説明

電子写真感光体の中間層用塗布液の調製方法および電子写真感光体の製造方法

【課題】 液保存性も良好な、電子写真感光体に耐リーク性を付与しうる中間層用塗布液の調製方法を提供する。
【解決手段】 金属酸化物粒子および熱により縮合反応して熱硬化性樹脂を生成しうるモノマーもしくはオリゴマーを含有し、固形分が65〜85質量%である被分散処理液を、ベッセルおよび該ベッセル内に設けられた攪拌ディスクを有する横型分散機ならびに粒径が0.3〜2.0mmの分散メディアを用いて分散処理する工程を経て、電子写真感光体の中間層用塗布液を調製する方法であって、該ベッセルの容量に対する該分散メディアの嵩充填率が45〜65%になるように該分散メディアを該ベッセル内に充填し、該攪拌ディスクの最大半径に対する外周の周速が8〜15m/sになるように該攪拌ディスクを回転させた状態で、該被分散処理液を該ベッセル内に送液して分散処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体の中間層用塗布液の調製方法、および、その中間層用塗布液を用いた電子写真感光体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、支持体および支持体上に設けられた感光層を有するものが一般的である。近年では、感光層に有機光導電性物質を用いた電子写真感光体(有機電子写真感光体)の研究開発が盛んに行われている。有機電子写真感光体の場合は、支持体と感光層との接着性の向上、支持体の表面の局所的な欠陥部位の被覆、支持体から感光層への電荷注入の抑制などを目的として、支持体と感光層との間に中間層を設けることも一般的に行われている。特に、支持体の表面に凹凸や汚れなどの局所的な欠陥部位が存在すると、帯電時に欠陥部位に高電場がかかりやすくなり、リーク(電気的なピンホール)が生じ、画質欠陥が発生しやすくなる。
【0003】
電子写真感光体の好適な帯電方式として、電子写真感光体に接触配置された接触帯電部材に直流電圧のみの電圧を印加する方式、いわゆるDC接触帯電方式がよく知られている。ところが、上記リークの課題は、DC接触帯電方式を採用した系において特に顕著に発生する傾向にある。
【0004】
中間層に関する技術として、特許文献1〜3には、中間層に金属酸化物粒子と結着樹脂とを含有させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−080572号公報
【特許文献2】特開2004−233678公報
【特許文献3】特開2007−334315公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記リークの課題に関して本発明者らが検討したところ、リークによる画像欠陥の原因の多くは支持体の表面の突起物(凸状の欠陥部位)にあり、また、一般的に使用される支持体の表面には、高さ20μmを超える突起物も多く存在することがわかった。
【0007】
現在、これらの突起物を電子写真感光体の作製前に支持体の表面から完全に除去することは困難である。したがって、支持体上に厚膜(具体的には膜厚25μm以上)の中間層を設けて、これらの突起物を被覆することが好ましい。
【0008】
中間層用塗布液を用いた塗工によって厚膜の中間層を効率よく形成するためには、中間層用塗布液の固形分を高くすることが好ましい。ところが、中間層用塗布液に含有させる結着材料が熱可塑性樹脂である場合、固形分を高くすると、液ダレが発生しやすくなり、所望の膜厚を設けることが難しくなる。また、熱可塑性樹脂がゲル化し、液保存性も悪くなる。そのため、中間層用塗布液に含有させる結着材料は、熱により縮合反応して熱硬化性樹脂を生成しうるモノマーもしくはオリゴマーであることが好ましい。熱により縮合反応して熱硬化性樹脂を生成しうるモノマーもしくはオリゴマーを、以下「熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマー」ともいう。
【0009】
特許文献2には、金属酸化物粒子と結着樹脂を含有する被分散処理液を分散処理する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されている技術では、分散性は良好になっても、特許文献2に具体的に記載されている固形分では、厚膜の中間層を形成した場合、支持体の上端部における液ダレが大きくなり、膜厚ムラが大きくなりやすい。その結果、中間層の膜厚ムラに起因した画像不良が生じる可能性が高く、また、支持体の上端部に高さ20μm以上の突起物があった場合、上記リークの課題が発生する可能性も高い。
【0010】
また、特許文献3には、金属酸化物と硬化性バインダーを含有する被分散処理液を分散処理する方法が開示されているものの、厚膜の中間層を形成するための技術ではない。
【0011】
すなわち、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーと金属酸化物粒子を含有する被分散処理液を分散処理する場合、従来好適と考えられていた条件では、良好な高固形分の中間層用塗布液を得ることができないという問題があった。
【0012】
