説明

電極−膜−枠接合体の製造方法及び燃料電池の製造方法

【課題】燃料電池の発電性能及び耐久性を一層向上させることができる電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部をガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで枠体を射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える電極−膜−枠接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池(単電池)は、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。MEAは、ハンドリング性の向上のため、その周縁部(外縁部ともいう)を、額縁状に成形された樹脂製の枠体で保持されている。ここでは、前記枠体を備えるMEAを電極−膜−枠接合体という。
【0004】
MEAは、周縁部を前記枠体に支持される高分子電解質膜と、当該電解質膜の両面に形成され、かつ前記枠体より内側に配置された一対の電極層とで構成されている。一対の電極層は、高分子電解質膜の両面に形成される白金等の触媒層と、当該触媒層上に形成される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。前記一対の電極層にそれぞれ燃料ガス又は酸化剤ガスが供給されることにより、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0005】
従来の電極−膜−枠接合体の製造方法としては、例えば、特許文献1(特開2011−40290号公報)に開示されたものがある。特許文献1には、ガス拡散層及び触媒層への成形樹脂材料の侵入を制御することを目的として、金型に設けた突起部でガス拡散層を圧縮することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−40290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、燃料電池の発電性能の向上と低コスト化の両方を実現すべく、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層を用いた燃料電池を検討した。
【0008】
しかしながら、かかるガス拡散層を用いた燃料電池の製造に際し、従来の電極−膜−枠接合体の製造方法を適用しても、製造された燃料電池の発電性能及び耐久性を十分に確保することはできなかった。
【0009】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、燃料電池の発電性能及び耐久性を一層向上させることができる電極−膜−枠接合体の製造方法及び燃料電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、高分子電解質膜の両面に触媒層とガス拡散層とを順に積層した膜電極接合体の周縁部に枠体を形成した電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部を前記ガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、前記金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで前記枠体を射出成形する、
ことを含む、電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法によれば、燃料電池の発電性能及び耐久性を一層向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法により製造される電極−膜−枠接合体の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の電極−膜−枠接合体の基本構成を模式的に示す平面図である。
【図3A】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図3B】図3Aに続く工程を示す断面図である。
【図3C】図3Bに続く工程を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法に用いる第1金型を模式的に示す平面図である。
【図5】図4の第1金型に設けられた突起部をガス拡散層に突き刺した状態を模式的に示す拡大断面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を備える燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図であり、ガス流路がセパレータに設けられた例を示す図である。
【図7】図6の燃料電池を複数個連結した燃料電池スタックの基本構成を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体を備える燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図であり、ガス流路がガス拡散層に設けられた例を示す図である。
【図9A】金型に設けられる突起部の第1変形例を示す断面図である。
【図9B】金型に設けられる突起部の第2変形例を示す断面図である。
【図10】内面に矩形断面の突起部を有する金型に膜電極接合体を配置した状態を示す断面図である。
【図11】図10の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の基礎となった知見)
