電子写真感光体とその製造方法
【課題】膜表面の状態が良好であり、表面層内部にわたって均一で、耐摩耗性及び耐傷性が高く安定であり、且つ電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現した電子写真感光体の提供、及び、該電子写真感光体の製造方法を提供すること。
【解決手段】導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【解決手段】導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを照射して架橋・硬化した表面層を有する電子写真感光体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPC:Organic Photoconductor)は良好な性能、様々な利点から、無機感光体に代わり複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ及びこれらの複合機に多く用いられている。この理由としては、例えば(1)光吸収波長域の広さ及び吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
【0003】
一方、最近画像形成装置の小型化から感光体の小径化が進み、機械の高速化やメンテナンスフリーの動きも加わり感光体の高耐久化が切望されるようになってきた。この観点からみると、有機感光体は、表面層が低分子電荷輸送物質と不活性高分子物質とを主成分としているため一般に柔らかく、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用された場合、現像システムやクリーニングシステムによる機械的な負荷により摩耗が発生しやすいという欠点を有している。加えて高画質化の要求からトナー粒子の小粒径化に伴いクリーニング性を向上させる目的でクリーニングブレードのゴム硬度の上昇と当接圧力の上昇が余儀なくされ、このことも感光体の摩耗量を増加させる要因となっている。このような感光体の摩耗は、感度の劣化、帯電性の低下などの電気的特性を劣化させ、画像濃度低下、地肌汚れ等の異常画像の原因となる。
また摩耗が局所的に発生した傷は、クリーニング不良によるスジ状汚れ画像をもたらす。現状では感光体の寿命はこの摩耗や傷が律速となり、交換に至っている。
【0004】
したがって、有機感光体の高耐久化においては前述の摩耗量を低減することが不可欠であり、これが当分野でもっとも解決が迫られている課題である。
【0005】
感光体の耐摩耗性を改良する技術としては、(1)表面層に硬化性バインダーを用いたもの(例えば、特許文献1参照。)、(2)高分子型電荷輸送物質を用いたもの(例えば、特許文献2参照。)、(3)表面層に無機フィラーを分散させたもの(例えば、特許文献3参照。)等が挙げられる。
これらの技術のうち、(1)の硬化性バインダーを用いたものは、電荷輸送物質との相溶性が悪いためや重合開始剤、未反応残基などの不純物により残留電位が上昇し画像濃度低下が発生し易い傾向がある。
また、(2)の高分子型電荷輸送物質を用いたもの、及び(3)の無機フィラーを分散させたものは、ある程度の耐摩耗性向上が可能であるものの、有機感光体に求められている耐久性を十二分に満足させるまでには至っていない。
さらに(3)の無機フィラーを分散させたものは、無機フィラー表面に存在するトラップにより残留電位が上昇し、画像濃度低下が発生し易い傾向にある。これら(1)、(2)、(3)の技術では、有機感光体に求められる電気的な耐久性、機械的な耐久性をも含めた総合的な耐久性を十二分に満足するには至っていない。
【0006】
さらに、(1)の耐摩耗性と耐傷性を改良するために多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させた感光体も知られている(特許文献4参照)。しかし、この感光体においては、感光層上に設けた保護層にこの多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させる旨の記載があるものの、この保護層においては電荷輸送物質を含有せしめてもよいことが記載されているのみで具体的な記載はなく、しかも、単に表面層に低分子の電荷輸送物質を含有させた場合には、上記硬化物との相溶性の問題があり、これにより、低分子電荷輸送物質の析出、白濁現象が起こり、機械強度も低下してしまうことがあった。
さらに、この感光体は、具体的には高分子バインダーを含有した状態でモノマーを反応させるため、硬化が充分に進行しないことや、硬化物とバインダー樹脂との相溶性の問題があり、硬化時に相分離による表面凹凸が生じクリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
【0007】
これらに代わる感光層の耐摩耗技術として、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、炭素−炭素二重結合を有する電荷輸送物質及びバインダー樹脂からなる塗工液を用いて形成した電荷輸送層を設けることが知られており(例えば、特許文献5参照。)、このバインダー樹脂には、炭素−炭素二重結合を有し、上記電荷輸送物質に対して反応性を有するものと、上記二重結合を有せず反応性を有しないものが含まれる。
この感光体は耐摩耗性と良好な電気的特性を両立しており注目されるが、バインダー樹脂として反応性を有しないものを使用した場合においては、バインダー樹脂と、上記モノマーと電荷輸送物質との反応により生成した硬化物との相溶性が悪く、層分離から架橋時に表面凹凸が生じ、クリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
また、上記のように、この場合バインダー樹脂がモノマーの硬化を妨げるほか、この感光体において使用される上記モノマーとして具体的に記載されているものは2官能性のものであり、この2官能性モノマーでは官能基数が少なく充分な架橋密度が得られず、これらの点で耐摩耗性の点では未だ満足するには至らなかった。
また、反応性を有するバインダーを使用した場合においても、上記モノマーおよび上記バインダー樹脂に含有される官能基数の低さから、上記電荷輸送物質の結合量と架橋密度との両立は難しく、電気特性及び耐摩耗性も充分とは言えないものであった。
【0008】
また、同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質を硬化した化合物を含有する感光層も知られている(例えば、特許文献6参照。)。
しかし、この感光層は嵩高い電荷輸送物質が二つ以上の連鎖重合性官能基を有するため硬化物中に歪みが発生し内部応力が高くなり、表面層の荒れや経時におけるクラックが発生しやすい場合があり、十分な耐久性を有していない。
【0009】
上記課題に対して、表面層を少なくとも電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマーと電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーの照射により硬化した架橋樹脂層とすることにより、電気特性及び耐摩耗性が向上することを見出した(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。
【0010】
一方、上記光エネルギーは紫外線ランプによる紫外光が一般的であり、前記紫外線ランプから発せられる光エネルギーには架橋反応に必要としない波長の光エネルギーも含まれており、特に赤外領域に発光波長を有する光エネルギーの場合、基体に大きな熱がかかることで急激に架橋反応が進み、表面性が大きく変化し、表面凹凸が大きくなりやすい。
その結果、クリーニング不良が発生しやすく、長期的に使用した場合、クリーニングブレードが局所的に欠け、クリーニング不良が発生し、スジ状の異常画像が発生する。
【0011】
また、架橋反応が急激に進むと、電子線等による架橋と同様に、内部応力が大きくなる結果、長期使用により表面層と電荷輸送層の界面まで摩耗が進むと表面層の剥がれが起こり、その後、さらに摩耗が急激に進み、地汚れが発生する。このような課題に対して、基体を冷却することで急激な架橋反応を抑制する方法が考え出された。(例えば、特許文献10、特許文献11)
【0012】
光エネルギーの照射による架橋樹脂膜の別の課題としては、表面と内部の硬化のバラツキによる耐摩耗性の劣化が挙げられる。電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長は光重合開始剤の吸収波長に近接しているため、ラジカルを発生させるために必要な光エネルギーが電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、表面層内部まで十分に到達しない。そのため、表面に比べて内部の硬化が不十分となり、硬化のバラツキによる耐摩耗性が劣化する。上記課題を解決するためには、表面層内部の重合開始剤まで十分に光エネルギーが到達し、内部まで十分に硬化するだけの過剰な光エネルギーを照射することが必要となるが、その結果、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物が長時間あるいは過剰な光エネルギーに暴露されることになり、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解等による電子写真感光体の電気特性の劣化が生じる。
【0013】
また、特許文献12の特開2010−164987号公報には、光重合開始剤として400nm以上の領域に吸収を有する化合物を用い、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長域を透過した光により表面層の内部からも均一に架橋させ、表面平滑性及び電気特性を向上させた感光体が記載されている。
しかし、高圧水銀灯やメタルハライドランプなどの発光波長域の広いUV照射光源を用いるものであるため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解防止が充分でなく、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解防止のためには、光重合開始剤の含有量を減らすことができず、架橋表面層のラジカル重合性モノマー及び電荷輸送性化合物の含有量が実質的に減少し、光重合開始剤が残留して架橋表面層内部が不均一化することがあり、耐摩耗性や残留電位の上昇防止が充分でない。
【0014】
また、特許文献13の特開2008−134505号公報には、LED光源のピーク波長と、光重合開始剤の吸収ピーク波長とが重なるようにすることが記載されているが、電荷輸送物質を含むものではない。
【0015】
LEDはその発光素子を選ぶことで熱の発生源となる赤外光領域や電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長領域を含まない光エネルギーを発光させることが可能である。
しかしながら、発光領域の広い従来の紫外線ランプに比べて総合的な光エネルギーは非常に小さいため、電荷輸送物質の吸収波長領域の光では、荷輸送物質を含む表面層内部まで均一かつ十分に硬化させることは困難である。
また、特許文献14の特開2012−002997号公報、特許文献15の特開2012−037749号公報には光源にLEDを用い、さらに酸素阻害による硬化不良を防止することが記載されているが、酸素阻害は架橋表面層の表面に発生する不具合であり、内部の硬化均一性には影響を及ぼさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、膜表面の状態が良好であり、表面層内部にわたって均一で、耐摩耗性及び耐傷性が高く安定であり、且つ電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現した電子写真感光体の提供、及び、該電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、本発明の、下記(1)〜(10)によって解決される。
(1)「導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体」、
(2)「前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の吸光度AeのAe/As比が0.9以上であることを特徴とする前記(1)項に記載の電子写真感光体」、
(3)「前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収端波長が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする前記(1)項または(2)項に記載の電子写真感光体」、
(4)「前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の電子写真感光体」、
(5)「前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする前記(1)項乃至(4)項のいずれかに記載の電子写真感光体」、
(6)「導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法にであって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)と、光重合開始剤と含む表面層塗膜に、LEDを光源とする光エネルギーを照射し、硬化させて架橋層を形成するものであり、
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長よりも長波長側にあり、かつ、前記光重合開始剤の吸収端波長域にあることを特徴とする電子写真感光体の製造方法」、
(7)「前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にあることを特徴とする前記(6)記載の電子写真感光体の製造方法」、
(8)「前記LEDから発せられる光のピーク波長が400nm以上であり、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする前記(6)または(7)記載の電子写真感光体の製造方法」、
(9)「前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする前記(6)乃至(8)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法」、
(10)「前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする前記(6)乃至(9)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法」。
【発明の効果】
【0018】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明によれば、表面層内部にわたって均一で、かつ、膜表面の状態が良好であり、耐摩耗性及び耐傷性が高く安定であり、且つ電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現した電子写真感光体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】感光体ドラム側面から見た、LED光源から感光体に直接光エネルギーを照射する方法の一例を示す図である。
【図2】感光体ドラム上面から見た、LED光源からの光を、一度反射板に反射させて照射する方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の断面の一例を示す図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の断面の一例を示す図である。
【図5】光エネルギー照射槽内に取り付けられた電子写真感光体の概略図である。
【図6】405nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図7】構造式Cで表される化合物の吸収スペクトルである。
【図8】光重合開始剤aの吸収スペクトルである。
【図9】395nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図10】365nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図11】構造式Dで表される化合物の吸収スペクトルである。
【図12】光重合開始剤bの吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電子写真感光体について詳細に説明する。
本発明は、導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上である電子写真感光体である。
【0021】
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は電荷輸送ユニットに由来する300nm〜400nmの波長領域に吸収ピークを有するため、照射される光エネルギーの中に300nm〜400nmの波長領域の光が含まれると、電荷輸送ユニットが分解して電荷輸送機能が低下する。
【0022】
ここで光エネルギー照射後において残存した電荷輸送ユニットの残存率は光エネルギー照射前後の吸光度の比から求めることが可能であり、Ae/As比が0.7以上であれば実用に耐えうる電荷輸送能力を保持することが可能である。さらに0.9以上であれば、光エネルギー照射前とほとんど変わらない電荷輸送能力を保持することが可能である。
【0023】
必要な電荷輸送機能を保持するためには、電荷輸送ユニットの分解を抑制すればよいが、そのためには、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収波長域と光エネルギーの発光波長域の重なりを小さくし、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギーの吸収を可能な限り少なくすることが必要である。
つまり、照射する光エネルギーの発光ピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長より長く、前記光重合開始剤の吸収波長域にあることが好ましい。さらに前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より長くすることがより好ましい。
【0024】
