電気掃除機
【課題】安価,軽量かつ高剛性な延長管、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を備える電気掃除機を提供する。
【解決手段】吸込具6,7と、電動送風機2bと、吸込具6,7および電動送風機2bの間に形成されている通風路T1,T2と、を備え、通風路T1,T2の少なくとも一部が筒状の延長管5により形成されている電気掃除機1において、延長管5を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上であり、延長管5を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【解決手段】吸込具6,7と、電動送風機2bと、吸込具6,7および電動送風機2bの間に形成されている通風路T1,T2と、を備え、通風路T1,T2の少なくとも一部が筒状の延長管5により形成されている電気掃除機1において、延長管5を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上であり、延長管5を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、家庭等で電気掃除機が広く利用されている。このような電気掃除機は、埃等を吸引する吸込具と、当該吸込具に接続され、前記吸込具から吸引された埃等を電気掃除機内に吸引するための電動送風機と、を備えるものである。また、通常は、吸込具と電動送風機との間に形成される通風路の一部が、筒状の延長管により構成されている。
【0003】
このような筒状の延長管としては、樹脂製のものが広く用いられている。しかしながら、樹脂のみからなる延長管を用いる場合、延長管の重量が重すぎて電気掃除機の取扱い時に、過度の負担を要することがある。そこで特許文献1には、軽量化を目的として、延長管に炭素繊維を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−24003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術においては、炭素繊維含有量についての具体的な範囲が記載されていない。そのため、炭素繊維の含有量によっては延長管の重量が過度に重くなったり、製造コストが過度に増加したりすることがある。また、炭素繊維の含有量が少なすぎる場合、延長管に通常要求される強度を確保できないこともある。すなわち、特許文献1に記載の事項のみに拠っては、これらの課題を解決することが極めて困難である。
【0006】
本発明の目的は、安価,軽量かつ高剛性な延長管、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を備える電気掃除機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、延長管を構成する少なくとも一部の部材、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を、所定の割合以上で炭素繊維を含む熱可塑性樹脂で成形することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明に拠れば、安価,軽量かつ高剛性な延長管、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を備える電気掃除機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気掃除機の全体を示す外観斜視図である。
【図2】(a)は延長管を縮めた状態の側面図、(b)は延長管を伸ばした状態の側面図、(c)は延長管を伸ばした状態の下面図である。
【図3】延長管の外管の分解斜視図である。
【図4】外管に備わる支持部材を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。
【図5】延長管の内管の分解斜視図である。
【図6】(a)は延長管を一端側から見た図、(b)は延長管を他端側から見た図である。
【図7】(a)は延長管の縦端面図、(b)は延長管の他端部の拡大縦端面図である。
【図8】(a)は縮めた状態の延長管の斜視図、(b)は上カバーおよびカバー部材を部分的に透視した延長管の斜視図である。
【図9】(a)は下カバーとスライド部との配置関係を示す斜視図、(b)は延長管を縮めた状態でのフラットケーブルを示す平面図、(c)は同じく側面図、(d)は延長管を伸ばした状態でのフラットケーブルを示す部分側面図である。
【図10】炭素繊維の含有量を変化させた場合の、厚みおよび曲げ強度の関係を概念的に示すグラフである。
【図11】射出成形により延長管を製造する際の様子を模式的に示す図である。
【図12】ブロー成形により延長管を製造する際の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を適宜図面を参照しながら説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0011】
[1.電気掃除機の全体構造]
図1に示すように、電気掃除機1は、掃除機本体2と、ホース部3と、手元操作スイッチSW等が設けられた操作管4と、伸縮自在に設けられた延長管5と、吸込具として第2の吸込具6および第1の吸込具7とを備えて構成されている。このうち、本実施形態では、延長管5が外管10と内管20とから構成され、外管10をなす外管本体11(図2(b)参照)と、内管20をなす内管本体21(図2(b)参照)とが、炭素繊維を含有する(含む)熱可塑性樹脂(例えば、ポリプロピレン,ABS樹脂)で成形されている。
【0012】
掃除機本体2の外殻は、上ケースと下ケースとによって覆われている。上ケースは上下方向の略中央より上側に位置し、下ケースは上下方向の略中央より下側に位置する。掃除機本体2の内部には、吸引力を発生させる電動送風機2bや、この電動送風機2bの吸引力で集塵した塵埃を収容する集塵部等が内蔵されており、操作管4の手元操作スイッチSWを操作すること等によって電動送風機2bの運転の強弱切り替えや、第1の吸込具7に設けられた図示しないパワーブラシの入り切り等が行えるようになっている。集塵部は、掃除機本体2の前側(接続口2aが形成される側)に位置する。上ケースの前側に、開閉可能な蓋が形成される。よって、蓋は集塵部の上部を開閉可能に塞ぐ。操作管4は、延長管5に接続される一端からホース部3に接続される他端にかけては円筒状に形成され、さらに、円筒状の部分に対して延長管5に接続される一端側から分岐して延びたグリップが形成される。手元操作スイッチSWは、グリップに形成される。また、グリップ内には、手元操作スイッチSWのための電装部品が配置される。
【0013】
なお、以下の説明で各部の方向を言うときには、第1の吸込具7から掃除機本体2への図示しない通風路に沿って、掃除機本体2に近い側を一端(一端側)とし、これとは反対となる側を他端(他端側)として説明する。
【0014】
ホース部3の一端は、掃除機本体2の集塵部と連通するように掃除機本体2の接続口2aに接続されている。また、ホース部3の他端は、操作管4の一端に接続されている。操作管4には、前記した手元操作スイッチSWのほか、延長管5が接続される図示しない開口部には、掃除機本体2から給電される図示しない給電端子が設けられている。この給電端子には、延長管5の外管10の一端に設けられた導電部材としての通電端子17(図2(a)参照)が接続される。
【0015】
延長管5は、前記したように、外管10と内管20とを備え、図2(b)に示すように、外管10の他端部11cに内管20の一端部が挿入されて外管10と内管20との通風路T1,T2が連通するように連結されている。
【0016】
延長管5は、図2(a),(b)に示すように、伸縮自在であり、外管10と内管20との間は、弾性および導電性を有するシール部材15d,15e(図3,図4(a)参照)で気密状態にシールされている。なお、延長管5についての詳細は、後記する。
【0017】
第2の吸込具6は、図1に示すように、延長管5の内管20の他端20aに着脱可能に接続された吸込具であり、その他端6aには第1の吸込具7が着脱可能に接続される。第2の吸込具6は、その他端6aから第1の吸込具7を取り外すことにより、単独で塵埃を吸い込む吸込具として機能させることができる。第2の吸込具6は、延長管5の外管10と操作管4の他端4aとの間に着脱可能に接続されてもよい。ただし、第2の吸込具6は、必須の構成ではない。
【0018】
第1の吸込具7は、第2の吸込具6の他端6aに接続された吸込具であり、下面(清掃面に対峙する面)に図示しない吸込口が開口されている。なお、第1の吸込具7は、延長管5の内管20の他端20aや、操作管4の他端4aに対して接続して使用することも可能である。
【0019】
第1の吸込具7には、図示しないパワーブラシが設けられている。パワーブラシは、清掃面となる床面等の塵埃を掻き込む回転清掃体と、この回転清掃体を駆動する電動機を含んで構成されている。
【0020】
本実施形態では、この第1の吸込具7の電動機に給電する電力を、掃除機本体2からホース部3,操作管4,延長管5,第2の吸込具6を通じて供給するように構成している。延長管5に設けられた給電手段等の構成の詳細については後記する。
【0021】
延長管5は、前記したように、外管10をなす外管本体11(図2(b)参照)と、内管20をなす内管本体21(図2(b)参照)とが、炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形されている。つまり、延長管5の主たる構成部材である外管本体11と内管本体21とが、軽量で高強度の炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で形成されている。
【0022】
また、延長管5は、第1の吸込具7に給電を行うための給電手段(後記する外管10のフラットケーブルC等(図9(b)参照))を内部に有している。
【0023】
なお、延長管5と第1の吸込具7との間に第2の吸込具6が介在されている場合には、掃除機本体2から供給される電力は、延長管5から第2の吸込具6に備わる図示しない導電部材を通じて第1の吸込具7に供給される。延長管5と第1の吸込具7とが直接的に電気的に接続可能な場合は、第2の吸込具6の導電部材は不要である。
【0024】
外管10は、図3に示すように、主として、円筒状の外管本体11と、外管本体11の胴部11aの上部11a2に装着される絶縁性の樹脂部材としての下カバー12と、下カバー12を覆うようにして胴部11aに装着されるカバー部材としての上カバー13と、を備えて構成されている。
【0025】
外管本体11は、後記する射出成形またはブロー成形によって一体的に形成されており、内側には内管20(図5参照)を摺動可能に収容しつつ内管20に連通する通風路T1が形成されている。
【0026】
外管本体11は、胴部11aと、この胴部11aよりも小径とされた一端部11bと、胴部11aよりも大径とされた他端部11cとを有している。
【0027】
胴部11aは、一端部11bおよび他端部11cに比べて薄肉とされた薄肉部を有している。本実施形態では、胴部11aの側部11a1(長手方向中間部)が薄肉部とされており、外管本体11の軽量化が図られている。本実施形態においては、薄肉部における厚み(外径と内径との差)を1.2mm±0.2mmとしてあり、ポリプロピレン100%で成形された従来の延長管の厚み(約2mm)よりも薄くなっている。
【0028】
なお、薄肉部は、胴部11aの側部11a1に形成することに限られず、例えば、胴部11aの他の部分を薄肉として形成してもよく、また、一端部11bや他端部11cを部分的に薄肉として形成してもよい。
【0029】
胴部11aの上部11a2には、下カバー12が載置される平らな面S1が形成されている。上部11a2には、この平らな面S1を両側から挟むようにして、リブ11dが突設されている。リブ11dには、上カバー13の下縁13dが係合可能であり、上カバー13を装着する際には、リブ11dの延設方向に所定の間隔を置いて突設された係止部11eを、上カバー13の切り込み部13eに係止して、上部11a2に上カバー13を位置決めする。
【0030】
外管本体11の一端部11bは、図6(a)に示すように、略円筒状に形成されており、操作管4(図1参照、以下同じ)の他端に設けられた図示しない開口部に挿入されて操作管4と接続可能である。
【0031】
一端部11bの上部外周面には、図3に示すように、凹部11b1が形成されている。