導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層は、カーボンペーパー等の基材を有するガス拡散層と比して多孔度が低く、かつ剛性が低いという性質がある。本発明者らは鋭意研究したところ、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層を用いて電極−膜−枠接合体を製造すると、上述の性質に起因した以下の問題が生じることを見出した。
【0014】
射出成形は、膜電極接合体を金型に配置し、型閉じし、その周縁部に溶融した樹脂材料を流し込むことで行う。この際、ガス拡散層の周縁部が金型により押さえられる力が弱い場合には、ガス拡散層がその中心部に向かって滑りながら移動する(以下、「横滑り」という)現象が起きる。この横滑り現象が起こるのは、以下の理由による。
【0015】
すなわち、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層は、多孔度が低いため、射出される樹脂材料はガス拡散層に含侵しにくい。したがって、ガス拡散層の側面からガス拡散層に向かって樹脂材料が射出されると、射出圧力によりガス拡散層はその中心部に向かって押されることになる。また、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層は、剛性が低いため、形状が変化しやすい。したがって、ガス拡散層はその形状を変形させながら、その中心部に向かって横滑りする。
【0016】
次に、射出成形の際に、ガス拡散層の周縁部が金型により押さえられる力が強い場合に生じる問題について、図10及び図11を参照しながら説明する。図10は、内面に矩形断面の突起部を有する金型に膜電極接合体を配置した状態を示す断面図である。図11は、図10の部分拡大図である。
【0017】
図10に示すように、内面に矩形断面の突起部101aを有する金型101に電極−膜接合体102を配置すると、突起部101aによりガス拡散層121の周縁部が強く押さえられることになる。これにより、上述の横滑りを防ぐことができる。しかしながら、このとき、図11に示すように、突起部101aの下方に位置する高分子電解質膜123も圧縮され、機械的ダメージを受けることになる。これは、以下の理由による。
【0018】
すなわち、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層121は、多孔度が低く、かつ剛性が低い。そのため、ガス拡散層121に加わった厚さ方向(図10では上下方向)からの力は、面方向(図10では横方向)の力として分散されにくく、ガス拡散層121の下方に伝わりやすい。
【0019】
ガス拡散層121が突起部101aにより押さえられ圧縮されると、その力は突起部101aの下方に位置するガス拡散層121、触媒層122、及び高分子電解質膜123に伝わる。このため、突起部101aの下方に位置する高分子電解質膜123は圧縮され、機械的ダメージを受ける。高分子電解質膜123が機械的ダメージを受けると、発電時にその部分の劣化が加速する。その結果として、燃料電池の発電性能の低下及び耐久性の低下がもたらされる。
【0020】
このように、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されているガス拡散層121を用いて電極−膜−枠接合体を製造する際に、ガス拡散層121の横滑りを防ぐことと、高分子電解質膜123に機械的ダメージを与えないこととを両立することが困難であった。
【0021】
かかる知見に基づき本発明者らは鋭意検討したところ、金型の突起部の形状を工夫することで前記課題を解決できると考え、本発明に至った。
【0022】
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜の両面に触媒層とガス拡散層とを順に積層した膜電極接合体の周縁部に枠体を形成した電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部を前記ガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、前記金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで前記枠体を射出成形する、
ことを含む、電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0023】
なお、上述した特許文献1には、金型の突起部の形状が半円状、三角形、四角形、台形等であってもよいことが開示されている。しかしながら、特許文献1の製造方法で用いられる金型の突起部は、ガス拡散層及び触媒層への成形樹脂材料の侵入を制御するためにガス拡散層を圧縮することを目的として設けられるものである。このため、特許文献1の金型の突起部の形状は、ガス拡散層を圧縮可能な形状である必要がある。すなわち、特許文献1の金型の突起部の形状が三角形である場合であっても、当該三角形は、例えば、頂角が90°よりも180°に近いような鈍角三角形である必要がある。
【0024】
これに対し、本発明の第1態様にかかる金型の突起部は、高分子電解質膜が機械的ダメージを受けることを避けるため、突起部の下方に位置するガス拡散層の部分を極力圧縮することなく、ガス拡散層の移動を規制することを目的として設けられるものである。このため、本発明の第1態様にかかる金型の突起部は、先端部が尖った形状としており、特許文献1の突起部とは明らかに異なるものである。
【0025】
