例として、上記第1の態様を例にとりその詳細について説明する。
【0030】
(第1の態様)
第1の態様に係る感光体は、図1に示す通り、基体1上に、下引層4、電荷発生層2A、電荷輸送層2B、保護層5がこの順に積層された層構成を有する。
【0031】
・基体
基体1としては、導電性を有する基体が用いられ、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、ステンレス、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等の金属または合金を用いて構成される金属板、金属ドラム、および金属ベルト、または、導電性ポリマー、酸化インジウム等の導電性化合物やアルミニウム、パラジウム、金等の金属または合金を塗布、蒸着またはラミネートした紙、プラスチックフィルム、ベルト等が挙げられる。ここで、「導電性」とは体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
【0032】
第1の態様に係る感光体がレーザープリンターに使用される場合であれば、基体1の表面は中心線平均粗さRaで0.04μm以上0.5μm以下に粗面化することが望ましい。但し、非干渉光を光源に用いる場合には粗面化は特に行わなくてもよい。
【0033】
粗面化の方法としては、研磨剤を水に懸濁させて支持体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、または回転する砥石に支持体を接触させ、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が望ましい。
【0034】
また、他の粗面化の方法としては、基体1表面を粗面化することなく、導電性または半導電性粉体を樹脂中に分散させて、支持体表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も望ましく用いられる。
【0035】
ここで、陽極酸化による粗面化処理は、アルミニウムを陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することによりアルミニウム表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であるため、陽極酸化膜の微細孔を加圧水蒸気または沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より安定な水和酸化物に変える封孔処理を行うことが望ましい。陽極酸化膜の膜厚については、0.3μm以上15μm以下が望ましい。
【0036】
また、基体1には、酸性水溶液による処理またはベーマイト処理を施してもよい。
リン酸、クロム酸およびフッ酸を含む酸性処理液による処理は以下のようにして実施される。先ず、酸性処理液を調製する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸およびフッ酸の配合割合は、リン酸が10質量%以上11質量%以下の範囲、クロム酸が3質量%以上5質量%以下の範囲、フッ酸が0.5質量%以上2質量%以下の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5質量%以上18質量%以下の範囲が望ましい。処理温度は42℃以上48℃以下が望ましい。被膜の膜厚は、0.3μm以上15μm以下が望ましい。
【0037】
ベーマイト処理は、90℃以上100℃以下の純水中に5分間以上60分間以下浸漬すること、または90℃以上120℃以下の加熱水蒸気に5分間以上60分間以下接触させることにより行われる。被膜の膜厚は、0.1μm以上5μm以下が望ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の他種に比べ被膜溶解性の低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
【0038】
・下引層
下引層4は、例えば、体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含有し、例えば結着樹脂に該スズ−亜鉛複合酸化物粉体を分散した層として構成される。
【0039】
−スズ−亜鉛複合酸化物粉体の粒径−
尚、「粉体」とは、固体が粒子になって多数集合している状態であるものをさす。
スズ−亜鉛複合酸化物粉体の平均粒径(体積平均粒径)は20nm以上200nm以下の範囲が望ましく、更には20nm以上100nm以下の範囲がより望ましい。
【0040】
上記平均粒径は、体積平均粒径(d50平均粒径)でレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA−700、堀場製作所社製)にて測定した値である。本明細書に記載の数値は該方法にて測定したものである。
【0041】
−スズ−亜鉛複合酸化物粉体の低抵抗化−
スズ−亜鉛複合酸化物粉体は通常では抵抗率が高く、このスズ−亜鉛複合酸化物粉体を十分な電気抵抗を付与し得る程度に低抵抗化する方法としては、特に限定されるものではないが、減圧下にて熱処理を施す方法が好適に用いられる。減圧下にて熱処理を施すことによりスズ−亜鉛複合酸化物粉体は低抵抗化され、求められる範囲(即ち2×10Ω・cm以下)の体積抵抗率を有するスズ−亜鉛複合酸化物粉体が得られる。
【0042】
−体積抵抗率−
前記スズ−亜鉛複合酸化物粉体の体積抵抗率は、更に10Ω・cm以下であることがより好ましく、10Ω・cm以下であることが特に好ましい。
【0043】
尚、スズ−亜鉛複合酸化物粉体の体積抵抗率は、三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗測定ユニット(MCP−PD51)を用い且つ測定条件を以下の通り設定することにより体積抵抗率が測定される。尚、複数回測定を行ってその平均値を体積抵抗率とする。
(測定条件)
・印加電圧リミッタ:90V
・使用プローブ:四探針プローブ (電極間隔:3.0mm、電極半径:0.7mm、試料半径:10.0mm)
・荷重4.00kN:圧力12.7MPa
本明細書に記載の数値は上記の方法にて測定されたものである。
【0044】
尚、下引層中に含まれるスズ−亜鉛複合酸化物粉体の体積抵抗率を測定するに先立って、下引層からスズ−亜鉛複合酸化物粉体を分離する操作を行う。具体的な分離方法としては、下引層を溶媒により溶解し、遠心分離やフィルタリング等により溶液と粉体を分離すればよい。
溶媒としては公知の有機溶剤、例えばアルコール系、芳香族系、ハロゲン化炭化水素系、ケトン系、ケトンアルコール系、エーテル系、エステル系の溶媒等から任意で選択される。例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が用いられ、結着樹脂を溶かし得る溶剤であれば、いかなるものでも使用し得る。さらに、分離した粉体を使用した溶媒の沸点以上の温度で乾燥させることにより、体積抵抗率測定用試料が得られる。
【0045】
−スズ−亜鉛複合酸化物粉体の製造方法−
スズ−亜鉛複合酸化物粉体の具体例としては、特に限定されるものではないが、ZnSnOおよびZnSnO等が挙げられる。
【0046】
また、前述の通り上記スズ−亜鉛複合酸化物粉体の体積抵抗率を2×10Ω・cm以下の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、前述の通り減圧下にて熱処理を施す方法が挙げられる。より具体的には、スズ−亜鉛複合酸化物粉体を減圧下にて450℃以上900℃以下の温度で熱処理を施すことが好ましく、更には450℃以上600℃以下の範囲がより好ましく、更に500℃以上600℃以下であることが特に好ましい。
【0047】
減圧の範囲としては、真空度が10Pa以上3kPa以下が好ましく、更には180Pa以上3kPa以下がより好ましく、670Pa以上3kPa以下が特に好ましい。
尚、熱処理の際における真空度は、真空熱処理炉のポートにクリスタルイオンゲージを取り付け、それと接続した真空度表示計にて測定される。本明細書に記載の数値は該方法にて測定したものである。
【0048】
熱処理の時間は0.5時間以上が好ましく、更には2時間以上がより好ましい。
【0049】
また、スズ−亜鉛複合酸化物粉体は非晶質体であることが好ましい。
スズ−亜鉛複合酸化物粉体が非晶質体であることにより、容易に低抵抗化し得ると共に、良好に解砕し得るとの特性を有し、小粒径化することが容易となり、下引層中での分散がより良好に行え、スズ−亜鉛複合酸化物粉体のムラがより抑制される。
【0050】
尚、スズ−亜鉛複合酸化物粉体が非晶質体であるか否かは、X線回折測定により確認される。
また、スズ−亜鉛複合酸化物粉体を非晶質体に制御するには、乾燥、熱処理時の温度を結晶化温度以下にする等の方法が挙げられる。
【0051】
下引層中におけるスズ−亜鉛複合酸化物粉体の含有量としては、望ましくは10質量%以上95質量%以下であり、さらには25質量%以上85質量%以下が望ましい。
【0052】
−下引層のその他の構成−
