説明

電子写真感光体とその製造方法およびそれを備えた画像形成装置

【課題】本発明は、長期間の繰り返し使用に対しても、機械的耐久性に優れ、膜剥がれが起きないことで、リーク等の発生がない高耐久な電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【解決手段】導電性支持体上に、電荷発生層用塗布液、次いで電荷輸送層用塗布液を使用して電子写真感光体を形成する際に、電荷発生層用塗布液を塗布した後に、常温での乾燥処理を行い、電荷輸送層用の塗布液を塗布した後に、i)使用した溶剤の沸点(A)以上でかつ電荷輸送層のガラス転移点(B)以下の温度での熱処理と、ii)前記ガラス転移点(B)以上で、前記沸点(A)より50〜70℃高い温度での再熱処理とを行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる、優れた耐久性および接着性を有す電子写真感光体とその製造方法およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真感光体には、有機感光体(以下「電子写真感光体」または「感光体」ともいう)が広く用いられている。
【0003】
有機感光体は、可視光から赤外光まで各種露光光源に対応した材料が開発し易いこと、環境汚染のない材料を選択できること、製造コストが安いことなどの利点がある反面、機械的強度や化学的な耐久性が低く、多数枚のプリント時に感光体の静電特性の劣化や表面の傷の発生などを起こし易いという欠点を有する。
【0004】
すなわち、有機感光体の表面には、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段などにより電気的および機械的な外力が直接加えられ、また材料劣化の条件に曝されるため、それらに対する耐久性が要求される。
【0005】
具体的には、摩擦による感光体表面の摩耗や傷の発生、コロナ帯電時に発生するオゾンなどの活性酸素、窒素酸化物による表面の劣化に対する耐久性が要求されるが、現状の感光体では不十分である。
【0006】
上記のような耐久性の問題を解決するために、感光体の層構成を電荷発生層と電荷輸送層の積層構成にし、表面層の電荷輸送層を高強度でかつ活性ガスが透過し難い均一層にし、電荷輸送層の膜厚を20μmより厚くする構成が多く採用されている。
しかし、感光体の耐久性および高画質化の要求に対して、未だ十分な解決策とはなり得ていない。耐久性向上のために、ガラス転移点以上の温度での熱処理する技術(例えば、特開平5−34956号公報:特許文献1参照)が提案されているが後述する膜剥がれの問題に対しては、悪化する傾向が見られた。
【0007】
また、感光体の耐摩耗性を改良する方法として、硬化性シリコーン樹脂を含有する保護層を設ける技術(例えば、特開平3−155558号公報:特許文献2参照)、感光体の最表面層に無機粒子を含有させる技術(例えば、特開平1−205171号公報:特許文献3)が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの耐摩耗性の改良技術は、画像形成を繰り返し、多数枚の複写画像を形成すると、画像濃度や鮮鋭性が低下する傾向がみられ、別の課題を発生させている。また、これらの耐摩耗性の改良技術は、保護層の塗布工程や無機粒子の分散工程を有することから大きなコストアップに繋がった。
【0009】
また、感光体と当接する部材との接触や着脱式プロセスカートリッジの抜き差しにより、感光体にキズが入る場合がある。感光体にキズが入った場合、繰り返し使用していると膜剥がれが発生し、リークするなど大きな問題となることがある。こういった場合においても現状の感光体では不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−34956号公報
【特許文献2】特開平3−155558号公報
【特許文献3】特開平1−205171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の感光体は、単一温度による熱処理を行って製造されており、耐刷性が悪く、繰り返し画像を形成した場合に電化輸送層の膜剥がれが発生しや易くなっている。
【0012】
これは、電荷輸送層中の溶剤が急速に揮発し、電荷発生層と電荷輸送層のバインダー樹脂の絡み合いが少なくなることから、密着性が悪くなり膜剥がれが発生し易くなるものと考えられている。
また、電荷輸送層中においても急速に溶剤が揮発することにより、残留応力が大きく膜が脆くなることで耐刷性が悪化し易くなる問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、長期間の繰り返し使用に対しても、機械的耐久性に優れ、膜剥がれが起きないことで、リーク等の発生がない高耐久な感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、電子写真感光体の製造時に、電荷輸送層用塗布液が含む溶剤の沸点(A)以上で、かつ電荷輸送層のガラス転移点(B)以下で0.5〜2時間熱処理し、その後、前記ガラス転移点(B)より高く、前記沸点(B)より高い温度で再熱処理することにより、機械的耐久性に優れ、膜剥がれが起きずに、リーク等の発生がない高耐久な感光体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
かくして、本発明によれば、導電性支持体上に、電荷発生層用塗布液、次いで電荷輸送層用塗布液を使用して電子写真感光体を形成する際に、電荷発生層用塗布液を塗布した後に、常温での乾燥処理を行い、電荷輸送層用塗布液を塗布した後に、i)使用した溶剤の沸点(A)以上でかつ電荷輸送層のガラス転移点(B)以下の温度での熱処理と、ii)前記ガラス転移点(B)以上で、前記沸点(A)より50〜70℃高い温度での再熱処理とを行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、上記の電子写真感光体の製造方法により得られる電子写真感光体が提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、上記の電子写真感光体;前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段;帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段;露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段;現像によって形成された前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段;転写された前記トナー像を前記記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段;前記電子写真感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段;および前記電子写真感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段を少なくとも備え、前記感光体を有するプロセスカートリッジが着脱可能であることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長期間の繰り返し使用に対しても、機械的耐久性に優れ、膜剥がれが起きないことで、リーク等の発生がない高耐久な感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することができる。