本発明の第2態様によれば、前記ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されている、第1態様に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0026】
本発明の第3態様によれば、前記突起部の高さは、前記ガス拡散層の厚さ未満である、第1態様に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0027】
本発明の第4態様によれば、前記突起部の高さは、前記ガス拡散層の厚さの50%以上〜95%未満である、第3態様に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0028】
本発明の第5態様によれば、前記突起部の断面形状が三角形である、第1〜4態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0029】
本発明の第6態様によれば、前記突起部の頂角が90°以下である、第1〜5態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0030】
本発明の第7態様によれば、前記突起部の頂角が45°以下である、第1〜5態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0031】
本発明の第8態様によれば、前記突起部は、前記金型の厚さ方向から見て環状に設けられている、第1〜7態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の第9態様によれば、高分子電解質膜の両面に触媒層とガス拡散層とを順に積層した膜電極接合体の周縁部に枠体を形成した電極−膜−枠接合体と、前記電極−膜−枠接合体を挟持する一対のセパレータとを有する燃料電池の製造方法であって、
金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部を前記ガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、前記金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで前記枠体を射出成形する、
ことを含む、燃料電池の製造方法を提供する。
【0033】
本発明の第10態様によれば、前記セパレータ及び前記ガス拡散層の少なくとも一方には、ガス流路が設けられ、
前記突起部が前記ガス拡散層に突き刺さることにより形成された突起痕の断面積は、前記突起痕の近傍に位置するガス流路の断面積よりも小さい、第9態様に記載の燃料電池の製造方法を提供する。
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
《実施形態》
本発明の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法について説明する前に、当該製造方法より製造される電極−膜−枠接合体の構成について説明する。図1は、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法により製造される電極−膜−枠接合体の基本構成を模式的に示す断面図であり、図2は、その平面図である。
【0036】
本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法により製造される電極−膜−枠接合体1は、MEA(膜電極接合体)10と、MEA10の周縁部に形成された枠体20とを備えている。
【0037】
MEA10は、高分子電解質膜11と、当該高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層12,12とを備えている。一対の電極層12の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。電極層12は、触媒層13とガス拡散層14とを備えている。触媒層13は、高分子電解質膜11の表面に形成され、当該触媒層13上にガス拡散層14が形成されている。すなわち、高分子電解質膜11の両面に、触媒層13とガス拡散層14とが順に積層されている。ガス拡散層14の周縁部には、後で詳しく説明するように、金型に設けられた突起部により形成された突起痕(金型痕)14aが形成されている。
【0038】
また、高分子電解質膜11は、触媒層13及びガス拡散層14よりもサイズが大きく、周縁部がそれらからはみ出すように設けられている。また、触媒層13はガス拡散層14と同じサイズもしくは大きいサイズでも良い。この高分子電解質膜11のはみ出し部分を覆うように枠体20が設けられている。枠体20の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では略矩形環状とする。
【0039】
高分子電解質膜11は、好ましくは、水素イオン伝導性を有する高分子膜である。高分子電解質膜11としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)など)や各種炭化水素系電解質膜を使用することができる。高分子電解質膜11の材料は、水素イオンを選択的に移動させるものであればよい。高分子電解質膜11の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では略矩形とする。
【0040】