下引層4には、スズ−亜鉛複合酸化物粉体に加えて、アクセプター性化合物を含有させてもよい。アクセプター性化合物としてはいかなるものでも使用し得るが、例えば、クロラニル、ブロモアニル等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールや2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物、3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物等の電子輸送性物質などが望ましく、特にアントラキノン構造を有する化合物が望ましい。さらに、ヒドロキシアントラキノン系化合物、アミノアントラキノン系化合物、アミノヒドロキシアントラキノン系化合物等、アントラキノン構造を有するアクセプター性化合物が望ましく用いられ、具体的にはアントラキノン、アリザリン、キニザリン、アントラルフィン、プルプリン等が挙げられる。
【0053】
これらのアクセプター性化合物の含有量は任意に設定してもよいが、望ましくはスズ−亜鉛複合酸化物粉体に対して0.01質量%以上20質量%以下含有される。さらに0.05質量%以上10質量%以下が望ましい。
【0054】
アクセプター化合物は、下引層4の塗布時に添加するだけでもよいし、スズ−亜鉛複合酸化物粉体表面にあらかじめ付着させておいてもよい。スズ−亜鉛複合酸化物粉体表面にアクセプター化合物を付与させる方法としては、乾式法、または、湿式法が挙げられる。
【0055】
乾式法にて表面処理を施す場合にはスズ−亜鉛複合酸化物粉体をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接または有機溶媒に溶解させたアクセプター化合物を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させることによって処理される。添加または噴霧する際には溶剤の沸点以下の温度で行われることが望ましい。添加または噴霧した後、さらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けの温度、時間については任意の範囲で実施される。
【0056】
湿式法としては、スズ−亜鉛複合酸化物粉体を溶剤中で攪拌し、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミル等を用いて分散し、アクセプター化合物を添加し攪拌または分散したのち、溶剤除去することで処理される。溶剤除去方法はろ過または蒸留により留去される。溶剤除去後にはさらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けの温度、時間については任意の範囲で実施される。湿式法においては表面処理剤を添加する前にスズ−亜鉛複合酸化物粉体含有水分を除去してもよく、その例として表面処理に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法を用いてもよい。
【0057】
また、スズ−亜鉛複合酸化物粉体はアクセプター化合物を付与する前に表面処理を施してもよい。表面処理剤としては、公知の材料から選択される。例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性材等が挙げられる。特に、シランカップリング剤が望ましく用いられる。さらにアミノ基を有するシランカップリング剤も望ましく用いられる。
【0058】
アミノ基を有するシランカップリング剤としてはいかなる物を用いてもよいが、具体的例としてはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0059】
また、シランカップリング剤は2種以上混合して使用してもよい。前記アミノ基を有するシランカップリング剤と併用して用いてもよいシランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0060】
表面処理方法は公知の方法であればいかなる方法でも使用し得るが、乾式法または湿式法を用いることがよい。また、アクセプター付与とカップリング剤等による表面処理とを並行して行ってもよい。
【0061】
下引層4中のスズ−亜鉛複合酸化物粉体に対するシランカップリング剤の量は、任意に設定されるが、スズ−亜鉛複合酸化物粉体に対して0.5質量%以上10質量%以下が望ましい。
【0062】
下引層4に含有される結着樹脂としては、公知のいかなるものでも使用し得るが、例えばポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂等が用いられる。中でも上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が望ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が望ましく用いられる。これらを2種以上組み合わせて使用する場合には、その混合割合は、必要に応じて設定される。
【0063】
尚、下引層形成用塗布液中のアクセプター性化合物と結着樹脂、またはスズ−亜鉛複合酸化物粉体と結着樹脂との比率は、任意に設定される。
【0064】
下引層4中には種々の添加剤を用いてもよい。添加剤としては、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料が用いられる。シランカップリング剤は金属酸化物の表面処理に用いられるが、添加剤としてさらに塗布液に添加して用いてもよい。ここで用いられるシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシラン等である。
ジルコニウムキレート化合物の例として、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
【0065】
チタニウムキレート化合物の例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0066】
アルミニウムキレート化合物の例としては、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0067】
これらの化合物は単独で若しくは複数の化合物の混合物または重縮合物として用いてもよい。
【0068】
下引層形成用塗布液を調製するための溶媒としては公知の有機溶剤、例えばアルコール系、芳香族系、ハロゲン化炭化水素系、ケトン系、ケトンアルコール系、エーテル系、エステル系等から選択される。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が用いられる。
【0069】
また、これらの分散に用いる溶剤は単独または2種以上混合して用いてもよい。混合する際、使用される溶剤としては、混合溶剤としてバインダー樹脂を溶かし得る溶剤であれば、いかなるものでも使用される。
【0070】
分散方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカーなどの公知の方法が用いられる。さらにこの下引層4を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0071】
このようにして得られた下引層形成用塗布液を用い、基体1上に下引層4が成膜される。
また、下引層4は、ビッカース強度が35以上とされていることが望ましい。
さらに、下引層4はいかなる厚さに設定してもよいが、厚さは15μm以上が望ましく、さらに望ましくは15μm以上50μm以下とされていることが望ましい。
【0072】
また、下引層4の表面粗さ(十点平均粗さ)はモアレ像防止のために、使用される露光用レーザー波長λの1/4n(nは上層の屈折率)から1/2λまでに調整することが望ましい。表面粗さ調整のために下引層中に樹脂などの粒子を添加してもよい。樹脂粒子としてはシリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子等が用いられる。
【0073】
また、表面粗さ調整のために下引層を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、湿式ホーニング、研削処理等が用いられる。
【0074】
塗布したものを乾燥させて下引層を得るが、通常、乾燥は溶剤を蒸発させ、製膜し得る温度で行われる。
【0075】
・電荷発生層
電荷発生層2Aは、少なくとも電荷発生材料および結着樹脂を含有する層であることが望ましい。
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料、ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料、ペリレン顔料、ピロロピロール顔料、フタロシアニン顔料、酸化亜鉛、三方晶系セレン等が挙げられる。これらの中でも、近赤外域のレーザー露光に対しては、金属および/または無金属フタロシアニン顔料が望ましく、特に、特開平5−263007号公報、特開平5−279591号公報等に開示されたヒドロキシガリウムフタロシアニン、特開平5−98181号公報等に開示されたクロロガリウムフタロシアニン、特開平5−140472号公報、特開平5−140473号公報等に開示されたジクロロスズフタロシアニン、特開平4−189873号公報、特開平5−43823号公報等に開示されたチタニルフタロシアニンがより望ましい。また、近紫外域のレーザー露光に対してはジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料、チオインジゴ系顔料、ポルフィラジン化合物、酸化亜鉛、三方晶系セレン等がより望ましい。電荷発生材料としては、380nm以上500nm以下の露光波長の光源を用いる場合には無機顔料が望ましく、700nm以下800nm以下の露光波長の光源を用いる場合には、金属および無金属フタロシアニン顔料が望ましい。
