説明

電気めっき装置のアノードホルダー

【課題】めっき終了後、めっき槽内めっき液を排液した後もアノードが空気に晒されず、アノード酸化による悪影響を抑止できるアノードホルダーを提供する。
【解決手段】下端部が開放されているホルダー本体26と、該ホルダー本体26内に設けられたアノード30の係止部24と、前記ホルダー本体26の下端面を閉鎖するフィルター28と、前記係止部24に保持されたアノード30より仕切られた上室27と下室28とを連通させる通気・通液孔32と、前記ホルダー本体26の上室27に連通するエア抜き手段34と、を備えるアノードホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品用の基板、IC用のウエファ、薄膜磁気ヘッド用のウエファなどのめっきに用いられる、電気めっき装置に関するものであり、更に述べると、アノードを保持するアノードホルダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウエファのめっき面には、薄膜がつけられるが、この薄膜は電気めっき装置により成膜されている。この電気めっき装置では、めっき膜を形成する面に導電性の下地膜を設け、この下地膜を陰極とし、アノードホルダーに保持されているアノードを陽極としてめっき槽のめっき液中で電通させることにより、前記下地膜上にめっき膜を析出させている。
【0003】
前記電気めっき装置では、めっき槽の上部にアノードホルダーが設けられ、その下部側にウエファホルダーが上下動可能に設けられている。前記アノードホルダーは、下端部が開放されているホルダー本体と、該ホルダー本体内に設けられたアノードの係止部と、前記ホルダー本体の下端面を閉鎖するフィルターと、前記係止部に保持されたアノードより仕切られた上室と下室とを連通させる通気・通液孔と、を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電気めっき装置では、ウエファに電気めっきする際には、めっき槽にめっき液が充填されるため、前記アノードホルダーは、めっき液中に漬かるので、アノードはめっき液に浸される。 しかし、めっき作業終了後には、前記ウエファホルダーを下降させてウエファを取り出すので、前記めっき槽内のめっき液を抜かなければならない。
【0005】
ところが、前記めっき槽内のめっき液を抜いてしまうと、アノードホルダー内のめっき液は、自重により落下して無くなるので、前記アノードは、空気に晒される状態となる。そのため、アノードの酸化の問題が発生し、めっきの品質に重大な悪影響を及ぼすことになる。この悪影響は、銅めっき用の銅のアノードにおいて特に、顕著に現れる。
【0006】
この発明は、上記事情に鑑み、アノードが空気に晒されない様にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下端部が開放されているホルダー本体と、該ホルダー本体内に設けられたアノードの係止部と、前記ホルダー本体の下端面を閉鎖するフィルターと、前記係止部に保持されたアノードより仕切られた上室と下室とを連通させる通気・通液孔と、前記ホルダー本体の上室に連通するエア抜き手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明の前記エア抜き手段は、自動弁を有するエア抜き用のチューブであることを特徴とする。この発明の前記エア抜き用のチューブは、圧力計を備えていることを特徴とする。この発明の前記ホルダー本体内に筒状体が嵌着され、該筒状体の内面に前記アノードの係止部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明の前記通気・通液孔は、前記筒状体を貫通する通孔であることを特徴とする。この発明の前記通気・通液孔は、アノードホルダに設けられた通孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、以上のように構成したので、排液時に、エア抜き手段を閉鎖すると、めっき槽内のめっき液は排液されるが、ホルダー本体内は気密になるので、めっき液はフィルターから抜け落ちることがない。そのため、アノードホルダー内のアノードは、めっき液の充填されている上室と下室に常時接触しているため、空気と触れることが無いので、酸化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態を示す縦断面図で、めっき中の状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す縦断面図で、排液中の状態を示す図である。
【図3】アノードホルダーの拡大縦断面である。
【図4】アノードホルダーの拡大底面図である。
【図5】本発明の実施形態の縦断面で、めっき終了後に、ウエファホルダーをカソードホルダーから外した状態を示す図である。
【図6】気密保持の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本件発明者は、アノードの酸化を防止するためには、前記アノードを保持しているアノードホルダー内を常時めっき液で充満させておけばよい、と考え、その具体的な手段について実験研究を重ねたところ、排液時にアノードホルダー内を気密にすれば、フィルターからめっき液が漏れることがないことがわかった。
【0013】
そこで、その原理について簡単に説明する。図6に示すように、コップ1に所定量の水Wを入れた後、上端開口部を布(ハンカチ)3で覆い、該布3をゴム5で縛り固定する。そうすると、コップ1内は水層部2と空気層部9とに分かれる(図5A参照)。このコップ1を瞬時に反転させて、上端開口部を下側にする同時に底部を上側にすると、空気Aはコップ1の底部側に移動し、該コップ1内は気密になるので、布3から水2が漏れることは無い。この発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0014】
この発明の実施形態を図1〜図5により説明する。電気めっき装置のめっき槽10の底部には、嵌合穴13aを有するカソードホルダー13が設けられている。前記カソードホルダー13の下方には、ウエファ15を載置するウエファホルダー17が上下動可能に設けられている。
【0015】
