説明

電気ランプ

電気素子3、4を収容する石英ガラスのランプ容器10を持つ電気ランプが記載されている。前記ランプ容器は、局所的に、光吸収、無反射コーティング11、12を有する。前記コーティングは、主として、鉄、酸化鉄、ケイ素及び二酸化ケイ素から成り、鉄とケイ素との重量パーセント比は、0.5≦鉄/ケイ素≦12の範囲内であり、ケイ素と二酸化ケイ素との重量パーセント比は、0.5≦ケイ素/二酸化ケイ素≦50の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流導体が接続される電気素子を収容するランプ容器を有する電気ランプであり、前記電流導体が、前記ランプ容器から外部へ出る電気ランプであり、前記ランプ容器が、局所的に光吸収コーティングで覆われ、前記光吸収コーティングが、少なくとも一部は酸化物の形態の鉄を含む鉄化合物と、二酸化ケイ素とを有する電気ランプに関する。更に、本発明は、前記電気ランプのために用いられる懸濁液、及びこのようなランプを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ特許出願公開第DE3827451号からこのタイプのハロゲン白熱電球は知られている。既知の光吸収コーティングは、酸化鉄の他に、更に、色素として、酸化チタン、酸化マンガン及び磁鉄鉱、FeO4を有し、ランプ容器のガラス上に焼きつけられる前に、接着剤として、ケイ酸エチルを有する。既知のコーティングは、付加的に、メタリン酸ナトリウム、グリコール、モノブチルグリコールエーテル及びエタノールを有する懸濁液から得られる。前記懸濁液は、相対的に複雑な組成を持つ。既知の懸濁液は、約3日の相対的に短い貯蔵寿命という不利な点を持ち、この光吸収コーティングは、ランプ容器上に焼きつけられ、光吸収コーティングに変えられる際に、比較的容易にランプ容器から落ち得る。更に、酸化マンガンは、多くの場合、汚染物質として(酸化)鉛を有し、それ故、環境に対して相対的に有害である。
【0003】
70重量%以上の酸化鉛を有し、更に、酸化ケイ素及び酸化ホウ素、並びに色素としての鉄、コバルト及びマンガンの酸化物を有する、ガラスフリットの重量でほぼ3分の1の光吸収コーティングを持つ電気ランプが、イギリス特許出願公開第GB1422491号から知られている。このコーティングは、例えば、3*10-6≦熱膨張係数≦7*10-6の範囲内の熱膨張係数を持つ、硬質ガラス、すなわち、アルミノケイ酸ガラス又はホウケイ酸ガラス製のランプ容器に永久に付着するが、硬質ガラスよりずっと低い熱膨張係数を持つ石英ガラスなどの少なくとも96重量%のSiO2含有率を備えるガラスからはすぐに剥がれ落ち始めることが分かった。別の不利な点は、このコーティングは、環境に対して有害である物質、すなわち、色素中を酸化コバルト及びガラスフリット中の酸化鉛を有するということである。このコーティングは、比較的多くの光を透過するという他の不利な点を持つ。この不利な点は、例えば高圧放電ランプでそうであるように、光源の輝度が高くなるにつれて比例してより悪化する。車両のヘッドライトとしての使用に適しているこのような高圧放電ランプは、欧州特許出願公開第EP708978号に記載されている。この文献に開示されているランプの光吸収コーティングは、例えば、ドイツ特許第DE2837280号に記載されているケイ素の粉末及び鉄粉しか有さない懸濁液から得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、比較的高い光吸収率及び光に対する不透過性を持ち、それにもかかわらず、耐久性があり、環境に対して比較的無害である光吸収コーティングを具備する、冒頭の段落において言及されているタイプの電気ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、この目的は、請求項1の特徴部において規定されているようなランプによって達成される。0.5未満のケイ素/二酸化ケイ素比率は、前記光吸収コーティングの光吸収特性を低くさせ過ぎる。これは、自動車のアプリケーションにおいて妨げとなる迷光/グレアをもたらし得る。12以上のケイ素/二酸化ケイ素比率は、前記光吸収コーティングを前記ランプ容器からあまりに容易に除去可能にさせる、即ち、前記光吸収コーティングが、比較的容易にかき傷をつけられ得る、又はそれどころか、こすり落とされ得る。