説明

電子放出用電極及び冷陰極蛍光ランプ

【課題】放電時のランプ電圧の変動に起因する蛍光ランプのちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動が少なく、且つランプ管内の電極付近の黄変が抑制されると共に暗黒雰囲気中での始動遅れが改善された、製造コストが安価な電子放出用電極及びそれを用いた冷陰極蛍光ランプを提供する。
【解決手段】電子放出用電極の電極部11を底壁13と該底壁13から立ち上がる側壁14とを有するカップ形状とし、該電極部11の側壁14内面の開口端部17から底壁13側2mm以内の限定された領域に、低仕事関数のセシウム化合物を主成分とするエミッタ層16を設けた。そして、この電子放出用電極を冷陰極蛍光ランプの電極として採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出用電極及び冷陰極蛍光ランプに関するものであり、詳しくは、電子放射物質が被着された電子放出用電極及び当該電子放出用電極を用いた冷陰極蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極蛍光ランプは、ランプ両端に配置された電極間に電界を印加することにより、電界効果・光電子効果等によって電極から電子が放出され、この電子がランプ管内の封入ガスや水銀原子と衝突しながら電極間を移動する。この電子衝突で封入ガス(例えば、アルゴンガス)の原子を電離し、電離で発生した電子が次のアルゴン原子を電離するといった連鎖反応を繰り返して放電へとつながる。
【0003】
このとき、電子が衝突した水銀原子は励起されて紫外線(λp=253.7nm)を放出し、この紫外線がランプ管内の内壁に一様に塗布された蛍光体を励起して可視光に変換され、外部に放出される。
【0004】
このような冷陰極蛍光ランプを外部からの光が届かない暗黒雰囲気中に置いた場合、ランプ管内に放電を誘発する光電子が存在しないために始動(点灯)時に初期電子の維持が困難となり、始動遅れが発生し易くなる。この始動遅れは数秒〜数十秒に達することもある。
【0005】
そこで、暗黒雰囲気中の始動時における始動遅れ現象を改善するために、電子放射性の優れたセシウム化合物を電極に塗布して電極表面にセシウム化合物層を被着させることが行われる。
【0006】
具体的な方法として、セシウム化合物の溶液中に筒状電極を浸漬し、図6(半断面図)のように、電極50全面(電極の内壁及び外壁)にセシウム化合物層51を被着するものである。
【0007】
また、セシウム化合物の溶液を筒状電極の中空部に注入した後、乾燥させて図7(半断面図)のように筒状電極50の内壁(全面)にセシウム化合物層51を被着することもある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−144676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のように筒状電極50の全面にセシウム化合物層51を被着した場合、蛍光ランプが放電する際に電極50の外壁部で放電の起点が移動して放電時のランプ電圧が変動し、蛍光ランプのちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動の要因となる。また、電極50に多量のセシウム化合物が塗布されるとランプ管内の電極付近が黄変(汚染)し易くなると共に、材料費が高くなり製造コストが上昇するという問題がある。
【0009】
一方、筒状電極50の内壁全面にセシウム化合物層51を設けた場合、筒状電極50の全面にセシウム化合物層51を設けた場合ほどではないにしても材料費は高くなり、製造コストの上昇は避けられないものとなる。
【0010】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、放電時のランプ電圧の変動に起因する蛍光ランプのちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動が少なく、且つランプ管内の電極付近の黄変が抑制されると共に暗黒雰囲気中での始動遅れが改善された、製造コストが安価な電子放出用電極及びそれを用いた冷陰極蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、底壁と該底壁から立ち上がる側壁とを有するカップ形状の電極部と、
前記電極部の前記底壁外面に接合されたリード部と、を備え、
前記電極部の前記側壁内面の開口端部から前記底壁側2mm以内に電子放射物質となるエミッタ層が被着されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記エミッタ層はセシウム化合物からなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、 気密封止されたガラス管の内部両端近傍に、底壁と該底壁から立ち上がる側壁とを有するカップ形状の電極部が互いの開口を対向させて配置され、該電極部の前記底壁外面に接合されたリード部が前記ガラス管の内部から端部を気密に貫通して外部に延設されてなる冷陰極蛍光ランプであって、前記電極部の前記側壁内面の開口端部から前記底壁側2mm以内に電子放射物質となるエミッタ層が被着されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、請求項3において、前記エミッタ層はセシウム化合物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、電子放出用電極を構成するカップ形状の電極部の側壁内面の開口端部から底壁側2mm以内に電子放射物質となるエミッタ層が被着させ、この電子放出用電極を冷陰極蛍光ランプの電極として採用した。