【0076】
電荷発生材料としては、600nm以上900nm以下の波長域での分光吸収スペクトルにおいて、810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料を用いることが望ましい。このヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、従来のV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料とは異なるものであり、分光吸収スペクトルの最大ピーク波長を従来のV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料よりも短波長側にシフトさせたものである。
【0077】
また、上記の810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が特定の範囲であり、且つ、BET比表面積が特定の範囲であることが望ましい。具体的には、平均粒径が0.20μm以下であることが望ましく、0.01μm以上0.15μm以下であることがより望ましく、一方、BET比表面積が45m/g以上であることが望ましく、50m/g以上であることがより望ましく、55m/g以上120m/g以下であることが特に望ましい。平均粒径は、体積平均粒径(d50平均粒径)でレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA−700、堀場製作所社製)にて測定した値である。また、BET式比表面積測定器(島津製作所製:フローソープII2300)を用い窒素置換法にて測定した値である。
【0078】
また、上記ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の最大粒径(一次粒子径の最大値)は、1.2μm以下であることが望ましく、1.0μm以下であることがより望ましく、更に望ましくは0.3μm以下である。
【0079】
更に、上記ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が0.2μm以下、最大粒径が1.2μm以下であり、且つ、比表面積値が45m/g以上であることが望ましい。
【0080】
また、上記のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2°)7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に回折ピークを有するものであることが望ましい。
【0081】
また、上記のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、25℃から400℃まで昇温したときの熱重量減少率が2.0%以上4.0%以下であることが望ましく、2.5%以上3.8%以下であることがより望ましい。
【0082】
電荷発生層2Aに使用される結着樹脂としては、広範な絶縁性樹脂から選択され、また、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリマーから選択してもよい。望ましい結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノール類と芳香族2価カルボン酸の重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が挙げられる。これらの結着樹脂は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いられる。電荷発生材料と結着樹脂の配合比は質量比で10:1から1:10までの範囲内であることが望ましい。ここで、「絶縁性」とは、体積抵抗率が1013Ωcm以上であることをいう。
【0083】
電荷発生層2Aは、例えば、上記電荷発生材料および結着樹脂を溶剤中に分散した塗布液を用いて形成される。
分散に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0084】
また、電荷発生材料および結着樹脂を溶剤中に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の通常の方法が用いられる。さらにこの分散の際、電荷発生材料の平均粒径を0.5μm以下、望ましくは0.3μm以下、さらに望ましくは0.15μm以下にすることが有効である。
【0085】
また、電荷発生層2Aを形成する際には、ブレード塗布法、マイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0086】
このようにして得られる電荷発生層2Aの膜厚は、望ましくは0.1μm以上5.0μm以下、さらに望ましくは0.2μm以上2.0μm以下である。
【0087】
・電荷輸送層
電荷輸送層2Bは、少なくとも電荷輸送材料と結着樹脂とを含有する層であるか、または高分子電荷輸送材を含有する層であることが望ましい。
電荷輸送材料としては、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子輸送性化合物、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物などの正孔輸送性化合物が挙げられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
電荷輸送材料としては電荷移動度の観点から、下記構造式(a−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、および下記構造式(a−2)で示されるベンジジン誘導体が望ましい。
【0089】
【化1】

【0090】
(構造式(a−1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示す。nは1または2を示す。ArおよびArは各々独立に置換若しくは未置換のアリール基、−C−C(R)=C(R10)(R11)、または−C−CH=CH−CH=C(R12)(R13)を示し、R乃至R13はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。置換基としてはハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、または炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基を示す。)
【0091】
【化2】

【0092】
(構造式(a−2)中、R14およびR14’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、を示す。R15、R15’、R16、およびR16’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは未置換のアリール基、−C(R17)=C(R18)(R19)、または−CH=CH−CH=C(R20)(R21)を示し、R17乃至R21は各々独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。mおよびnは各々独立に0以上2以下の整数を示す。)
【0093】
ここで、上記構造式(a−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、および上記構造式(a−2)で示されるベンジジン誘導体のうち、特に、「−C−CH=CH−CH=C(R12)(R13)」を有するトリアリールアミン誘導体、および「−CH=CH−CH=C(R20)(R21)」を有するベンジジン誘導体が望ましい。
【0094】
電荷輸送層2Bに用いる結着樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。また、上述のように、特開平8−176293号公報、特開平8−208820号公報に開示されているポリエステル系高分子電荷輸送材等の高分子電荷輸送材を用いてもよい。これらの結着樹脂は1種を単独でまたは2種以上を混合して用いられる。電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は質量比で10:1から1:5までが望ましい。
【0095】
結着樹脂としては、特に限定されないが、粘度平均分子量50000以上80000以下のポリカーボネート樹脂、および粘度平均分子量50000以上80000以下のポリアリレート樹脂の少なくとも1種が望ましい。
【0096】
また、電荷輸送材料として高分子電荷輸送材を用いてもよい。高分子電荷輸送材としては、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシランなどの電荷輸送性を有する公知のものが用いられる。特に、特開平8−176293号公報、特開平8−208820号公報等に開示されているポリエステル系高分子電荷輸送材は特に望ましい。高分子電荷輸送材はそれだけでも成膜し得るものであるが、前述の結着樹脂と混合して成膜してもよい。
