説明

電子写真用キャリア及びその製造方法

【課題】簡単な方法で、キャリア心材の表面に樹脂を被覆した電子写真用キャリアにおける被覆樹脂の遊離を押さえ、初期状態での画質の安定性を得るとともに、多数枚の画像形成後における画質変化を防ぐことのできる電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することが課題である。
【解決手段】磁性材からなるキャリア心材を、樹脂溶液に浸漬する、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧することにより樹脂被覆層を形成し、その後、樹脂被覆層形成後のキャリアを気流中で瞬間的に加熱処理して凹凸のある樹脂被覆層の表層と遊離樹脂粉末を溶融し、遊離樹脂粉末をキャリア表面の樹脂層に取り込無と共に表面の凹凸を無くすようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機などの画像形成装置に用いる電子写真用キャリア及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、およびこれらの複合機などの画像形成装置においては、まず、潜像担持体(感光体)の表面を帯電手段によって一様に帯電させ、次いで所定の原稿情報に基づき、半導体レーザー、発光ダイオード等の露光手段によって露光して潜像を形成後、この潜像を現像手段によって現像または反転現像してトナー像に顕像化し、そして、このトナー像を転写手段によって紙などの被印刷物の表面に直接に転写するか、もしくは中間転写体の表面に転写した後紙などの被印刷物の表面に再転写し、その後、定着手段によって定着させることで一連の画像形成の工程が完了する。
【0003】
また、トナー像の所定用紙への転写後、感光体表面は、クリーニングブレード等によりクリーニングされて残存するトナーが除去され、さらに必要により光照射等による除電が行われて次の画像形成行程が行われる。
【0004】
潜像担持体上の潜像をトナー像に現像するための現像方式としては、大別して乾式、湿式の2つがあるが、現在は乾式の現像方式が広く普及している。また、乾式の現像方式は、トナーおよび鉄粉などで構成される磁性キャリアを用いる2成分現像方式とキャリアを用いない1成分現像方式に分類される。
【0005】
そして、トナーおよび鉄粉などで構成される磁性キャリアを用いる2成分現像剤は、例えば現像装置に設けられ、内部に複数の磁極を有するマグネットを内蔵して回転可能とした現像スリーブ上に現像槽から供給される。供給された2成分現像剤は、この現像スリーブ上に磁気ブラシの形で保持されて感光体と現像スリーブが対面した現像域に搬送され、磁気ブラシ中のトナーが感光体上に形成された静電潜像部に付着してトナー像の形成が行われる。この場合、磁性キャリアは現像によっては消費されず、そのまま現像槽に回収されて再びトナーと混合されて使用されてゆく。
【0006】
ここで使用される2成分現像剤の磁性キャリアとしては、鉄粉やフェライト粒子等による磁性粒子が用いられるが、この粒子は表面に凹凸があるためトナーが付着しやすく、トナーの帯電レベルが変化してしまうために耐久性上問題となる。そのため、トナーの帯電量や極性の制御、湿度依存性の改良、フィルミングの防止、流動性向上等を目的として上記磁性粒子をキャリア心材とし、その表面に樹脂コート層を形成した、いわゆる樹脂被覆キャリアが一般的に使用されている。
【0007】
こういったキャリアにおける樹脂コーティングの方法として従来では、心材粒子を樹脂溶液に浸漬して被覆層を形成する浸漬法や、心材粒子に流動床中で樹脂溶液を噴霧して樹脂層を形成する流動床法が一般的に用いられている。しかしこれらの方法は、樹脂被覆層を形成する際にキャリアに完全に付着できなかった樹脂が遊離して遊離樹脂粉末となったり、キャリア同士の接触によって微量の凝集体が発生し、該凝集体の解砕時に遊離樹脂粉末が発生する。
【0008】
ところがこの遊離樹脂粉末は、初期現像剤作製時にトナーと凝集体を作ってトナー飛散を生じさせる。また、多数枚の画像形成によってこの樹脂微粉末は徐々に現像槽から消費されてはゆくが、それまでの間トナーの帯電を妨げてトナー濃度調整を困難にし、画像濃度の初期変動をもたらす大きな原因となって画質が不安定となる、という問題が生じる。
【0009】
