説明

電気抵抗溶接電極のガイドピン

【課題】磁石の保持性が良好で、強度剛性が高く、製作しやすい電気抵抗溶接電極のガイドピンを提供する。
【解決手段】断面円形の一方のピン部材21に、磁石30を収容する収容孔22がピン部材21の軸線O−Oと同軸の状態で形成され、断面円形の他方のピン部材24に、収容孔22に挿入されて磁石30を封入する嵌入部が収容孔22の軸線O−Oと同軸の状態で形成され、嵌入部が収容孔22に挿入されて磁石30を封入した状態で両ピン部材21、24の外周接合部が溶接されている。こうすることにより、高精度のガイドピン15がえられ、磁石30が安定した状態でガイドピン15内に収容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁石を内蔵した電気抵抗溶接電極のガイドピンに関している。
【背景技術】
【0002】
特許第2832528号公報の図11には、電極本体から突出しているガイドピンに磁石を内蔵した構造が記載されている。また、特許第2903149号公報には、金属製ガイドピンと合成樹脂製摺動部材の複合構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2832528号公報
【特許文献2】特許第2903149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気抵抗溶接電極のガイドピンに磁石を内蔵するためには、組立が容易であり、ガイドピンとしての精度が維持されたものでなければならない。
上記特許文献1および2には、これらの要請事項に関する記載は見られない。
【0005】
本発明は、上記の事項に注目して提供されたもので、ガイドピンとしての精度を高め、磁石の保持性が良好で、強度剛性が高く、製作しやすい電気抵抗溶接電極のガイドピンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、電極本体の端面から突出しているものであって、断面円形の一方のピン部材に磁石を収容する収容孔が前記ピン部材の軸線と同軸の状態で形成され、断面円形の他方のピン部材に前記収容孔に挿入されて磁石を封入する嵌入部が前記収容孔の軸線と同軸の状態で形成され、前記嵌入部が前記収容孔に挿入されて磁石を封入した状態で両ピン部材の外周接合部が溶接されていることを特徴とする電気抵抗溶接電極のガイドピンである。
【発明の効果】
【0007】
上記のように、前記収容孔がピン部材と同軸の状態で形成され、前記嵌入部が収容孔と同軸の状態で形成されている。したがって、嵌入部を収容孔に挿入して両ピン部材が一体化されると、両ピン部材は同軸状態となり、両ピン部材の各軸線が接合部において正規の軸線からずれたり、交差したりすることがなく、ガイドピンとして真っ直ぐな精度が確保でき、プロジェクションナットなどの溶接対象部品の保持が正確に達成される。
【0008】
前記収容孔に嵌入部を挿入することにより、収容孔内に磁石が封入され、その後、外周接合部を溶接するものであるから、ガイドピンの組立が簡単になる。そして、収容孔に対する嵌入部の挿入構造と、外周接合部の溶接構造が複合して、両ピン部材の結合剛性を高く維持することができ、ガイドピンとしての耐久性向上にとって効果的である。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記電極本体に設けたシリンダ内を摺動状態で進退するピストン部材が前記外周接合部を覆った状態で前記ピン部材に一体化されている請求項1記載の電気抵抗溶接電極のガイドピンである。
【0010】
前記外周接合部は溶接されているので、溶接部の金属隆起部は削り取られているのであるが、この部分にわずかな凹凸が残存することがある。ピストン部材がこのような凹凸部分を覆っているので、凹凸部分の露出などによって近隣部材に支障を及ぼすことがない。また。外周接合部がピストン部材で覆われていることにより、外周接合部の接合剛性が向上する。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記収容孔に封入された磁石が収容孔内で移動することを防止するための制振材が、収容孔内に封入されている請求項1または請求項2記載の電気抵抗溶接電極のガイドピンである。
【0012】
磁石を収容孔に差し込むためには、磁石の直径や高さを収容孔の空間よりもわずかに小さく設定しておく必要がある。こうすることによって、収容孔への磁石挿入が円滑になされるのであるが、磁石と収容孔との間に隙間が残存するので、ガイドピンの進退動作や電極の進退動作あるいは搬送移動などによって磁石が収容孔内で振動し、磁石の角部分が欠けたり著しい場合には割れたりすることがある。一方、嵌入部を差し込んだときに、磁石に突き当たって磁石を加圧するようなことになると、磁石にひび割れが発生したりする。このような問題を回避するためにも、上記空間が必要となる。とくに、焼結磁石では、このようなひび割れなどの現象に注意しなければならない。
