説明

電気泳動粒子とその製造方法、電気泳動粒子を含む電気泳動分散液、画像表示媒体、及び画像表示装置

【課題】メモリー性に優れた電気泳動粒子とその製造方法、該電気泳動粒子を含む電気泳動分散液、電気泳動分散液を収容した画像表示媒体、及び画像表示装置を提供する。
【解決手段】少なくとも〔I〕特定の構造式で表されるスルホニウム化合物を用いて、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を前記顔料粒子表面に結合させる工程と、〔II〕反応性モノマーを用いて、前記分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を前記顔料粒子表面に結合させる工程とを備えた製造方法により、顔料粒子の表面を修飾し電気泳動粒子とする。該電気泳動粒子(11a)を非極性溶媒(11c)に分散して電気泳動分散液(11)とし、これを透明性導電性層間(12,13)に封入して画像表示媒体(10)とする。画像表示媒体を用いて画像表示装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メモリー性に優れた電気泳動粒子の製造方法とこの製造方法により得られた電気泳動粒子、電気泳動粒子を含有する電気泳動分散液、電気泳動分散液を収容した画像表示媒体、画像表示媒体を用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、文字、静止画、動画等の画像を表示する画像表示装置としては、カソードレイチューブ(CRT)、液晶ディスプレイ等が用いられている。これらの画像表示装置は、画像を瞬時に表示することができ、また、書き換えることができるが、持ち歩くことが困難であること、眼が疲労しやすいこと、電源をオフにすると画像を表示できないこと等の問題がある。一方、文字、静止画等の画像は、プリンターを用いて紙媒体に記録された後、配布されたり、保存されたりする。このような画像が記録された紙媒体は、ハードコピーとして広く使用されている。ハードコピーは、ディスプレイよりも文字が読みやすいこと、目が疲れにくいこと、自由な姿勢で読めること、軽量で自由に持ち運べること等の特徴を有する。しかしながら、ハードコピーは、使用後に廃棄されたり、リサイクルされたりするが、多くの労力と費用を要するので省資源の点では問題がある。
【0003】
このため、上記ディスプレイとハードコピーの両方の長所を有し、書き換えが可能なペーパーライクな画像表示媒体のニーズが高くなり、これまでに例えば、高分子分散型液晶素子、双安定性コレステリック液晶素子、エレクトロクロミック素子、電気泳動素子等を用いて画像表示媒体とする手法が種々検討されている。これらの画像表示媒体は、反射型であるため、明るい画像を表示することができると共にメモリー性があるため、注目されている。中でも、電気泳動素子を用いた画像表示媒体は、表示品質、表示動作時の消費電力等の点で優れている。
【0004】
このような画像表示媒体は、例えば、着色した分散媒が一組の透明電極の間に封入されており、着色した分散媒中に、異なる色を有すると共に表面が帯電している電気泳動粒子が分散されて構成されている。このため、透明電極の一方に、電子泳動粒子の帯電している電荷と反対の電圧を印加すると、この一方の透明電極側に電気泳動粒子が堆積し、堆積した電気泳動粒子の色が透明電極側を通して観測される。また、透明電極の一方に、電気泳動粒子の帯電している電荷と同じ電圧を印加すると、電気泳動粒子が透明電極の他方の電極側に移動し、一方の透明電極側からは分散媒の色が観測される。電気泳動粒子が分散された電気泳動素子を用いた画像表示媒体の場合には、このような原理に基づいて、画像が表示される。
【0005】
分散媒中における電気泳動粒子の安定性は、一般的に、静電効果または立体効果(吸着層効果とも呼ばれる)により得られる。静電効果については、DLVO理論が知られており、電気二重層の広がり及び界面電位、いわゆるζ電位が重要な因子となっている。これらを形成するためには、イオンの存在が必要とされている。一方、立体効果については、非特許文献1に安定な非水溶媒系分散液の製造方法が記載されている。つまり、溶媒中に分散させる粒子に対して相溶性を有する成分と、溶媒に対して溶解性を有する成分とを含むブロック共重合体またはグラフト共重合体を製造して用いている。
【0006】
一方、特許文献1には、カーボンブラックを化合物と反応させるには、ジアゾニウム基が好ましいことが記載されている。また、Cabot Corporation,Boston,Massachusettsの一連の特許(例えば、特許文献2〜4参照)に、広範囲の官能基をカーボンブラックに結合するために、ジアゾニウムの化学的性質を使用することが記載されている。但し、電気泳動分散液を対象としたものではなく、インクジェットインクに使用する分散体としてカーボンブラックのジアゾニウム反応が記載されている。
一方、特許文献5には、電気泳動媒体中に懸濁された顔料粒子に重合体を結合させたものを用いる(顔料の1〜15重量%)ことが提案されており、電気泳動素子を用いた画像表示媒体のメモリー性を向上させるために、ポリイソブチレンを配合することが記載されている。また、特許文献6には、複数の粒子を含有する電気泳動媒体が該粒子に非吸収性である重合体(数平均分子量が20,000を超える)を溶解または分散することにより画像安定性を改良することが提案されており、電気泳動粒子の光学安定性を制御するための条件(帯電粒子の懸濁流体における相溶性と非相溶性)について記載されている。
しかし、上記従来技術では、いずれも電気泳動粒子の泳動に基づく画像表示のメモリー性が十分ではなくさらなる改善が望まれていた。
なお先に本出願人は、白色ないし着色の粒子、炭化水素溶媒、該炭化水素溶媒に可溶な樹脂、非イオン性の化合物を含む画像表示媒体に関して提案している(特許文献7参照)。この提案においては、白色ないし着色の粒子が表面に酸性基または塩基性基を持ち、炭化水素溶媒に可溶な樹脂が、粒子と逆の塩基性基または酸性基を有するように構成され、可逆表示を可能としている。
【0007】
【特許文献1】特表2004−526210号公報
【特許文献2】米国特許第5,554号明細書
【特許文献3】米国特許第6,068,688号明細書
【特許文献4】国際出願WO96/18695号明細書
【特許文献5】特表2004−526199号公報
【特許文献6】特表2007−508588号公報
【特許文献7】特開2002−62545号公報
【非特許文献1】F.A.Waite,J.Oil Col.Chem.Assoc.,54,342(1971)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、メモリー性に優れた電気泳動粒子の製造方法及び、この製造方法により得られた電気泳動粒子、電気泳動粒子を含有する電気泳動分散液、電気泳動分散液を収容した画像表示媒体、画像表示媒体を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔10〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
〔1〕:上記課題は、電圧印加により分散媒中において泳動可能な荷電性の顔料粒子からなる電気泳動粒子の製造方法であって、
前記顔料粒子の表面が、少なくとも下記工程〔I〕及び〔II〕により修飾されることを特徴とする電気泳動粒子の製造方法により解決される。
〔I〕下記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物を用いて、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を前記顔料粒子表面に結合させる工程
〔II〕反応性モノマーを用いて、前記分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を前記顔料粒子表面に結合させる工程
【0011】
【化1】

【0012】
[但し、一般式(1)において、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、Z-は、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
【0013】
〔2〕:上記〔1〕に記載の電気泳動粒子の製造方法において、前記顔料粒子がカーボンブラックであることを特徴とする。
【0014】
〔3〕:上記〔1〕または〔2〕に記載の電気泳動粒子の製造方法において、前記アリール基がフェニル基であることを特徴とする。
【0015】