そのため例えば特許文献1には、こういった遊離樹脂を除去するため、心材粒子に樹脂をコーティングして硬化及びほぐし工程を行った後、界面活性剤で洗浄処理する、或いは有機溶剤で溶解処理する、或いは気流分級機で分級する、等のいずれかの方法を用いて遊離樹脂を減少させるキャリア製造方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開平6−59519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながらこの特許文献1に示されたキャリアの製造方法のうち、界面活性剤で洗浄処理したり有機溶剤で溶解処理する方法は、これらの洗浄処理後に洗浄液や溶剤を除去するための加熱処理工程が必要で、その際、再凝集を起こして樹脂粉を発生させるという問題がある。また、界面活性剤で洗浄処理する方法では界面活性剤が残存し、帯電量に影響を与えたり環境安定性を低下させるという問題もある。また、気流分級機で分級する方法は、比重の重いキャリアを気流中で分級するため分級時にキャリア表面を傷つけ、逆に遊離樹脂粉を発生させて初期状態での画質の安定性と耐久時の画質変化に対する安定性が不十分となる問題を生じる。
【0012】
そのため本発明においては、簡単な方法でキャリア心材の表面に樹脂を被覆した電子写真用キャリアにおける被覆樹脂の遊離を押さえ、初期状態での画質の安定性を得るとともに、多数枚の画像形成後における画質変化を防ぐことのできる電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するため本発明者らは鋭意検討した結果、キャリア心材を樹脂溶液に浸漬する、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧することで、キャリア心材の表面に樹脂を被覆した電子写真用キャリアを作成した後、このキャリアを気流中で瞬間的に加熱処理し、遊離樹脂粉末粒子の含有濃度を5×10個/ml以下とすることで、上記問題を防止できることを見出した。
【0014】
すなわち本発明になる電子写真用キャリアは、
磁性材からなる心材上に樹脂を被覆して得られる電子写真用用キャリアにおいて、
該キャリアの遊離樹脂粉末粒子の含有濃度が5×10個/ml以下であることを特徴とする電子写真用キャリアである。
【0015】
そしてこの電子写真用キャリアの製造方法は、
磁性材からなるキャリア心材を、樹脂溶液に浸漬する、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧することにより樹脂被覆層を形成する電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法において、
前記樹脂被覆層形成後のキャリアを気流中で瞬間的に加熱処理することを特徴とする。
【0016】
このように、樹脂被覆した後の電子写真用キャリアを気流中で瞬間的に加熱処理することで凹凸のある樹脂被覆層の表層と遊離樹脂粉末が融け、遊離樹脂粉末がキャリア表面の樹脂層に取り込まれて微粉のない樹脂被覆が形成され、遊離樹脂粉末粒子の含有濃度が5×10個/ml以下であると共に、樹脂被覆層の表層における凹凸が表面張力によって無くなり、トナーの付着も少なくなって、初期状態での画質の安定性を得ることが可能となると共に、多数枚の画像形成後における画質変化を防ぐことのできる、電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することができる。
【0017】
そして、前記瞬間加熱処理は、キャリア被覆に熱硬化性樹脂を用いた場合は被覆処理に用いた温度より100℃以上高い温度で行ない、キャリア被覆に熱可塑性樹脂を用いた場合は樹脂のガラス転移温度に100℃〜200℃を加えた範囲の温度で行うことが本発明の好適な実施例である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂被覆した後の電子写真用キャリアを気流中で瞬間的に加熱処理する、という簡単な方法で電子写真用キャリアにおける被覆樹脂の凹凸と遊離を押さえることができ、初期状態での画質の安定性が得られると共に、多数枚の画像形成後における画質変化も防ぐことができて、良質な画像を長期間提供できる電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
図1は、本発明になる樹脂被覆コート層を有する電子写真用キャリアのイメージ図で、(A)はキャリア心材に樹脂被覆コート層を設けた状態を、(B)はその樹脂被覆コート層を形成したキャリアをさらに気流中で瞬間的に加熱処理し、遊離樹脂粉末を融かしてキャリア表面樹脂層に取り込ませると共に、コート層表層も融かして表面張力により凹凸の少ない表面となった状態を示しており、図2はキャリア心材に樹脂被覆コート層を設けたキャリアを気流中で瞬間的に加熱処理する装置の概略構成を示した図である。
【0021】