【0013】
そこで、例えば、接着剤やシリコンゴムなどの制振材を前記隙間に封入しておくことにより、収容孔内での磁石振動が防止でき、しかも制振材が緩衝機能を果たすので、磁石への衝撃力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電気抵抗溶接電極の断面図である。
【図2】ガイドピン各部の外観および断面図である。
【図3】他の構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の電気抵抗溶接電極のガイドピンを実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図3は、本発明の実施例1を示す。
【0017】
最初に、部品について説明する。
【0018】
本発明のガイドピンに保持される部品としては、孔あき部品であるプロジェクションナット、ディスタンスピース、ワッシャなど種々なものがある。この実施例での部品は、図1(C)に示すプロジェクションナットである。以下の説明において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合もある。
【0019】
プロジェクションナット1は鉄製であり、所定の厚さを有する四角い本体部2と、その中心部に開けられたねじ孔3と、本体部2の片側の四隅に形成された溶着用突起4によって構成されている。各部の寸法は、本体部2の一辺が12mm、本体部2の厚さが7mm、ねじ孔3の内径が6mmである。
【0020】
つぎに、電気抵抗溶接電極について説明する。
【0021】
電気抵抗溶接電極5は、断面円形の第1部材6と第2部材7がねじ部8で一体化されたもので、第1部材6と第2部材7に電極軸線O−Oと同軸の状態でシリンダ9が形成され、該シリンダ9にピストン部材10が摺動する状態で挿入されている。第1部材6の端面11の中央部に電極軸線O−Oと同軸の小径通孔12が開口し、それに連続した大径通孔13がシリンダ9に開口し、両通孔12、13は電極軸線O−Oと同軸とされている。したがって、シリンダ9の内部空間は、両通孔12、13を経て外部に連通している。第1部材6,第2部材7は通電性が良好で耐熱性に優れたクロム銅のような銅合金で作られている。
【0022】
ピストン部材10に、電極軸線O−Oと同軸のガイドピン15が一体化され、その先端部16が端面11から突出している。シリンダ9の上側の内端面17とピストン部材10との間に圧縮コイルばね18が挿入され、その張力はガイドピン15の押し出し方向に作用している。前記大径通孔13はシリンダ9の下側の内端面19に開口しており、この開口によって、環状の着座面19が形成されている。この着座面にも内端面と同じ符号19が付してある。ピストン部材9の下端面20が圧縮コイルばね18の張力で着座面19に着座するようになっている。
【0023】
つぎに、ガイドピンについて説明する。
【0024】
ガイドピン15に関しては、特許請求の範囲において、一方のピン部材と他方のピン部材と記載しているが、実施例では理解しやすくするために、第1ピン部材、第2ピン部材なる名称としている。断面円形の第1ピン部材21は、その前記先端部16が先端側に向かって徐々に小径となり、先端が丸い形状とされている。この第1ピン部材21に、収容孔22が第1ピン部材21の軸線、すなわち電極軸線O−Oと同軸の状態で開けられ、この収容孔22によって、環状端面23が形成されている。
【0025】
第2ピン部材24は、符号24が付されたピン本体部と、それよりも小径の嵌入部25と、結合軸26が同軸状態で、すなわち電極軸線O−Oに合致させて一体化されている。結合軸26には雄ねじが切ってある。第2ピン部材24の外径寸法、すなわちピン本体部24と第1ピン部材21の外径寸法は、同じにしてある。第2ピン部材(ピン本体部)24よりも小径で、収容孔22に挿入される嵌入部25が収容孔22の軸線、すなわち電極軸線O−Oと同軸の状態で形成されている。嵌入部25の外径は、収容孔22の内径よりもわずかに小さく設定され、嵌入部25を収容孔22に差し込むときには、ほとんど空隙のない状態で押し込むようにしてある。嵌入部25が収容孔22に挿入されると、第2ピン部材24と嵌入部25との境界部に形成されている環状段部27が、環状端面23にぴったりと合致する。この合致した部分が外周接合部28である。