触媒層13は、好ましくは、水素又は酸素の酸化還元反応に対する触媒を含む層である。触媒層13は、特に限定されるものではないが、例えば、白金系金属触媒を坦持したカーボン粉末とプロトン導電性を有する高分子材料とを主成分とした多孔質部材により構成することができる。触媒層13は、導電性を有し、かつ水素及び酸素の酸化還元反応に対する触媒能を有するものであればよい。触媒層13の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では略矩形とする。触媒層13は、高分子電解質膜11の表面に触媒層形成用インクを塗工又はスプレーするなどして形成することができる。
【0041】
ガス拡散層14は、炭素繊維を基材として用いずに構成したいわゆる基材レスガス拡散層で構成されている。具体的には、ガス拡散層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されている。ここで、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材とすることなく、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を製造する場合、例えば、界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材として使用しない自己支持体構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、炭素繊維を基材として基材として使用しない自己支持体構造であれば、他の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれてもよいことも意味する。
【0042】
ガス拡散層14は、高分子樹脂と導電性粒子とを含む混合物を混練して、押出し、圧延してから、焼成することにより製造することができる。具体的には、導電性粒子であるカーボンと分散溶媒、界面活性剤を攪拌・混錬機に投入後、混錬して粉砕・造粒して、カーボンを分散溶媒中に分散させる。次いで、高分子樹脂であるフッ素樹脂をさらに攪拌・混錬機に投下して、攪拌及び混錬して、カーボンとフッ素樹脂を分散する。得られた混錬物を圧延してシートを形成し、焼成して分散溶媒、界面活性剤を除去する。これにより、シート状のガス拡散層14を製造することができる。
【0043】
ガス拡散層14を構成する導電性粒子の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭などのカーボン材料が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられ、これらの材料を単独で使用してもよく、また、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。また、カーボン材料の原料形態としては、粉末状、繊維状、粒状等のいずれの形状であってもよい。
【0044】
ガス拡散層14を構成する高分子樹脂の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等が挙げられる。これらの中でも、高分子樹脂の材料としてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などがあげられる。それらの中でも、PTFEの原料形態としてディスパージョンが採用されることが、作業性の観点から好ましい。なお、ガス拡散層14を構成する高分子樹脂は、導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有する。また、前記高分子樹脂は、撥水性を有するため、燃料電池の内部にて水を系内に閉じ込める機能(保水性)も有する。
【0045】
また、ガス拡散層14には、上述したように、導電性粒子及び高分子樹脂以外に、該カソードガス拡散層の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン系が挙げられる。製造時に使用する分散溶媒の量及び界面活性剤の量は、導電性粒子の種類、高分子樹脂の種類、それらの配合比率などに応じて適宜設定すればよい。なお、一般的には、分散溶媒の量、界面活性剤の量が多いほど、高分子樹脂と導電性粒子が均一分散しやすい傾向がある一方で、流動性が高くなり、ガス拡散層のシート化が難しくなる傾向がある。なお、界面活性剤は、導電性粒子の材料、分散溶媒の種類により適宜選択することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもよい。
【0046】
なお、ガス拡散層14は、カソード電極側及びアノード電極側において同じ構造のガス拡散層を用いても、異なる構造のガス拡散層を用いてもよい。例えば、カソード電極側及びアノード電極側のいずれか一方に炭素繊維を基材としたガス拡散層を用い、いずれか他方に前記基材レスガス拡散層を用いてもよい。
【0047】
枠体20の材料としては、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、枠体20の材料として、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0048】
次に、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法について説明する。図3A〜図3Cは、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法を模式的に示す説明図である。
【0049】
