説明

電子制御装置

【課題】リレーの温度を精度良く推定して、リレーの過熱を抑制することができる電子制御装置を提供すること。
【解決手段】電子制御装置100は、モータ10の通電ライン18、19に接点5a、5bが設けられたリレー4a、4bと、リレー4a、4bの周囲の温度を検出する温度センサ7と、リレー4a、4bのコイル6a、6bに通電して、接点5a、5bを閉じ、モータ10に電流を供給して、モータ10の駆動を制御する制御部1とを備える。制御部1は、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサ7の検出温度とに基づいて、リレー4a、4bの接点5a、5bの温度を推定し、該推定温度が上限値以上になった場合に、接点5a、5bに流れる電流を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の駆動と、電動機の通電ラインに設けられたリレーの開閉とを制御する電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車のパワーステアリングシステムで使用される電子制御装置(ECU)では、電動機(アシストモータ)の通電ラインにリレーが設けられている。これは、バッテリの逆接続や各部の故障に起因した大電流の発生などの対策のためである。通常時は、リレーの接点を閉じて(ON状態)、通電ラインを導通させ、電動機に電流を供給して、電動機の駆動を制御する。異常時には、リレーの接点を開いて(OFF状態)、通電ラインを遮断し、大電流の発生や電動機の誤動作などを回避する。
【0003】
たとえば、電子制御装置に電源が投入された時点で、リレーのコイルには、一定の大きさの電流が流れる。電動機の駆動中、リレーの接点には、電動機の駆動状態に応じた大きさの電流が流れる。このため、コイルと接点が発熱して、リレー自身の温度が上昇する。電動機の駆動を停止すると、電動機へ電流が流れなくなり、リレーの接点にも電流が流れなくなる。
【0004】
リレーのコイルと接点に流れる電流の大きさや時間に応じて、リレーが過熱状態になると、コイルの劣化や焼損、またははんだの溶解といった、不具合が発生するおそれがある。これに対して、リレーの過熱を防止する技術が、たとえば特許文献1〜3に開示されている。
【0005】
特許文献1では、リレーを実装した基板の配線パターンの温度を、温度センサにより検出する。また、リレーを設けた通電ラインの電流値を二乗して、リレーの接点抵抗値を乗算し、リレーの接点のジュール熱の発熱量とする。この発熱量の最新データ列に対して、リレーの接点の物性値をパラメータとする積分演算を行って、温度上昇分を求める。この温度上昇分に温度センサの検出温度を加算して、リレーの推定温度とする。そして、リレーの推定温度が既定値を越えた場合に、リレーに流れる電流値を下方修正する。
【0006】
特許文献2では、リレーのコイルの駆動電流をPWM制御している。リレーの周辺温度を温度センサにより検出して、リレーの温度を推定する。または、リレーのコイルに流れる電流に基づいて、コイルの発熱量を演算し、その発熱量と気温とからリレー温度を推定する。また、リレーのコイルの電線の外皮であるエナメルの融解温度に基づいて、基準温度を設定する。そして、リレーの推定温度が基準温度を越えた場合に、リレーのコイルのPWM制御用のDUTYを下げる。
【0007】
特許文献3では、リレーの周囲温度を温度センサにより検出する。また、3相のモータに流れる電流のうち、最大電流値を二乗して、通電時間にわたって積分し、平均値を算出する。この平均値に温度上昇補正値を加算して、フィルタ処理し、温度上昇分を算出する。この温度上昇分に温度センサの検出温度(または推定用周囲温度)を加算して、リレーの推定温度とする。そして、リレーの推定温度が加熱保護温度を越えた場合に、リレーに流れる通電量を低減する。
【0008】
ところで、リレーでは、接点とコイルのそれぞれに通電されるので、発熱源が2つある。また、リレーの接点とコイルとでは、材質や体積などが異なり、電流が流れる大きさや時間も異なるので、温度上昇状態が異なる。このため、接点とコイルの一方だけを考慮して、リレーの温度を推定し、リレーの通電量を減少させても、リレーの過熱を抑制できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−206236号公報
【特許文献2】特開2005−199746号公報
