説明

電子写真感光体およびそれを搭載した画像形成装置

【課題】高温高湿環境下での微小黒点やカブリの発生がなく、低温低湿環境下での感度悪化がなく、環境変動に対する高い安定性を有し、高解像度機に適応可能な感光体およびそれを搭載した画像形成装置を提供することを課題とする。
【解決手段】導電性支持体と感光層との間に下引き層を備えてなり、前記下引き層が、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを少なくとも含有し、前記感光層が、少なくとも電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順もしくは逆順で積層された積層型感光層であり、かつ前記電荷発生物質が結晶型オキソチタニルフタロシアニンおよびX型無金属フタロシアニンであることを特徴とする電子写真感光体により上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置、特に1200dpiの高解像度の画像形成装置に用いられる電子写真感光体およびそれを搭載した高解像度の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(「電子写真装置」ともいう)は、複写機、プリンター、ファクシミリ装置などに多用されている。
電子写真プロセスに用いられる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)は、導電性支持体上に光導電性材料を含有する感光層が積層されて構成されている。
従来から、無機系光導電性材料を主成分とする感光層を備えた感光体(「無機系感光体」ともいう)が広く用いられてきたが、耐熱性、保存安定性、人体および環境に対する毒性、感度、耐久性、画像欠陥の発生、生産性、製造原価などのいずれかの点で欠点を有し、すべての点において満足のできるものが得られていない。
【0003】
一方、有機系光導電性材料を主成分とする感光層を備えた感光体(「有機系感光体」ともいう)の研究開発が進み、現在では感光体の主流を占めてきている。
有機系感光体は、感度、耐久性および環境に対する安定性などに若干の問題を有するが、毒性、製造原価および材料設計の自由度などの点において、無機系感光体に比べて多くの利点を有している。例えば、有機系感光体は、感光層を浸漬塗布法に代表される容易かつ安価な方法で形成することができる。
【0004】
有機系感光体としては、電荷発生物質および電荷輸送物質(「電荷移動物質」ともいう)をバインダー樹脂(「結着樹脂」、「結着剤樹脂」ともいう)に分散させた単層型感光層を導電性支持体上に積層した構成、電荷発生物質をバインダー樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダー樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順で形成した積層型感光層または逆順で形成した逆積層型感光層を導電性支持体上に積層した構成などが提案されている。これらの中でも、積層型感光層および逆積層型感光層を有する機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度が高く、感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0005】
近年、画像情報のデジタル化などに伴い、感光体の感光層を露光する記録光源(「感光光源」ともいう)として、従来の白色光に代わって半導体レーザーやLEDアレイが用いられている。現在では、この記録光源として、波長780nmの近赤外光源や波長650nmの赤色光源が多用されている。
文字などのデジタル化された画像情報をコンピュータ出力として直接利用する場合には、光信号に変換されたコンピュータの出力情報によって感光体上に画像情報が記録される。一方、原稿の画像情報が入力される場合には、原稿の画像情報が光情報として読み取られ、デジタル電気信号に変換された後に、再度、光信号に変換され、その光信号によって感光体上に画像情報が記録される。
いずれの場合にも、光記録ヘッド、記録光学系などから感光層に照射される微小の光スポットが照射された部分がトナーによって現像され、画像情報が感光層上に記録される。
【0006】
画像は、トナーによって現像された画素と呼ばれる微小ドットの集合および配列によって表現される。このため、光記録ヘッド、記録光学系などでは、高密度で画像情報が記録されるように、できるだけ微小なスポットを形成し得るように、高分解能化が進められている。
感光層に画像情報を記録する光学系については、可変スポットレーザー記録方式、マルチレーザービーム記録方式、超精密および超高速ポリゴンミラー(例えば、新田勇、小俣公夫、紺野大介著、「シュリンクフィッターを用いたポリゴンミラーの超精密接合」、Japan Hardcopy'96論文集、1996年、p.117−120(非特許文献1)参照)などが開発されている。その結果、現在では、光学系によって1200dpi(dot/inch=1インチ当たりのドット数)以上の記録密度で、感光層に画像情報を記録するための光学系が開発されている。
【0007】
上記のように感光層に高密度に画像情報を記録する光学系が開発されても、画像情報を再現性よく静電潜像として感光層に記録することは必ずしも容易ではない。これは、レーザー光の光強度分布が、中央部が強く周辺部に広がりをもつガウシアン分布であることに起因する。すなわち、従来の高感度な感光体では、周辺部に広がった光に対しても感光され現像されてドットが広がるために、高画質化が困難であった。
【0008】
高感度な感光体として、例えば、特許第1950255号明細書(特許文献1)および特許第2128593号公報(特許文献2)には、電荷発生物質にY型結晶オキソチタニルフタロシアニンを用いた感光体、特開平10-237347号公報(特許文献3)には、電荷発生物質に新規な結晶型オキソチタニルフタロシアニンを用いた感光体が提案されている。
【0009】
また、半導体レーザーの発光波長である780nm付近での高感度化を目的とし、電荷発生物質に2種以上のフタロシアニンを用いた感光体として、例えば、特許第2780295号公報(特許文献4)には、オキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンの混晶を用いた感光体、特許第2754739号公報(特許文献5)には、オキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンの組成物を用いた感光体が提案されている。
しかしながら、これらの高感度な感光体は弱い露光に対しても高感度であるために、上記の理由により高解像度を実現できない。
【0010】
さらに、高解像化を目的とし、電荷発生物質として2種のフタロシアニンを混合した感光体として、例えば、特開平5-134437号公報(特許文献6)には、2種の特定の結晶型オキソチタニルフタロシアニンを混合すること、特許第3005052号公報(特許文献7)および特開2002-131954号公報(特許文献8)には、特定の結晶型オキソチタニルフタロシアニンと無金属フタロシアニンを混合することが提案されている。これらの感光体は、弱い露光に対して光減衰が少なく、強い露光に対して高感度で完全に電位減衰し、露光エネルギーに対してリニアに応答する高い感度を有している。
【0011】
このように感光体側からも高画質化へのアプローチが行われているが、複写機、プリンターなどの画像形成装置は様々な環境下で安定して美しい画像を出力しなければならず、搭載される感光体は、それに応じた安定性も同時に要求される。
【0012】
他方、高画質化では、非露光部における微小黒点の発生が問題となる。
この微小黒点は、導電性支持体上に感光層を直接積層した感光体では支持体側からキャリア注入が生じ易いために、暗所でも帯電時の表面電荷が微視的に消失もしくは減少することにより発生する微小な黒点状の画像欠陥である。
また、高感度な感光体では、電荷発生材料自体が高感度であるがために暗所でもキャリアが熱的励起により発生し易く、この場合も微小黒点の発生に繋がる。そして、これらの微小黒点の画像欠陥は、高温高湿環境下であるほど顕著になる。
【0013】
このような微小黒点の画像欠陥を抑制し、さらに導電性支持体表面の欠陥の被覆、帯電性の改善、感光層の接着性の向上、塗布性改善などのために、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることが行われている。
従来から、下引き層として、各種樹脂材料や例えば酸化チタン粉末などの無機化合物粒子を含有するものが検討されている。
このような樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアミド樹脂などおよびこれらの繰り返し単位のうち2つ以上を含む共重合体樹脂、ならびにカゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどが知られている。
【0014】
そして、これらの樹脂材料の中でもポリアミド樹脂が特に好ましいとされている(例えば、特開昭48−47344号公報(特許文献9)参照)。
しかしながら、ポリアミド樹脂などの樹脂単一層を下引き層とした感光体では、微小黒点の発生が抑制されるものの、残留電位の蓄積が大きくなり、感度低下や画像カブリなどが発生し、このような傾向は特に低湿度環境下で顕著になるという問題がある。
【0015】
そこで、導電性支持体に起因する画像欠陥の発生の防止および環境変動に伴う残留電位を改善するために、特開昭56−52757号公報(特許文献10)には、下引き層中に表面未処理の酸化チタン粉末を含有させること、特開昭59−93453号公報(特許文献11)には、酸化チタン粉末の分散性を改善するためにアルミナなどを被覆した酸化チタン微粒子を含有させること、特開平4−172362号公報(特許文献12)には、チタネート系カップリング剤で表面処理を施した金属酸化物粒子を含有させること、特開平4−229872号公報(特許文献13)には、シラン化合物で表面処理を施した金属酸化物粒子を含有させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第1950255号明細書
【特許文献2】特許第2128593号公報
【特許文献3】特開平10-237347号公報
【特許文献4】特許第2780295号公報
【特許文献5】特許第2754739号公報
【特許文献6】特開平5-134437号公報
【特許文献7】特許第3005052号公報
【特許文献8】特開2002−131954号公報
【特許文献9】特開昭48−47344号公報
【特許文献10】特開昭56−52757号公報
【特許文献11】特開昭59−93453号公報
【特許文献12】特開平4−172362号公報
【特許文献13】特開平4−229872号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】新田勇、小俣公夫、紺野大介著、「シュリンクフィッターを用いたポリゴンミラーの超精密接合」、Japan Hardcopy'96論文集、1996年、p.117−120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記のように、高解像度に対応した感光体や環境安定性の向上を目指した感光体が多数提案されているが、様々な環境下で安定して高解像度を維持するには未だ十分ではない。
例えば、高解像度化を実現するための手段として、低感度な感光体を用いて露光部の周辺部の光に対する感度を落とし、中央部の強力な光のみに感光させて忠実なドット形成を行う方法がある。しかし、この方法は、低速なプリンターには対応できても、近年の高速なプリンターには対応できない。すなわち、感光体が低感度であるがために高出力な半導体レーザーが必要であること、残留電位が高く、さらに繰返し使用時には残留電位上昇が顕著となり、画像濃度が低下することなどの問題がある。