前記めっき槽10内には、アノードホルダー20が前記カソードホルダー13に対向して設けられている。このアノードホルダー20は、下端部が開放されているホルダー本体26と該ホルダー本体26に嵌着される筒状体22とを備えている。前記ホルダー本体26は、筒部26aと該筒部26aの上端を閉鎖する円錐台部26bとを備えている。前記ホルダー本体26の下端には、フィルター28が固定されており、該ホルダー本体26の底面は前記フィルター28により閉鎖されている。
【0016】
前記筒状体22の内面には、アノード30を保持する係止部24が設けられているが、この係止部24は、係止爪であり、周方向に間隔をおいて複数配設されている。なお、前記筒状本体22は省略可能であるが、この筒状体22を省略した場合には、前記係止爪24は、前記ホルダー本体26の筒部26aの内面に設けられる。
【0017】
前記筒状体22には、通気・通液孔32が設けられているが、この通気・通液孔32は、前記係止部24にアノード30を設置してホルダー本体26内が上室27と下室29に仕切られたときに、前記両室27,29を連通させるもので、筒状体22の壁部を軸方向に貫通している。
【0018】
前記ホルダー本体26には、前記上室27に連通する空気抜き手段34が設けられているが、この空気抜き手段として、空気抜き用のチューブ34が用いられる。このチューブ34には、めっき時に開き、めっき層10のめっき液を排出する時には閉じられる自動弁36と、ホルダー本体26内の圧力を検出する圧力計38が配設されている。なお、40はパドルを示す。
【0019】
この実施形態の作動について説明する。
「めっき中」
図1に示すように、カソードホルダー13にウエファ15を載置したウエファホルダー17が挿入された後、めっき槽10内にめっき液Rが充填されるので、前記アノードホルダー20は、めっき液R内に浸漬される。
【0020】
この時、自動弁36は開かれ、アノードホルダー20は大気に連通しているので、めっき液Rがフィルター28を通って該ホルダー本体26内に入ってくると、該ホルダー本体26内の空気はめっき液Rに押されて前記自動弁38から器外に排出される。そのため、ホルダー本体26内の上室26aと下室26bにめっき液Rが充填される。この状態において電極に給電を行うことによりウエファ15の表面にめっき膜が生成される。
【0021】
「排液中」
所定のめっき膜を生成した後、前記給電を停止するとともに、前記自動弁36を閉にする。そして、図示しない排液弁を開いてめっき槽10内のめっき液Rを排出させ、該めっき槽10内を空にする(図2参照)。
【0022】
この時、アノードホルダー20内は、気密状態となるので、ホルダー本体26内のめっき液Rは、フィルター28から漏れ落ちることは無い。そのため、アノード30に仕切られているホルダー本体26内の上室27と下室29のめっき液Rは保留されるので、前記アノード30は、めっき液に浸された状態を維持する。従って、前記アノード30は、空気に触れることが無いので、酸化を防止することができる。
【0023】
なお、アノードホルダー20のホルダー本体26が不透明の場合には、前記ホルダー本体26内のめき液を目視により確認できないが、この様な場合には、前記圧力計38の圧力表示を見ることにより、前記ホルダー本体26内のめっき液の有無を確認することが可能である。
【0024】
「めっき終了」
めっき槽10内のめっき液Rが無くなった後、ウエファホルダー17を所定位置まで下降させてカソードホルダー13から抜き出す。そして、ウエファホルダー17上のウエファ15を取り出し、所定の位置に移動させる(図5参照)。
【0025】
この時、前記アノードホルダー20の上室27及び下室29内には、めっき液Rが保留されているので、アノード30は、空気に触れることがないので、酸化を防止することができる。
【0026】
この発明の実施形態は、上記に限定されるものではなく、例えば、次のようにしても良い。
(1)アノード30に通気・通液孔32を形成すると、前記筒状体22の通気・通液孔32を省略することができる。
(2)前記圧力計は、省略することができる。
(3)エア抜き手段として、自動弁36を用いる代わりに、真空引きして前記アノードホルダー内を気密状態にしても良い。従って、このエア抜き手段には、真空引きする場合も含まれる。
【符号の説明】
【0027】
15 ウエファ
17 ウエファホルダー
20 アノードホルダー
22 筒状体
24 係止部
26 ホルダー本体
27 上室
28 フィルター
30 アノード
32 通気・通液孔
34 エア抜き用のチューブ
36 自動弁
38 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部が開放されているホルダー本体と、
該ホルダー本体内に設けられたアノードの係止部と、
前記ホルダー本体の下端面を閉鎖するフィルターと、
前記係止部に保持されたアノードより仕切られた上室と下室とを連通させる通気・通液孔と、前記ホルダー本体の上室に連通するエア抜き手段と、
を備えていることを特徴とする電気めっき装置のアノードホルダー。
【請求項2】
前記エア抜き手段は、自動弁を有するエア抜き用のチューブであることを特徴とする請求項1記載の電気めっき装置のアノードホルダー。
【請求項3】
前記エア抜き用のチューブは、圧力計を備えていることを特徴とする請求項2記載の電気めっき装置のアノードホルー。
【請求項4】
前記ホルダー本体内に筒状体が嵌着され、前記アノードの係止部が前記ホルダー本体内に設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気めっき装置のアノードホルダー。
【請求項5】
前記通気・通液孔は、前記筒状体を貫通する通孔であることを特徴とする請求項4記載の電気めっき装置のアノードホルダー。
【請求項6】
前記通気・通液孔は、アノードに設けられた通孔であることを特徴とする請求項1、2、3、又は、4記載の電気めっき装置のアノードホルダー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−184727(P2011−184727A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50030(P2010−50030)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(593129423)株式会社東設 (13)