〔4〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法において、前記無機系陰イオンが、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、燐酸イオン、または硫酸イオンから選ばれる陰イオンであり、前記有機酸由来の有機系陰イオンが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、グルコン酸、または乳酸から選ばれる陰イオンであることを特徴とする。
【0016】
〔5〕:上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法において、前記分散媒が非極性炭化水素であることを特徴とする。
【0017】
〔6〕:上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法において、前記反応性モノマーがメタクリレートまたは/およびアクリレートであることを特徴とする。
【0018】
〔7〕:上記課題は、〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする電気泳動粒子により解決される。
【0019】
〔8〕:上記課題は、少なくとも分散媒及び〔7〕に記載の電気泳動粒子を含有することを特徴とする電気泳動分散液により解決される。
【0020】
〔9〕:上記課題は、少なくとも一方が光透過性である一対の対向配置された導電性層間に〔8〕に記載の電気泳動分散液を封入したことを特徴とする画像表示媒体により解決される。
【0021】
〔10〕:上記課題は、〔9〕に記載の画像表示媒体を用いたことを特徴とする画像表示装置により解決される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電気泳動粒子の製造方法によれば、前記工程〔I〕及び〔II〕により顔料粒子の表面にカチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団が効率良く(反応時間、収率等)、確実に結合すると共に、分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖が結合した電気泳動粒子が得られる。
本発明の電気泳動粒子によれば、粒子表面に荷電性基(荷電性有機団)と共に、グラフトポリマーが結合しているため、電圧印加により電極近傍に泳動した粒子は電極近傍に堆積や凝集し、電圧印加停止後も時間の経過によらず変化し難くメモリー性に優れている。また、応答速度、コントラスト、表示における良好な反射率(例えば、白・黒の反射率)など他の表示特性も優れている。
本発明の電気泳動粒子を含有する電気泳動分散液、電気泳動分散液を収容した画像表示媒体、画像表示媒体を用いた画像表示装置によれば、表示品質および低消費電力(表示動作時の)を維持しつつ、メモリー性に優れた画像表示が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前述のように本発明における電気泳動粒子の製造方法は、電圧印加により分散媒中において泳動可能な荷電性の顔料粒子からなる電気泳動粒子の製造方法であって、
前記顔料粒子の表面が、少なくとも下記工程〔I〕及び〔II〕により修飾されることを特徴とするのである。
〔I〕下記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物を用いて、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を前記顔料粒子表面に結合させる工程
〔II〕反応性モノマーを用いて、前記分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を前記顔料粒子表面に結合させる工程
【0024】
【化2】

【0025】
[但し、一般式(1)において、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、Z-は、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
【0026】
上記置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
本発明における「荷電性有機団」とは、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有する一価の荷電性の有機基全体を指すものである。「荷電性有機団」を、以降、「荷電基」と称することがある。
前記カチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基としては、例えば、フェニル基、ジフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、これらの基は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状の前記アルキル基が挙げられる。また、カチオン性またはアニオン性の官能基を有するアルキル基としては、炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のものが好ましく、例えば、前記アルキル基に加えて、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。アルキル基としては脂環式構造のものを使用することもできる。
なお、スルホニウムイオンとカーボンブラックとの求核置換反応において水などの溶媒に対する溶解性を考慮した場合には、前記一般式(1)に示すスルホニウム化合物のR1、R2及びR3の総炭素数が16以下であることが好ましく、総炭素数が12以下であればさらに好ましい。炭素数が12より大きくなると、水などの溶媒に対する溶解性が低下する傾向があり、16より大きくなると溶解性の低下傾向が大きくなってカーボンブラックとの置換反応において反応性の低下が生じて収率などに悪影響を及ぼすきらいある。
【0027】
前記アリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基に結合するカチオン性またはアニオン性の官能基としては、例えば、アミノ基、メトキシ基、メチル基等のカチオン性官能基や、塩素原子、ニトロ基等のアニオン性官能基が挙げられる。あるいは、下記式(a)〜(d)に示すようなカチオン性の官能基、あるいは下記式(e)〜(h)に示すようなアニオン性の官能基が挙げられる。
【0028】
【化3】

【0029】
[式(b)、(d)中、Rは炭素原子数1〜12のアルキル基、置換若しくは未置換のフェニル基またはナフチル基を表す。]
【0030】
【化4】

【0031】
[式(e)〜(h)中、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。]
上記M2として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0032】
前述のようなカチオン性またはアニオン性の官能基がアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基に結合したものが、いわゆる荷電性有機団であるが、特に、フェニル基から構成される荷電性有機団は好ましく用いられる。このようなフェニル基は、後述するようなハロゲン化フェニル誘導体(例えば、クロロベンゼン誘導体など)を用いることによって合成できる。なお、アリール基の炭素原子がヘテロ原子(例えば、窒素原子)に置き換えられた複素環も本発明においてアリール基に含む。
以降、フェニル基にアミノ基、メトキシ基、ニトロ基等が結合した荷電性有機団を中心に説明するが、これらに限定されるものではなく他の荷電性有機団、例えば下記式(I)〜(IX)に示すものなどが例示される。
【0033】
【化5】

【0034】
前記Z-としてはヒドロキシルイオンのほか、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、燐酸イオン、硫酸イオン等の無機系陰イオン、あるいは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸等の有機酸由来の有機系陰イオンが挙げられる。これらは一例でありこれらに限定されるものではない。
カーボンブラックとの反応に際して溶媒中で高い割合でイオン的に解離していることが好ましく、この点からヒドロキシルイオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオンなどの一価の陰イオンが好ましく用いられる。
【0035】