本発明になる電子写真用キャリアは、キャリア心材を樹脂溶液に浸漬する浸漬法、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧する流動床法等を用いて樹脂コート層を形成し、その後、気流中で瞬間的に加熱処理してコート層表層と遊離樹脂粉末を融かし、遊離樹脂粉末をキャリア表面の樹脂層に取り込ませて減少させると共に、溶融したコート層表層が表面張力で凹凸の少ない表面となるようにして製造する。この時の加熱処理装置としては、例えばサフュージョンシステム、メテオレインボーシステム(日本ニューマチック工業社製)等を使用することができる。
【0022】
すなわち、キャリア心材1を樹脂溶液に浸漬する浸漬法、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧する流動床法等を用いて樹脂コート層を形成すると、図1(A)のようにキャリア心材1の周囲に凹凸のある樹脂被覆コート層2が形成されるが、この樹脂被覆コート層2の形成時に、同時に微粉3も生じてしまう。
【0023】
そしてこれら樹脂被覆コート層2や微粉3は、前記したように樹脂被覆コート層2に凹凸があることでそこにトナーが付着し、トナーの帯電レベルを変化させたり、さらに微粉3が遊離樹脂粉末となり、初期現像剤作製時にトナーと凝集体を作ってトナー飛散を生じさせる。また、この遊離樹脂粉末3は多数枚の画像形成によって徐々に現像槽から消費されてゆくが、その間、トナーの帯電を妨げてトナー濃度調整を困難にし、画像濃度の初期変動をもたらして画質が不安定となる。
【0024】
しかし、図1に4で示したように樹脂被覆コート層2をさらに気流中で瞬間加熱処理してコート層2の表層と遊離樹脂粉末3を融かし、遊離樹脂粉末3をキャリア表面の樹脂層2に取り込ませると共に、図1(B)に示したように、溶融したコート層2の表層が表面張力で凹凸の少ない樹脂被覆コート層2とし、その結果、キャリアの遊離樹脂粉末粒子3の含有濃度を5×10個/ml以下とすることで、こういった問題が解消され、良質な画像を長期間提供できる電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することができる。
【0025】
このキャリア心材1に樹脂被覆コート層2を設けたキャリアを気流中で瞬間加熱処理する装置は、図2に構成概略を示したように、原料としての樹脂被覆コート層2を設けたキャリア10をエアーと共に送り込む分散ノズル11の周囲に、冷媒12を供給・排出するノズル13と熱風14を供給するノズル15、及びその周囲に冷却エアー16を送り込むようにして構成され、さらに、分散ノズル11における原料(キャリア10)の送出先には、吹き出したキャリア10を一気に熱風14の中に分散させる分散板17が設けられている。
【0026】
そして、分散ノズル11から樹脂被覆コート層2を設けたキャリア10をエアーと共に送り込むと、分散板17によってこのキャリア10が熱風14の中に分散させられ、熱風14で瞬間的に加熱されて遊離樹脂粉末3と樹脂被覆コート層2の表層が融かされる。そのため、微粉3や樹脂被覆コート層2の凹凸はキャリア表面の樹脂層に取り込まれ、凹凸や微粉のない樹脂被覆コート層2となって、周囲に送り込まれている冷却エアー16によってすぐに冷却され、図1(B)に示したようなキャリアとなる。
【0027】
表面に樹脂コート層を形成するキャリア心材1としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、コバルト等の粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、アルミニウム等との合金の粒子、鉄−ニッケル合金、鉄−コバルト合金等の粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、ニオブ酸リチウム等のセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、ロッシェル塩等の高誘電率物質の粒子等、従来公知の種々のキャリア心材があげられる。
【0028】
このキャリア心材の粒径は、10〜200μmの範囲内で、特に30〜150μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
そしてキャリア心材1の樹脂コート層2に使用する樹脂としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、アミノ樹脂等のコーティングキャリア用として従来公知の種々の樹脂が上げられる。これらは、単独で、或いは2種以上混合して使用される。
【0030】
また上記樹脂コート層には、必要に応じて、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の、樹脂コート層の特性を調整するための添加剤を含有させることもできる。
【0031】