この凹部11b1には、操作管4に設けられた図示しない接続用フックが係合するようになっている。
【0032】
また、一端部11bの上方には、図2(a),(b)に示すように、通電端子17,17(図では一方のみ図示)が配置されている。この通電端子17,17には、操作管4の開口部に設けられた図示しない端子が接続される。これにより、操作管4から延長管5の外管10に電力が供給される。
【0033】
外管本体11の他端部11cには、内管20を摺動自在に支持する支持部材15が配設されている。支持部材15は、環状の枠部15aと、この枠部15aに保持される環状の係合部材15bと、枠部15aの一端側に配置されるシール支持部15cと、シール部材15d,15eと、を備えて構成されている。
【0034】
環状の枠部15aは、図4(a)に示すように、装着部151と、保持部152とを備えている。装着部151は、外管本体11の他端部11cの開口11c2の内面に対応する外形状を有しており、開口11c2の内面に固定されるようになっている。
【0035】
装着部151の内面には、内管20の摺動を円滑に行うための案内リブ151aが形成されている。
【0036】
また、装着部151の上端部には、内管20の後記するスライド部25およびスライドカバー28(図5,図7(a),(b)参照)が挿通される挿通部151bが形成されている。
【0037】
保持部152は、円環枠状を呈しており、装着部151の一端に一体的に形成されている。この保持部152には、係合部材15bが上下方向に移動可能に外嵌されて保持される。保持部152の下部には、係合部材15bに形成された係合突部153aが挿通される挿通孔152aが開口形成されている。保持部152の上端部には、内管20の後記するスライド部25(図5,図9(a)参照)が挿通される枠状部152bが形成されている。
【0038】
係合部材15bは、縦長円環状を呈しており、環状の枠部15aの保持部152の上下端との間に図示しない間隙を有して保持部152に外嵌されるようになっている。これにより、係合部材15bは、この間隙を利用して上下方向に移動可能となっている。係合部材15bの下部には、保持部152の挿通孔152aに挿通される係合突部153aが設けられている。この係合突部153aは、係合部材15bが保持部152に対して上方向へ付勢された状態で、前記挿通孔152aを通じて保持部152の内側に突出する大きさを有しており、このように突出することによって係合突部153aは保持部152の内側に位置する図示しない内管20の凹溝21d(図2(c)参照、以下同じ)に係合可能となっている。
【0039】
係合突部153aの内側には、図7(b)に示すように、バネ支持部153cが形成されており、このバネ支持部153cに、図示しない渦巻きバネが外管10(外管本体)の内面との間に縮設されるようになっている。
【0040】
また、係合部材15bの上端には、図4(a)に示すように、係合部材15bを上方向に付勢する板状のバネ部153bが形成されている。したがって、係合部材15bは、通常、これらの渦巻きバネおよびバネ部153bによって、上方向に付勢されており、係合突部153aが前記挿通孔152aを通じて保持部152の内側に突出する状態に保持されるようになっている。
【0041】
このような係合部材15bの上方には、図3,図7(b)に示すように、上カバー13の他端部13cとの間にスライド部材14が配設されるようになっている。スライド部材14は、上カバー13の開口13fを通じて人の操作により外管10の軸方向に沿って移動可能であり、スライド部材14が他端側に向けてスライド操作されることによって、係合部材15bの上方に端部14cが進入し、前記渦巻きバネおよびバネ部153bによる付勢力に抗して係合部材15bを下方向に押し下げるようになっている。つまり、スライド部材14を他端側にスライド操作することによって、内管20の凹溝21dに係合していた係合突部153aが凹溝21dから脱し、凹溝21dに対する係合突部153aの係合を解除することができる。これにより、外管10に対する内管20の固定が解除され、外管10に対して内管20がスライド移動可能となる。
【0042】
シール支持部15cは、円環状の部材であり、後記する静電気の効果的な除電を行うために、導電性を有する材料、例えば、金属や炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形されて、外管本体11の他端部11cにおいて内面に接触して固定されている。シール支持部15cの一端には、シール部材15dが装着される凹部154が形成され、他端には、シール部材15eが装着される凹部155が形成されている。
【0043】
シール部材15d,15eは、弾性、および後記する静電気の効果的な除電を行うために導電性を有する材料、例えば、弾性を有する材料に金属繊維や導電性粒子等を含ませた材料からなる。シール部材15d,15eの内側には、内管20の胴部21a(図5参照)が挿通される。これにより、外管10と内管20との通風路T1,T2間がシール部材15d,15eによってシールされるようになっている。
【0044】
ここで、シール支持部15cおよびシール部材15d,15eは、いずれも導電性を有しているので、これらのシール支持部15cおよびシール部材15d,15eを介して外管10の外管本体11と内管20の内管本体21とが電気的に導通する状態に接続されている。
【0045】
本実施形態では、外管本体11と内管本体21との一方または両方に、静電気を除電させる機能を有する図示しない除電手段としての除電部材が設けられている。除電部材としては、例えば、コロナ放電をさせながら空気中に除電することができる除電フェルトや金属繊維等を用いることができ、また、シール部材15d,15e自体を除電の効果を有するゴム類やEVA(エチレン・酢酸ビニルコポリマー)等を用い界面活性剤を混合した材料で形成して、シール部材15d,15eで除電するようにしてもよい。
【0046】
また、掃除機本体2側に通じる図示しない導電性を有する信号線等を設け、この信号線等に静電気を放電させるようにして除電するように構成してもよい。
【0047】
図3に示すように、下カバー12は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等の樹脂により形成された細長の上面凹状の部材であり、胴部11aの上部11a2のリブ11dの内側に嵌り込むようにして平らな面S1に載置されて胴部11aに被着される。つまり、下カバー12は、延長管5の他端部における外周面の全周に満たない範囲である胴部11aの上部11a2に被着されている。
【0048】
下カバー12の凹部内における長手方向略中央部には、給電手段を構成するフラットケーブルCの他端部C1が取り付けられている。
【0049】
フラットケーブルCは、可撓性を有しており、その一端部C2は、凹部に沿って一端側へ延ばされた後、他端側へU字状に折り返されるようにして配置されている。
【0050】
このような下カバー12と上カバー13との間には(下カバー12の上には)、図8(b),図9(a)〜(c)に示すように、下カバー12の長手方向に沿って、内管20に設けられたスライド部25が移動可能に配置される。スライド部25の一端部には、図9(b),(c)に示すように、フラットケーブルCの折り返された一端部C2が電気的に接続されている。これにより、延長管5の伸縮時には、図9(c),(d)に示すように、外管10に対する内管20の摺動移動にフラットケーブルCが変形追従するようになっている。
【0051】
下カバー12の一端12bには、端子台16が設けられており、この端子台16には、金属製の通電端子17が取り付けられるようになっている。通電端子17は、図3中一点鎖線で模式的に示すように、導電線W1を介してフラットケーブルCの他端部C1に電気的に接続されている。
【0052】
すなわち、通電端子17は、絶縁性の下カバー12を介して外管本体11に支持され、外管本体11と電気的に導通することのない状態に配置されている。
【0053】
上カバー13は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されている。上カバー13は、外管本体11の上部11a2に設けられたリブ11dに、下縁13dを嵌合させることで、外管本体11の上部11a2に一体的に装着され、下カバー12との間に絶縁された空間を形成している。この絶縁された空間には、給電手段を構成しているフラットケーブルCと、下カバー12上に移動可能に配置されたスライド部25とが収容されるようになっている。
【0054】
本実施形態では、超音波溶着による固着手法によって上カバー13が外管本体11に固着されている。なお、上カバー13の固着は、その他の溶着や接着剤等を用いて行ってもよいし、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0055】
なお、外管本体11に対する下カバー12の固定は、外管本体11に上カバー13を固着することによる上カバー13の押え付けによって行ってもよいし、下カバー12を外管本体11に直接固定するようにしてもよい。下カバー12の固定は、超音波溶着によって行ってもよいし、また、その他の溶着や接着剤等を用いて、あるいは、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0056】
内管20は、図5に示すように、主として、円筒状の内管本体21と、絶縁性の樹脂部材としてのベース部材22と、カバー部材23と、を備えて構成されている。
【0057】
内管本体21は、射出成形またはブロー成形によって一体的に形成されており、内側には外管10の通風路T1(図3参照)に連通する通風路T2が形成されている。
【0058】
内管本体21は、胴部21aと、この胴部21aよりも大径とされた他端部21cとを有している。
【0059】
胴部21aの上面には、ベース部材22に設けられたスライド部25を支持するための支柱21a1が設けられている。胴部21aの一端部21a2には、円筒状の摺動部材26が装着される。この摺動部材26は、胴部21aの一端部21a2に装着されることで、外管10と内管20との間の円滑な摺動に寄与する。
【0060】
他端部21cには、第2の吸込具6や第1の吸込具7が取り付け可能であり、他端部21cの上部21c1には、ベース部材22が載置されて取り付けられるようになっている。
【0061】
ベース部材22は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されており、内管本体21の他端部21cの上部21c1に被着される。つまり、ベース部材22は、内管本体21の他端部21cにおいて、外周面の全周に満たない範囲である他端部21cの上部21c1に被着されている。
【0062】
ベース部材22の上面には、揺動支持部22aおよび通電端子支持部22bが形成されている。
【0063】
また、ベース部材22の一端部には、内管本体21の胴部21aに沿うようにして一端部へ向けて延設された細長板状のスライド部25が一体的に設けられている。
【0064】
揺動支持部22aには、操作ボタン24が揺動可能に支持される。操作ボタン24は、第2の吸込具6や第1の吸込具7との取り付け取り外しを行うためのボタンであり、他端下部に係止用のフック部24aを有している。このフック部24aは、ベース部材22に設けられた図示しない孔部から他端部21cの上部21c1に形成された開口21c2を通じて他端部21cの内空に出没可能である。
【0065】
このような操作ボタン24は、図示しないバネ部材によりフック部24aが他端部21cの内空に突出する状態に付勢されている。これにより、他端部21cの内空から第2の吸込具6や第1の吸込具7の取付部を挿入すると、フック部24aが第2の吸込具6や第1の吸込具7の図示しない係止部に係止され、延長管5の内管20に第2の吸込具6や第1の吸込具7が固定されるようになっている。なお、取り外す際には、操作ボタン24のボタン部24bを押圧操作してフック部24aの係止を解除する。
【0066】
ベース部材22の通電端子支持部22bには、金属製の通電端子27が取り付けられる。また、スライド部25の一端部には、図9(b),(c)に示すように、フラットケーブルCの一端部C2が接続されており(図9(b),(c)参照)、このフラットケーブルCの一端部C2と通電端子27との間が、図示しない導電線で電気的に接続されている。
【0067】
カバー部材23は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されている。カバー部材23は、図5に示すように、内管本体21の他端部21cの上部21c1に設けられた溝部21c3,21c3に、下縁23c,23cを係合させることで、他端部21cに一体的に装着され、ベース部材22との間に絶縁された空間を形成している。