すなわち、本発明の電気泳動粒子の製造方法は、少なくとも、前記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物を用い、該化合物のスルホニウムイオンをカウンターイオンとする求核置換反応により、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を顔料粒子表面に導入する(結合させる)工程と共に、反応性モノマーを用いてグラフト重合し、顔料粒子表面に分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を導入する(結合させる)工程からなるものである。つまり、顔料粒子の表面に求核反応性を有する反応サイト(活性種:官能基)が存在しているものが望ましく、特に本発明においてはカーボンブラックは好ましく用いられる。
【0036】
微粒子の表面処理に関しては化学的な表面処理を含めて種々の方法が知られており、有機顔料、例えば、カーボンブラック等の場合には、ジアゾニウム反応、フリーデルクラフツアルキル化反応あるいはフリーデルクラフツアシル化反応などを利用して表面処理する方法が知られている。また、無機顔料の場合には、例えば、シランカップリング反応を利用して表面処理する方法がある。カーボンブラックなどの表面処理(置換反応を利用したもの)としては、従来、ジアゾニウム反応がごく一般的に用いられている。
一方、本発明に適用するスルホニウム化合物を用いる方法に関しては、スルホニウム化合物の反応自体が新規な分野に属し入手が困難であるため、出発物質から新規に合成する必要があるという難点があるためジアゾニウム反応のように一般的に用いられていないのが現状である。しかし、本発明者による実験の結果、スルホニウム化合物(有機硫黄化合物)は、窒素化合物であるジアゾニウム塩などに比べて、その反応性の高さと反応選択性から求核置換反応に用いることが好ましく、特にカーボンブラックとの反応のし易さ、安全性、反応時間、収率などの点からスルホニウム化合物を用いる反応が最適であることが分かり本発明に至った。
すなわち、前記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物を用いて、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を顔料粒子表面に結合させる工程と、反応性モノマーを用いて、前記分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を顔料粒子表面に結合させる工程により電気泳動粒子を製造すれば、メモリー性に優れた電気泳動粒子が得られることを見出した。
【0037】
本発明の目的である前記メモリー性とは、少なくとも一方が光透過性である一対の対向配置された導電性層間(少なくとも一方が透明である一対の電極間)に電圧をかけると、電極間に封入(あるいは収容)された電気泳動分散液中において電気泳動粒子が電極の極性に応じて泳動するが、電圧印加を止めて両電極を短絡させても画像が消えずに維持される現象をいう。
【0038】
メモリー性に関して検討した結果、本発明におけるスルホニウム化合物を用いてカチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を顔料粒子表面に結合させる工程を行わずに、単にグラフト重合によりポリマー鎖を顔料粒子表面に結合させるだけであるとメモリー性が無いことが確認されている。
顔料粒子表面に荷電性有機団(「荷電基」)を結合させて電気泳動粒子とするとメモリー性が現れるメカニズムについては明らかではないが、電気泳動粒子が正または負の電圧が印加された電極に向かって泳動する際に、荷電基を持つ顔料粒子の方が荷電基を持たない顔料粒子よりも、電極に吸着し易いかあるいは電極近傍に堆積や凝集がし易いのではないかと推測される。実際に、電極近傍に泳動した電気泳動粒子を顕微鏡で観察すると、荷電基を持つ顔料粒子は電極近傍に堆積あるいは凝集していることが観察され、時間の経過によらず変化しないことが確認できる。一方、荷電基を持たない顔料粒子では、堆積や凝集が見られず時間の経過に従って拡散して行くのが観察される。これらの観察結果からも顔料粒子表面に荷電基を有することによりメモリー性が現れることは明らかと考えられる。
【0039】
そして、荷電基を持つ顔料粒子の中でも、スルホニウム化合物を用いてカチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を導入したものは、従来知られているジアゾニウム反応など他の反応により荷電基を付けた場合と比べてメモリー性が高い。
その理由にとして、スルホニウム化合物を用いた反応(略、「スルホニウム反応」)により顔料粒子に結合した場合の荷電基の分子構造・分子形態の特異性にあると考えられる。
スルホニウム反応はいわゆる、スルホニウムイオンをカウンターイオンとし、求核体〔求核反応性を有する反応サイト(活性種:官能基)を持つもの(例えば、カーボンブラック)〕との間で引き起こす求核置換反応である。求核体がスルホニウム化合物と反応するとき、他の反応、例えば、ジアゾニウム反応と比べて反応性の高さと反応選択性に違いがあるからと考えられる。ここで反応性とは、荷電基を顔料粒子表面に化学結合させるときの反応速度と荷電基の反応量のことを意味する。また、反応選択性とは、スルホニウム化合物のスルホニウムイオンが顔料粒子表面の反応サイトと反応する際のお互い相性、適合性である。つまり、スルホニウム反応における反応性の方がジアゾニウム反応など他の反応性に比べて高く、反応選択性においても荷電性有機団の反応収率の点からスルホニウム反応の方がジアゾニウム反応など他の反応に比べて優っている。
【0040】
つまり、反応性と反応選択性から、スルホニウム化合物を用いた反応では、顔料粒子表面に結合した荷電基(荷電性有機団)の分子構造が緻密に整然と配置されていると推定される。そのため、荷電基が顔料粒子表面に結合した状態で発現される荷電量が、ジアゾニウム反応など他の反応で結合された官能基の荷電量と比べて高いと考えられる。スルホニウム化合物を用いた反応以外の他の合成方法により荷電基を顔料粒子表面に付けた場合にはそれ程高いメモリー性が得られないことからも、荷電基の結合状態(例えば、結合位置や結合量)が関係していると考えられる。このことは実験の反応収率からも裏付けられている。これらのことが高いメモリー性に関係していると考えられる。
【0041】
以下に、スルホニウム化合物及びそれを用いた反応(スルホニウム反応)について詳しく説明する。
一般的にスルホニウム(sulfoniumu)とは、一般構造式がRa(Rb)(Rc)Sで表される化合物群のことをいう(Ra、Rb、Rcは水素原子または有機基を表す。)。
(なお広義には陽イオンH3S+ もスルホニウムである。)また、Ra(Rb)S−で表される1価の置換基をスルホニオ基
(sulfonio group) と呼ぶ。スルホニウムはスルフィド化合物にハロゲン化アルキルを作用させることにより得られる
本発明におけるスルホニウム化合物は下記反応式(A)で示されるスルフィド化合物(略、「スルフィド」あるいは「ジアルキルスルフィド」)と、カチオン性またはアニオン性の官能基とハロゲン原子を置換基として有するアリール化合物(略、「ハロゲン化アリール化合物」)との反応により得られる。
【0042】
[スルホニウム化合物]
1−S−R2 + R3Z → R1(R2)(R3)S・Z
…(A)
[式(A)において、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、Zは、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
【0043】
[スルホニウム反応]
前述のように、スルホニウム反応はいわゆる、下記反応式(B)で示されるようにスルホニウムイオンをカウンターイオンとし、求核反応性を有する活性種(反応サイト)を持つ求核体〔Nu−〕との間で引き起こす求核置換反応である。
1(R2)(R3)S + Nu→R1(R2)S + R3−Nu …(B)
[式(B)において、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、Nu-は求核体(nucleophile)を表す。]
【0044】
以下にスルホニウム化合物の合成についてさらに具体的に説明する。
[カチオン性またはアニオン性の官能基を有するスルホニウム化合物の合成]
スルホニウム化合物は、下記反応式(C)に示すように、スルフィド化合物(硫黄化合物)とハロゲン化アリール誘導体(ハロゲン化ベンゼン:本発明の場合にはカチオン性またはアニオン性の官能基を有する)等を溶剤中で加熱しながら反応させることにより合成できる。得られた生成物の対イオン(Y)は塩交換反応により、希望する対イオン(Z)に塩交換反応させることができる。