樹脂コート層の膜厚は従来と同程度でよく、特に限定されないが、具体的には、キャリア心材へのコート量で表して、キャリア心材に対して0.01〜10重量%、特に0.05〜5重量%コート量であることが好ましい。
【0032】
このような構成で製造した本発明になる電子写真用キャリアは、従来同様、トナーと適当な割合で混合し、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機などの画像形成装置に使用することができる。なお、キャリアとトナーとの配合割合は、従来と同じでよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。なお、以下の説明で用いたキャリア心材の材料、粒径は一例であって前記した種々の材料、粒径のものを用いうることは自明である。
【0034】
(実施例1)
キャリア心材1として平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、熱硬化性樹脂の信越シリコーン製メチルシリコーン樹脂KR−251 10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液に浸し、浸漬法にて樹脂を被覆した後、150℃で1時間熱処理を行って電子写真用キャリアとした。そしてこのキャリアを、日本ニューマチック工業社製サフュージョンシステムを用い、最高温度400℃、滞留時間1秒で瞬間加熱処理して遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様キャリア心材1として平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、熱硬化性樹脂の信越シリコーン製メチルシリコーン樹脂KR−251 10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液を用いて流動床にて樹脂を被覆した後、150℃で1時間熱処理を行って電子写真用キャリアとした。そしてこのキャリアを、日本ニューマチック工業社製サフュージョンシステムを用い、最高温度400℃、滞留時間1秒で瞬間加熱処理して遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
【0036】
(実施例3)
前記実施例1における瞬間加熱処理における加熱条件を、最高温度300℃として遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
【0037】
(実施例4)
前記実施例1における瞬間加熱処理における加熱条件を、最高温度500℃として遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
【0038】
(実施例5)
キャリア心材として、平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、熱可塑性スチレンアクリル共重合体(ガラス転移温度Tgは136℃)10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液に浸し、浸漬法にて樹脂を被覆した後、120℃で1時間熱処理を行って電子写真用キャリアとした。そしてこのキャリアを、日本ニューマチック工業社製サフュージョンシステムを用い、最高温度240℃、滞留時間1秒で瞬間加熱処理して遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
なお、ガラス転移温度は以下の方法で測定した。
ガラス転移温度(Tg)の測定:
セイコー電子工業社製示差走査熱量計(DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で測定し、融解熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線と、ピークの立ち上がり部分からピークの頂点まで最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。ガラス転移温度のピークが2つ以上ある場合は、付加重合系樹脂についてその原料モノマーの組成からFox法により算出されるガラス転移温度をピークの帰属判断の補助として使用することができる。
【0039】
(実施例6)
上記実施例5における瞬間加熱処理における加熱条件を、最高温度330℃として遊離樹脂の固着を行い、電子写真用キャリアとした。
【0040】
(比較例1)
実施例1と同様、キャリア心材1として平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、KR−251(信越シリコーン製メチルシリコーン樹脂)10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液に浸し、浸漬法にて樹脂を被覆した後、150℃で1時間熱処理を行って瞬間加熱処理を行わずに電子写真用キャリアとした。