照射する光エネルギーのピーク波長を、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より長くすることで電荷輸送ユニットの分解を抑制すると同時に、光エネルギーが表面層内部の光重合開始剤に十分到達するため、表面層内部からも均一に架橋硬化し、内部応力の発生が防止される。
【0025】
一方、照射する光エネルギーのピーク波長を、前記光重合開始剤の吸収波長域内にすることでラジカルの発生効率が向上し、迅速な架橋反応が開始される。
光エネルギーのピーク波長が、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より短いと、光エネルギーが電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、表面層内部の光重合開始剤まで光エネルギーが充分到達し難く、照射時間を長くしたり、照射する光の強度を高くしたりする必要が生じ、電荷輸送物質の劣化が生じる。
また、光エネルギーのピーク波長が、光重合開始剤の吸収波長域内にないと、光重合開始剤のラジカル発生効率が低下する。
【0026】
光エネルギーの照射は、LED光源を用いることが好ましい。
架橋表面層はラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層上に塗工後、紫外線等の光エネルギーを照射することで形成される。
一般に紫外線ランプが発する光には、光重合開始剤がラジカルを発生する波長光だけでなく、熱の発生源となる赤外光なども含まれ、赤外領域の光エネルギーにより、表面層塗膜の温度上昇を招き、塗膜表面が収縮して表面凹凸が生じたり、急激な架橋反応により表面層の内部応力が大きくなったりすることで表面層の膜剥がれが発生し易くなる。
また、紫外線ランプから照射される光の波長領域が広いため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物は光エネルギーを吸収して分解し電気特性が劣化すると共に、該分解生成物は架橋構造中に取り込まれず、表面層が不均一化して耐摩耗性・耐傷性が低下する。
また、紫外線ランプは発光領域が広いため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にも吸収波長域がある光重合開始剤を用い、且つ、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の長波長側の吸収波長端よりも長波長領域に発光ピークを有するものを用いても電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の劣化を完全に防止することは困難である。
【0027】
上記、紫外線ランプから照射される不必要な波長光をカットする、赤外線カットフィルターや紫外線カットフィルターなどが存在するが、単一のフィルターで光エネルギーの損失がなくかつ必要とする波長光のみを効率的に透過させることは非常に困難である。
また、赤外線カットフィルターなど長波長光を吸収するフィルターの場合、赤外線によりフィルター自体が高温になるため、フィルターの耐久性が充分でなく実用に耐えるものではない。
また、一般の紫外線ランプは交流電源で駆動されるため、発光が周期的になり、架橋反応にムラが生じ易く、紫外線ランプを発光させるためには、膨大な電気エネルギーが必要であるのに加えて、紫外線ランプ等の冷却のため、ブロアー等の冷却装置が必要であることから、電気エネルギーの莫大な消費とともに装置の大型化によって設置場所が限定される。
【0028】
これに対し、LED光源は一般の紫外線ランプと異なり、発光波長領域は非常に狭く、
光重合開始剤がラジカルを発生するのに必要な波長領域の光のみを発光させることが可能であることから、熱的な影響を及ぼす赤外線や、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を劣化させる紫外線を含まない光源とすることができ、また、発光領域の広い従来の紫外線ランプに比べて総合的な光エネルギーが小さく、ゆっくり硬化することで内部応力が生じることなく、電荷輸送物質を含む表面層内部まで均一かつ十分に硬化させることができる。
さらに、直流電源で駆動されるため、連続して発光し、表面層全体で架橋反応が均一に起こり、内部応力や表面凹凸の発生がない。さらにLED光源は、非常に小さく設置場所の制約が小さいため好ましく使用できる。
【0029】
光源から発せられる光のピーク波長は、400nm以上であることが好ましい。電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長域は、400nm未満であることが多く、光のピーク波長が400nm未満であると電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、内部からの架橋反応が起こり難く、また電荷輸送物質の劣化が生じる。
【0030】
本発明で使用するLED光源は、紫外線領域に発光波長を有するLED素子で構成されたものを使用することができ、一部可視領域に波長光を有するものであってもよい。
LED素子の材料としてはインジウム窒化ガリウム、窒化ガリウム、アルミニウム窒化ガリウムなどがある。LED素子の形状としてはランプ状になったものの他に、基体内にチップとして埋め込まれたものがあり、いずれも使用できる。
【0031】
LED光源から感光体ドラムに光エネルギーを照射する方法としては、従来の紫外線ランプと同様の方法が利用可能である。
図1に示す、LED光源から感光体に直接光エネルギーを照射させる方法や、図2に示す、LED光源からの光を、一度反射板に反射させて照射する方法などが用いられる。
また、LED光源による光エネルギー照射では熱の発生原因となる赤外線が発生しないため、光エネルギー照射時に感光体ドラムの冷却が不要になる。
【0032】
次に、本発明の表面層塗布液の構成材料について説明する。
本発明の表面層塗布液は、ラジカル重合性化合物と光重合開始剤及び有機溶媒からなる。
本発明で使用されるラジカル重合性化合物は、1.電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と2.電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の2つに分類される。
【0033】
[電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有さないモノマーであり、炭素−炭素2重結合等を有し、ラジカル重合可能な基を有するものであれば何れでもよい。
前記ラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0034】
(1)1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基が挙げられる。
【0035】
【化1】
〔ただし、式中、X2は、置換基を有していてもよいフェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CONR36−基(R36は、水素、メチル基、エチル基等のアルキル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を表す)、または−S−基を表す。〕
これらの置換基の具体例を示すと、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基等が挙げられる。
【0036】
(2)1,1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基が挙げられる。
【0037】
【化2】
〔ただし、式中、Y4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基あるいはエトキシ基等のアルコキシ基または、−COOR37基を表し、また、X3は上記のX2と同一の基及び単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y4、X3の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、及び芳香族環よりなる群から選ばれた基である。R37は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、または−CONR38R39(R38およびR39は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等のアラルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表し、互いに同一または異なっていてもよい。)である。〕
【0038】
これらの置換基の具体例を示すと、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基等が挙げられる。
【0039】
なお、これらX2、X3、Y4の基にさらに置換する置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0040】
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0041】
本発明の表面層は電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)由来の部位を30重量%以上70重量%以下含有することが好ましい。30重量%未満であると表面層の耐摩耗性・耐傷性が低下することがあり、70重量%を超えると電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の含有量が少なく、残留電位が上昇することがある。
【0042】
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の官能基数は特に制限ないが、1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると表面層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招くため、これらのモノマーやオリゴマーの含有量は、3官能以上のラジカル重合性モノマー100重量部に対し50重量部以下、好ましくは30重量部以下に制限される。
【0043】
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の具体例としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
すなわち、本発明において使用する上記ラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えば、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−フェノキシアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、EO変性ノニルフェニルアクリレート、イソボニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、PO変性アリルメタクリレート、EO変性ヒドロキシエチルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独又は2種類以上を併用しても差し支えない。
【0044】
[電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)としては、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しており、且つラジカル重合性官能基を有する化合物を指す。このラジカル重合性官能基としては、先のラジカル重合性モノマー(イ)について説明した基が挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0045】
また、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、官能基が、2官能以上の多官能のものであってもよいが1官能であるものが好ましい。
2官能以上の電荷輸送性化合物であると、電荷輸送性構造が非常に嵩高いため複数の結合で架橋構造中に固定されると硬化樹脂中に歪みが発生し、表面層の内部応力が高くなり、キャリア付着等でクラックや傷の発生を引き起こしやすくなるためである。
特に表面層の膜厚が5μmを越える膜を形成した場合、前記表面層の内部応力が非常に高くなり、架橋直後にクラックが発生しやすくなる。
【0046】
また、2官能以上の電荷輸送性化合物は、複数の結合で架橋構造中に固定されるため、電荷輸送時の中間体構造(カチオンラジカル)を安定して保てず、電荷のトラップによる感度の低下、残留電位の上昇が起こしやすくなる。これらの電気的特性の劣化は、画像濃度低下、文字の細り等の画像として現れる。
このようなことから、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、架橋結合間にペンダント状に固定化される1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物であると、クラックや傷の発生防止、及び静電的特性が安定化され好ましい。
【0047】
電荷輸送性構造としてはトリアリールアミン構造であることが好ましい。また官能基数が1つであるものが好ましく、さらに、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であると、感度、残留電位等の電気的特性が良好に持続されるため好ましい。
【0048】
【化3】
【0049】
【化4】
〔式中、R1は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR7、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR8R9よりなる群から選ばれた基であり、Ar1、Ar2は置換もしくは無置換のアリーレン基を表わし、同一であっても異なってもよい。Ar3、Ar4は置換もしくは無置換のアリール基を表わし、両者は同一であっても異なってもよい。Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基よりなる群から選ばれた基であり、Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基よりなる群から選ばれた基であり、m、nは0〜3の整数を表わす(R7は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基であり、R8及びR9は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基であり、両者は互いに同一であっても異なっていてもよい)。〕
【0050】
以下に、一般式(1)、(2)の具体例を示す。
前記一般式(1)、(2)において、R1の置換基中、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等がそれぞれ挙げられ、これらは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基(メチル基、エチル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、フェノキシ基等のアリールオキシ基、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等)等により置換されていてもよい。R1の置換基のうち、特に好ましいものは水素原子またはメチル基である。
置換もしくは無置換のAr3、Ar4はアリール基であり、アリール基としては縮合多環式炭化水素基、非縮合環式炭化水素基及び複素環基が挙げられる。
該縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のもの、例えば、ペンタニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレル基、ピレニル基、クリセニル基、及びナフタセニル基等が挙げられる。
【0051】
該非縮合環式炭化水素基としては、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ポリエチレンジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル及びジフェニルスルホン等の単環式炭化水素化合物の1価基、あるいはビフェニル、ポリフェニル、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、ジフェニルアルキン、トリフェニルメタン、ジスチリルベンゼン、1,1−ジフェニルシクロアルカン、ポリフェニルアルカン、及びポリフェニルアルケン等の非縮合多環式炭化水素化合物の1価基、あるいは9,9−ジフェニルフルオレン等の環集合炭化水素化合物の1価基が挙げられる。
【0052】
複素環基としては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、及びチアジアゾール等の1価基が挙げられる。
また、前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基は例えば以下に示すような置換基を有してもよい。
(1)ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等。
(2)アルキル基。好ましくは、C1〜C12とりわけC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体例を示すとメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−プロピル基、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、4−フェニルベンジル基等が挙げられる。
(3)アルコキシ基(−OR2)。R2は(2)で定義したアルキル基を表わす。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
(4)アリールオキシ基。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これは、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等が挙げられる。
(5)アルキルメルカプト基またはアリールメルカプト基。具体例としてはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。
(6)
【0053】
【化5】