【0016】
その結果、安定したランプ電圧によって放電電流の変動が少なく、ちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動を抑制した冷陰極蛍光ランプが実現できた。また暗黒始動性に優れた冷陰極蛍光ランプを再現性良く実現することが可能となった。更に、エミッタの被着量を従来の電子放出用電極に比べて大幅に低減することができたため、冷陰極蛍光ランプのランプ管内の電極付近の黄変が抑制されて良好な光学特性を長時間に亘って維持することが可能となると共に、材料費の低減によって製造コストの低コスト化を実現することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の好適な実施例を図1〜図5を参照しながら、詳細に説明する。尚、以下に述べる実施例は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施例に限られるものではない。
【0018】
図1は本発明に係る冷陰極蛍光ランプ1であり、図2は該冷陰極蛍光ランプ1に用いる電子放出用電極10である。
【0019】
図1より、冷陰極蛍光ランプ1は、ガラス管2の内面に蛍光体層3が設けられ、両端部4が同じくガラス部材によって気密封止されている。気密封止されたガラス管2内には水銀や不活性ガス(図示せず)などが封入されていると共に両端部4近傍には電子放出用電極10の電極部11が配置され、該電極部11に接合されたリード部12がガラス管2内から端部4のガラス部材を気密に貫通して外部に延設された構成となっている。
【0020】
冷陰極蛍光ランプをこのような構成とすることは従来一般的に行われているものであり、本発明においては、前記電極部11及びリード部12を備えた電子放出用電極10を図2に示す構成とするものである。
【0021】
電極部11はニッケルなどの金属部材によって形成し、形状を底壁13と該底壁13から立ち上がる側壁14とを有するカップ形状としている。カップ形状の電極部11の底壁13の外面15にはレーザ溶接、抵抗溶接などの手段で接合されたリード部12が取り付けられている。
【0022】
電子放出用電極10をこのような構成とすることも従来一般的に行われているものであるが、本発明は電極部11に被着する電子放射物質となるエミッタ層を従来とは異なる限られた領域に設けるものである。
【0023】
具体的には、図2(半断面図)に示すように、低仕事関数のセシウム化合物を主成分とするエミッタ層16を、従来のようにカップ形状の電極部11の全面、あるいは、内面又は外面のいずれか一方の面の全面に被着するのではなく、カップ形状の電極部11の側壁14の内面18の、開口端部17から底壁13側2mm以内の限定された領域に設けるものである。
【0024】
なお、図2中(以下の図6中及び図7中でも同様)に付号20で示す部分は、電子放出用電極10を構成するリード部12が気密に貫通するガラスビード20であり、ガラス管2の両端部に融着して該ガラス管2を気密封止すると共に、ガラス管2内の両端近傍に電子放出用電極10を構成する電極部11を配置・固定する役割を担うものである。
【0025】
そこで発明者は、上述の本発明の電子放出用電極と、本発明の電子放出用電極とは異なる領域にエミッタを被着した電子放出用電極を作製し、それら電極を組み込んだ冷陰極蛍光ランプを作製して性能を比較した。
【0026】
作製した電子放出用電極の電極部の形状寸法は、カップ形状の内径を1.7mmφとし、長さ5mmとした。電極部に対するエミッタの被着領域は、カップ形状の電極部の内底面にのみ被着したもの(比較例1)、電極部の全面に被着したもの(比較例2)、カップ形状の側壁内面の開口端部から底壁側2mm以内に被着したもの(本発明による実施例1)である。
【0027】
上記各電子放出用電極を取り付けた冷陰極蛍光ランプは、ガラス管の外形を3mmφ、内径を2mmφとし、長さを729mmとした、そして、気密に封止されたガラス管内にArとNeの混合ガス(Ar/Ne=5/95)を7315Pa(55Torr)の圧力で封入し、同時にHgも封入した。なお、比較例1、比較例2及び実施例1の各電子放出用電極を取り付けた冷陰極蛍光ランプについても夫々比較例1、比較例2及び実施例1と呼称する。
【0028】
図3は、比較例2(サンプル5個)の冷陰極蛍光ランプの電極間電圧(ランプ電圧)の時間的推移を示したグラフであり、 図4は、実施例1(サンプル5個)の冷陰極蛍光ランプの電極間電圧(ランプ電圧)の時間的推移を示したグラフである。
【0029】
図3と図4より、比較例2の冷陰極蛍光ランプに対して実施例1の冷陰極蛍光ランプがランプ電圧の変動幅が小さく、ランプ電圧が安定していることがわかる。そのため、放電電流の変動が少なく、蛍光ランプのちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動を抑制したものとなっていることがわかる。
【0030】
図5は、比較例1、比較例2及び実施例1の暗黒雰囲気中での始動時間の測定結果を示している。測定手順は、比較例1、比較例2及び実施例1を共に放電電流6mAで1分間以上エージングした後に常温の暗黒雰囲気中に24時間、72時間放置し、その後電極間にランプ両端にかかる電圧を2680V印加して放電が始動するまでの時間を測定した。暗黒雰囲気中に24時間放置するサンプル数は、比較例1、比較例2及び実施例1については夫々50個、72時間放置するサンプル数は39個であった。
【0031】
