説明

電極井戸構成管及びその製造方法

【課題】浄化化対象の土壌の深さに応じた長さのものに容易に構成可能であり施工性に優れた、原位置浄化処理用の電極井戸構成管を構成する。
【解決手段】周面に複数の通孔21aが形成された硬質合成樹脂管21の内部に多孔質合成樹脂管22を圧入し、硬質合成樹脂管21の内周面に多孔質合成樹脂管22の外周面を密着接合させ、両管を一体化させて電極井戸構成管2を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌を原位置で浄化処理する工法において地盤に設置される電極井戸を構成する管材に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属や有機化合物による土壌汚染が発見された場合の対策として、汚染された土壌を含む地盤を掘削して場外に持ち出す方法や固化剤で固めて原位置で不溶化する工法、汚染が広がらないように鋼板を地盤に打ち込んで原位置に封じ込める方法などが知られているが、地盤を掘削したり鋼板を打ち込んだりするのには大規模な工事が必要となり、また、これらの何れの方法も土壌の汚染そのものを除去するものではなく、場外に持ち出したとしても汚染された土壌は残存したままであり土壌を浄化する根本的な解決策とはなっていない。
【0003】
そこで、土壌の汚染を根本的に除去し、それも原位置で浄化する方法として、図3に示されるように、汚染された土壌を含む地盤に電極井戸と呼ばれる電極を埋設し、電極井戸内に注入された電解液を介して直流電流を流すことにより土壌のphを調節して地中に含まれる電荷を持つ性質の汚染物質をイオン化し、電解液中に溶け込んだ汚染物質イオンを回収して土壌を浄化する汚染土壌の原位置浄化技術(電気修復法)が実用化されつつある。
【0004】
この原位置浄化技術で地盤に埋設される電極井戸は、通水性を備えた円筒管の内部に電極を配し、電極に向かって移動する土壌中の汚染物質イオンを円筒管内に取り込み、電解液中に溶け込ませて管口からを回収することができるように構成されており、前記円筒管には周面に多数の孔を設けた合成樹脂管や、管壁が多孔質状のセラミック管或いはメッシュ状に形成されたもの、前記合成樹脂管の内周面を半透過性膜で覆った構造のものなどが利用されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−48827号公報
【特許文献2】特開2006−346519号公報
【特許文献3】特開2006−346567号公報
【特許文献4】特開2005−279399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極井戸の円筒管として多数の通孔が空けられた合成樹脂管を用いた場合、円筒管内に注入した電解液が通孔から地中に漏出し易く、そのため円筒管内に電荷液を常時補充する必要があり、また、汚染物質イオンとともに土壌や塵埃の成分が円筒管内に入り込んで電解液中に溶け込んでしまい、汚染物質を回収する際に電解液中の汚染物質イオンとそれ以外のものとを分離する処理工程が必要となる。
円筒管として管壁が多孔質状やメッシュ状の管材を用いれば、電解液の漏出が少なく汚染物質イオンのみ管壁を透過させて回収することが可能であるが、これらのものは長尺に成形することが難しく、成形コストも高くならざるを得ない。電極井戸は浄化対象の土壌の深さに応じた深さに埋設する必要があるが、前記管材では数メートルに及ぶ長尺のものを成形することが難しく、管材同士を連結して長尺に構成することもできないため、浄化可能な深さも制限されてしまう。また、多孔質管やメッシュ管は、集中的な荷重に弱く、端部が欠けたり割れたりし易く、土圧によって押し潰されることともあるため、施工時の運搬や据え付け、埋設などの場面で取り扱いに細心の注意が必要であり、施工性が悪いという問題がある。
合成樹脂管の内周面を半透過性膜で覆った構造のものは、多孔質管などよりも施工性が良いものの、成形が難しく、且つコストが嵩み、半透過性膜が剥がれやすいなどの耐久性の点でも問題があり、実用性に欠ける。