〔式中、R3及びR4は各々独立に水素原子、前記(2)で定義したアルキル基、またはアリール基を表わす。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基又はナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。R3及びR4は共同で環を形成してもよい。〕
具体例としては、アミノ基、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(トリール)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基等が挙げられる。
(7)メチレンジオキシ基、又はメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基又はアルキレンジチオ基等。
(8)置換又は無置換のスチリル基、置換又は無置換のβ−フェニルスチリル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジトリルアミノフェニル基等。
【0054】
前記Ar1、Ar2で表わされるアリーレン基としては、前記Ar3、Ar4で表されるアリール基から誘導される2価基である。
前記Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わす。
置換もしくは無置換のアルキレン基としては、C1〜C12、好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、これらのアルキレン基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチレン基、エチレン基、n−ブチレン基、i−プロピレン基、t−ブチレン基、s−ブチレン基、n−プロピレン基、トリフルオロメチレン基、2−ヒドロキシエチレン基、2−エトキシエチレン基、2−シアノエチレン基、2−メトキシエチレン基、ベンジリデン基、フェニルエチレン基、4−クロロフェニルエチレン基、4−メチルフェニルエチレン基、4−ビフェニルエチレン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のシクロアルキレン基としては、C5〜C7の環状アルキレン基であり、これらの環状アルキレン基にはフッ素原子、水酸基、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基を有していても良い。具体的にはシクロヘキシリデン基、シクロへキシレン基、3,3−ジメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールを表わし、アルキレンエーテル基、アルキレン基はヒドロキシル基、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。
前記ビニレン基は、
【0055】
【化6】
で表わされ、R5は水素、アルキル基〔前記(2)で定義されるアルキル基と同じ〕、アリール基(前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基と同じ)、aは1または2、bは1〜3を表わす。
【0056】
前記Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基を表わすものであるが、ここにおける置換もしくは無置換のアルキレン基としては、前記Xのアルキレン基と同様なものが挙げられ、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、前記Xのアルキレンエーテル基が挙げられ、またアルキレンオキシカルボニル基としては、カプロラクトン変性基が挙げられる。
【0057】
また、本発明の1官能の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)として更に好ましい化合物としては、下記一般式(3)の構造の化合物が挙げられる。
【0058】
【化7】
(式中、o、p、qはそれぞれ0又は1の整数、Raは水素原子、メチル基を表わし、Rb、Rcは水素原子以外の置換基で炭素数1〜6のアルキル基を表わし、RbとRcは同一であっても異なっていても良く、s、tは0〜3の整数を表わし、Zaは単結合、メチレン基、エチレン基、
【0059】
【化8】
よりなる群から選ばれた基を表わす。)
上記一般式で表わされる化合物としては、Rb、Rcの置換基として、特にメチル基、エチル基である化合物が好ましい。
【0060】
本発明で用いる上記一般式(1)及び(2)特に(3)記載の1官能性の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、炭素−炭素間の二重結合が両側に開放されて重合するため、末端構造とはならず、連鎖重合体中に組み込まれ、ラジカル重合性モノマー(イ)との重合で架橋形成された重合体中では、高分子の主鎖中に存在し、かつ主鎖−主鎖間の架橋鎖中に存在(この架橋鎖には1つの高分子と他の高分子間の分子間架橋鎖と、1つの高分子内で折り畳まれた状態の主鎖のある部位と主鎖中でこれから離れた位置に重合したモノマー由来の他の部位とが架橋される分子内架橋鎖とがある)するが、主鎖中に存在する場合であってもまた架橋鎖中に存在する場合であっても、鎖部分から懸下するトリアリールアミン構造は、窒素原子から放射状方向に配置する少なくとも3つのアリール基を有し、バルキーであるが、鎖部分に直接結合しておらず鎖部分からカルボニル基等を介して懸下しているため立体的位置取りに融通性ある状態で固定されているので、これらトリアリールアミン構造は重合体中で相互に程よく隣接する空間配置が可能であるため、分子内の構造的歪みが少なく、また、電子写真感光体の表面層とされた場合に、電荷輸送経路の断絶を比較的免れた分子内構造を採りうるものと推測される。
【0061】
また、光重合開始剤の吸収波長と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収波長とが重なると光エネルギーが電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)に吸収され、光重合開始剤に届き難くなり、架橋速度が急激に低下する。
したがって、光重合開始剤の吸収波長域は、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にも存在することが必要である。また、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が、光源から発せられる光のピーク波長より短波長側にあると、電荷輸送物質の分解による電気特性の劣化が抑制され、さらに電荷輸送物質による光の吸収が非常に少ないため、膜内部から反応が均一に起こり、膜内に内部応力が生じず、架橋密度が均一になり好ましい。
【0062】
また、本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、表面層の電荷輸送性能を付与するために重要で、この成分は表面層全量に対し20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。この成分が20重量%未満では表面層の電荷輸送性能が充分に保てず、繰り返しの使用で感度低下、残留電位上昇などの電気特性の劣化が現れる。また、80重量%以上では電荷輸送構造を有しないラジカル重合性モノマーの含有量が低下し、架橋結合密度の低下を招き高い耐摩耗性が発揮されない。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70重量%の範囲が最も好ましい。
【0063】
また、本発明の表面層は少なくともラジカル重合性化合物を光エネルギー照射によりラジカル重合させ、硬化したものである。
重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、等のホスフィンオキサイド化合物、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられ、アシルホスフィンオキサイド化合物であることが好ましい。
【0064】
アシルホスフィンオキサイド化合物は400nm以上の可視域にも吸収を有するため、ラジカル重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を透過した光を効率よく吸収しラジカルを発生する。また、アシルホスフィンオキサイド化合物は分解によりそれ自身の光吸収がなくなる光ブリーチング効果を有するため内部の硬化性に優れている。このため面方向の光照射ムラ、膜内部における光の透過ムラの影響を受け難く、膜表面方向、膜厚方向で均一な硬化が瞬時に進行する。したがって、硬化部と未硬化部の硬度や体積収縮の違いに起因する凹凸が発生せず、平滑性の優れた架橋膜が得られる。
【0065】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
【0066】
更に、本発明の塗工液は必要に応じ、本発明の効果を害しない範囲で各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質などの添加剤を含有できる。これらの添加剤は公知のものが使用可能であり、可塑剤としてはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。
【0067】
また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーを利用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3重量%以下が適当である。
【0068】
本発明の表面層は、少なくともラジカル重合性化合物を含有する塗工液を塗布、硬化することにより形成される。かかる塗工液はラジカル重合性化合物が液体である場合、これに他の成分を溶解して塗布することも可能であるが、必要に応じて溶媒により希釈して塗布される。
このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ(登録商標)系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行うことができる。
【0069】
本発明の表面層の形成方法について説明する。
例えば、塗工液として、3つのアクリロイルオキシ基を有するアクリレートモノマーと、1つのアクリロイルオキシ基を有するトリアリールアミン化合物を使用する場合、これらの使用割合は7:3〜3:7であり、また、重合開始剤をこれらアクリレート化合物全量に対し3〜20重量%添加し、さらに溶媒を加えて塗工液を調製する。例えば、表面層の下層となる電荷輸送層において、電荷輸送物質としてトリアリールアミン系ドナー、及びバインダー樹脂として、ポリカーボネートを使用し、表面層をスプレー塗工により形成する場合、上記塗工液の溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、酢酸エチル等が好ましく、その使用割合は、アクリレート化合物全量に対し3倍量〜10倍量である。
次いで、例えば、アルミシリンダー等の支持体上に、下引き層、電荷発生層、上記電荷輸送層を順次積層した電子写真感光体上に、上記調製した塗工液をスプレー等により塗布する。その後、比較的低温で短時間乾燥し(20〜80℃、1〜10分間)、光エネルギーを照射して硬化させる。
【0070】
光エネルギー照射をLEDにより行う場合の照射光量は50mW/cm2以上、3000mW/cm2未満であることが好ましく、200mW/cm2以上、1500mW/cm2未満であることがさらに好ましい。50mW/cm2未満では硬化反応に時間を要する。またLEDによる光照射は、発光波長域が狭いため、3000mW/cm2以上であると架橋反応の進行が不均一となり、架橋表面層の凹凸や電気特性の劣化が激しくなる。
【0071】
また、光エネルギーにより硬化するときには、酸素による架橋阻害を防止するために、酸素濃度0.001〜2.0%にすることが好ましい。大気中には、約21%の酸素が含まれるため、光エネルギー照射槽内に窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを送り、槽内の空気の置換を行うことが好ましい。
酸素濃度0.001〜2.0%の低酸素濃度雰囲気を維持し光エネルギーを照射することにより、架橋密度が大きく、表面平滑性の高い膜が形成され、さらに低照射光量でも比較的良好な膜が形成される。
硬化終了後は、残留溶媒、残留開始剤の除去及び表面膜の安定化のため、100〜150℃で10分〜30分加熱して、電子写真感光体を得る。
【0072】
以下、本発明をその層構造に従い説明する。
[電子写真感光体の層構造]
本発明に用いられる電子写真感光体を図面に基づいて説明する。
図3は、本発明の電子写真感光体を表わす断面図であり、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する単層構造の感光層(33)が設けられ、さらに感光層上に架橋表面層(39)を形成した電子写真感光体である。
図4は、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能を有する電荷発生層(35)と、電荷輸送物機能を有する電荷輸送層(37)とが積層された積層構造の感光層上に架橋表面層(39)を形成した電子写真感光体である。
【0073】
[導電性支持体]
導電性支持体(31)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体として用いることができる。
【0074】
この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。
【0075】
このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
【0076】
[感光層]
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。
積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
【0077】
以下、積層構造の感光層及び単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0078】
[感光層が積層構成のもの]
(電荷発生層)
電荷発生層(35)は、電荷発生機能を有する電荷発生化合物を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生化合物としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
【0079】
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。そのなかで特にフタロシアニン類が有用に用いられ、なかでもチタニルフタロシアニン、そのなかでも、少なくともCu−Kα線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角2θの主要ピークが少なくとも9.6°±0.2°、24.0°±0.2°および27.2°±0.2°にある結晶型を有するY型チタニルフタロシアニンは高感度材料として特に有効である。
これらの電荷発生化合物は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0080】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
【0081】
また、電荷発生層には低分子電荷輸送物質を含有させることができる。
電荷発生層に併用できる低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
【0082】
電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0083】
正孔輸送物質としては、以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。
これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0084】
電荷発生層を形成する方法には、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが挙げられる。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が良好に形成できる。
【0085】
また、後述のキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生化合物を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。
【0086】
塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0087】
[電荷輸送層]
電荷輸送層(37)は電荷輸送機能を有する層で、本発明では電荷輸送層の上に表面層が形成される。
【0088】
電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送機能を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成し、この上に上記本発明のラジカル重合性組成物と必要に応じてフィラーを含有する塗工液を塗布し、LEDを光源とする光エネルギーにより架橋、硬化させる。電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0089】
電荷輸送物質としては、前記電荷発生層で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質及び高分子電荷輸送物質を用いることができる。
バインダー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0090】
電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用しても良い。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層と同様な塗工法が可能である。
【0091】
また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等、一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
【0092】
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜1重量部程度が適当である。