【0045】
【化6】

【0046】
[反応式(C)中、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。Aは陽イオンを表し、Z-は、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表し、Y-は、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
なお、AZは、所望のカウンターイオン(Z-)に塩交換反応するために用いる化合物を表す。Aはナトリウムやカリウム等の陽イオンである。
【0047】
例えば、ジメチルスルフィドとカチオン性またはアニオン性の官能基を有するクロロベンゼンとをアセトニトリル中で反応させると、下記反応式(D)に示すように、塩素イオンを対イオンとするスルホニウム化合物が得られ、このスルホニウム化合物に水酸化ナトリウムを用いて塩交換させるとヒドロキシルイオンに置換されたスルホニウム化合物が合成される。なお、反応式(D)はスルホニウム化合物を得る基本的な合成プロセスを示すものであり、カチオン性またはアニオン性の官能基を持たないものの例である。カチオン性またはアニオン性の官能基を持つ場合も同様にして相当するスルホニウム化合物が得られる。
【0048】
【化7】

【0049】
前記反応式(C)においてカチオン性またはアニオン性の官能基(X)を有するクロロベンゼンを用いた場合の反応を下記反応式(E)に示す。
【0050】
【化8】

【0051】
[反応式(E)中、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。Xはカチオン性またはアニオン性の官能基を表す。Aは陽イオンを表し、Z-は、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
【0052】
なお、Xとしては、アミノ基、メトキシ基、メチル基等のカチオン性官能基や、塩素原子、ニトロ基等のアニオン性官能基が挙げられる。AZは、塩素イオン(Cl-)を所望のカウンターイオン(Z-)に塩交換反応するために用いる化合物を表す。Aはナトリウムやカリウム等の陽イオンである。
【0053】
置換基(X)としてカチオン性またはアニオン性の官能基を有するクロロベンゼンを用いると相当する荷電性有機団が結合したスルホニウム化合物が合成できる。
(X)としては種々選択できるが、その際ハメット則により下記のようにXは左に行くほど電子吸引性基の影響が高く、アニオン性がより強くなるので、カチオン性からアニオン性迄の適切な荷電基を選択することができる。
X:p-NO2>m-NO2>p-Cl>-H>>p-CH3>m-NH2>p-OCH3>p-NH2
例えば、Xをp-NH2とすればカチオン性のスルホニウム化合物が得られ、これを用いて前記顔料粒子(例えば、カーボンブラック)表面にp-NH2を官能基として有するフェニル基(荷電性有機団)を導入すれば、カーボンブラック表面にカチオン性を付与することができる。一方、Xをp-NO2とすればアニオン性のスルホニウム化合物得られ、カーボンブラック表面にアニオン性を付与することができる。電気泳動分散液に用いた場合、極性は異なるがどちらも電極への吸着力が増しメモリー性の向上が期待できる。
【0054】
前記反応式(D)で示したスルホニウム化合物を得る基本的な合成プロセス(カチオン性またはアニオン性の官能基を持たないスルホニウム化合物)の具体例を以下に示す。なお、カチオン性またはアニオン性の官能基を有するものに関しては後述の実施例で示す。
[スルホニウム化合物の合成方法]
スルホニウム化合物の合成撹拌装置、還流冷却器、温度計を備え付けた1リットル容量の4首フラスコを窒素置換した後、これにジメチルスルフィド12.4g(0.2モル)およびアセトニトリル200mlを加えて混合溶解し、撹拌しながら加熱還流条件下で100mlのアセトニトリルに溶解したクロロベンゼン22.5g(0.2モル)を1時間かけて滴下し、さらに5時間撹拌しながら加熱還流条件下で反応を続けたところ、白色の結晶が析出した。続いて室温まで冷却し、析出した結晶を濾別し、乾燥したところ、フェニルジメチルスルホニウムクロライド30.2g(収率86.7%)が得られた。このようにして得られたフェニルジメチルスルホニウムクロライド8.7g(0.05モル)をメタノール−水(1/1(容積比))200mlに溶解して同容量のフラスコに入れ、得られた溶液に300mlの水に溶解された水酸化ナトリウム2.0g(0.05モル)を撹拌しながら滴下したところ、沈殿が生じて白濁しスラリー状となった。
滴下終了後、室温で1時間撹拌を続け、次いで結晶を濾別した後、メタノールで再結晶したところ、フェニルジメチルスルホニウムヒドロキシド6.5g(収率83.0%)が得られた。このフェニルジメチルスルホニウムヒドロキシドの元素分析を行なった結果を下記表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
本発明においては、先ず前記スルホニウム化合物を用いた工程〔I〕により、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を顔料粒子(例えば、カーボンブラック)表面に導入しメモリー性の向上を図ると共に、さらに反応性モノマーを用いた工程〔II〕により分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を導入して分散媒(例えば、イソパラフィン系炭化水素などの非極性溶媒)中に分散し易くする。例えば、カーボンブラック表面にグラフトポリマー鎖を導入する際、カーボンブラック表面に予めビニル基を付けて表面処理することが必要となるが、このようなビニル基の付与は、例えば、4−ビニルアニリンなどを用いてジアゾニウム反応により行うことができる。
【0057】
本発明において工程〔II〕で用いる反応性モノマーとしてはメタクリレートあるいは、アクリレートが挙げられ、混合して用いてもよい。メタクリレートとしては、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールヘキサントリ(メタ)アクリレート、ぺンタエリスリットテトラ(メタ)アクリレート、1,3−ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、反応性モノマーとしてビニルラウレート、スチレン、ビニルトルエン、ビニルアセテート、ジビニルベンゼンなども用いられ、上記メタクリレートや、あるいはアクリレート類と混合して用いてもよい。
【0058】
以下、電気泳動分散液の電気泳動粒子としてカーボンブラックを用いる場合を例に説明する。カーボンブラックを電気泳動粒子(電気泳動分散体)として用いる際の重要な因子は、粒子径、ストラクチャー及び粒子表面の物理化学的性質であり、これを通常下記のようにカーボンブラックの3大基本特性と呼んでいる。
〈カーボンブラックの3大基本特性

(I)粒子径:粒子径と比表面積
(II)ストラクチャー:DBP給油量(ml/100g)とストラクチャー指数
(III)表面の化学的特性:揮発分(%)とpH
【0059】
粒子径と比表面積とは、互いに逆の関係にあり粒子径が大きい粒子の比表面積は小さくなる。電気泳動分散体としては黒色度やメモリー性を得る観点からある程度の粒径が必要であり、一次粒径で20nm以上ある方が好ましい。ストラクチャーの発達はDBP給油量から推定でき、適度なストラクチャーの発達が好ましい。ストラクチャーが発達し過ぎていると泳動の妨げや応答速度などに悪い影響をもたらす。
【0060】
表面の化学的特性で規定される揮発分とpHについては、本発明の表面修飾がスルホニウム化合物を用いた置換反応により行われるものであるため、特に規定されない。pHと揮発分はカーボンブラック粒子表面における活性種(反応サイト)、いわゆる官能基の存在量を間接的に現すと考えることができるから、例えば、分散媒として非極性炭化水素溶媒(イソパラフィン系炭化水素など)を用いる場合には何らかの影響があると考えられる。
【0061】
〈カーボンブラックのpH〉
カーボンブラックのpHは、以下の測定法によって計測できる。
カーボンブラック試料1〜10gをビーカーに量り採り、試料1gにつき10mlの割合で水を加え、時計皿で覆って15分間煮沸する(試料を濡れ易くするため、エタノール数滴を加えてもよい)。煮沸後室温まで冷却し、傾斜法または遠心分離法によって上澄み液を除去して泥状物を残す。この泥状物中にガラス電極pH計の電極を入れ、JISZ8802(pH測定法)によってpHを測定する。この場合、電極の挿入位置により測定値が変化することがあるのでビーカーを動かして電極の位置を変えて電極面の泥状面が十分に接触するように注意して測り、pH値が一定になったときの値を読む。