【特許文献3】特開2008−62916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、リレーの温度を精度良く推定して、リレーの過熱を抑制することができる電子制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電子制御装置は、電動機の通電ラインに接点が設けられたリレーと、リレーの周囲の温度を検出する温度センサと、リレーのコイルに通電して、接点を閉じ、電動機に電流を供給して、電動機の駆動を制御する制御部とを備える。制御部は、リレーの接点とコイルにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサの検出温度とに基づいて、リレーの接点の温度または接点の近傍の温度を推定し、当該推定温度が上限値以上になった場合に、接点に流れる電流を制限する。
【0012】
上記によると、リレーの発熱源である接点とコイルの両方に対して、流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサで検出したリレーの周囲温度とに基づいて、リレーの接点の温度または接点の近傍の温度を推定するので、該推定温度の精度を上げることができる。また、リレーのコイルより接点の方が、大きな電流が流れて、温度が高くなり易いので、接点またはその近傍の推定温度が上限値以上になった場合に、接点に流れる電流を制限することで、リレーの過熱を効率よく抑制することができる。
【0013】
また、本発明では、上記電子制御装置において、制御部は、リレーの接点とコイルにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサの検出温度とに基づいて、リレーのコイルの温度またはコイルの近傍の温度を推定し、当該推定温度が上限値以上になった場合に、コイルに流れる電流を制限するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明では、上記電子制御装置において、制御部は、推定したリレーの接点の温度若しくは接点の近傍の温度が、接点用の上限値以上になった場合、または、推定したリレーのコイルの温度若しくはコイルの近傍の温度が、コイル用の上限値以上になった場合に、リレーの接点に流れる電流を制限するようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明では、上記電子制御装置において、制御部は、リレーの接点の近傍の温度として、接点が設けられた可動片の温度を推定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リレーの発熱源である接点とコイルの両方に対して、流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサで検出したリレーの周囲温度とに基づいて、リレーの温度を精度良く推定して、リレーの過熱を抑制することができる電子制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子制御装置の構成図である。
【図2】同電子制御装置のリレーの構造図である。
【図3】同電子制御装置のリレーの熱回路モデルの対応関係を示した図である。
【図4】同電子制御装置のリレーの熱回路モデルを示した図である。
【図5】同電子制御装置の動作フローチャートである。
【図6】同電子制御装置のリレーの推定温度と電流指令の変化を示した図である。
【図7】同電子制御装置のリレーの温度上昇例を示した図である。
【図8】他の実施形態に係る電子制御装置の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0019】
まず、本発明の一実施形態に係る電子制御装置(ECU)100の構成を、図1を参照しながら説明する。
【0020】
電子制御装置100は、自動車のパワーステアリングシステムで使用される。電子制御装置100は、自動車のハンドル操作をアシストするためのモータ10の駆動を制御する。モータ10は、直流電動モータから構成されている。モータ10は、本発明の「電動機」の一例である。
【0021】
電子制御装置100には、制御部1、電圧変換部2、モータ駆動部3、リレー4a、4b、および温度センサ7が備わっている。制御部1は、マイクロコンピュータとメモリから構成されている。制御部1には、温度推定部11、電流検出部12、および回転数検出部13が備わっている。
【0022】
制御部1は、通電ライン18に接続された電圧変換部2を介して、電源であるバッテリ15と接続されている。電圧変換部2は、バッテリ15の電圧を制御部1用の電圧値に変換する。