前述の表面層作製方法に記載したように、かかる電荷輸送層上に本発明のラジカル重合性組成物を含有する塗工液を塗布、必要に応じて乾燥後、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性がバラツキ、20μmより厚いと電荷輸送層全体の膜厚が厚くなり電荷の拡散から画像の再現性が低下する。
【0093】
[感光層が単層のもの]
単層構造の感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層で、本発明では感光層の上に表面層が形成される。
感光層(33)は電荷発生機能を有する電荷発生化合物と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。 電荷発生化合物の分散方法および電荷発生化合物、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤のそれぞれの説明は前記電荷発生層、電荷輸送層において既に述べたことが、そのまま援用できる。バインダー樹脂としては、先に電荷輸送層の項で挙げたバインダー樹脂のほかに、電荷発生層で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。かかる感光層の膜厚は、5〜30μm程度が適当であり、好ましくは10〜25μm程度が適当である。
【0094】
前述のようにかかる感光層上に本発明のラジカル重合性化合物と電荷発生化合物を含有する塗工液を塗布、必要に応じて乾燥後、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性のバラツキが生じる。
【0095】
単層構造の感光層中に含有される電荷発生化合物は感光層全量に対し1〜30重量%が好ましく、感光層に含有されるバインダー樹脂は全量の20〜80重量%、電荷輸送物質は10〜70重量部が良好に用いられる。
【0096】
[下引き層]
本発明の電子写真感光体においては、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。
このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。
【0097】
また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0098】
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al2O3を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0099】
[各層への酸化防止剤の添加について]
また、本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、表面層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
【0100】
本発明に用いることができる酸化防止剤として、下記のものが挙げられる。
(フェノール系化合物)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3′−ビス(4′−ヒドロキシ−3′−t−ブチルフェニル)ブチリックアッシド]グリコ−ルエステル、トコフェロール類など。
【0101】
(パラフェニレンジアミン類)
N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−N,N′−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミンなど。
【0102】
(ハイドロキノン類)
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
【0103】
(有機燐化合物類)
トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総重量に対して0.01〜10重量%である。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0105】
<発光波長測定>
LED光源の波長スペクトルは分光放射照度計スペクトロラディオメーターUSR−45V(ウシオ電機株式会社製)を用いて測定した。
【0106】
<吸光度の測定方法>
電荷輸送性構造を有する化合物をアセトニトリルに溶解し、2.00×10−6モル%溶液を作製する。吸光度の測定は島津製作所製、紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3600で行った。セルの材質は溶融石英を用い、セルの光路長は1cmとした。
溶液をセルに入れ、光エネルギーの照射前の吸収ピーク波長λにおける吸光度Asと光エネルギーの照射後の波長λにおける吸光度Aeを測定し、Ae/Asを求めた。
【0107】
<電荷輸送性構造を有する化合物の合成>
本発明における電荷輸送性構造を有する化合物は、例えば特許第3164426号公報記載の方法にて合成される。
【0108】
(ヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式B)の合成)
メトキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式A)113.85g(0.3mol)と、ヨウ化ナトリウム138g(0.92mol)にスルホラン240mlを加え、窒素気流中で60℃に加温した。この液中にトリメチルクロロシラン99g(0.91mol)を1時間で滴下し、約60℃の温度で4時間半撹拌し反応を終了させた。この反応液にトルエン約1.5Lを加え室温まで冷却し、水と炭酸ナトリウム水溶液で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=20:1)にて精製した。得られた淡黄色オイルにシクロヘキサンを加え、結晶を析出させた。この様にして下記構造式Bの白色結晶88.1g(収率=80.4%)を得た。
融点:64.0〜66.0℃
【0109】
【化9】
【0110】
【化10】
【0111】
【表1】
【0112】
(トリアリールアミノ基置換アクリレート化合物(構造式C)合成)
上記ヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(構造式B)82.9g(0.227mol)をテトラヒドロフラン400mlに溶解し、窒素気流中で水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:12.4g,水:100ml)を滴下した。この溶液を5℃に冷却し、アクリル酸クロライド25.2g(0.272mol)を40分かけて滴下した。その後、5℃で3時間撹拌し反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、トルエンにて抽出した。この抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液と水で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン)にて精製した。得られた無色のオイルにn−ヘキサンを加え、結晶を析出させた。このようにして構造式Cの化合物の白色結晶80.73g(収率=84.8%)を得た。
融点:117.5〜119.0℃、吸収波長端:400nm、吸収ピーク波長:330nm
【0113】
【化11】
【0114】
【表2】
【0115】
(実施例1)
Al製支持体(外径100mmφ)に、乾燥後の膜厚が3.5μmになるように浸漬法で塗工し、下引き層を形成した。
<下引き層用塗工液>
アルキッド樹脂 6.5部
(ベッコゾール 1307−60−EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂 3.5部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン 60部
(CR−EL:石原産業)
メチルエチルケトン 90部
この下引き層上にチタニルフタロシアニン顔料を含む電荷発生層塗工液を、浸漬塗工し、加熱乾燥させ、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
<電荷発生層用塗工液>
Y型チタニルフタロシアニン顔料 2.0部
ポリビニルブチラール(BX−1、積水化学社製) 0.5部
メチルエチルケトン 100部
この電荷発生層上に下記構造の電荷輸送層用塗工液を用いて浸積塗工し、加熱乾燥させ、膜厚15μmの電荷輸送層とした。
<電荷輸送層用塗工液>
ビスフェーノルZ型ポリカーボネート 9部
下記構造式1で表される電荷輸送化合物 9部
【0116】
【化12】
電荷輸送層上に下記構成の表面層形成用塗工液を用いて、スプレー塗工した。光エネルギー照射槽内に図5に示すような装置に電子写真感光体ドラムを取り付け、恒温槽の温度を40℃に設定した状態で温水を循環させて感光体ドラムの温度をコントロールしながら、感光体ドラムを回転させながら405nmにのみ発光ピークを持つLED光源(アイグラフィックス社製)により光照射を行った。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図6に示す。
感光体ドラム面における光照度は300mW/cm2、感光体ドラム面とLED光源との距離を1cmとし、照射時間を5分の条件で感光体ドラムを40rpmで回転させながら光照射を行い、更に130℃で30分乾燥を加え5μmの表面層を設けて本発明の電子写真感光体を得た。
光照射時における感光体ドラムの表面温度を光照射面とは反対面のドラム表面に熱電対を接触させて表面温度を測定した。
【0117】
<表面層形成用塗工液>
トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能アクリルモノマー) 5部
(商品名:SR351S、サートマー(株)社製)
下記構造式Cで表される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物 5部
(吸収スペクトル図7:吸収波長端400nm、吸収ピーク波長330nm)
【0118】
【化13】
光重合開始剤a(吸収スペクトル図8:吸収波長端440nm) 0.2部
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド
(イルガキュア819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
テトラヒドロフラン 70部
<吸光度の測定>
構造式Cで表される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物をアセトニトリルに溶解し、波長405nm)にのみ発光ピークを持つLED光源により光照射を行った。回転する感光体ドラム表面にセルを取り付け、セル面における光照度は300mW/cm2、セル表面とLED光源の距離を1cmとして、回転させながら5分間光照射した。そして光照射前後の吸光度から吸光度比Ae/Asを求めた。
【0119】
(実施例2)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図9に示す。
【0120】
(実施例3)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0121】
(実施例4)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図10に示す。
【0122】
(実施例5)
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を下記構造の化合物(構造式D、
吸収波長端425nm、吸収ピーク波長370nm)に代えた以外は実施例1と同様に作製した。また光照射前後の吸光度から吸光度比Ae/Asを求めた。
【0123】
【化14】
構造式Dで表される化合物の吸収スペクトルを図11に示す。
【0124】
(実施例6)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0125】
(実施例7)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0126】
(比較例1)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0127】
(実施例8)
表面層形成用塗工液で使用する電荷輸送性を有さないラジカル重合性モノマーを2官能アクリルモノマーであるテトラエチレングリコールジアクリレート(商品名:SR268、サートマー(株)社製)に代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0128】
(実施例9)
表面層形成用塗工液で使用する電荷輸送性を有さないラジカル重合性モノマーを4官能アクリルモノマーであるペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:SR295、サートマー(株)社製))に代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0129】
(実施例10)
光重合開始剤b(吸収波長端380nm)を1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)に代えた以外は実施例5と同様に作製した。
光重合開始剤bの吸収スペクトルを図12に示す。
【0130】
(実施例11)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0131】
(実施例12)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0132】
(比較例2)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0133】
上記実施例1乃至12及び比較例1乃至6で作製した電子写真感光体を以下の方法により評価した。
評価結果を表3、4に示す。
【0134】
<表面状態の評価>
加速摩耗前の表面層を目視で表面性を評価した。
【0135】
<耐久性試験>
作製した感光体をRICOH Pro 900に搭載にて暗部電位を−900Vに設定し、画像評価と明部電位測定を行った。その後A4サイズ50万枚通紙、さらに50万枚の通紙を行い、各通紙後に画像評価、明部電位測定を行った。また初期、50万枚及び100万枚通紙後に膜厚測定を行い、通紙による摩耗量を測定した。なお感光体の膜厚は渦電流式膜厚測定装置(フィッシャーインスツルメント製)を用いて測定した。
[画像評価]
◎:地汚れなし
○:わずかに地汚れ
△:一部地汚れ
×:全面地汚れ
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【符号の説明】
【0138】
(図1,2について)
1 配線基板
2 LED素子
3 感光体ドラム
4 反射板
(図3,4について)
31 導電性支持体
33 感光層
35 電荷発生層
37 電荷輸送層
39 架橋表面層
(図5について)
2 感光体ドラム
4 熱媒体
5 恒温槽
6 モータ
7 ベルト
8 二重管
【先行技術文献】
【特許文献】
【0139】
【特許文献1】特開昭56−48637号公報
【特許文献2】特開昭64−1728号公報
【特許文献3】特開平4−281461号公報
【特許文献4】特開平8−262779号公報(特許第3262488号公報)
【特許文献5】特開平5−216249号公報(特許第3194392号公報)
【特許文献6】特開2000−66425号公報
【特許文献7】特開2004−302450号公報
【特許文献8】特開2004−302451号公報
【特許文献9】特開2004−302452号公報
【特許文献10】特開2007−322867号公報
【特許文献11】特開2001−125297号公報
【特許文献12】特開2010−164987号公報
【特許文献13】特開2008−134505号公報
【特許文献14】特開2012−002997号公報
【特許文献15】特開2012−037749号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを照射して架橋・硬化した表面層を有する電子写真感光体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPC:Organic Photoconductor)は良好な性能、様々な利点から、無機感光体に代わり複写機、ファクシミリ、レーザープリンタ及びこれらの複合機に多く用いられている。この理由としては、例えば(1)光吸収波長域の広さ及び吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
【0003】
一方、最近画像形成装置の小型化から感光体の小径化が進み、機械の高速化やメンテナンスフリーの動きも加わり感光体の高耐久化が切望されるようになってきた。この観点からみると、有機感光体は、表面層が低分子電荷輸送物質と不活性高分子物質とを主成分としているため一般に柔らかく、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用された場合、現像システムやクリーニングシステムによる機械的な負荷により摩耗が発生しやすいという欠点を有している。加えて高画質化の要求からトナー粒子の小粒径化に伴いクリーニング性を向上させる目的でクリーニングブレードのゴム硬度の上昇と当接圧力の上昇が余儀なくされ、このことも感光体の摩耗量を増加させる要因となっている。このような感光体の摩耗は、感度の劣化、帯電性の低下などの電気的特性を劣化させ、画像濃度低下、地肌汚れ等の異常画像の原因となる。
また摩耗が局所的に発生した傷は、クリーニング不良によるスジ状汚れ画像をもたらす。現状では感光体の寿命はこの摩耗や傷が律速となり、交換に至っている。
【0004】
したがって、有機感光体の高耐久化においては前述の摩耗量を低減することが不可欠であり、これが当分野でもっとも解決が迫られている課題である。
【0005】
感光体の耐摩耗性を改良する技術としては、(1)表面層に硬化性バインダーを用いたもの(例えば、特許文献1参照。)、(2)高分子型電荷輸送物質を用いたもの(例えば、特許文献2参照。)、(3)表面層に無機フィラーを分散させたもの(例えば、特許文献3参照。)等が挙げられる。
これらの技術のうち、(1)の硬化性バインダーを用いたものは、電荷輸送物質との相溶性が悪いためや重合開始剤、未反応残基などの不純物により残留電位が上昇し画像濃度低下が発生し易い傾向がある。