〈カーボンブラックの揮発分〉
カーボンブラックの揮発分は以下の測定方法によって得られる。
カーボンブラックの乾燥試料を、白金るつぼまたはそれと同形、同容量の落としふた付き磁器るつぼに、ふた下2mmを超えない程度まで打振して詰め、その質量を量る。これにふたをして電気炉に入れ、950±25℃で正確に7分間加熱した後取出し、デジケーター中で室温になるまで放冷して加熱後の質量を量り、下記式(2)によって揮発分を算出する。式(I)中、V:揮発分(%)、 WD:乾燥試料の質量(g)、WR:加熱後の試料の質量(g)である。
V=〔(WD−WR)/WD 〕× 100 …(2)
【0062】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、単独または複数種類のカーボンブラックを併用してもよい。このようなカーボンブラックとしては、デグサ社製のカラーブラックFW200、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW1、カラーブラックFW18、スペシャルブラック6、カラーブラックS170、カラーブラックS160、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4、スペシャルブラック4A、プリンテックス150T、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック550、スペシャルブラック350、スペシャルブラック250、スペシャルブラック100;三菱化学社製のMA7、MA77、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA230、MA220、#2200B;キャボット社製のMONARCH700、MONARCH800、MONARCH880、MONARCH900、MONARCH1000、MONARCH1300、MONARCH1400、MOGUL−L、REGAL400R、VULCAN XC−72R;コロンビア社製のRAVEN1255;キヤボツト社製のREGAL400R、MOGUL L;デグサ社製のColor Black FW1、Color Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex U等の市販品が使用でき、さらには本目的のために新たに製造されたものでも使用可能である。
【0063】
本発明の電気泳動分散液は、前記工程〔I〕及び〔II〕により修飾された荷電性の顔料粒子(例えば、カーボンブラック)からなる電気泳動粒子を分散媒中に含有するものであるが、電気泳動分散液中にさらに染料を含有してもよい。染料としては特に限定されないが、マクロレックスブルーRR(バイエル社製)等が挙げられる。
本発明の電気泳動分散液に用いられる分散媒としては特に限定されないが、イソパラフィン系炭化水素(エクソン化学株式会社製 Isoper)や変性シリコーンオイル(東レダウ・チッソ社製)等の非極性溶媒が好ましく用いることができる。
【0064】
本発明の電気泳動分散液は、電気泳動粒子の保存安定性をより一層向上させるために、分散剤をさらに含有してもよい。分散剤としては、分散媒に相溶すると共に電気泳動粒子を安定に分散させることが可能であれば特に限定されないが、従来公知の顔料用分散剤を用いることができる。
【0065】
上記分散剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリエチレングリコールジイソステアレート等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等)、脂肪族ジエタノールアミド系等のノニオン系界面活性剤を用いることができる。
【0066】
また、高分子系分散剤としては、例えば、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ロジン、ウレタン系高分子化合物BYK−160、162、164、182(ビックケミー社製)、ウレタン系分散剤EFKA−47、LP−4050(EFKA社製)、ポリエステル系高分子化合物ソルスパース24000(ゼネカ社製)、脂肪族ジエタノールアミド系高分子化合物ソルスパース17000(ゼネカ社)等が挙げられる。なお、高分子分散剤は、数平均分子量が1000以上であることが好ましい。
【0067】
その他の高分子系分散剤としては、分散媒に溶媒和する部分を形成することが可能なラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、セチルメタクリレート等のモノマー、分散媒に溶媒和しにくい部分を形成することが可能なメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、スチレン、ビニルトルエン等のモノマー及び極性の官能基を有するモノマーのランダム共重合体、特開平3−188469号公報に開示されているグラフト共重合体等が挙げられる。
【0068】
極性の官能基を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸等の酸性の官能基を有するモノマー;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ビニルピリジン、ビニルピロリジン、ビニルピペリジン、ビニルラクタム等の塩基性の官能基を有するモノマー、これらの塩、スチレン−ブタジエン共重合体、特開昭60−10263号公報に開示されているスチレンと長鎖アルキルメタクリレートのブロック共重合体等が挙げられる。中でも、特開平3−188469号公報に開示されているグラフト共重合体が好ましい。
【0069】
本発明における電気泳動粒子を分散媒中に分散させる際の、電気泳動粒子に対する分散剤の重量比は、0.05〜5%が好ましい。分散剤の重量比をこの範囲に選択することで電気泳動粒子を安定に分散させることができる。
【0070】
前述のように本発明の画像表示媒体は、少なくとも一方が光透過性である一対の対向配置された導電性層間、つまり少なくとも一方が透明な電極間に、前記電気泳動粒子を分散媒中に分散させて調製した電気泳動分散液を封入(あるいは収容)したことを特徴とするものである。以下、図を参照して本発明の画像表示媒体を説明する。
図1は、本発明に係る画像表示媒体の一構成例を示す概略断面図である。
図1において、画像表示媒体10は、本発明の電気泳動分散液11が導電層12及び13の間に挟持、封入されている。また、電気泳動分散液11は、黒色の粒子11a及び白色の粒子11bが非極性溶媒(分散媒)11c中に分散されており、電気泳動効果とメモリー効果を併せ持っている。なお、黒色の粒子11aは、正に帯電している。黒色の粒子11aとしては、例えば、カーボンブラックの表面にカチオン性の官能基を有する荷電性有機団が結合しているものが用いられる(当然、分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖も表面に結合されたものである)。
導電層12は光透過性を有し、導電層13は光透過性を有してもよいし、有さなくてもよい。また、導電層12及び13は、不図示であるが紙面右半分と左半分に分割して電圧が印加できるように仕切られ画像表示媒体としての機能が発揮できるように構成されている。
【0071】
次に、図2の模式図により画像表示媒体10に画像を表示させる動作を説明する。
まず、図2の導電層12及び13の紙面右半分に、外部の電圧印加手段(不図示)を用いて、それぞれ負及び正の電圧を印加する〔図2(a)参照〕。これにより、黒色の粒子11aは、静電引力により上方に移動するが〔図2(b)参照〕、導電層12に徐々に到達し〔図2(c)参照〕、導電層12に付着する〔図2(d)参照〕。このとき、画像表示媒体10を上方から見ると、紙面左半分には、白色の粒子11bの色が、紙面右半分には、黒色の粒子11bの色が見える。
電圧印加を停止してもメモリー性があるため継続して画像が表示される。また、電圧印加の極性を変えることによって画像表示媒体10に可逆的に画像を表示させることができるため、画像表示媒体10を繰り返し使用することができる。
【0072】
図3は、本発明に係る画像表示媒体の別の構成例を示す概略断面図である。なお、図3において、図1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
画像表示媒体20は、マイクロカプセル21が導電層12及び13の間に挟持されている。また、マイクロカプセル21は、図4に示すように、マイクロカプセル膜21a内に本発明の電気泳動分散液11を内包している。