【0068】
本実施形態では、超音波溶着による固着手法によってカバー部材23が内管本体21の他端部21cに固着されている。なお、カバー部材23の固着は、その他の溶着や接着剤等を用いて行ってもよいし、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0069】
また、内管本体21に対するベース部材22の固定は、内管本体21にカバー部材23を固定することによるカバー部材23の押え付けによって行ってもよいし、ベース部材22を内管本体21に直接固定するようにしてもよい。ベース部材22の固定は、超音波溶着によって行ってもよいし、また、その他の溶着や接着剤等を用いて、あるいは、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0070】
カバー部材23の他端には、ベース部材22のスライド部25に装着されるスライドカバー28が一体的に形成されている。スライドカバー28は、スライド部25との間に図示しない導電線を収容する空間を形成している。
【0071】
また、カバー部材23の上面には、操作ボタン24のボタン部24bが挿通配置される開口部23aが形成されている。
【0072】
このようなスライド部25およびスライドカバー28は、一体となって、図8(a)に示すように、外管10の他端部11cに固定された支持部材15の挿通部151bを通じて、外管本体11とは絶縁された下カバー12と上カバー13との間に挿入される。
【0073】
そして、前記したように、スライド部25上に配置された図示しない導電線を介して、フラットケーブルCの一端部C2(図9(b)参照)と通電端子27(図5参照)との間が電気的に接続される。これにより、外管10の一端部に設けられた通電端子17,17(図3参照)と通電端子27(図5参照)との間が外管本体11および内管本体21から絶縁された状態で電気的に接続されることとなる。
【0074】
以下では、前記構成によって得られる効果を説明する。
(1)延長管5の外管本体11および内管本体21が炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で構成されているので、延長管5全体として軽量化を図りつつ剛性を確保することができる。操作管4の全部または一部(例えば、グリップを除いた円筒状の部分)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、操作管4の軽量化を図りつつ剛性を確保してもよい。さらに、掃除機本体2の一部(例えば、下ケース)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、掃除機本体2の軽量化を図りつつ剛性を確保してもよい。
(2)延長管5に配置された導電部材である通電端子17,17および通電端子27,27は、絶縁性の樹脂である下カバー12上やベース部材22上において延長管5の外管本体11および内管本体21と絶縁して配置されているので、延長管5と通電端子17,17とが電気的に導通することがなく、また、延長管5と通電端子27とが電気的に導通することもない。
【0075】
したがって、延長管5の外管本体11および内管本体21が導電性を有する材料で形成されている構造を有しながら、導電部材との好適な絶縁性を確保することができる。
(3)通電端子17,17を外管本体11から絶縁する下カバー12、および通電端子27を内管本体21から絶縁するベース部材22は、設置される部分である外管本体11,内管本体21の外周面の全周に満たない範囲に被着されているので、これらが外周面の全周に被着され構成のものに比べて、被着面積を小さくすることができ、その分、軽量,小型化を図ることができる。
(4)通電端子17,17に接続される給電手段としての導電線W1、および導電線W1に接続されるフラットケーブルCは、絶縁性の樹脂である下カバー12上にそれぞれ配設されているので、導電性の部材である外管本体11との好適な絶縁性を確保することができ、第1の吸込具7に対する好適な給電を実現することができる。
(5)フラットケーブルCは、下カバー12と上カバー13との間において、外管本体11から絶縁された空間内に配設されているので、良好な絶縁性を維持することができる。したがって、長期間の使用により、仮に、フラットケーブルCの被覆が剥がれるような事態が生じたとしても、フラットケーブルCが人の手に触れたり外管本体11に直接接触したりすることが確実に阻止される。
(6)超音波溶着による固着手法により、上カバー13が外管本体11に固着され、また、カバー部材23が内管本体21に固着されているので、上カバー13やカバー部材23の固定が簡単であり、高強度の固着を実現することができる。また、溶着箇所の仕上がりが良好となり、製品価値も高まる。
(7)外管本体11と内管本体21との間が、弾性および導電性を有するシール部材15d,15eでシールされているので、外管本体11と内管本体21とを導電性を有する一つの部材として、これらに帯電する静電気を例えば外管本体11に設けた一つの除電手段によって好適に除電することができる。これにより、生産性の向上やコストの低減を図ることができる。
【0076】
なお、外管本体11と内管本体21とをアルミニウム合金等の金属材料で形成した場合にも、これらの間をシール部材15d,15eでシールすることにより、これらに帯電する静電気を例えば外管本体11に設けた一つの除電手段によって好適に除電することができる。
(8)掃除機本体2側に通じる図示しない信号線等を設けて、この信号線等に延長管5の静電気を放電させるように構成したものにおいては、既存の信号線等を利用して静電気を好適に除電することができ、コストの低減を図ることができる。
【0077】
また、第1の吸込具7や第2の吸込具6を導電性を有する材料、例えば、炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、清掃面に接触する部分から延長管5に接触する部分に至る部分が導電性を有するように構成してもよい。この場合には、第1の吸込具7や第2の吸込具6を通じて清掃面となる電気を好適に放電することができる。
【0078】
なお、操作管4の全部または一部(例えば、グリップを除いた円筒状の部分)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、延長管5の外管10から操作管4、さらには清掃時にこの操作管4を握る人を介して、延長管5に帯電した静電気を床面等に放電するようにしてもよい。
(9)延長管5の外管本体11および内管本体21を射出成形により成形した場合には、延長管5を金属製の部材で形成した場合に比べて、形成が簡単であり、複雑な形状等も一体的に形成することができて、生産性に優れる。
【0079】
また、射出成形によって、外管本体11および内管本体21の内面を平滑化することができるので、塵埃の衝突により発生する静電気を抑制することができる。
【0080】
なお、各部の形状等は任意に設定することができ、下カバー12,上カバー13の周方向における大きさや、ベース部材22,カバー部材23の周方向の大きさ等は、外周面の全周に満たない範囲に被着されるものであれば任意に設定することができる。
【0081】
また、前記実施形態において延長管5は、外管10と内管20とを連結したものを例示したが、これに限られることはなく、一つの管体で構成されたものであってもよい。
【0082】
[2.延長管]
次に、電気掃除機1に備えられる延長管5を構成する、外管本体11および内管本体21を成形する材料について説明する。前記のように、延長管5を構成する外管本体11と内管本体21とが、炭素繊維を所定の割合以上で含有する熱可塑性樹脂(以下、適宜「炭素繊維含有樹脂」と言う。)からなる。以下、この炭素繊維含有樹脂について説明する。
【0083】
(炭素繊維)
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維は、繊維状の例えばポリアクリロニトリル(PAN)樹脂,ピッチ等を高温で炭化することにより得られるものであり(短繊維)、通常はその90%以上が炭素によって構成される。このような炭素繊維の具体的な種類は特に限定されず、後記する炭素繊維の物性に応じて任意の条件で製造してもよく、また、市販品を用いてもよい。炭素繊維を製造する場合、その製造条件,原料等は特に制限されず、公知の任意の製造条件および原料を適用して製造すればよい。また、炭素繊維は必ずしも1種を単独で用いる必要は無く、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0084】
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の長さは特に制限されないが、好ましくは5mm以下である。このような長さの炭素繊維を用いることで、炭素繊維含有樹脂を樹脂ペレット化して射出成形あるいはブロー成形できる。また、外管本体11および内管本体21に含有させる炭素繊維をより容易に準備することができるため、延長管5の製造コストを削減することができる。また、このような長さの炭素繊維を外管本体11および内管本体21に含有させることにより、外管本体11および内管本体21を構成する炭素繊維含有樹脂中で炭素繊維同士が適度に絡み合い、その結果、良好な剛性を奏することができる。
【0085】
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上である。炭素繊維の含有量がこの範囲に含まれることにより、延長管5の軽量化および高剛性化をバランス良く向上させることができる。また、前記した上カバー13(図3参照)およびカバー部材23(図5参照)を、それぞれ外管本体11および内管本体21に超音波溶着させ易くなるという利点もある。この点に関して、図10を参照しながら詳細に説明する。
【0086】
図10は本発明者らの検討によって得られたグラフであり、炭素繊維の含有量を変化させた場合の、板状の炭素繊維含有樹脂の厚み(延長管を成形した際の外径と内径との長さの差に対応する。)および当該厚みを板状の炭素繊維含有樹脂の曲げ強度の関係を概念的に示すグラフである。図10中、各グラフ近傍の記載は炭素繊維(CF)の含有量(質量%)であり、「PP」は炭素繊維を含まない熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(CF含有量0質量%)を表している。
【0087】
また、縦軸の「86MPa」は、従来の電気掃除機に用いられている厚みが2mmのポリプロピレンの曲げ強度を表している。すなわち、従来の厚み2mmのポリプロピレンからなる延長管においては、当該延長管を板状に成形した際の板状ポリプロピレンの曲げ強度が86MPaである。したがって、板状樹脂の曲げ強度が86MPa以上であれば、当該板状樹脂を用いて従来と少なくとも同等以上の強度(剛性)を有する延長管を成形できる。
【0088】
さらに、横軸の「0.9mm」は、射出成形またはブロー成形が可能な最低限の厚みである。したがって、射出成形もしくはブロー成形を行って延長管を成形する場合には、延長管の厚みが最低でも0.9mmとなるように板状樹脂を用いて成形することが極めて重要となる。
【0089】
図10に示すように、同じ厚みを有する場合には、炭素繊維含有樹脂中の炭素繊維含有量が増加すればするほど、炭素繊維含有樹脂の強度(必要強度)が増加する。しかしながら、炭素繊維は通常は高価なものであり、炭素繊維の含有量を増加させた場合には炭素繊維含有樹脂中の製造コストが増加する(価格上昇)。さらに、延長管の厚みを増加させれば、その分延長管の質量も上昇する(質量上昇)。また、本発明者らの検討によると、ポリプロピレンの比重は0.92g/cm3であり、炭素繊維を例えば10質量%の割合で含むポリプロピレンの比重は0.95g/cm3である。したがって、炭素繊維を含まないポリプロピレンよりも炭素繊維を含むポリプロピレンの比重が大きいため、単に炭素繊維の含有量を増加させた場合は、同じ厚みでも重量が増加する。
【0090】
すなわち、延長管5(より具体的には外管本体11および内管本体21)の剛性を向上させるために単に炭素繊維の含有量を増加させても、延長管5を安価に製造することができず、また、重量も増加する。そして、重量が過度に重くなり過ぎた場合に延長管5の厚みを減少させると、後記する成形が困難になったり、延長管5に通常要求される剛性を確保することができなくなったりすることがある。また、厚みを同じにしつつ、延長管5を安価に製造するために炭素繊維の含有量を減少させても、延長管5に通常要求される強度を確保することができないことがある。さらに、このような剛性を確保するために延長管5の厚みを増加させれば、延長管5の重量が重くなる可能性がある(質量増加)。