【0007】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、電解液を漏出させずに土中から汚染物質イオンのみを透過させて回収することができ、浄化化対象の土壌の深さに応じた長さのものに容易に構成可能で施工性に優れた電極井戸の構成管を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、汚染土壌の原位置浄化に用いる電極井戸構成管において、周面に複数の通孔が形成された硬質合成樹脂管の内周面に多孔質合成樹脂管の外周面を接合し密着させて構成してあることを特徴とする。
【0009】
前記構成において、硬質合成樹脂管はJIS規格に沿って成形された、ポリ塩化ビニル或いはその他の樹脂材料からなる円筒管材を用いることが好ましい。
JIS規格品の管材を用いることで汎用の継手やキャップなどの付属品を利用して電極井戸を安価に構成することができ、また、前記継手で管材同士を連結し長さを調整するなどの加工を、浄化対象である土壌に応じ、施工現場において簡易且つフレキシブルに行うことが可能となる。
硬質合成樹脂管の周面に形成する複数の通孔は、電極に向かう汚染物質イオンを管内に効率的に取り込むことができ、且つ当該管材の剛性の低下を来さない範囲で、管壁の適宜な位置に適宜な形状で適宜な数を形成することができる。
【0010】
多孔質合成樹脂管は、管壁が水の透過を最小とし、イオンの透過を許容する孔径に成形された多孔質円筒管材であり、超高分子量ポリエチレンを原料とする焼結成形品、例えば本出願人の製品である多孔質プラスチック成形体「フィルダス」(登録商標)を用いることが好ましい。
前記孔径であれば管内に注入された電解液が外部に漏出することがなく、他方、土中の汚染物質イオンは管壁を透過して管内に取り込まれ、電解液内に溶け込ますことができる。また、多孔質合成樹脂管は、原材料や成形条件を適宜に設定することで管壁の孔径を変え、濾過性能である透過率を適宜に設定することが可能である。
【0011】
前記構成の電極井戸構成管は、周面に通孔が形成された硬質合成樹脂管と、外径が硬質合成樹脂管の内側に圧密に嵌入し得る寸法に形成された多孔質合成樹脂管を用意し、両管を互いに管軸を揃えて並べた状態で硬質合成樹脂管の一端からその内部に多孔質合成樹脂管を押し込んで圧入し、硬質合成樹脂管の内周面に多孔質合成樹脂管の外周面を接合し密着させて一体化させることにより製造することができる。
【0012】
かかる電極井戸構成管は、一側の開口端に底蓋を被せて閉鎖した状態で、浄化対象の土壌を掘削して形成された竪穴の中に前記底蓋で閉鎖された側を下向きに挿入して埋設され、埋設された管内に棒状の電極を設置して電極井戸を構成する。
電極井戸は、浄化する土壌の地盤に陽・陰両極を一対として複数対が互いに適宜な間隔を空けて並設され、各々電極は電気ケーブルで浄化処理プラントの制御装置に接続され、管口には電解液を注水及び回収する電解液処理タンクに接続される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電極井戸構成管によれば、周面に通孔が形成された硬質合成樹脂管の内部に多孔質合成樹脂管を圧入し、内外管の周面を密着接合させて構成してあるので、電解液は多孔質合成樹脂管の内部に貯留されて外部に漏出することがなく、一方、土壌中の汚染物質イオンは硬質合成樹脂管の通孔を通り、多孔質合成樹脂管の管壁を透過して当該構成管内部に入り込み、前記貯留された電解液に溶け込んで、電解液とともに確実に回収することが可能である。
多孔質合成樹脂管はその全体が硬質合成樹脂管に覆われて管内に保持されるので、施工現場に移送したり埋設したりするなどの取り扱い中に衝撃を受けたり押圧力がかかったりしても変形や割れなどの破損を来すことはなく、硬質合成樹脂管単体を取り扱う要領で取り扱うことができるので電極井戸の施工が簡便なものとなる。
また、JIS規格品の管材を用いているので、汎用の継手を用いて電極井戸構成管同士を接続して長さを調節するなど、電極井戸の加工を施工現場において簡易且つフレキシブルに行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電極井戸構成管を用いて構成された電極井戸を半面を破断して示した概略構成図である。
【図2】図1の電極井戸構成管を構成する硬質合成樹脂管と多孔質合成樹脂管の外観図である。