本発明者らの検討によれば、高固形分下において、金属酸化物粒子と熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーとを含有する被分散処理液に対して高シェアで分散処理を行うと、通常では問題が発生しない条件下でも、分散処理時に発生する熱により熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応を起こしてゲル化してしまうことがわかった。熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーがゲル化すると、液保存性が著しく低下したり、画像欠陥の原因になったりする。
【0013】
一方、低シェアで分散処理を行っても、分散性が不十分になるため、未分散の金属酸化物粒子の凝集物などにより電子写真感光体の耐リーク性が低下してしまう。
【0014】
本発明の目的は、上記課題が解決された中間層用塗布液の調製方法、および、その中間層用塗布液を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、金属酸化物粒子および熱により縮合反応して熱硬化性樹脂を生成しうるモノマーもしくはオリゴマーを含有し、固形分が65〜85質量%である被分散処理液を、ベッセルおよび該ベッセル内に設けられた攪拌ディスクを有する横型分散機ならびに粒径が0.3〜2.0mmの分散メディアを用いて分散処理する工程を経て、電子写真感光体の中間層用塗布液を調製する方法であって、
該ベッセルの容量に対する該分散メディアの嵩充填率が45〜65%になるように該分散メディアを該ベッセル内に充填し、該攪拌ディスクの最大半径に対する外周の周速が8〜15m/sになるように該攪拌ディスクを回転させた状態で、該被分散処理液を該ベッセル内に送液して分散処理することを特徴とする電子写真感光体の中間層用塗布液の調製方法である。
【0016】
また、本発明は、上記調製方法によって中間層用塗布液を調製する工程と、調製された中間層用塗布液を用いて支持体上に膜厚が25μm以上の中間層を形成する工程と、形成された該中間層上に感光層を形成する工程とを有する電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記課題が解決された中間層用塗布液の調製方法、および、その中間層用塗布液を用いた電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明において用いられる横型分散機の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る電子写真感光体の層構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明に係る電子写真感光体について説明する。
【0020】
図2(a)に示す電子写真感光体は、支持体21上に中間層22および感光層23(電荷発生層231、電荷輸送層232)をこの順に形成してなる電子写真感光体である。感光層には、電荷発生物質や電荷輸送物質が含有される。
【0021】
中間層22は多層構成であってもよく、例えば、図2(b)に示すように、支持体上の欠陥の被覆を目的とする導電層(第一中間層)221と、支持体からの電荷注入を抑制するバリア層(第二中間層)222とを有する機能分離型の中間層であってもよい。機能分離型の中間層のように中間層が複数存在する場合、本発明は、少なくとも1層の中間層に適用される。
【0022】
本発明においては、中間層には金属酸化物粒子が含有される。
【0023】
金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化鉄などが挙げられる。これらの中でも、金属酸化物として比較的抵抗が低く、n型半導性を有するため、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズが好ましい。
【0024】
金属酸化物粒子の表面には、種々の表面処理を行うことができる。例えば、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの無機物や、有機ケイ素化合物、チタンキレートなどの有機金属化合物や、有機化合物を表面処理剤として使用した表面処理が挙げられる。これらの表面処理剤は、抵抗制御、分散性改良、電気的整流性の付与などの目的により、必要に応じて使用することができる。
【0025】
また、本発明においては、金属酸化物粒子を含有する中間層には、熱硬化性樹脂が含有される。
【0026】
熱硬化性樹脂とは、熱により縮合反応しうるモノマーもしくはオリゴマー(熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマー)により生成される樹脂のことである。例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
中間層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン、シクロへキサノンなどのケトンや、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルや、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルや、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0028】
本発明において、中間層用塗布液は、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマー1質量部に対して金属酸化物粒子0.5〜9質量部含有することが好ましく、1〜6質量部含有することがより好ましい。