【0091】
図10に示すグラフは、前記課題に鑑みて本発明者らが検討し、得たものである。すなわち、製造する際の製造コストの削減(安価化)と、通常要求される強度の確保と、軽量化と、を全て兼ね備える延長管5が、本発明者らの鋭意検討によって想到されたのである。つまり、例えばポリプロピレンと10質量%の割合で炭素繊維を含む炭素繊維含有樹脂においては、従来の延長管を構成する樹脂強度(板状の樹脂強度として86MPa)と同程度の強度を維持しようとする場合、厚みが約2mmを超えると従来の延長管を構成する樹脂よりも重くなる。
【0092】
上述した実施例では延長管の最大外径は概ね50mmで延長管の長さは最大に伸ばした状態で概ね50cmである。これは一般家庭用で使用する場合に身長140cmから190cmの範囲の使用者が床面を掃除するときの長さとして使いやすい長さである。また、上述した延長管の強度は一般的な延長管の長さ(概ね50cm)の場合を想定しており、この場合に安価で生産性がよく軽量で使い勝手が良いものである。このとき延長管の厚みが1.0mm±0.2mmにおいて炭素繊維の質量割合が10質量%程度が安価で生産性が良く量産品に適している。
【0093】
しかしながら、高い所の掃除や奥行きの長い場所を掃除する場合には、通常の延長管よりも長い延長管が必要になる。このような特殊用途における延長管は長さを50cm以上にすると便利である。延長管を長くすると直径方向に圧縮される強度は変わらないが、全長方向に曲げる強度が必要になる。そのため上述した炭素繊維の質量割合が5質量%以上必要になってくる。例えば延長管の長さを50cmにする場合に炭素繊維の質量割合は5質量%以上あればよいが、延長管の長さを200cmにした場合は20質量%以上必要である。よって延長管の長さによって適時、炭素繊維の質量割合を配合する必要がある。
【0094】
一般的な家庭用の延長管長さ(概ね50cm)の場合、炭素繊維の含有割合を5質量%以上15質量%以下とすれば、従来の延長管を構成する樹脂と同程度の強度としつつも厚みを従来(約2mm)よりも薄くすることができ、ひいては延長管を従来よりも軽量なものとすることができる。特に、延長管は筒状であるため、電気掃除機を構成する他の部材と比べて破損し易いことがあり、軽量(つまり厚みが薄い)でありつつも高剛性を有するということはとりわけ優れた効果である。このような炭素繊維含有量を有する炭素含有樹脂を延長管に適用することにより、外管本体11および内管本体21の長手方向中間部においてそれぞれ、外径と内径との差を1mm以上1.4mm以下、また、長手方向全域においては当該差が2mm以下という、従来よりも薄くて軽量、しかも高剛性な延長管を製造することができる。
【0095】
さらに、炭素繊維を前記の割合で熱可塑性樹脂に含有させることにより、後記する射出成形またはブロー成形によって延長管を特に成形し易いという利点もある。
【0096】
(熱可塑性樹脂)
延長管5は、前記の炭素繊維を含む熱可塑性樹脂により構成される。前記の炭素繊維の説明においては、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを具体例に挙げたが、延長管5に含まれる熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンに何ら限定されるものではない。すなわち、延長管5を成形する熱可塑性樹脂としては、公知の任意の熱可塑性樹脂(例えば前記のようにABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂等)を用いることができ、その物性も、延長管としての機能を備えることができる限り任意である。ただし、延長管5を成形する熱可塑性樹脂としては、軽量および安価であり、製造および取扱いが容易であるという観点から、前記具体例で挙げたように、ポリプロピレンを用いることが好ましい。また、熱可塑性樹脂は必ずしも1種を単独で用いる必要は無く、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0097】
また、延長管5には、前記の炭素繊維および熱可塑性樹脂以外の任意の成分が含まれていてもよい。
【0098】
次に、延長管5を構成する、炭素繊維含有樹脂からなる外管本体11および内管本体21の製造方法について説明する。本実施形態においては、外管本体11および内管本体21はそれぞれ、炭素繊維含有樹脂を射出成形もしくはブロー成形して成形される。以下、射出成形を行う場合と、ブロー成形を行う場合と、の2つに分けて、外管本体11および内管本体21の製造方法を説明する。ただし、外管本体11と内管本体21とは形状が若干異なるものの基本的には同様に製造することができるため、以下においては内管本体21の製造方法を例に説明する。また、図示の簡略化のために、図11および図12における内管本体21の形状を単純な筒形状のものとしている。
【0099】
(射出成形を行う場合)
炭素繊維含有樹脂を用いて射出成形を行う場合、その具体的な方法に特に制限は無い。以下、射出成形の方法を具体的に説明するが、射出成形の方法は以下の内容に限定されない。例えば、図11に示すように、筒形状の外形(つまり円柱形状の外観)を成形可能な金型(上型100および下型101)と、円筒形状の内径を成形可能な中子102と、を組み合わせて一体のものとする。そして、これらを組み合わせた際に生じる隙間に、中子102と一体となって形成されているフランジ102aを貫通する貫通孔102bを通じ
て、加熱された溶融した炭素繊維含有樹脂を射出する(つまり押し出す)。その後冷却、ならびに金型100,101および中子102を取り外して必要に応じてバリを切断することで、内管本体21を成形することができる。
【0100】
溶融した炭素繊維含有樹脂を射出する際の金型100,101および中子102の温度は任意であるが、炭素繊維含有樹脂の融点以下の温度の場合には炭素繊維含有樹脂が固化するため、当該融点温度よりも高い温度に設定する。また、射出する際の射出荷重は、炭素繊維含有樹脂の温度や組成によっても異なるため一概には言えないが、例えば200MPa程度とすることができる。なお、射出成形を行う際の具体的な装置としては、例えば、特開2010−131966号公報や特開2006−110905号公報などに記載された射出成型機を用いることができる。
【0101】
内管本体21を射出成形によって成形することにより、内管本体21の外形状に加えて内形状も精度良く構成することができ、内管本体21の内壁を平滑なものとすることができる。したがって、電気掃除機使用時の内管本体21内部に空気が流通する際に、空気の内部抵抗を減らすことができ、電気掃除機に備えられている電動送風機の運転効率をより向上させることができる。また、内壁の凹凸による空気の乱流を抑制することができ、乱流に伴う騒音をより抑制することができる。さらには、延長管の全体を一度の工程で一体的に成形することができるため、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0102】
(ブロー成形を行う場合)
炭素繊維含有樹脂を用いてブロー成形を行う場合、その具体的な方法に特に制限は無い。以下、図12を参照しながら、ブロー成形の方法を具体的に説明するが、ブロー成形の方法は以下の内容に限定されない。
【0103】
例えば、図12に示す筒形状の外形を成形可能な金型200,201を組み合わせ、これらの金型200,201の内部に炭素繊維含有樹脂からなるパリソン202を押し出す。その後、パリソン202内部に高圧空気を噴き入れ、金型200,201内表面にパリソン202を押し付ける。そして、金型200,201を冷却することによりパリソン202を固化させ、金型200,201を取り外した後必要に応じてバリを切断することで、内管本体21を成形することできる。
【0104】
パリソン201を構成する炭素繊維含有樹脂の温度、金型200,201内表面にパリソン201を押し出す際の荷重、高圧空気の具体的な圧力等は特に制限されず、公知の任意のブロー成形法を適用すればよい。なお、ブロー成形を行う際の具体的な装置としては、例えば特開平11−277617号公報などに記載されたブロー成型機を用いることができる。
【0105】
内管本体21をブロー成形によって成形することにより、中子を用いずに内管本体21を成形することができるため、中子の引き抜き等の製造工程の簡素化を図ることができる。また、内管本体21の全体を一度の工程で一体的に成形することができるため、この観点からも製造工程の簡素化を図ることができる。
【0106】
前記のように、外管本体11および内管本体21は安価に製造でき、しかも軽量かつ高剛性である。つまり、電気掃除機に通常は付属品として付随する延長管5についても性能の向上を図ることができ、ひいては電気掃除機全体としての性能が高められた電気掃除機を提供することができる。
【0107】
また、前記のように、炭素繊維含有樹脂を用いても、射出成形もしくはブロー成形を容易に行うことができる。したがって、延長管5(より具体的には、外管本体11および内管本体21)の成形が容易であるという利点を有する。また、上カバー13およびカバー部材23を超音波溶着によって、炭素繊維を含む熱可塑性樹脂に対しても容易かつ強固に固定することができる。
【0108】
なお、本実施例の電気掃除機1においては炭素繊維含有樹脂を外管本体11および内管本体21に適用しているが、このような炭素繊維含有樹脂は、外管本体11および内管本体21の他にも、例えば車輪や、掃除機本体2や、第2の吸込具(吸込具)6や、第1の吸込具(吸込具)7などの電気掃除機1を構成する各部材に適用可能である。さらには、前記したように、炭素繊維含有樹脂を、操作管4を構成する少なくとも一部(即ち、全部または一部)の部材や、掃除機本体2を構成する少なくとも一部(即ち、全部または一部)の部材に適用してもよい。炭素繊維含有樹脂を、電気掃除機1を構成する各部材に適用することで軽量化など本発明の実施例で述べた効果を奏することができる。
【0109】
また、炭素繊維含有樹脂を用いる部品の必要強度に応じて炭素繊維の含有割合を5質量%以上で任意に設定することによって製品強度が保たれ、耐久性に優れた電気掃除機を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 電気掃除機
2 掃除機本体
2b 電動送風機
5 延長管
6 第2の吸込具(吸込具)
7 第1の吸込具(吸込具)
10 外管
11 外管本体
12 下カバー(絶縁性の樹脂部材)
13 上カバー(カバー部材)
15 支持部材
15d,15e シール部材
17,27 通電端子(導電部材)
20 内管
21 内管本体
22 ベース部材(絶縁性の樹脂部材)
23 カバー部材
C フラットケーブル(給電手段)
T1,T2 通風路
W1 導電線(給電手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気掃除機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、家庭等で電気掃除機が広く利用されている。このような電気掃除機は、埃等を吸引する吸込具と、当該吸込具に接続され、前記吸込具から吸引された埃等を電気掃除機内に吸引するための電動送風機と、を備えるものである。また、通常は、吸込具と電動送風機との間に形成される通風路の一部が、筒状の延長管により構成されている。
【0003】
このような筒状の延長管としては、樹脂製のものが広く用いられている。しかしながら、樹脂のみからなる延長管を用いる場合、延長管の重量が重すぎて電気掃除機の取扱い時に、過度の負担を要することがある。そこで特許文献1には、軽量化を目的として、延長管に炭素繊維を含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−24003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術においては、炭素繊維含有量についての具体的な範囲が記載されていない。そのため、炭素繊維の含有量によっては延長管の重量が過度に重くなったり、製造コストが過度に増加したりすることがある。また、炭素繊維の含有量が少なすぎる場合、延長管に通常要求される強度を確保できないこともある。すなわち、特許文献1に記載の事項のみに拠っては、これらの課題を解決することが極めて困難である。