【図3】土壌の原位置浄化処理技術の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な一実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態の電極井戸構成管を用いて構成された電極井戸を示しており、図中、符号1は電極井戸、2は電極井戸構成管、3は電極、4は底蓋をそれぞれ示している。
【0016】
図示されるように、電極井戸構成管2は、周面に多数の通孔21aが形成された硬質合成樹脂管21の内側に多孔質合成樹脂管22を同軸に配置し、硬質合成樹脂管21の内周面に多孔質合成樹脂管22の外周面を密着接合し一体化させて構成してある。
【0017】
詳しくは、硬質合成樹脂管21は、適宜な厚みの円筒管であり、その周面全体に亘り、円形に開口した通孔21aを周方向と長手方向に沿って所定間隔を空け複数列設して形成してある。多孔質合成樹脂管22は、その外径が硬質合成樹脂管21の内側に圧密に嵌入し得る寸法に形成された円筒管であり、その外周面を硬質合成樹脂管21の内周面全長に亘って密着接合させて、硬質合成樹脂管21の内側に一体に設置してある。
【0018】
このように構成される電極井戸構成管2は、図2に示されるように、周面に通孔21aを穿孔した硬質合成樹脂管21と多孔質合成樹脂管22の管軸Oを揃えた状態で、硬質合成樹脂管21の一端からその内部に多孔質合成樹脂管22を押し込んで圧入し、両管の内外周面を密着接合し一体化させることにより形成することができる。長尺な硬質合成樹脂管21の内部に、短尺な複数の多孔質合成樹脂管22を圧入し、内外周面を密着接合させて形成してもよい。
【0019】
また、硬質合成樹脂管21としてJIS規格樹脂管を用いることで以下の作用効果を奏する。
この場合、例えば呼び径(内径)125mm、長さ1000mmのJIS規格の硬質合成樹脂管2を用い、予めその周面に空孔率が最低10%以上となるように円形やスリット形の通孔21aを形成しておき、一方、外径125mm、長さ1000mmの多孔質合成樹脂管22を準備し、これを前記硬質合成樹脂管21の一端から内部に圧入し、両管の内外周面を密着接合し一体化して、電極井戸構成管2を構成する複合管を完成させる。
この複合管を1ユニットとして、複数ユニットをJIS規格のソケットなどで接続すれば1m単位で長さを設定した電極井戸構成管2を形成することが可能である。電極井戸構成管2の最下部にJIS規格のキャップ(底蓋4)を取り付けて閉鎖するなど様々な規格品を簡易に使用することができる。
また、電気修復法において修復される対象部分以外、例えば地表からポンプまでといった配管経路などについても、JIS規格の汎用の樹脂管などを用い簡易且つフレキシブルに配管して構成可能であり、例えば分岐する配管経路も自在に構成することができる。
【0020】
なお、硬質合成樹脂管21の周面に形成する通孔21aは、図示した形状に限定されず、細長いスリット状や帯状に開口したものなど適宜な形状とすることができる。また、通孔21aを形成する位置や数も適宜に設定可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 電極井戸、2 電極井戸構成管、21 硬質合成樹脂管、22 多孔質合成樹脂管、3 電極、4 底蓋、O 管軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌の原位置浄化に用いる電極井戸構成管において、
周面に複数の通孔が形成された硬質合成樹脂管の内周面に多孔質合成樹脂管の外周面を接合一体化させて構成されていることを特徴とする電極井戸構成管。
【請求項2】
汚染土壌の原位置浄化に用いる電極井戸構成管の製造方法において、
周面に複数の通孔が形成された硬質合成樹脂管の内部に多孔質合成樹脂管を圧入し、前記硬質合成樹脂管の内周面に多孔質合成樹脂管の外周面を接合させて両管を一体化させることを特徴とする電極井戸構成管の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−177603(P2011−177603A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41430(P2010−41430)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】