すなわち、本発明によれば、耐刷性に優れ、プロセスカートリッジの着脱などにより、感光体にキズが入った場合などにおいても、膜剥がれが発生しない信頼性の高い感光体およびそれを用いた画像形成装置を提供することができる。
【0019】
本発明の感光体は、前記再熱処理後さらに電荷輸送層のガラス転移点±10℃の温度で1〜3時間熱処理を施すことにより、上記の効果がさらに発揮される。
本発明の感光体は、感光層がバインダー樹脂として下記構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含有することにより、上記の効果がさらに発揮される。
上記の処理を行うと電荷輸送層の応力が緩和され、さらに耐刷性に優れた感光体にすることが出来る。ガラス転移点±10℃の温度で行うとこの効果が得られ易い。
【0020】
本発明の電荷輸送層に用いられる溶剤をテトラヒドロフランまたはジクロロメタンにすることにより、上記の効果がさらに発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の画像形成装置の要部の構成を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明おいて用いられる「常温」とは、20〜35℃の温度範囲のいわゆる室温を意味する。
本発明による電子写真感光体の製造方法は、導電性支持体上に、電荷発生層用塗布液、次いで電荷輸送層用塗布液を使用して電子写真感光体を形成する際に、電荷発生層用塗布液を塗布した後に、常温での乾燥処理を行い、電荷輸送層用塗布液を塗布した後に、i)使用した溶剤の沸点(A)以上でかつ電荷輸送層のガラス転移点(B)以下の温度での熱処理と、ii)前記ガラス転移点(B)以上で、前記沸点(A)より50〜70℃高い温度での再熱処理とを行うことを特徴とする電子写真感光体の製造することを特徴とする。
【0023】
ここで上記の熱処理温度の基準となる電荷輸送層のガラス転移点(B)は、電子写真感光体における電荷輸送層用塗布液を用い、アプリケーターにより予め設けた電荷発生層表面に塗布し、120℃で1時間熱処理し、電荷輸送層の膜厚5μmの薄膜を作製して示差熱分析用サンプルとして作製し、示差熱分析による電荷輸送層のガラス転移点の測定により予め知ることができる。
なお、一般的には、前記電荷輸送層のガラス転移点は70〜200℃である。
【0024】
したがって、本発明による電子写真感光体の製造方法における前記の熱処理は、示差熱分析用サンプルとして予め感光体を作成し、示差熱分析により測定した電化輸送層のガラス転移点(B)に基づく温度であることを特徴とする。
本発明における電荷輸送層形成時の前記熱処理は、上記ガラス展移転点(B)より2〜30℃低い温度で、0.5〜2時間行われるのが好ましい。
【0025】
また、本発明による電子写真感光体の製造方法における前記再熱処理は、前記ガラス転移点より5〜50℃高い温度で、0.5〜2時間で1回以上行なうことができる。
また、本発明による電子写真感光体の製造方法における前記再熱処理後、さらに前記電荷輸送層のガラス転移点±10℃の温度で1〜3時間熱処理してもよい。
【0026】
すなわち、本発明による電子写真感光体の製造方法において、電荷輸送層を形成するための熱処理が、前記電化輸送層用塗布液に用いた溶剤の沸点(A)以上で、前記ガラス転移点(B)より2〜30℃低い温度で行われ、かつ再熱処理が、前記ガラス転移点(B)以上で、前記沸点(A)より50〜70℃高い温度で行われ、さらに前記電荷輸送層のガラス転移点±10℃の温度で1回以上行なわれてもよい。
なお、前記電子写真感光体は、表面保護層が設けられていてもよいが、該表面保護層が形成されるときには該表面保護層に含まれるバインダー樹脂のガラス転移点が、前記電化輸送層の形成時と同様に考慮されるべきものである。
【0027】
また、本発明による電子写真感光体の製造方法における前記電荷輸送層は、下記構造式:
【化1】

で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含有し、前記電荷輸送層用塗布液における溶剤は、テトラヒドロフランまたはジクロロメタンであることが好ましい。
【0028】
例えば、電荷輸送層のガラス転移点が90℃でテトラヒドロフラン(沸点66℃)を溶剤に用いた場合、80℃で1時間熱処理し、その後130℃で熱処理を施すことになる。
最初の熱処理が溶剤の沸点以下だと残留溶剤が増加し、耐刷性の大幅な低下が見られる。
【0029】
また、最初の熱処理が電荷輸送層のガラス転移点以上だと、電荷発生層と電荷輸送層の界面に溶剤が残らないため、バインダー樹脂同士が絡み合い難くなることから、密着性が悪くなり膜剥がれが発生し易くなる。さらに、2度目の熱処理で前記沸点(A)より50〜70℃高い温度で熱処理を行わないと残留溶剤の影響で耐刷性が悪化することがある。
【0030】
次に、本発明の感光体の構成について具体的に説明するが、本発明は以下の説明の形態により限定されるものではない。
【0031】
図1は本発明の感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
図1の感光体は、導電性材料からなるシート状の導電性支持体11上に中間層18が形成され、その上に電荷発生物質12を含有する電荷発生層15と、電荷輸送物質13、バインダー樹脂17を含有する電荷輸送層16とが導電性支持体側からこの順で積層された感光層14が形成されている。
【0032】
上記の感光層14は、電荷発生層15と電荷輸送層16とが積層されていることから、「積層型感光層」ともいう。積層順は逆順でもよいが、感光体性能の点で図1の積層順が好ましい。
【0033】
以下に各層の構成について説明する。