【0006】
本発明の目的は、安価,軽量かつ高剛性な延長管、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を備える電気掃除機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、延長管を構成する少なくとも一部の部材、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を、所定の割合以上で炭素繊維を含む熱可塑性樹脂で成形することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明に拠れば、安価,軽量かつ高剛性な延長管、あるいは掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材を備える電気掃除機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気掃除機の全体を示す外観斜視図である。
【図2】(a)は延長管を縮めた状態の側面図、(b)は延長管を伸ばした状態の側面図、(c)は延長管を伸ばした状態の下面図である。
【図3】延長管の外管の分解斜視図である。
【図4】外管に備わる支持部材を示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。
【図5】延長管の内管の分解斜視図である。
【図6】(a)は延長管を一端側から見た図、(b)は延長管を他端側から見た図である。
【図7】(a)は延長管の縦端面図、(b)は延長管の他端部の拡大縦端面図である。
【図8】(a)は縮めた状態の延長管の斜視図、(b)は上カバーおよびカバー部材を部分的に透視した延長管の斜視図である。
【図9】(a)は下カバーとスライド部との配置関係を示す斜視図、(b)は延長管を縮めた状態でのフラットケーブルを示す平面図、(c)は同じく側面図、(d)は延長管を伸ばした状態でのフラットケーブルを示す部分側面図である。
【図10】炭素繊維の含有量を変化させた場合の、厚みおよび曲げ強度の関係を概念的に示すグラフである。
【図11】射出成形により延長管を製造する際の様子を模式的に示す図である。
【図12】ブロー成形により延長管を製造する際の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を適宜図面を参照しながら説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0011】
[1.電気掃除機の全体構造]
図1に示すように、電気掃除機1は、掃除機本体2と、ホース部3と、手元操作スイッチSW等が設けられた操作管4と、伸縮自在に設けられた延長管5と、吸込具として第2の吸込具6および第1の吸込具7とを備えて構成されている。このうち、本実施形態では、延長管5が外管10と内管20とから構成され、外管10をなす外管本体11(図2(b)参照)と、内管20をなす内管本体21(図2(b)参照)とが、炭素繊維を含有する(含む)熱可塑性樹脂(例えば、ポリプロピレン,ABS樹脂)で成形されている。
【0012】
掃除機本体2の外殻は、上ケースと下ケースとによって覆われている。上ケースは上下方向の略中央より上側に位置し、下ケースは上下方向の略中央より下側に位置する。掃除機本体2の内部には、吸引力を発生させる電動送風機2bや、この電動送風機2bの吸引力で集塵した塵埃を収容する集塵部等が内蔵されており、操作管4の手元操作スイッチSWを操作すること等によって電動送風機2bの運転の強弱切り替えや、第1の吸込具7に設けられた図示しないパワーブラシの入り切り等が行えるようになっている。集塵部は、掃除機本体2の前側(接続口2aが形成される側)に位置する。上ケースの前側に、開閉可能な蓋が形成される。よって、蓋は集塵部の上部を開閉可能に塞ぐ。操作管4は、延長管5に接続される一端からホース部3に接続される他端にかけては円筒状に形成され、さらに、円筒状の部分に対して延長管5に接続される一端側から分岐して延びたグリップが形成される。手元操作スイッチSWは、グリップに形成される。また、グリップ内には、手元操作スイッチSWのための電装部品が配置される。
【0013】
なお、以下の説明で各部の方向を言うときには、第1の吸込具7から掃除機本体2への図示しない通風路に沿って、掃除機本体2に近い側を一端(一端側)とし、これとは反対となる側を他端(他端側)として説明する。
【0014】
ホース部3の一端は、掃除機本体2の集塵部と連通するように掃除機本体2の接続口2aに接続されている。また、ホース部3の他端は、操作管4の一端に接続されている。操作管4には、前記した手元操作スイッチSWのほか、延長管5が接続される図示しない開口部には、掃除機本体2から給電される図示しない給電端子が設けられている。この給電端子には、延長管5の外管10の一端に設けられた導電部材としての通電端子17(図2(a)参照)が接続される。
【0015】
延長管5は、前記したように、外管10と内管20とを備え、図2(b)に示すように、外管10の他端部11cに内管20の一端部が挿入されて外管10と内管20との通風路T1,T2が連通するように連結されている。
【0016】
延長管5は、図2(a),(b)に示すように、伸縮自在であり、外管10と内管20との間は、弾性および導電性を有するシール部材15d,15e(図3,図4(a)参照)で気密状態にシールされている。なお、延長管5についての詳細は、後記する。
【0017】
第2の吸込具6は、図1に示すように、延長管5の内管20の他端20aに着脱可能に接続された吸込具であり、その他端6aには第1の吸込具7が着脱可能に接続される。第2の吸込具6は、その他端6aから第1の吸込具7を取り外すことにより、単独で塵埃を吸い込む吸込具として機能させることができる。第2の吸込具6は、延長管5の外管10と操作管4の他端4aとの間に着脱可能に接続されてもよい。ただし、第2の吸込具6は、必須の構成ではない。
【0018】
第1の吸込具7は、第2の吸込具6の他端6aに接続された吸込具であり、下面(清掃面に対峙する面)に図示しない吸込口が開口されている。なお、第1の吸込具7は、延長管5の内管20の他端20aや、操作管4の他端4aに対して接続して使用することも可能である。
【0019】
第1の吸込具7には、図示しないパワーブラシが設けられている。パワーブラシは、清掃面となる床面等の塵埃を掻き込む回転清掃体と、この回転清掃体を駆動する電動機を含んで構成されている。
【0020】
本実施形態では、この第1の吸込具7の電動機に給電する電力を、掃除機本体2からホース部3,操作管4,延長管5,第2の吸込具6を通じて供給するように構成している。延長管5に設けられた給電手段等の構成の詳細については後記する。
【0021】
延長管5は、前記したように、外管10をなす外管本体11(図2(b)参照)と、内管20をなす内管本体21(図2(b)参照)とが、炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形されている。つまり、延長管5の主たる構成部材である外管本体11と内管本体21とが、軽量で高強度の炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で形成されている。
【0022】
また、延長管5は、第1の吸込具7に給電を行うための給電手段(後記する外管10のフラットケーブルC等(図9(b)参照))を内部に有している。
【0023】
なお、延長管5と第1の吸込具7との間に第2の吸込具6が介在されている場合には、掃除機本体2から供給される電力は、延長管5から第2の吸込具6に備わる図示しない導電部材を通じて第1の吸込具7に供給される。延長管5と第1の吸込具7とが直接的に電気的に接続可能な場合は、第2の吸込具6の導電部材は不要である。
【0024】
外管10は、図3に示すように、主として、円筒状の外管本体11と、外管本体11の胴部11aの上部11a2に装着される絶縁性の樹脂部材としての下カバー12と、下カバー12を覆うようにして胴部11aに装着されるカバー部材としての上カバー13と、を備えて構成されている。
【0025】
外管本体11は、後記する射出成形またはブロー成形によって一体的に形成されており、内側には内管20(図5参照)を摺動可能に収容しつつ内管20に連通する通風路T1が形成されている。
【0026】
外管本体11は、胴部11aと、この胴部11aよりも小径とされた一端部11bと、胴部11aよりも大径とされた他端部11cとを有している。
【0027】
胴部11aは、一端部11bおよび他端部11cに比べて薄肉とされた薄肉部を有している。本実施形態では、胴部11aの側部11a1(長手方向中間部)が薄肉部とされており、外管本体11の軽量化が図られている。本実施形態においては、薄肉部における厚み(外径と内径との差)を1.2mm±0.2mmとしてあり、ポリプロピレン100%で成形された従来の延長管の厚み(約2mm)よりも薄くなっている。
【0028】
なお、薄肉部は、胴部11aの側部11a1に形成することに限られず、例えば、胴部11aの他の部分を薄肉として形成してもよく、また、一端部11bや他端部11cを部分的に薄肉として形成してもよい。
【0029】
胴部11aの上部11a2には、下カバー12が載置される平らな面S1が形成されている。上部11a2には、この平らな面S1を両側から挟むようにして、リブ11dが突設されている。リブ11dには、上カバー13の下縁13dが係合可能であり、上カバー13を装着する際には、リブ11dの延設方向に所定の間隔を置いて突設された係止部11eを、上カバー13の切り込み部13eに係止して、上部11a2に上カバー13を位置決めする。
【0030】
外管本体11の一端部11bは、図6(a)に示すように、略円筒状に形成されており、操作管4(図1参照、以下同じ)の他端に設けられた図示しない開口部に挿入されて操作管4と接続可能である。
【0031】
一端部11bの上部外周面には、図3に示すように、凹部11b1が形成されている。
この凹部11b1には、操作管4に設けられた図示しない接続用フックが係合するようになっている。
【0032】
また、一端部11bの上方には、図2(a),(b)に示すように、通電端子17,17(図では一方のみ図示)が配置されている。この通電端子17,17には、操作管4の開口部に設けられた図示しない端子が接続される。これにより、操作管4から延長管5の外管10に電力が供給される。
【0033】
外管本体11の他端部11cには、内管20を摺動自在に支持する支持部材15が配設されている。支持部材15は、環状の枠部15aと、この枠部15aに保持される環状の係合部材15bと、枠部15aの一端側に配置されるシール支持部15cと、シール部材15d,15eと、を備えて構成されている。
【0034】
環状の枠部15aは、図4(a)に示すように、装着部151と、保持部152とを備えている。装着部151は、外管本体11の他端部11cの開口11c2の内面に対応する外形状を有しており、開口11c2の内面に固定されるようになっている。
【0035】
装着部151の内面には、内管20の摺動を円滑に行うための案内リブ151aが形成されている。
【0036】
また、装着部151の上端部には、内管20の後記するスライド部25およびスライドカバー28(図5,図7(a),(b)参照)が挿通される挿通部151bが形成されている。
【0037】
保持部152は、円環枠状を呈しており、装着部151の一端に一体的に形成されている。この保持部152には、係合部材15bが上下方向に移動可能に外嵌されて保持される。保持部152の下部には、係合部材15bに形成された係合突部153aが挿通される挿通孔152aが開口形成されている。保持部152の上端部には、内管20の後記するスライド部25(図5,図9(a)参照)が挿通される枠状部152bが形成されている。
【0038】
係合部材15bは、縦長円環状を呈しており、環状の枠部15aの保持部152の上下端との間に図示しない間隙を有して保持部152に外嵌されるようになっている。これにより、係合部材15bは、この間隙を利用して上下方向に移動可能となっている。係合部材15bの下部には、保持部152の挿通孔152aに挿通される係合突部153aが設けられている。この係合突部153aは、係合部材15bが保持部152に対して上方向へ付勢された状態で、前記挿通孔152aを通じて保持部152の内側に突出する大きさを有しており、このように突出することによって係合突部153aは保持部152の内側に位置する図示しない内管20の凹溝21d(図2(c)参照、以下同じ)に係合可能となっている。