【0019】
また、電荷発生物質としてフタロシアニンなどを用いた高感度な感光体では、その高感度性のために熱的励起によるキャリア発生が多く、非露光部における微小黒点発生の要因となり、高温高湿環境下では顕著に現れるという問題がある。この問題は下引き層を設けることである程度抑制されるが十分ではない。これは従来の低解像度機ではそれほど問題にならなかったが、解像度の上昇に伴って相対的に大きく、目立つようになってきたからである。また、下引き層の種類によっては、導入することで特に低湿環境下での感度悪化に繋がることもある。
このように画像形成装置の高解像度化に伴い、それまで問題とならなかったことが不具合発生の原因となり、従来技術では対応しきれなくなっている。
【0020】
そこで、本発明は、高温高湿環境下での微小黒点やカブリの発生がなく、低温低湿環境下での感度悪化がなく、環境変動に対する高い安定性を有し、高解像度機に適応可能な感光体およびそれを搭載した画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下引き層に特定の表面処理を施した金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを含有させると共に、感光層中の電荷発生物質として特定のX線回折パターンを有する結晶型フタロシアニンとX型無金属フタロシアニンを含有させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0022】
かくして、本発明によれば、導電性支持体と感光層との間に下引き層を備えてなり、
前記下引き層が、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを少なくとも含有し、、
前記感光層が、少なくとも電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順もしくは逆順で積層された積層型感光層であり、かつ
前記電荷発生物質として、CuKα特性X線(0.15418nm)を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.3°、9.4°、9.6°、11.6°、13.3°、17.9°、24.1°および27.2°にピークを有し、9.4°と9.6°の重なったピーク束が最大ピークでありかつ27.2°のピークが第2の最大ピークである結晶型オキソチタニルフタロシアニンと、該X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°にピークを有するX型無金属フタロシアニンとを含有することを特徴とする感光体が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、上記の感光体と、前記感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成された前記トナー像を記録材上に転写する転写手段と、転写された前記トナー像を前記記録材上に定着して画像を形成する定着手段と、前記感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段とを少なくとも備え、
前記露光手段が、前記感光体の表面に半導体レーザーにより1200dpi以上の画素密度で露光して静電潜像を形成する露光装置であることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高温高湿環境下での微小黒点やカブリの発生がなく、低温低湿環境下での感度悪化がなく、環境変動に対する高い安定性を有し、高解像度機に適応可能な感光体およびそれを搭載した画像形成装置を提供することができる。
【0025】
また、X型無金属フタロシアニンを結晶型オキソチタニルフタロシアニンに対して10〜70重量%の割合で前記感光層に含有させることにより、最適な感度を達成でき、さらに優れた上記の効果を得ることができる。また、ガウシアン分布の光強度分布をもつ半導体レーザーで露光した場合に、中央部の強い光に対してのみ露光/電位減衰し、周辺部の弱い光に対しては電位減衰しないので、高解像度化が可能となる。
【0026】
さらに、0.1〜50重量%の割合の無水二酸化ケイ素でコーティングされてなる金属酸化物微粒子を用いることにより、さらに優れた上記の効果を得ることができる。また、金属酸化物微粒子、特に酸化チタンの微粒子の電気特性を維持しつつ、湿度変動による影響を抑制することができる。
【0027】
また、金属酸化物微粒子として酸化チタン微粒子を、バインダー樹脂としてポリアミド樹脂を用いることにより、さらに優れた上記の効果を得ることができる。また、下引き層用塗布液の調製において分散性が向上して凝集物が発生し難くなり、平坦な塗膜を形成できるので、抵抗値が均一になり、微小黒点の発生を効果的に抑制できる。さらに、ポリアミド樹脂は金属酸化物微粒子と馴染み易く、導電性支持体との接着性にも優れているので、膜の可とう性を保持することができる。
【0028】
また、金属酸化物微粒子/バインダー樹脂比率が、10/90〜95/5の重量比率で下引き層に金属酸化物微粒子を含有させることにより、さらに優れた上記の効果を得ることができる。
【0029】
また、下引き層の膜厚を0.05〜5μmにすることにより、さらに優れた上記の効果を得ることができる。また、低温低湿環境下で感度低下を起こすことなく、高温時には微小黒点の発生を効果的に抑制することができる。
【0030】
また、感光層を積層型感光層にすることにより、さらに優れた上記の効果を得ることができる。また、構成材料の相溶性などを考慮せずとも、各層で最適な材料を選択して感光体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の感光体(積層型感光体)の要部の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の感光体(単層型感光体)の要部の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
【図4】本発明の結晶型オキソチタニウムフタロシアニンのX線回折スペクトルを示す図である(製造例1)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の感光体は、導電性支持体と感光層との間に下引き層を備えてなり、
前記下引き層が、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを少なくとも含有し、
前記感光層が、少なくとも電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順もしくは逆順で積層された積層型感光層であり、かつ
前記電荷発生物質として、CuKα特性X線(0.15418nm)を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.3°、9.4°、9.6°、11.6°、13.3°、17.9°、24.1°および27.2°にピークを有し、9.4°と9.6°の重なったピーク束が最大ピークでありかつ27.2°のピークが第2の最大ピークである結晶型オキソチタニルフタロシアニンと、該X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°にピークを有するX型無金属フタロシアニンとを含有することを特徴とする。
【0033】
本発明の感光体について図面を用いて具体的に説明するが、本発明は以下に説明する形態に限定されるものではない。
図1は、感光層が電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層(「機能分離型感光層」ともいう)である積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
すなわち、図1の感光体は、導電性支持体1の表面に、下引き層7と、電荷発生物質2を含有する電荷発生層5と電荷輸送物質3を含有する電荷輸送層6とがこの順で積層された感光層(積層型感光層)4がこの順で形成されている。
本発明では、感光層を積層型感光層にすることにより、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、構成材料の相溶性などを考慮せずとも、各層で最適な材料を選択して感光体を製造することができる。
図1の積層型感光層は電荷発生層と電荷輸送層とが逆順で積層された逆積層型感光層であってもよいが、図1の形態が好ましい。
【0034】
図2は、感光層が一層からなる単層型感光層である単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
すなわち、図2の感光体は、導電性支持体1の表面に、下引き層7と、電荷発生物質2と電荷輸送物質3とを含有する感光層(単層型感光層)4’がこの順で形成されている。
以下、本発明の各構成について具体的に説明する。
【0035】
[導電性支持体1]
導電性支持体は、感光体の電極としての役割を果たすとともに、他の各層の支持部材としても機能する。
導電性支持体の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、真鍮、亜鉛、ニッケル、ステンレス鋼、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属および合金材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレン、セルロース、ポリ乳酸などの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料または合金材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウム、カーボンブラックなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0036】
導電性支持体の形状としては、図1および2に示すような層構成の、シート状および後述する円筒状に限定されず、円柱状、無端ベルト(シームレスベルト)状などであってもよい。
後述する実施形態のように、浸漬塗布法により導電性支持体上に各層を塗布形成する場合には、その形状としては円筒状が好ましい。
導電性支持体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0037】
乱反射処理は、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明による感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザー光の波長が揃っているので、感光体の表面で反射されたレーザー光と感光体の内部で反射されたレーザー光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥を発生することがある。そこで、導電性支持体の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザー光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0038】
[下引き層(「中間層」ともいう)7]
下引き層は、導電性支持体から単層型感光層または積層型感光層への電荷の注入を防止する機能を有する。すなわち、単層型感光層または積層型感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