【0029】
また、中間層の表面で反射した光が干渉して出力画像に干渉縞が発生することを抑制するために、中間層には熱硬化性樹脂および金属酸化物粒子に加えて、中間層の表面を粗面化するための表面粗し付与材を添加することも可能である。表面粗し付与材としては、平均粒径1〜3μmの樹脂粒子が好ましく、例えば、硬化性ゴム、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アクリル−メラミン樹脂などの硬化性樹脂の粒子が挙げられる。これらの中でも、凝集しにくいシリコーン樹脂の粒子が好ましい。
【0030】
また、中間層の表面性を高めるために、中間層にはレベリング剤を添加してもよく、また、中間層の隠蔽性を向上させるために、中間層に顔料粒子を含有させてもよい。
【0031】
中間層の膜厚は、前述のように支持体の表面の欠陥部位を被覆する必要があるため、25μm以上であることが好ましい。
【0032】
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどの金属製の支持体を用いることができる。アルミニウム、アルミニウム合金の場合は、押し出し工程および引き抜き工程を含む製造方法により製造されるアルミニウム管や、押し出し工程およびしごき工程を含む製造方法により製造されるアルミニウム管などが使用可能である。また、これらを切削、電解複合研磨(電解作用を有する電極と電解質溶液による電解および研磨作用を有する砥石による研磨)、湿式または乾式ホーニング処理したものも用いることができる。また、アルミニウム、アルミニウム合金、酸化インジウム−酸化スズ合金などを真空蒸着によって形成された膜を有する金属製支持体や樹脂製支持体を用いることもできる。樹脂製支持体の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を樹脂や紙に含浸した支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチック製の支持体などを用いることもできる。
【0033】
電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニン、非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物、ペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノン、ピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩およびチアピリリウム塩や、トリフェニルメタン色素や、セレン、セレン−テルル、アモルファスシリコンなどの無機物質や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素や、硫化カドミウムや、酸化亜鉛などが挙げられる。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンなどの金属フタロシアニンが好ましい。
【0034】
中間層上に形成される感光層が電荷発生層および電荷輸送層を有する積層型感光層である場合、電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂などが挙げられる。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0035】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。分散方法としては、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルなどを用いた方法が挙げられる。電荷発生物質と結着樹脂との割合は、10:1〜1:10(質量比)の範囲が好ましく、特には3:1〜1:1(質量比)の範囲がより好ましい。
【0036】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、使用する結着樹脂や電荷発生物質の溶解性や分散安定性から選択されるが、有機溶剤としては、例えば、アルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などが挙げられる。
【0037】
電荷発生層の膜厚は、5μm以下であることが好ましく、0.1〜2μmであることがより好ましい。
【0038】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷(キャリア)の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質(アクセプターなどの電子受容性物質)を含有させてもよい。
【0039】
電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリルメタン化合物などが挙げられる。
【0040】
感光層が積層型感光層である場合、電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特にポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂が好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0041】