また、(2)の高分子型電荷輸送物質を用いたもの、及び(3)の無機フィラーを分散させたものは、ある程度の耐摩耗性向上が可能であるものの、有機感光体に求められている耐久性を十二分に満足させるまでには至っていない。
さらに(3)の無機フィラーを分散させたものは、無機フィラー表面に存在するトラップにより残留電位が上昇し、画像濃度低下が発生し易い傾向にある。これら(1)、(2)、(3)の技術では、有機感光体に求められる電気的な耐久性、機械的な耐久性をも含めた総合的な耐久性を十二分に満足するには至っていない。
【0006】
さらに、(1)の耐摩耗性と耐傷性を改良するために多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させた感光体も知られている(特許文献4参照)。しかし、この感光体においては、感光層上に設けた保護層にこの多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させる旨の記載があるものの、この保護層においては電荷輸送物質を含有せしめてもよいことが記載されているのみで具体的な記載はなく、しかも、単に表面層に低分子の電荷輸送物質を含有させた場合には、上記硬化物との相溶性の問題があり、これにより、低分子電荷輸送物質の析出、白濁現象が起こり、機械強度も低下してしまうことがあった。
さらに、この感光体は、具体的には高分子バインダーを含有した状態でモノマーを反応させるため、硬化が充分に進行しないことや、硬化物とバインダー樹脂との相溶性の問題があり、硬化時に相分離による表面凹凸が生じクリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
【0007】
これらに代わる感光層の耐摩耗技術として、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、炭素−炭素二重結合を有する電荷輸送物質及びバインダー樹脂からなる塗工液を用いて形成した電荷輸送層を設けることが知られており(例えば、特許文献5参照。)、このバインダー樹脂には、炭素−炭素二重結合を有し、上記電荷輸送物質に対して反応性を有するものと、上記二重結合を有せず反応性を有しないものが含まれる。
この感光体は耐摩耗性と良好な電気的特性を両立しており注目されるが、バインダー樹脂として反応性を有しないものを使用した場合においては、バインダー樹脂と、上記モノマーと電荷輸送物質との反応により生成した硬化物との相溶性が悪く、層分離から架橋時に表面凹凸が生じ、クリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
また、上記のように、この場合バインダー樹脂がモノマーの硬化を妨げるほか、この感光体において使用される上記モノマーとして具体的に記載されているものは2官能性のものであり、この2官能性モノマーでは官能基数が少なく充分な架橋密度が得られず、これらの点で耐摩耗性の点では未だ満足するには至らなかった。
また、反応性を有するバインダーを使用した場合においても、上記モノマーおよび上記バインダー樹脂に含有される官能基数の低さから、上記電荷輸送物質の結合量と架橋密度との両立は難しく、電気特性及び耐摩耗性も充分とは言えないものであった。
【0008】
また、同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質を硬化した化合物を含有する感光層も知られている(例えば、特許文献6参照。)。
しかし、この感光層は嵩高い電荷輸送物質が二つ以上の連鎖重合性官能基を有するため硬化物中に歪みが発生し内部応力が高くなり、表面層の荒れや経時におけるクラックが発生しやすい場合があり、十分な耐久性を有していない。
【0009】
上記課題に対して、表面層を少なくとも電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマーと電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーの照射により硬化した架橋樹脂層とすることにより、電気特性及び耐摩耗性が向上することを見出した(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。
【0010】
一方、上記光エネルギーは紫外線ランプによる紫外光が一般的であり、前記紫外線ランプから発せられる光エネルギーには架橋反応に必要としない波長の光エネルギーも含まれており、特に赤外領域に発光波長を有する光エネルギーの場合、基体に大きな熱がかかることで急激に架橋反応が進み、表面性が大きく変化し、表面凹凸が大きくなりやすい。
その結果、クリーニング不良が発生しやすく、長期的に使用した場合、クリーニングブレードが局所的に欠け、クリーニング不良が発生し、スジ状の異常画像が発生する。
【0011】
また、架橋反応が急激に進むと、電子線等による架橋と同様に、内部応力が大きくなる結果、長期使用により表面層と電荷輸送層の界面まで摩耗が進むと表面層の剥がれが起こり、その後、さらに摩耗が急激に進み、地汚れが発生する。このような課題に対して、基体を冷却することで急激な架橋反応を抑制する方法が考え出された。(例えば、特許文献10、特許文献11)
【0012】
光エネルギーの照射による架橋樹脂膜の別の課題としては、表面と内部の硬化のバラツキによる耐摩耗性の劣化が挙げられる。電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長は光重合開始剤の吸収波長に近接しているため、ラジカルを発生させるために必要な光エネルギーが電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、表面層内部まで十分に到達しない。そのため、表面に比べて内部の硬化が不十分となり、硬化のバラツキによる耐摩耗性が劣化する。上記課題を解決するためには、表面層内部の重合開始剤まで十分に光エネルギーが到達し、内部まで十分に硬化するだけの過剰な光エネルギーを照射することが必要となるが、その結果、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物が長時間あるいは過剰な光エネルギーに暴露されることになり、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解等による電子写真感光体の電気特性の劣化が生じる。
【0013】
また、特許文献12の特開2010−164987号公報には、光重合開始剤として400nm以上の領域に吸収を有する化合物を用い、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長域を透過した光により表面層の内部からも均一に架橋させ、表面平滑性及び電気特性を向上させた感光体が記載されている。
しかし、高圧水銀灯やメタルハライドランプなどの発光波長域の広いUV照射光源を用いるものであるため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解防止が充分でなく、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の分解防止のためには、光重合開始剤の含有量を減らすことができず、架橋表面層のラジカル重合性モノマー及び電荷輸送性化合物の含有量が実質的に減少し、光重合開始剤が残留して架橋表面層内部が不均一化することがあり、耐摩耗性や残留電位の上昇防止が充分でない。
【0014】
また、特許文献13の特開2008−134505号公報には、LED光源のピーク波長と、光重合開始剤の吸収ピーク波長とが重なるようにすることが記載されているが、電荷輸送物質を含むものではない。
【0015】
LEDはその発光素子を選ぶことで熱の発生源となる赤外光領域や電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長領域を含まない光エネルギーを発光させることが可能である。
しかしながら、発光領域の広い従来の紫外線ランプに比べて総合的な光エネルギーは非常に小さいため、電荷輸送物質の吸収波長領域の光では、荷輸送物質を含む表面層内部まで均一かつ十分に硬化させることは困難である。
また、特許文献14の特開2012−002997号公報、特許文献15の特開2012−037749号公報には光源にLEDを用い、さらに酸素阻害による硬化不良を防止することが記載されているが、酸素阻害は架橋表面層の表面に発生する不具合であり、内部の硬化均一性には影響を及ぼさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、膜表面の状態が良好であり、表面層内部にわたって均一で、耐摩耗性及び耐傷性が高く安定であり、且つ電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現した電子写真感光体の提供、及び、該電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、本発明の、下記(1)〜(10)によって解決される。
(1)「導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体」、
(2)「前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の吸光度AeのAe/As比が0.9以上であることを特徴とする前記(1)項に記載の電子写真感光体」、
(3)「前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収端波長が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする前記(1)項または(2)項に記載の電子写真感光体」、
(4)「前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする前記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の電子写真感光体」、
(5)「前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする前記(1)項乃至(4)項のいずれかに記載の電子写真感光体」、
(6)「導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法にであって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)と、光重合開始剤と含む表面層塗膜に、LEDを光源とする光エネルギーを照射し、硬化させて架橋層を形成するものであり、
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長よりも長波長側にあり、かつ、前記光重合開始剤の吸収端波長域にあることを特徴とする電子写真感光体の製造方法」、
(7)「前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にあることを特徴とする前記(6)記載の電子写真感光体の製造方法」、
(8)「前記LEDから発せられる光のピーク波長が400nm以上であり、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする前記(6)または(7)記載の電子写真感光体の製造方法」、
(9)「前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする前記(6)乃至(8)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法」、
(10)「前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする前記(6)乃至(9)のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法」。
【発明の効果】
【0018】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明によれば、表面層内部にわたって均一で、かつ、膜表面の状態が良好であり、耐摩耗性及び耐傷性が高く安定であり、且つ電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現した電子写真感光体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】感光体ドラム側面から見た、LED光源から感光体に直接光エネルギーを照射する方法の一例を示す図である。
【図2】感光体ドラム上面から見た、LED光源からの光を、一度反射板に反射させて照射する方法の一例を示す図である。
【図3】本発明の電子写真感光体の断面の一例を示す図である。
【図4】本発明の電子写真感光体の断面の一例を示す図である。
【図5】光エネルギー照射槽内に取り付けられた電子写真感光体の概略図である。
【図6】405nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図7】構造式Cで表される化合物の吸収スペクトルである。
【図8】光重合開始剤aの吸収スペクトルである。
【図9】395nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図10】365nmに発光ピークを持つLEDの出射パワー波長スペクトルである。
【図11】構造式Dで表される化合物の吸収スペクトルである。
【図12】光重合開始剤bの吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電子写真感光体について詳細に説明する。
本発明は、導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上である電子写真感光体である。
【0021】
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は電荷輸送ユニットに由来する300nm〜400nmの波長領域に吸収ピークを有するため、照射される光エネルギーの中に300nm〜400nmの波長領域の光が含まれると、電荷輸送ユニットが分解して電荷輸送機能が低下する。
【0022】
ここで光エネルギー照射後において残存した電荷輸送ユニットの残存率は光エネルギー照射前後の吸光度の比から求めることが可能であり、Ae/As比が0.7以上であれば実用に耐えうる電荷輸送能力を保持することが可能である。さらに0.9以上であれば、光エネルギー照射前とほとんど変わらない電荷輸送能力を保持することが可能である。
【0023】
必要な電荷輸送機能を保持するためには、電荷輸送ユニットの分解を抑制すればよいが、そのためには、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収波長域と光エネルギーの発光波長域の重なりを小さくし、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギーの吸収を可能な限り少なくすることが必要である。
つまり、照射する光エネルギーの発光ピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長より長く、前記光重合開始剤の吸収波長域にあることが好ましい。さらに前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より長くすることがより好ましい。
【0024】
照射する光エネルギーのピーク波長を、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より長くすることで電荷輸送ユニットの分解を抑制すると同時に、光エネルギーが表面層内部の光重合開始剤に十分到達するため、表面層内部からも均一に架橋硬化し、内部応力の発生が防止される。
【0025】
一方、照射する光エネルギーのピーク波長を、前記光重合開始剤の吸収波長域内にすることでラジカルの発生効率が向上し、迅速な架橋反応が開始される。
光エネルギーのピーク波長が、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端より短いと、光エネルギーが電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、表面層内部の光重合開始剤まで光エネルギーが充分到達し難く、照射時間を長くしたり、照射する光の強度を高くしたりする必要が生じ、電荷輸送物質の劣化が生じる。
また、光エネルギーのピーク波長が、光重合開始剤の吸収波長域内にないと、光重合開始剤のラジカル発生効率が低下する。
【0026】
光エネルギーの照射は、LED光源を用いることが好ましい。
架橋表面層はラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層上に塗工後、紫外線等の光エネルギーを照射することで形成される。
一般に紫外線ランプが発する光には、光重合開始剤がラジカルを発生する波長光だけでなく、熱の発生源となる赤外光なども含まれ、赤外領域の光エネルギーにより、表面層塗膜の温度上昇を招き、塗膜表面が収縮して表面凹凸が生じたり、急激な架橋反応により表面層の内部応力が大きくなったりすることで表面層の膜剥がれが発生し易くなる。
また、紫外線ランプから照射される光の波長領域が広いため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物は光エネルギーを吸収して分解し電気特性が劣化すると共に、該分解生成物は架橋構造中に取り込まれず、表面層が不均一化して耐摩耗性・耐傷性が低下する。
また、紫外線ランプは発光領域が広いため、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にも吸収波長域がある光重合開始剤を用い、且つ、電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の長波長側の吸収波長端よりも長波長領域に発光ピークを有するものを用いても電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の劣化を完全に防止することは困難である。
【0027】
上記、紫外線ランプから照射される不必要な波長光をカットする、赤外線カットフィルターや紫外線カットフィルターなどが存在するが、単一のフィルターで光エネルギーの損失がなくかつ必要とする波長光のみを効率的に透過させることは非常に困難である。
また、赤外線カットフィルターなど長波長光を吸収するフィルターの場合、赤外線によりフィルター自体が高温になるため、フィルターの耐久性が充分でなく実用に耐えるものではない。