本実施形態にかかる製造方法においては、金型として、第1金型T1と第2金型T2とを用いる。第1金型T1の内面には、先端部が尖っている(くさび状の)周縁部押さえ用の突起部T1aが設けられている。突起部T1aは、図4に示すように、環状に形成されている。同様に、第2金型T1の内面には、先端部が尖っている周縁部押さえ用の突起部T2aが設けられている。突起部T2aは、突起部T1aと同様に、環状に形成されている。また、第1金型T1には、溶融した樹脂材料を金型内に流し込むためのゲートT1bが設けられている。なお、当該ゲートは、第2金型T2に設けられてもよい。
【0050】
まず、図3Aに示すように、第2金型T2の突起部T2aが一方のガス拡散層14の周縁部に突き刺さるように、第2金型T2にMEA10を配置する。これにより、MEA10のガス拡散層14の面方向(図3Aでは横方向)の移動を規制する。なお、「周縁部」とは、電極−膜−枠接合体1が燃料電池に搭載されたときに、電極−膜−枠接合体1の厚さ方向から見た場合に、主にガス拡散層14の端部の近傍に位置する領域を意味する。
【0051】
次いで、図3Bに示すように、第1金型T1の突起部T1aが他方のガス拡散層14の周縁部に突き刺さるように、第1金型T1と第2金型T2とを型閉じする。このとき、第1金型T1の突起部T1aは、図5の矢印で示すように、ガス拡散層14をかき分けるように押圧する。すなわち、当該ガス拡散層14に対する突起部T1aの圧縮力は、主として突起部T1aの側方に加わり、突起部T1aの下方にはほとんど加わらない。その結果、高分子電解質膜11が機械的ダメージを受けることを避けることができる。また、ガス拡散層14において、突起部T1aの周囲に位置する部分の多孔度は低くなり、突起部T1aの先端部の下方に位置する部分の多孔度は突起部T1aの周囲に比べて高くなる。なお、図5に示す複数の黒丸は、密度の違いを示すために便宜的に付したものであり、黒丸が多いほど密度が高いことを示す。多孔度は密度の逆数に比例する。「多孔度が高い」ことは「密度が低い」ことに対応し、「多孔度が低い」ことは「密度が高い」ことに対応する。なお、前記では、第1金型T1の突起部T1aがガス拡散層14に加える押圧力について説明したが、第2金型T2の突起部T2aがガス拡散層14に加える押圧力についても同様であるので説明を省略している。
【0052】
次いで、図3Cに示すように、第1金型T1に設けられたゲートT1bを通じて第1金型T1と第2金型T2との間の空間(すなわち、金型内)に溶融した樹脂材料を流し込んで枠体20を射出成形する。この際、ガス拡散層14がその側面から射出圧力を受けても、その射出圧力は、ガス拡散層14内に埋まって存在する突起部T1a,T2aによって打ち消されるので、ガス拡散層14がその中心部に向かって横滑りすることを防ぐことができる。
【0053】
なお、前記では、第1金型T1及び第2金型T2の両方に突起部を設けるようにしたが、いずれか一方のみに設けてもよい。この場合でも、ガス拡散層14が横滑りすることを防ぐことができる。
【0054】
次に、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1を備える燃料電池(単電池)2について説明する。図6は、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体1を備える燃料電池2の基本構成を模式的に示す断面図である。
【0055】
図6に示すように、燃料電池2は、電極−膜−枠接合体1を一対のセパレータ30,340で挟持するように構成されている。一対のセパレータ30,40は、好ましくは、カーボンを含む材質や金属を含む材質で構成される。一方のセパレータ(アノードセパレータ)30のガス拡散層14と接触する主面(以下、電極面ともいう)には、燃料ガス用のガス流路31が設けられている。また、他方のセパレータ(カソードセパレータ)40のガス拡散層14と接触する主面(以下、電極面ともいう)には、酸化剤ガス用のガス流路41が設けられている。一方のセパレータ30のガス流路31に燃料ガスを供給し、他方のセパレータ40のガス流路41に酸化剤ガスを供給することで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0056】
なお、燃料電池2を電源として使うときには、図6に示す燃料電池(単電池)2を必要とする個数だけ直列に連結して、いわゆる燃料電池スタックとして使用することができる。この場合、ガス流路31,41に反応ガス(燃料ガス又は酸化剤ガス)を供給するためには、使用するセパレータ30,40の枚数に対応する数に反応ガスを分岐し、それらの分岐先をガス流路31,41につなぐマニホールドが必要となる。
【0057】
図7は、燃料電池2を複数個連結した燃料電池スタック3の基本構成を示す分解斜視図である。図7に示すように、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれ、燃料ガスが供給される一対の貫通孔である燃料ガスマニホールド孔22,32,42が設けられている。また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれ、酸化剤ガスが流通する一対の貫通孔である酸化剤ガスマニホールド孔23,33,43が設けられている。枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)2として連結された状態では、燃料ガスマニホールド孔22,32,42が連結され、燃料ガスマニホールドが形成される。同様に、枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)2として連結された状態では、酸化剤ガスマニホールド孔23,33,43が連結され、酸化剤ガスマニホールドが形成される。
【0058】