また、導電性支持体の表面を被覆する下引き層は、導電性支持体の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、単層型感光層または積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体と単層型感光層または積層型感光層との密着性(接着性)を向上させることができる。
【0039】
本発明の下引き層は、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを少なくとも含有する。
本明細書において「特定の材料でその表面がコーティングされた粒子」とは、「特定の材料で表面処理された粒子」を意味する。
【0040】
金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズなどの微粒子が挙げられる。これらの中でも、導電性や分散性の点で、酸化チタンおよび酸化亜鉛の微粒子が好ましく、酸化チタンが特に好ましい。すなわち、金属酸化物微粒子として酸化チタンの微粒子を用いることにより、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、下引き層用塗布液の調製において分散性が向上して凝集物が発生し難くなり、平坦な塗膜を形成できるので、抵抗値が均一になり、微小黒点の発生を効果的に抑制できる。
酸化チタンの結晶型には、アナターゼ型、ルチル型、アモルファスなどがあり、本発明において酸化チタンの微粒子の結晶型はいずれであってもよく、2種以上の混合体でもよい。
【0041】
また、金属酸化物微粒子の形状には、樹枝状、針状および粒状などがあり、本発明においてその形状はいずれであってもよいが、膜強度と電気特性が両立する点で針状が特に好ましい。
ここで、「針状」とは、棒状、柱状や紡錘状などを含む細長い形状であればよく、必ずしも極端に細長いものでなくてもよく、先端が鋭くとがっている必要もない。
【0042】
金属酸化物微粒子の平均一次粒径は、20〜100nmが好ましい。
金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が20nm未満では、金属酸化物微粒子の分散効率が低下して凝集が発生する場合があり、画像において微小黒点が生じ易くなる。また液粘度の増加にも繋がり保存安定性の点でも好ましくない。金属酸化物微粒子の平均一次粒子径が100nmを超えると、下引き層形成時に微小領域の帯電性が低下し、微小黒点の発生に繋がるので好ましくない。
なお、金属酸化物微粒子の平均一次粒子径は、SEM(S−4100;株式会社日立ハイテクノロジーズ製)写真の測定に基づき、50個以上の粒子の粒径を計測し、平均して求めた値である。
【0043】
金属酸化物微粒子の粉体の体積抵抗値は、105〜1010Ωcmが好ましい。
粉体の体積抵抗値が105Ωcmより小さくなると、下引き層としての抵抗値が低下し電荷ブロッキング層として機能しなくなることがある。例えば、アンチモンをドープした酸化錫導電層などの導電処理を施した金属酸化物微粒子の場合には、抵抗値が100〜101Ωcmと粉体の体積抵抗値が非常に低くなり、これを用いた下引き層は電荷ブロッキング層として機能せず、感光体特性としての帯電性が悪化して、画像カブリや黒点欠陥が発生するために使用することはできない。
また、酸化チタン微粒子の粉体の体積抵抗値が1010Ωcm以上を超えると、バインダー樹脂自身の体積抵抗値と同等あるいはそれ以上になり、下引き層としての抵抗値が高過ぎて、光照射時に生成したキャリアの輸送が阻止され、残留電位が上昇し光感度が低下することがある。
【0044】
本発明で使用される金属酸化物微粒子は無水二酸化ケイ素でその表面がコーティング(被覆)されている。
例えば、表面未処理の酸化チタンの微粒子を用いる場合、酸化チタンの微粒子が十分に分散された下引き層用塗布液であっても長期間の使用や塗布液の保管時に酸化チタンの微粒子の凝集が避けらない。そのため、下引き層を形成する際に塗布膜の欠陥や塗布ムラによる画像欠陥が発生してしまうばかりか、凝集体を介して導電性支持体からのキャリア注入が起こり易くなるために、結果として下引き層があるにもかかわらず微小黒点が発生することになる。
【0045】
また、従来から提案されている酸化チタンの微粒子、すなわち下引き層中での分散性を向上させるためにアルミナで表面処理を施した酸化チタンの微粒子を用いる場合、浸漬塗布工程で導電性支持体上に下引き層を形成するようなときに、大量に塗布液を製造する必要があり、長時間に亘って分散処理を行うと酸化チタンの微粒子の再凝集により黒点が発生して画質が低下することがある。
これは、長時間の分散処理で表面のアルミナが剥離して表面処理の効果が薄れ、酸化チタンの微粒子の再凝集が発生して画像欠陥になると共に、導電性支持体からのキャリア注入が起こり易くなり微小黒点の発生に繋がるためと考えられる。
また、このような黒点は高温高湿環境下で長期間使用すると顕著になり、画質が著しく低下することになる。
【0046】
さらに、アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、ハロゲン、窒素、硫黄のような原子がケイ素と結合したシリル化剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などの一般的なカップリング剤などの有機化合物で表面処理を施した酸化チタンの微粒子を用いる場合、下引き層の抵抗値が高くなり湿度変動による感度変化は少なくなるものの、感度そのものが低下して画像カブリが発生することになる。また、このような現象は繰り返し使用時に特に顕著に発生する。
【0047】
また、十分に表面処理するためにアルミナと併用して二酸化ケイ素で表面処理を施した酸化チタンの微粒子を用いる場合、二酸化ケイ素に含有する結晶水に誘引されて下引き層が各環境において湿度の影響を受け易くなり、その結果、画質の低下ばかりか感光体の感度にも影響を及ぼすことになる。
【0048】
これらの表面処理された金属酸化物の微粒子に対して、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子は、二酸化ケイ素が結晶水を含まないので湿度の影響が抑制され、様々な環境下での感度低下や黒点、画像カブリのない優れた安定性を有する感光体を提供できる。また、無水二酸化ケイ素での被覆は長時間に亘る分散処理においても剥離し難く、酸化チタンの凝集を防止し、安定した塗布液が得られると共に、均一な下引き層の形成が可能となる。
【0049】
金属酸化物の微粒子は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%の割合の無水二酸化ケイ素でコーティングされてなる。
無水二酸化ケイ素の割合(表面処理量)が上記の範囲であれば、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、金属酸化物粒子、特に酸化チタンの微粒子の電気特性を維持しつつ、湿度変動による影響を抑制することができる。
無水二酸化ケイ素の割合が0.1重量%より少ないと、酸化チタンの微粒子の表面を十分に被覆することができないために表面処理の効果が発現し難くなる。また、無水二酸化ケイ素の割合が50重量%を超えると、酸化チタンの微粒子を配合する効果が低減し、逆に二酸化ケイ素の微粒子を配合したときの効果が現れ、感光体の感度が低下して画像カブリが発生することがある。
【0050】
無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子としては、市販品を用いることができ、例えば、
無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子としては、
昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトZS−032(酸化亜鉛80重量%、無水二酸化ケイ素20重量%)が挙げられる。
無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化チタン微粒子としては、
昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−04(酸化チタン67重量%、無水二酸化ケイ素33重量%)および
昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%)などが挙げられる。
【0051】
金属酸化物微粒子は、好ましくは金属酸化物微粒子/バインダー樹脂比率が10/90〜99/1、より好ましくは30/70〜99/1、さらに好ましくは35/65〜95/5の重量比率で下引き層中に含有されてなる。金属酸化物微粒子の重量比が上記の範囲であれば、更に優れた本発明の効果を得ることができる。
金属酸化物微粒子/バインダー樹脂比率が10/90未満であると、感光体の感度が低下し、下引き層中に電荷が蓄積されて残留電位が増大することがあり、この現象は低温低湿下での繰り返し特性において特に顕著に現れる。また、金属酸化物微粒子/バインダー樹脂比率が95/5を超えると、下引き層中に凝集物が発生し易く、微小黒点状の画像欠陥が起こり易くなる。また、同時にバインダー樹脂の含有量が低下するので、導電性支持体への接着性が低下し剥離し易くなる。
【0052】
バインダー樹脂としては、当該技術分野において樹脂単一層で下引き層を形成する場合と同様の材料を用いることができる。
具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂などの樹脂材料およびこれらの繰り返し単位のうち2つ以上を含む共重合体樹脂、ならびにカゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、アルコール可溶性のポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂が特に好ましい。これは、バインダー樹脂の特性として、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないこと、導電性支持体との接着性に優れ、可とう性を有すること、さらには下引き層中に含有する金属酸化物微粒子との親和性がよく、金属酸化物微粒子の分散性および分散液の保存安定性に優れていることなどによる。すなわち、バインダー樹脂としてポリアミド樹脂を用いることにより、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、ポリアミド樹脂は金属酸化物微粒子と馴染み易く、導電性支持体との接着性にも優れているので、膜の可とう性を保持することができる。
【0053】
ポリアミド樹脂の中でも、アルコール可溶性ナイロン樹脂が特に好ましく、例えば、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンなどの共重合ナイロン、N−アルコキシメチル変性ナイロン、N−アルコキシエチル変性ナイロンなどの変性ナイロンなどが好ましい。
【0054】
下引き層は、例えば、上記の金属酸化物微粒子、上記のバインダー樹脂および必要に応じて添加剤を有機溶剤に溶解または分散させて下引き層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥して有機溶剤を除去することにより形成することができる。
塗布液中に金属酸化物微粒子を分散させるために、分散メディアを使用しない超音波分散機および分散メディアを用いるボールミル、ビーズミル、ペイントコンディショナーなどの一般的な分散装置を用いて塗布液を処理してもよい。有機溶剤に溶解させたバインダー樹脂溶液中に金属酸化物微粒子を投入し、分散メディアを通じて分散装置から与えられた強力な力で無機化合物を分散させることができるような後者の分散装置が特に好ましい。
【0055】
分散メディアの材質としては、ガラス、ジルコニア、チタニア、アルミナなどが挙げられ、これらの中でも耐磨耗性の高いジルコニア、チタニアが特に好ましい。ガラスは、分散液の粘度を上昇させ、保存安定性が悪くなるので好ましくない。