【0041】
(比較例2)
比較例1と同様、キャリア心材1として平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、KR−251(信越シリコーン製メチルシリコーン樹脂)10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液を用いて流動床にて樹脂を被覆した後、150℃で1時間熱処理を行って瞬間加熱処理を行わずに電子写真用キャリアとした。なお、これら比較例1、2は、従来の電子写真用キャリアの製造方法に該当する。
【0042】
(比較例3)
前記実施例1における瞬間加熱の最高温度を250℃とし、遊離樹脂3の固着を行って電子写真用キャリアとした。
【0043】
(比較例4)
前記比較例1で得られたキャリアを、トルエンにて洗浄した後溶剤の乾燥を行い、電子写真用キャリアとした。
【0044】
(比較例5)
前記比較例1で得られたキャリアを、気流式分級を行って電子写真用キャリアとした。
【0045】
(比較例6)
実施例5と同様キャリア心材として平均粒径80μmの球状フェライト粒子1000重量部を用意し、熱可塑性スチレンアクリル共重合体(ガラス転移温度Tg:136℃)10重量部を溶媒(トルエン)500重量部に加えて希釈した液に浸し、浸漬法にて樹脂を被覆した後、120℃で1時間熱処理を行って瞬間加熱処理を行わずに電子写真用キャリアとした。
【0046】
(比較例7)
前記比較例6における瞬間加熱の最高温度を200℃とし、遊離樹脂3の固着を行って電子写真用キャリアとした。
【0047】
(比較例8)
前記比較例6における瞬間加熱の最高温度を350℃とし、遊離樹脂3の固着を行って電子写真用キャリアとした。
【0048】
以上の各実施例、比較例の製造条件を図3の表1に纏めて示した。また、これら各実施例、比較例で製造したキャリアの遊離樹脂濃度は、シスメックス株式会社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100を使用し、10μm以下の粒子濃度を測定した。
【0049】
評価に使用したトナーは以下に記す方法で作製した。すなわち、スチレンアクリル共重合体100質量部にカーボンブラックを7質量部、離型剤としてのワックスを5質量部、正電荷制御剤としてニグロシン系染料を2質量部加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合して2軸押出機にて溶融混練したのち冷却し、ハンマーミルにて租粉砕した。その後、機械式粉砕機にてさらに微粉砕したものを気流式分級機により分級し、体積平均粒径8.0μmの磁性トナーを得た。
【0050】
さらに上記で得られたトナー粉体に、シリカを0.5質量部ヘンシェルミキサーで外添し、磁性トナー粉末の表面に付着させてトナーを調製した。
【0051】
そして上記トナー95質量部に対し、前記実施例及び比較例で作製したフェライトキャリア5質量部と混合し、スタート現像剤を調整した。
【0052】
また、この現像剤を用い、有機感光体搭載の京セラミタ製複写機(KM−5530)に装填して初期画像及び耐久性を評価し、併せて現像器下の飛散状態を目視にて確認した。評価結果は図4の表2に示した。
【0053】
この図4の表2において、「遊離樹脂粉含有粒子濃度」は前記したシスメックス株式会社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100を使用し、10μm以下の粒子濃度を測定した値であり、「初期」とは現像剤投入直後の画像での評価を、「10万枚」はISO4%原稿を連続で10万枚画像形成した後の画像で評価したことを示す。また、比較例8は製造時にキャリア同士の凝集が発生し、評価を中止した。
【0054】
また、現像器下への現像剤の飛散状態を目視観察し、フィルミングの有無の評価を行った。表中の記号は下記状態を示している。
○:飛散無し
△:飛散が有るが、画像には影響がない
×:飛散が有り、搬送路に落ちて画像に影響している
【0055】
まず、実施例1〜4、比較例1〜5で示した熱硬化性樹脂を被覆したキャリアを用いた結果であるが、実施例1〜4は遊離樹脂粉含有粒子濃度が3〜5×10個/mlで、帯電量も11.0〜12.8μC/gと安定して維持されており、初期から10万枚目まで現像器下を汚すことなく長期にわたって安定した画像品質の維持を達成した。
【0056】
それに対して瞬間加熱を行わなかった比較例1、2、瞬間加熱を行ないはしたが、その最高温度が250℃と低い比較例3では、遊離樹脂粉含有粒子濃度が49〜84×10個/mlと多く、初期攪拌時に遊離樹脂粉とトナーの凝集体が発生し、現像器下を汚すとともに搬送路にも落ちてしまった。また、帯電量が初期に8.3〜9.5μC/gと低かった。