また、一般の紫外線ランプは交流電源で駆動されるため、発光が周期的になり、架橋反応にムラが生じ易く、紫外線ランプを発光させるためには、膨大な電気エネルギーが必要であるのに加えて、紫外線ランプ等の冷却のため、ブロアー等の冷却装置が必要であることから、電気エネルギーの莫大な消費とともに装置の大型化によって設置場所が限定される。
【0028】
これに対し、LED光源は一般の紫外線ランプと異なり、発光波長領域は非常に狭く、
光重合開始剤がラジカルを発生するのに必要な波長領域の光のみを発光させることが可能であることから、熱的な影響を及ぼす赤外線や、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を劣化させる紫外線を含まない光源とすることができ、また、発光領域の広い従来の紫外線ランプに比べて総合的な光エネルギーが小さく、ゆっくり硬化することで内部応力が生じることなく、電荷輸送物質を含む表面層内部まで均一かつ十分に硬化させることができる。
さらに、直流電源で駆動されるため、連続して発光し、表面層全体で架橋反応が均一に起こり、内部応力や表面凹凸の発生がない。さらにLED光源は、非常に小さく設置場所の制約が小さいため好ましく使用できる。
【0029】
光源から発せられる光のピーク波長は、400nm以上であることが好ましい。電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物の吸収波長域は、400nm未満であることが多く、光のピーク波長が400nm未満であると電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物に吸収され、内部からの架橋反応が起こり難く、また電荷輸送物質の劣化が生じる。
【0030】
本発明で使用するLED光源は、紫外線領域に発光波長を有するLED素子で構成されたものを使用することができ、一部可視領域に波長光を有するものであってもよい。
LED素子の材料としてはインジウム窒化ガリウム、窒化ガリウム、アルミニウム窒化ガリウムなどがある。LED素子の形状としてはランプ状になったものの他に、基体内にチップとして埋め込まれたものがあり、いずれも使用できる。
【0031】
LED光源から感光体ドラムに光エネルギーを照射する方法としては、従来の紫外線ランプと同様の方法が利用可能である。
図1に示す、LED光源から感光体に直接光エネルギーを照射させる方法や、図2に示す、LED光源からの光を、一度反射板に反射させて照射する方法などが用いられる。
また、LED光源による光エネルギー照射では熱の発生原因となる赤外線が発生しないため、光エネルギー照射時に感光体ドラムの冷却が不要になる。
【0032】
次に、本発明の表面層塗布液の構成材料について説明する。
本発明の表面層塗布液は、ラジカル重合性化合物と光重合開始剤及び有機溶媒からなる。
本発明で使用されるラジカル重合性化合物は、1.電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と2.電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の2つに分類される。
【0033】
[電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有さないモノマーであり、炭素−炭素2重結合等を有し、ラジカル重合可能な基を有するものであれば何れでもよい。
前記ラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0034】
(1)1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基が挙げられる。
【0035】
【化1】
〔ただし、式中、X2は、置換基を有していてもよいフェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CONR36−基(R36は、水素、メチル基、エチル基等のアルキル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を表す)、または−S−基を表す。〕
これらの置換基の具体例を示すと、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基等が挙げられる。
【0036】
(2)1,1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基が挙げられる。
【0037】
【化2】
〔ただし、式中、Y4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基あるいはエトキシ基等のアルコキシ基または、−COOR37基を表し、また、X3は上記のX2と同一の基及び単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y4、X3の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、及び芳香族環よりなる群から選ばれた基である。R37は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、または−CONR38R39(R38およびR39は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等のアラルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表し、互いに同一または異なっていてもよい。)である。〕
【0038】
これらの置換基の具体例を示すと、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基等が挙げられる。
【0039】
なお、これらX2、X3、Y4の基にさらに置換する置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0040】
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0041】
本発明の表面層は電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)由来の部位を30重量%以上70重量%以下含有することが好ましい。30重量%未満であると表面層の耐摩耗性・耐傷性が低下することがあり、70重量%を超えると電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の含有量が少なく、残留電位が上昇することがある。
【0042】
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の官能基数は特に制限ないが、1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると表面層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招くため、これらのモノマーやオリゴマーの含有量は、3官能以上のラジカル重合性モノマー100重量部に対し50重量部以下、好ましくは30重量部以下に制限される。
【0043】
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の具体例としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
すなわち、本発明において使用する上記ラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えば、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−フェノキシアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、EO変性ノニルフェニルアクリレート、イソボニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、PO変性アリルメタクリレート、EO変性ヒドロキシエチルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独又は2種類以上を併用しても差し支えない。
【0044】
[電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)としては、例えばトリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しており、且つラジカル重合性官能基を有する化合物を指す。このラジカル重合性官能基としては、先のラジカル重合性モノマー(イ)について説明した基が挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0045】
また、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、官能基が、2官能以上の多官能のものであってもよいが1官能であるものが好ましい。
2官能以上の電荷輸送性化合物であると、電荷輸送性構造が非常に嵩高いため複数の結合で架橋構造中に固定されると硬化樹脂中に歪みが発生し、表面層の内部応力が高くなり、キャリア付着等でクラックや傷の発生を引き起こしやすくなるためである。
特に表面層の膜厚が5μmを越える膜を形成した場合、前記表面層の内部応力が非常に高くなり、架橋直後にクラックが発生しやすくなる。
【0046】
また、2官能以上の電荷輸送性化合物は、複数の結合で架橋構造中に固定されるため、電荷輸送時の中間体構造(カチオンラジカル)を安定して保てず、電荷のトラップによる感度の低下、残留電位の上昇が起こしやすくなる。これらの電気的特性の劣化は、画像濃度低下、文字の細り等の画像として現れる。
このようなことから、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、架橋結合間にペンダント状に固定化される1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物であると、クラックや傷の発生防止、及び静電的特性が安定化され好ましい。
【0047】
電荷輸送性構造としてはトリアリールアミン構造であることが好ましい。また官能基数が1つであるものが好ましく、さらに、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であると、感度、残留電位等の電気的特性が良好に持続されるため好ましい。
【0048】
【化3】
【0049】
【化4】
〔式中、R1は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR7、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR8R9よりなる群から選ばれた基であり、Ar1、Ar2は置換もしくは無置換のアリーレン基を表わし、同一であっても異なってもよい。Ar3、Ar4は置換もしくは無置換のアリール基を表わし、両者は同一であっても異なってもよい。Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基よりなる群から選ばれた基であり、Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基よりなる群から選ばれた基であり、m、nは0〜3の整数を表わす(R7は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基であり、R8及びR9は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基又は置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基であり、両者は互いに同一であっても異なっていてもよい)。〕
【0050】
以下に、一般式(1)、(2)の具体例を示す。
前記一般式(1)、(2)において、R1の置換基中、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等がそれぞれ挙げられ、これらは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基(メチル基、エチル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、フェノキシ基等のアリールオキシ基、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等)等により置換されていてもよい。R1の置換基のうち、特に好ましいものは水素原子またはメチル基である。
置換もしくは無置換のAr3、Ar4はアリール基であり、アリール基としては縮合多環式炭化水素基、非縮合環式炭化水素基及び複素環基が挙げられる。
該縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のもの、例えば、ペンタニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレル基、ピレニル基、クリセニル基、及びナフタセニル基等が挙げられる。
【0051】
該非縮合環式炭化水素基としては、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ポリエチレンジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテル及びジフェニルスルホン等の単環式炭化水素化合物の1価基、あるいはビフェニル、ポリフェニル、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、ジフェニルアルキン、トリフェニルメタン、ジスチリルベンゼン、1,1−ジフェニルシクロアルカン、ポリフェニルアルカン、及びポリフェニルアルケン等の非縮合多環式炭化水素化合物の1価基、あるいは9,9−ジフェニルフルオレン等の環集合炭化水素化合物の1価基が挙げられる。
【0052】
複素環基としては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、及びチアジアゾール等の1価基が挙げられる。
また、前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基は例えば以下に示すような置換基を有してもよい。
(1)ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等。
(2)アルキル基。好ましくは、C1〜C12とりわけC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体例を示すとメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−プロピル基、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、4−フェニルベンジル基等が挙げられる。
(3)アルコキシ基(−OR2)。R2は(2)で定義したアルキル基を表わす。その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
(4)アリールオキシ基。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。これは、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等が挙げられる。
(5)アルキルメルカプト基またはアリールメルカプト基。具体例としてはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。
(6)
【0053】
【化5】
〔式中、R3及びR4は各々独立に水素原子、前記(2)で定義したアルキル基、またはアリール基を表わす。アリール基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基又はナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。R3及びR4は共同で環を形成してもよい。〕
具体例としては、アミノ基、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(トリール)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基等が挙げられる。
(7)メチレンジオキシ基、又はメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基又はアルキレンジチオ基等。
(8)置換又は無置換のスチリル基、置換又は無置換のβ−フェニルスチリル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジトリルアミノフェニル基等。
【0054】
前記Ar1、Ar2で表わされるアリーレン基としては、前記Ar3、Ar4で表されるアリール基から誘導される2価基である。
前記Xは単結合、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のシクロアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表わす。
置換もしくは無置換のアルキレン基としては、C1〜C12、好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、これらのアルキレン基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体的にはメチレン基、エチレン基、n−ブチレン基、i−プロピレン基、t−ブチレン基、s−ブチレン基、n−プロピレン基、トリフルオロメチレン基、2−ヒドロキシエチレン基、2−エトキシエチレン基、2−シアノエチレン基、2−メトキシエチレン基、ベンジリデン基、フェニルエチレン基、4−クロロフェニルエチレン基、4−メチルフェニルエチレン基、4−ビフェニルエチレン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のシクロアルキレン基としては、C5〜C7の環状アルキレン基であり、これらの環状アルキレン基にはフッ素原子、水酸基、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基を有していても良い。具体的にはシクロヘキシリデン基、シクロへキシレン基、3,3−ジメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールを表わし、アルキレンエーテル基、アルキレン基はヒドロキシル基、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。
