説明

電子抽選方法、装置、およびプログラム

【課題】変数値Xの数が大きくなった場合にも効率的に抽選を行なうことができる電子抽選方法および装置を提供する。
【解決手段】記憶部101に、固定値Sと、各抽選申し込み端末20A〜20Bより送信された、各抽選申込者の識別番号が記憶されている。計算部102は、Yの値を固定値Sと変数値Xにより計算し、当選数の割合をpとし、前記Yの値域が0≦Y≦nの場合に、当選閾値Thをp×nによって求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子抽選方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信路を通じて抽選の申し込みを行わせる電子化された抽選方法が実用化され始めている。従来の抽選方法は、抽選の過程を公表するに至らず、抽選結果の公平性に疑問があったが、抽選の過程を公表せずとも、抽選の公平性を保障できる抽選方法が実用化または提案されている。
【0003】
まず、非特許文献1では、抽選申し込み期間中秘密にしておいた固定値Sと変数値Xとの組み合わせに対応した数値列Yを全て計算し、Yを対応する当選閾値Xとともに昇順もしくは降順にソートし、Yの順位によって当落を決定する抽選方法が提案されている。
【0004】
また、IETF(Internet Engineering Task Force)のボードメンバーの選出方法においては、X={1,・・・n}とし、固定値Sを抽選申し込み終了後に決定し、Yをnで割った余りを当選とする方法が採用されている。
【非特許文献1】Agus Fanar Syukri、森田 光:“ハッシュ関数を用いた公平な抽出方法”社会情報システム研究会、第9回社会情報システム学シンポジウム、p117−121、Jan 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の非特許文献1に記載された技術では、全変数値Xに対するYを算出し、Yを昇順あるいは降順にソートしなければならない。IETFの選出方法でも、全Xに対するYを算出する必要がある。Xの数が少ない場合には問題ないが、Xの数が多くなると、ソート回数、抽選申込者の識別番号の記憶ファイルへのアクセス回数が、Yの算出時間ともに増加するため、非常に効率が悪い。
【0006】
本発明の目的は、変数値Xの数が大きくなった場合にも効率的に抽選を行なうことができる電子抽選方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、Yの値の分布が一様分布であることを利用し、Yの値域が1≦Y≦nである場合に、当選割合pより当選閾値Th=n×pとする。抽選の主催者は、当選閾値Thのみを公開すればよい。抽選への申込者は、公開された当選閾値Thと、当選閾値Xと固定値Sにより自分の当落を確認することができる。
【0008】
本発明の実施態様では、当選閾値Thを調整幅dで増減させる。当選割合pにより求めた当選閾値Thで当落を決定する事象は成功確率p、失敗確率q(q=1−p)の二項分布と考えることができ、r人のうちxが当選する確率f(x)は、
f(x)=rCx・p^xq^(r−x)
となり、x人より多く当選する確率はΣ{x=t,x=n}f(x)である。
ここで、閾値Thを調整幅dで増減させることにより確率は
Q(x)=Σ{x=t,x=n}g(x),
g(x)=rCx・p’^xq’^(r−x),
p’=(Th±d)/n
となる。Q(x)r/qr≒100に近くなるようなdを算出する。これらの計算は二項分布を正規分布近似し、簡単に行うことが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抽選の主催者は各申込者のXに対応したYの計算やソート処理などを全くすることなく、抽選閾値Thを求めることができる。また、確率的に求めた調整幅dで抽選閾値Thを調整することにより、間違った当選を防ぐことが可能である。また、本発明による効率化によって、抽選の公平性の保障には何ら影響を与えることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態のシステム構成図である。本システムは抽選サーバ10と、通信路30を介して抽選サーバ10に接続された抽選申込端末20A,20B,・・・,20Nで構成されている。通信路30は暗号通信路であるのが望ましい。
【0012】
抽選サーバ10は、固定値Sと、抽選申込者の識別番号を申し込みと同時に記憶する記憶部101と、当選閾値Thとハッシュ値Yを算出する計算部102とを有している。なお、計算部102における計算の途中結果を記憶する記憶する記憶部は図示されていない。抽選申込者端末20A〜20Nは、抽選申込者の識別番号を抽選サーバ10に向けて発信する識別番号発信部201と、抽選申込者本人が持つ変数値Xと公開される固定値SによりYを算出する計算部202を有している。