また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、冷却媒体(例えば、純水やエチレングリコール)が流通するそれぞれ二対の貫通孔である冷却媒体マニホールド孔24,34,44が設けられている。枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)2として連結された状態では、冷却媒体マニホールド孔24,34,44が連結され、二対の冷却媒体マニホールドが形成される。
【0059】
また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれの角部の近傍に4つのボルト孔50が設けられている。各ボルト孔50に締結ボルトが挿通され、当該締結ボルトにナットが結合することによって複数の燃料電池2が締結される。
【0060】
ガス流路31は、一対の燃料ガスマニホールド32,32間を結ぶように設けられている。ガス流路41は、一対の酸化剤ガスマニホールド43,43間を結ぶように設けられている。なお、図7では、ガス流路31,41をサーペンタイン型の流路として示したが、その他の形態(例えば直線型)の流路であってもよい。
【0061】
また、セパレータ30の電極面とは反対側の主面及びセパレータ40の電極面とは反対側の主面には、図示していないが、それぞれ冷却媒体流路が形成されている。冷却媒体流路は、二対の冷却媒体マニホールド孔34,44間を結ぶように形成されている。すなわち、冷却媒体がそれぞれ供給側の冷却媒体マニホールドから冷却媒体流路に分岐して、それぞれ排出側の冷却媒体マニホールドに流通するように構成されている。これにより、冷却媒体の伝熱能力を利用して、燃料電池2を電気化学反応に適した所定の温度に保つようにしている。
【0062】
なお、前記では、セパレータ30,40に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各マニホールド孔を設け、積層した際に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドが形成されるように構成した、いわゆる内部マニホールド方式の燃料電池を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料電池スタック3の側面に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドを設けた、いわゆる外部マニホールド方式の燃料電池であってもよい。この場合でも、同様の効果を得ることができる。また、セパレータ30,40を多孔状の導電材にて形成し、冷却媒体流路を流れる冷却水の圧力が、ガス流路31,41を流れる反応ガスの圧力よりも高くなるようにして、冷却水の一部を電極面側にセパレータ30,40を透過させて、高分子電解質膜11を湿らせる、いわゆる内部加湿型の燃料電池であってもよい。
【0063】
また、前記では、セパレータ30,40にガス流路31,41を設けるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図8に示すように、一方のガス拡散層14にガス流路31を設け、他方のガス拡散層14にガス流路41を設けるようにしてもよい。また、セパレータ30と一方のガス拡散層14の両方にガス流路31を形成するようにしてもよい。また、セパレータ40と他方のガス拡散層14の両方にガス流路41を形成するようにしてもよい。
【0064】
次に、第1金型T1の突起部T1aの好ましい形状、高さ、及び断面積について説明する。なお、第2金型T2の突起部T2aの好ましい形状、高さ、及び断面積は、第1金型T1の突起部T1aと同様であるので説明は省略する。
【0065】
突起部T1aは、ガス拡散層14に突き刺された際、ガス拡散層14の突起部T1aの先端部の下方に位置する部分の多孔度を低下させない形状であればよい。このような突起部T1aの形状としては、図5に示したような三角形の他、図9Aに示すような五角形、図9Bに示すような三角形の先端を僅かに丸めた形状などが挙げられる。
【0066】
また、突起部T1aの頂角θは、小さくすればするほど、ガス拡散層14の突起部T1aの先端部の下方に位置する部分の多孔度の低下を抑えることができる。このため、突起部T1aの頂角θは、好ましくは90°以下とし、より好ましくは45°以下とする。また、突起部T1aの頂角θは、さらに好ましくは30°以下とし、特に好ましくは15°以下とする。
【0067】
また、突起部T1aの高さは、ガス拡散層14の厚さ未満であることが好ましい。これにより、突起部T1aがガス拡散層14を貫通して高分子電解質膜11に突き刺されることを防ぐことができる。ここで、ガス拡散層14の厚さとは、第1金型T1と第2金型T2とを型閉じした状態におけるガス拡散層14の厚さをいう。また、突起部T1aの高さは、ガス拡散層14の製造バラツキを考慮して、好ましくはガス拡散層14の厚さの95%以下とする。
【0068】
また、突起部T1aの高さは、好ましくはガス拡散層14の厚さの50%以上とし、より好ましくは75%以上とする。これにより、ガス拡散層14の横滑りをより確実に防ぐことができる。また、突起部T1aによりガス拡散層14の発電に寄与する内側領域に溶融した樹脂が流れ込むことを抑えることができるので、燃料電池2の発電性能の低下を抑えることができる。
【0069】
また、突起部T1aにより形成される突起痕14aの断面積は、図6又は図8で示したガス流路31の断面積よりも小さくすることが好ましい。その理由は、以下の通りである。
【0070】