【0039】
係合突部153aの内側には、図7(b)に示すように、バネ支持部153cが形成されており、このバネ支持部153cに、図示しない渦巻きバネが外管10(外管本体)の内面との間に縮設されるようになっている。
【0040】
また、係合部材15bの上端には、図4(a)に示すように、係合部材15bを上方向に付勢する板状のバネ部153bが形成されている。したがって、係合部材15bは、通常、これらの渦巻きバネおよびバネ部153bによって、上方向に付勢されており、係合突部153aが前記挿通孔152aを通じて保持部152の内側に突出する状態に保持されるようになっている。
【0041】
このような係合部材15bの上方には、図3,図7(b)に示すように、上カバー13の他端部13cとの間にスライド部材14が配設されるようになっている。スライド部材14は、上カバー13の開口13fを通じて人の操作により外管10の軸方向に沿って移動可能であり、スライド部材14が他端側に向けてスライド操作されることによって、係合部材15bの上方に端部14cが進入し、前記渦巻きバネおよびバネ部153bによる付勢力に抗して係合部材15bを下方向に押し下げるようになっている。つまり、スライド部材14を他端側にスライド操作することによって、内管20の凹溝21dに係合していた係合突部153aが凹溝21dから脱し、凹溝21dに対する係合突部153aの係合を解除することができる。これにより、外管10に対する内管20の固定が解除され、外管10に対して内管20がスライド移動可能となる。
【0042】
シール支持部15cは、円環状の部材であり、後記する静電気の効果的な除電を行うために、導電性を有する材料、例えば、金属や炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形されて、外管本体11の他端部11cにおいて内面に接触して固定されている。シール支持部15cの一端には、シール部材15dが装着される凹部154が形成され、他端には、シール部材15eが装着される凹部155が形成されている。
【0043】
シール部材15d,15eは、弾性、および後記する静電気の効果的な除電を行うために導電性を有する材料、例えば、弾性を有する材料に金属繊維や導電性粒子等を含ませた材料からなる。シール部材15d,15eの内側には、内管20の胴部21a(図5参照)が挿通される。これにより、外管10と内管20との通風路T1,T2間がシール部材15d,15eによってシールされるようになっている。
【0044】
ここで、シール支持部15cおよびシール部材15d,15eは、いずれも導電性を有しているので、これらのシール支持部15cおよびシール部材15d,15eを介して外管10の外管本体11と内管20の内管本体21とが電気的に導通する状態に接続されている。
【0045】
本実施形態では、外管本体11と内管本体21との一方または両方に、静電気を除電させる機能を有する図示しない除電手段としての除電部材が設けられている。除電部材としては、例えば、コロナ放電をさせながら空気中に除電することができる除電フェルトや金属繊維等を用いることができ、また、シール部材15d,15e自体を除電の効果を有するゴム類やEVA(エチレン・酢酸ビニルコポリマー)等を用い界面活性剤を混合した材料で形成して、シール部材15d,15eで除電するようにしてもよい。
【0046】
また、掃除機本体2側に通じる図示しない導電性を有する信号線等を設け、この信号線等に静電気を放電させるようにして除電するように構成してもよい。
【0047】
図3に示すように、下カバー12は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等の樹脂により形成された細長の上面凹状の部材であり、胴部11aの上部11a2のリブ11dの内側に嵌り込むようにして平らな面S1に載置されて胴部11aに被着される。つまり、下カバー12は、延長管5の他端部における外周面の全周に満たない範囲である胴部11aの上部11a2に被着されている。
【0048】
下カバー12の凹部内における長手方向略中央部には、給電手段を構成するフラットケーブルCの他端部C1が取り付けられている。
【0049】
フラットケーブルCは、可撓性を有しており、その一端部C2は、凹部に沿って一端側へ延ばされた後、他端側へU字状に折り返されるようにして配置されている。
【0050】
このような下カバー12と上カバー13との間には(下カバー12の上には)、図8(b),図9(a)〜(c)に示すように、下カバー12の長手方向に沿って、内管20に設けられたスライド部25が移動可能に配置される。スライド部25の一端部には、図9(b),(c)に示すように、フラットケーブルCの折り返された一端部C2が電気的に接続されている。これにより、延長管5の伸縮時には、図9(c),(d)に示すように、外管10に対する内管20の摺動移動にフラットケーブルCが変形追従するようになっている。
【0051】
下カバー12の一端12bには、端子台16が設けられており、この端子台16には、金属製の通電端子17が取り付けられるようになっている。通電端子17は、図3中一点鎖線で模式的に示すように、導電線W1を介してフラットケーブルCの他端部C1に電気的に接続されている。
【0052】
すなわち、通電端子17は、絶縁性の下カバー12を介して外管本体11に支持され、外管本体11と電気的に導通することのない状態に配置されている。
【0053】
上カバー13は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されている。上カバー13は、外管本体11の上部11a2に設けられたリブ11dに、下縁13dを嵌合させることで、外管本体11の上部11a2に一体的に装着され、下カバー12との間に絶縁された空間を形成している。この絶縁された空間には、給電手段を構成しているフラットケーブルCと、下カバー12上に移動可能に配置されたスライド部25とが収容されるようになっている。
【0054】
本実施形態では、超音波溶着による固着手法によって上カバー13が外管本体11に固着されている。なお、上カバー13の固着は、その他の溶着や接着剤等を用いて行ってもよいし、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0055】
なお、外管本体11に対する下カバー12の固定は、外管本体11に上カバー13を固着することによる上カバー13の押え付けによって行ってもよいし、下カバー12を外管本体11に直接固定するようにしてもよい。下カバー12の固定は、超音波溶着によって行ってもよいし、また、その他の溶着や接着剤等を用いて、あるいは、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0056】
内管20は、図5に示すように、主として、円筒状の内管本体21と、絶縁性の樹脂部材としてのベース部材22と、カバー部材23と、を備えて構成されている。
【0057】
内管本体21は、射出成形またはブロー成形によって一体的に形成されており、内側には外管10の通風路T1(図3参照)に連通する通風路T2が形成されている。
【0058】
内管本体21は、胴部21aと、この胴部21aよりも大径とされた他端部21cとを有している。
【0059】
胴部21aの上面には、ベース部材22に設けられたスライド部25を支持するための支柱21a1が設けられている。胴部21aの一端部21a2には、円筒状の摺動部材26が装着される。この摺動部材26は、胴部21aの一端部21a2に装着されることで、外管10と内管20との間の円滑な摺動に寄与する。
【0060】
他端部21cには、第2の吸込具6や第1の吸込具7が取り付け可能であり、他端部21cの上部21c1には、ベース部材22が載置されて取り付けられるようになっている。
【0061】
ベース部材22は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されており、内管本体21の他端部21cの上部21c1に被着される。つまり、ベース部材22は、内管本体21の他端部21cにおいて、外周面の全周に満たない範囲である他端部21cの上部21c1に被着されている。
【0062】
ベース部材22の上面には、揺動支持部22aおよび通電端子支持部22bが形成されている。
【0063】
また、ベース部材22の一端部には、内管本体21の胴部21aに沿うようにして一端部へ向けて延設された細長板状のスライド部25が一体的に設けられている。
【0064】
揺動支持部22aには、操作ボタン24が揺動可能に支持される。操作ボタン24は、第2の吸込具6や第1の吸込具7との取り付け取り外しを行うためのボタンであり、他端下部に係止用のフック部24aを有している。このフック部24aは、ベース部材22に設けられた図示しない孔部から他端部21cの上部21c1に形成された開口21c2を通じて他端部21cの内空に出没可能である。
【0065】
このような操作ボタン24は、図示しないバネ部材によりフック部24aが他端部21cの内空に突出する状態に付勢されている。これにより、他端部21cの内空から第2の吸込具6や第1の吸込具7の取付部を挿入すると、フック部24aが第2の吸込具6や第1の吸込具7の図示しない係止部に係止され、延長管5の内管20に第2の吸込具6や第1の吸込具7が固定されるようになっている。なお、取り外す際には、操作ボタン24のボタン部24bを押圧操作してフック部24aの係止を解除する。
【0066】
ベース部材22の通電端子支持部22bには、金属製の通電端子27が取り付けられる。また、スライド部25の一端部には、図9(b),(c)に示すように、フラットケーブルCの一端部C2が接続されており(図9(b),(c)参照)、このフラットケーブルCの一端部C2と通電端子27との間が、図示しない導電線で電気的に接続されている。
【0067】
カバー部材23は、絶縁性を有する材料、例えば、ポリプロピレン等により形成されている。カバー部材23は、図5に示すように、内管本体21の他端部21cの上部21c1に設けられた溝部21c3,21c3に、下縁23c,23cを係合させることで、他端部21cに一体的に装着され、ベース部材22との間に絶縁された空間を形成している。
【0068】
本実施形態では、超音波溶着による固着手法によってカバー部材23が内管本体21の他端部21cに固着されている。なお、カバー部材23の固着は、その他の溶着や接着剤等を用いて行ってもよいし、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0069】
また、内管本体21に対するベース部材22の固定は、内管本体21にカバー部材23を固定することによるカバー部材23の押え付けによって行ってもよいし、ベース部材22を内管本体21に直接固定するようにしてもよい。ベース部材22の固定は、超音波溶着によって行ってもよいし、また、その他の溶着や接着剤等を用いて、あるいは、ねじ等の締結部材を用いて行ってもよい。
【0070】
カバー部材23の他端には、ベース部材22のスライド部25に装着されるスライドカバー28が一体的に形成されている。スライドカバー28は、スライド部25との間に図示しない導電線を収容する空間を形成している。
【0071】
また、カバー部材23の上面には、操作ボタン24のボタン部24bが挿通配置される開口部23aが形成されている。
【0072】
このようなスライド部25およびスライドカバー28は、一体となって、図8(a)に示すように、外管10の他端部11cに固定された支持部材15の挿通部151bを通じて、外管本体11とは絶縁された下カバー12と上カバー13との間に挿入される。
【0073】
そして、前記したように、スライド部25上に配置された図示しない導電線を介して、フラットケーブルCの一端部C2(図9(b)参照)と通電端子27(図5参照)との間が電気的に接続される。これにより、外管10の一端部に設けられた通電端子17,17(図3参照)と通電端子27(図5参照)との間が外管本体11および内管本体21から絶縁された状態で電気的に接続されることとなる。
【0074】
以下では、前記構成によって得られる効果を説明する。
(1)延長管5の外管本体11および内管本体21が炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で構成されているので、延長管5全体として軽量化を図りつつ剛性を確保することができる。操作管4の全部または一部(例えば、グリップを除いた円筒状の部分)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、操作管4の軽量化を図りつつ剛性を確保してもよい。さらに、掃除機本体2の一部(例えば、下ケース)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、掃除機本体2の軽量化を図りつつ剛性を確保してもよい。