【0023】
また、制御部1は、通電ライン18から分岐した起動ライン16によっても、バッテリ15と接続されている。起動ライン16上には、自動車のIG(イグニッション)スイッチ14が接続されている。IGスイッチ14がON状態(閉状態)に操作されると、起動ライン16により電源が投入されて、制御部1が起動する。
【0024】
モータ駆動部3は、複数の半導体スイッチング素子とダイオードとを有したブリッジ回路と、ドライバ回路などから構成されている。モータ駆動部3は、モータ10に電流を供給して、モータ10を正方向と逆方向へ回転させる。また、モータ駆動部3は、モータ10に流す電流の大きさと方向を変化させることで、モータ10の回転数と回転方向を切り替える。
【0025】
エンコーダ20は、モータ10の正方向と逆方向の回転を検出するために、2相設けられている。制御部1の回転数検出部13は、エンコーダ20の出力信号から、モータ10の回転数と回転方向を検出する。トルクセンサ17は、ハンドルの操舵トルクを検出する。制御部1は、モータ10の回転数とハンドルの操舵トルクに基づいて、操舵補助トルクを発生させるために、モータ10をPWM(パルス幅変調)制御する。
【0026】
バッテリ15からモータ10への通電ライン18、19には、リレー4a、4bの接点5a、5bが設けられている。詳しくは、リレー4aの接点5aは、バッテリ15とモータ駆動部3とをつなぐ通電ライン18上に接続されている。接点5aの一端は、バッテリ15の正極と接続され、接点5aの他端は、モータ駆動部3と接続されている。リレー4bの接点5bは、モータ駆動部3とモータ10をつなぐ通電ライン19上に接続されている。接点5bの一端は、モータ駆動部3と接続され、接点5bの他端は、モータ10と接続されている。モータ駆動部3は、抵抗21を介して接地されている。
【0027】
リレー4aのコイル6aの一端は、通電ライン18を介してバッテリ15の正極に接続されている。コイル6aの他端は、トランジスタ8aのコレクタに接続されている。リレー4bのコイル6bの一端は、中継点24と起動ライン16とを介して、バッテリ15の正極に接続されている。コイル6bの他端は、トランジスタ8bのコレクタに接続されている。トランジスタ8a、8bのベースは、制御部1に接続されている。トランジスタ8a、8bのエミッタは、それぞれ抵抗25、26を介して接地されている。
【0028】
制御部1は、起動した時点で、トランジスタ8a、8bをON・OFFするための信号を、トランジスタ8a、8bのベースに与える。制御部1がトランジスタ8a、8bをONすることにより、リレー4a、4bのコイル6a、6bに所定の大きさの電流が流れる。すると、コイル6a、6bから磁界が発せられて、リレー4a、4bの接点5a、5bがON状態(閉状態)になる。これにより、通電ライン18、19が導通して、バッテリ15とモータ駆動部3とモータ10とが電気的に接続される。リレー4a、4bのコイル6a、6bは、電流が流れることによって発熱する。
【0029】
そして、モータ駆動部3によりモータ10を駆動する際に、バッテリ15から通電ライン18とリレー4aの接点5aとを通して、モータ駆動部3に電流が流れる。また、モータ駆動部3の所定の半導体スイッチング素子がONして、モータ駆動部3から通電ライン19とリレー4bの接点5bとを通してモータ10に、モータ10の駆動状態に応じた電流が流れる。リレー4a、4bの接点5a、5bは、電流が流れることによって発熱する。
【0030】
モータ駆動部3によりモータ10の駆動を停止すると、モータ駆動部3の全ての半導体スイッチング素子がOFFとなって、モータ駆動部3から通電ライン19とリレー4bの接点5bとを通してモータ10へ電流が流れなくなる。
【0031】
制御部1がトランジスタ8a、8bをOFFすることにより、リレー4a、4bのコイル6a、6bに電流が流れなくなる。すると、コイル6a、6bから磁界が発せられなくなり、リレー4a、4bの接点5a、5bがOFF状態になる(開路)。これにより、通電ライン18、19が遮断されて、バッテリ15とモータ駆動部3とモータ10とが電気的に接続されなくなる。
【0032】
抵抗21の非接地側には、入力ライン22の一端が接続されている。入力ライン22の他端は、制御部1に接続されている。制御部1の電流検出部12は、入力ライン22からの入力信号とモータ駆動部3からの入力信号とに基づいて、リレー4a、4bの接点5a、5bとモータ10に流れる電流をそれぞれ検出する。
【0033】