画像表示媒体20は、導電層12または13上に、電着塗装等によりマイクロカプセル21が単層になるように配置して作製される。また、マイクロカプセル21は、例えば、電気泳動分散液11を、ゼラチンが溶解されている水中に分散させ、ゼラチンとアラビアゴムのコアセルベートにより内包した後、グルタルアルデヒドにより架橋してマイクロカプセル膜21aを形成することにより作製することができる。
【0073】
図5は、本発明に係る画像表示媒体のまた別の構成例を示す概略断面図である。
図5において、画像表示媒体30は、透明基板31A及び31B上にそれぞれパターン形成された透明電極32A及び32Bを有し、対向配置された透明電極32A及び32Bの間に、スペーサ33を介して、本発明の電気泳動分散液34が封入されている。このような構成により、電気泳動粒子の凝集や付着による表示ムラの発生を抑制することができる。
透明基板31A及び31Bとしては、特に限定されないが、フィルム等を用いることができる。また、電気泳動分散液34には、前述と同様、非極性溶媒中に白色と黒色の粒子が分散されている。また、スペーサ33としては特に限定されないが、メッシュ状または多孔質状の有孔スペーサを用いることができる。
【0074】
次に、画像表示媒体30に画像を表示させる動作を説明する。
まず、透明電極32A及び32Bにそれぞれ正及び負の電圧を印加すると、黒色の粒子は、静電引力により透明電極32Bに付着し、白色の粒子は、静電引力により透明電極32Aに付着し、画像表示媒体30を上方から見ると、白色が観測される。一方、透明電極32A及び32Bにそれぞれ負及び正の電圧を印加すると、白色の粒子は、静電引力により透明電極32Bに付着し、黒色の粒子は、静電引力により透明電極32Aに付着し、画像表示媒体30を上方から見ると、黒色が観測される。以上のようにして、画像表示媒体30に可逆的に画像を表示させることができるため、画像表示媒体30を繰り返し使用することができる。
図6は、本発明に係る画像表示媒体のさらに別の構成例を示す概略断面図である。
図6において、画像表示媒体40は、シート状で折り曲げが可能であるため、折り畳み状態での携帯することができる。
【0075】
本発明の画像表示媒体を用いることにより画像表示装置を構成することができる。
図7は、本発明に係る画像表示装置の一例を示す外観斜視図である。
図7において画像表示装置50は、画像表示媒体10をフラット画面で使用したものであり、入力部51から画像情報を入力することにより画像を表示させることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」は、すべて重量部を意味する。
【0077】
(実施例1)〜(実施例3)
本発明の工程〔I〕及び〔II〕を以下の条件でそれぞれ実施し、(実施例1)〜(実施例3)の電気泳動粒子[荷電基(荷電性有機団)を有するグラフトカーボンブラック]を製造し、評価した。
【0078】
[合成例1]
<スルホニウム化合物(反応式(E)においてX=p-NH2)の合成>
前記反応式(E)において、置換基Xがp-アミノ基の場合のスルホニウム化合物を合成した。すなわち、スルフィド化合物(化合物1)としてジメチルスルフィドを用い、クロロベンゼン誘導体(化合物2)としてp-アミノクロロベンゼンを用い、前述の“スルホニウム化合物の合成方法”に記載したのと同様にしてアミノ基を有するスルホニウム化合物を合成した。
【0079】
〈カーボンブラックのカチオン化処理〉
上記で得られたアミノ基を有するスルホニウム化合物を用い、下記条件でグラフトカーボンブラック表面へのカチオン性官能基を有する荷電性有機団の導入を行った。
スルホニウム化合物は加熱によりスルホニウム塩のカチオンが開裂しSカチオンが活性化する。すなわち、スルホニウム化合物とカーボンブラックをトルエン中で混合し、80℃の温度に昇温することによりグラフトカーボンブラック表面に所定の荷電性有機団を結合させることができる。
具体的には、2Lの攪拌装置を備えたガラス製フラスコを用い、N2ガスパージの雰囲気中にて、カーボンブラック〔Printex L(Degussa):比表面積150m2/g、DBP吸油量116ml/100g〕20gと、先に合成したp-アミノ基を有するスルホニウム化合物6.12gをトルエン500mlによく混合した後、温度を60℃に上げて30分間撹拌した。さらに、温度を80℃に昇温して、250rpmにて1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、カーボンブラック粒子を十分にトルエンで洗浄し、110℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面にp-アミノフェニル基を導入した[粒子S1]を得た。
【0080】
[合成例2]
<スルホニウム化合物(反応式(E)においてX=p-NO2)の合成>
前記反応式(E)において、置換基Xがp-ニトロ基の場合のスルホニウム化合物を合成した。すなわち、スルフィド化合物(化合物1)としてジメチルスルフィドを用い、クロロベンゼン誘導体(化合物2)としてp-ニトロクロロベンゼンを用い、前述の“スルホニウム化合物の合成方法”
に記載したのと同様にしてニトロ基を有するスルホニウム化合物を合成した。
【0081】
〈カーボンブラックのアニオン化処理〉
上記で得られたニトロ基を有するスルホニウム化合物を用い、下記条件でグラフトカーボンブラック表面へのアニオン性官能基を有する荷電性有機団の導入を行った。
2Lの攪拌装置を備えたガラス製フラスコを用い、N2ガスパージの雰囲気中にて、カーボンブラック〔MA100(三菱化学):比表面積110m2/g、DBP吸油量100ml/100g〕20gと先に合成したp-ニトロ基を有するスルホニウム化合物5.18gをトルエン500mlによく混合した後、温度を70℃に上げて30分間撹拌した。さらに、温度を80℃に昇温して、250rpmにて1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、カーボンブラック粒子を十分にトルエンで洗浄し、110℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面にp-ニトロフェニル基を導入した[粒子S2]を得た。
【0082】
[合成例3]
<スルホニウム化合物(反応式(E)においてX=p-OCH3)の合成>
前記反応式(E)において、置換基Xがp-メトキシ基の場合のスルホニウム化合物を合成した。すなわち、スルフィド化合物(化合物1)としてジメチルスルフィドを用い、クロロベンゼン誘導体(化合物2)としてp-メトキシクロロベンゼンを用い、前述の“スルホニウム化合物の合成方法”
に記載したのと同様にしてメトキシ基を有するスルホニウム化合物を合成した。
【0083】
〈カーボンブラックのカチオン化処理〉
上記で得られたメトキシ基を有するスルホニウム化合物を用い、下記条件でグラフトカーボンブラック表面へのカチオン性官能基を有する荷電性有機団の導入を行った。
2Lの攪拌装置を備えたガラス製フラスコを用いて、N2ガスパージの雰囲気中にて、カーボンブラック〔BLACK PEARLS L(CABOT):比表面積138m2/g、DBP吸油量62ml/100g〕20gと先に合成したp-メトキシ基を有するスルホニウム化合物7.86gをトルエン500mlによく混合した後、温度を70℃に上げ30分間撹拌した。さらに、温度を80℃に昇温して、250rpmにて1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、カーボンブラック粒子を十分にトルエンで洗浄し、110℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法によりカーボンブラックの表面にp-メトキシフェニル基を導入した[粒子S3]を得た。
【0084】
<荷電基を有するグラフトカーボンブラックの製造>
上記で得た粒子S1〜粒子S3を用いて、下記条件でそれぞれの粒子表面に分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を結合させ、荷電基(荷電性有機団)を有するグラフトカーボンブラック[粒子G1]〜[粒子G3]を製造した。
【0085】
4Lのガラス製の反応容器に脱イオン水3.0Lを投入して250rpmで攪拌しながら、カーボンブラック(粒子S1)115gを投入した。次に、37%塩酸を3.0mL投入した後、4−ビニルアニリン2.5gを投入し、65℃で30分間以上攪拌した。さらに、亜硝酸ナトリウム1.43gを脱イオン水10mLに溶解させた溶液を1時間程度で滴下し、65℃で3時間攪拌した。次いで、室温に戻して一夜間攪拌して得られた分散物を30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションした。得られた黒色粉体に脱イオン水500mLを投入して攪拌し、再分散させた。さらに、得られた分散物を30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションした。得られた黒色粉体を一夜間放置し、乾燥した後40℃で4時間真空乾燥し、表面処理カーボンブラックが得られた。