ケイ素、酸化鉄及び鉄は、共に、前記光吸収コーティングを黒くさせる光吸収色素である。前記色素間の比率は、比較的大きな程度まで、前記光吸収色素が依然として黒くみえるように変えられ得る。しかしながら、3つの前記色素の全てが、前記コーティング中に存在しなければならない。主に金属として存在する鉄が、本発明によるランプの前記コーティングの主成分である。前記コーティングの前駆体物質として用いられるケイ酸エチルのハイブリッド接着剤は、例えば、700℃乃至900℃の温度における、例えば、2乃至6秒の短い熱処理でランプ容器に前記コーティングを焼きつけることを可能にする。還元性雰囲気を利用することによって、すなわち、過剰な水素を持つ炎によって、鉄の大部分が酸化物の形態に変換されることは防止される、すなわち、低い酸化率を持ち、その結果として、前記光吸収コーティングの高い光学密度及び高い吸収力は損なわれないままである。一般に、この低い酸化率は、多くて、数モルパーセントである。前記ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤は、一旦二酸化ケイ素に変換されると、前記光吸収コーティングが剥がれ落ちることに対して高い抵抗力を供給する。前記光吸収コーティングは、ほとんど又は実質的に光を反射しないという付加的な利点を持つ。前記反射される光は、光学系、例えば、反射器及びレンズによって形成される光線において寄生光をもたらし得る。
【0006】
前記光吸収コーティングは、例えば、ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤及びエタノールの混合物中の、鉄及びケイ素の粉末の混合物の懸濁液から、容易に得られ得る。前記懸濁液が、塗布され、乾燥された後、残留物は、前記コーティングを数秒間約800℃まで加熱することによって固定される。別の好ましい実施例においては、前記光吸収コーティングは、約0.007乃至0.015mmの厚さを持つ。これは、前記光吸収特性と、用いられる材料の量との間の申し分ない釣合いである。前記光吸収コーティングの厚さは、前記懸濁液の粘性を制御することによって、すなわち、例えば、1乃至3重量%のグリセリンを前記懸濁液に加えることによって、比較的容易に制御され得る。
【0007】
コーティング懸濁液における接着剤として、従来のケイ酸エチル、すなわち、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を使用することは、一般に知られている。ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤と、欧州特許出願公開第EP-708978号及びドイツ特許出願公開第DE-3827451号において開示されているランプのために用いられているような前記従来のケイ酸エチルの酸性触媒による加水分解物との間の有意差は、セッティング中に生成される接着剤(SiO2)が、ケイ酸エチルから形成されるだけでなく、非晶質シリカ、例えば、H2SiO3、又はコロイド状の加水分解されたSi(OH)2という別の供給源からも形成されることである。それらの特別な配合及びそれらの製造において用いられる技術のため、ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤は、非常に優れた貯蔵安定性及び処理特性を持つ。本発明の懸濁液において用いられる前記ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤の溶媒は、エタノールと2‐プロパノールとの混合物である。前記ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤は、例えばWackerによって、Silester(登録商標)XARという商品名の下で供給されている。この製品においては、加水分解及びpHの程度が最適化されている。すなわち、必要な反応性及び十分な貯蔵安定性を確保にするように約0.07重量%のH2SO4が設けられている。例えば、充填材、色素、様々な添加物の付加又は溶媒蒸発から生じるpHの変化は、前記ケイ酸エチルの凝結を促進し、システムは、よりすばやく硬化するであろう。付加される成分が、制御されない量の水をシステムにもたらさないことも重要である。なぜなら、これは、配合物の処理時間/貯蔵寿命に悪影響を与えるからである。前記ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤(Silester(登録商標)XAR)は、しっかりと閉じたオリジナル容器において最大30℃で保管される場合、少なくとも9ヵ月の貯蔵寿命を有する。それは、20℃で0.92g/cm3の密度及び乳白色の外観を有する。そのSiO2の重量パーセントでの含有量は、約20%である。