これ以外に、たとえば、制御部1が、モータ10を制御するためのPWM信号に基づいて、リレー4a、4bの接点5a、5bとモータ10に流れる電流値を推定するようにしてもよい。
【0034】
一方、本実施形態の場合、リレー4a、4bのコイル6a、6bに流れる電流の大きさは一定である。このため、コイル6a、6bに流れる電流値は、予め制御部1の内蔵メモリに記憶されている。なお、コイル6a、6bに流れる電流を実測により検出することで、当該電流値を求めてもよい。
【0035】
温度センサ7は、たとえばサーミスタから構成されている。温度センサ7、リレー4a、4b、トランジスタ8a、8b、およびモータ駆動部3は、同一の基板23に実装されている。温度センサ7は、リレー4a、4bの周囲の温度を検出する。
【0036】
制御部1の温度推定部11は、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサ7の検出温度とに基づいて、リレー4a、4bの接点5a、5bの温度と、コイル6a、6bの温度をそれぞれ推定する。制御部1は、内蔵する計時回路(図示省略)により、通電時間を計測する。
【0037】
次に、リレー4a、4bの構造を、図2を参照しながら説明する。
【0038】
リレー4a、4bの接点5a、5bは、可動接点45aと固定接点47aとから構成されている。固定接点47aは、端子47の先端に設けられている。可動接点45aは、可動片45の先端に設けられている。
【0039】
可動片45は、金属製の板ばねから構成されている。可動片45の根元は端子46に接続されていて、継鉄40の側面に固定されている。継鉄40の下端部には、鉄片44が回動自在に支持されている。鉄片44には、可動片45が取り付けられており、可動片45は、鉄片44と一体的に回動する。端子46、47は、基板23(図1)にはんだ付けにより実装される。これにより、図1に示したように、リレー4a、4bの接点5a、5bがバッテリ15やモータ駆動部3やモータ10と接続される。
【0040】
リレー4a、4bのコイル6a、6bは、図2に示すように、ボビン43に電線42を螺旋状に巻き付けて構成されている。ボビン43は、鉄芯41の周囲に取り付けられている。鉄芯41は、継鉄40に取り付けられている。電線42の両端には、端子48、49が設けられている。端子48、49は、基板23(図1)にはんだ付けにより実装される。これにより、図1に示したように、リレー4a、4bのコイル6a、6bが、バッテリ15やトランジスタ8a、8bと接続される。
【0041】
リレー4a、4bのコイル6a、6bに通電していないときは、図2に二点鎖線で示すように、鉄片44は、可動片45の弾性力により鉄芯41から離間している。このため、可動接点45aと固定接点47aとが離間していて、リレー4a、4bの接点5a、5bがOFF状態にある。コイル6a、6bに通電すると、コイル6a、6bが磁界を発生して、鉄芯41が磁化されるため、鉄片44が鉄芯41に吸引される。これにより、図2に実線で示すように、可動片45が鉄片44と一体に回動して、可動接点45aが固定接点47aに接触し、リレー4a、4bの接点5a、5bがON状態になる。
【0042】
次に、リレー4a、4bの熱回路モデルと温度推定方法を、図3および図4を参照しながら説明する。
【0043】
図3および図4において、Qは、リレー4a、4bの接点5a、5bの熱量(単位:W)であり、接点5a、5bで消費する電力に相当する。TQ1は、接点5a、5bの温度(温度上昇分、単位:℃)である。Qは、リレー4a、4bのコイル6a、6bの熱量であり、コイル6a、6bで消費する電力に相当する。TQ2は、コイル6a、6bの温度である。Tは、接点5a、5bの近傍(可動片45)の温度である。Tは、可動片45と継鉄40と端子46の接合部の温度である。Tは、コイル6a、6bの近傍(鉄芯41、継鉄40)の温度である。
【0044】
は、接点5a、5bの近傍(可動片45、鉄片44、端子46、47)の熱容量(単位:J/℃)である。Cは、コイル6a、6bの近傍(鉄芯41、継鉄40、端子46)の熱容量である。Rは、接点5a、5bから可動片45までの熱抵抗(単位:℃/W)である。Rは、可動片45から鉄片44を介して端子46までの熱抵抗である。Rは、端子46から基準温度までの熱抵抗である。Rは、鉄芯41から継鉄40を介して端子46までの熱抵抗である。Rは、コイル6a、6bからボビン43を介して鉄芯41までの熱抵抗である。
【0045】