次に、1Lのガラス製の反応容器に表面処理カーボンブラック50g、トルエン100mL、2−エチルヘキシルメタクリレート100mL、AIBN(0.65g)を投入した。次いで、250rpmで攪拌しながら20分間窒素置換し、一時間程度で70℃まで加熱した後、7時間攪拌し、室温まで冷却した。さらに、THF500mLを投入して攪拌したものを、3Lのメタノール中に再沈させ、吸引濾過した。得られた残渣にTHF1.5Lを投入して攪拌し、再分散させた後、10℃に冷却し、30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションする操作を計3回繰り返した。さらに、70℃で4時間真空乾燥して、グラフトポリマー鎖が導入された、荷電基を有するグラフトカーボンブラック[粒子G1]が得られた。
上記と同様にして、[粒子S2]を用いて[粒子G2]を合成し、[粒子S3]を用いて[粒子G3]を合成した。
なお、得られたグラフトカーボンブラック[粒子G1]〜[粒子G3]を熱重量分析すると、重量減少がそれぞれ9.76%、10.5%、9.85%であった。
【0086】
(比較例1)
<荷電基を持たないグラフトカーボンブラックの製造>
比較例に用いるために、荷電基を持たないカーボンブラック[粒子G0]を下記条件で製造した。
4Lのガラス製の反応容器に脱イオン水3.0Lを投入して250rpmで攪拌しながら、カーボンブラック〔Printex A(Degussa社製):比表面積45m2 /g、DBP給油量118ml/100g、〕115gを投入した。次に、37%塩酸を3.0mL投入した後、4−ビニルアニリン2.5gを投入し、65℃で30分間以上攪拌した。さらに、亜硝酸ナトリウム1.43gを脱イオン水10mLに溶解させた溶液を1時間程度で滴下し、65℃で3時間攪拌した。次いで、室温に戻して一夜間攪拌して得られた分散物を30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションした。得られた黒色粉体に脱イオン水500mLを投入して攪拌し、再分散させた。さらに、得られた分散物を30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションした。得られた黒色粉体を一夜間放置し、乾燥した後、40℃で4時間真空乾燥し、表面処理カーボンブラックが得られた。
次に、1Lのガラス製の反応容器に表面処理カーボンブラック50g、トルエン100mL、2−エチルヘキシルメタクリレート100mL、AIBN(0.65g)を投入した。次いで、250rpmで攪拌しながら20分間窒素置換し、一時間程度で70℃まで加熱した後、7時間攪拌し、室温まで冷却した。さらに、THF500mLを投入して攪拌したものを、3Lのメタノール中に再沈させ、吸引濾過した。得られた残渣にTHF1.5Lを投入して攪拌し、再分散させた後、10℃に冷却し、30000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションする操作を計3回繰り返した。さらに、70℃で4時間真空乾燥して、グラフトポリマー鎖が導入された、荷電基を持たないグラフトカーボンブラック[粒子G0]が得られた。なお、グラフトカーボンブラックを熱重量分析すると、重量減少が12.3%であった。
【0087】
後述の評価において電気泳動分散液を得るために、上記[粒子G1]〜[粒子G3]及び[粒子G0]と共に用いる、荷電基を持たない酸化チタン[粒子T]を下記条件で製造した。
<荷電基を持たない酸化チタンの製造>
4Lのガラス製の反応容器にエタノール930.7g、脱イオン水69.3gを投入して150rpmで攪拌しながら、酢酸を滴下し、pH4.5に調整した。次に、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート160gを投入して150rpmで5分間攪拌した後、250rpmにした。さらに、酸化チタン〔R−960(Dupont社製)〕1000gを投入して250rpmで10分攪拌した後、200rpmで攪拌した。次に、メタノール1826.6gを投入して200rpmで1分間攪拌した後、3000rpmで20分間遠心分離し、デカンテーションした。得られた白色粉体を一夜間放置し、乾燥した後、70℃で4時間真空乾燥し、表面処理酸化チタンが得られた。
次に、4Lのガラス製の反応容器にラウリルメタクリレート960g、トルエン1386gを投入して200rpmで攪拌した後、50℃にして300rpmで攪拌した。次に、予め粉砕した表面処理酸化チタン750gを投入して攪拌しながら、20分間窒素置換した。さらに、AIBN(5.64g)をトルエン500gに溶解させた溶液を1時間程度で滴下し、一時間程度で70℃まで加熱し、70℃で一夜間攪拌した後、10000rpmで30分間遠心分離してデカンテーションした。得られた白色粉体にトルエン1000gを投入して攪拌し、再分散させた後、3000rpmで30分間遠心分離し、デカンテーションする操作を計2回繰り返した。さらに、一夜間放置し、乾燥した後、70℃で4時間真空乾燥し、荷電基を持たないグラフト酸化チタンが得られた。なお、グラフト酸化チタンを熱重量分析したところ重量減少が8.3%であった。
【0088】
前記[熱重量分析]は下記方法により実施した。
熱重量分析は、TGA−50H(島津製作所社製)を用いて、乾燥した試料を白金セルに約20mg入れて開始した。次に、窒素雰囲気中、20℃/分で室温から600℃まで昇温した後、600℃で10分間保持し、600℃に到達した3分後に雰囲気を空気に切り替え、空気雰囲気中、20℃/分で600℃から1000℃まで昇温した。このとき、窒素雰囲気中でポリマーが熱分解し、空気雰囲気中でカーボンブラックが燃焼する。
【0089】
(実施例1)〜(実施例3)、(比較例1)で製造した[粒子G1]〜[粒子G3]、及び[粒子G0]を用いてそれぞれの電気泳動分散液を得た。なお、[粒子T]は各分散液に共通に用いる粒子である。
<[粒子G1]を用いた電気泳動分散液:(実施例1)の電気泳動分散液>
1.7部のグラフトカーボンブラック(粒子G1)、40部のグラフト酸化チタン(粒子T)、分散剤Solsperse 17000(アビシア社製)0.47部、ノニオン系界面活性剤ソルビタントリオレート(和光純薬社製)0.53部、アイソパーG(エクソンモービル社製)57.26部を混合し、超音波で1時間分散し、電気泳動分散液を得た。
<[粒子G2]を用いた電気泳動分散液:(実施例2)の電気泳動分散液>
上記[粒子G1]を用いた電気泳動分散液の調製において(粒子G1)を(粒子G2)に代えた以外は、同様にして[粒子G2]を用いた電気泳動分散液を得た。
<[粒子G3]を用いた電気泳動分散液:(実施例3)の電気泳動分散液>
上記[粒子G1]を用いた電気泳動分散液の調製において(粒子G1)を(粒子G3)に代えた以外は、同様にして[粒子G3]を用いた電気泳動分散液を得た。
<[粒子G0]を用いた電気泳動分散液:(比較例1)の電気泳動分散液>
上記[粒子G1]を用いた電気泳動分散液の調製において(粒子G1)を(粒子G0)に代えた以外は、同様にして[粒子G0]を用いた電気泳動分散液を得た。
【0090】
上記で得た各電気泳動分散液を用いてそれぞれ画像表示セルを作製した。
[画像表示セルの作製]
2枚のITO電極付きガラス基板(ジオマテック社製)の間に1cm2の開口を設けた厚さ50μmのポリエステルフィルムを挟むことにより設けられた空間に、マイクロシリンジを用いて、毛細管現象によりそれぞれの電気泳動分散液を封入し、実施例1の画像表示セル〜実施例3の画像表示セル、及び比較例1の画像表示セルを作製した。
なお、ITO電極付きガラス基板は、ガラスの材質がソーダガラスであり、寸法が29.8±0.1mm×39.8±0.1mmであり、外周部が面取りされており、ITO電極の表面抵抗が50±10Ω/□である。
【0091】
上記で作製した実施例1の画像表示セル〜実施例3の画像表示セル、比較例1の画像表示セルをそれぞれ用いて表示特性(白反射率、黒反射率、コントラスト、応答速度、メモリー性)を評価した。
[画像表示セルの評価方法]
画像表示セルのITO電極の極性を印加電圧の極性を変えて(15V、−15V)、画像表示セルの反射率、コントラスト、応答速度、1.5hr(90分)間のメモリー性を、LCD EVALUATION SYSTEM LCD−5000(大塚電子社製)を用いて測定した。また、電圧の印加の切り替えを周波数0.1Hzで100回程度行いメモリー性を評価した。結果を下記表2に示す。