これは、分散機から与えられた強力な力が金属酸化物微粒子を分散するエネルギーとしてだけでなく分散メディア自身を磨耗するエネルギーとして使用されることで分散メディアの材料が分散塗布液に混入し、分散塗布液の分散性や保存安定性が悪化し、下引き層を形成する際の塗布性やその膜質に何らかの影響を与えていることに基づくものと考えられる。
分散メディアの形状は、0.3〜数mmのビーズ状、数10mm程度のボール状など何れであってもよい。
【0056】
有機溶剤としては、当該技術分野で用いられる一般的な有機溶剤を用いることができる。バインダー樹脂としてより好ましいアルコール可溶性のポリアミド樹脂を用いる場合には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびn−プロピルアルコールなどの炭素数1〜4の低級アルコールが特にが好ましい。
【0057】
下引き層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、シートである場合にはベーカーアプリケーター法、バーコーター法、キャスティング法、スピンコート法、ノズル法、ロールコート法など、導電性支持体がドラムである場合にはスプレー法、垂直リング法、ロールコート法、浸漬塗布法などが挙げられる。
これらの塗布方法の中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0058】
下引き層の膜厚は特に限定されないが、0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。下引き層の膜厚が上記の範囲であれば、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、低温低湿環境下で感度低下を起こすことなく、高温時には微小黒点の発生を効果的に抑制することができる。
下引き層の膜厚が0.01μm未満であると、実質的に下引き層として機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面性が得られず、導電性支持体からのキャリア注入や電荷発生層での過剰キャリア流入を抑制することができなくなり、帯電性の低下、微小黒点の発生につながる。また、10μmを超えると、下引き層の浸漬塗布による形成が難しくなり、感光体の感度が低下することがある。
【0059】
下引き層を形成した感光体では、導電性支持体と感光層との間を、所定の電気的特性を保ちながら、導電性支持体の欠陥から由来する画像欠陥および電荷発生物質の凝集体などに由来する画像欠陥を防止することができる。特に本発明では、長波長に光感度のある電荷発生物質、フタロシアニン顔料を用いて感光体を作製するので、これを反転現像方法の画像形成装置に搭載することにより、微小領域での表面電荷の減少や消失による反転現像特有の非露光部における微小黒点のない優れた画像特性を発揮することができる。また、金属酸化物微粒子の表面処理を結晶水を含まない無水二酸化ケイ素で行っているために、湿度による影響も抑制され、低湿環境下でも感度が大きく悪化することはない。
【0060】
[積層型感光層4]
積層型感光層4は、電荷発生層5と電荷輸送層6とからなる。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることにより、各層を構成する最適な材料を独立して選択することができる。
【0061】
[電荷発生層5]
電荷発生層は、照射された光を吸収することにより電荷を発生する電荷発生能を有する電荷発生物質を主成分とし、任意に公知の添加剤およびバインダー樹脂を含有する。
【0062】
本発明では、電荷発生物質として特定の2種のフタロシアニン化合物、すなわちCuKα特性X線(0.15418nm)を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.3°、9.4°、9.6°、11.6°、13.3°、17.9°、24.1°および27.2°にピークを有し、9.4°と9.6°の重なったピーク束が最大ピークでありかつ27.2°のピークが第2の最大ピークである結晶型オキソチタニルフタロシアニン、および該X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°にピークを有するX型無金属フタロシアニンを用いる。
【0063】
結晶型オキソチタニルフタロシアニンは、後述するように、オキソチタニウムフタロシアニンを有機溶剤中で微粉砕処理することにより得ることができる。
オキソチタニウムフタロシアニンは、式(A):
【0064】
【化1】

【0065】
(式中、X1、X2、X3およびX4は、同一または異なって、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、r、s、yおよびzは、同一または異なって0〜4の整数である)
で示される。
【0066】
式(A)におけるX1、X2、X3およびX4のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子が挙げられる。
1、X2、X3およびX4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基のような炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。
1、X2、X3およびX4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基のような炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。
【0067】
式(A)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、例えばMoser, Frank HおよびArthur L. ThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている方法などの公知の製造方法によって製造することができる。
【0068】
例えば、式(A)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物のうち、r、s、yおよびzが0である無置換のオキソチタニウムフタロシアニンの場合は、o−フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα−クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによってジクロロチタニウムフタロシアニンを合成した後、塩基または水で加水分解することによって得られる。
【0069】
また、1,3−ジイミノイソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによっても、オキソチタニウムフタロシアニンを製造することができる。
【0070】
本発明で用いる結晶構造を有するオキソチタニウムフタロシアニンは、加水分解で得られたオキソチタニウムフタロシアニンを、メチルエチルケトンなどの有機溶剤中で、機械的な歪力をもって微粉砕(ミリング)処理すること、もしくは十分な時間の攪拌することにより得ることができ、前者の方法が好ましい。
【0071】
また、本発明で用いる結晶構造を有するオキソチタニウムフタロシアニンは、オキソチタニウムフタロシアニンを、水の存在下にジクロロエタンなどの水に非混和性の有機溶剤で処理することにより得ることができる。
具体的には、水で膨潤させたオキソチタニウムフタロシアニンを有機溶剤で処理する方法、および膨潤処理を行わずに、水を有機溶剤中に添加し、その中にオキソチタニウムフタロシアニンを投入する方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
オキソチタニウムフタロシアニンを水で膨潤させる方法としては、例えば、オキソチタニウムフタロシアニンを硫酸に溶解させ水中で析出させてウェットペースト状にする方法、およびホモミキサー、ペイントミキサー、ボールミル、サンドミルなどの攪拌・分散装置を用いて、オキソチタニウムフタロシアニンを水で膨潤させてウェットペースト状にする方法などが挙げられるが、これらの方法に限られるものではない。
【0073】
X型無金属フタロシアニンは、基本的にチタニウムが配位していない式(A)のフタロシアニンの構造を有し、上記のようなピークを有するX型のX線回折スペクトルを有している。X型無金属フタロシアニンとしては、例えば、DIC株式会社製、製品名:Fastogen Blue8120BSなどの市販品を用いることができる。
【0074】
結晶型オキソチタニルフタロシアニンおよびX型無金属フタロシアニンの粒径は、それらが電荷発生層中に均一に分散される程度であればよく、通常、10〜100nm程度である。
【0075】
X型無金属フタロシアニンは、結晶型オキソチタニルフタロシアニンに対して、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%の割合で感光層に含有されてなる。X型無金属フタロシアニンが上記の割合であれば、最適な感度を達成でき、さらに優れた本発明の効果を得ることができると共に、ガウシアン分布の光強度分布をもつ半導体レーザーで露光した場合に、中央部の強い光に対してのみ露光/電位減衰し、周辺部の弱い光に対しては電位減衰しないので、高解像度化が可能となる。
X型無金属フタロシアニンが10重量%未満であると、結晶型オキソチタニルフタロシアニンによる高感度性が優勢になり、高解像度化に対応できないことがある。また、X型無金属フタロシアニンが70重量%を超えると、X型無金属フタロシアニンのみの場合の特性と変わらなくなり、感度が低下することがある。
【0076】
電荷発生層は、例えば、上記の結晶型オキソチタニルフタロシアニンおよびX型無金属フタロシアニンの粒子に有機溶剤を加え、下引き層と同様に、ボールミル、サンドグラインダー、ペイントシェーカー、超音波分散機などの一般的な分散装置によって粉砕、分散させて電荷発生層用塗布液を調製し、この塗布液を下引き層と同様に、下引き層の表面に塗布し、乾燥して有機溶剤を除去することにより形成することができる。
その他の工程やその条件は、下引き層の形成に準ずる。
【0077】
有機溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素類;イソホロン、メチルエチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、安息香酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジオキサンなどのエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤;ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
電荷発生層は、結着性を向上させる目的でバインダー樹脂を含有していてもよい。
バインダー樹脂としては、当該技術分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用でき、電荷発生物質との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、これらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などが挙げられる。共重合体樹脂としては、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などが挙げられる。バインダー樹脂はこれらに限定されるものではなく、この分野において一般に用いられる樹脂をバインダー樹脂として使用することができる。これらのバインダー樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