【0008】
好ましい実施例においては、鉄化合物及びケイ素化合物の重量パーセント比は、0.65≦鉄化合物/ケイ素化合物≦3の範囲内であり、ケイ素及び二酸化ケイ素の重量パーセント比は、2.5の≦ケイ素/二酸化ケイ素≦12.5の範囲内である。実験は、前記範囲内のFe/Si比及びSi/SiO2比は、さらにより優れた光吸収及び不透過性並びにより優れた粘着力を備えるコーティングをもたらすこと、すなわち、それらは、引掻き又は剥離に対してより影響されにくく、こすり落とされ得ないということを証明した。
【0009】
図面には、本発明による電気ランプの実施例が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】放電ランプを一部が断面図である側面図で示す。
【図2】白熱灯を側面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1において、高圧放電ランプは、封止部2によってガス漏れしないようにして封止される石英ガラスのランプ容器10を持ち、前記ランプ容器は、電気素子を収容する。電気素子は、イオン化充填物を閉じ込める内側の石英ガラス製エンベロープ1の中の電極3、4を有する。充填物は、例えば、数バールの充填圧を備える、例えば、水銀と、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化スカンジウムなどのハロゲン化金属の混合物と、例えばキセノンなどの希ガスとを有する。ランプ容器の封止部2内に埋め込まれるモリブデン箔を有する電流導体8、23;8、25は、電極に接続され、ランプ容器から外部へ出る。ランプは、接点21、22が取り付けられるランプ口金20を持つ。
【0012】
ランプ容器は、(主として金属の形態で、部分的に酸化物の形態の)鉄、二酸化ケイ素及びケイ素の粉末を有する光吸収コーティング11、12で局所的に覆われる。コーティングは、実質的に、62重量%の鉄、30重量%のケイ素及び8重量%の二酸化ケイ素を含む。図示した実施例においては、コーティングのガラスは、紫外線吸収石英ガラスである。
【0013】
コーティングは、1500グラムの、Fe(CO)5の変換によって得られる金属鉄粉、すなわち、BASFのカルボニル鉄粉と、750グラムのケイ素の粉末と、400グラムのエタノールと、700グラムの、ケイ酸エチルのハイブリッド接着剤、すなわち、アルコールの混合物を溶媒として有する20重量%のSiO2を備えるWackerのSilester(登録商標)XARとの懸濁液から得られた。前記アルコールの混合物は、エタノール及び2‐プロパノールを有する。他の例においては、懸濁液において使用可能なケイ酸エチルの接着剤は、例えば、WackerのSilester(登録商標)AR及びWackerのSilikat H450Nである。コーティングは、約0.009mmの厚さを持ち、実質的に、光を透過又は反射せず、その耐用年数の間ずっとランプ容器に付着したままである。
【0014】
図2においては、電気ランプは、この図においてはハロゲンを含む不活性ガス中の白熱体33を収容する硬質ガラス製のランプ容器30を持つ。硬質ガラスは、この図においてはホウケイ酸ガラスであるが、他の例においては、アルミノケイ酸ガラスであってもよい。白熱体は、電流導体38に接続され、前記電流導体38は、ランプ容器から外部へ出て、位置決め素子7を介してランプ容器に固定されるランプ口金40の各々の接点41、42に接続される。ランプ容器は、主として金属の形態で、部分的に酸化物の形態の鉄、二酸化ケイ素及びケイ素の粉末を含む光吸収コーティングを局所的に有する。コーティングは、実質的に、63重量%の鉄、31重量%のケイ素及び6重量%の二酸化ケイ素を含む。コーティングは、約0.011mmの厚さを持つ。コーティングは、1500グラムの金属鉄粉と、750グラムのケイ素の粉末と、400グラムのエタノールと、20重量%のSiO2を持つ、800グラムのケイ酸エチルのハイブリッド接着剤と、50グラムのグリセリンとの懸濁液から得られた。