【0026】
前記第1ピン部材21と第2ピン部材24は、後述の磁石の磁力を強くナット1に作用させるために、非磁性材料であるステンレス鋼で作られている。
【0027】
磁石30は永久磁石であり、円柱状の形をしている。収容孔22の奥の方の内面または磁石30の外面に接着剤を塗布してから、磁石30を収容孔22の奥まで押し込む。その後、嵌入部25を収容孔22に挿入すると、接着剤が磁石30と収容孔22との間の隙間の隅々までに充填される。それから前記外周接合部28を溶接する。前記接着剤は図2(C)に符号31で示してある。このように磁石30が封入された状態で外周接合部28が溶接され、金属隆起部32を削り取って同図(D)に示す滑らかな仕上げとなる。
【0028】
上記接着剤としては種々なものが採用できるが、ここでは、商品名スリーボンドのシリコン系液状ガスケットが使用されている。
【0029】
他の構造例として接着剤31に換えて、図2(E)に示すように、磁石30の上下にシリコンゴムや厚紙のような弾性体33を介在させることによって、磁石30の軸線方向と直径方向の移動を拘束し、磁石30の振動を防止することができる。なお、理解しやすくするために、接着剤31の膜厚や弾性体33の厚さは、誇張して大きく図示してある。
【0030】
つぎに、ピストン部材について説明する。
【0031】
ピストン部材10の構成材料としては、アルミニウムのような金属材料やテフロン(商品名)のような合成樹脂が使用される。ここでは、後者の合成樹脂であり、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0032】
図2(B)に示すように、ピストン部材10には、シリンダ9に摺動する本体部34と、ガイドピン15が挿入される受入孔35と、前記結合軸26が貫通する貫通孔36と、前記圧縮コイルばね18を受け入れる凹部37が形成されている。受入孔35が形成された部分に、保護筒38が下方に延びた状態で形成されている。
【0033】
ガイドピン15を受入孔35に挿入して、凹部37に突き出た結合軸26に固定ナット39をねじ付けて、ガイドピン15とピストン部材10の一体化がなされている。このようにガイドピン15の上部側が受入孔35に差し込まれた状態では、図1(A)に示すように、溶接接合部、すなわち外周接合部28が保護筒38で覆われている。なお、外周接合部28は、図2(D)に拡大して図示してある。
【0034】
つぎに、他のガイドピンについて説明する。
【0035】
上記のガイドピン15は、第1ピン部材21に収容孔22が形成され、第2ピン部材24に嵌入部25が形成されているが、この関係を逆にしたのが図3に示す例である。すなわち、第1ピン部材21に嵌入部25が形成され、第2ピン部材24に収容孔22が形成されている。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先のガイドピン15と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0036】
つぎに、電気抵抗溶接電極の使用態様を説明する。
【0037】
電気抵抗溶接電極5は可動電極であり、エアシリンダなどの進退駆動手段に結合された支持部材40に取り付けられている。この可動電極に対応する固定電極(図示していない)の上に鋼板部品が載置され、この鋼板部品にナット1が溶接される。ナット1は供給ロッドや作業者によってガイドピン15の先端近くに供給され、その後は磁石30の吸引力でガイドピン15に保持される。この保持は、ねじ孔3内へガイドピンの先端部16が相対的に進入し、ねじ孔3の開口縁部が先端部16の外周面に接触してナット1がガイドピン15と同軸状態で保持される。
【0038】
以上に説明した実施例1の作用効果は、つぎのとおりである。
【0039】
上記のように、収容孔22が第1ピン部材21と同軸の状態で形成され、嵌入部25が収容孔22と同軸の状態で形成されている。したがって、嵌入部25を収容孔22に挿入して第1ピン部材21と第2ピン部材24が一体化されると、両ピン部材は同軸状態となり、両ピン部材の各軸線が接合部において正規の軸線からずれたり、交差したりすることがなく、ガイドピン15として真っ直ぐな精度が確保でき、プロジェクションナット1などの溶接対象部品の保持が正確に達成される。
【0040】
収容孔22に嵌入部25を挿入することにより、収容孔22内に磁石30が封入され、その後、外周接合部28を溶接するものであるから、ガイドピン15の組立が簡単になる。そして、収容孔22に対する嵌入部25の挿入構造と、外周接合部28の溶接構造が複合して、両ピン部材21、24の結合剛性を高く維持することができ、ガイドピン15としての耐久性向上にとって効果的である。