[導電性支持体11]
導電性支持体は、感光体の電極としての機能と支持部材としての機能を有し、その構成材料は、当該技術分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
【0034】
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼、チタンなどの金属材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる支持体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。これらの中でも、JIS3003系、JIS5000系およびJIS6000系などのアルミニウム合金が特に好ましい。
【0035】
導電性支持体の形状は、図2に示すような円筒状(ドラム状)に限定されず、シート状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
導電性支持体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0036】
乱反射処理は、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明による感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体の表面で反射されたレーザ光と感光体の内部で反射されたレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥の発生することがある。そこで、導電性支持体の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止でき得る。
【0037】
[中間層(「下引き層」ともいう)18]
本発明の感光体は、導電性支持体11と感光層14を含む積層体との間に中間層18を有するのが好ましい。
【0038】
中間層は、導電性支持体から感光層への電荷の注入を防止する機能を有する。すなわち、感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりの発生を防止でき得る。
【0039】
また、導電性支持体の表面を被覆する中間層は、導電性支持体の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、感光層の成膜性を高め、導電性支持体と感光層との密着性を向上させることができ得る。
中間層は、例えば、樹脂材料(バインダー樹脂ともいう)を適当な溶剤に溶解させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成でき得る。
【0040】
樹脂材料としては、後述する感光層に含まれるものと同様のバインダー樹脂に加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂が好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂が特に好ましい。
【0041】
アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、2−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させた樹脂などが挙げられる。
【0042】
樹脂材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類;ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤;アセトンおよびジオキソランや、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤などが挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0043】
また、中間層用塗布液は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子は、中間層の体積抵抗値を容易に調節でき、感光層への電荷の注入をさらに抑制できると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持できる。
【0044】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどが挙げられる。
【0045】
中間層用塗布液におけるバインダー樹脂と金属酸化物粒子との合計重量Cと溶剤の重量Dとの比率(C/D)は、1/99〜40/60が好ましく、2/98〜30/70が特に好ましい。
【0046】
また、バインダー樹脂の重量Eと金属酸化物粒子の重量Fとの比率E/Fは、90/10〜1/99が好ましく、70/30〜5/95が特に好ましい。
【0047】
中間層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、ディップコート法、スプレー法、ノズル法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法、アプリケーターによる塗布法および浸漬塗布法などが挙げられる。
【0048】
これらの塗布方法の中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0049】
塗膜の乾燥工程における温度は、形成する膜圧にも依存するが、使用した有機溶剤を除去し得る温度であれば常温での乾燥でもよく特に限定されないが、50〜140℃が適当であり、80〜130℃が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがある。また、乾燥温度が140℃を超えると、感光体の繰返し使用時の電気的特性が悪化して、得られる画像が劣化するおそれがある。
【0050】
このような感光層の製造における温度条件は、中間層のみならず後述する電荷発生層においても共通する。
中間層の膜厚は特に限定されないが、0.01〜20μmが好ましく、0.05〜10μmが特に好ましい。
【0051】
中間層の膜厚が0.01μm未満では、中間層として実質的に機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性支持体からの感光層への電荷の注入を防止することができなくなるおそれがある。一方、中間層の膜厚が20μmを超えると、均一な中間層を形成し難く、また感光体の感度も低下するおそれがある。
なお、導電性支持体の構成材料がアルミニウムの場合には、アルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、中間層とすることができる。
【0052】
[電荷発生層15]
電荷発生層は、画像形成装置などにおいて半導体レーザ光などの照射された光を吸収することによって電荷を発生する機能を有し、電荷発生物質を主成分とし、必要に応じてバインダー樹脂や添加剤を含有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
【0053】
具体的には、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料;インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料;ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料;アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料;オキソチタニウムフタロシアニンなどの金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料;ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などが挙げられ、露光波長域に感度を有するものを適宜選択して用いることができる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
電荷発生層は、結着性を向上させる目的でバインダー樹脂を含有していてもよい。
バインダー樹脂としては、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用でき、電荷発生物質との相溶性に優れるものが好ましい。
【0055】
具体的には、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、これらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などが挙げられる。共重合体樹脂としては、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などが挙げられる。バインダー樹脂はこれらに限定されるものではなく、この分野において一般に用いられる樹脂をバインダー樹脂として使用することができる。これらのバインダー樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
電荷発生物質とバインダー樹脂との配合比率は、電荷発生物質の割合が10〜99重量%の範囲にあることが好ましい。電荷発生物質の割合が10重量%未満であると、感度が低下することがある。また、電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少して画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多くなることがある。
【0057】
電荷発生層は、公知の乾式法および湿式法により形成することができる。
乾式法としては、例えば、電荷発生物質を導電性支持体上に形成された中間層の表面に真空蒸着する方法が挙げられる。
【0058】
湿式法としては、例えば、電荷発生物質、必要に応じてバインダー樹脂および添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷発生層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体上または導電性支持体上に形成された中間層の表面に塗布し、次いで常温で乾燥して溶剤を除去する方法が挙げられ、生産性の点で湿式法が好ましい。
【0059】
溶剤としては、例えばジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル類;1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。これらの溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
バインダー樹脂溶液中に電荷発生物質を分散させる前に、電荷発生物質は、予め粉砕機によって粉砕処理されていてもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などが挙げられる。
【0061】
電荷発生物質をバインダー樹脂溶液中に溶解または分散させるために、ペイントシェーカ、ボールミルおよびサンドミルなどの分散機を用いることができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定するのが好ましい。
【0062】
その他の工程やその条件は、中間層の形成に準ずる。
電荷発生層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.05〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0063】
電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感光体の感度が低下するおそれがある。また、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が感光層表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体の感度が低下するおそれがある。
【0064】
[電荷輸送層16]
電荷輸送層は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れ感光体表面まで輸送する機能を有し、電荷輸送物質およびバインダー樹脂、必要に応じて添加剤を含有する。
【0065】
電荷輸送物質13としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
【0066】
具体的には、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレン、エチルカルバゾール−ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ−9−ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0067】
電荷輸送層に用いられるバインダー樹脂としては、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用でき、電荷輸送物質との相溶性に優れるものが好ましい。
【0068】
具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂などの樹脂、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0070】
特に、下記構造単位:
【化2】

を有するポリカーボネートが本発明の熱処理において、耐刷性および膜剥がれに対して効果が高く好ましい。
【0071】
電荷輸送物質とバインダー樹脂との比率A/Bは、好ましくは10/12〜10/30で用いられる。
【0072】
比率A/Bが10/30未満でありバインダー樹脂の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層を形成する場合、塗布液の粘度が増大するので、塗布速度低下を招き生産性が著しく悪くなる。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層に白濁が発生することがある。
【0073】
一方、比率A/Bが10/12を超えてバインダー樹脂の比率が低くなると、バインダー樹脂の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、感光層の摩耗量が増加することがある。
電荷輸送層は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤またはレベリング剤などの添加剤を含有してもよい。
【0074】
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
【0075】
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
【0076】
電荷輸送層は、電荷発生層と同様に、電荷輸送物質およびバインダー樹脂、必要に応じて添加剤を適当な有機溶剤中に溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体上に形成された電荷発生層の表面に塗布し、次いで乾燥して溶剤を除去する湿式法により形成することができる。
【0077】
溶剤としては、ベンゼン、トルエンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、テトラヒドロフランなどのエーテル類が挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0078】
特にテトラヒドロフランが本発明の熱処理において、耐刷性および膜剥がれに対して効果が高く好ましい。
【0079】
電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5〜50μm、より好ましくは10〜40μmである。
【0080】
電荷輸送層の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下することがある。また、電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下することがある。
【0081】
[画像形成装置]
本発明の画像形成装置は、本発明の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、露光によって形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、現像によって形成されたトナー像を記録媒体上に転写する転写手段と、転写されたトナー像を記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段と、感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段を少なくとも備え、前記感光体を有するプロセスカートリッジが着脱可能であることを特徴とする。
【0082】
図面を用いて本発明の画像形成装置およびその動作について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0083】
図2は、本発明の画像形成装置の要部の構成を示す模式側面図である。
【0084】
図2の画像形成装置(レーザプリンタ)100は、本発明の感光体1と、露光手段(半導体レーザ)31と、帯電手段(帯電器)32と、現像手段(現像器)33と、転写手段(転写帯電器)34と、搬送ベルト(図示せず)と、定着手段(定着器)35、クリーニング手段(クリーナ)36とを含んで構成される。符号51は記録媒体(記録紙または転写紙)を示す。
【0085】
また、露光手段(半導体レーザ)31と、帯電手段(帯電器)32と、現像手段(現像器)33とクリーニング手段(クリーナ)36とを含んだプロセスカートリッジは着脱可能である。
【0086】
感光体1は、図示しない画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体1の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度で回転駆動させる。帯電手段(帯電器)32、露光手段31、現像手段(現像器)33、転写手段(転写帯電器)34およびクリーニング手段(クリーナ)36は、この順序で、感光体1の外周面に沿って、矢符41で示される感光体1の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0087】
帯電器32は、感光体1の外周面を均一に所定の電位に帯電させる帯電手段である。
【0088】
露光手段31は、例えば、青色半導体レーザを光源として備え、光源から出力されるレーザービームの光を、帯電器32と現像器33との間の感光体1の表面に照射することによって、帯電された感光体1の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光は、主走査方向である感光体1の回転軸線44の延びる方向に繰返し走査され、これらが結像して感光体1の表面に静電潜像が順次形成される。すなわち、帯電器32により均一に帯電された感光体1の帯電量がレーザービームの照射および非照射によって差異が生じて静電潜像が形成される。
【0089】
現像器33は、露光によって感光体1の表面に形成される静電潜像を、現像剤(トナー)によって現像する現像手段であり、感光体1を臨んで設けられ、感光体1の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0090】
転写帯電器34は、現像によって感光体1の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符42方向から感光体1と転写帯電器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写帯電器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる接触式の転写手段である。
【0091】
クリーナ36は、転写帯電器34による転写動作後に感光体1の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、積層型感光体1の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0092】
また、画像形成装置100には、感光体1と転写帯電器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
【0093】
また、符号37は 転写紙と感光体を分離する分離手段、38は画像形成装置の各手段を収容するハウジングを示す。
【0094】
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。
まず、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、感光体1の表面が正の所定電位に均一に帯電される。
【0095】
次いで、露光手段32から、感光体1の表面に対して画像情報に応じた光が照射される。感光体1は、この露光によって、光が照射された部分の表面電荷が除去され、光が照射された部分の表面電位と光が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0096】
露光手段33による光の結像点よりも感光体1の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された感光体1の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0097】
感光体1に対する露光と同期して、感光体1と転写帯電器34との間に、転写紙51が供給される。転写帯電器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体1の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
【0098】
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0099】
一方、転写帯電器34によるトナー像の転写後も感光体1の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって積層型感光体1の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体1の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより何等限定されるものではない。
【0101】
実施例1
酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:タイベークTTO−D−1)3重量部および共重合ポリアミド(ナイロン)(東レ株式会社製、商品名:アミランCM8000)2重量部を、メチルアルコール25重量部に加え、ペイントシェーカーにて8時間分散処理して中間層用塗布液3リットルを調製した。
【0102】
得られた中間層用塗布液を、導電性支持体として直径30mm、長さ357mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬した後引き上げ、得られた塗膜を自然乾燥させて、導電性支持体上に膜厚1μmの中間層を形成した。
【0103】
予め、次のようにして電荷発生物質として使用する、下記構造式:
【化3】

で示されるオキソチタニルフタロシアニンを得た。
【0104】
ジイミノイソインドリン29.2gおよびスルホラン200mlを混合し、さらにチタニウムテトライソプロポキシド17.0gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を放冷した後、析出物を濾取し、クロロホルムおよび2%の塩酸水溶液で順次洗浄し、さらに水およびメタノールで順次洗浄し、乾燥させて青紫色の結晶物25.5gを得た。
【0105】
得られた化合物の化学分析の結果、上記構造式で示されるオキソチタニルフタロシアニンであることを確認した(収率88.5%)。
【0106】
得られたチタニルフタロシアニン1重量部およびブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製、商品名:BM−2)1重量部を、メチルエチルケトン98重量部に加え、ペイントシェーカにて2時間分散処理して電荷発生層用塗布液3リットルを調製した。
【0107】
得られた電荷発生層用塗布液を、中間層形成の場合と同様の浸漬法で、中間層上に塗布し、得られた塗膜を自然乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0108】
次いで、電荷輸送物質としてブタジエン化合物(T405:高砂香料工業製)100重量部、次の式:
【化4】

で表される部分構造を有するポリカーボネート樹脂(TS2020:帝人化成社製)150重量部、シリコンオイルSH200(東レ・ダウコーニング社製)0.02重量部を混合し、テトラヒドロフラン(沸点66℃)を溶剤として固形分25重量%の電荷輸送層形成用塗工液3リットルを調製した。
【0109】
この電荷輸送層形成用塗工液をアプリケーターで、先に設けた電荷発生層表面に塗布し、120℃で1時間熱処理し、電荷輸送層の膜厚5μmの薄膜を作製し、示差熱分析用サンプルを作製し、示差熱分析(入力補償方示差走査熱量測定装置 PYRIS Diamond DSC、パーキンエルマージャパン製)により電荷輸送層のガラス転移点を測定したところ、84℃であることが判明した。
次に、上記の電荷輸送層形成用塗工液を浸漬法により、先に設けた電荷発生層表面に塗布し、80℃で1時間熱処理し、さらに130℃で1時間熱処理することで膜厚25μmの電荷輸送層を形成した。
【0110】
実施例2
実施例1における熱処理温度80℃を70℃に変更し、130℃を120℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0111】
実施例3
実施例1における熱処理温度80℃で1時間を75℃で1時間30分に変更し、130℃で1時間を130℃で1時間30分に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0112】
実施例4
実施例1における電荷輸送物質としてブタジエン化合物(T405:高砂香料工業製)に代えて、トリフェニルアミン系化合物(TPD)(東京化成工業株式会社製、商品名:D2448)に変更し、ポリカーボネート樹脂(TS2020:帝人化成社製)を、ポリカーボネート樹脂(TS2050:帝人化成社製)に変更して実施例1と同様にして電荷輸送層用塗布液を調整した。
【0113】
この電荷輸送層形成用塗工液をアプリケーターで、先に設けた電荷発生層表面に塗布し、120℃で1時間熱処理し、電荷輸送層の膜厚5μmの薄膜を作製し、示差熱分析用サンプルを作製し、示差熱分析(入力補償方示差走査熱量測定装置 PYRIS Diamond DSC、パーキンエルマージャパン製)により電荷輸送層のガラス転移点を測定したところ、95℃であることが判明した。
次いで、実施例1における熱処理温度80℃を85℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0114】
実施例5
実施例1におけるポリカーボネート樹脂(TS2020:帝人化成社製)をビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(K1300:帝人化成社製)に変更し、テトラヒドロフランをジクロロメタン(沸点40℃)に変更して実施例1と同様にして電荷輸送層用塗布液を調整した。
【0115】
この電荷輸送層形成用塗工液をアプリケーターで、先に設けた電荷発生層表面に塗布し、120℃で1時間熱処理し、電荷輸送層の膜厚5μmの薄膜を作製し、示差熱分析用サンプルを作製し、示差熱分析(入力補償方示差走査熱量測定装置 PYRIS Diamond DSC、パーキンエルマージャパン製)により電荷輸送層のガラス転移点を測定したところ、90℃であることが判明した。
次いで、実施例1における熱処理温度80℃を60℃に変更して再熱処理温度130℃を100℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0116】
実施例6
実施例1におけるテトラヒドロフランをジクロロメタン(沸点40℃)に変更し、熱処理温度80℃を60℃に変更し、130℃を100℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0117】
実施例7
実施例1の感光体をさらに90℃で2時間熱処理を行った以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0118】
比較例1
実施例1における80℃で1時間の熱処理を行わなかった以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0119】
比較例2
実施例1における130℃で1時間の熱処理を行わなかった以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0120】
比較例3
実施例4における85℃で1時間の熱処理を行わなかった以外は実施例4と全く同様にして感光体を作製した。
【0121】
比較例4
実施例5における60℃で1時間熱処理を行わなかった以外は実施例5と全く同様にして感光体を作製した。
【0122】
比較例5
実施例1における熱処理温度80℃を100℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0123】
比較例6
実施例1における熱処理温度130℃を110℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0124】
比較例7
実施例1における熱処理温度80℃を50℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0125】
比較例8
実施例1における熱処理温度130℃を150℃に変更した以外は実施例1と全く同様にして感光体を作製した。
【0126】
以上の実施例1〜7および比較例1〜8の感光体における構成成分、ガラス転移点および熱処理条件を表1に示す。
【表1】

【0127】
[評価]
作製した実施例1〜7および比較例1〜8の各感光体を、試験用に改造したデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX−4100FN)の黒色用ユニットに装着し、30万枚画像形成することにより、以下のようにして、耐刷性および膜剥がれを評価した。
【0128】
[電気特性評価]
試験用のデジタル複写機から現像器を取り外し、代わりに現像部位に表面電位計(トレック・ジャパン社製、型式:model 344)を取り付けた。この複写機を用いて、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N:Normal Temperature/Normal Humidity)環境中において、レーザ光による露光を施さなかった場合の感光体の表面電位を−600Vに調整した。その状態でレーザ光により露光(0.4μJ/cm2)を施した場合の感光体の表面電位を露光電位VL(V)として測定した。
【0129】
得られたVLから下記の基準で感度を評価した。この露光電位VLの絶対値が小さい程、高感度であると評価した。
【0130】
<判定基準>
A:|VL|<100(V)
B:100(V)≦|VL|<130(V)
C:130(V)≦|VL|
【0131】
[耐刷性]
デジタル複合機に備わるクリーニング器のクリーニングブレードが、感光体に接する圧力、いわゆるクリーニングブレード圧を21gf/cm(2.06×10-1N/cm:初期線圧)に調整した。着脱可能プロセスカートリッジに装着する際に、感光体の端部10mm部分をあえてフレームに数回擦って傷をつけた。N/N環境下で、文字テストチャート(ISO19752)を記録紙10万枚に印刷することで、耐刷試験を行なった。
【0132】
耐刷試験開始時と10万枚画像形成後の感光層の厚みを、膜厚測定装置(フィルメトリックス社製、型式:F−20−EXR)を用いて測定した。
耐刷試験開始時の膜厚と30万枚画像形成後の膜厚との差から、感光体ドラム10万回転あたりの削れ量を求め、得られた削れ量から下記の基準で耐刷性を評価した。
【0133】
なお、削れ量が多い程、耐刷性が悪いと評価した。
また、感光体端部のキズをつけた部分を目視し、膜剥がれを観察した。
【0134】
<耐刷性判定基準>
A:削れ量<1.2μm/10万回転
B:1.2μm/10万回転≦削れ量<1.7μm/10万回転
C:1.7μm/10万回転≦削れ量
【0135】
<膜剥がれ判定基準>
A: 素地が見えるような膜剥がれは発生していない。
B: 膜が剥がれて周方向1部分の素地が見えている。
C: 膜が剥がれて周方向全て素地が見えている。
【0136】
<総合評価>
G: 良好
B: 実際使用上問題あり
以上の評価結果を表2に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2の結果から、次のことがわかる。
(1)本発明の熱処理を施した感光体(実施例1〜7)は、本発明の熱処理を施していない感光体よりも、感度、耐刷性、膜剥がれの全てにおいて良好であることがわかる。
(2)実施例1の感光体をされに90℃で2時間熱処理することでさらに耐刷性が良好であることがわかる。
(3)本発明のバインダー樹脂は、それ以外のバインダー樹脂を用いた感光体(実施例5)より耐刷性が良好であることがわかる。
(4)ガラス転移点以上の温度のみでの熱処理を行った感光体(比較例1、3、4)は、膜剥がれが悪いことが判る。
【0139】
(5)ガラス転移点以下の温度のみでの熱処理を行った感光体(比較例2)は、電気特性および耐刷性が悪いことが判る。
(6)1回目の熱処理温度がガラス転移点以上での熱処理を行った感光体(比較例5)は、膜剥がれが悪いことが判る。
(7)1回目の熱処理温度が電荷輸送層に用いられる溶剤の沸点以下の感光体(比較例7)は、耐刷性および膜剥がれが悪いことが判る。
(8)2回目の熱処理温度が電荷輸送層の溶剤の沸点より50℃〜70℃高温にない場合(比較例6、8)は、50℃以下だと耐刷性が悪く、70℃以上だと感度が悪いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明による電子写真感光体の製造によれば、長期間の繰り返し使用に対しても、機械的耐久性に優れ、膜剥がれが起きないことで、リーク等の発生がない高耐久な感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供できる。
【符号の説明】
【0141】
1 電子写真感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生物質
13 電荷輸送物質
14 感光層(積層型感光層)
15 電荷発生層
16 電荷輸送層
【0142】
17 バインダー樹脂(結着樹脂)
18 中間層(下引き層)
31 露光手段(半導体レーザ)
32 帯電手段(コロナ帯電器)
33 現像手段(現像器)
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写手段(転写帯電器)
35 定着手段(定着器)
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
【0143】
36 クリーニング手段(クリーナ)
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
37 分離手段
38 ハウジング
41、42 矢符
44 回転軸線
51 記録媒体(記録紙または転写紙)
100 画像形成装置(レーザプリンタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、電荷発生層用塗布液、次いで電荷輸送層用塗布液を使用して電子写真感光体を形成する際に、電荷発生層用塗布液を塗布した後に、常温での乾燥処理を行い、電荷輸送層用塗布液を塗布した後に、i)使用した溶剤の沸点(A)以上でかつ電荷輸送層のガラス転移点(B)以下の温度での熱処理と、ii)前記ガラス転移点(B)以上で、前記沸点(A)より50〜70℃高い温度での再熱処理とを行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記電荷輸送層のガラス転移点(B)が、示差熱分析用サンプル用に予め作成した電化輸送層のガラス転移点の測定に基づく請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記i)とii)との熱処理が、それぞれ0.5〜2時間行われる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理が、前記ガラス転移点(B)より2〜30℃低い温度で行われる請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記再熱処理が、1回以上行われる請求項1〜4のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記再熱処理後、さらに前記電荷輸送層のガラス転移点(B)の±10℃の温度で1〜3時間熱処理する請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記電荷輸送層が、下記構造式:
【化1】

で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
電荷輸送層に用いられる溶剤がテトラヒドロフランまたはジクロロメタンである請求項1〜7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の電子製造写真感光体の製造方法により得られる電子写真感光体。
【請求項10】
請求項9に記載の電子写真感光体;前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段;帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段;露光によって形成された前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段;現像によって形成された前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段;転写された前記トナー像を前記記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段;前記電子写真感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段;および前記電子写真感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段を少なくとも備え、前記感光体を有するプロセスカートリッジが着脱可能であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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