各熱抵抗R〜Rと各熱容量C、Cには、予め実験または計算から求めた値を設定する。当該設定値は、制御部1(図1)の内蔵メモリに記憶される。
【0046】
図3および図4の熱回路モデルにおいて、T、T、Tで示される箇所に流れる時間tの熱量についてキルヒホッフの法則を適用すると、以下の式(1)〜(3)が導出できる。
【数1】

【数2】

【数3】

【0047】
また、TQ1、TQ2で示される箇所に流れる時間tの熱量について、以下の式(4)、(5)が導出できる。
【数4】

【数5】

【0048】
式(4)では、可動片45と接点5a、5bとの間に抵抗Rが存在するため、この部分の熱量Qを考慮している。式(5)では、継鉄40とコイル6a、6bとの間に抵抗Rが存在するため、この部分の熱量Qを考慮している。
【0049】
そして、式(1)〜(3)より、発生する熱量Q、Qによる温度T、Tの時間tに対する応答が、以下の式(6)で求められる。
【数6】

【0050】
式(6)において、Aは、熱回路モデルの回路定数による2行2列の行列であり、式(7)に示す通りである。
【数7】

【0051】
また、eAtは、状態遷移行列であり、式(8)に示す通りである。式(8)に示すIは、単位行列である。
【数8】

【0052】
式(1)〜(3)および(6)に基づいて求めたTは、接点5a、5bの近傍、つまり、接点5a、5bの周辺の部品(可動片45)における時間tでの温度上昇分に相当する。また、Tは、コイル6a、6bの近傍、つまり、コイル6a、6bに接する周辺の部品(鉄芯41、継鉄40)における時間tでの温度上昇分に相当する。
【0053】
、Tが求まると、式(4)、(5)により温度TQ1、TQ2の時間tに対する応答が求められる。TQ1は、接点5a、5bにおける時間tでの温度上昇分に相当する。また、TQ2は、コイル6a、6bにおける時間tでの温度上昇分に相当する。
【0054】
図1の制御部1の温度推定部11は、式(1)〜(3)および式(6)〜(8)により、リレー4a、4bの接点5a、5bの近傍とコイル6a、6bの近傍における時間tでの温度上昇分T、Tを算出する。その際、熱量Qに接点5a、5bに流れた電流値を代入し、熱量Qにコイル6a、6bに流れた電流値を代入する。また、各熱抵抗R〜Rと各熱容量C、Cに、予め内蔵メモリに記憶された各設定値を代入する。
【0055】
そして、温度推定部11は、接点5a、5bの近傍の温度上昇分Tとコイル6a、6bの近傍の温度上昇分Tに、温度センサ7により検出した周囲温度をそれぞれ加算して、接点5a、5bの近傍とコイル6a、6bの近傍の温度を推定する。
(接点近傍の温度上昇分)+(周囲温度)=(接点近傍の推定温度)
(コイル近傍の温度上昇分)+(周囲温度)=(コイル近傍の推定温度)
【0056】
また、温度推定部11は、上記の温度上昇分T、Tと式(4)、(5)とにより、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bにおける時間tでの温度上昇分TQ1、TQ2を算出する。その際、熱量Qに接点5a、5bに流れた電流値を代入し、熱量Qにコイル6a、6bに流れた電流値を代入する。また、熱抵抗R、Rと熱容量C、Cに、予め内蔵メモリに記憶された各設定値を代入する。
【0057】
そして、温度推定部11は、接点5a、5bの温度上昇分TQ1とコイル6a、6bの温度上昇分TQ2に、温度センサ7により検出した周囲温度をそれぞれ加算して、接点5a、5bとコイル6a、6bの温度を推定する。
(接点の温度上昇分)+(周囲温度)=(接点の推定温度)
(コイルの温度上昇分)+(周囲温度)=(コイルの推定温度)
【0058】
次に、電子制御装置100の動作を、図1、および図5〜図7を参照しながら説明する。
【0059】
図1のIGスイッチ14がON状態に操作されると、制御部1が起動して、リレー4a、4bのコイル6a、6bに通電し、接点5a、5bをON状態にする。この状態で、制御部1は、上述したように、電流検出部12によりリレー4a、4bの接点5a、5bに流れる電流を検出し、温度センサ7によりリレー4a、4bの周囲温度を検出する。また、制御部1は、リレー4a、4bのコイル6a、6bに流れる電流の値を、内蔵メモリから読み出す。そして、制御部1は、上述したように、リレー4a、4bの周囲温度、並びに、接点5a、5bおよびコイル6a、6bに流れた電流の大きさと通電時間に基づいて、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bの温度をそれぞれ推定する(図5のステップS1)。
【0060】