図5より、暗黒雰囲気中に24時間放置した後の始動については、最短始動時間(Min)は比較例1、比較例2及び実施例1は共に0.03sであるが、最長始動時間(Max)は比較例1が0.14s、比較例2が0.16sに対して実施例1は0.05sと大幅に短縮されている。また、全サンプルの平均始動時間(Ave)も比較例1が0.038s、比較例2が0.039sに対して実施例1は0.034sと短縮されている。
【0032】
一方、暗黒雰囲気中に72時間放置した後の始動については、最短始動時間(Min)は比較例1、比較例2及び実施例1は共に0.04sであるが、最長始動時間(Max)は比較例1が0.23s、比較例2が0.09sに対して実施例1は0.06sと大幅に短縮されている。また、全サンプルの平均始動時間(Ave)も比較例1が0.063s、比較例2が0.044sに対して実施例1は0.041sと短縮されている。
【0033】
この結果より、驚いたことに部分塗布でありながら、電極全体にエミッタ層を被着した場合と同等の暗黒特性を示すことがわかった。従って、冷陰極蛍光ランプを大量に生産する場合、本発明に基づく電子放出用電極を取り付けた冷陰極蛍光ランプは、従来の構成からなる電子放出用電極を取り付けた冷陰極蛍光ランプに対して、暗黒雰囲気中における始動時間のばらつきが極めて小さく、且つ平均値も小さい。つまり、本発明の電子放出用電極を用いることにより、暗黒雰囲気中における始動性(暗黒始動性)に優れた冷陰極蛍光ランプを再現性良く実現することが可能となることがわかる。
【0034】
なお、本発明のように、エミッタ層をカップ形状の電極部の側壁内面の開口端部から底壁側2mm以内の限定された領域に設けてなる電子放出用電極は、上記実施例1のようなガラス管の外形が3mmφ、内径が2mmφの冷陰極蛍光ランプのみに用いられるものではなく、様々な管径の冷陰極蛍光ランプにおいてもその優れた性能を発揮することができる。その中でも、ガラス管の外形が2.4mmφ(内径が2.0mmφ)〜外形が4mmφ(内径が3.0mmφ)の冷陰極蛍光ランプには特に多く用いられている。
【0035】
以上説明したように、本発明の電子放出用電極を用いた冷陰極蛍光ランプはランプ電圧が安定しているために放電電流の変動が少なく、蛍光ランプのちらつき、あるいは点滅などによる光束の変動を抑制したものとなる。
【0036】
また、冷陰極蛍光ランプを大量に生産する場合、暗黒雰囲気中における始動時間のばらつきが極めて小さく且つ平均値も小さいために、暗黒雰囲気中における始動性(暗黒始動性)に優れた冷陰極蛍光ランプを再現性良く実現することが可能となる。
【0037】
更に、電子放出用電極に被着するエミッタの量が従来の電子放出用電極に比べて大幅に少なくなっている。そのため、冷陰極蛍光ランプのランプ管内の電極付近の黄変が抑制され、良好な光学特性を長時間に亘って維持することが可能となる。また、電極へのセシウム塗布を先端にすることで、暗黒特性は同等でありながら、管端の黄変防止、管電圧変動の抑制が可能となる。また、製造にあたってはエミッタの小量化に伴って材料費が低減でき、製造コストの低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る冷陰極蛍光ランプの説明図である。
【図2】本発明に係わる電子放出用電極の説明図である。
【図3】比較例2の冷陰極蛍光ランプに係るランプ電圧の時間的推移を示したグラフである。
【図4】実施例1の冷陰極蛍光ランプに係るランプ電圧の時間的推移を示したグラフである。
【図5】暗黒雰囲気中における冷陰極蛍光ランプの始動時間を示した表である。
【図6】従来の電子放出用電極に係る説明図である。
【図7】同じく、従来の電子放出用電極に係る説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 冷陰極蛍光ランプ
2 ガラス管
3 蛍光体層
4 端部
10 電子放出用電極
11 電極部
12 リード部
13 底壁
14 側壁
15 外面
16 エミッタ層
17 開口端部
18 内面
20 ガラスビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と該底壁から立ち上がる側壁とを有するカップ形状の電極部と、
前記電極部の前記底壁外面に接合されたリード部と、を備え、
前記電極部の前記側壁内面の開口端部から前記底壁側2mm以内に電子放射物質となるエミッタ層が被着されていることを特徴とする電子放出用電極。
【請求項2】
前記エミッタ層はセシウム化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の電子放出用電極。
【請求項3】
気密封止されたガラス管の内部両端近傍に、底壁と該底壁から立ち上がる側壁とを有するカップ形状の電極部が互いの開口を対向させて配置され、該電極部の前記底壁外面に接合されたリード部が前記ガラス管の内部から端部を気密に貫通して外部に延設されてなる冷陰極蛍光ランプであって、前記電極部の前記側壁内面の開口端部から前記底壁側2mm以内に電子放射物質となるエミッタ層が被着されていることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。
【請求項4】
前記エミッタ層はセシウム化合物からなることを特徴とする請求項3に記載の冷陰極蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−97903(P2010−97903A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269849(P2008−269849)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】