(2)延長管5に配置された導電部材である通電端子17,17および通電端子27,27は、絶縁性の樹脂である下カバー12上やベース部材22上において延長管5の外管本体11および内管本体21と絶縁して配置されているので、延長管5と通電端子17,17とが電気的に導通することがなく、また、延長管5と通電端子27とが電気的に導通することもない。
【0075】
したがって、延長管5の外管本体11および内管本体21が導電性を有する材料で形成されている構造を有しながら、導電部材との好適な絶縁性を確保することができる。
(3)通電端子17,17を外管本体11から絶縁する下カバー12、および通電端子27を内管本体21から絶縁するベース部材22は、設置される部分である外管本体11,内管本体21の外周面の全周に満たない範囲に被着されているので、これらが外周面の全周に被着され構成のものに比べて、被着面積を小さくすることができ、その分、軽量,小型化を図ることができる。
(4)通電端子17,17に接続される給電手段としての導電線W1、および導電線W1に接続されるフラットケーブルCは、絶縁性の樹脂である下カバー12上にそれぞれ配設されているので、導電性の部材である外管本体11との好適な絶縁性を確保することができ、第1の吸込具7に対する好適な給電を実現することができる。
(5)フラットケーブルCは、下カバー12と上カバー13との間において、外管本体11から絶縁された空間内に配設されているので、良好な絶縁性を維持することができる。したがって、長期間の使用により、仮に、フラットケーブルCの被覆が剥がれるような事態が生じたとしても、フラットケーブルCが人の手に触れたり外管本体11に直接接触したりすることが確実に阻止される。
(6)超音波溶着による固着手法により、上カバー13が外管本体11に固着され、また、カバー部材23が内管本体21に固着されているので、上カバー13やカバー部材23の固定が簡単であり、高強度の固着を実現することができる。また、溶着箇所の仕上がりが良好となり、製品価値も高まる。
(7)外管本体11と内管本体21との間が、弾性および導電性を有するシール部材15d,15eでシールされているので、外管本体11と内管本体21とを導電性を有する一つの部材として、これらに帯電する静電気を例えば外管本体11に設けた一つの除電手段によって好適に除電することができる。これにより、生産性の向上やコストの低減を図ることができる。
【0076】
なお、外管本体11と内管本体21とをアルミニウム合金等の金属材料で形成した場合にも、これらの間をシール部材15d,15eでシールすることにより、これらに帯電する静電気を例えば外管本体11に設けた一つの除電手段によって好適に除電することができる。
(8)掃除機本体2側に通じる図示しない信号線等を設けて、この信号線等に延長管5の静電気を放電させるように構成したものにおいては、既存の信号線等を利用して静電気を好適に除電することができ、コストの低減を図ることができる。
【0077】
また、第1の吸込具7や第2の吸込具6を導電性を有する材料、例えば、炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、清掃面に接触する部分から延長管5に接触する部分に至る部分が導電性を有するように構成してもよい。この場合には、第1の吸込具7や第2の吸込具6を通じて清掃面となる電気を好適に放電することができる。
【0078】
なお、操作管4の全部または一部(例えば、グリップを除いた円筒状の部分)を炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂で成形して、延長管5の外管10から操作管4、さらには清掃時にこの操作管4を握る人を介して、延長管5に帯電した静電気を床面等に放電するようにしてもよい。
(9)延長管5の外管本体11および内管本体21を射出成形により成形した場合には、延長管5を金属製の部材で形成した場合に比べて、形成が簡単であり、複雑な形状等も一体的に形成することができて、生産性に優れる。
【0079】
また、射出成形によって、外管本体11および内管本体21の内面を平滑化することができるので、塵埃の衝突により発生する静電気を抑制することができる。
【0080】
なお、各部の形状等は任意に設定することができ、下カバー12,上カバー13の周方向における大きさや、ベース部材22,カバー部材23の周方向の大きさ等は、外周面の全周に満たない範囲に被着されるものであれば任意に設定することができる。
【0081】
また、前記実施形態において延長管5は、外管10と内管20とを連結したものを例示したが、これに限られることはなく、一つの管体で構成されたものであってもよい。
【0082】
[2.延長管]
次に、電気掃除機1に備えられる延長管5を構成する、外管本体11および内管本体21を成形する材料について説明する。前記のように、延長管5を構成する外管本体11と内管本体21とが、炭素繊維を所定の割合以上で含有する熱可塑性樹脂(以下、適宜「炭素繊維含有樹脂」と言う。)からなる。以下、この炭素繊維含有樹脂について説明する。
【0083】
(炭素繊維)
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維は、繊維状の例えばポリアクリロニトリル(PAN)樹脂,ピッチ等を高温で炭化することにより得られるものであり(短繊維)、通常はその90%以上が炭素によって構成される。このような炭素繊維の具体的な種類は特に限定されず、後記する炭素繊維の物性に応じて任意の条件で製造してもよく、また、市販品を用いてもよい。炭素繊維を製造する場合、その製造条件,原料等は特に制限されず、公知の任意の製造条件および原料を適用して製造すればよい。また、炭素繊維は必ずしも1種を単独で用いる必要は無く、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0084】
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の長さは特に制限されないが、好ましくは5mm以下である。このような長さの炭素繊維を用いることで、炭素繊維含有樹脂を樹脂ペレット化して射出成形あるいはブロー成形できる。また、外管本体11および内管本体21に含有させる炭素繊維をより容易に準備することができるため、延長管5の製造コストを削減することができる。また、このような長さの炭素繊維を外管本体11および内管本体21に含有させることにより、外管本体11および内管本体21を構成する炭素繊維含有樹脂中で炭素繊維同士が適度に絡み合い、その結果、良好な剛性を奏することができる。
【0085】
炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上である。炭素繊維の含有量がこの範囲に含まれることにより、延長管5の軽量化および高剛性化をバランス良く向上させることができる。また、前記した上カバー13(図3参照)およびカバー部材23(図5参照)を、それぞれ外管本体11および内管本体21に超音波溶着させ易くなるという利点もある。この点に関して、図10を参照しながら詳細に説明する。
【0086】
図10は本発明者らの検討によって得られたグラフであり、炭素繊維の含有量を変化させた場合の、板状の炭素繊維含有樹脂の厚み(延長管を成形した際の外径と内径との長さの差に対応する。)および当該厚みを板状の炭素繊維含有樹脂の曲げ強度の関係を概念的に示すグラフである。図10中、各グラフ近傍の記載は炭素繊維(CF)の含有量(質量%)であり、「PP」は炭素繊維を含まない熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(CF含有量0質量%)を表している。
【0087】
また、縦軸の「86MPa」は、従来の電気掃除機に用いられている厚みが2mmのポリプロピレンの曲げ強度を表している。すなわち、従来の厚み2mmのポリプロピレンからなる延長管においては、当該延長管を板状に成形した際の板状ポリプロピレンの曲げ強度が86MPaである。したがって、板状樹脂の曲げ強度が86MPa以上であれば、当該板状樹脂を用いて従来と少なくとも同等以上の強度(剛性)を有する延長管を成形できる。
【0088】
さらに、横軸の「0.9mm」は、射出成形またはブロー成形が可能な最低限の厚みである。したがって、射出成形もしくはブロー成形を行って延長管を成形する場合には、延長管の厚みが最低でも0.9mmとなるように板状樹脂を用いて成形することが極めて重要となる。
【0089】
図10に示すように、同じ厚みを有する場合には、炭素繊維含有樹脂中の炭素繊維含有量が増加すればするほど、炭素繊維含有樹脂の強度(必要強度)が増加する。しかしながら、炭素繊維は通常は高価なものであり、炭素繊維の含有量を増加させた場合には炭素繊維含有樹脂中の製造コストが増加する(価格上昇)。さらに、延長管の厚みを増加させれば、その分延長管の質量も上昇する(質量上昇)。また、本発明者らの検討によると、ポリプロピレンの比重は0.92g/cm3であり、炭素繊維を例えば10質量%の割合で含むポリプロピレンの比重は0.95g/cm3である。したがって、炭素繊維を含まないポリプロピレンよりも炭素繊維を含むポリプロピレンの比重が大きいため、単に炭素繊維の含有量を増加させた場合は、同じ厚みでも重量が増加する。
【0090】
すなわち、延長管5(より具体的には外管本体11および内管本体21)の剛性を向上させるために単に炭素繊維の含有量を増加させても、延長管5を安価に製造することができず、また、重量も増加する。そして、重量が過度に重くなり過ぎた場合に延長管5の厚みを減少させると、後記する成形が困難になったり、延長管5に通常要求される剛性を確保することができなくなったりすることがある。また、厚みを同じにしつつ、延長管5を安価に製造するために炭素繊維の含有量を減少させても、延長管5に通常要求される強度を確保することができないことがある。さらに、このような剛性を確保するために延長管5の厚みを増加させれば、延長管5の重量が重くなる可能性がある(質量増加)。
【0091】
図10に示すグラフは、前記課題に鑑みて本発明者らが検討し、得たものである。すなわち、製造する際の製造コストの削減(安価化)と、通常要求される強度の確保と、軽量化と、を全て兼ね備える延長管5が、本発明者らの鋭意検討によって想到されたのである。つまり、例えばポリプロピレンと10質量%の割合で炭素繊維を含む炭素繊維含有樹脂においては、従来の延長管を構成する樹脂強度(板状の樹脂強度として86MPa)と同程度の強度を維持しようとする場合、厚みが約2mmを超えると従来の延長管を構成する樹脂よりも重くなる。
【0092】
上述した実施例では延長管の最大外径は概ね50mmで延長管の長さは最大に伸ばした状態で概ね50cmである。これは一般家庭用で使用する場合に身長140cmから190cmの範囲の使用者が床面を掃除するときの長さとして使いやすい長さである。また、上述した延長管の強度は一般的な延長管の長さ(概ね50cm)の場合を想定しており、この場合に安価で生産性がよく軽量で使い勝手が良いものである。このとき延長管の厚みが1.0mm±0.2mmにおいて炭素繊維の質量割合が10質量%程度が安価で生産性が良く量産品に適している。
【0093】
しかしながら、高い所の掃除や奥行きの長い場所を掃除する場合には、通常の延長管よりも長い延長管が必要になる。このような特殊用途における延長管は長さを50cm以上にすると便利である。延長管を長くすると直径方向に圧縮される強度は変わらないが、全長方向に曲げる強度が必要になる。そのため上述した炭素繊維の質量割合が5質量%以上必要になってくる。例えば延長管の長さを50cmにする場合に炭素繊維の質量割合は5質量%以上あればよいが、延長管の長さを200cmにした場合は20質量%以上必要である。よって延長管の長さによって適時、炭素繊維の質量割合を配合する必要がある。
【0094】
一般的な家庭用の延長管長さ(概ね50cm)の場合、炭素繊維の含有割合を5質量%以上15質量%以下とすれば、従来の延長管を構成する樹脂と同程度の強度としつつも厚みを従来(約2mm)よりも薄くすることができ、ひいては延長管を従来よりも軽量なものとすることができる。特に、延長管は筒状であるため、電気掃除機を構成する他の部材と比べて破損し易いことがあり、軽量(つまり厚みが薄い)でありつつも高剛性を有するということはとりわけ優れた効果である。このような炭素繊維含有量を有する炭素含有樹脂を延長管に適用することにより、外管本体11および内管本体21の長手方向中間部においてそれぞれ、外径と内径との差を1mm以上1.4mm以下、また、長手方向全域においては当該差が2mm以下という、従来よりも薄くて軽量、しかも高剛性な延長管を製造することができる。
