説明

電子写真感光体および画像形成装置、ならびに画像形成方法

【課題】帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性を示し、耐久性に優れ、低温環境下または高速プロセスで用いた場合においても特性が低下することのない信頼性の高い電子写真感光体および画像形成装置を実現する。
【解決手段】電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、電荷輸送層または単層型感光層が、電荷輸送物質として下記一般式(I)で示される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を含む電子写真感光体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電荷輸送能力を示す有機化合物を電荷輸送物質として用いた電子写真感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機光導電性材料は幅広く研究開発され、電子写真感光体(以下、単に「感光体」とも称す)に利用されるだけでなく、静電記録素子、センサ材料または有機エレクトロルミネセント(Electro Luminescent;EL)素子などに応用され始めている。
また、有機光導電性材料を用いた電子写真感光体は、複写機の分野に限らず、従来では写真技術が使われていた印刷版材、スライドフィルムおよびマイクロフィルムなどの分野においても利用されており、レーザ、発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)または陰極線管(Cathode Ray Tube;CRT)などを光源とする高速プリンタにも応用されている。
【0003】
したがって、有機光導電性材料およびそれを用いた電子写真感光体に対する要求は、高度で幅広いものになりつつある。
有機光導電性材料を用いた有機感光体は、感光層の成膜性がよく、可撓性も優れている上に、軽量で、透明性もよく、適当な増感方法によって広範囲の波長域に対して良好な感度を示す感光体を容易に設計できるなどの利点を有している。
したがって、有機感光体は、次第に電子写真感光体の主力として開発されてきている。
【0004】
初期の有機感光体は感度および耐久性に欠点を有していたけれども、これらの欠点は電荷発生機能と電荷輸送機能とをそれぞれ別々の物質に分担させた機能分離型電子写真感光体の開発によって著しく改善されている。
上記の機能分離型感光体は、電荷発生機能を担う電荷発生物質および電荷輸送機能を担う電荷輸送物質それぞれの材料選択範囲が広く、任意の特性を有する電子写真感光体を比較的容易に作製できるという利点も有している。
【0005】
このような機能分離型感光体に使用される電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、スクアリリウム色素、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、シアニン色素、スクアリン酸染料およびピリリウム塩系色素などの多種の物質が検討され、耐光性が強く電荷発生能力の高い種々の材料が提案されている。
【0006】
一方、電荷輸送物質としては、例えばピラゾリン化合物(例えば、特許文献1)、ヒドラゾン化合物(例えば、特許文献2)、トリフェニルアミン化合物(例えば、特許文献3)、スチルベン化合物(例えば、特許文献4および5)、エナミン化合物(例えば、特許文献6)、などの種々の化合物が知られている。
【0007】
電荷輸送物質に関して、以下に記載の:
(1)光および熱に対して安定であること、
(2)感光体の表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾン、窒素酸化物(NOX)および硝酸などに対して安定であること、
(3)高い電荷輸送能力を有すること、
(4)有機溶剤や結着剤との相溶性が高いこと、
(5)製造が容易で安価であること、
などの5項目が要求されているが、前述の従来の電荷輸送物質は、これら項目の一部を満足するが、全ての項目を高いレベルで満足するには至っていない。
【0008】
上記の5項目の中でも、特に、(3)の「高い電荷輸送能力を有すること」が求められる。
これは、電荷輸送物質がバインダ樹脂とともに分散されて形成された電荷輸送層が感光体の表面層となる場合、充分な光応答性を確保するためには、高い電荷輸送能力が電荷輸送物質に要求されるからである。
【0009】
感光体が複写機またはレーザビームプリンタなどに搭載されて使用される際、感光体の表面層は、クリーニングブレードや帯電ローラなどの接触部材によってその一部が削り取られることを余儀なくされる。したがって、複写機やレーザビームプリンタの高耐久化のためには、それらの接触部材に対して強い表面層、すなわち、それらの接触部材によって削り取られることが少ない、耐刷性の高い表面層が求められる。
【0010】
そこで、前記表面層の強化および耐久性の向上を目的として表面層である電荷輸送層中のバインダ樹脂の含有率を高くすると、光応答性が低下する。これは、電荷輸送物質の電荷輸送能力が低いことに起因する。
すなわち、バインダ樹脂の含有率の増加に伴って電荷輸送層中の電荷輸送物質が希釈され、電荷輸送層の電荷輸送能力が一層低下して光応答性が悪くなるからである。
【0011】
光応答性が悪いと、残留電位が上昇し、感光体の表面電位が充分に減衰していない状態で繰返し使用されることになるので、露光によって消去されるべき部分の表面電荷が充分に消去されず、早期に画像品質が低下するなどの弊害が生じる。
したがって、充分な光応答性を確保するために、電荷輸送物質には、高い電荷輸送能力が求められている。
【0012】
また、高速プロセスでは露光から現像までの時間が短いので、光応答性がよい感光体が求められている。前記のように、光応答性は電荷輸送物質の電荷輸送能力に依存しているので、このような点からも、より高い電荷輸送能力を有する電荷輸送物質が求められている。
【0013】
さらに、最近ではデジタル複写機およびプリンタなどの電子写真装置の小型化および高速化が進み、感光体特性として高速化に対応したより高感度であることが要求されており、また、低温環境下で用いた場合にも感度が低下せず、種々の環境下において特性の変化が小さく信頼性が高いことが求められている。したがって、電荷輸送物質としてはますます高い電荷輸送能力が求められている。
【0014】
従来、このような要求を満たす電荷輸送物質の開発を目的として、種々の分子デザインが行われ、より優れた性能を有する化合物として、基本構造中により大きく共役系を広げたヒドラゾン構造とスチリル構造とを併せ持つ化合物やビスエナミン化合物などが提案されている(例えば、特許文献7、8および9)。しかしながら、これらの化合物は低温環境下で感度低下が起こるので、低温環境下における十分な電荷輸送能力という観点では改良を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭61−189547号公報
【特許文献2】特開2000−143654号公報
【特許文献3】特公昭58−32372号公報
【特許文献4】特開昭58−198043号公報
【特許文献5】特開平2−190862号公報
【特許文献6】特開平2−51162号公報
【特許文献7】特開平5−66587号公報
【特許文献8】特開平6−348045号公報
【特許文献9】特開2000−235272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明は、帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性を示し、高い電荷輸送能力を有する有機光導電性材料の使用により、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にも、これらの特性が低下しない信頼性の高い電子写真感光体および画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、積層型感光層の電荷輸送層または単層型感光層が、エナミン構造とヒドラゾン構造とを分子内に併せ持つ特定の2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を、電荷輸送物質として含有することで、バインダー樹脂との相容性に優れ、帯電電位が高く、高感度で充分な光応答性を示し、また耐久性に優れ、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にもそれらの特性が低下せず、かつ光曝露によってもそれらの特性が低下することがない信頼性の高い電子写真感光体を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
しかるに、本発明によれば、 電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、該電荷輸送物質として下記一般式(I):
【化1】

(式中、Ar1およびAr2は、独立して、置換基を有してもよいアリレン基または二価の複素環式基であり、Ar3およびAr4は、独立して、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基もしくは一価の複素環式基である。ただしAr3およびAr4のどちらか一方はアリール基もしくは一価の複素環式基であるか、またはAr3およびAr4は、互いが結合する窒素原子と一緒になって、置換基を有してもよい複素環式基を形成することができる)
で示される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を含む電子写真感光体が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上記の電子写真感光体を備える画像形成装置が提供される。
さらに、本発明によれば、上記の画像形成装置を用いることを特徴とする画像形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電子写真感光体においては、電荷輸送物質として電荷移動度の高い本発明に係る化合物を含むので、従来の電荷輸送物質を用いる場合と比較して高い比率でバインダ樹脂を加えても感光体の光応答性を維持することができる。
したがって、光応答性を低下させることなく電荷輸送層の耐刷性を向上させ、本発明に係る化合物自体の優れた耐摩耗特性との相乗効果により更に耐久性を向上させた電子写真感光体を提供できる。
【0021】
より詳細には、本発明によれば、電荷輸送物質として用いる2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物は、分子内に2つのエナミン構造とヒドラゾン構造をそれぞれ併せ持つ広がった共役系が形成された構造を有し、その構造上多くのホールのホッピングサイトを有するため、低温環境下でさえ、高い電荷輸送能力を有する電荷輸送物質として使用できるので、帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性を示し、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にも、これらの特性が低下しない信頼性の高い電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置を得ることができる。
【0022】
高い電荷輸送能力を有する本発明の2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を感光体において電荷輸送物質としてバインダ樹脂と共に用いることにより、バインダ樹脂の含有量を増やすことが可能になり、その結果、耐久性が高く、低温環境下または高速プロセスで用いた場合でさえ上記特性が低下しない、信頼性の高い電子写真感光体および画像形成装置を得ることができる。
また、本発明の化合物を、センサ材料、EL素子、または静電記録素子などに使用すれば、高感度で光応答性の優れたデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[有機光導電性材料]
本発明による電子写真感光体が電荷輸送物質として含有する2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物は、以下の一般式(I):
【化2】