【0041】
また、第1ピン部材21に嵌入部25を設け、第2ピン部材24に収容孔22を設けた、前述のガイドピン15とは逆の場合においても、同様な作用効果がえられる。
【0042】
前記電極本体である電気抵抗溶接電極5に設けたシリンダ9内を摺動状態で進退するピストン部材10の保護筒38が外周接合部28を覆った状態で前記ピン部材に一体化されている。
【0043】
外周接合部28は溶接されているので、溶接部の金属隆起部は削り取られているのであるが、この部分にわずかな凹凸が残存することがある。ピストン部材10がこのような凹凸部分を覆っているので、凹凸部分の露出などによって近隣部材に支障を及ぼすことがない。また。外周接合部28がピストン部材10の保護筒38で覆われていることにより、外周接合部28の接合剛性が向上する。
【0044】
収容孔22に封入された磁石30が収容孔22内で移動することを防止するための制振材31、33が、収容孔内に封入されている。
【0045】
磁石30を収容孔22に差し込むためには、磁石30の直径や高さを収容孔22の空間よりもわずかに小さく設定しておく必要がある。こうすることによって、収容孔22への磁石挿入が円滑になされるのであるが、磁石30と収容孔22との間に隙間が残存するので、ガイドピン15の進退動作や電極5の進退動作あるいは搬送移動などによって磁石30が収容孔22内で振動し、磁石30の角部分が欠けたり著しい場合には割れたりすることがある。一方、嵌入部25を差し込んだときに、磁石30に突き当たって磁石30を加圧するようなことになると、磁石30にひび割れが発生したりする。このような問題を回避するためにも、上記空間が必要となる。とくに、焼結磁石では、このようなひび割れなどの現象に注意しなければならない。
【0046】
そこで、例えば、接着剤31やシリコンゴム33などの制振材を前記隙間に封入しておくことにより、収容孔22内での磁石振動が防止でき、しかも制振材が緩衝機能を果たすので、磁石30への衝撃力を緩和することができる。
【0047】
さらに、第1ピン部材21と第2ピン部材24を一体化したときには、環状端面23と環状段部27がぴったりと合致するものであるから、収容孔22内への嵌入部25の挿入長さが正確に設定でき、嵌入部25の端面が磁石30に突き当たるようなことが防止でき、磁石30の破損が回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
上述のように、本発明によれば、ガイドピンとしての精度を高め、磁石の保持性が良好で、強度剛性の高い電気抵抗溶接電極のガイドピンがえられる。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 プロジェクションナット
2 本体部
3 ねじ孔
4 溶着用突起
5 電気抵抗溶接電極
9 シリンダ
10 ピストン部材
11 端面
15 ガイドピン
16 先端部
21 第1ピン部材
22 収容孔
24 第2ピン部材
25 嵌入部
28 外周接合部
30 磁石
31 接着剤
33 弾性体
34 本体部
38 保護筒
O−O 電極軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極本体の端面から突出しているものであって、断面円形の一方のピン部材に磁石を収容する収容孔が前記ピン部材の軸線と同軸の状態で形成され、断面円形の他方のピン部材に前記収容孔に挿入されて磁石を封入する嵌入部が前記収容孔の軸線と同軸の状態で形成され、前記嵌入部が前記収容孔に挿入されて磁石を封入した状態で両ピン部材の外周接合部が溶接されていることを特徴とする電気抵抗溶接電極のガイドピン。
【請求項2】
前記電極本体に設けたシリンダ内を摺動状態で進退するピストン部材が前記外周接合部を覆った状態で前記ピン部材に一体化されている請求項1記載の電気抵抗溶接電極のガイドピン。
【請求項3】
前記収容孔に封入された磁石が収容孔内で移動することを防止するための制振材が、収容孔内に封入されている請求項1または請求項2記載の電気抵抗溶接電極のガイドピン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−99772(P2013−99772A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258250(P2011−258250)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000196886)