図1及び図2に示すように、本実施形態の電極−膜−枠接合体の製造方法により製造された電極−膜−枠接合体1のガス拡散層14の周縁部には、突起部T1aの形状が転写された突起痕14aが形成される。この突起痕14aが形成された電極−膜−枠接合体1を用いて燃料電池2を製造し、当該燃料電池2の内部に反応ガスを供給すると、当該反応ガスが、突起痕14a内に流れ、ガス流路31に流れることなく燃料電池2の外部に排出されることが起こり得る。以下、この現象をガスの回り込み現象という。このガスの回り込み現象が発生すると、反応ガスの利用効率が低下し、燃料電池2の発電性能が低下することになる。
【0071】
このガスの回り込み現象を防ぐには、突起痕14aの断面積を突起痕14aの近傍に位置するガス流路31の断面積よりも小さくすることが有効である。このため、突起痕14aの断面積は、好ましくは突起痕14aの近傍に位置するガス流路31の断面積の75%以下とし、より好ましくは50%以下とし、さらに好ましくは25%以下とする。なお、突起痕14aの近傍に位置するガス流路31とは、燃料電池2を厚さ方向(図6又は図8では上下方向)から見たとき、突起痕14aの最も近くに位置するガス流路31を意味する。
【0072】
以上、本実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の製造方法によれば、突起部T1a,T2aをガス拡散層14の周縁部に突き刺して、ガス拡散層14の面方向に移動を規制した状態で枠体20を射出成形するようにしているので、ガス拡散層14の横滑りを防止すると共に、高分子電解質膜11が機械的ダメージを受けることを避けることができる。よって、燃料電池の発電性能及び耐久性を一層向上させることができる。
【0073】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明にかかる膜−電極−枠接合体の製造方法は、燃料電池の発電性能及び耐久性を一層向上させることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0075】
1 電極−膜−枠接合体
2 燃料電池
3 燃料電池スタック
10 MEA(膜電極接合体)
11 高分子電解質膜
12 電極層
13 触媒層
14 ガス拡散層
14a 突起痕
20 枠体
30,40 セパレータ
31,41 ガス流路
T1,T2 第1,第2金型
T1a,T2a 突起部
T1b ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜の両面に触媒層とガス拡散層とを順に積層した膜電極接合体の周縁部に枠体を形成した電極−膜−枠接合体の製造方法であって、
金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部を前記ガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、前記金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで前記枠体を射出成形する、
ことを含む、電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項2】
前記ガス拡散層は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されている、請求項1に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項3】
前記突起部の高さは、前記ガス拡散層の厚さ未満である、請求項1に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項4】
前記突起部の高さは、前記ガス拡散層の厚さの50%以上〜95%未満である、請求項3に記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項5】
前記突起部の断面形状が三角形である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項6】
前記突起部の頂角が90°以下である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項7】
前記突起部の頂角が45°以下である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項8】
前記突起部は、前記金型の厚さ方向から見て環状に設けられている、請求項1〜7のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体の製造方法。
【請求項9】
高分子電解質膜の両面に触媒層とガス拡散層とを順に積層した膜電極接合体の周縁部に枠体を形成した電極−膜−枠接合体と、前記電極−膜−枠接合体を挟持する一対のセパレータとを有する燃料電池の製造方法であって、
金型の内面に設けられた先端部が尖っている突起部を前記ガス拡散層の周縁部に突き刺して、当該ガス拡散層の面方向の移動を規制した状態で、前記金型内に溶融した樹脂材料を流し込んで前記枠体を射出成形する、
ことを含む、燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記セパレータ及び前記ガス拡散層の少なくとも一方には、ガス流路が設けられ、
前記突起部が前記ガス拡散層に突き刺さることにより形成された突起痕の断面積は、前記突起痕の近傍に位置するガス流路の断面積よりも小さい、請求項9に記載の燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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