【0097】
電荷輸送層2Bは、例えば、上記構成材料を含有する電荷輸送層形成用塗布液を用いて形成される。電荷輸送層形成用塗布液に用いる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロンゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状もしくは直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤を単独または2種以上混合して用いられる。また、上記各構成材料の分散方法としては、公知の方法が使用される。
【0098】
電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層2Aの上に塗布する際の塗布方法としては、ブレード塗布法、マイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0099】
電荷輸送層2Bの膜厚は、望ましくは5μm以上50μm以下、より望ましくは10μm以上30μm以下である。
【0100】
・保護層
保護層5は、特に限定されるものではないが、例えば以下の成分を含有することが好ましい。
(A)グアナミン構造またはメラミン構造を有する化合物と、−OH,−OCH,−NH,−SHおよび−COOHから選択される置換基の少なくとも1つを持つ前記電荷輸送性材料(以下単に「特定の電荷輸送性材料」と称す)を含有する化合物と、の架橋物
(B)フッ素樹脂粒子
【0101】
(A)グアナミン構造またはメラミン構造を有する化合物と、−OH、−OCH、−NH、−SHおよび−COOHから選択される置換基の少なくとも1つを持つ前記電荷輸送性材料(特定の電荷輸送性材料)を含有する化合物
保護層5は、グアナミン構造またはメラミン構造を有する化合物と、特定の電荷輸送性材料と、が架橋された架橋物を含有することが好ましい。尚、保護層5における電荷輸送性材料の含有量は90質量%以上98質量%以下がこの望ましく、一方前記フッ素樹脂粒子の含有量は2質量%以上10質量%以下が望ましい。
【0102】
まず、グアナミン構造を有する化合物(グアナミン化合物)について説明する。
グアナミン化合物は、グアナミン骨格(構造)を有する化合物であり、例えば、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、ホルモグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、シクロヘキシルグアナミンなどが挙げられる。
【0103】
グアナミン化合物としては、特に下記一般式(A)で示される化合物およびその多量体の少なくとも1種であることが望ましい。ここで、多量体は、一般式(A)で示される化合物を構造単位として重合されたオリゴマーであり、その重合度は例えば2以上200以下(望ましくは2以上100以下)である。なお、一般式(A)で示される化合物は、一種単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0104】
【化3】

【0105】
一般式(A)中、Rは、炭素数1以上10以下の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基、炭素数6以上10以下の置換若しくは未置換のフェニル基、または炭素数4以上10以下の置換若しくは未置換の脂環式炭化水素基を示す。R乃至Rは、それぞれ独立に水素、−CH−OH、または−CH−O−Rを示す。Rは、水素、または炭素数1以上10以下の直鎖状若しくは分鎖状のアルキル基を示す。
【0106】
一般式(A)において、Rを示すアルキル基は、炭素数が1以上10以下であるが、望ましくは炭素数が1以上8以下であり、より望ましくは炭素数が1以上5以下である。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよし、分鎖状であってもよい。
【0107】
一般式(A)中、Rを示すフェニル基は、炭素数6以上10以下であるが、より望ましくは6以上8以下である。当該フェニル基に置換される置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0108】
一般式(A)中、Rを示す脂環式炭化水素基は、炭素数4以上10以下であるが、より望ましくは5以上8以下である。当該脂環式炭化水素基に置換される置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0109】
一般式(A)中、R乃至Rを示す「−CH−O−R」において、Rを示すアルキル基は、炭素数が1以上10以下であるが、望ましくは炭素数が1以上8以下であり、より望ましくは炭素数が1以上6以下である。また、当該アルキル基は、直鎖状であってもよし、分鎖状であってもよい。望ましくは、メチル基、エチル基、ブチル基などが挙げられる。
【0110】
一般式(A)で示される化合物としては、特に望ましくは、Rが炭素数6以上10以下の置換若しくは未置換のフェニル基を示し、R乃至Rがそれぞれ独立に−CH−O−Rで示される化合物である。また、Rは、メチル基またはn−ブチル基から選ばれることが望ましい。
【0111】
一般式(A)で示される化合物は、例えば、グアナミンとホルムアルデヒドとを用いて公知の方法(例えば、実験化学講座第4版、28巻、430ページ参照)で合成される。
【0112】
次に、メラミン構造を有する化合物(メラミン化合物)について説明する。
メラミン化合物としては、メラミン骨格(構造)であり、特に下記一般式(B)で示される化合物およびその多量体の少なくとも1種であることが望ましい。ここで、多量体は、一般式(A)と同様に、一般式(B)で示される化合物を構造単位として重合されたオリゴマーであり、その重合度は例えば2以上200以下(望ましくは2以上100以下)である。なお、一般式(B)で示される化合物またはその多量体は、1種単独で用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。また、前記一般式(A)で示される化合物またはその多量体と併用してもよい。
【0113】
【化4】

【0114】
一般式(B)中、R乃至R12はそれぞれ独立に、水素原子、−CH−OH、−CH−O−R13を示し、R13は炭素数1以上5以下の分岐してもよいアルキル基を示す。R13としてはメチル基、エチル基、ブチル基などが挙げられる。
【0115】
一般式(B)で示される化合物は、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを用いて公知の方法(例えば、実験化学講座第4版、28巻、430ページのメラミン樹脂と同様に合成される)で合成される。
【0116】
次いで、特定の電荷輸送性材料について説明する。
特定の電荷輸送性材料としては、例えば、−OH、−OCH、−NH、−SH、および−COOHから選択される置換基(以下単に「特定の反応性官能基」と称す場合がある)の少なくとも1つを持つものが好適に挙げられる。特に、特定の電荷輸送性材料としては、上記特定の反応性官能基を少なくとも2つ持つものが好適に挙げられ、さらには3つ持つものが好適に挙げられる。
【0117】
特定の電荷輸送性材料としては、下記一般式(I)で示される化合物であることが望ましい。
F−((−R−X)n1(Rn3−Y)n2 (I)
一般式(I)中、Fは正孔輸送能を有する化合物から誘導される有機基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1以上5以下の直鎖状若しくは分鎖状のアルキレン基を示し、n1は0または1を示し、n2は1以上4以下の整数を示し、n3は0または1を示す。Xは酸素、NH、または硫黄原子を示し、Yは−OH、−OCH、−NH、−SH、または−COOH(即ち上記特定の反応性官能基)を示す。
【0118】
一般式(I)中、Fで示される正孔輸送能を有する化合物から誘導される有機基における正孔輸送能を有する化合物としては、アリールアミン誘導体が好適に挙げられる。アリールアミン誘導体としては、トリフェニルアミン誘導体、テトラフェニルベンジジン誘導体が好適に挙げられる。
【0119】
そして、一般式(I)で示される化合物は、下記一般式(II)で示される化合物であることが望ましい。
【0120】
【化5】

【0121】
一般式(II)中、Ar乃至Arは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に置換若しくは未置換のアリール基を示し、Arは置換若しくは未置換のアリール基または置換若しくは未置換のアリーレン基を示し、Dは−(−R−X)n1(Rn3−Yを示し、cはそれぞれ独立に0または1を示し、kは0または1を示し、Dの総数は1以上4以下である。また、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1以上5以下の直鎖状若しくは分鎖状のアルキレン基を示し、n1は0または1を示し、n3は0または1を示し、Xは酸素、NH、または硫黄原子を示し、Yは−OH、−OCH、−NH、−SH、または−COOHを示す。
【0122】