(式中、Ar1およびAr2は、独立して、置換基を有してもよいアリレン基または二価の複素環式基であり、Ar3およびAr4は、独立して、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基もしくは一価の複素環式基である。ただしAr3およびAr4のどちらか一方はアリール基もしくは一価の複素環式基であるか、またはAr3およびAr4は、互いが結合する窒素原子と一緒になって、置換基を有してもよい複素環式基を形成することができる)
で表される。
【0024】
上記一般式(I)において、
Ar1およびAr2は、独立して、置換基を有してもよいアリレン基または二価の複素環式基である。
【0025】
Ar1およびAr2のアリレン基の例として、p‐フェニレン、m‐フェニレン、1,4‐ナフチレン、2,6‐ナフチレン、ビフェニレン、フルオレニレン、スチルベニレンなどのアリレン基を挙げることができる。
【0026】
Ar1およびAr2の複素環式基の例としては、フリレン、チエニレン、チアゾリレン、ベンゾフリレン、フェニルベンゾフリレン、カルバゾリレンなどの二価の複素環式基を挙げることができる。
【0027】
上記のアリレン基および二価の複素環式基は、任意に1以上の置換基を有していてもよい。
その置換基としては、例えば炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状アルキル基(これらは更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい)、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状アルコキシ基(これらは更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい)、ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子)、フェノキシ基およびフェニルチオ基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
アリレン基および複素環式基はまた、部分的に水素化されていてもよい。
Ar1およびAr2は互いに異なってもよいし、または同一であってもよい。
【0029】
Ar1の具体例としては、ビフェニレン、3,5'‐ジメチルビフェニレン、スチルベニレン、フェニルベンゾフリレン、p‐フェニレン、m‐フェニレン、メトキシ‐p‐フェニレン、1、4‐ナフチレン、9‐ジメチルフルオレニレン、9‐エチルカルバゾリレン、3,5'‐ジフルオロビフェニレン基が挙げられる。
【0030】
Ar2の具体例はとしては、p‐フェニレン、1,4‐ナフチレン、メチル‐p‐フェニレン、2,6‐ナフチレン、メチル‐1,4‐ナフチレン、チエニレン、5,6,7,8‐テトラヒドロ‐1,4‐ナフチレン、メトキシ‐p‐フェニレン、5‐メトキシ‐1,4‐ナフチレンおよびビフェニレン基が挙げられる。
【0031】
Ar3およびAr4は、独立して、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基もしくは一価の複素環式基である。
Ar3およびAr4のアルキル基の例としては、メチル、エチル、n‐プロピル、イソプロピル、t‐ブチル、シクロヘキシルおよびシクロペンチル基などのアルキル基を挙げられる。
【0032】
Ar3およびAr4のアラルキル基の例としては、ベンジル、p‐メトキシベンジル、フェネチルおよび1‐ナフチルメチル基などのアラルキル基を挙げることができる。
【0033】
Ar3およびAr4のアリール基の例としては、フェニル、トリル、ナフチル、ピレニルおよびビフェニル基などのアリール基を挙げることができる。
【0034】
Ar3およびAr4の複素環式基の例としては、フリル、チエニル、チアゾイル、ベンゾフリル、ベンゾチオフェニルおよびベンゾチアゾイル基などの一価の複素環式基を挙げることができる。
【0035】
上記アルキル基、アラルキル基、アリール基および一価の複素環式基は、任意に1以上の置換基を有していてもよい。
そのような置換基としては、例えば更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基;更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基;ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子);フェノキシ基およびフェニルチオ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
上記のアリール基および複素環式基は、部分的に水素化されていてもよい。
Ar3およびAr4は互いに異なってもよいし、または同一であってもよいが、どちらか一方はアリール基もしくは一価の複素環式基である。
【0037】
Ar3およびAr4のより具体的な例としては、メチル、エチル、シクロヘキシル、ベンジル、フェニル、メトキシ‐フェニル、トリフルオロメチル‐フェニル、メチル‐フェニル、チエニル、メトキシ‐ナフチルおよびベンゾチアゾイル基が挙げられる。
【0038】
あるいは、Ar3およびAr4は、互いに結合する窒素原子と一緒になって複素環式基を形成してもよい。
Ar3およびAr4が、互いに結合する窒素原子と一緒になって形成し得る。
上記の複素環式基の例としては、単環式複素環式基および縮合複素環式基、例えば1つの五員または六員の複素環に1または2つのベンゼン環が縮合したものを挙げることができる。
上記の複素環式基は、いずれも芳香族基であっても、また水素化されていてもよい。
【0039】
上記の複素環式基としては、ピロリル、テトラヒドロピロリル、ピリジル、ペンタヒドロピリジル、インドリル、ジヒドロインドリル、キノリル、テトラヒドロキノリル、カルバゾリル、アクリジニルおよびジヒドロアクリジニル基などが挙げられる。
【0040】
上記の単環式複素環式基または縮合複素環式基は、任意に1以上の置換基を有していてもよい。
そのような置換基としては、例えば更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖アルキル基;更に1以上のハロゲン原子または炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状アルコキシ基;ハロゲン原子(好ましくはフッ素原子);フェノキシ基およびフェニルチオ基が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
本発明において電荷輸送物質として用いられる2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物は、分子内に各々2つのエナミン構造とヒドラジン構造を持つ広がった共役系を形成している。
例えばAr1がスチルベニレン基である、以下に示す化合物(29):
【化3】

の場合(以下の表に示す化合物(29))には分子内に2つのエナミン構造と2つのヒドラゾン構造と1つのスチルベン構造を有することになる。
このような化合物は、その構造上多くのホールのホッピングサイトを有しするため、高い電荷輸送能力を有し、有機光導電性材料として適切である。
【0042】
本発明において、前記一般式(I)で表される化合物は新規化合物であり、例えば以下のようにして製造することができる。
【0043】
例えば、下記一般式(II):
【化4】

(式中、Ar1およびAr2は、前記一般式(I)において定義したものと同義である)
で表されるビスエナミン化合物を、特開平6−348045号公報段落〔0014〕に記載されている方法に従って同様に合成できる。
【0044】
次いで、上記一般式(II)で表される化合物を、ビルスマイヤー(Vilsmeier)反応によりホルミル化して、下記一般式(III):
【化5】

(式中、Ar1およびAr2は、前記一般式(I)において定義したものと同義である)
で表されるアルデヒド体とする。
【0045】
ビルスマイヤー反応は、例えば以下のようにして行うことができる。
先ず、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)または1,2−ジクロロエタンなどの溶剤中に、オキシ塩化リンとN,N−ジメチルホルムアミド、オキシ塩化リンとN−メチル−N−フェニルホルムアミド、またはオキシ塩化リンとN,N−ジフェニルホルムアミドとを加え、公知の方法に従ってビルスマイヤー試薬を調製する。
【0046】
調製したビルスマイヤー試薬1.0〜1.3当量に対して、前記一般式(II)で表されるビスエナミン化合物1.0当量を加え、60〜110℃の加熱下で、2〜8時間撹拌する。その後、1〜8規定の水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム水溶液などを用いてアルカリ加水分解を行う。
【0047】
このアルカリ加水分解によって、前記一般式(III)で表されるアルデヒド体を高収率で製造することができる。
【0048】
最後に、上記一般式(III)で表されるアルデヒド体と、下記一般式(IV):
【化6】

(式中、Ar3およびAr4は、前記一般式(I)において定義したものと同義である)
で示されるヒドラジン試薬と、例えば、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルまたは1,4‐ジオキサン等の溶剤中において、上記一般式(III)で表されるエナミン‐アルデヒド化合物1.0当量と、上記一般式(IV)で表されるヒドラジン試薬あるいはその塩酸塩3.0〜3.3当量とを、酢酸等の有機酸、あるいは酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機塩の触媒を触媒量(0.001〜0.1当量)と共に60〜110℃で2〜8時間加熱撹拌することにより、本発明の一般式(I):
【0049】
【化7】

(式中、Ar1およびAr2は、独立して、置換基を有してもよいアリレン基または二価の複素環式基であり、Ar3およびAr4は、独立して、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基もしくは一価の複素環式基である。ただしAr3およびAr4のどちらか一方はアリール基もしくは一価の複素環式基であるか、またはAr3およびAr4は、互いが結合する窒素原子と一緒になって、置換基を有してもよい複素環式基を形成することができる)
で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を製造できる。
【0050】
具体的には、上記の一般式(I)の化合物は、前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化8】

で表される基であり、
【0051】
前記Ar2が、次の式:
【化9】

で表される基であり、
【0052】
前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化10】

で表される基であるか、または
Ar3およびAr4は、互いに結合する窒素原子と一緒になって、次の式:
【化11】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である。
【0053】
より具体的には、前記の一般式(I)の化合物は、前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化12】

で表される基であり、
【0054】
前記Ar2が、次の式:
【化13】

で表される基であり、
【0055】
前記Ar3が、次の式:
【化14】

で表される基であり、
【0056】
前記Ar4が、次の式:
【化15】

で表される基であるか、または
Ar3およびAr4は、互いに結合する窒素原子と一緒になって、次の式:
【化16】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である。
【0057】
さらに具体的には、前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化17】

で表される基であり、
前記Ar2が、
【化18】

で表される基であり、
【0058】
前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化19】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である。
【0059】
なお、さらに具体的には、前記一般式(I)で表される化合物が、
前記Ar1が、次の式:
【化20】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【0060】
【化21】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化22】

で表される次の式(3):
【0061】
【化23】

で表されるか、
前記Ar1が、次の式:
【化24】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【0062】
【化25】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、互いに同一になることはなく、次の式:
【化26】

で表される次の式(24):
【0063】
【化27】

で表されるか、あるいは、
前記Ar1が、次の式:
【化28】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【0064】
【化29】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化30】

で表され、次の式(35):
【化31】

で表されるか、あるいは、
【0065】
前記Ar1が、次の式:
【化32】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【化33】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、互いに同一になることはなく、次の式:
【0066】
【化34】