次に、制御部1は、接点5a、5bの推定温度が接点5a、5b用の温度の上限値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。ここで、接点5a、5bの推定温度が接点5a、5b用の上限値未満であれば(ステップS2:NO)、制御部1は、コイル6a、6bの推定温度がコイル6a、6b用の温度の上限値以上であるか否かを判定する(ステップS3)。ここで、コイル6a、6bの推定温度がコイル6a、6b用の上限値未満であれば(ステップS3:NO)、制御部1は、再びリレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bの温度を推定する(ステップS1)。
【0061】
なお、接点5a、5b用の温度の上限値と、コイル6a、6b用の温度の上限値とは、リレー4a、4bの実装用のはんだの融解温度と、コイル6a、6bの電線42のエナメルの融解温度などを考慮して、予め設定されている。各上限値は、制御部1の内蔵メモリに記憶させてある。また、接点5a、5b用の温度の上限値と、コイル6a、6b用の温度の上限値とを、リレー4a、4bで共通に設定してもよいし、リレー4a、4b毎に変えて設定してもよい。
【0062】
その後、モータ10を駆動するために、リレー4a、4bの接点5a、5bを通してモータ10に電流を流すと、接点5a、5bが発熱して、接点5a、5bの温度が上昇する。また、リレー4a、4bのコイル6a、6bに電流を流して、コイル6a、6bが発熱したり、接点5a、5bの発熱などの影響で周囲の温度が高くなったりすると、コイル6a、6bの温度が上昇する。
【0063】
リレー4a、4bの接点5a、5bでは、大きな電流が流れて、最大消費電力が大きく、可動片45(図2)の熱容量が小さい。また、制御部1の制御により、モータ10は駆動と停止とを繰り返しているので、モータ10に流れる電流は波打っている。このため、接点5a、5bに流れる電流に対する温度変化(応答)は速くて(秒単位)、接点5a、5bの温度は、図7に示すように、波打った状態で上昇する。
【0064】
リレー4a、4bのコイル6a、6bでは、接点5a、5bより小さな電流が流れて、消費電力が小さく、熱容量が大きい。また、コイル6a、6bの電流は、接点5a、5bの電流のようには波打っていない。このため、コイル6a、6bに流れる電流に対する温度変化は、遅くて(接点5a、5bの10倍以上遅い)、コイル6a、6bの温度は、図7に示すように緩やかに上昇する。
【0065】
また、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bとは、熱的に結合している。このため、長い時間で見れば、図7に示すように、温度が同様に上昇する。然るに、コイル6a、6bより接点5a、5bの方が、大きな電流が流れるので、発熱し易く、温度が高くなり易い。
【0066】
リレー4a、4bの温度上昇例として、たとえば、リレー4a、4bの周囲の温度が低くて、接点5a、5bに流れる電流量の変化が大きい場合は、接点5a、5bとコイル6a、6bの温度が、図7(a)に示すように上昇する。つまり、接点5a、5bの温度は、電流量の変化に応じて、大きく上下に変化して行き、接点5a、5b用の上限値に達し易い。一方、コイル6a、6bの温度は、緩やかに上昇して行き、コイル6a、6b用の上限値に達し難い。
【0067】
また、たとえば、リレー4a、4bの周囲の温度が高くて、接点5a、5bに流れる電流量の変化が小さい場合は、接点5a、5bとコイル6a、6bの温度が、図7(b)に示すように上昇する。つまり、接点5a、5bの温度は、電流量の変化に応じて、小さく上下に変化して行き、接点5a、5b用の上限値に達し難い。一方、コイル6a、6bの温度は、緩やかに上昇して行くが、周囲の温度が高いため、コイル6a、6b用の上限値に達し易い。
【0068】
図7(a)に示すように、リレー4a、4bの温度が上昇して行った場合、制御部1は、図5のステップS2で、接点5a、5bの推定温度が接点5a、5b用の上限値以上になったと判断する(ステップS2:YES)。そして、制御部1は、接点5a、5bの推定温度に応じて、接点5a、5bに流れる電流を制限する(ステップS4)。
【0069】
また、図7(b)に示すように、リレー4a、4bの温度が上昇して行った場合、制御部1は、図5のステップS3で、コイル6a、6bの推定温度がコイル6a、6b用の上限値以上になったと判断する(ステップS3:YES)。そして、制御部1は、コイル6a、6bの推定温度に応じて、接点5a、5bに流れる電流を制限する(ステップS4)。