【0095】
さらに、炭素繊維を前記の割合で熱可塑性樹脂に含有させることにより、後記する射出成形またはブロー成形によって延長管を特に成形し易いという利点もある。
【0096】
(熱可塑性樹脂)
延長管5は、前記の炭素繊維を含む熱可塑性樹脂により構成される。前記の炭素繊維の説明においては、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを具体例に挙げたが、延長管5に含まれる熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンに何ら限定されるものではない。すなわち、延長管5を成形する熱可塑性樹脂としては、公知の任意の熱可塑性樹脂(例えば前記のようにABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene)樹脂等)を用いることができ、その物性も、延長管としての機能を備えることができる限り任意である。ただし、延長管5を成形する熱可塑性樹脂としては、軽量および安価であり、製造および取扱いが容易であるという観点から、前記具体例で挙げたように、ポリプロピレンを用いることが好ましい。また、熱可塑性樹脂は必ずしも1種を単独で用いる必要は無く、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0097】
また、延長管5には、前記の炭素繊維および熱可塑性樹脂以外の任意の成分が含まれていてもよい。
【0098】
次に、延長管5を構成する、炭素繊維含有樹脂からなる外管本体11および内管本体21の製造方法について説明する。本実施形態においては、外管本体11および内管本体21はそれぞれ、炭素繊維含有樹脂を射出成形もしくはブロー成形して成形される。以下、射出成形を行う場合と、ブロー成形を行う場合と、の2つに分けて、外管本体11および内管本体21の製造方法を説明する。ただし、外管本体11と内管本体21とは形状が若干異なるものの基本的には同様に製造することができるため、以下においては内管本体21の製造方法を例に説明する。また、図示の簡略化のために、図11および図12における内管本体21の形状を単純な筒形状のものとしている。
【0099】
(射出成形を行う場合)
炭素繊維含有樹脂を用いて射出成形を行う場合、その具体的な方法に特に制限は無い。以下、射出成形の方法を具体的に説明するが、射出成形の方法は以下の内容に限定されない。例えば、図11に示すように、筒形状の外形(つまり円柱形状の外観)を成形可能な金型(上型100および下型101)と、円筒形状の内径を成形可能な中子102と、を組み合わせて一体のものとする。そして、これらを組み合わせた際に生じる隙間に、中子102と一体となって形成されているフランジ102aを貫通する貫通孔102bを通じ
て、加熱された溶融した炭素繊維含有樹脂を射出する(つまり押し出す)。その後冷却、ならびに金型100,101および中子102を取り外して必要に応じてバリを切断することで、内管本体21を成形することができる。
【0100】
溶融した炭素繊維含有樹脂を射出する際の金型100,101および中子102の温度は任意であるが、炭素繊維含有樹脂の融点以下の温度の場合には炭素繊維含有樹脂が固化するため、当該融点温度よりも高い温度に設定する。また、射出する際の射出荷重は、炭素繊維含有樹脂の温度や組成によっても異なるため一概には言えないが、例えば200MPa程度とすることができる。なお、射出成形を行う際の具体的な装置としては、例えば、特開2010−131966号公報や特開2006−110905号公報などに記載された射出成型機を用いることができる。
【0101】
内管本体21を射出成形によって成形することにより、内管本体21の外形状に加えて内形状も精度良く構成することができ、内管本体21の内壁を平滑なものとすることができる。したがって、電気掃除機使用時の内管本体21内部に空気が流通する際に、空気の内部抵抗を減らすことができ、電気掃除機に備えられている電動送風機の運転効率をより向上させることができる。また、内壁の凹凸による空気の乱流を抑制することができ、乱流に伴う騒音をより抑制することができる。さらには、延長管の全体を一度の工程で一体的に成形することができるため、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0102】
(ブロー成形を行う場合)
炭素繊維含有樹脂を用いてブロー成形を行う場合、その具体的な方法に特に制限は無い。以下、図12を参照しながら、ブロー成形の方法を具体的に説明するが、ブロー成形の方法は以下の内容に限定されない。
【0103】
例えば、図12に示す筒形状の外形を成形可能な金型200,201を組み合わせ、これらの金型200,201の内部に炭素繊維含有樹脂からなるパリソン202を押し出す。その後、パリソン202内部に高圧空気を噴き入れ、金型200,201内表面にパリソン202を押し付ける。そして、金型200,201を冷却することによりパリソン202を固化させ、金型200,201を取り外した後必要に応じてバリを切断することで、内管本体21を成形することできる。
【0104】
パリソン201を構成する炭素繊維含有樹脂の温度、金型200,201内表面にパリソン201を押し出す際の荷重、高圧空気の具体的な圧力等は特に制限されず、公知の任意のブロー成形法を適用すればよい。なお、ブロー成形を行う際の具体的な装置としては、例えば特開平11−277617号公報などに記載されたブロー成型機を用いることができる。
【0105】
内管本体21をブロー成形によって成形することにより、中子を用いずに内管本体21を成形することができるため、中子の引き抜き等の製造工程の簡素化を図ることができる。また、内管本体21の全体を一度の工程で一体的に成形することができるため、この観点からも製造工程の簡素化を図ることができる。
【0106】
前記のように、外管本体11および内管本体21は安価に製造でき、しかも軽量かつ高剛性である。つまり、電気掃除機に通常は付属品として付随する延長管5についても性能の向上を図ることができ、ひいては電気掃除機全体としての性能が高められた電気掃除機を提供することができる。
【0107】
また、前記のように、炭素繊維含有樹脂を用いても、射出成形もしくはブロー成形を容易に行うことができる。したがって、延長管5(より具体的には、外管本体11および内管本体21)の成形が容易であるという利点を有する。また、上カバー13およびカバー部材23を超音波溶着によって、炭素繊維を含む熱可塑性樹脂に対しても容易かつ強固に固定することができる。
【0108】
なお、本実施例の電気掃除機1においては炭素繊維含有樹脂を外管本体11および内管本体21に適用しているが、このような炭素繊維含有樹脂は、外管本体11および内管本体21の他にも、例えば車輪や、掃除機本体2や、第2の吸込具(吸込具)6や、第1の吸込具(吸込具)7などの電気掃除機1を構成する各部材に適用可能である。さらには、前記したように、炭素繊維含有樹脂を、操作管4を構成する少なくとも一部(即ち、全部または一部)の部材や、掃除機本体2を構成する少なくとも一部(即ち、全部または一部)の部材に適用してもよい。炭素繊維含有樹脂を、電気掃除機1を構成する各部材に適用することで軽量化など本発明の実施例で述べた効果を奏することができる。
【0109】
また、炭素繊維含有樹脂を用いる部品の必要強度に応じて炭素繊維の含有割合を5質量%以上で任意に設定することによって製品強度が保たれ、耐久性に優れた電気掃除機を提供することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 電気掃除機
2 掃除機本体
2b 電動送風機
5 延長管
6 第2の吸込具(吸込具)
7 第1の吸込具(吸込具)
10 外管
11 外管本体
12 下カバー(絶縁性の樹脂部材)
13 上カバー(カバー部材)
15 支持部材
15d,15e シール部材
17,27 通電端子(導電部材)
20 内管
21 内管本体
22 ベース部材(絶縁性の樹脂部材)
23 カバー部材
C フラットケーブル(給電手段)
T1,T2 通風路
W1 導電線(給電手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込具と、電動送風機と、前記吸込具および前記電動送風機の間に形成されている通風路と、を備え、前記通風路の少なくとも一部が筒状の延長管により形成されている電気掃除機において、
前記延長管を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、
前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上であり、
前記延長管を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【請求項2】
前記延長管の最大長さが50cm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電気掃除機。
【請求項3】
前記炭素繊維の繊維長が5mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電気掃除機。
【請求項4】
前記部材の最薄部の厚みが、1mm以上1.4mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の電気掃除機。
【請求項5】
電動送風機と集塵部とを内蔵する掃除機本体と、前記掃除機本体に連通する吸込具とを備えた電気掃除機において、
前記掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、
前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%
以上であり、
前記掃除機本体を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【請求項1】
吸込具と、電動送風機と、前記吸込具および前記電動送風機の間に形成されている通風路と、を備え、前記通風路の少なくとも一部が筒状の延長管により形成されている電気掃除機において、
前記延長管を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、
前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%以上であり、
前記延長管を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【請求項2】
前記延長管の最大長さが50cm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の電気掃除機。
【請求項3】
前記炭素繊維の繊維長が5mm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電気掃除機。
【請求項4】
前記部材の最薄部の厚みが、1mm以上1.4mm以下であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の電気掃除機。
【請求項5】
電動送風機と集塵部とを内蔵する掃除機本体と、前記掃除機本体に連通する吸込具とを備えた電気掃除機において、
前記掃除機本体を構成する少なくとも一部の部材が、炭素繊維および熱可塑性樹脂を含む炭素繊維含有樹脂からなり、
前記炭素繊維含有樹脂に含まれる炭素繊維の量は、前記炭素繊維含有樹脂中、5質量%
以上であり、
前記掃除機本体を構成する少なくとも一部の前記部材が、前記炭素繊維含有樹脂をブロー成形もしくは射出成形してなることを特徴とする、電気掃除機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−9784(P2013−9784A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143730(P2011−143730)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】
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