で表される次の式(45):
【化35】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である。
【0067】
本発明による一般式(I):
【化36】

で示される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物の他の具体例としては、例えば以下の表に示す基を有する化合物(1)〜(50)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、以下の表に示す各基は、上記一般式(I)の各基に対応する。
なお、以下の表に示す各基は、上記一般式(I)の各基に対応するが、該一般式(I)における置換基Ar3とAr4とは、互いに固定されたものではなく、それぞれ入れ替わることができるものと理解される。
【0068】
【表1−1】

【0069】
【表1−2】

【0070】
【表1−3】

【0071】
【表1−4】

【0072】
前記一般式(I)で示される化合物のうち、その電気特性、原価および生産性などの観点から有機光導電性材料として特に優れた化合物としては、前記の化合物(3)、(24)、(35)および(45)が挙げられる。
【0073】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、該電荷輸送物質として前記一般式(I)、とりわけ前記化合物(3)、(24)、(35)または(45)を含む積層型電子写真感光体または単層型電子写真感光体である。
【0074】
実施の形態
以下、本発明の電子写真感光体および画像形成装置の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
尚、本発明の電子写真感光体および画像形成装置は、下記で説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えた他の形態を含み得ることは勿論であり、そのような他の形態は本明細書および図面の記載に基づいて当業者に容易に理解される。
【0075】
[積層型電子写真感光体]
実施の形態1
図1は、本発明による電子写真感光体の実施の第1の形態である電子写真感光体1の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施の形態では、感光層は、電荷発生層と電荷輸送層との積層構造からなる。
【0076】
電子写真感光体1は、導電性材料から成るシート状の導電性支持体11と、導電性支持体11上に積層された層であって電荷発生物質12を含有する電荷発生層15と、電荷発生層15の上に積層された層であって電荷輸送物質13を含有する電荷輸送層16とを含む。電荷発生層15と電荷輸送層16とは、感光層である積層型感光層14を構成する。すなわち、感光体1は積層型感光体である。
【0077】
<導電性支持体>
導電性支持体11は、感光体1の電極としての役割を果たすとともに他の各層15、16の支持部材としても機能する。導電性支持体11の形状は、シート状で図示されているが、これに限定されることなく、例えば、円柱状、円筒状または無端ベルト状などであってもよい。
【0078】
本発明において導電性支持体は、感光体に使用できる任意の導電性支持体であり得る。導電性支持体11を構成する導電性材料としては、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、チタンなどの金属単体、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの合金を用いることができる。
更に、これらの金属材料に限定されることなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンもしくはポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙またはガラスなどの基体の表面に、金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることもできる。これらの導電性材料は、感光体の導電性支持体として適切な形状に加工されて使用される。
【0079】
導電性支持体11の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化被膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理を施してもよい。レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体表面で反射されるレーザ光と感光体内部で反射されるレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像上に現れて画像欠陥となることがある。導電性支持体11の表面に前述のような処理を施すことによって、この波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0080】
<電荷発生層>
導電性支持体11上に設けられる電荷発生層15は、光を吸収することによって電荷を発生する電荷発生物質12を含有する。
【0081】
(電荷発生物質)
電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料、インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料、オキソチタニウムフタロシアニン化合物などの金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類およびチオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料、ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などが挙げられる。
これらの電荷発生物質は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が組合わされて使用されてもよい。
【0082】
これらの電荷発生物質の中でも、フタロシアニン化合物、特にオキソチタニウムフタロシアニン化合物を用いることが好ましい。
本発明で用いられるオキソチタニウムフタロシアニン化合物とは、オキソチタニウムフタロシアニンおよびその誘導体のことである。オキソチタニウムフタロシアニン誘導体としては、例えば、オキソチタニウムフタロシアニンのフタロシアニン基に含まれる芳香環の水素原子が塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基などの置換基で置換されたもの、オキソチタニウムフタロシアニンの中心金属であるチタン原子に塩素原子などの配位子が配位したものなどが挙げられる。
【0083】
オキソチタニウムフタロシアニン化合物は、特定の結晶構造を有することが好ましい。オキソチタニウムフタロシアニン化合物のうち好ましいものとしては、Cu−Kα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、少なくともブラッグ角2θ(誤差:±0.2°)27.2°に回折ピークを示す結晶構造を有するものが挙げられる。ここで、ブラッグ角2θとは、入射X線と回折X線との成す角度のことであり、いわゆる回折角を表す。
【0084】
このようなオキソチタニウムフタロシアニン化合物を電荷発生物質として、前記一般式(I)で表される電荷輸送物質と併用すると、感度および解像度に更に優れる感光体を実現させることができるので特に好ましい。
すなわち、上記オキソチタニウムフタロシアニン化合物は、電荷発生能力および電荷注入能力に優れるので、光を吸収することによって多量の電荷を発生するとともに、発生した電荷をその内部に蓄積することなく、電荷輸送層16に効率よく注入できる。
一方、電荷輸送物質13には、前記一般式(I)で表される電荷移動度の高い化合物が使用されるので、光吸収によって電荷発生物質12で発生する電荷は、電荷輸送物質13に効率的に注入されて円滑に輸送されることとなり、更に高感度かつ高解像度の電子写真感光体を得ることができる。
【0085】
前記のオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、例えば、MoserおよびThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている方法などの従来公知の製造方法に従って製造することができる。
例えば、オキソチタニウムフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するか、またはα−クロロナフタレンなどの適当な溶媒中で加熱反応させることによってジクロロチタニウムフタロシアニンを合成し、次いで、塩基または水で加水分解することによって製造することができる。また、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶媒中で加熱反応させることによっても、オキソチタニウムフタロシアニンを製造することができる。
【0086】
(増感剤)
電荷発生物質は他の増感染料(増感剤)と併用してもよい。増感剤を添加することによって、感光体の感度が向上し、更に繰返し使用による残留電位の上昇および帯電電位の低下などを抑えることができ、電気的耐久性を向上させることができる。
そのような増感染料としては、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料、メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料、カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料、シアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料またはチオピリリウム塩染料などの増感染料が挙げられる。
【0087】
(電荷発生層用バインダ樹脂)
電荷発生層15には、結着性を向上させるために、バインダ樹脂が含有されてもよい。バインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などが挙げられる。
【0088】
共重合体樹脂の具体例としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などを挙げることができる。
【0089】
バインダ樹脂は上記のものに限定されず、この分野において一般に用いられる樹脂をバインダ樹脂として使用することもできる。バインダ樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が併用されてもよい。
【0090】
電荷発生層15における電荷発生物質の割合は、10重量%以上、99重量%以下であることが好ましい。
電荷発生物質の割合が10重量%未満であると、感光体の感度が低下するおそれがある。
また、電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、バインダ樹脂の含有量が低すぎて、電荷発生層15の膜強度が低下する可能性がある。
さらに、電荷発生層15における電荷発生物質の分散性が低下して電荷発生物質の粗大粒子が増大し、消去されるべき部分以外の表面電荷が露光によって減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される、いわゆる黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが多くなるおそれもある。
【0091】
電荷発生層用塗布液は、例えば、適当な溶剤中に前述の電荷発生物質および必要に応じて前述のバインダ樹脂を加え、従来公知の方法で分散させることによって調製することができる。
【0092】
(電荷発生層塗布液用溶剤)
電荷発生層用塗布液に使用される溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が混合されて混合溶剤として使用されてもよい。
【0093】
(電荷発生層用塗布液)
電荷発生物質は、上記の溶剤中に分散される前に、予め粉砕機によって粉砕処理されてもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などが挙げられる。
【0094】
電荷発生物質を溶剤中に分散させる際に用いられる分散機としては、例えば、ペイントシェーカ、ボールミルおよびサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択する。
【0095】
(電荷発生層の形成方法)
電荷発生層15の形成方法としては、前述の電荷発生物質を導電性支持体11の表面に真空蒸着する真空蒸着法、前記の電荷発生物質を含む電荷発生層用塗布液を導電性支持体11の表面に塗布する塗布法などが挙げられる。これらの中でも簡便な塗布法が好適に用いられる。
【0096】
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、例えば、スプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、好適に用いられる。
【0097】
浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。なお、塗布方法はこれらに限定されるものではなく、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択することができる。
【0098】
電荷発生層15の層厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。電荷発生層15の層厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感光体1の感度が低下するおそれがある。また、電荷発生層15の層厚が5μmを超えると、電荷発生層15内部での電荷移動が感光層14表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体1の感度が低下するおそれがある。
【0099】
<電荷輸送層>
電荷輸送層16は、バインダ樹脂中に電荷輸送物質13を含み、電荷発生層15で発生した電荷を輸送する機能を有する。
前記一般式(I)で表される電荷輸送物質は、前記の表1に示す化合物(1)〜(50)からなる群から選ばれる1種が単独でまたは2種以上が混合されて使用され得る。
【0100】
電荷輸送層16は、電荷発生物質12で発生した電荷を受入れ輸送する電荷輸送物質13として、前記一般式(I)、とりわけ前記化合物(3)、(24)、(35)または(45)を、バインダ樹脂17中に含有させることによって得られる。
前記一般式(I)で表される化合物は、他の電荷輸送物質と混合されて使用されてもよい。
【0101】
そのような他の電荷輸送物質としては、例えば、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などが挙げられる。
【0102】
また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレンおよびポリ−9−ビニルアントラセンなども挙げられる。
【0103】
特に高い電荷輸送能力を実現するためには、電荷輸送物質13の全量が、前記一般式(I)で表される本発明の化合物、特に化合物(3)、(24)、(35)または(45)であることが好ましい。