【0070】
すなわち、制御部1は、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bのいずれかの推定温度が上限値以上になると(ステップS2:YESまたはステップS3:YES)、該推定温度に応じて、リレー4a、4bの接点5a、5bに流れる電流を制限する(ステップS4)。
【0071】
具体的には、リレー4a、4bの接点5a、5bの推定温度が接点5a、5b用の上限値以上になった場合は、たとえば図6に「接点(1)」で示すように、接点5a、5bに流れる電流に対する指令値を100%から、推定温度に応じた値(%)に下げる。この電流指令値が制御部1からモータ駆動部3へ与えられると、モータ駆動部3におけるPWM信号のデューティが小さくなって、半導体スイッチング素子のON時間が短くなる。これにより、接点5a、5bに流れる電流値が減少して、接点5a、5bの温度上昇が抑制される。そして、電流指令値を0%まで下げて、接点5a、5bの推定温度がある程度下がると、たとえば図6に「接点(2)」で示すように、接点5a、5bの電流指令値を0%から、推定温度に応じて上げて行って、最終的に100%に復帰させる。
【0072】
また、コイル6a、6bの推定温度がコイル6a、6b用の上限値以上になった場合は、たとえば図6に「コイル(1)」で示すように、接点5a、5bに流れる電流に対する指令値を100%から、推定温度に応じた値(%)に下げる。これにより、「接点(1)」の場合と同様に接点5a、5bに流れる電流値が減少して、接点5a、5bの温度と、周囲の温度と、コイル6a、6bの温度の上昇が抑制される。そして、電流指令値を0%まで下げて、コイル6a、6bの推定温度がある程度下がると、たとえば図6に「コイル(2)」で示すように、接点5a、5bの電流指令値を0%から、推定温度に応じて上げて行って、最終的に100%に復帰させる。
【0073】
図5のステップS4の実行後、制御部1は、再びリレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bの温度を推定して(ステップS1)、以降の処理を実行する。制御部1は、IGスイッチ14がOFF状態に操作されて、停止するまで、ステップS1〜ステップS4の処理を繰り返し実行する。
【0074】
上記実施形態によると、リレー4a、4bの発熱源である接点5a、5bとコイル6a、6bの両方に対して、流れた電流の大きさおよび通電時間と、温度センサ7で検出したリレー4a、4bの周囲温度とに基づいて、接点5a、5bとコイル6a、6bの温度をそれぞれ推定している。このため、リレー4a、4bの接点5a、5bの推定温度とコイル6a、6bの推定温度の精度をそれぞれ上げることができる。
【0075】
また、リレー4a、4bのコイル6a、6bより接点5a、5bの方が、大きな電流が流れて、温度が高くなり易い。このため、接点5a、5bの推定温度が上限値以上になった場合に、接点5a、5bに流れる電流を制限することで、リレー4a、4bの過熱を効率よく抑制することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bのいずれかの推定温度が上限値以上になった場合に、接点5a、5bに流れる電流を制限している。このため、接点5a、5bの温度上昇だけでなく、コイル6a、6bの温度上昇も考慮して、リレー4a、4bの過熱を抑制することができる。
【0077】
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、上記実施形態では、図5に示したように、リレー4a、4bのコイル6a、6bの推定温度が上限値以上になった場合に(ステップS3:YES)、該推定温度に応じて接点5a、5bの電流を制限している(ステップS4)。しかしながら、本発明はこれに限定するものではない。
【0078】
たとえば、図8に示すように、コイル6a、6bの推定温度が上限値以上になった場合に(ステップS3:YES)、該推定温度に応じてコイル6a、6bの電流を制限する(ステップS5)ようにしてもよい。この場合は、コイル6a、6bに流れる電流を制限するための電流制限回路(図示省略)を設け、制御部1により、この電流制限回路を制御するように構成すればよい。
【0079】