電荷輸送層は、電荷輸送物質と結着樹脂を溶剤に溶解させて得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、2:1〜1:2(質量比)の範囲が好ましい。
【0042】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトンや、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルや、ジメトキシメタン、ジメトキシエタンなどのエーテルや、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、クロロベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン原子で置換された炭化水素などが挙げられる。
【0043】
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0044】
電荷輸送層の膜厚は、5〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。
【0045】
また、図2(c)や(d)に示すように、感光層上には、感光層を保護することを目的とした保護層24を設けてもよい。保護層は、上述した各種結着樹脂を溶剤に溶解させて得られる保護層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0046】
保護層の膜厚は、0.5〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。
【0047】
上記各層用の塗布液を塗布する際には、例えば、浸漬塗布法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0048】
次に、本発明における被分散処理液を分散処理して中間層用塗布液を調製する際の分散方法について説明する。
【0049】
本発明に用いられる分散機は横型分散機である。縦型分散機は、分散メディアの自重により高せん断力を得ることが可能であるが、せん断力が強すぎるため、被分散処理液が高固形分である場合、分散処理時に過剰な熱が発生しやすく、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応しやすい。そのため、縦型分散機を用いた場合は、液保存性の大幅な低下や被分散処理液のゲル化が発生する傾向にあり、好ましくない。
【0050】
図1は、本発明において用いられる横型分散機の一例を示す図である。本分散機はパス方式の分散機である。図1中、被分散処理液用の容器9には、金属酸化物粒子と熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーを含有する被分散処理液100が収容されている。容器9は、送液ポンプ7が設けられたラインを経由して横型分散機1(ベッセル2)に連結されている。また、ベッセル2の流路と反対側には、一端がベッセル2、他端が容器10に連結した流路が設けられている。また、経路切り替えスイッチ8A、8Bが接続されており、被分散処理液の流路が切り替えられるようになっている。なお、被分散処理液100に含まれる金属酸化物粒子および熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーについては、前述したとおりである。横型分散機1は、円筒中空状のベッセル2と、ベッセル2内に設けられており略水平方向に配置されたシャフト(回転軸)5を中心として回転可能な攪拌ディスク3と、シャフト5の一端に連結されており攪拌ディスク3を回転させるための駆動装置6とを備える。また、横型分散機1のベッセル2の内部には、分散メディア4が充填される。
【0051】
(奇数パス目)
まず、容器9に収容された被分散処理液100が、ポンプ7によりラインL1に引き出されて横型分散機1のベッセル3の内部に導入される。横型分散機1では、駆動装置6によりシャフト5と攪拌ディスク3を回転させながら、シャフト5に沿ってベッセル3内に被分散処理液100を通すことで、被分散処理液100がメディア2とともに撹拌される。このようにして分散処理された被分散処理液100は、ラインL1を通って容器10に収容される。
【0052】
(偶数パス目)
次に、切り替えスイッチ8A、8Bを切り替え、容器10に収容された被分散処理液100が、ポンプ7によりラインL2に引き出されて横型分散機1のベッセル3内に導入される。上記と同様に分散処理された被分散処理液100は、ラインL2を通って容器9に収容される。
【0053】
分散は上述のパスを繰り返すことにより行われる。
パス回数は特に制限は無いが、10パス以下であることが生産性の観点から好ましい。
【0054】
<分散メディアについて>
本発明に用いられる分散メディアの材質としては、例えば、ジルコニア、SUS(ステンレス)、アルミナ、シリカ(ガラス)のビーズなどが挙げられる。分散メディアの粒径は、0.3〜2.0mm(直径)であることが必須であるが、好ましくは0.3〜1.0mm(直径)である。分散メディアの粒径が小さすぎると、被分散処理液が高固形分である場合、分散メディアのせん断力が低下し、好ましい分散状態にならない。その結果、電子写真感光体に耐リーク性を付与しうる中間層用塗布液を調製することができない。一方、分散メディアの粒径が大きすぎると、せん断力は向上するもの、分散メディア同士の衝突回数が減り、分散は不均一化してしまう。その結果、未分散の金属酸化物粒子の凝集物などにより、やはり、電子写真感光体に耐リーク性を付与しうる中間層用塗布液を調製することができない。