【0057】
また、瞬間加熱を行わずにトルエン洗浄、気流式分級で遊離樹脂を減少させた比較例4、5は、遊離樹脂粉含有粒子濃度が比較例4で24×10個/ml、比較例5で18×10個/mlと微粉除去処理を全く行わなかった場合よりは良いが、比較例4では初期に現像器下に飛散があり、比較例5は、初期には良かったが気流分級時にキャリアを傷つけ、多数枚の画像形成と共に樹脂粉が発生し、現像器下を汚すために十分なレベルとは言い難い。
【0058】
次に、実施例5〜6、比較例6〜8で示した熱可塑性樹脂を被覆したキャリアを用いた結果であるが、実施例5〜6は遊離樹脂粉含有粒子濃度が3〜5×10個/mlで、帯電量も10.2〜1.7μC/gと安定して維持されており、初期から10万枚目まで現像器下を汚すことなく長期にわたって安定した画像品質の維持を達成した。
【0059】
それに対して瞬間加熱を行ないはしたが、その最高温度が120℃、200℃、350℃と低い比較例6〜8では、遊離樹脂粉含有粒子濃度が比較例6で65×10個/ml、比較例7で28×10個/mlと微粉除去処理を全く行わなかった場合よりは良いが、比較例6は初期攪拌時に遊離樹脂粉とトナーの凝集体が発生し、現像器下を汚すとともに搬送路にも落ちてしまった。また比較例7は、遊離樹脂粉のレベルは向上したものの現像器下を汚すため、十分なレベルとは言い難く、比較例8では製造時にキャリア同士の凝集という製造上の問題が発生してしまった。
【0060】
以上のことより熱硬化性樹脂を用いてキャリアを樹脂被覆した場合は、瞬間加熱は初期キャリアの熱処理温度(実施例1〜4では150℃)より100℃以上高い温度で行った場合に効果があり、熱可塑性樹脂を用いてキャリアを樹脂被覆した場合は、瞬間加熱は樹脂のガラス転移温度(Tg)に100℃〜200℃を加えた範囲の温度で行うと効果があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、良質な画像を長期間提供できる電子写真用キャリア及びその製造方法を提供することができ、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機などの画像形成装置に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明になる樹脂被覆コート層を有する電子写真用キャリアのイメージ図で、(A)はキャリア心材に樹脂被覆コート層を設けた状態を、(B)はその樹脂被覆コート層を形成したキャリアをさらに気流中で瞬間的に加熱処理し、遊離樹脂粉末を融かしてキャリア表面樹脂層に取り込ませると共に、コート層表層も融かして表面張力により凹凸の少ない表面となった状態を示した図である。
【図2】キャリア心材に樹脂被覆コート層を設けたキャリアを気流中で瞬間的加熱処理する装置の概略構成を示した図である。
【図3】各実施例、比較例の製造条件を纏めた表である。
【図4】各実施例、比較例の評価結果を示した表である。
【符号の説明】
【0063】
1 キャリア心材
、2 樹脂被覆コート層
3 微粉
4 瞬間加熱処理
10 キャリア
11 分散ノズル
12 冷媒
13 ノズル
14 熱風
15 ノズル
16 冷却エアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材からなる心材上に樹脂を被覆して得られる電子写真用用キャリアにおいて、
該キャリアの遊離樹脂粉末粒子の含有濃度が5×10個/ml以下であることを特徴とする電子写真用キャリア。
【請求項2】
磁性材からなるキャリア心材を、樹脂溶液に浸漬する、或いは流動床中で樹脂溶液を噴霧することにより樹脂被覆層を形成する電子写真用樹脂被覆キャリアの製造方法において、
前記樹脂被覆層形成後のキャリアを気流中で瞬間的に加熱処理することを特徴とする電子写真用キャリアの製造方法。
【請求項3】
前記瞬間加熱処理は、キャリア被覆に熱硬化性樹脂を用いた場合は被覆処理に用いた温度より100℃以上高い温度で行ない、キャリア被覆に熱可塑性樹脂を用いた場合は樹脂のガラス転移温度に100℃〜200℃を加えた範囲の温度で行うことを特徴とする請求項2に記載した電子写真用キャリアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−256858(P2007−256858A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84220(P2006−84220)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】