また、上記実施形態では、図5および図8のステップS1で、接点5a、5bとコイル6a、6bの温度をそれぞれ推定した例を挙げたが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、ステップS1で、接点5a、5bの近傍とコイル6a、6bの近傍の温度をそれぞれ推定するようにしてもよい。この場合、接点5a、5bの近傍の推定温度とコイル6a、6bの近傍の推定温度を用いて、ステップS2〜S5を実行すればよい。
【0080】
このようにすると、リレー4a、4bの接点5a、5bとコイル6a、6bとに流れた電流の大きさおよび通電時間と、周囲温度とに基づいて、接点5a、5bとコイル6a、6bの近傍温度をそれぞれ精度良く推定することができる。また、接点5a、5bまたはコイル6a、6bの近傍の推定温度が上限値以上になった場合に、接点5a、5bまたはコイル6a、6bに流れる電流を制限することで、リレー4a、4bの過熱を効率よく抑制することができる。
【0081】
また、上記実施形態では、モータ10とモータ駆動部3との間に、リレー4bを1つ設けた例を挙げたが、これはモータ10として2相モータを用いた場合の一例であり、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、3相モータを用いた場合は、モータとモータ駆動部との間にある3つの通電ラインのうち、2つの通電ラインにそれぞれリレーを設ければよい。そして、各リレーの接点とコイルの温度(または接点とコイルの近傍の温度)を推定して、該推定温度に応じてリレーの接点またはコイルに流す電流を減少させるようにすればよい。
【0082】
さらに、上記実施形態では、自動車のパワーステアリングシステムに使用され、アシスト用のモータ10の駆動を制御する電子制御装置100に本発明を適用した例を挙げたが、これ以外の電動機の駆動を制御する電子制御装置に対しても、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 制御部
3 モータ駆動部
4a、4b リレー
5a、5b 接点
6a、6b コイル
7 温度センサ
10 モータ
18、19 通電ライン
45 可動片
100 電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の通電ラインに接点が設けられたリレーと、
前記リレーの周囲の温度を検出する温度センサと、
前記リレーのコイルに通電して、前記接点を閉じ、前記電動機に電流を供給して、前記電動機の駆動を制御する制御部と、を備えた電子制御装置において、
前記制御部は、
前記リレーの前記接点と前記コイルとにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、前記温度センサの検出温度とに基づいて、前記接点の温度または前記接点の近傍の温度を推定し、
当該推定温度が上限値以上になった場合に、前記接点に流れる電流を制限する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記制御部は、
前記リレーの前記接点と前記コイルとにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、前記温度センサの検出温度とに基づいて、前記コイルの温度または前記コイルの近傍の温度を推定し、
当該推定温度が上限値以上になった場合に、前記コイルに流れる電流を制限する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電子制御装置において、
前記制御部は、
前記リレーの前記接点と前記コイルとにそれぞれ流れた電流の大きさおよび通電時間と、前記温度センサの検出温度とに基づいて、前記コイルの温度または前記コイルの近傍の温度を推定し、
推定した前記接点の温度若しくは前記接点の近傍の温度が、接点用の上限値以上になった場合、または、推定した前記コイルの温度若しくは前記コイルの近傍の温度が、コイル用の上限値以上になった場合に、前記接点に流れる電流を制限する、ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子制御装置において、
前記制御部は、前記接点の近傍の温度として、前記接点が設けられた可動片の温度を推定する、ことを特徴とする電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−82365(P2013−82365A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224408(P2011−224408)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)