前記ビニレン基は、
【0055】
【化6】
で表わされ、R5は水素、アルキル基〔前記(2)で定義されるアルキル基と同じ〕、アリール基(前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基と同じ)、aは1または2、bは1〜3を表わす。
【0056】
前記Zは置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基を表わすものであるが、ここにおける置換もしくは無置換のアルキレン基としては、前記Xのアルキレン基と同様なものが挙げられ、置換もしくは無置換のアルキレンエーテル基としては、前記Xのアルキレンエーテル基が挙げられ、またアルキレンオキシカルボニル基としては、カプロラクトン変性基が挙げられる。
【0057】
また、本発明の1官能の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)として更に好ましい化合物としては、下記一般式(3)の構造の化合物が挙げられる。
【0058】
【化7】
(式中、o、p、qはそれぞれ0又は1の整数、Raは水素原子、メチル基を表わし、Rb、Rcは水素原子以外の置換基で炭素数1〜6のアルキル基を表わし、RbとRcは同一であっても異なっていても良く、s、tは0〜3の整数を表わし、Zaは単結合、メチレン基、エチレン基、
【0059】
【化8】
よりなる群から選ばれた基を表わす。)
上記一般式で表わされる化合物としては、Rb、Rcの置換基として、特にメチル基、エチル基である化合物が好ましい。
【0060】
本発明で用いる上記一般式(1)及び(2)特に(3)記載の1官能性の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、炭素−炭素間の二重結合が両側に開放されて重合するため、末端構造とはならず、連鎖重合体中に組み込まれ、ラジカル重合性モノマー(イ)との重合で架橋形成された重合体中では、高分子の主鎖中に存在し、かつ主鎖−主鎖間の架橋鎖中に存在(この架橋鎖には1つの高分子と他の高分子間の分子間架橋鎖と、1つの高分子内で折り畳まれた状態の主鎖のある部位と主鎖中でこれから離れた位置に重合したモノマー由来の他の部位とが架橋される分子内架橋鎖とがある)するが、主鎖中に存在する場合であってもまた架橋鎖中に存在する場合であっても、鎖部分から懸下するトリアリールアミン構造は、窒素原子から放射状方向に配置する少なくとも3つのアリール基を有し、バルキーであるが、鎖部分に直接結合しておらず鎖部分からカルボニル基等を介して懸下しているため立体的位置取りに融通性ある状態で固定されているので、これらトリアリールアミン構造は重合体中で相互に程よく隣接する空間配置が可能であるため、分子内の構造的歪みが少なく、また、電子写真感光体の表面層とされた場合に、電荷輸送経路の断絶を比較的免れた分子内構造を採りうるものと推測される。
【0061】
また、光重合開始剤の吸収波長と電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収波長とが重なると光エネルギーが電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)に吸収され、光重合開始剤に届き難くなり、架橋速度が急激に低下する。
したがって、光重合開始剤の吸収波長域は、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にも存在することが必要である。また、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が、光源から発せられる光のピーク波長より短波長側にあると、電荷輸送物質の分解による電気特性の劣化が抑制され、さらに電荷輸送物質による光の吸収が非常に少ないため、膜内部から反応が均一に起こり、膜内に内部応力が生じず、架橋密度が均一になり好ましい。
【0062】
また、本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、表面層の電荷輸送性能を付与するために重要で、この成分は表面層全量に対し20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。この成分が20重量%未満では表面層の電荷輸送性能が充分に保てず、繰り返しの使用で感度低下、残留電位上昇などの電気特性の劣化が現れる。また、80重量%以上では電荷輸送構造を有しないラジカル重合性モノマーの含有量が低下し、架橋結合密度の低下を招き高い耐摩耗性が発揮されない。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70重量%の範囲が最も好ましい。
【0063】
また、本発明の表面層は少なくともラジカル重合性化合物を光エネルギー照射によりラジカル重合させ、硬化したものである。
重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、等のホスフィンオキサイド化合物、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられ、アシルホスフィンオキサイド化合物であることが好ましい。
【0064】
アシルホスフィンオキサイド化合物は400nm以上の可視域にも吸収を有するため、ラジカル重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を透過した光を効率よく吸収しラジカルを発生する。また、アシルホスフィンオキサイド化合物は分解によりそれ自身の光吸収がなくなる光ブリーチング効果を有するため内部の硬化性に優れている。このため面方向の光照射ムラ、膜内部における光の透過ムラの影響を受け難く、膜表面方向、膜厚方向で均一な硬化が瞬時に進行する。したがって、硬化部と未硬化部の硬度や体積収縮の違いに起因する凹凸が発生せず、平滑性の優れた架橋膜が得られる。
【0065】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
【0066】
更に、本発明の塗工液は必要に応じ、本発明の効果を害しない範囲で各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質などの添加剤を含有できる。これらの添加剤は公知のものが使用可能であり、可塑剤としてはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。
【0067】
また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーを利用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3重量%以下が適当である。
【0068】
本発明の表面層は、少なくともラジカル重合性化合物を含有する塗工液を塗布、硬化することにより形成される。かかる塗工液はラジカル重合性化合物が液体である場合、これに他の成分を溶解して塗布することも可能であるが、必要に応じて溶媒により希釈して塗布される。
このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ(登録商標)系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行うことができる。
【0069】
本発明の表面層の形成方法について説明する。
例えば、塗工液として、3つのアクリロイルオキシ基を有するアクリレートモノマーと、1つのアクリロイルオキシ基を有するトリアリールアミン化合物を使用する場合、これらの使用割合は7:3〜3:7であり、また、重合開始剤をこれらアクリレート化合物全量に対し3〜20重量%添加し、さらに溶媒を加えて塗工液を調製する。例えば、表面層の下層となる電荷輸送層において、電荷輸送物質としてトリアリールアミン系ドナー、及びバインダー樹脂として、ポリカーボネートを使用し、表面層をスプレー塗工により形成する場合、上記塗工液の溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、酢酸エチル等が好ましく、その使用割合は、アクリレート化合物全量に対し3倍量〜10倍量である。
次いで、例えば、アルミシリンダー等の支持体上に、下引き層、電荷発生層、上記電荷輸送層を順次積層した電子写真感光体上に、上記調製した塗工液をスプレー等により塗布する。その後、比較的低温で短時間乾燥し(20〜80℃、1〜10分間)、光エネルギーを照射して硬化させる。
【0070】
光エネルギー照射をLEDにより行う場合の照射光量は50mW/cm2以上、3000mW/cm2未満であることが好ましく、200mW/cm2以上、1500mW/cm2未満であることがさらに好ましい。50mW/cm2未満では硬化反応に時間を要する。またLEDによる光照射は、発光波長域が狭いため、3000mW/cm2以上であると架橋反応の進行が不均一となり、架橋表面層の凹凸や電気特性の劣化が激しくなる。
【0071】
また、光エネルギーにより硬化するときには、酸素による架橋阻害を防止するために、酸素濃度0.001〜2.0%にすることが好ましい。大気中には、約21%の酸素が含まれるため、光エネルギー照射槽内に窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを送り、槽内の空気の置換を行うことが好ましい。
酸素濃度0.001〜2.0%の低酸素濃度雰囲気を維持し光エネルギーを照射することにより、架橋密度が大きく、表面平滑性の高い膜が形成され、さらに低照射光量でも比較的良好な膜が形成される。
硬化終了後は、残留溶媒、残留開始剤の除去及び表面膜の安定化のため、100〜150℃で10分〜30分加熱して、電子写真感光体を得る。
【0072】
以下、本発明をその層構造に従い説明する。
[電子写真感光体の層構造]
本発明に用いられる電子写真感光体を図面に基づいて説明する。
図3は、本発明の電子写真感光体を表わす断面図であり、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する単層構造の感光層(33)が設けられ、さらに感光層上に架橋表面層(39)を形成した電子写真感光体である。
図4は、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能を有する電荷発生層(35)と、電荷輸送物機能を有する電荷輸送層(37)とが積層された積層構造の感光層上に架橋表面層(39)を形成した電子写真感光体である。
【0073】
[導電性支持体]
導電性支持体(31)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体として用いることができる。
【0074】
この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。
【0075】
このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
【0076】
[感光層]
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。
積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
【0077】
以下、積層構造の感光層及び単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0078】
[感光層が積層構成のもの]
(電荷発生層)
電荷発生層(35)は、電荷発生機能を有する電荷発生化合物を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生化合物としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
【0079】
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。そのなかで特にフタロシアニン類が有用に用いられ、なかでもチタニルフタロシアニン、そのなかでも、少なくともCu−Kα線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角2θの主要ピークが少なくとも9.6°±0.2°、24.0°±0.2°および27.2°±0.2°にある結晶型を有するY型チタニルフタロシアニンは高感度材料として特に有効である。
これらの電荷発生化合物は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0080】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
【0081】
また、電荷発生層には低分子電荷輸送物質を含有させることができる。
電荷発生層に併用できる低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
【0082】
電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0083】
正孔輸送物質としては、以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。
これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0084】
電荷発生層を形成する方法には、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが挙げられる。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が良好に形成できる。
【0085】
また、後述のキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生化合物を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。
【0086】
塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0087】
[電荷輸送層]
電荷輸送層(37)は電荷輸送機能を有する層で、本発明では電荷輸送層の上に表面層が形成される。
【0088】
電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送機能を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成し、この上に上記本発明のラジカル重合性組成物と必要に応じてフィラーを含有する塗工液を塗布し、LEDを光源とする光エネルギーにより架橋、硬化させる。電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0089】
電荷輸送物質としては、前記電荷発生層で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質及び高分子電荷輸送物質を用いることができる。
バインダー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0090】
電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用しても良い。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層と同様な塗工法が可能である。
【0091】
また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等、一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
【0092】
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜1重量部程度が適当である。
前述の表面層作製方法に記載したように、かかる電荷輸送層上に本発明のラジカル重合性組成物を含有する塗工液を塗布、必要に応じて乾燥後、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性がバラツキ、20μmより厚いと電荷輸送層全体の膜厚が厚くなり電荷の拡散から画像の再現性が低下する。
【0093】
[感光層が単層のもの]
単層構造の感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層で、本発明では感光層の上に表面層が形成される。
感光層(33)は電荷発生機能を有する電荷発生化合物と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。 電荷発生化合物の分散方法および電荷発生化合物、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤のそれぞれの説明は前記電荷発生層、電荷輸送層において既に述べたことが、そのまま援用できる。バインダー樹脂としては、先に電荷輸送層の項で挙げたバインダー樹脂のほかに、電荷発生層で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。かかる感光層の膜厚は、5〜30μm程度が適当であり、好ましくは10〜25μm程度が適当である。
【0094】
前述のようにかかる感光層上に本発明のラジカル重合性化合物と電荷発生化合物を含有する塗工液を塗布、必要に応じて乾燥後、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性のバラツキが生じる。
【0095】
単層構造の感光層中に含有される電荷発生化合物は感光層全量に対し1〜30重量%が好ましく、感光層に含有されるバインダー樹脂は全量の20〜80重量%、電荷輸送物質は10〜70重量部が良好に用いられる。
【0096】
[下引き層]
本発明の電子写真感光体においては、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。
このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。
【0097】
また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0098】
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al2O3を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0099】
[各層への酸化防止剤の添加について]