一般式(II)中、Dを示す「−(−R−X)n1(Rn3−Y」は、一般式(I)と同様であり、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1以上5以下の直鎖状若しくは分鎖状のアルキレン基である。また、n1として望ましくは、1である。また、Xとして望ましくは、酸素である。また、Yとして望ましくは水酸基である。
【0123】
なお、一般式(II)におけるDの総数は、一般式(I)におけるn2に相当し、望ましくは、2以上4以下であり、さらに望ましくは3以上4以下である。つまり、一般式(I)や一般式(II)において、望ましくは一分子中に2以上4以下、さらに望ましくは3以上4以下の、上記特定の反応性官能基を有することが望ましい。
【0124】
一般式(II)中、Ar乃至Arとしては、下記式(1)乃至(7)のうちのいずれかであることが望ましい。なお、下記式(1)乃至(7)は、各Ar乃至Arに連結され得る「−(D)」と共に示す。
【0125】
【化6】

【0126】
[式(1)乃至(7)中、Rは水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルキル基もしくは炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基からなる群より選ばれる1種を表し、R10乃至R12はそれぞれ水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表し、Arは置換または未置換のアリーレン基を表し、Dおよびcは一般式(II)における「D」、「c」と同様であり、sはそれぞれ0または1を表し、tは1以上3以下の整数を表す。]
【0127】
ここで、式(7)中のArとしては、下記式(8)または(9)で表されるものが望ましい。
【0128】
【化7】

【0129】
[式(8)、(9)中、R13およびR14はそれぞれ水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表し、tは1以上3以下の整数を表す。]
【0130】
また、式(7)中のZ’としては、下記式(10)乃至(17)のうちのいずれかで表されるものが望ましい。
【0131】
【化8】

【0132】
[式(10)乃至(17)中、R15およびR16はそれぞれ水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基もしくは炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表し、Wは2価の基を表し、qおよびrはそれぞれ1以上10以下の整数を表し、tはそれぞれ1以上3以下の整数を表す。]
【0133】
上記式(16)乃至(17)中のWとしては、下記(18)乃至(26)で表される2価の基のうちのいずれかであることが望ましい。但し、式(25)中、uは0以上3以下の整数を表す。
【0134】
【化9】

【0135】
また、一般式(II)中、Arは、kが0のときはAr乃至Arの説明で例示された上記(1)乃至(7)のアリール基であり、kが1のときはかかる上記(1)乃至(7)のアリール基から1つの水素原子を除いたアリーレン基であることが望ましい。
【0136】
(B)フッ素樹脂粒子
保護層5は、フッ素樹脂粒子を含有することが望ましい。
該フッ素樹脂粒子としては、特に限定されるものではないが、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、3フッ化塩化エチレン樹脂、6フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、2フッ化2塩化エチレン樹脂およびそれらの共重合体の中から1種あるいは2種以上を選択するのが望ましいが、さらに望ましくは4フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂であり、特に望ましくは4フッ化エチレン樹脂である。
【0137】
フッ素樹脂粒子の平均一次粒径は0.05μm以上1μm以下が望ましく、更には0.1μm以上0.5μm以下が望ましい。
尚、上記フッ素樹脂粒子の平均一次粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)を用いて、フッ素樹脂粒子が分散された分散液と同じ溶剤に希釈した測定液を屈折率1.35で測定した値をいう。
【0138】
保護層5の固形分全量に対するフッ素樹脂粒子の含有量は2質量%以上10質量%以下である。
【0139】
(C)その他の組成物
保護層5には、前述のグアナミン化合物およびメラミン化合物から選択される少なくとも1種と、特定の電荷輸送性材料と、が架橋された架橋物と共に、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などの他の熱硬化性樹脂を混合して用いてもよい。また、スピロアセタール系グアナミン樹脂(例えば「CTU−グアナミン」(味の素ファインテクノ(株)))など、一分子中の官能基のより多い化合物を当該架橋物中の材料に共重合させてもよい。
【0140】
また、保護層5には界面活性剤を添加してもよい。用いる界面活性剤としては、フッ素原子、アルキレンオキサイド構造、シリコーン構造のうち少なくとも一種類以上の構造を含む界面活性剤が好適に挙げられる。
【0141】
保護層5には、酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系またはヒンダードアミン系が望ましく、有機イオウ系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤、チオウレア系酸化防止剤、ベンズイミダゾール系酸化防止剤、などの公知の酸化防止剤を用いてもよい。酸化防止剤の添加量としては20質量%以下が望ましく、10質量%以下がより望ましい。
【0142】
保護層5には、グアナミン化合物およびメラミン化合物や前記特定の電荷輸送材料の硬化を促進するための硬化触媒を含有させてもよい。硬化触媒として酸系の触媒が望ましく用いられる。酸系の触媒としては、酢酸、クロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、乳酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの芳香族カルボン酸、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、などの脂肪族、および芳香族スルホン酸類などが用いられるが、含硫黄系材料を用いることが望ましい。
【0143】
硬化触媒としての含硫黄系材料は、常温(例えば25℃)、または加熱後に酸性を示すものが望ましく、有機スルホン酸およびその誘導体の少なくとも1種が最も望ましい。保護層5中にこれら触媒の存在は、エネルギー分散型X線分析(EDS)、X線光電子分光法(XPS)等により容易に確認される。
【0144】
触媒の配合量は、塗布液におけるフッ素樹脂粒子およびフッ化アルキル基含有共重合体を除いた全固形分に対し、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であることが望ましく、特に0.1質量%以上5質量%以下が望ましい。
【0145】
保護層を形成するための塗布液には、溶媒として1種を単独でまたは2種以上を混合して使用し得るが、上記保護層5の形成に使用される溶媒としては、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン等の環状脂肪族ケトン化合物を用いることが望ましい。また、該脂肪族環状ケトン化合物の他にも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロペンタノール等の環状或いは直鎖状アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等の直鎖状ケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状或いは直鎖状エーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒等の溶媒が挙げられる。
【0146】
尚、溶媒量は特に限定されないが、グアナミン化合物およびメラミン化合物1質量部に対し0.5質量部以上30質量部以下が望ましく、さらに1質量部以上20質量部以下で使用することが望ましい。
塗布後は、例えば温度100℃以上170℃以下で加熱し硬化(架橋)させることで、保護層5が得られる。
【0147】
<プロセスカートリッジおよび画像形成装置>
次に、本実施形態の電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジおよび画像形成装置について説明する。
本実施形態のプロセスカートリッジは、本実施形態の電子写真感光体を用いたものであれば特に限定されないが、具体的には、潜像保持体の表面の静電潜像を現像して得られたトナー像を記録媒体に転写して、該記録媒体上に画像を形成する画像形成装置に対して着脱自在であり、前記潜像保持体としての前述の本実施形態に係る電子写真感光体と、帯電装置、潜像形成装置、現像装置、転写装置およびクリーニング装置(清掃装置)から選択された少なくとも1つと、を備えた構成であることが望ましい。