【0013】
抽選の際に、記憶部101には固定値Sを、乱数などを用いて設定する。設定する時期は抽選申し込みを開始する前でも、申し込みを終了した後でもよい。さらに、各抽選申込者端末20A〜20Nより送信される、各抽選申込者の識別番号IDiを記憶する。識別番号IDiは各抽選申込者に異なる値が与えられる。
【0014】
計算部102は、本実施形態ではセキュアハッシュ関数を用いて説明する。主催者は申し込みを締め切った後、各申込者に与えたIDiと固定値Sとを組み合わせ、例えばIDi‖Sのようにつないで別の値とし、これをハッシュ関数の入力値Xとし、ハッシュ関数の出力値をYとする。
【0015】
セキュアハッシュ関数は、出力値から入力値が推定できないことから、その出力値が一様に分布すると仮定してよい。当選数が割合pで決まっている場合に、Yの値域が0≦Y≦nに対し、当選者をn×p以上の出力値の申込者とする。
【0016】
このとき、主催者は、この当選閾値Th=n×pと固定値Sとを公開する。申込者は、自分の持つ識別番号IDiと固定値Sからハッシュ値Yを計算し、計算結果と当選閾値Thを比較して、当落を確認する。当選していた場合、申込者はその旨を抽選サーバ10に報告する。抽選サーバ10の計算部102は報告してきた申込者が確かに当選しているか否かを、報告してきた申込者に相当するXから相当するハッシュ値Yを計算し、確かめる。
【0017】
また、計算部102は、前述したように、算出された閾値Thを調整幅dで調整し、当選割合p以上の当選者が出ない閾値を再計算する。
【0018】
なお、抽選サーバ10および抽選申込者端末20A〜20Nを共にコンピュータによって構成し、これらのコンピュータに、本発明による処理を実行する抽選サーバプログラムおよび抽選申込者端末プログラムをインストールすることにより抽選サーバおよび抽選申込者端末として機能させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のシステム構成図である。
【符号の説明】
【0020】
10 抽選サーバ
101 記憶部
102 計算部
20A〜20N 抽選申込者端末
201 識別番号発信部
202 計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定値Sと変数値X(X={X1,・・・,Xn})との組み合わせに対応する数値列Y(Y={Y1,・・・,Yn})を計算し、Yの順位に従って当落を決定する、抽選サーバで行なわれる抽選方法において、
記憶手段に、前記固定値Sと、各抽選申し込み端末より送信された、各抽選申込者の識別番号を記憶しておき、計算手段により、前記Yの値を前記固定値Sと前記変数値Xにより計算し、当選数の割合をpとし、前記Yの値域が0≦Y≦nの場合に、当選閾値Thをp×nによって求めることを特徴とする抽選方法。
【請求項2】
前記計算手段は前記当選閾値Thを調整幅dで増減させる、請求項1に記載の抽選方法。
【請求項3】
固定値Sと変数値X(X={X1,・・・,Xn})との組み合わせに対応する数値列Y(Y={Y1,・・・,Yn})を計算し、Yの順位に従って当落を決定する、抽選サーバにおいて、
前記固定値Sと、各抽選申し込み端末より送信された、各抽選申込者の識別番号を記憶する記憶手段と、前記Yの値を前記固定値Sと前記変数値Xにより計算し、当選数の割合をpとし、前記Yの値域が0≦Y≦nの場合に、当選の閾値Thをp×nによって求める計算手段を有することを特徴とする抽選サーバ。
【請求項4】
前記計算手段は、算出された閾値Thを調整幅dで調整し、当選割合p以上の当選者が出ない閾値を再計算する、請求項3に記載の抽選装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項3または4に記載の抽選装置として動作させるためのプログラム。


【図1】
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【公開番号】特開2006−350794(P2006−350794A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177880(P2005−177880)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社会情報システム学研究会、第11回社会情報システム学シンポジウム講演論文集、73頁〜77頁、2005年1月28日
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】