【0055】
<分散メディアの嵩充填率について>
本発明において、ベッセル内に分散メディアを充填する際の嵩充填率は、ベッセルの容量(容積)に対して45〜65%であることが必須であるが、好ましくは50〜65%である。嵩充填率が低すぎると、分散効率が悪くなり、好ましい中間層用塗布液を得るまでに時間がかかる。また、中間層用塗布液における分散状態も安定しない。一方、嵩充填率が高すぎると、分散メディアのせん断力が大きくなり、被分散処理液が高固形分である場合、分散処理時に過剰な熱が発生しやすく、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応しやすい。そのため、嵩充填率が高すぎると、液保存性の大幅な低下や被分散処理液のゲル化が発生する傾向にあり、好ましくない。
【0056】
<ベッセルおよび攪拌ディスクについて>
ベッセルおよび撹拌ディスクの材質としては、例えば、ジルコニアを主成分とするセラミックスやアルミナなどの硬度の高い材料が挙げられる。硬度の高い材料を用いることにより、分散メディア、ベッセル、攪拌ディスクなどの破損が抑えられ、被分散処理液への不純物の混入を抑制することができる。さらには、分散処理で発生する熱を除去するために、ベッセルおよび攪拌ディスクの材質は、熱伝導率の高い、アルミナ、チッ化ケイ素、SUS、ジルコニア強化アルミナが好ましい。
【0057】
本発明において、ベッセルの容量は、0.5〜60リットルであることが好ましい。
【0058】
攪拌ディスクとしては、例えば、リングディスク、ウォームディスク、平ディスクに穴を開けて分散効率を高めたものや、カムディスクなどが挙げられる。これらの攪拌ディスクは、それぞれ固有の特長を有し、被分散処理液の性質によって、その分散処理に好適な形状の攪拌ディスクを用いることができる。
【0059】
<攪拌ディスク周速について>
攪拌ディスク周速は、被分散処理液の分散シェアを制御するための重要な因子の1つである。
【0060】
本発明における攪拌ディスク周速とは、攪拌ディスクの最大半径に対する外周の周速のことである。より具体的には、攪拌ディスクの最大半径から算出される円周(最外周)とシャフトの回転数から算出されるものであり、単位時間あたりの最外周の移動速度を示すものである。
【0061】
本発明において、攪拌ディスク周速は、8〜15m/sであることが必須であるが、好ましくは8〜12m/sである。
【0062】
攪拌ディスク周速が遅すぎると、分散効率が悪くなり、好ましい中間層用塗布液を得るまでに時間がかかる。中間層用塗布液における分散状態も安定しない。一方、攪拌ディスク周速が速すぎると、分散メディアのせん断力が大きくなり、被分散処理液が高固形分である場合、分散処理時に過剰な熱が発生しやすく、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応しやすい。そのため、攪拌ディスク周速が速すぎると、液安定性の大幅な低下や被分散処理液のゲル化が発生する傾向にあり、好ましくない。
【0063】
<被分散処理液の固形分について>
本発明における、被分散処理液の固形分は、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応して熱硬化性樹脂を生成する前の被分散処理液の総質量に対する、熱硬化性樹脂生成後の総質量(≒被分散処理液を調製する際の溶剤以外の材料の合計質量)の割合を意味する。
【0064】
本発明において、被分散処理液の固形分は65〜85質量%であることが必須である。固形分が少なすぎると、膜厚が25μm以上の中間層を形成する際、液ダレなどによる中間層の膜厚ムラが顕著に発生し、画像欠陥が発生しやすくなる。一方、固形分が多すぎると、分散処理時に過剰な熱が発生しやすく、熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーが縮合反応しやすいため、液安定性の大幅な低下や被分散処理液のゲル化が発生する傾向にあり、好ましくない。
【0065】
<被分散処理液の送液量について>
本発明において、被分散処理液をベッセル内に送液するときの送液量(分散処理時)に関しては、送液量A〔リットル/分〕のベッセルの容量B〔リットル〕に対する比の値(A/B)が0.010〜0.035となるようにすることが好ましい。
【0066】
A/Bが小さすぎると、ベッセル内の被分散処理液の滞留時間が長くなるため、被分散処理液の液温が上昇する傾向にあり、液保存性の低下や被分散処理液のゲル化が発生しやすい傾向にある。一方、A/Bが大きすぎると、ベッセル内の被分散処理液の滞留時間が短くなるため、分散効率が悪くなり、好ましい中間層用塗布液を得るまでに時間がかかる傾向にある。
【0067】
また、本発明においては、上述のようにパス方式により分散処理を行うことが好ましい。パス方式により分散処理を行うことで、被分散処理液全体にほぼ同じ分散シェアがかかることになるため、循環方式に比べて、より均一な分散性を示す中間層用塗布液の調製が可能となる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例、参考例、比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。また、「部」は「質量部」を意味する。