電荷発生物質とバインダー樹脂の配合比率は、特に限定されないが、電荷発生物質/バインダー樹脂比率が好ましくは10/90〜99/1、より好ましくは30/70〜90/10である。
電荷発生物質/バインダー樹脂の配合比率が10/90未満であると、電荷発生量の不足から感度が低下し、充分な応答性が得られないことがある。また、電荷発生物質/バインダー樹脂の配合比率が99/1を超えると、膜強度が低下するだけでなく、分散性の低下により粗大粒子が多くなり、微小黒点が発生し易くなることがある。
【0080】
電荷発生層は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤(表面改質剤)、可塑剤などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。これらの添加剤は、後述する電荷輸送層に含有されてもよく、電荷発生層および電荷輸送層の両方に含有されてもよい。
【0081】
化学増感剤および光学増感剤は、感光体の感度を向上させ、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑え、電気的耐久性を向上させる。
化学増感剤としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物;ジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料およびこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0082】
光学増感剤としては、例えばキサンテン系色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0083】
酸化防止剤は、長期にわたって感度安定性を維持させることができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール:BHT)のようなヒンダードフェノールなどのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミンなどのアミン系酸化防止剤、ビタミンE、ハイドロキノン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄系化合物、有機燐系化合物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
酸化防止剤の添加量は、電荷発生物質100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜15重量部である。
酸化防止剤の添加量が0.1重量部未満であると、塗工液の保存安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないおそれがある。また、酸化防止剤の添加量が40重量部を超えると、感度特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0085】
レベリング剤および可塑剤は、成膜性、可とう性および表面平滑性を向上させることができる。
レベリング剤としては、例えばシリコーンオイル、フッ素樹脂などが挙げられる。
可塑剤としては、例えばビフェニル、塩化ビフェニル、ベンゾフェノン、o-ターフェニル、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、各種フルオロ炭化水素、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤などが挙げられる。
【0086】
電荷発生層の膜厚は特に限定されないが、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。
電荷発生層の膜厚が0.05未満であると、光吸収の効率が低下し、電荷発生量の不足から感度が悪化することがある。また、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での過剰な電荷移動が感光体表面の電荷を消去していく過程が強く現れ、帯電性が低下することがある。
【0087】
[電荷輸送層6]
電荷輸送層は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ、輸送する能力を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂とを主成分として含有する。
電荷輸送物質としては、当該技術分野で用いられるホール輸送物質および電子輸送物質を用いることができる。
【0088】
ホール輸送物質としては、例えば、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体およびベンジジン誘導体、ならびにこれらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、例えばポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン、エチルカルバゾール-ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ−9−ビニルアントラセンなど、およびポリシランなどが挙げられる。
【0089】
電子輸送物質としては、例えば、ベンゾキノン誘導体、テトラシアノエチレン誘導体、テトラシアノキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、キサントン誘導体、フェナントラキノン誘導体、無水フタル酸誘導体、ジフェノキノン誘導体などの有機化合物が挙げられる。
これらの電荷輸送物質は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
バインダー樹脂としては、当該技術分野で用いられる結着性を有する樹脂の中で、画像形成装置の露光光源の光を吸収しない透明な樹脂を使用でき、電荷発生層に含まれるものと同様の樹脂の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、電荷輸送物質との相溶性に優れるものが好ましく、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0091】
バインダー樹脂の配合割合は、特に限定されないが、電荷輸送物質100重量部に対して、好ましくは30〜200重量部、より好ましくは60〜180重量部である。
バインダー樹脂の配合割合が30重量部未満であると、感光層の摩耗量が増加してしまい、耐刷性が低下することがある。また、バインダー樹脂の配合割合が200重量部を超えると、現状の電荷輸送物質の電荷輸送能では充分な応答性が得られないことがある。
【0092】
電荷輸送層は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤(表面改質剤)、可塑剤、無機化合物もしくは有機化合物の微粒子などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。
【0093】
電荷輸送層は、電荷発生層と同様に、電荷輸送層形成用塗布液を調製し、湿式法、特に浸漬塗布法により形成することができる。
電荷輸送層形成用塗布液の調製に使用する有機溶剤としては、電荷発生層形成用塗布液の調製に使用するものと同様の溶剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
有機溶剤としては、電荷発生層用塗布液に含まれるものと同様の有機溶剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。必要に応じてアルコール類、アセトニトリル、メチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。
その他の工程やその条件は、下引き層および電荷発生層の形成に準ずる。
【0094】
電荷輸送層の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜45μmが特に好ましい。
電荷輸送層の膜厚が5μm未満であると、帯電保持能が低下するおそれがある。また、電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、鮮鋭性の低下や残留電位の上昇が発生し、著しく画像劣化が生じるおそれがある。
【0095】
[単層型感光層4’]
単層型感光層は、電荷発生物質として上記ような特定の2種のフタロシアニン化合物、すなわち結晶型オキソチタニルフタロシアニンとX型無金属フタロシアニンと、上記の電荷輸送物質と、バインダー樹脂(結合剤)とを主成分として含有する。
単層型感光層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じて、電荷発生層に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
【0096】
単層型感光層には、上記のような配合比の電荷輸送層中に、電荷発生物質として特定の2種のフタロシアニン化合物が分散されることになる。したがって、電荷発生物質の粒径は十分小さいことが好ましい。具体的には、その粒径は1μm以下が好ましく、より好ましくは10〜100nm程度である。
単層型感光層中に分散される電荷発生物質が過少では感度不足、過多では帯電性低下および感度低下を誘発するなどの弊害があるため、電荷発生物質の配合割合は、好ましくは0.5〜50重量%程度、より好ましくは1〜20重量%程度である。
【0097】
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解および/または分散して単層型感光層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体上に形成された下引き層の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層の形成に準ずる。
【0098】
単層型感光層の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、15〜40μmが特に好ましい。
単層型感光層の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。また、単層型感光層の膜厚が50μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0099】
[保護層(図示せず)]
本発明の感光体では、電荷輸送層の表面を保護し、その磨耗劣化を抑制する手段として、電荷輸送層の表面に保護層を有していてもよい。
保護層は、バインダー樹脂(熱可塑性樹脂および光または熱硬化性樹脂)、必要に応じて上記の金属酸化物微粒子の無機系微粒子や、フッ素系材料を中心とする有機系微粒子から少なくとも1種から構成され、保護層中の微粒子含有量は0.01〜3重量%程度が好ましい。
また、保護層には、必要に応じて上記の電荷輸送材料や酸化防止剤を添加することが好ましく、添加により電位安定性や画質の向上を図ることができる。
【0100】
塗膜の乾燥工程における温度は、使用した有機溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50〜140℃が適当であり、80〜130℃が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなると共に、溶剤が大量に感光層中に残留してしまい、繰返し使用時の電気特性の悪化に繋がり、得られる画像が劣化するおそれがある。また、乾燥温度が140℃を超えると、電荷発生物質、電荷輸送物質が熱劣化してしまい、感光体の電気的特性が初期から悪化する。