なお、メモリー性の有無の判断は、90分間における白黒の反射率変化の割合で判断した。メモリー性の有無の判断基準として、原則的に、90分間の保持時間中に、白反射率が40%以上、黒反射率が5%以下で、共に大きく変化しない場合にメモリー性があると判断される。しかし、この保持時間中に白黒の一方が僅かに変化している場合でもメモリー性が有りと判断される場合もある。メモリー性がないと判断される場合は、白黒共に大きく変化する場合である。
【0092】
【表2】

【0093】
[画像表示セルの評価結果]
画像表示セルの一方(例えば、上部)のITO電極に15Vを印加すると、実施例1と実施例3の黒の電気泳動粒子(荷電基を有するグラフトカーボンブラック)はプラスに帯電しているので他方(例えば、下部)のITO電極に速やかに移動する。白の電気泳動粒子(荷電基を持たない酸化チタン)は酸化チタン自体が若干マイナスに帯電しているのでITO電極の極性に応じて移動することはできるので、上部のITO電極から観察すれば白が観察される。次に、上部のITO電極に−15Vを印加すると、実施例1と実施例3の黒の電気泳動粒子は上部のITO電極に速やかに移動し、同様に下部から観察すれば白が観察される。これとは逆に、実施例2では黒の電気泳動粒子はマイナスに帯電していて、白の電気泳動粒子も若干マイナスに帯電している。この場合、黒の電気泳動粒子が持つマイナスの帯電量の方が白の電気泳動粒子の持っている帯電量よりも強いので、上部のITO電極に15Vを印加すると、黒の電気泳動粒子が上部のITO電極に速やかに移動する。そして、白の電気泳動粒子は下部から観察すれば白が観察される。また、上部のITO電極に−15Vを印加すると、黒の電気泳動粒子は下部に速やかに移動する。そして、上部から観察すると白が観察される。
表2から本発明の電気泳動粒子を用いることにより白反射率、黒反射率コントラストや応答速度などいずれも良子であった。また、周波数0.1Hzで電圧の印加の切り替えを100回程度行ったが、安定して繰り返すことができた。また、電圧を取り去っても電着した状態(メモリー性)を保持していた。つまり、白反射率は40%以上、黒反射率は3%〜10%程度であり、共に90分間大きく変化が無くメモリー性が有ると判断された。図8に、実施例1の画像表示セルの時間経過に伴う白反射率と黒反射率の変化を示す。
一方、比較例の場合、カーボンブラックと酸化チタンの顔料自体がそれぞれ若干プラスとマイナスに帯電している程度であるため応答速度が遅く、メモリー性も無かった。なお、応答速度などを考慮しないとすれば、ITO電極の極性に応じて電気泳動することは可能である。すなわち、上部のITO電極に15Vを印加すると、黒の電気泳動粒子は下部に移動し、上部には白の電気泳動粒子が移動する。これとは逆に、上部のITO電極に−15Vを印加すると、黒の電気泳動粒子は上部に移動し、下部には白の電気泳動粒子が移動する。しかし、メモリー性は持たない。図9に、比較例1の画像表示セルの時間経過に伴う白反射率と黒反射率の変化を示す。
なお、図8、9において、2本の反射率曲線は、それぞれ低い値の反射率曲線が黒反射率(カーボンブラック)を示し、高い値の反射率曲線が白反射率(酸化チタン)を示す。
【0094】
以上のように、顔料粒子表面にスルホニウム化合物を用いて荷電性有機団を導入し、かつ顔料粒子表面に分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を導入することによりメモリー性が優れる電気泳動粒子が製造され、この電気泳動粒子を含む電気泳動分散液を用いれば画像表示媒体及び画像表示装置が構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る画像表示媒体の一構成例を示す概略断面図である。
【図2】図1の画像表示媒体10に画像を表示させる動作を説明するための模式図である。
【図3】本発明に係る画像表示媒体の別の構成例を示す概略断面図である。
【図4】図3のマイクロカプセル21の拡大図である。
【図5】本発明に係る画像表示媒体のまた別の構成例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る画像表示媒体のさらに別の構成例を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る画像表示装置の一例を示す外観斜視図である
【図8】実施例1の画像表示セルの時間経過に伴う白反射率と黒反射率の変化を示す図である。
【図9】比較例1の画像表示セルの時間経過に伴う白反射率と黒反射率の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
10 画像表示媒体
11 電気泳動分散液
11a 黒色の粒子
11b 白色の粒子
11c 非極性溶媒
12、13 導電層
20 画像表示媒体
21 マイクロカプセル
21a マイクロカプセル膜
30 画像表示媒体
31A、31B 透明基板
32A、32B 透明電極
33 スペーサ
34 電気泳動分散液
40 画像表示媒体
50 画像表示装置
51 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧印加により分散媒中において泳動可能な荷電性の顔料粒子からなる電気泳動粒子の製造方法であって、
前記顔料粒子の表面が、少なくとも下記工程〔I〕及び〔II〕により修飾されることを特徴とする電気泳動粒子の製造方法。
〔I〕下記一般式(1)で表されるスルホニウム化合物を用いて、カチオン性またはアニオン性の官能基を有する荷電性有機団を前記顔料粒子表面に結合させる工程
〔II〕反応性モノマーを用いて、前記分散媒と親和性のある分子構造を含むグラフトポリマー鎖を前記顔料粒子表面に結合させる工程
【化1】

[但し、一般式(1)において、R1及びR2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、R1とR2は同じでも異なっていてもよい。R3は荷電性有機団であり、少なくともカチオン性またはアニオン性の官能基を有するアリール基または炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、Z-は、ヒドロキシルイオン、無機系陰イオンまたは有機酸由来の有機系陰イオンを表す。]
【請求項2】
前記顔料粒子がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アリール基がフェニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気泳動粒子の製造方法。
【請求項4】
前記無機系陰イオンが、ハロゲンイオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、酢酸イオン、燐酸イオン、または硫酸イオンから選ばれる陰イオンであり、前記有機酸由来の有機系陰イオンが、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、グリコール酸、グルコン酸、または乳酸から選ばれる陰イオンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒が非極性炭化水素であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法。
【請求項6】
前記反応性モノマーがメタクリレートまたは/およびアクリレートであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電気泳動粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする電気泳動粒子。
【請求項8】
少なくとも分散媒及び請求項7に記載の電気泳動粒子を含有することを特徴とする電気泳動分散液。
【請求項9】
少なくとも一方が光透過性である一対の対向配置された導電性層間に請求項8に記載の電気泳動分散液を封入したことを特徴とする画像表示媒体。
【請求項10】
請求項9に記載の画像表示媒体を用いたことを特徴とする画像表示装置。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−2586(P2010−2586A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160405(P2008−160405)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)