【0148】
また、本実施形態の画像形成装置は、本実施形態の電子写真感光体を用いたものであれば特に限定されないが、具体的には、本実施形態に係る電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する潜像形成装置と、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、を備えた構成であることが望ましい。なお、本実施形態の画像形成装置は、各色のトナーに対応した感光体を複数有するいわゆるタンデム機であってもよく、この場合、全ての感光体が本実施形態の電子写真感光体であることが望ましい。また、トナー像の転写は、中間転写体を利用した中間転写方式であってもよい。
【0149】
図3は、本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。画像形成装置100は、図3に示すように、電子写真感光体7を備えるプロセスカートリッジ300と、潜像形成装置としての露光装置9と、転写装置40と、中間転写体50とを備える。なお、画像形成装置100において、露光装置9はプロセスカートリッジ300の開口部から電子写真感光体7に露光し得る位置に配置されており、転写装置40は中間転写体50を介して電子写真感光体7に対向する位置に配置されており、中間転写体50はその一部が電子写真感光体7に接触して配置されている。
【0150】
図3におけるプロセスカートリッジ300は、ハウジング内に、電子写真感光体7、帯電装置8、現像装置11およびクリーニング装置13を一体に支持している。クリーニング装置13は、クリーニングブレード(クリーニング部材)131を有しており、クリーニングブレード131は、電子写真感光体7の表面に接触するように配置されている。
【0151】
また、潤滑材14を感光体7の表面に供給する繊維状部材132(ロール状)、クリーニングをアシストする繊維状部材133(平ブラシ状)を用いた例を示してあるが、これらは使用しても、使用しなくてもよい。
【0152】
帯電装置8としては、例えば、導電性または半導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が使用される。また、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も使用される。
【0153】
なお、図示しないが、電子写真感光体7の周囲には、電子写真感光体7の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための感光体加熱部材を設けてもよい。
【0154】
露光装置9としては、例えば、感光体7表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、定められた像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は感光体の分光感度領域にあるものが使用される。半導体レーザーの波長としては、780nm付近に発振波長を有する近赤外が主流である。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザーや青色レーザーとして400nm以上450nm以下に発振波長を有するレーザーを利用してもよい。また、カラー画像形成のためにはマルチビームを出力し得るタイプの面発光型のレーザー光源も有効である。
【0155】
現像装置11としては、例えば、磁性若しくは非磁性の一成分系現像剤または二成分系現像剤等を接触または非接触させて現像する一般的な現像装置を用いて行ってもよい。その現像装置としては、上述の機能を有している限り特に制限はなく、目的に応じて選択される。例えば、上記一成分系現像剤または二成分系現像剤をブラシ、ローラ等を用いて感光体7に付着させる機能を有する公知の現像器等が挙げられる。中でも現像剤を表面に保持した現像ローラを用いるものが望ましい。
【0156】
以下、現像装置11に使用されるトナーについて説明する。
本実施形態の画像形成装置に用いられるトナーは、平均形状係数((ML/A)×(π/4)×100、ここでMLは粒子の最大長を表し、Aは粒子の投影面積を表す)が100以上150以下であることが望ましく、105以上145以下であることがより望ましく、110以上140以下であることがさらに望ましい。さらに、トナーとしては、体積平均粒子径が3μm以上12μm以下であることが望ましく、3.5μm以上9μm以下であることがさらに望ましい。
【0157】
トナーは、特に製造方法により限定されるものではないが、例えば、結着樹脂、着色剤および離型剤、やその他更に帯電制御剤等を加えて混練、粉砕、分級する混練粉砕法;混練粉砕法にて得られた粒子を機械的衝撃力または熱エネルギーにて形状を変化させる方法;結着樹脂の重合性単量体を乳化重合させ、形成された分散液と、着色剤および離型剤、その他更に帯電制御剤等の分散液とを混合し、凝集、加熱融着させ、トナー粒子を得る乳化重合凝集法;結着樹脂を得るための重合性単量体と、着色剤および離型剤、その他更に帯電制御剤等の溶液を水系溶媒に懸濁させて重合する懸濁重合法;結着樹脂と、着色剤および離型剤、その他更に帯電制御剤等の溶液とを水系溶媒に懸濁させて造粒する溶解懸濁法等により製造されるトナーが使用される。
【0158】
また上記方法で得られたトナーをコアにして、さらに凝集粒子を付着、加熱融合してコアシェル構造をもたせる製造方法等、公知の方法が使用される。なお、トナーの製造方法としては、形状制御、粒度分布制御の観点から水系溶媒にて製造する懸濁重合法、乳化重合凝集法、溶解懸濁法が望ましく、乳化重合凝集法が特に望ましい。
【0159】
トナー母粒子は、結着樹脂、着色剤および離型剤を含有することが望ましく、更にシリカや帯電制御剤を含有してもよい。
【0160】
トナー母粒子に使用される結着樹脂としては、スチレン、クロロスチレン等のスチレン類、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソプレン等のモノオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシル等のα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルブチルエーテル等のビニルエーテル類、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類等の単独重合体および共重合体、ジカルボン酸類とジオール類との共重合によるポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0161】
特に代表的な結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸アルキル共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル樹脂等が挙げられる。さらに、ポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド、変性ロジン、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0162】
また、着色剤としては、マグネタイト、フェライト等の磁性粉、カーボンブラック、アニリンブルー、カルイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロリド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3等が代表的なものとして例示される。
【0163】
離型剤としては、低分子ポリエチレン、低分子ポリプロピレン、フィッシャートロピィシュワックス、モンタンワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等が代表的なものとして例示される。
【0164】
また、帯電制御剤としては、公知のものが使用されるが、アゾ系金属錯化合物、サリチル酸の金属錯化合物、極性基を含有するレジンタイプの帯電制御剤が用いられる。湿式製法でトナーを製造する場合、水に溶解しにくい素材を使用することが望ましい。また、トナーとしては、磁性材料を内包する磁性トナーおよび磁性材料を含有しない非磁性トナーのいずれであってもよい。
【0165】
現像装置11に用いるトナーとしては、上記トナー母粒子および上記外添剤をヘンシェルミキサーまたはVブレンダー等で混合することによって製造される。また、トナー母粒子を湿式にて製造する場合は、湿式にて外添してもよい。
【0166】
現像装置11に用いるトナーには滑性粒子を添加してもよい。滑性粒子としては、グラファイト、二硫化モリブデン、滑石、脂肪酸、脂肪酸金属塩等の固体潤滑剤や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、加熱により軟化点を有するシリコーン類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪族アミド類やカルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス、ミツロウの動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物、石油系ワックス、およびそれらの変性物が使用される。これらは、1種を単独で、または2種以上を併用して使用される。但し、平均粒径としては0.1μm以上10μm以下の範囲が望ましく、上記化学構造のものを粉砕して、粒径をそろえてもよい。トナーへの添加量は望ましくは0.05質量%以上2.0質量%以下、より望ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下の範囲である。