【0069】
〔実施例1〕
<中間層用塗布液の調製>
金属酸化物粒子としての酸素欠損型SnOを被覆したTiO粒子(粉体抵抗率100Ω・cm、SnOの被覆率(質量比率)は40%)60部、熱により縮合反応してフェノール樹脂を生成しうるモノマー/オリゴマー(フェノール樹脂モノマー/オリゴマー)を含む材料(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、固形分は60質量%)40部(内、固形分は24部)、および、溶剤としての1−メトキシ2−プロパノール20部を混合することによって、固形分が70質量%の被分散処理液を調製した。なお、プライオーフェンJ−325の固形分が60質量%というのは、プライオーフェンJ−325の中にフェノール樹脂モノマー/オリゴマーが60質量%含まれているという意味である。
【0070】
次に、横型分散機(商品名:NVM−20、アイメックス(株)製)を用いて以下の手順で上記被分散処理液の分散処理を行った。なお、この横型分散機は、図1に示す構成を有している。また、ベッセルの容積は20リットルであり、ベッセルおよび攪拌ディスクの材質はSUSである。また、攪拌ディスクは、直径230mmの円盤型ピン付きディスクである。
【0071】
分散メディアとしての粒径(直径)0.3mmのジルコニアビーズを、ベッセル内に、嵩充填率が65%となるように投入して充填した。攪拌ディスク周速を8m/sとし、送液量Aを0.3リットル/分として、パス方式により分散処理を行った。パス回数は4回である。
【0072】
上記分散処理においてパスごとに被分散処理液のサンプリングを行い、分散された金属酸化物粒子のメジアン径を遠心沈降式粒度分布測定装置(商品名:CAPA−700、(株)堀場製作所製)で測定し、パスごとの金属酸化物粒子のメジアン径変化量が前パス時の中心粒径の10%以内に収束したときに分散処理を終了した。
【0073】
この分散処理済みの被分散処理液に、表面粗し付与材としてのシリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、GE東芝シリコーン(株)製、平均粒径2μm)3.5部、および、レベリング剤としてのシリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)0.001部を添加して攪拌することによって、中間層用塗布液を調製した。
【0074】
<電子写真感光体の作製>
押し出し・引き抜き工程により製造された、長さ260.5mm、直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS−A3003、アルミニウム合金)を支持体とした。
【0075】
上記方法にて作製した中間層用塗布液を、23℃/60%RH環境下で、支持体上に浸漬塗布し、これを30分間140℃で乾燥・熱硬化させることによって、平均膜厚が30μmの中間層(導電層)を形成した。
【0076】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF−30T、帝国化学産業(株)製)4.5部および共重合ナイロン樹脂(アミランCM8000、東レ(株)製)1.5部を、メタノール65部/n−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させることによって、第二中間層用塗布液を調製した。
【0077】
この第二中間層用塗布液を上記中間層(導電層)上に浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.6μmの第二中間層(バリア層)を形成した。
【0078】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部、ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部およびシクロヘキサノン250部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で3時間分散処理し、分散処理後、酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。
【0079】
この電荷発生層用塗布液を上記第二中間層(バリア層)上に浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.16μmの電荷発生層を形成した。
【0080】
次に、下記構造式で示されるアミン化合物(電荷輸送物質)15部、
【0081】
【化1】

【0082】
および、ポリカーボネート樹脂(商品名:Z200、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)15部を、ジメトキシメタン30部/クロロベンゼン70部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0083】
この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを30分間120℃で乾燥させることによって、膜厚が10μmの電荷輸送層を形成した。