【0104】
(電荷輸送層塗布液用バインダ樹脂)
電荷輸送層16を形成するバインダ樹脂17には、電荷輸送物質13との相溶性に優れるものが選ばれる。
そのようなバインダ樹脂の具体例としては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびこれらを構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂も挙げられる。
これらの樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が混合されて使用されてもよい。
【0105】
上記の樹脂の中でも、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であり、電気絶縁性に優れており、また皮膜性および電位特性などにも優れているので、好適に用いられる。
【0106】
電荷輸送層16において、電荷輸送物質の重量(A)に対するバインダ樹脂の重量(B)の重量比(A/B)は、10/12〜10/30であることが好ましい。
前記比率A/Bを10/12以下とし、バインダ樹脂を高い比率で電荷輸送層16に含有させることによって、電荷輸送層16の耐刷性を向上させることができる。
従来公知の電荷輸送物質を用いた場合、このようにバインダ樹脂の比率を高くすると、結果として電荷輸送物質の含有率が低下することにより、感光体の光応答性が不足し、画像欠陥の生じることがあった。
【0107】
これに対し、本発明の一般式(I)で表される化合物は、優れた電荷輸送能力を有するので、前記比率B/Aを1.2以上として、電荷輸送層16中におけるバインダ樹脂の比率を高くしても、感光体1は、充分に高い光応答性を示し、高品質の画像を提供することができる。
すなわち、本発明に係る一般式(I)で表される化合物を電荷輸送物質として使用することにより、感光体1は、光応答性が低下することなく、電荷輸送層16の耐刷性が向上し、機械的耐久性が向上する。
【0108】
他方、比率B/Aが3.0を超えると、バインダ樹脂の比率が高くなり過ぎ、感光体1の感度が低下するおそれがある。
また、電荷輸送層16を浸漬塗布法によって形成する場合には、塗布液の粘度が増大して塗布速度が低下し、生産性が著しく悪くなるおそれがある。塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層16に白濁が発生する可能性がある。
【0109】
比率B/Aが1.2未満であると、バインダ樹脂の比率が低くなり過ぎ、電荷輸送層16の耐刷性が低下して感光層14の膜減り量が増加し、感光体1の帯電性が低下するおそれがある。
【0110】
(電荷輸送層用添加剤)
電荷輸送層16には、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤および/またはレベリング剤などの添加剤を添加してもよい。
【0111】
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルのような二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などを挙げることができる。
【0112】
レベリング剤としては、例えば、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーンおよびフェニルメチルシリコーンなどのシリコーン系レベリング剤などを挙げることができる。
【0113】
また、電荷輸送層16には、機械的強度の増加や電気的特性の向上を図るために、無機化合物および/または有機化合物の微粒子を添加してもよい。そのような無機化合物の具体的な例としては、酸化チタンなどの金属酸化物微粒子が挙げられる。また、有機化合物の微粒子の具体的な例としては、四フッ化エチレン重合体微粒子などのフッ素原子含有ポリマーの微粒子が挙げられる。
【0114】
電荷輸送層16には、必要に応じて、酸化防止剤および/または増感剤などの各種添加剤を含んでもよい。これによって、電位特性が向上するとともに、塗布液としての安定性が高まり、また、感光体を繰返し使用した際の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
【0115】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール誘導体またはヒンダードアミン誘導体が好適に用いられる。ヒンダードフェノール誘導体およびヒンダードアミン誘導体は、任意の割合で混合して使用されてもよい。
ヒンダードフェノール誘導体もしくはヒンダードアミン誘導体の使用量、またはヒンダードフェノール誘導体およびヒンダードアミン誘導体の合計使用量電荷輸送物質13に対して0.1重量%以上50重量%以下の範囲にあることが好ましい。
使用量を0.1重量%以上とすることで、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に更なる効果を得ることができる。使用量が50重量%を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0116】
(電荷輸送層塗布液用溶剤)
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、THF、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
溶剤は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上が混合して使用してもよい。
また、上記の溶剤に、必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。
【0117】
(電荷輸送層の形成方法)
電荷輸送層16は、例えば前述の電荷発生層15を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に電荷輸送物質13およびバインダ樹脂17ならびに必要な場合には前述の添加剤を溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法または浸漬塗布法などによって、電荷発生層15上に塗布することによって形成される。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前述したように種々の点で優れているので、電荷輸送層16を形成する場合にも多く利用されている。
【0118】
電荷輸送層16の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下である。
電荷輸送層16の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。電荷輸送層16の膜厚が50μmを超えると、感光体1の解像度が低下する可能性がある。
【0119】
(電荷輸送層用増感剤)
感光層14の各層、すなわち電荷発生層15および/または電荷輸送層16には、本発明の好ましい特性を損なわない範囲内で、電子受容物質および色素などの増感剤を1種または2種以上添加してもよい。
増感剤を添加することによって、感光体の感度が向上し、また、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などが抑えられ、電気的耐久性が向上する。
【0120】
電子受容物質としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物、またはジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料などを用いることができる。また、これらの電子吸引性材料を高分子化したものなどを用いることもできる。
【0121】
色素などの増感剤としては、例えば、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料または銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物を用いることができる。これらの有機光導電性化合物は光学増感剤として機能する。
【0122】
本実施の形態では、感光層14は、前記のようにして形成される電荷発生層15と電荷輸送層16とが積層されて成る積層構造を有する。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることによって、各層を構成する材料を独立して選択することができるので、電荷発生機能および電荷輸送機能それぞれに最適な材料を選択することができる。したがって、感光体1は、帯電性、感度および光応答性などの電気特性、ならびに電気的および機械的耐久性に特に優れる。
【0123】
実施の形態2
図2は、本発明による電子写真感光体の実施の第2の形態である電子写真感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施形態の電子写真感光体2は、図1に示す実施の第1形態の電子写真感光体1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0124】
<中間層>
電子写真感光体2において注目すべきは、導電性支持体11と感光層14との間に、中間層18が設けられていることである。
【0125】
導電性支持体11と感光層14との間に中間層18がない場合、導電性支持体11から感光層14に電荷が注入され、感光層14の帯電性が低下し、露光される部分以外の表面電荷が減少し、画像にかぶりなどの欠陥の発生することがある。特に、反転現像プロセスを用いて画像を形成する場合には、露光によって表面電荷の減少した部分にトナーが付着してトナー画像が形成されるので、露光以外の要因で表面電荷が減少すると、白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが発生し、画質の著しい劣化が生じるおそれがある。
【0126】
本感光体2では、前述のように導電性支持体11と感光層14との間に中間層18が設けられ、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入が防止されている。したがって、感光層14の帯電性の低下を防ぐことができ、露光される部分以外での表面電荷の減少を抑え、画像にかぶりなどの欠陥が発生することを防止することができる。
【0127】
また、中間層18を設けることによって、導電性支持体11表面の欠陥を被覆して均一な表面を得ることができるので、感光層14の成膜性を高めることができる。
さらに、中間層18が導電性支持体11と感光層14とを接着する接着剤として機能するので、感光層14の導電性支持体11からの剥離を抑えることができる。
【0128】
従来は、このように導電性支持体11と感光層14との間に中間層18を設けると、感光体の感度が低下するおそれがあった。しかしながら、本感光体2においては、感光層14が優れた電荷輸送能力を有する本発明に係る電荷輸送物質を含有しているので、中間層15を設けたことによる感度の低下は生じない。すなわち、本発明によれば、感光体に、感度を低下させることなく、中間層を設けることができる。
【0129】
(中間層用樹脂材料)
中間層18としては、各種樹脂材料から成る樹脂層、アルマイト層などが用いられる。
樹脂層を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリアミド樹脂などの合成樹脂、ならびにこれらの合成樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。また、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよびエチルセルロースなども挙げられる。
【0130】
これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂が好適に用いられる。好ましいアルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのようにナイロンを化学的に変性させた樹脂などを挙げることができる。
【0131】
(中間層用添加剤)
また、中間層18には、金属酸化物粒子などの粒子を含有させてもよい。中間層18にこれらの粒子を含有させることによって、該中間層の体積抵抗値を調節し、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入を防止する効果を高めることができる。また、種々の環境下において感光体2の電気特性を維持し、環境安定性を向上させることができる。含有させ得る金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズなどの粒子が挙げられる。
【0132】
中間層18は、例えば、前記の樹脂を適当な溶剤中に溶解または分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって形成することができる。中間層18に上記の金属酸化物粒子などの粒子を含有させる場合には、例えば、前記の樹脂を適当な溶剤に溶解させて得られる樹脂溶液中に、これらの粒子を分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって中間層18を形成することができる。
【0133】
(中間層塗布液用溶剤)
中間層用塗布液の溶剤としては、水もしくは各種有機溶剤、またはこれらの混合溶剤が用いられる。その中でも、水、メタノール、エタノールもしくはブタノールなどの単独溶剤、または水とアルコール類、2種類以上のアルコール類、アセトンもしくはジオキソランなどとアルコール類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類などの混合溶剤が好適に用いられる。
【0134】
(中間層の形成方法)
上記の金属酸化物粒子を樹脂溶液中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機またはペイントシェーカなどを用いる公知の分散方法を使用することができる。
【0135】
中間層用塗布液中において、中間層用塗布液に使用されている溶剤の重量(D)に対する樹脂および金属酸化物の合計重量(C)の重量比(C/D)は、1/99〜40/60であることが好ましく、より好ましくは2/98〜30/70である。
また、樹脂の重量(E)と金属酸化物の重量(F)との重量比(E/F)は、90/10〜1/99であることが好ましく、より好ましくは70/30〜5/95である。
【0136】
中間層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの中でも、特に浸漬塗布法は、前述のように、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、中間層を形成する場合にも好適に用いられる。
【0137】
中間層18の膜厚は、0.01μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上10μm以下である。中間層15の膜厚が0.01μmよりも薄いと、実質的に中間層18として機能しなくなり、導電性支持体11の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入を十分に防止することができなくなる可能性があり、感光層14の帯電性の低下を抑制できないおそれがある。
【0138】