【0101】
[画像形成装置]
本発明の画像形成装置は、本発明の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成されたトナー像を記録材上に転写する転写手段と、転写されたトナー像を記録材上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段とを少なくとも備え、露光手段が、感光体の表面に半導体レーザーにより1200dpi以上の画素密度で露光して静電潜像を形成する露光装置であることを特徴とする。
【0102】
本発明の画像形成装置について図面を用いて具体的に説明するが、本発明は以下に説明する形態に限定されるものではない。
図3は、本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
図3の画像形成装置20は、本発明の感光体21(例えば、図1または2の感光体)と、帯電手段(帯電器)24と、露光手段28と、現像手段(現像器)25と、転写手段(転写器)26と、クリーニング手段(クリーナ)27と、定着手段(定着器)31と、除電手段(図示せず、クリーニング手段27に併設される)を含んで構成される。図番30は転写紙を示す。
【0103】
感光体21は、図示しない画像形成装置20本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線22回りに矢符23方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体21の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体21を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器24、露光手段28、現像器25、転写器26およびクリーナ27は、この順序で、感光体21の外周面に沿って、矢符23で示される感光体21の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0104】
帯電器24は、感光体21の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。具体的には、例えば帯電器24は、接触式の帯電ローラ24aや帯電ブラシあるいはコロトロンやスコロトロンなどのチャージャーワイヤによって実現される。図番24bはバイアス電源を示す。
【0105】
露光手段28は、例えば半導体レーザーなどを光源として備え、光源から出力されるレーザービームなどの光28aを、感光体21の帯電器24と現像器25との間に照射することによって、帯電された感光体21の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光28aは、主走査方向である感光体21の回転軸線22の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って感光体21の表面に静電潜像が順次形成される。
【0106】
現像器25は、露光によって感光体21の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体21を臨んで設けられ、感光体21の外周面にトナーを供給する現像ローラ25aと、現像ローラ25aを感光体21の回転軸線22と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング25bとを備える。
【0107】
転写器26は、現像によって感光体21の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符29方向から感光体21と転写器26との間に供給される記録材(記録媒体)である転写紙30上に転写させる転写手段である。転写器26は、例えば、帯電手段を備え、転写紙30にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙30上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0108】
クリーナ27は、転写器26による転写動作後に感光体21の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体21の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード27aと、クリーニングブレード27aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング27bとを備える。また、このクリーナ27は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0109】
また、画像形成装置20には、感光体21と転写器26との間を通過した転写紙30が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器31が設けられる。定着器31は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ31aと、加熱ローラ31aに対向して設けられ、加熱ローラ31aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ31bとを備える。
【0110】
この画像形成装置20による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体21が駆動手段によって矢符23方向に回転駆動されると、露光手段28による光28aの結像点よりも感光体21の回転方向上流側に設けられる帯電器24によって、感光体21の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0111】
次いで、露光手段28から、感光体21の表面に対して画像情報に応じた光28aが照射される。感光体21は、この露光によって、光28aが照射された部分の表面電荷が除去され、光28aが照射された部分の表面電位と光28aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0112】
次いで、露光手段28による光28aの結像点よりも感光体21の回転方向下流側に設けられる現像器25から、静電潜像の形成された感光体21の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0113】
感光体21に対する露光と同期して、感光体21と転写器26との間に、転写紙30が供給される。転写器26によって、供給された転写紙30にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体21の表面に形成されたトナー像が、転写紙30上に転写される。
【0114】
次いで、トナー像の転写された転写紙30は、搬送手段によって定着器31に搬送され、定着器31の加熱ローラ31aと加圧ローラ31bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙30に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙30は、搬送手段によって画像形成装置20の外部へ排紙される。
【0115】
一方、転写器26によるトナー像の転写後も感光体21の表面上に残留するトナーは、クリーナ27によって感光体21の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体21の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体21の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体21はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰り返されて連続的に画像が形成される。
【実施例】
【0116】
以下に製造例、実施例、比較例および試験例により本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明が限定されるものではない。
【0117】
(製造例1)結晶型オキソチタニルフタロシアニンの製造
o−フタロジニトリル40gと四塩化チタン18gとを、α−クロロナフタレン500mL中で窒素雰囲気下、200〜250℃で3時間加熱攪拌して反応させた。次いで、反応混合物を100〜130℃まで放冷して熱時濾過し、得られた固形物を100℃に加熱したα−クロロナフタレン200mLで洗浄してジクロロチタニウムフタロシアニン粗生成物48.2gを得た。得られた粗生成物を室温でα−クロロナフタレン200mL、次いでメタノール200mLで洗浄し、さらにメタノール500mL中で1時間熱懸洗を行った。これを濾過し、得られた粗生成物を水500mL中で、pHが6〜7になるまで、
60〜80℃で熱懸洗を繰り返した後、乾燥してオキソチタニルフタロシアニン中間結晶
46.5gを得た。
【0118】
得られたオキソチタニルフタロシアニン中間結晶1.0gをメチルエチルケトン30gに混合し、ペイントコンディショナー装置(レッドレベル社製)により直径2mmのガラスビーズ60gと共に5.0時間ミリング処理し、メタノール1000mLで洗浄した後、乾燥して本発明の結晶型オキソチタニルフタロシアニン0.95gを得た。
得られた結晶を下記の条件でX線回折法により分析して、X線回折スペクトルを得た。
図4にそのX線回折スペクトルを示す。
【0119】
X線源 CuKα=0.15418nm
電圧 30〜40kV
電流 50mA
スタート角度 5.00°
ストップ角度 30.00°
ステップ角度 0.01〜0.020°
測定時間 2.0〜0.5°/分
測定方法 θ/2θスキャン方法
【0120】
(実施例1)
金属酸化物微粒子として、無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子(酸化亜鉛80重量%、無水二酸化ケイ素20重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトZS−032)1重量部、バインダー樹脂としてのポリアミド樹脂(東レ株式会社製、製品名:アミランCM8000)9重量部を、容量1000mLのポリプロピレン製容器に入れたメタノール500重量部と1,3−ジオキソラン500重量部の混合溶剤に加えた。さらに、ポリプロピレン製容器の1/2容積量まで、分散メディアとしての直径1mmのジルコニア製ビーズを加え、ペイントシェーカーにて20時間分散処理した。この製造工程を繰り返し、下引き層用塗布液3000mLを調製した(金属酸化物微粒子P/バインダー樹脂R=10/90)。
得られた下引き層用塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体として直径30mm、全長340mmのアルミニウム製の円筒状支持体を浸漬し、引き上げた後、自然乾燥させて膜厚1μmの下引き層を導電性支持体上に形成した。
【0121】
次いで、電荷発生物質としての、製造例1で製造した結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部およびX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°に回折ピークを有するX型無金属フタロシアニン(DIC株式会社製、製品名:Fastogen Blue8120BS)5重量部、ならびにバインダー樹脂としてのブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBL−1)10重量部を、メチルエチルケトン980重量部に混合し、ペイントシェーカーにて5.0時間分散処理して電荷発生層用塗布液を調製した(電荷発生物質内の結晶型に対するX型の割合50%)。
得られた電荷発生層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬塗布法で先に設けた下引き層上に塗布し、自然乾燥させて膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0122】
次いで、電荷輸送物質としての下記構造式(I)で示されるヒドラゾン系化合物10重量部、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、製品名:ユーピロンZ400)16重量部、レベリング剤としてジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、製品名:KF−96)0.0032重量部、およびフェノール系酸化防止剤(住友化学社製、製品名:スミライザーBHT)0.5重量部を、テトラヒドロフラン106重量部に混合して、固形分濃度20重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬塗布法で先に設けた電荷発生層上に塗布し、120℃で1時間熱風乾燥させて膜厚23μmの電荷輸送層を形成し、図1に示される構成の実施例1の感光体を得た。
【0123】
【化2】

【0124】
(実施例2)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子1重量部の代わりに、無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン67重量%、無水二酸化ケイ素33重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−04)1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の感光体を得た。
【0125】
(実施例3)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子1重量部の代わりに、無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の感光体を得た。
【0126】
(実施例4)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)9.5重量部、バインダー樹脂としてポリアミド樹脂(東レ株式会社製、製品名:アミランCM8000)0.5重量部を用い、P/R=10/90を95/5としたこと以外は、実施例3と同様にして実施例4の感光体を得た。
【0127】
(実施例5)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)0.5重量部、バインダー樹脂としてポリアミド樹脂(東レ株式会社製、製品名:アミランCM8000)9.5重量部を用い、P/R=10/90を5/95としたこと以外は、実施例3と同様にして実施例5の感光体を得た。
【0128】
(実施例6)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)9.9重量部、バインダー樹脂としてポリアミド樹脂(東レ株式会社製、製品名:アミランCM8000)0.1重量部を用い、P/R=10/90を99/1としたこと以外は、実施例3と同様にして実施例6の感光体を得た。
【0129】
(実施例7)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子1重量部の代わりに、無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)8重量部を用い、かつバインダー樹脂としてポリアミド樹脂(ダイセル・デグサ株式会社(現ダイセル・エボニック株式会社)製、製品名:X1010)2重量部を用い(P/R=80/20)、かつ下引き層の膜厚を0.05μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例7の感光体を得た。
【0130】
(実施例8)
下引き層の膜厚を5μmとしたこと以外は、実施例7と同様にして実施例8の感光体を得た。
【0131】
(実施例9)
下引き層の膜厚を0.01μmとしたこと以外は、実施例7と同様にして実施例9の感光体を得た。
【0132】
(実施例10)
下引き層の膜厚を12μmとしたこと以外は、実施例7と同様にして実施例10の感光体を得た。
【0133】
(実施例11)
金属酸化物微粒子として、無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、無水二酸化ケイ素10重量%、昭和電工株式会社製、製品名:マックスライトTS−043)4重量部およびAl23、SiO2・nH2O処理で表面処理された酸化チタン微粒子(酸化チタン90重量%、Al(OH)3 5重量%、SiO2・nH2O 5重量%、テイカ株式会社製、製品名:MT−500SA)4重量部(2種の金属酸化物微粒子の比率5/5)、バインダー樹脂としてのポリアミド樹脂(ダイセル・デグサ株式会社(現ダイセル・エボニック株式会社)製、製品名:X1010)2重量部を、溶剤としてメタノール600重量部、テトラヒドロフラン300重量部、n−プロパノール100重量部の混合溶剤と共に、容量100000mLの攪拌タンクに投入した。さらに、容量16500mLの横型ビーズミル本体の80%容積量まで、分散メディアとして直径0.5mmの窒化ケイ素製ビーズを投入した。次いで、ダイヤフラムポンプを介して攪拌タンクから分散機本体に混合溶液を送液し、15時間循環しながら分散処理し、下引き層用塗布液64000mLを調製した(P/R=80/20)。
得られた下引き層用塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体として直径30mm、全長340mmのアルミニウム製の円筒状支持体を浸漬し、引き上げた後、自然乾燥させて膜厚1μmの下引き層を導電性支持体上に形成した。
【0134】
次いで、電荷発生物質として、製造例1で製造した結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部およびX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°に回折ピークを有するX型無金属フタロシアニン(DIC株式会社製、製品名:Fastogen Blue8120BS)5重量部、ならびにバインダー樹脂としてのブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBM−S)10重量部を、メチルエチルケトン985重量部に混合し、ペイントシェーカーにて5.0時間分散処理して電荷発生層用塗布液を調製した(電荷発生物質のX型の割合50%)。
得られた電荷発生層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬塗布法で先に設けた下引き層上に塗布し、自然乾燥させて膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0135】
次いで、電荷輸送物質としての下記構造式(II)で示されるエナミン系化合物10重量部、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、製品名:ユーピロンZ400)16重量部、レベリング剤としてジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、製品名:KF−96)0.0032重量部、およびフェノール系酸化防止剤(住友化学社製、製品名:スミライザーBHT)0.5重量部を、テトラヒドロフラン106重量部に混合して、固形分濃度20重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬塗布法で先に設けた電荷発生層上に塗布し、120℃で1時間熱風乾燥させて膜厚23μmの電荷輸送層を形成し、図1に示される積層構造の実施例11の感光体を得た。
【0136】
【化3】

【0137】
(実施例12)
実施例11と同様にして膜厚1μmの下引き層を導電性支持体上に形成した。
次いで、電荷発生物質として、製造例1で製造した結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部およびX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°に回折ピークを有するX型無金属フタロシアニン(DIC株式会社製、製品名:Fastogen Blue8120BS)5重量部を、テトラヒドロフラン185重量部に混合し、ペイントシェーカーにて5.0時間分散処理した。
得られた混合物に、電荷輸送物質として前記構造式(II)で示されるエナミン系化合物10重量部、下記構造式(III)のジフェノキノン化合物10重量部、ポリカーボネート樹脂(帝人株式会社製、製品名:TS2050)16重量部、レベリング剤としてジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、製品名:KF−96)0.0032重量部、およびフェノール系酸化防止剤(住友化学社製、製品名:スミライザーBHT)0.5重量部を混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分21重量%の感光層用塗布液を調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬塗布法で先に設けた電荷発生層上に塗布し、120℃で1時間熱風乾燥させて膜厚23μmの電荷輸送層を形成し、図2に示される単層構造の実施例12の感光体を得た。
【0138】
【化4】

【0139】
(実施例13)
電荷発生物質として、結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部はそのままに、X型無金属フタロシアニン5重量部を7重量部にしたこと(結晶型に対するX型の割合70%)、そして、バインダー樹脂としてブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBM−S)11.3重量部とした以外は、実施例11と同様にして実施例13の感光体を得た。
【0140】
(実施例14)
電荷発生物質として、結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部はそのままに、X型無金属フタロシアニン5重量部を1重量部にしたこと(結晶型に対するX型の割合10%)、そして、バインダー樹脂としてブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBM−S)7.3重量部とした以外は、実施例11と同様にして実施例14の感光体を得た。
【0141】
(実施例15)
電荷発生物質として、結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部はそのままに、X型無金属フタロシアニン5重量部を8重量部にしたこと(結晶型に対するX型の割合80%)、そして、バインダー樹脂としてブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBM−S)12重量部とした以外は、実施例11と同様にして実施例15の感光体を得た。
【0142】
(実施例16)
電荷発生物質として、結晶型オキソチタニルフタロシアニン10重量部はそのままに、X型無金属フタロシアニン5重量部を0.5重量部にしたこと(結晶型に対するX型の割合5%)、そして、バインダー樹脂としてブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、製品名:エスレックBM−S)7重量部とした以外は、実施例11と同様にして実施例16の感光体を得た。
【0143】
(比較例1)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素で表面処理された酸化亜鉛微粒子1重量部の代わりに、アルミナ・有機ポリシロキサンで表面処理された酸化亜鉛微粒子(酸化亜鉛80重量%、アルミナ・有機ポリシロキサン20重量%、堺化学株式会社製、製品名:FINEX-30W-LP2)1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の感光体を得た。
【0144】
(比較例2)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子1重量部の代わりに、表面未処理の酸化チタン微粒子(石原産業株式会社製、製品名:TTO−55N)1重量部を用いたこと以外は、実施例3と同様にして比較例2の感光体を得た。
【0145】
(比較例3)
金属酸化物微粒子として無水二酸化ケイ素処理で表面処理された酸化チタン微粒子1重量部の代わりに、表面未処理の二酸化ケイ素微粒子(電気化学工業株式会社製、製品名:UFP−80)1重量部を用いたこと以外は、実施例3と同様にして比較例3の感光体を得た。
【0146】
(比較例4)
電荷発生物質としてX線回折スペクトルにおけるブラッグ角(2θ±0.2°)が7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°に回折ピークを有するX型無金属フタロシアニン(DIC株式会社製、製品名:Fastogen Blue8120BS)15重量部のみを用いたこと以外は、実施例11と同様にして比較例4の感光体を得た。
【0147】
(比較例5)
電荷発生物質としてτ型無金属フタロシアニン(東洋インキ製造株式会社製、製品名:Liophoton TPA)15重量部のみを用いたこと以外は、実施例11と同様にして比較例5の感光体を得た。
【0148】
(比較例6)
電荷発生物質として製造例1で製造した結晶型オキソチタニルフタロシアニン15重量部のみを用いたこと以外は、実施例11と同様にして比較例6の感光体を得た。
【0149】
実施例1〜16および比較例1〜6の感光体の下引き層と電荷発生物質の内訳を表1にまとめる。
【0150】
【表1】

【0151】
(試験1)高温高湿および低温低湿環境下での評価
実施例1〜16および比較例1〜6の各感光体について、温度35℃、相対湿度85%の高温高湿環境下および温度5℃、相対湿度10%の低温低湿環境下における感度、微小黒点欠陥の有無および解像度を評価した。
【0152】
市販のデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:AR−451S)を、1200dpi相当のドットを出力できるように改造し、かつそれに画像形成工程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(トレック・ジャパン株式会社製、型式:MODEL344)を設けて、評価用の高解像度デジタル複写機とした。
これに各感光体を搭載し、高温高湿環境および低温低湿環境において、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として、露光を施した直後の感光体の表面電位を残留電位VL(V)として測定した。
得られた結果を表2に示す。
【0153】
微小黒点欠陥の有無については、高温高湿環境下において、帯電電位を通常設定値のマイナス650Vから最大値マイナス850V、現像電位を通常設定値のマイナス500Vからマイナス700Vに変更し、微小黒点がより顕著になる方向に実機を調整し、白ベタ画像により評価した。
解像度については、パソコンで作成した、黒ベタ画像に白い1ドットを書かせるデータ(レーザーを全面走査し1ドットのみオフとするデータ)をプリンターインターフェースを介して複写機に送信し、プリントアウトされた出力画像を目視観察により評価した。
【0154】
得られた結果を下記の基準に基づいて評価した。
◎:優 微小黒点がなく、ドット再現ができた
○:良 極く僅かに微小黒点があるが実用上全く問題がなく、ドット再現ができた
△:可 若干の微小黒点が発生または濃度が低目またはドット再現にやや劣るが使用可
×:不可 黒点が多発またはドット再現ができないまたは全く濃度が低い
得られた結果を表2に示す。なお、画像評価結果には、その詳細を付記する。
【0155】
【表2】

【0156】
表2の結果から次のことがわかる。
(1)下引き層が無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子を含有し、かつ電荷発生層が電荷発生物質として特定のX線回折ピークを有する結晶型オキソチタニルフタロシアニンとX型無金属フタロシアニンとを含有する感光体(実施例1〜16)は、弱い露光に対しては光減衰せず強い光に対してのみ光減衰する高解像度機に適応可能で、環境変動に対する安定性が高いこと
(2)金属酸化物微粒子Pとバインダー樹脂Rとの比率P/Rが10/90〜95/5であり、下引き層の膜厚が0.05〜5μmであり、かつX型無金属フタロシアニンが結晶型オキソチタニルフタロシアニンに対して10〜70重量%の割合である感光体は、感度、微小黒点、解像度において、どの環境下でも良好であり、特に酸化チタンを用いた感光体が優れていること(実施例1〜4、7、8および11〜14)
(3)上記(2)の条件を満たさない感光体であっても、若干ではあるが高温高湿環境下での微小黒点の発生、低温低湿環境下での濃度の低下の傾向、ドット再現での悪さがみられるものの、どの環境下でも1200dpiの高解像度の画像形成装置に適用可能であること(実施例5、6、9、10、15および16)。
【0157】
(4)無水二酸化ケイ素ではなく、アルミナ・有機ポリシロキサンでその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子(酸化亜鉛)を含有する下引き層を有する感光体では、高温高湿環境下での帯電特性が悪く、白ベタ画像にはカブリ、微小黒点が多く発生して、ドット再現においてそれらが邪魔をして正確な1ドット再現ができないこと(比較例1)。
(5)表面処理を施していない金属酸化物微粒子(酸化チタン)を含有する下引き層を有する感光体では、金属酸化物微粒子の凝集のために、高温高湿環境下で特に微小黒点が多く発生すること(比較例2)。
(6)表面処理を施していない金属酸化物微粒子(二酸化ケイ素)を含有する下引き層を有する感光体では、高温高湿環境下でも感度が悪く、上記(5)の感光体ほどではないが、凝集による微小黒点が発生すること(この例は、金属酸化物微粒子の表面処理量が本発明の規定量上限を超えた場合に相当する)(比較例3)。
(7)上記(4)〜(6)の感光体では、いずれも1200dpiの1ドットを再現しようとするものの、微小黒点が邪魔をして、常に正確な1ドットが再現できない状態が多く、感度自体も特に低温低湿環境下で悪く、画像濃度としても低いこと(比較例1〜3)。
(6)電荷発生物質がτ型無金属フタロシアニンのみ、またはX型の無金属フタロシアニンのみである感光体では、低感度ゆえにドット再現は良い傾向にあるが、黒ベタ部の濃度が低く、画像として特に低温環境下では充分なものではないこと(比較例4および5)。
(7)電荷発生物質が結晶型オキソチタニルフタロシアニンのみである感光体では、環境変動に対する感度の安定性は良いものの、高感度ゆえに、弱い露光にも光減衰してしまい、どの環境下でも解像度が充分ではないこと(比較例6)。
【符号の説明】
【0158】
1 導電性支持体
2 電荷発生物質
3 電荷輸送物質
4 積層型感光層
4’単層型感光層
5 電荷発生層
6 電荷輸送層
7 下引き層
【0159】
20 画像形成装置
21 電子写真感光体
22 回転軸線(感光体回転軸)
23、29 矢符
24 帯電手段(帯電器)
24a 帯電ローラ
24b バイアス電源
25 現像手段(現像器)
25a 現像ローラ
25b ケーシング
26 転写手段(転写器)
27 クリーニング手段(クリーナ)
27a クリーニングブレード
27b 回収用ケーシング
28 露光手段
28a 光
30 転写紙(記録材)
31 定着手段(定着器)
31a 加熱ローラ
31b 加圧ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と感光層との間に下引き層を備えてなり、
前記下引き層が、無水二酸化ケイ素でその表面がコーティングされた金属酸化物微粒子とバインダー樹脂とを少なくとも含有し、、
前記感光層が、少なくとも電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順もしくは逆順で積層された積層型感光層であり、かつ
前記電荷発生物質として、CuKα特性X線(0.15418nm)を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.3°、9.4°、9.6°、11.6°、13.3°、17.9°、24.1°および27.2°にピークを有し、9.4°と9.6°の重なったピーク束が最大ピークでありかつ27.2°のピークが第2の最大ピークである結晶型オキソチタニルフタロシアニンと、該X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)7.5°、9.1°、16.7°、17.3°および22.3°にピークを有するX型無金属フタロシアニンとを含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記X型無金属フタロシアニンが、前記結晶型オキソチタニルフタロシアニンに対して10〜70重量%の割合で前記感光層に含有されてなる請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子が、0.1〜50重量%の割合の無水二酸化ケイ素でコーティングされてなる請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子が酸化チタンの微粒子であり、かつ前記バインダー樹脂がポリアミド樹脂である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子/前記バインダー樹脂比率が、10/90〜95/5の重量割合で前記下引き層に含有されてなる請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記下引き層が、0.05〜5μmの膜厚を有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記感光層が、積層型感光層である請求項1〜6のいずれか1つに記載の積層型電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成された前記トナー像を記録材上に転写する転写手段と、転写された前記トナー像を前記記録材上に定着して画像を形成する定着手段と、前記電子写真感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段とを少なくとも備え、
前記露光手段が、前記電子写真感光体の表面に半導体レーザーにより1200dpi以上の画素密度で露光して静電潜像を形成する露光装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−28041(P2011−28041A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174309(P2009−174309)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】