コーティングは、浸漬プロセスを用いて塗布されたが、他の例においては、吹付けプロセスを用いて塗布されてもよい。その後、コーティングは、4秒間の還元性雰囲気中の炎の加熱プロセスを用いて、ランプ容器上に焼きつけられた。それによって、コーティングは、ほぼ850℃まで加熱された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流導体が接続される電気素子を収容するランプ容器を有する電気ランプであり、前記電流導体が、前記ランプ容器から外部へ出る電気ランプであり、前記ランプ容器が、局所的に光吸収コーティングで覆われ、前記光吸収コーティングが、少なくとも一部は酸化物の形態の鉄を含む鉄化合物と、二酸化ケイ素とを有する電気ランプであって、前記コーティングが、二酸化ケイ素と共にケイ素化合物を形成するケイ素を更に有し、前記鉄化合物と前記ケイ素化合物との重量パーセント比が、0.17≦鉄化合物/ケイ素化合物≦12の範囲内であり、ケイ素と二酸化ケイ素との重量パーセント比が、0.5≦ケイ素/二酸化ケイ素≦50の範囲内であることを特徴とする電気ランプ。
【請求項2】
前記鉄化合物とケイ素化合物との重量パーセント比が、0.65≦鉄化合物/ケイ素化合物≦3の範囲内であり、前記ケイ素と二酸化ケイ素との重量パーセント比が、2.5≦ケイ素/二酸化ケイ素≦12.5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の電気ランプ。
【請求項3】
前記コーティングが、0.007乃至0.015mmの範囲内の厚さを持つことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気ランプ。
【請求項4】
請求項1に記載の電気ランプ用の懸濁液であって、前記懸濁液が、
10乃至70重量%の鉄と、
5乃至50重量%のケイ素と、
5乃至30重量%の少なくとも一つのアルコールと、
5乃至50重量%のケイ酸エチルのハイブリッド接着剤とを、これらの材料の合計100重量%まで有することを特徴とする懸濁液。
【請求項5】
前記懸濁液が、
35乃至45重量%の鉄と、
15乃至25重量%のケイ素と、
15乃至25重量%の少なくとも一つのアルコールと、
10乃至30重量%のケイ酸エチルのハイブリッド接着剤とを、これらの材料の合計100重量%まで有することを特徴とする請求項4に記載の懸濁液。
【請求項6】
前記少なくとも一つのアルコールが、エタノール及び/又は2‐プロパノールを有することを特徴とする請求項4又は5に記載の懸濁液。
【請求項7】
前記少なくとも一つのアルコールの1乃至3重量%が、1乃至3重量%のグリセリンによって置換されることを特徴とする請求項4、5又は6に記載の懸濁液。
【請求項8】
請求項1に記載の電気ランプを製造する方法であって、
- 請求項4に記載の前記懸濁液を用いて前記ランプ容器上にウェットコーティングを塗布するステップと、
- 前記ウェットコーティングを、ドライコーティングになるように乾燥させるステップと、
- 前記ドライコーティングを、前記光吸収コーティングになるように前記ランプ容器上に焼きつけるステップとを有する電気ランプを製造する方法。
【請求項9】
前記ドライコーティングを焼きつける動作が、600℃乃至1000℃の範囲内の温度で2乃至8秒間の前記ドライコーティングの加熱を有することを特徴とする請求項8に記載の電気ランプを製造する方法。
【請求項10】
前記加熱が、還元性雰囲気を供給する炎によって行われることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか一項に記載の方法によって得られる電気ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−509723(P2010−509723A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535847(P2009−535847)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054488
【国際公開番号】WO2008/056319
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)