【0084】
このようにして、支持体上に中間層(導電層)、第二中間層(バリア層)、電荷発生層および電荷輸送層を形成してなる電子写真感光体を作製した。
【0085】
〔実施例2〜15、参考例1〜2、比較例1〜7〕
実施例2〜15においては、中間層用塗布液分散方法において分散メディアの種類、分散メディアの粒径(直径)、被分散処理液の材料構成、被分散処理液の固形分、分散メディアの嵩充填率、攪拌ディスク周速、被分散処理液の送液量A、A/B、パス回数をそれぞれ表1に示すとおりにした以外は、実施例1と同様にして中間層用塗布液を調製し、電子写真感光体を作製した。
【0086】
<中間層用塗布液の評価>
中間層用塗布液の評価は、調製直後の液状態から分散状態を観察した。分散状態が良好なものはA、ゲル化や金属酸化物粒子の沈降などがわずかに見られたものはB、ゲル化や金属酸化物粒子の沈降が明らかに見られたものはC、ゲル化または沈降がひどく分散液とはいえないものはDとした。さらに23℃/50%RH環境下で1ヶ月放置した中間層用塗布液の状態変化(液保存性)を観察した。分散液に変化が見られなかったものはA、ゲル化や金属酸化物粒子の沈降などがわずかに見られたものはB、ゲル化や金属酸化物粒子の沈降が明らかに見られたものはC、ゲル化または沈降がひどく分散液とはいえなくなってしまったものはDとした。結果を表2に示す。
【0087】
<電子写真感光体の評価>
作製した電子写真感光体を用い、15℃/10%RHおよび30℃/80%RHの環境下で2000枚通紙耐久試験を行い、初期と2000枚通紙耐久試験後の出力画像の評価を行った。
【0088】
評価装置としては、キヤノン(株)製レーザービームプリンターLBP−2510(DC接触帯電方式)を用いた。
【0089】
LBP−2510の現像器シアン色用のプロセスカートリッジに、作製した電子写真感光体を装着してシアンのプロセスカートリッジのステーションに装着し、評価を行った。
【0090】
通紙時は各色の印字率2%の文字画像をレター紙にて20秒毎に1枚出力する間欠モードでフルカラープリント操作を行い、2000枚の画像出力を行った。
【0091】
そして、評価開始時(初期)と2000枚出力終了時に4枚(ベタ白、ベタ黒、1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像、文字画像)の画像評価用のサンプルを出力した。
【0092】
なお、画像の評価の基準は以下のとおりである。
【0093】
帯電不良に起因するポチ(リーク)および帯電ムラの画像不良の有無に関しては、桂馬パターンのハーフトーン画像条、画像不良が全くないものをA、画像不良がほとんどないものをB、画像不良がわずかに観測されたものをC、画像不良が観測されたものをD、画像不良がはっきりと観測されたものをEとした。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
表1および表2に示されているように、実施例1〜15においては、高固形分であって金属酸化物粒子と熱硬化性樹脂モノマー/オリゴマーとを含有する中間層用塗布液が非常に安定した特性を示した。また、これらの中間層用塗布液を用いて作製された電子写真感光体では、画像ムラなどの画像欠陥が生じず、耐リーク性も高かった。
【符号の説明】
【0097】
1 横型分散機
2 ベッセル
3 攪拌ディスク
4 分散メディア
5 シャフト
6 駆動装置
7 ポンプ
8A 流路切り替えスイッチ
8B 流路切り替えスイッチ
9 容器
10 容器
100 被分散処理液
L1 流路
L2 流路
21 支持体
22 中間層
23 感光層
24 保護層
221 導電層(中間層、第一中間層)
222 バリア層(第二中間層)
231 電荷発生層
232 電荷輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子および熱により縮合反応して熱硬化性樹脂を生成しうるモノマーもしくはオリゴマーを含有し、固形分が65〜85質量%である被分散処理液を、ベッセルおよび該ベッセル内に設けられた攪拌ディスクを有する横型分散機ならびに粒径が0.3〜2.0mmの分散メディアを用いて分散処理する工程を経て、電子写真感光体の中間層用塗布液を調製する方法であって、
該ベッセルの容量に対する該分散メディアの嵩充填率が45〜65%になるように該分散メディアを該ベッセル内に充填し、該攪拌ディスクの最大半径に対する外周の周速が8〜15m/sになるように該攪拌ディスクを回転させた状態で、該被分散処理液を該ベッセル内に送液して分散処理することを特徴とする電子写真感光体の中間層用塗布液の調製方法。
【請求項2】
前記被分散処理液を前記ベッセル内に送液するときの送液量A〔リットル/分〕の、前記ベッセルの容量B〔リットル〕に対する比の値(A/B)が、0.010〜0.035である請求項1に記載の電子写真感光体の中間層用塗布液の調製方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の調製方法によって中間層用塗布液を調製する工程と、調製された中間層用塗布液を用いて支持体上に膜厚が25μm以上の中間層を形成する工程と、形成された該中間層上に感光層を形成する工程とを有する電子写真感光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate