説明

電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法及びこの分散液を用いた電子写真感光体

【課題】分散性や経時安定性が良好で、塗布性に優れた電子写真感光体製造用顔料分散液を製造し、この分散液を用いて高感度で繰り返し特性の優れた電子写真感光体を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種類以上のバインダーを溶解した有機溶媒中に電荷発生物質用顔料を分散し、ウィルヘルミー法により吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを測定した場合にθaとθrの差が小さい分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体に関し、詳しくは塗布性に優れた電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法とその分散液を用いた電子写真感光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機電荷発生物質や有機電荷輸送物質等の有機光導電性物質を主成分とする感光層を有する電子写真感光体は、製造が比較的容易であること、安価であること、取扱が容易であること、熱安定性が優れている等多くの利点を有することから現在では電子写真感光体の主流となっており、大量に生産されている。これらの電子写真感光体は複写機やレーザープリンタ等に利用されている。
【0003】
有機光導電性物質を用いた電子写真感光体の中では、電荷発生機能と電荷輸送機能とを異なる物質に分担させた機能分離型感光体が主流となり、広く利用されている。機能分離型感光体の特徴はそれぞれの機能に適した材料を広い範囲から選択できることであり、任意の性能を有する感光体を容易に作製し得ることから多くの研究が進められてきた。
【0004】
このうち、電荷発生機能を担当する物質としては、フタロシアニン顔料、スクエアリウム系染料、アゾ顔料、ペリレン系顔料等の多種の物質が検討され、中でもアゾ顔料は多様な分子構造が可能であり、高い電荷発生効率が期待できることから広く研究され、実用化も進んでいる。また、フタロシアニン顔料は近赤外光に対して高感度な特性が期待できることからレーザープリンター用感光体材料としての実用化も進んでいる。
【0005】
有機光導電性物質を用いた電子写真感光体の製造方法としては、多くの場合、有機光導電性物質等を含有する塗布液中に導電性支持体を浸漬させる手段が採用されている。電荷発生層と電荷輸送層を積層した機能分離型感光体の場合、バインダーを溶解した有機溶媒中に電荷発生物質用顔料を分散して得られる電荷発生物質形成用塗布液(顔料分散液)、電荷輸送物質とバインダーを有機溶媒中に溶解して得られる電荷輸送層形成用塗布液をこの順に、あるいはこの順序を逆にして塗布することにより製造される。ここで述べる分散とは、顔料等を溶媒中で微粒子化して沈降物がなく懸濁状態にすることであり、また分散の経時安定性とは微粒子径が均一でかつ溶媒中で長時間にわたり安定に保存されていることを意味する。
【0006】
顔料などの分散性が悪化すると、塗布面が荒れ、電子写真感光体としてはピンホールや濃度ムラなどの画像故障の原因となる。また、分散粒子が経時によって沈降して分散液の濃度が均一でなくなることにより、同一塗液を塗布しても得られた感光体間や同一感光体の部位によって画像濃度にムラが生じたり、分散液が増粘して塗布量の変動を引き起こすなど、生産性の低下にもつながる。
【0007】
良好な顔料分散液を得るには、顔料の分子構造の一部を変えたり、異種の構造を持つ顔料を混合し、凝集状態をコントロールする方法や、顔料の表面に溶媒に可溶な樹脂を吸着させる方法などがある。しかしこれらの手法では、元の顔料の電子写真的な性質、つまり感度や繰り返し特性などが変化してしまい、顔料の基本性能において感光体としての初期の目的が達せられないという状況が出現した。
【0008】
このような問題点を改善するために、これまで種々の試みが行われてきた。例えば、特定の有機溶媒を分散溶媒として使用する方法(例えば、特許文献1参照)、バインダーを加熱処理してから溶媒に溶解させて分散する方法(例えば、特許文献2参照)、特定の表面張力を有する電荷発生層形成用塗布液を使用する方法(例えば、特許文献3参照)が既に報告されている。しかし、これらを用いても前述の顔料分散性等は改善できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−140678号公報
【特許文献2】特開平9−304950号公報
【特許文献3】特開平9−281724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、分散性や経時安定性が良好で、塗布性に優れた電子写真感光体製造用顔料分散液を製造し、この分散液を用いて高感度で繰り返し特性の優れた電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく研究を行った結果、少なくとも1種類以上のバインダーを溶解した有機溶媒中に電荷発生物質用顔料を分散し、ウィルヘルミー法により吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを測定した場合に下記式(I)の関係が成り立つ分散液を製造することによって、極めて良好な分散性、塗布性を有する電子写真感光体製造用顔料分散液が得られることを見出し、本発明に至った。
0°<θa−θr<5° (I)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分散性や経時安定性が良好で、塗布性に優れた電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法及び高感度で繰り返し特性の優れた電子写真感光体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
本発明で使用される電荷発生物質用顔料としては、モノアゾ顔料、ポリアゾ顔料、金属錯塩アゾ顔料、ピラゾロンアゾ顔料、スチルベン顔料及びチアゾールアゾ顔料などに代表されるアゾ系顔料、ペリレン酸無水物及びペリレン酸イミドなどに代表されるペリレン系顔料、アントラキノン誘導体、アントアニトロン誘導体、ジベンズピレンキノン誘導体、ピラントロン誘導体、ビオラントロン誘導体及びイソビオラントロン誘導体などに代表されるアントラキノン系または多環キノン系顔料、金属フタロシアニン、金属ナフタロシアニン、無金属フタロシアニン、無金属ナフタロシアニンなどに代表されるフタロシアニン系顔料などが挙げられる。これらの中でビスアゾ顔料を用いると特に良好な塗布性を有する顔料分散液が得られるため好ましい。さらに、ビスアゾ顔料の中でも下記一般式(1)で示される顔料が感度、繰り返し特性、画像特性の優れた電子写真感光体を与えるため特に好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(1)中、A1は水素、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、複素環基であり、m及びnは0または1であり、Xは水素、メチル基、シアノ基、ハロゲンであり、Cp1はカップラー残基を示す。
【0017】
本発明に係わる一般式(1)で示されるビスアゾ顔料の具体例を以下に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
本発明で用いられるバインダー(結着樹脂)としては、アセタール樹脂、ブチラール樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、シリコン樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリエーテルポリオール、ポリアミド、ポリイミド、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アセタール樹脂、ブチラール樹脂を用いることにより、顔料分散液が高い分散性を示し、塗布性も良好になるため好ましい。これらの樹脂は単独、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0029】
顔料分散液中では電荷発生物質用顔料100質量部に対し、バインダーは10〜500質量部、好ましくは50〜150質量部の範囲で用いられる。樹脂の比率が高くなりすぎると電子写真感光体の電荷発生効率が低下し、また樹脂の比率が低くなりすぎると成膜性に問題が生じることがある。
【0030】
本発明において電荷発生物質用顔料の分散に使用される有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、ヨウ化メチル、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、α−クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン、1,5−ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらの中でも、ケトン系溶媒を用いることにより、顔料分散液が高い分散性を示し、塗布性も良好になるため好ましい。これらの有機溶媒は単独、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0031】
電荷発生物質用顔料の分散に使用する装置は、ボールミル、ペイントコンディショナー、縦型ビーズミル、水平型ビーズミル、アトライター等の分散メディアを用いる分散機である。分散メディアの材質としては、ソーダガラス、低アルカリガラス、イットリア含有ジルコニアが好ましく、直径数mmのビーズ状のものを使用する。
【0032】
本発明において顔料分散液を塗布する方法としては、回転塗布、ブレード塗布、ナイフ塗布、リバースロール塗布、ロッドバー塗布、スプレー塗布等の様な公知の方法が使われる。また、特にドラムに塗布する場合には、浸漬(ディップ)塗布方法等が用いられる。
【0033】
本発明では顔料分散液の製造直後から塗布するまでの間に少なくとも1回はフィルターで濾過するのが好ましい。フィルターの濾材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セルロースアセテート、ポリエーテルサルホン、四フッ化エチレン樹脂、アクリル樹脂、ガラス繊維、ステンレス、綿、活性炭等が挙げられる。フィルターで濾過された顔料分散液を塗布することにより、凝集した顔料粒子等が除去されやすくなり、塗布面にピンホールや濃度ムラが発生しなくなる。その結果、電子写真プロセスにより画像形成を行う際に、白ポチ、黒ポチ、濃度ムラなどの画像故障のない電子写真感光体を得ることができる。
【0034】
本発明では、顔料分散液の分散性及び塗布性を評価するために、ウィルヘルミー (Wilhelmy)平板法を使用して吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを測定する。荷重検出器から吊り下げられた吊板(質量m)を一定速度で浸漬及び引き上げを行った場合、荷重検出器にかかる荷重Fは下記式(II)で示される。
F=mg+Pγcosθ−Fb (II)
ここで、gは重力加速度、Pは吊板周囲長、γは分散液の表面張力、θは接触角、Fbは浮力である。吊板の底面が液面の高さと等しくなる点においてはFb=0となり、かつ、吊板を取り付けた状態で荷重検出器の零点調整を行った場合、式(II)は下記式(III)で示される。
F=Pγcosθ (III)
式(III)から吊板を分散液に沈める過程で得られる前進接触角θa及び吊板を引き上げる過程で得られる後退接触角θrを求めることができる。ウィルヘルミー平板法の測定原理は、例えば「Surface and Interfacial Aspect of Biomedical Polymers,Vol.1」J.D.Andrade et al(Plenum Press,New York,1985年)に記載されている。
【0035】
有機溶媒または有機溶媒中にバインダーを溶解して得られた溶液のθa及びθrを測定した場合、θaとθrはほぼ等しい値になる。一方、顔料分散液のθa及びθrを測定した場合、θaとθrは等しくならないことが多く、ヒステリシスを示す。顔料分散液では微粒子が凝集することもあり、凝集体が生成しやすくなると、微粒子が経時で沈降しやすくなる。また、微粒子が凝集しやすい顔料分散液は浸漬塗布する過程において凝集状態に大きな変化が生じやすくなり、その結果としてθaとθrが大幅に異なる値となる。分散性の良好な顔料分散液は微粒子の凝集速度が遅く、凝集体が生成しにくい分散液であり、浸漬塗布する過程において均一な分散状態が保持されるため、θaとθrの差が小さくなる。要するに、θa−θrの値が小さいほど分散安定性に優れた顔料分散液と言える。
【0036】
θa−θrの値が5以上の顔料分散液は、塗布面に濃淡ムラ、ピンホール等が多くなるため、得られた電子写真感光体を複写機等に装着して画像を形成させると濃度ムラ等の画像故障が見られる。一方、前記式(I)の関係が成り立つ顔料分散液は、経時における微粒子の沈降が見られず、濃淡ムラ、ピンホール等が無く均一な塗布面を与えるため、得られた電子写真感光体を複写機等に装着して画像を形成させても画像故障は見られない。
【0037】
本発明の電子写真感光体の形態は、導電性支持体上に電荷発生物質とバインダーからなる電荷発生層と電荷輸送物質とバインダーからなる電荷輸送層を設けた積層型の感光体である。また、必要に応じて導電性支持体と電荷発生層の間に電荷発生層から導電性支持体への電荷の注入をコントロールするための下引き層(ブロッキング層)を、感光体表面に感光体の耐久性を向上させるためにオーバーコート層を設けることもできる。
【0038】
本発明に係わる導電性支持体としては、周知の電子写真感光体に採用されているものをはじめ種々のものが使用できる。具体的には、例えば金、銀、白金、チタン、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、導電処理をした金属酸化物等のドラム、シート、ベルト、あるいはこれらの薄膜のラミネート物、蒸着物等が挙げられる。
【0039】
さらに、金属粉末、金属酸化物、カーボンブラック、炭素繊維、ヨウ化銅、電荷移動錯体、無機塩、イオン伝導性の高分子電解質等の導電性物質を適当なバインダーと共に塗布しポリマーマトリックス中に埋め込んで導電処理を施したプラスチックやセラミック、紙等で構成されるドラム、シート、ベルト等、またこのような導電性物質を含有し導電性となったプラスチック、セラミック、紙等のドラム、シート、ベルト等が挙げられる。
【0040】
本発明において、導電性支持体と電荷発生層の間に下引き層を設ける場合、下引き層はバインダー単独、あるいはバインダーと無機顔料等との混合で構成される。バインダーとしては、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。また、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等が挙げられる。下引き層は導電性支持体の表面化度や、低温低湿時の電子写真特性に従ってその膜厚が決定するが、0.1から30μmで用いる。
【0041】
本発明で用いられる電荷輸送物質には正孔移動物質と電子移動物質がある。正孔移動物質としては、例えば特公昭34−5466号公報等に示されているオキサジアゾール類、特公昭45−555号公報等に示されているトリフェニルメタン類、特公昭52−4188号公報等に示されているピラゾリン類、特公昭55−42380号公報等に示されているヒドラゾン類、特開昭56−123544号公報等に示されているオキサジアゾール類、特公昭58−32372号公報等に示されているトリアリールアミン類、特開昭58−198043号公報等に示されているスチルベン類等が挙げられる。一方、電子移動物質としては、例えばクロラニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド等が挙げられる。これらの電荷輸送物質は、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
これらの電荷輸送物質の中で、ヒドラゾン類、スチルベン類は高い電荷(正孔)移動度を有し、優れた電子写真感光体を提供するため好ましい。前記ヒドラゾン類の中では、特開平1−100555号公報、特許2690541号、特開平2−51163号公報、特開平2−96767号公報、特開平2−183260号公報、特開平2−184856号公報、特開平2−184858号公報、特開平2−184859号公報、特公平5−16025号公報、特許2951469号、特開平7−140686号公報に記載のヒドラゾン化合物が特に好ましい。また前記スチルベン類の中では、特許2659561号、特開平2−184857号公報、特許2812729号、特許2866187号、特許3130154号、特許3193211号、特許3233757号、特許3592455号、特許3587941号に記載のスチルベン化合物が特に好ましい。
【0043】
また、さらに増感効果を増大させる増感剤として、ある種の電子吸引性化合物を添加することもできる。この電子吸引性化合物としては例えば、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、1−ニトロアントラキノン、1−クロロ−5−ニトロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、フェナントレンキノン等のキノン類、4−ニトロベンズアルデヒド等のアルデヒド類、9−ベンゾイルアントラセン、インダンジオン、3,5−ジニトロベンゾフェノン、あるいは3,3′,5,5′−テトラニトロベンゾフェノン等のケトン類、無水フタル酸、4−クロロナフタル酸無水物等の酸無水物、テレフタラルマロノニトリル、9−アントリルメチリデンマロノニトリル、4−ニトロベンザルマロノニトリル、あるいは4−(p−ニトロベンゾイルオキシ)ベンザルマロノニトリル等のシアノ化合物、3−ベンザルフタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)フタリド、あるいは3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等のフタリド類等を挙げることができる。
【0044】
電荷輸送層に用いられるバインダーとしては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートに代表されるアクリル樹脂、ビスフェノールAやZに代表される骨格を持つポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルフォン、ポリアミド、ポリイミド等を用いることができる。これらのバインダーは単独、あるいは2種以上用いることができる。
【0045】
電荷輸送層に含有されるこれらのバインダーは、電荷輸送物質100質量部に対して0.1〜2000質量部が好ましく、1〜500質量部がより好ましい。バインダーの比率が高すぎると感度が低下し、また、バインダーの比率が低くなりすぎると繰り返し特性の悪化や塗膜の欠損を招くおそれがある。
【0046】
本発明の電子写真感光体は、構成材料の有機化合物の酸化による劣化を防止するために、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、DL−α−トコフェロール等の酸化防止剤を電荷輸送層に添加するのが好ましい。これらの酸化防止剤を添加することによって、繰り返し特性の優れた電子写真感光体が得られる。
【実施例1】
【0047】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0048】
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)1質量部をメチルイソブチルケトン200質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に4時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)4質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)5質量部をメチルイソブチルケトン300質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により30分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを動的接触角測定装置(オリエンティック製;DCA−100)を用いて測定した。測定に用いた吊板は表面が平滑なアルミニウム製プレートで、長さ50mm、幅20mm、厚さ1mmで、周囲長は42mmである。測定時の引き上げ速度は20mm/分であった。測定結果を表1に示す。
【0049】
前記顔料分散液を、浸漬塗布装置にて金属アルミニウム薄板(JIS規格 ♯1050)上に塗布して乾燥し、膜厚約0.2μmの電荷発生層を形成した。前記顔料分散液の塗布性を観測した結果を表2に示す。また、前記顔料分散液を1週間放置した後の分散粒子の沈降の様子を観測した結果を表2に示す。
【0050】
次に、例示化合物(12)で示されるスチルベン化合物100質量部、ポリカーボネート(三菱瓦斯化学製;Z−400)100質量部、DL−α−トコフェロール(理研ビタミン製;E1000)1質量部を、テトラヒドロフラン2000質量部に溶解させて、この溶液を浸漬塗布装置にて前記電荷発生層上に塗布して乾燥し、乾燥膜厚25μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を得た。
【0051】
【化12】

【0052】
このように作製した電子写真感光体を、室温暗所で一昼夜保管した後、ドラム状アルミ素管に貼りつけ、市販の事務用複写機に装着し、画像を形成させ、その画像に故障がないか調査した。得られた複写画像の様子を表2に与える。さらに静電記録試験装置(川口電機製作所製;EPA−8200)を用いて、電子写真感光体を−5.0kVの帯電圧で帯電した後、2luxのタングステン光を照射して、電子写真感光体の半減露光量E1/2を測定した。結果を表3に示す。
【0053】
次に、前記電子写真感光体をアルミニウム製のドラム素管に貼り付け、ドラム感光体評価装置(ジェンテック製;シンシア90)を用いて、プロセス速度190mm/秒、帯電電圧−7.0kVの条件で、帯電、除電の10000回の繰り返しを行い、その前後で、電子写真感光体の帯電電位及び残留電位を測定した。これらの結果を表3に示す。
【実施例2】
【0054】
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)2質量部をメチルイソブチルケトン200質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に6時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)3質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)5質量部をメチルイソブチルケトン300質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により30分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。次に、前記顔料分散液を用いて実施例1と同様に塗布性及び分散粒子沈降を観測し、実施例1と同様に電子写真感光体を作製して評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【実施例3】
【0055】
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)2質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)1質量部をメチルイソブチルケトン200質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に5時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)3質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)4質量部をメチルイソブチルケトン300質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により1時間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。次に、前記顔料分散液を用いて実施例1と同様に塗布性及び分散粒子沈降を観測し、実施例1と同様に電子写真感光体を作製して評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0056】
[比較例1]
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)1質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)4質量部をメチルイソブチルケトン200質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に2時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)4質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)1質量部をメチルイソブチルケトン300質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により10分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。次に、前記顔料分散液を用いて実施例1と同様に塗布性及び分散粒子沈降を観測し、実施例1と同様に電子写真感光体を作製して評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0057】
[比較例2]
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)1質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)5質量部をメチルイソブチルケトン350質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に1時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)4質量部をメチルイソブチルケトン150質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により10分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。次に、前記顔料分散液を用いて実施例1と同様に塗布性及び分散粒子沈降を観測し、実施例1と同様に電子写真感光体を作製して評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0058】
[比較例3]
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)2質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)2質量部をメチルイソブチルケトン250質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(2)で示されるビスアゾ顔料10質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に20分間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BL−S)3質量部、ポリエーテルポリオール(旭電化工業製;BPX−11)3質量部をメチルイソブチルケトン250質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により2分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に測定した。測定結果を表1に示す。次に、前記顔料分散液を用いて実施例1と同様に塗布性及び分散粒子沈降を観測し、実施例1と同様に電子写真感光体を作製して評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【実施例4】
【0062】
アルコール可溶性ナイロン(ナガセケムテックス製;トレジンEF−30T)5質量部をメタノール100重量部に溶解させ、酸化チタン(石原産業製;TTO−55N)5質量部を混合し、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのジルコニアビーズと共に5時間分散した。こうして得た酸化チタン分散液を、浸漬塗布装置にて金属アルミニウム薄板(JIS規格 ♯1050)上に塗布して乾燥し、膜厚0.5μmの下引き層を形成した。
【0063】
ブチラール樹脂(積水化学工業製;BM−S)5質量部をメチルイソブチルケトン2000質量部に溶解し、この溶液中に例示化合物(6)で示されるビスアゾ顔料120質量部を加えて、レッドデビル社製のペイントコンディショナー装置により直径1mmのガラスビーズと共に4時間分散した。得られた顔料分散液にブチラール樹脂(積水化学工業製;BM−S)75質量部をメチルイソブチルケトン5000質量部に溶解して得られた溶液を加え、さらにペイントコンディショナー装置により30分間分散して顔料分散液を作製した。この顔料分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを実施例1と同様に評価した。測定結果を表4に示す。
【0064】
前記顔料分散液を、浸漬塗布装置にて前記下引き層上に塗布して乾燥し、膜厚約0.2μmの電荷発生層を形成した。前記顔料分散液の塗布性を観測した結果を表5に示す。また、前記顔料分散液を1週間放置した後の分散粒子の沈降の様子を観測した結果を表5に示す。
【0065】
次に、例示化合物(13)で示されるヒドラゾン化合物100質量部、ポリカーボネート(三菱瓦斯化学製;Z−200)100質量部、DL−α−トコフェロール(理研ビタミン製;E1000)1質量部を、テトラヒドロフラン2000質量部に溶解させて、この溶液を浸漬塗布装置にて前記電荷発生層上に塗布して乾燥し、乾燥膜厚20μmの電荷輸送層を形成した。
【0066】
【化13】

【0067】
このようにして作製した電子写真感光体を、室温暗所で一昼夜保管した後、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5及び表6に示す。
【実施例5】
【0068】
例示化合物(6)で示されるビスアゾ顔料の代わりに例示化合物(14)で示されるビスアゾ顔料を用いた他は実施例4と同様に顔料分散液及び電子写真感光体を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表5及び表6に示す。
【0069】
【化14】

【実施例6】
【0070】
例示化合物(6)で示されるビスアゾ顔料の代わりに無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業製;8120BS)、メチルイソブチルケトンの代わりに1,3−ジオキソランを用いた他は実施例4と同様に顔料分散液及び電子写真感光体を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表5及び表6に示す。
【0071】
[比較例4〜6]
メチルイソブチルケトンの代わりにそれぞれ酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエンを用いた他は実施例4と同様に顔料分散液及び電子写真感光体を作製し、実施例4と同様の評価を行った。結果を表5及び表6に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
本発明の前記式(I)の関係が成り立つ顔料分散液は分散性、経時安定性、塗布性が優れており、その分散液を用いることにより高感度、高耐久性の電子写真感光体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の電子写真感光体は複写機、プリンター等に使用することができる。特に本発明の電子写真感光体は高感度、高耐久性で、かつ高解像度を与えるため、発振波長の短い半導体レーザーを露光光源とするプリンター等にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類以上のバインダーを溶解した有機溶媒中に電荷発生物質用顔料を分散してなる電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法において、ウィルヘルミー法により該分散液の吊板に対する前進接触角θa及び後退接触角θrを測定した場合、下記式(I)の関係が成り立つことを確認する工程管理を含むことを特徴とする電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法
0°<θa−θr<5° (I)
【請求項2】
前記電荷発生物質用顔料がビスアゾ顔料であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法
【請求項3】
前記ビスアゾ顔料が下記一般式(1)で示されるビスアゾ顔料から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項2記載の電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法
【化1】


(一般式(1)中、A1は水素、置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、複素環基であり、m及びnは0または1であり、Xは水素、メチル基、シアノ基、ハロゲンであり、Cp1はカップラー残基を示す。)
【請求項4】
前記有機溶媒がケトン系溶媒から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体製造用顔料分散液の製造方法
【請求項5】
導電性支持体上に少なくとも電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層が順次積層された構成を有する電子写真感光体において、該電荷発生層が少なくとも請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子写真感光体製造用顔料分散液を用いて形成されていることを特徴とする電子写真感光体。

【公開番号】特開2010−211243(P2010−211243A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148544(P2010−148544)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2005−41017(P2005−41017)の分割
【原出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】