また、本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、表面層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
【0100】
本発明に用いることができる酸化防止剤として、下記のものが挙げられる。
(フェノール系化合物)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3′−ビス(4′−ヒドロキシ−3′−t−ブチルフェニル)ブチリックアッシド]グリコ−ルエステル、トコフェロール類など。
【0101】
(パラフェニレンジアミン類)
N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−N,N′−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミンなど。
【0102】
(ハイドロキノン類)
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
【0103】
(有機燐化合物類)
トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総重量に対して0.01〜10重量%である。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0105】
<発光波長測定>
LED光源の波長スペクトルは分光放射照度計スペクトロラディオメーターUSR−45V(ウシオ電機株式会社製)を用いて測定した。
【0106】
<吸光度の測定方法>
電荷輸送性構造を有する化合物をアセトニトリルに溶解し、2.00×10−6モル%溶液を作製する。吸光度の測定は島津製作所製、紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3600で行った。セルの材質は溶融石英を用い、セルの光路長は1cmとした。
溶液をセルに入れ、光エネルギーの照射前の吸収ピーク波長λにおける吸光度Asと光エネルギーの照射後の波長λにおける吸光度Aeを測定し、Ae/Asを求めた。
【0107】
<電荷輸送性構造を有する化合物の合成>
本発明における電荷輸送性構造を有する化合物は、例えば特許第3164426号公報記載の方法にて合成される。
【0108】
(ヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式B)の合成)
メトキシ基置換トリアリールアミン化合物(下記構造式A)113.85g(0.3mol)と、ヨウ化ナトリウム138g(0.92mol)にスルホラン240mlを加え、窒素気流中で60℃に加温した。この液中にトリメチルクロロシラン99g(0.91mol)を1時間で滴下し、約60℃の温度で4時間半撹拌し反応を終了させた。この反応液にトルエン約1.5Lを加え室温まで冷却し、水と炭酸ナトリウム水溶液で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン:酢酸エチル=20:1)にて精製した。得られた淡黄色オイルにシクロヘキサンを加え、結晶を析出させた。この様にして下記構造式Bの白色結晶88.1g(収率=80.4%)を得た。
融点:64.0〜66.0℃
【0109】
【化9】
【0110】
【化10】
【0111】
【表1】
【0112】
(トリアリールアミノ基置換アクリレート化合物(構造式C)合成)
上記ヒドロキシ基置換トリアリールアミン化合物(構造式B)82.9g(0.227mol)をテトラヒドロフラン400mlに溶解し、窒素気流中で水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:12.4g,水:100ml)を滴下した。この溶液を5℃に冷却し、アクリル酸クロライド25.2g(0.272mol)を40分かけて滴下した。その後、5℃で3時間撹拌し反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、トルエンにて抽出した。この抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液と水で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマト処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン)にて精製した。得られた無色のオイルにn−ヘキサンを加え、結晶を析出させた。このようにして構造式Cの化合物の白色結晶80.73g(収率=84.8%)を得た。
融点:117.5〜119.0℃、吸収波長端:400nm、吸収ピーク波長:330nm
【0113】
【化11】
【0114】
【表2】
【0115】
(実施例1)
Al製支持体(外径100mmφ)に、乾燥後の膜厚が3.5μmになるように浸漬法で塗工し、下引き層を形成した。
<下引き層用塗工液>
アルキッド樹脂 6.5部
(ベッコゾール 1307−60−EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂 3.5部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン 60部
(CR−EL:石原産業)
メチルエチルケトン 90部
この下引き層上にチタニルフタロシアニン顔料を含む電荷発生層塗工液を、浸漬塗工し、加熱乾燥させ、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
<電荷発生層用塗工液>
Y型チタニルフタロシアニン顔料 2.0部
ポリビニルブチラール(BX−1、積水化学社製) 0.5部
メチルエチルケトン 100部
この電荷発生層上に下記構造の電荷輸送層用塗工液を用いて浸積塗工し、加熱乾燥させ、膜厚15μmの電荷輸送層とした。
<電荷輸送層用塗工液>
ビスフェーノルZ型ポリカーボネート 9部
下記構造式1で表される電荷輸送化合物 9部
【0116】
【化12】
電荷輸送層上に下記構成の表面層形成用塗工液を用いて、スプレー塗工した。光エネルギー照射槽内に図5に示すような装置に電子写真感光体ドラムを取り付け、恒温槽の温度を40℃に設定した状態で温水を循環させて感光体ドラムの温度をコントロールしながら、感光体ドラムを回転させながら405nmにのみ発光ピークを持つLED光源(アイグラフィックス社製)により光照射を行った。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図6に示す。
感光体ドラム面における光照度は300mW/cm2、感光体ドラム面とLED光源との距離を1cmとし、照射時間を5分の条件で感光体ドラムを40rpmで回転させながら光照射を行い、更に130℃で30分乾燥を加え5μmの表面層を設けて本発明の電子写真感光体を得た。
光照射時における感光体ドラムの表面温度を光照射面とは反対面のドラム表面に熱電対を接触させて表面温度を測定した。
【0117】
<表面層形成用塗工液>
トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能アクリルモノマー) 5部
(商品名:SR351S、サートマー(株)社製)
下記構造式Cで表される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物 5部
(吸収スペクトル図7:吸収波長端400nm、吸収ピーク波長330nm)
【0118】
【化13】
光重合開始剤a(吸収スペクトル図8:吸収波長端440nm) 0.2部
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド
(イルガキュア819、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
テトラヒドロフラン 70部
<吸光度の測定>
構造式Cで表される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物をアセトニトリルに溶解し、波長405nm)にのみ発光ピークを持つLED光源により光照射を行った。回転する感光体ドラム表面にセルを取り付け、セル面における光照度は300mW/cm2、セル表面とLED光源の距離を1cmとして、回転させながら5分間光照射した。そして光照射前後の吸光度から吸光度比Ae/Asを求めた。
【0119】
(実施例2)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図9に示す。
【0120】
(実施例3)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0121】
(実施例4)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例1と同様に作製した。
LEDの出射パワー波長スペクトルを図10に示す。
【0122】
(実施例5)
電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を下記構造の化合物(構造式D、
吸収波長端425nm、吸収ピーク波長370nm)に代えた以外は実施例1と同様に作製した。また光照射前後の吸光度から吸光度比Ae/Asを求めた。
【0123】
【化14】
構造式Dで表される化合物の吸収スペクトルを図11に示す。
【0124】
(実施例6)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0125】
(実施例7)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0126】
(比較例1)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例5と同様に作製した。
【0127】
(実施例8)
表面層形成用塗工液で使用する電荷輸送性を有さないラジカル重合性モノマーを2官能アクリルモノマーであるテトラエチレングリコールジアクリレート(商品名:SR268、サートマー(株)社製)に代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0128】
(実施例9)
表面層形成用塗工液で使用する電荷輸送性を有さないラジカル重合性モノマーを4官能アクリルモノマーであるペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:SR295、サートマー(株)社製))に代えた以外は実施例1と同様に作製した。
【0129】
(実施例10)
光重合開始剤b(吸収波長端380nm)を1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)に代えた以外は実施例5と同様に作製した。
光重合開始剤bの吸収スペクトルを図12に示す。
【0130】
(実施例11)
ピーク波長が395nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0131】
(実施例12)
ピーク波長が375nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0132】
(比較例2)
ピーク波長が365nmのLEDに代えた以外は実施例10と同様に作製した。
【0133】
上記実施例1乃至12及び比較例1乃至6で作製した電子写真感光体を以下の方法により評価した。
評価結果を表3、4に示す。
【0134】
<表面状態の評価>
加速摩耗前の表面層を目視で表面性を評価した。
【0135】
<耐久性試験>
作製した感光体をRICOH Pro 900に搭載にて暗部電位を−900Vに設定し、画像評価と明部電位測定を行った。その後A4サイズ50万枚通紙、さらに50万枚の通紙を行い、各通紙後に画像評価、明部電位測定を行った。また初期、50万枚及び100万枚通紙後に膜厚測定を行い、通紙による摩耗量を測定した。なお感光体の膜厚は渦電流式膜厚測定装置(フィッシャーインスツルメント製)を用いて測定した。
[画像評価]
◎:地汚れなし
○:わずかに地汚れ
△:一部地汚れ
×:全面地汚れ
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【符号の説明】
【0138】
(図1,2について)
1 配線基板
2 LED素子
3 感光体ドラム
4 反射板
(図3,4について)
31 導電性支持体
33 感光層
35 電荷発生層
37 電荷輸送層
39 架橋表面層
(図5について)
2 感光体ドラム
4 熱媒体
5 恒温槽
6 モータ
7 ベルト
8 二重管
【先行技術文献】
【特許文献】
【0139】
【特許文献1】特開昭56−48637号公報
【特許文献2】特開昭64−1728号公報
【特許文献3】特開平4−281461号公報
【特許文献4】特開平8−262779号公報(特許第3262488号公報)
【特許文献5】特開平5−216249号公報(特許第3194392号公報)
【特許文献6】特開2000−66425号公報
【特許文献7】特開2004−302450号公報
【特許文献8】特開2004−302451号公報
【特許文献9】特開2004−302452号公報
【特許文献10】特開2007−322867号公報
【特許文献11】特開2001−125297号公報
【特許文献12】特開2010−164987号公報
【特許文献13】特開2008−134505号公報
【特許文献14】特開2012−002997号公報
【特許文献15】特開2012−037749号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の吸光度AeのAe/As比が0.9以上であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収端波長が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする請求項1または2記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法にであって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)と、光重合開始剤と含む表面層塗膜に、LEDを光源とする光エネルギーを照射し、硬化させて架橋層を形成するものであり、
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長よりも長波長側にあり、かつ、前記光重合開始剤の吸収端波長域にあることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にあることを特徴とする請求項6記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記LEDから発せられる光のピーク波長が400nm以上であり、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする請求項6または7記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする請求項6乃至8いずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項1】
導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体であって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)とを、光重合開始剤を用い、光エネルギー照射で硬化した架橋層であり、前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の波長λでの吸光度AeのAe/As比が0.7以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記表面層中に含有される電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の光エネルギー照射前の吸収ピーク波長λにおける光エネルギー照射前の吸光度Asと光エネルギー照射後の吸光度AeのAe/As比が0.9以上であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収端波長が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする請求項1または2記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法にであって、該表面層は、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)と、光重合開始剤と含む表面層塗膜に、LEDを光源とする光エネルギーを照射し、硬化させて架橋層を形成するものであり、
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の吸収ピーク波長よりも長波長側にあり、かつ、前記光重合開始剤の吸収端波長域にあることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記LEDを光源とする光のピーク波長は、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端よりも長波長側にあることを特徴とする請求項6記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記LEDから発せられる光のピーク波長が400nm以上であり、前記電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の長波長側の吸収波長端が400nm以下であり、且つ、前記光重合開始剤は400nm以上にも吸収端波長域があることを特徴とする請求項6または7記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物であることを特徴とする請求項6乃至8いずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が3官能以上であり、前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が1官能であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−41241(P2013−41241A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−134478(P2012−134478)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]