【0167】
現像装置11に用いるトナーには、無機粒子、有機粒子、該有機粒子に無機粒子を付着させた複合粒子等を加えてもよい。
【0168】
無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、チタン酸バリウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化セリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化スズ、酸化テルル、酸化マンガン、酸化ホウ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の各種無機酸化物、窒化物、ホウ化物等が好適に使用される。
【0169】
また、上記無機粒子を、テトラブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルフォニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロフォスフェート)オキシアセテートチタネート等のチタンカップリング剤、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトエリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、o−メチルフェニルトリメトキシシラン、p−メチルフェニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等で処理を行ってもよい。また、シリコーンオイル、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩によって疎水化処理したものも望ましく使用される。
【0170】
有機粒子としては、スチレン樹脂粒子、スチレンアクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子等が挙げられる。
【0171】
粒子径としては、個数平均粒子径で望ましくは5nm以上1000nm以下、より望ましくは5nm以上800nm以下、さらに望ましくは5nm以上700nm以下のものが使用される。また、上述した粒子と滑性粒子との添加量の和が0.6質量%以上であることが望ましい。
【0172】
トナーに添加されるその他の無機酸化物としては、1次粒径が40nm以下の小径無機酸化物を用い、更にそれより大径の無機酸化物を添加することが望ましい。これらの無機酸化物粒子は公知のものが使用されるが、シリカと酸化チタンを併用することが望ましい。
【0173】
また、小径無機粒子については表面処理してもよい。さらに、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩や、ハイドロタルサイト等の無機鉱物を添加することも望ましい。
【0174】
また、電子写真用カラートナーはキャリアと混合して使用されるが、キャリアとしては、鉄粉、ガラスビーズ、フェライト粉、ニッケル粉またはそれ等の表面に樹脂を被覆したものが使用される。また、キャリアとの混合割合は、必要に応じて設定される。
【0175】
転写装置40としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
【0176】
中間転写体50としては、半導電性を付与したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ゴム等のベルト状のもの(中間転写ベルト)が使用される。また、中間転写体50の形態としては、ベルト状以外にドラム状のものが用いられる。
【0177】
画像形成装置100は、上述した各装置の他に、例えば、感光体7に対して光除電を行う光除電装置を備えていてもよい。
【0178】
図4は、他の実施形態に係る画像形成装置を示す概略断面図である。画像形成装置120は、図4に示すように、プロセスカートリッジ300を4つ搭載したタンデム方式の多色画像形成装置である。画像形成装置120では、中間転写体50上に4つのプロセスカートリッジ300がそれぞれ並列に配置されており、1色に付き1つの電子写真感光体が使用される構成となっている。なお、画像形成装置120は、タンデム方式であること以外は、画像形成装置100と同様の構成を有している。
【0179】
また、本実施形態に係る画像形成装置(プロセスカートリッジ)において、現像装置は、電子写真感光体の移動方向(回転方向)に対して逆方向に移動(回転)する現像剤保持体である現像ローラを有してもよい。ここで、現像ローラは表面に現像剤を保持する円筒状の現像スリーブを有しており、また、現像装置はこの現像スリーブに供給する現像剤の量を規制する規制部材を有する構成のものが挙げられる。現像装置の現像ローラを電子写真感光体の回転方向に対して逆方向に移動(回転)させることで、現像ローラと電子写真感光体との間に留まるトナーで電子写真感光体表面が摺擦される。
【0180】
また、本実施形態の画像形成装置においては、現像スリーブと感光体との間隔を200μm以上600μm以下とすることが望ましく、300μm以上500μm以下とすることがより望ましい。また、現像スリーブと上述の現像剤量を規制する規制部材である規制ブレードとの間隔を300μm以上1000μm以下とすることが望ましく、400μm以上750μm以下とすることがより望ましい。
【0181】
更に、現像ロール表面の移動速度の絶対値を、感光体表面の移動速度の絶対値(プロセススピード)の1.5倍以上2.5倍以下とすることが望ましく、1.7倍以上2.0倍以下とすることがより望ましい。
【0182】
また、本実施形態に係る画像形成装置(プロセスカートリッジ)において、現像装置(現像手段)は、磁性体を有する現像剤保持体を備え、磁性キャリアおよびトナーを含む2成分系現像剤で静電潜像を現像するものであることが望ましい。
【実施例】
【0183】
以下、本発明の実施例を具体的に挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」はすべて「質量部」を意味する。
【0184】
〔実施例1〕
<スズ−亜鉛複合酸化物粉体の合成>
まず、以下の方法によりスズ−亜鉛複合酸化物粉体である「ZnSnO」を合成した。
スズ酸ナトリウム3水和物(和光純薬社製)66部を純水に溶解させた。また、塩化亜鉛(和光純薬社製)34部を塩酸水溶液にて溶解させ、前記スズ酸ナトリウム3水和物を溶解させた液に注入し、スリーワンモーター(新東科学株式会社 HEIDON BL600)にて150rpmで30分間攪拌した。その後、沈殿物の水洗およびろ過を、導電率が10mS/m以下になるまで繰り返した。その後、200℃で乾固し、試料1を得た。この中和法により得られた試料1の体積平均粒径は100nmであった。
【0185】
−体積抵抗率の測定−
前記試料1(ZnSnO)の体積抵抗率を、三菱化学アナリテック社製粉体抵抗測定ユニット(MCP−PD51)を使用し前述の方法にて測定を行ったところ、2×10Ω・cm、1×10Ω・cm、3×10Ω・cmであり、平均2×10Ω・cm(13MPa下)であった。
【0186】
−X線回折測定−
尚、上記試料1について、X線回折測定装置(ブルカーエイエックス(株)社製、D8DISCOVER)を用いてX線回折測定を行ったところ、「非晶質」であることがわかった。
【0187】
<感光体の作製>
上記試料1を下引層中に内添させた感光体を以下のようにして製造した。
【0188】
(下引層の形成)
スズ−亜鉛複合酸化物粉体である試料1:41部と、硬化剤(ブロック化イソシアネート,スミジュール3175,住友バイエルンウレタン社製):12部と、ブチラール樹脂(BM−1、積水化学社製):6部と、メチルエチルケトン:52部と、シリコーン樹脂粒子(トスパール120、東芝シリコーン社製):3部と、を混合し、更にレベリング剤となるシリコーンオイル(SH29PA、東レダウコーニングシリコーン社製):100ppmを混合して、バッチ式ミルにて10時間の分散を行い、下引層塗布用液を得た。
この塗布液を浸漬塗布法にて直径30mm、肉厚1mmのアルミニウム基材(導電性基体)上に塗布し、150℃30分の乾燥硬化を行い、厚さ18μmの下引層を形成した。
【0189】
(電荷発生層の形成)
次に、下引層上に2層構造の感光層を形成した。
まず、電荷発生物質として、Cukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.4゜,16.6゜,25.5゜および28.3゜の位置に回折ピークを有する塩化ガリウムフタロシアニン:15部、結着樹脂となる塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニカー社製):10部、およびn−ブチルアセテート:300部からなる混合物を、1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散して電荷発生層用塗布液を得た。
得られた電荷発生層用塗布液を前記下引層上に浸漬塗布し、常温で乾燥して、厚さが0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0190】
(電荷輸送層の形成)
さらに、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン:4部と、ビスフェノールZポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量4万):6部と、をクロルベンゼン:80部に加えて溶解し、電荷輸送層用塗布液を得た。
得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に浸漬塗布し、130℃40分乾燥して、厚さが25μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を得た。
【0191】
〔実施例2〕
<スズ−亜鉛複合酸化物粉体の低抵抗化1>
実施例1に記載の方法により合成したZnSnOに対し、大気下500℃で1時間の熱処理を施し、試料2を得た。
【0192】
−体積抵抗率の測定−
上記試料2の体積抵抗率を測定したところ2×10Ω・cm、1×10Ω・cm、1×10Ω・cmであり、平均1×10Ω・cmであった。
【0193】
−X線回折測定−
尚、上記試料2について、前記X線回折測定装置にてX線回折測定を行ったところ、「非晶質」であることがわかった。
【0194】
この試料2を用いて、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0195】
〔実施例3〕
<スズ−亜鉛複合酸化物粉体の低抵抗化2>
実施例1に記載の方法により合成したZnSnOに対し、減圧加熱を行うための装置(同和工業社製、商品名:制御雰囲気炉)を用いて、減圧下1kPaにおいて500℃で3時間の熱処理を施し、試料3を得た。
【0196】
−体積抵抗率の測定−
上記試料3の体積抵抗率を測定したところ9×10Ω・cm、2×10Ω・cmであり、平均1×10Ωcmであった。
【0197】
−X線回折測定−
尚、上記試料3について、前記X線回折測定装置にてX線回折測定を行ったところ、「非晶質」であることがわかった。
【0198】
この試料3を用いて、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0199】
〔実施例4〕
<スズ−亜鉛複合酸化物粉体の合成および低抵抗化3>
スズ−亜鉛複合酸化物粉体であるZnSnOを化学合成法(炭酸塩法)にて作製した。具体的には、和光純薬製の硝酸亜鉛・6水和物72部を純水に溶解させ、また和光純薬製の塩化スズ・2水和物28部を2M塩酸水溶液に溶解させ、先の硝酸亜鉛水溶液と混合した。この溶液に炭酸ナトリウム0.5M/Lの溶液をpH7になるまで注入し、その後30分間攪拌した。純水での洗浄とろ過を、ろ過液が10mS/m以下になるまで繰り返して沈殿物を除去し、その後200℃で乾燥して、大気下において900℃1時間の熱処理を行った。
更にその後、実施例3に用いた装置を用いて減圧下1kPaにおいて900℃で1時間の熱処理を施し、試料4を得た。
【0200】
−体積抵抗率の測定−
前記試料4の体積抵抗率を測定したところ4×10Ω・cm、1×10Ω・cm、1×10Ω・cmであり、平均2×10Ωcmであった。
【0201】
−X線回折測定−
尚、上記試料4について、前記X線回折測定装置にてX線回折測定を行ったところ、ZnSnO単相であることがわかった。
【0202】
この試料4を用いて、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0203】
〔実施例5〕
<スズ−亜鉛複合酸化物粉体の合成および低抵抗化4>
スズ−亜鉛複合酸化物粉体であるZnSnOを化学合成法(炭酸塩法)を用いて作製した。具体的には、和光純薬製の硝酸亜鉛・6水和物57部を純水に溶解させ、また和光純薬製の塩化スズ・2水和物43部を2M塩酸水溶液に溶解させ、先の硝酸亜鉛水溶液と混合した。この溶液に炭酸ナトリウム0.5M/Lの溶液をpH7になるまで注入し、その後30分間攪拌した。純水での洗浄とろ過を、ろ過液が10mS/m以下になるまで繰り返して沈殿物を除去し、その後200℃で乾燥して、大気下において500℃1時間の熱処理を行った。
更にその後、実施例3に用いた装置を用いて減圧下1kPaにおいて500℃で1時間の熱処理を施し、試料5を得た。
【0204】
−体積抵抗率の測定−
前記試料5の体積抵抗率を測定したところ2×10Ω・cm、3×10Ω・cm、1×10Ω・cmであり、平均2×10Ωcm(13MPa下)であった。
【0205】
−X線回折測定−
尚、上記試料5について、前記X線回折測定装置にてX線回折測定を行ったところ、「非晶質」であることがわかった。
【0206】
この試料5を用いて、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0207】
〔比較例1〕
実施例1において、下引層に内添させる粒子を「試料1」から「酸化亜鉛(ナノテックZnO、シーアイ化成社、一次粒径30nm)」に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0208】
〔比較例2〕
実施例1において、下引層に内添させる粒子を「試料1」から「酸化チタン(富士チタン工業社製、商品名:TAF−J500、一次粒径50nm)」に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0209】
〔比較例3〕
実施例1において、下引層に内添させる粒子を「試料1」から「酸化スズ(三菱マテリアル社製、商品名:S1、一次粒径20nm)」に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0210】
[評価試験]
上記実施例および比較例にて作製した電子写真感光体を、フルカラープリンターDocu Print C620(富士ゼロックス社製)に搭載し、連続1万枚のプリントテストを行った。
プリント画質を調べ、かぶりの発生の有無を目視にて判断し、以下の評価基準に沿って評価した。
−かぶり評価−
○:かぶりが発生していない画質が得られた
×:初期において既にかぶりが発生し、1万枚目の画像では激しいカブリが観察された
【0211】
また、リーク電流による画質欠陥の発生の有無を目視にて判断し、以下の評価基準に沿って評価した。
−リーク評価−
○:リーク電流による画質欠陥の発生がない画像が得られた
×:リーク欠陥が発生した画像が得られた
【0212】
【表1】

【符号の説明】
【0213】
1 基体、2 感光層、2A 電荷発生層、2B 電荷輸送層、4 下引層、5 保護層、6 機能一体型の感光層、7 電子写真感光体、8 帯電装置、9 露光装置、11 現像装置、13 クリーニング装置、14 潤滑剤、40 転写装置、50 中間転写体、100 画像形成装置、120 画像形成装置、132 繊維状部材(ロール状)、133 繊維状部材(平ブラシ状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
体積抵抗率が2×10Ω・cm以下であるスズ−亜鉛複合酸化物粉体を含む下引層と、
感光層と、
をこの順に有する電子写真感光体。
【請求項2】
前記スズ−亜鉛複合酸化物粉体が非晶質体である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記スズ−亜鉛複合酸化物粉体が、減圧下にて450℃以上900℃以下での熱処理が施された粉体である請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記熱処理の際における真空度が10Pa以上3kPa以下である請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
請求項1に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する潜像形成装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
を備える画像形成装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電子写真感光体を有し、
且つ前記電子写真感光体を帯電する帯電装置、帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する潜像形成装置、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置、前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置、および前記電子写真感光体の表面を清掃する清掃装置から選択される少なくとも1つを備えたプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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