中間層18の膜厚を20μmよりも厚くすることは、浸漬塗布法によって形成する場合には中間層の形成が困難になるとともに、該中間層上に感光層14を均一に形成することができず、感光体2の感度が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0139】
本実施の形態においても、電荷輸送層16に、前記の実施の形態1と同様に、可塑剤、レベリング剤、および/または無機化合物および/もしくは有機化合物の微粒子などの各種添加剤を添加してもよい。また、感光層14の電荷発生層15および/または電荷輸送層16に、電子受容物質および/もしくは色素などの増感剤、酸化防止剤、および/または紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
実施の形態3
[単層型電子写真感光体]
図3は、本発明による電子写真感光体の実施の第3の形態である電子写真感光体3の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施の形態の電子写真感光体3は、図2に示す実施の第2形態の電子写真感光体2に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0140】
電子写真感光体3において注目すべきは、感光層14が、電荷発生物質と電荷輸送物質との両方を含有する単一の層から成る単層構造を有することである。すなわち、感光体3は単層型感光体である。
【0141】
本実施の形態の単層型感光体3は、オゾン発生の少ない正帯電型画像形成装置用の感光体として好適であり、また、塗布されるべき感光層14が一層のみであるので、製造原価および歩留が実施の形態1および形態2の積層型感光体1、2に比べて優れている。
【0142】
感光層14は、電荷輸送物質として前記一般式(I)、とりわけ前記化合物(3)、(24)、(35)または(45)と、前述の電荷発生物質とを、バインダ樹脂で結着して形成することができる。バインダ樹脂としては、例えば、前記の実施の形態1において電荷輸送層13のバインダ樹脂として例示したものを用いることができる。
【0143】
また、本感光層14には、実施の形態1における感光層14と同様に、可塑剤、レベリング剤、無機化合物および/もしくは有機化合物の微粒子、電子受容物質および/もしくは色素などの増感剤、酸化防止剤、および/または紫外線吸収剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0144】
本感光層14は、実施の形態1の感光体1に設けられる電荷輸送層16と同様の方法で形成することができる。例えば、前記の電荷発生物質、一般式(I)で表される本発明に係る電荷輸送物質およびバインダ樹脂の適量、ならびに必要に応じて上記の本発明の電荷輸送物質以外の電荷輸送物質および種々の添加剤の適量を、前記実施の形態1の電荷輸送層用塗布液と同様の適当な溶剤に溶解または分散させて感光層用塗布液を調製し、この感光層用塗布液を浸漬塗布法などによって中間層18上に塗布することによって、感光層14を形成することができる。
【0145】
本感光層14における電荷輸送物質の重量(A')に対するバインダ樹脂の重量(B')の重量比(B'/A')は、実施の形態1の電荷輸送層16における電荷輸送物質の重量(A)に対するバインダ樹脂の重量(B)の重量比A/Bと同様に、10/12〜10/30であることが好ましい。感光層14における電荷発生物質の割合は、1.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。
【0146】
感光層14の膜厚は、5μm〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜50μm以下である。感光層14の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。感光層14の膜厚が100μmを超えると、生産性が低下する可能性がある。
【0147】
本実施の形態3の感光体3は、本発明に係る一般式(I)で表される電荷輸送能力が高い化合物を電荷輸送物質として使用することによって、バインダ樹脂を高い比率で感光層14に含有させることが可能になるので、光応答性が低下することなく、電荷輸送層16の耐刷性が向上し、機械的耐久性が向上する。
【0148】
本発明による電子写真感光体は、以上に述べた実施の形態1〜3の電子写真感光体1、2、3の構成に限定されるものではなく、本発明に係る一般式(I)で表される化合物を電荷輸送物質として感光層に含有するものであれば、他の異なる構成であってもよい。
【0149】
(表面保護層)
例えば、実施の形態1〜3のそれぞれの感光層14の表面に、表面保護層が設けられる構成であってもよい。これらの感光層の表面に表面保護層を設けることによって、感光体の機械的耐久性を更に向上させることができる。また、感光体表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾンおよび/または窒素酸化物(NOx)などの活性ガスの感光層への化学的悪影響を防止し、感光体の電気的耐久性を更に向上させることができる。
【0150】
表面保護層には、例えば樹脂、無機フィラー含有樹脂または無機酸化物などから成る層が用いられる。
【0151】
実施の形態4
[画像形成装置]
本発明の画像形成装置は、本発明に係る電子写真感光体を備えてなる。
前述のように、帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性を示し、また耐久性に優れ、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にもそれらの特性が低下しない電子写真感光体を備えるので、各種の環境下において高品質の画像を提供することのできる信頼性の高い画像形成装置が提供される。
【0152】
本発明の画像形成装置は、モノクロ、カラーを問わず、電子写真プロセスを利用する種々のプリンタ、複写機、ファクシミリ、複合機などであり得る。
以下に、本発明による電子写真感光体を備える画像形成装置の実施の形態について説明する。なお、本発明による画像形成装置は、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0153】
図4は、本発明による画像形成装置の実施の一形態である画像形成装置100の構成を簡略化して示す配置側面図である。図4に示す画像形成装置100は、本発明による電子写真感光体の実施の第1形態である感光体1を搭載する。以下、図4を参照して画像形成装置100の構成および画像形成動作について説明する。
【0154】
画像形成装置100は、図示しない装置本体に回転自在に支持される感光体1と、感光体1を回転軸線44まわりに矢符41方向に回転駆動させる図示しない駆動手段とを備える。駆動手段は、動力源として例えばモータを備え、モータからの動力を図示しない歯車を介して感光体1の芯体を構成する支持体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度Vpで回転駆動させる(以下、この周速度Vpを回転周速Vpとも称する。)。
【0155】
感光体1の周囲には、帯電器32と、露光手段30と、現像器33と、転写器34と、クリーナ36とが、矢符41で示される感光体1の回転方向の上流側から下流側に向かってこの順序で設けられる。
【0156】
帯電器32は、感光体1の表面43を所定の電位に帯電させる帯電手段である。
図4において、帯電器32は帯電ローラなどの接触式帯電手段として示されているが、これに限定されることなく、例えばコロナ放電器などの非接触式帯電手段(例えばスコロトロン帯電器)であってもよい。
【0157】
露光手段30は、例えば半導体レーザなどを光源として備え、光源から画像情報に応じて出力されるレーザビームなどの光31で、帯電された感光体1の表面43を露光し、これによって感光体1の表面43に画像情報に対応する静電潜像を形成させる。
【0158】
現像器33は、感光体1の表面43に形成された静電潜像を現像剤(例えばトナー)によって現像し、可視像であるトナー画像を形成する現像手段であり、感光体1に対向して設けられる。現像器33は、例えば、感光体1の表面43に現像剤を供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持するとともにその内部空間に現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0159】
転写器34は、感光体1の表面43に形成されたトナー画像を、感光体1の表面43から転写材である記録紙51上に転写させる転写手段である。図4において、転写器34は、コロナ放電器などの帯電手段を備え、記録紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー画像を記録紙51上に転写させる非接触式の転写手段である。しかし、転写器34は、押圧力を利用して転写を行う接触式の転写手段であってもよい。接触式の転写手段としては、例えば、転写ローラを備え、感光体1の表面43に当接される記録紙51の当接面の反対面側から転写ローラを感光体1に対して押圧し、感光体1と記録紙51とを圧接させた状態で、転写ローラに電圧を印加することによって、トナー画像を記録紙51上に転写させるものなどを用いることができる。
【0160】
クリーナ36は、画像転写後の感光体1の表面を清掃する清掃手段である。クリーナ36は、例えば、感光体表面43に押圧され、転写器34による転写動作後に感光体1の表面43に残留するトナーを前記表面43から剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離された現像剤を収容する回収用ケーシング36bとを備える。
【0161】
クリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。除電器は、感光体1の表面上に滞留した電荷を除去する手段である。除電器は例えば除電ランプである。
【0162】
感光体1と転写器34との間を通過した後に記録紙51が搬送される方向には、転写されたトナー画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、例えば、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
【0163】
以下に画像形成装置100による画像形成動作について説明する。
まず、図示しない制御部からの指示に応じて、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動され、露光手段30からの光31の結像点よりも感光体1の回転方向の上流側に設けられる帯電器32によって、その表面43が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0164】
次いで、制御部からの指示に応じて、露光手段30から、帯電された感光体1の表面43に対して光31が照射される。光源からの光31は、画像情報に基づいて、主走査方向である感光体1の長手方向に繰返し走査される。感光体1を回転駆動させつつ、光源からの光31を画像情報に基づいて繰返し走査することによって、感光体1の表面43に対して画像情報に対応する露光を施すことができる。この露光によって、光31が照射された部分の表面電荷が減少し、光31が照射された部分の表面電位と光31が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、感光体1の表面43に静電潜像が形成される。
【0165】
感光体1への露光と同期して、記録紙51が、搬送手段によって矢符42方向から転写器34と感光体1との間の転写位置に供給される。
【0166】
次いで、光源からの光31の結像点よりも感光体1の回転方向の下流側に設けられる現像器33の現像ローラ33aから、静電潜像の形成された感光体1の表面43にトナーが供給される。これによって、静電潜像が現像され、感光体1の表面43に可視像であるトナー画像が形成される。感光体1と転写器34との間に記録紙51が供給されると、転写器34によってトナーと逆極性の電荷が記録紙51に与えられ、これによって感光体1の表面43に形成されたトナー画像が記録紙51上に転写される。
【0167】
トナー画像が転写された記録紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧される。これによって、記録紙51上のトナー画像が記録紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された記録紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0168】
一方、トナー画像が記録紙51に転写された後に、さらに矢符41方向に回転する感光体1は、その表面43がクリーナ36に備わるクリーニングブレード36aによって擦過され、清掃される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面43は、除電ランプからの光によって電荷が除去され、これによって感光体1の表面43の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度感光体1の帯電から始まる一連の動作が繰返される。以上のようにして、連続的に画像が形成される。
【0169】
画像形成装置100に備わる感光体1は、前述のように、一般式(I)で表される本発明に係る化合物を電荷輸送物質として感光層14に含有するものであり、帯電性、感度および光応答性などの電気特性、電気的および機械的耐久性、ならびに環境安定性に優れる。したがって、各種の環境下において長期間にわたって安定して高品質の画像を形成することのできる信頼性の高い画像形成装置100が実現される。
【0170】
また、感光体1は高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても画質の低下を引起すことがないので、画像形成装置100は画像形成速度の高速化が可能である。例えば、感光体1として直径30mm、長手方向の長さ340mmのものを用い、感光体1の回転周速Vpを毎秒100〜140mm程度に設定して高速で電子写真プロセスを行ない、画像形成装置100の画像形成速度をJIS P0138に規定されるA4判用紙25枚/分程度の高速として画像を形成しても、高品質の画像を提供することができる。
【0171】
本発明の画像形成装置は、図4を参照して説明した上記の構成に限定されるものではなく、本発明の感光体を使用するものであれば、他の異なる構成であってもよい。
【実施例】
【0172】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0173】
製造例1
化合物(3)の製造
ディーン-スタークを備えた反応器中のトルエン300mLに、N,N'−ジフェニルベンジジン(33.6g;1.0モル当量)、ジフェニルアセトアルデヒド(40.2g;2.05モル当量)、DL-10-カンファースルホン酸(0.23g;0.01モル当量)を加えて加熱還流し、トルエンと共沸した水を系外に取除きながら、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を10分の1(1/10)程度に濃縮し、激しく撹拌しながらヘキサン100mL中に徐々に滴下した。生成した結晶を濾取し、冷エタノールで洗浄して、トルエン−酢酸エチル(1:3)混合溶媒で再結晶して、以下の式(a):
【0174】
【化37】

で表されるエナミン化合物(a)の結晶56.8gを得た。
mp.191.0〜194.0℃、収率58%。
NMR(δ、ppm、CDCl3)7.2−7.3(m、14H)、7.15−6.85(m、24H)、6.76(s,2H)。
【0175】
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)200mL中に、氷冷下、オキシ塩化リン16.9g(2.2モル当量)を徐々に加え、約30分間撹拌し、ビルスマイヤー試薬を調製した。この溶液中に、氷冷下、上記エナミン化合物34.6g(1.0モル当量)を徐々に加えた。その後、徐々に加熱して反応溶液の温度を80℃まで昇温させ、80〜90℃を保つように加熱しながら6時間攪拌して反応させた。反応終了後、この反応溶液を放冷し、冷却した4規定(4N)の水酸化ナトリウム水溶液800mL中に徐々に加え、沈殿を生じさせた。生じた沈殿をろ取して充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶剤で再結晶を行うことによって、黄色粉末状化合物30.0gを得た。
【0176】
得られた結晶を液体クロマトグラフィー−質量分析法(Liquid Chromatography−Mass Spectrometry;LC−MS)で分析した結果、目的化合物である下記式(b):
【化38】

で表されるアルデヒド体(b)(分子量の計算値:748.31)の分子イオン[M]+に相当するピークが748.9に観測された。このことから、得られた化合物は上記式(b)で表される構造を有するアルデヒド体であることが確認された(収率:80%)。また、LC−MSの分析結果から、得られたアルデヒド体の純度が98.7%であることが判った。
【0177】
次いで、上記で得られたアルデヒド体7.5g(1.0当量)をエタノール80mlに溶解して、その溶液にN,N‐ジフェニルヒドラジン6.1g(3.3当量)、触媒として酢酸0.2mlを室温で加え、その後、60〜70℃で、5時間、加熱撹拌した。反応終了後、放冷し、生じた固形物を濾別し、エタノールで再結晶を行うことにより目的とする以下の式:
【化39】

で表される化合物(3)9.9gを黄色結晶として得た。
【0178】
<LC−MS>
得られた結晶をLC−MSで分析した結果、目的化合物である以下の表1に示す化合物(3)の化合物(分子量の計算値:1080.49)の分子イオン[M]+に相当するピークが1080.9に観測され、また以下のフラグメントピークも観察された。
MW=1003:[M−φ]+ <ベンゼン環が脱離した形態に相当>
MW=885:[M−(φ2‐N‐N=C)]+ <ジフェニルヒドラゾンが脱離した形態に相当>
MW=901:[M−(CH=C(φ)2)]+ <エナミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=809:[M−(φ‐C=N‐N‐φ2)]+ <ジフェニルヒドラゾンユニットが脱離した形態に相当>
MW=616:[M−(φ2‐N‐N=C ‐φ‐N‐CH=C(φ)2)]+ <アミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=168:[φ2‐N]+ <ジフェニルヒドラゾンの一部>
(φはベンゼン環を示す。)
このことから、得られた結晶が化合物(3)の化合物であることが確認された(収率:92%)。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物(3)の純度が99.1%であることが判った。
【0179】
得られた化合物(3)の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)および窒素(N)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0180】
化合物(3)の元素分析値:
理論値…C:86.64%、H:5.59%、N:7.77%
実測値…C:86.05%、H:6.06%、N:7.89%
【0181】
製造例2
化合物(24)の製造
N,N'−ジナフチル−3,3'ジメチルベンジジン(23.2g)およびジフェニルアセトアルデヒド(20.1g)から、上記の製造例1に記載の方法に従って、式(c):
【化40】

で表されるエナミン化合物(c)(36.8g)を合成した。このエナミン化合物を原料として、前記製造例1と同様にして、以下の式:
【0182】
【化41】

で表される化合物(24)(9.5g)を得た(収率:75%)。
【0183】
得られた化合物をLC−MS分析、元素分析を行った結果、以下の結果となり、化合物(24)であることが確認できた。
【0184】
化合物(24)
<LC−MS>
純度:98.9%
[M]+:実測値:1084.9 (分子量の計算値:1084.50)
フラグメントイオンピーク
MW=1069:[M−Me]+ <メチル基が脱離した形態に相当>
MW=1007:[M−φ]+ <フェニル基が脱離した形態に相当>
MW=951:[M−(C=N‐N‐(Me)φ)]+ <フェニルメチルヒドラゾンが脱離した形態に相当>
MW=905:[M−(CH=C(φ)2)]+ <エナミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=632:[M−(φ(Me)‐N‐N=C‐Np‐N‐CH=C(φ)2)]+ <アミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=106:[φ(Me)‐N]+ <フェニルメチルヒドラゾンの一部>
(φはベンゼン環、Npはナフタレン環、Meはメチル基を示す。)
<元素分析> 理論値…C:86.31%、H:5.94%、N:7.74%
実測値…C:86.21%、H:5.91%、N:7.88%
【0185】
製造例3
化合物(35)の製造
1‐(4‐フェニルアミノフェニル)−4−フェニルアミノベンゾフラン(18.8g)およびジフェニルアセトアルデヒド(20.1g)から、上記の製造例1に記載の方法に従って式(d):
【化42】

で表されるエナミン化合物(d)(31.9g)を合成した。このエナミン化合物を原料として、前記製造例1と同様にして、以下の式:
【0186】
【化43】

で表される化合物(35)(8.5g)を得た(収率:74%)。
【0187】
得られた化合物をLC−MS分析、元素分析を行った結果、以下の結果となり、化合物(35)の化合物であることが確認できた。
【0188】
化合物(35)
<LC−MS>
純度:99.0%
[M]+:1120.9 (分子量の計算値:1120.5)
フラグメントイオンピーク
MW=1043:[M−φ]+ <ベンゼン環が脱離した形態に相当>
MW=925:[M−(φ2‐N‐N=C)]+ <ジフェニルヒドラゾンが脱離した形態に相当>
MW=941:[M−(CH=C(φ)2)]+ <エナミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=861:[M−(φ‐C=N‐N‐φ2)]+ <ジフェニルヒドラゾンユニットが脱離した形態に相当>
MW=656:[M−(φ2‐N‐N=C ‐φ‐N‐CH=C(φ)2)]+ <アミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=168:[φ2‐N]+ <ジフェニルヒドラゾンの一部>
(φはベンゼン環を示す。)
<元素分析> 理論値…C:85.69%、H:5.39%、N:7.49%
実測値…C:85.41%、H:5.49%、N:7.59%
【0189】
製造例4
化合物(45)の製造
3,6‐フェニルアミノ‐N‐エチルカルバゾール(18.9g)およびジフェニルアセトアルデヒド(20.1g)から、上記の製造例1に記載の方法に従って、合成した式(e):
【化44】

で表されるエナミン化合物(e)を原料として、前記製造例1と同様にして、以下の式:
【0190】
【化45】

で表される化合物(45)(9.8g)を得た(収率:82%)。
【0191】
得られた化合物をLC−MS分析、元素分析を行った結果、以下の結果となり、化合物(45)の化合物であることが確認できた。
化合物(45)
<LC−MS>
純度:98.9%
[M+H]+:997.9 (分子量の計算値:997.5)
フラグメントイオンピーク
MW=982:[M−Me]+ <メチル基が脱離した形態に相当>
MW=968:[M−CH2CH3+ <エチル基が脱離した形態に相当>
MW=920:[M−φ]+ <ベンゼン環が脱離した形態に相当>
MW=864:[M−(C=N‐N‐(Me)φ)]+ <フェニルメチルヒドラゾンが脱離した形態に相当>
MW=818:[M−(CH=C(φ)2)]+ <エナミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=595:[M−(φ(Me)‐N‐N=C‐Np‐N‐CH=C(φ)2)]+ <アミンユニットが脱離した形態に相当>
MW=106:[φ(Me)‐N]+ <フェニルメチルヒドラゾンの一部>
(φはベンゼン環、Meはメチル基を示す。)
<元素分析> 理論値…C:84.22%、H:5.96%、N:9.82%
実測値…C:84.08%、H:6.05%、N:9.87%
【0192】
実施例1
酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ジルコニウム(ZrO2)とで表面処理された樹枝状の酸化チタン(石原産業株式会社製:TTO−D−1)9重量部と、共重合ナイロン樹脂(東レ株式会社製:CM8000)9重量部とを、1,3−ジオキソラン41重量部とメタノール41重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカを用いて12時間分散させ、中間層用塗布液(100g)を調製した。調製した中間層用塗布液を、厚み0.2mmのアルミニウム製板状導電性支持体上に、ベーカアプリケータにて塗布した後、乾燥させ、膜厚1μmの中間層を形成した。
【0193】
次いで、電荷発生物質としてX型無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業社製:ファストゲンブルー8120BS)2重量部を、THF97重量部にポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:BX−1)1重量部を溶解させて得た樹脂溶液に加えた後、ペイントシェーカで10時間分散させ、電荷発生層用塗布液(100g)を調製した。この電荷発生層用塗布液を、先に形成した中間層上に、ベーカアプリケータにて塗布した後、乾燥させ、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0194】
次いで、電荷輸送物質として製造例1で得られた化合物(3)10重量部と、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製:Z200)18重量部と、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.2重量部とを、THF115重量部に溶解させ、電荷輸送層用塗布液(100g)を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、先に形成した電荷発生層上に、ベーカアプリケータにて塗布した後、乾燥させ、膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして、図2に示す積層型の層構成を有する実施例1の電子写真感光体を作製した。
【0195】
実施例2
実施例1において電荷輸送物質として用いた化合物(3)に代えて、前記製造例2で得られた化合物(24)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電子写真感光体を作製した。
【0196】
実施例3
実施例1において電荷輸送物質として用いた化合物(3)に代えて、前記製造例3で得られた化合物(35)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例3の電子写真感光体を作製した。
【0197】
比較例1
電荷輸送物質として、化合物(3)に代えて、以下の式(A):
【化46】

で表される化合物(A)(トリフェニルアミンダイマー;TPD)を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1の電子写真感光体を作製した。
【0198】
実施例4
実施例1と同様にして、厚み0.2mmのアルミニウム製板状導電性支持体上に、膜厚1μmの中間層を形成した。
次に、電荷発生物質としてX型無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業社製:ファストゲンブルー8120BS)1重量部と、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製:Z−400)18重量部と、電荷輸送物質として表1に示す化合物(3)の化合物10重量部と、3,5−ジメチル−3',5'−ジ−t−ブチルジフェノキノン5重量部と、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.5重量部と、THF115重量部とを、ボールミルで12時間分散し、感光層用塗布液を調製した。この感光層用塗布液を、先に形成した中間層上に、ベーカアプリケータによって塗布した後、温度110℃で1時間熱風乾燥させ、膜厚20μmの感光層を形成した。
以上のようにして、図3に示す単層型の層構成を有する実施例4の電子写真感光体を作製した。
【0199】
[評価1]
以上のようにして作製した実施例1〜4および比較例1の各感光体について、静電複写紙試験装置(株式会社川口電機製作所製:EPA−8200)を用いて、初期特性および繰返し特性を評価した。評価は、温度22℃、相対湿度65%(65%RH)の常温/常湿(N/N:Normal Temperature/Normal Humidity)環境下、および温度5℃、相対湿度20%(20%RH)の低温/低湿(L/L:Low Temperature/Low Humidity)環境下のそれぞれの環境下において行なった。
【0200】
初期特性は以下のようにして評価した。感光体にマイナス(−)5kVの電圧を印加することによって感光体表面を帯電させ、このときの感光体の表面電位を帯電電位V0[V]として測定し、帯電電位V0の絶対値が大きいほど、帯電性に優れると評価した。ただし、実施例4の単層型感光体の場合には、プラス(+)5kVの電圧を印加することによって感光体表面を帯電させた。
【0201】
次に、帯電させた感光体表面に対して露光を施した。このとき、感光体の表面電位を帯電電位V0から半減させるのに要した露光エネルギを半減露光量E1/2[μJ/cm2]として測定し、半減露光量E1/2が小さいほど、感度に優れると評価した。また、露光開始から10秒間経過した時点の感光体の表面電位を残留電位Vr[V]として測定し、残留電位Vrの絶対値が小さいほど、光応答性に優れると評価した。
ネルギ1μW/cm2の単色光を用いた。
【0202】
繰返し特性は以下のようにして評価した。前述の帯電および露光の操作を1サイクルとして5000回繰返した後、初期特性の評価と同様にして、帯電電位V0、半減露光量E1/2および残留電位Vrを測定し、帯電性、感度および光応答性を評価した。
【0203】
測定結果を表2に示す。
【表2】

表2から、電荷輸送物質として一般式(I)で表される本発明に係る化合物を用いた実施例1〜4の感光体は、N/N環境下およびL/L環境下のいずれにおいても、帯電性、感度および光応答性に優れることが判る。また、実施例1〜4の感光体は、繰返し使用されても初期と同様に優れた電気特性を有することが判る。
【0204】
実施例5
酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ジルコニウム(ZrO2)とで表面処理された樹枝状の酸化チタン(石原産業株式会社製:TTO−D−1)9重量部と、共重合ナイロン樹脂(東レ株式会社製:CM8000)9重量部とを、1,3−ジオキソラン41重量部とメタノール41重量部との混合溶剤に加えた後、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層用塗布液(1kg)を調製した。この中間層塗布液を塗工槽に満たし、この塗工槽に直径30mm×長さ357mm×厚さ0.8mmのアルミニウム製円筒状導電性支持体を浸漬した後に引上げ、乾燥させ、膜厚1.0μmの中間層を導電性支持体上に形成した。
【0205】
次いで、電荷発生物質12であるオキソチタニウムフタロシアニン(オリエント化学社製:TPL−3)2重量部と、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:エスレックBM−S)1重量部と、メチルエチルケトン97重量部とを混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液(1kg)を調製した。この電荷発生層用塗布液を、先に形成した中間層と同様の浸漬塗布法にて中間層上に塗布し、乾燥させ、膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
なお、該電荷発生層のCu−Kα特性X線(波長:1.54Å)によるX線回折スペクトルを測定した結果、ブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に明確な回折ピークを示した。
【0206】
次いで、電荷輸送物質として製造例1で得られた化合物(3)10重量部と、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製:ユーピロンZ200)20重量部と、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール1重量部と、ジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製:KF−96)0.004重量部とを、THF120重量部に溶解させ、電荷輸送層用塗布液(1kg)を調製した。
この電荷輸送層用塗布液を、先に形成した中間層と同様の浸漬塗布法にて、先に形成した電荷発生層上に塗布した後、温度130℃で1時間乾燥させ、膜厚23μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして、実施例5の電子写真感光体を作製した。
【0207】
実施例6
実施例5における電荷輸送物質として用いられた化合物(3)に代えて、製造例2で得られた化合物(24)を用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例6の電子写真感光体を作製した。
【0208】
実施例7
実施例5における電荷輸送物質として用いられた化合物(3)に代えて、製造例4で得られた化合物(45)を用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例6の電子写真感光体を作製した。
【0209】
比較例2
実施例5における電荷輸送物質として用いられた化合物(3)に代えて、前述の化合物(A)を用いる以外は、実施例5と同様にして、比較例2の電子写真感光体を作製した。
【0210】
実施例8
実施例5における電荷輸送層の形成に際し、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を25重量部に変更する以外は、実施例5と同様にして、実施例8の電子写真感光体を作製した。
【0211】
実施例9
実施例5における電荷輸送層の形成に際し、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を25重量部に変更し、電荷輸送物質として、化合物(3)に代えて、製造例2で得られた化合物(24)を用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例9の電子写真感光体を作製した。
【0212】
実施例10
実施例5における電荷輸送層の形成に際し、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を25重量部に変更し、電荷輸送物質として、化合物(3)に代えて、製造例4で得られた化合物(45)を用いる以外は、実施例5と同様にして、実施例10の電子写真感光体を作製した。
【0213】
実施例11(参考例1)
実施例5における電荷輸送層の形成に際し、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を10重量部に変更する以外は、実施例5と同様にして、実施例11の電子写真感光体を作製した。
【0214】
参考例2
実施例5における電荷輸送層の形成に際し、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を31重量部に変更する以外は、実施例5と同様にして、電子写真感光体を作製した。ただし、実施例5と同量のTHFでは電荷輸送層用塗布液の粘度が高くなったので、THF(150g)を追加し、十分に希釈した電荷輸送層用塗布液を調製し直し、これを用いて電荷輸送層を形成した。
【0215】
しかしながら、円筒状の感光体の長手方向端部にブラッシング現象による白濁が生じ、下記の評価2に示す特性評価を行なうことができなかった。このブラッシング現象は、電荷輸送層用塗布液中の溶剤の量が過剰であったために生じたものと推察される。
【0216】
参考例3
電荷輸送層の形成に際し、電荷輸送物質として、化合物(3)に代えて、前述の構造式(A)で表される化合物Aを用い、バインダ樹脂であるポリカーボネート樹脂の量を10重量部に変更する以外は、実施例5と同様にして、参考例3の電子写真感光体を作製した。
[評価2]
以上のようにして作製した実施例5〜7および比較例2の各感光体を、ドラムチェッカー(ジェンテック社製:CYNCYA)においてX‐TOFモードで、電界強度が2.5×105V/cm、温度25℃、相対湿度50%のホール移動度を測定した。
【0217】
また、各感光体を、市販のデジタル複写機MX−3100(シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、各感光体の耐刷性、電気特性および環境安定性を以下のようにして評価した。なお、デジタル複写機MX−3100は、感光体表面の帯電を負に帯電して電子写真プロセスを行なう負帯電型の画像形成装置である。
【0218】
(耐刷性)
上記の試験用複写機を用い、所定のパターンのテスト画像を記録用紙4万枚に形成した後、搭載していた感光体を取出して感光層の膜厚d1[μm]を測定し、この値d1を作製時の感光層の膜厚d0から差引いた値(d0−d1)を膜減り量Δdとして求め、耐刷性の評価指標とした。膜厚の測定は、膜厚測定装置F20−EXR(フィルメトリクス社製)で行なった。
【0219】
(電気特性および環境安定性)
上記試験用複写機内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(ジェンテック社製:CATE751)を設けた。この複写機を用い、各感光体について、温度22℃、相対湿度65%のN/N環境下において、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V1[V]として測定した。また、レーザ光によって露光を施した直後の感光体の表面電位を残留電位VL[V]として測定し、これをN/N環境下における残留電位VLNとした。帯電電位V1の絶対値が大きい程、帯電性に優れると評価し、残留電位VLNの絶対値が小さい程、光応答性に優れると評価した。
【0220】
更に、温度5℃、相対湿度20%のL/L環境下において、N/N環境下と同様にして、残留電位VL[V]を測定し、これをL/L環境下における残留電位VLLとした。L/L環境下における残留電位VLLからN/N環境下における残留電位VLNを差引いた値の絶対値(|VLL−VLN|)を、電位変動ΔVLとして求めた。電位変動ΔVLが小さい程、電気的特性の安定性に優れると評価した。
【0221】
これらの評価結果を表3に示す。
【表3】

【0222】
実施例5〜7と比較例2との比較から、一般式(I)で表される本発明の化合物は、比較化合物Aのトリフェニルアミンダイマー(TPD)に比べ、1桁から2桁以上高い電荷移動度を有することが判った。
【0223】
実施例5〜10と比較例2との比較から、電荷輸送物質として一般式(I)で表される本発明の化合物を用いた感光体は、電荷輸送物質として比較化合物Aを用いた比較例2の感光体に比べ、N/N環境下の露光電位VLNの絶対値が小さいことが判る。このことから、実施例5〜10の感光体は、電荷輸送層における電荷輸送物質の重量(A)に対するバインダ樹脂の重量(B)の比率(B/A)が1.2以上であっても、優れた光応答性を有することが判った。また、実施例5〜10の感光体は、比較例2の感光体に比べ、電位変動ΔVLの値が小さく環境安定性に優れ、L/L環境下においても充分な光応答性を示すことが判った。
【0224】
また、実施例5〜10と実施例11との比較から、前記比率B/Aが1.2〜3.0の範囲内にある実施例5〜10の感光体の方が、前記比率B/Aが1.2未満である実施例11の感光体よりも、膜減り量Δdが小さく、耐刷性に優れることが判った。
【0225】
実施例11と比較例2および参考例3との比較から、実施例11の感光体は、耐刷性については前記比率B/Aが高い比較例2の感光体より劣るものの該比率が同じである参考例3よりも優れており、帯電性については比較例2にほぼ匹敵することが判った。
【0226】
以上のように、本発明の化合物を電荷輸送物質として使用することによって、光応答性を低下させることなく、感光層(感光層が炭層構造である場合)または電荷輸送層(感光層が積層構造である場合)の耐刷性を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0227】
本発明によれば、分子内に各々2つのエナミン構造とヒドラゾン構造を有することにより広がった共役系が形成された構造を有する前記一般式(I)、例えば(2)または(3)で表される化合物は、高い電荷(ホール)輸送能力を示す有機光導電性材料として利用できる。
【0228】
本化合物を、電荷輸送物質として感光層に含有させることにより、帯電電位が高く、高感度で充分な光応答性を示し、種々の環境下、例えば低温環境下または高速プロセスで用いた場合にも特性が低下しない信頼性の高い電子写真感光体およびこれを利用する画像形成装置が得られる。
【0229】
また、本化合物をバインダ樹脂と共に感光層に含有させる場合には、バインダ樹脂の含有比率を高くすることが可能になり、本化合物自体の優れた耐摩耗特性との相乗効果により更に耐久性が向上した電子写真感光体および画像形成装置を得ることができる。
【0230】
更に、前記一般式(I)で表される化合物を、センサ材料、EL素子または静電記録素子などに使用すれば、応答性の優れたデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0231】
【図1】本発明による電子写真感光体の実施の第1の形態である電子写真感光体1の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図2】本発明による電子写真感光体の実施の第2の形態である電子写真感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図3】本発明による電子写真感光体の実施の第3の形態である電子写真感光体3の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図4】本発明による画像形成装置の実施の一形態である画像形成装置100の構成を簡略化して示す配置側面図である。
【符号の説明】
【0232】
1、2、3 電子写真感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生物質
13 電荷輸送物質
14 感光層
15 電荷発生層
16 電荷輸送層
17 バインダ樹脂
18 中間層
30 露光手段
31 露光手段からの光
32 帯電器
33 現像器
34 転写器
35 定着器
36 クリーナ
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、該電荷輸送物質として下記一般式(I):
【化1】

(式中、Ar1およびAr2は、独立して、置換基を有してもよいアリレン基または二価の複素環式基であり、Ar3およびAr4は、独立して、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基もしくは一価の複素環式基である。ただしAr3およびAr4のどちらか一方はアリール基もしくは一価の複素環式基であるか、またはAr3およびAr4は、互いが結合する窒素原子と一緒になって、置換基を有してもよい複素環式基を形成することができる)
で示される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物を含む電子写真感光体。
【請求項2】
前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化2】

で表される基であり、
前記Ar2が、次の式:
【化3】

で表される基であり、
前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化4】

で表される基であるか、または
Ar3およびAr4は、互いに結合する窒素原子と一緒になって、次の式:
【化5】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である、請求項1に記載の感光体。
【請求項3】
前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化6】

で表される基であり、
前記Ar2が、次の式:
【化7】

で表される基であり、
前記Ar3が、次の式:
【化8】

で表される基であり、
前記Ar4が、次の式:
【化9】

で表される基であるか、または
Ar3およびAr4は、互いに結合する窒素原子と一緒になって、次の式:
【化10】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である、請求項1または2に記載の感光体。
【請求項4】
前記一般式(I)において、前記Ar1が、次の式:
【化11】

で表される基であり、
前記Ar2が、
【化12】

で表される基であり、
前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化13】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の感光体。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される化合物が、
前記Ar1が、次の式:
【化14】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【化15】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化16】

で表される次の式(3):
【化17】

で表されるか、
前記Ar1が、次の式:
【化18】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【化19】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、互いに同一になることはなく、次の式:
【化20】

で表される次の式(24):
【化21】

で表されるか、あるいは、
前記Ar1が、次の式:
【化22】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【化23】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、次の式:
【化24】

で表され、次の式(35):
【化25】

で表されるか、あるいは、
前記Ar1が、次の式:
【化26】

で表される基であり、前記Ar2が、次の式:
【化27】

で表される基であり、前記Ar3およびAr4が、互いに同一になることはなく、次の式:
【化28】

で表される次の式(45):
【化29】

で表される2,2−ジフェニルビニルアミン誘導体化合物である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の感光体。
【請求項6】
前記電荷発生層または前記単層型感光層が、バインダ樹脂を含有し、前記電荷輸送層または前記単層型感光層において、前記電荷輸送物質(A)と前記バインダ樹脂(B)との重量比A/Bが、10/12〜10/30である請求項1〜5のいずれか一つに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記電荷発生層または前記単層型感光層が、電荷発生物質としてCu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンを含む請求項1〜6のいずれか一つに記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記感光体が、前記積層型感光層または前記単層型感光層と、前記導電性支持体との間に、中間層を更に備える請求項1〜7のいずれか一つに記載の電子写真感光体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の電子写真感光体を備える画像形成装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像形成装置を用いることを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−232391(P2011−232391A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99955(P2010−99955)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】