説明

電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される塗膜

【課題】電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される塗膜であって、帯電粒子の駆動性及びメモリー性を高めることができると共に、電極の表面に均一に形成された塗膜を提供する。
【解決手段】本実施形態の塗膜は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される。塗膜は、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置において、帯電粒子及び電極の表面をフッ素系樹脂によって被覆すると電気泳動表示装置の特性が改善することが知られている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、アルキル側鎖を有するポリイミド樹脂によって電極の表面を覆うと、帯電粒子の電極への吸着を防止できることが知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭61−25139号公報
【特許文献2】特許第2729299号公報
【特許文献3】特許第4284220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電極に対するフッ素系樹脂のぬれ性は低いので、フッ素系樹脂膜を電極の表面上に均一に塗布することは難しい。
【0006】
また、ポリイミド樹脂膜のような絶縁性の樹脂膜を電極の表面上に形成すると、電界により帯電粒子を電極上の樹脂膜の表面に移動させた後に電界を解除しても帯電粒子が除電され難い。そのため、同一電荷を有する帯電粒子同士が互いに反発して樹脂膜の表面に留まらないので、帯電粒子のメモリー性は低下してしまう。
【0007】
なお、電極の表面上に塗膜を形成しないと、帯電粒子が電極の表面に貼り付いてしまう。そのため、プラス及びマイナスの電圧を交互に電極に印加しても帯電粒子が駆動し難くなり、帯電粒子の駆動性が低下する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される塗膜であって、帯電粒子の駆動性及びメモリー性を高めることができると共に、電極の表面に均一に形成された塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明の一側面に係る塗膜は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の前記電極の表面上に形成される塗膜であって、前記塗膜が、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。
【0010】
本発明の塗膜では、分子が疎水性官能基を有しているため、帯電粒子が電極の表面にある塗膜に貼り付くことが抑制される。その結果、帯電粒子の駆動性を高めることができる。また、活性官能基が電極の表面と化学結合するので、電極の表面に対するぬれ性が高まる。このため、電極の表面の面方向において塗膜を均一に形成することができる。さらに、電界により帯電粒子が電極の表面に移動した後に電界を解除した場合、塗膜が絶縁性を示さない分子膜であるので帯電粒子が十分に除電される。そのため、同一電荷を有する帯電粒子同士の反発を抑制することができるので、帯電粒子が電極の表面から脱離することが抑制される。よって、帯電粒子のメモリー性を高めることができる。
【0011】
したがって、本発明によれば、帯電粒子の駆動性及びメモリー性を高めることができると共に、電極の表面に均一に形成された塗膜を得ることができる。
【0012】
前記疎水性官能基は、アルキル基又はケイ素含有基であってもよい。前記分子は、アルカンチオールであってもよい。前記分子は、Si−H結合含有ポリシロキサンであってもよい。前記分子は、シランカップリング剤であってもよい。前記電極は、金及びITOのうち少なくとも1つを含む材料からなってもよい。
【0013】
本発明の別の一側面に係る塗膜は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の前記電極の表面上に形成される塗膜であって、前記塗膜が、前記電極の前記表面と化学結合する活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。
【0014】
本発明の別の一側面に係る電気泳動表示装置は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極と、前記電極の表面上に形成される塗膜と、を備え、前記塗膜が、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。
【0015】
本発明の別の一側面に係る塗膜の形成方法は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の前記電極の表面上に形成される塗膜の形成方法であって、前記電極の表面上に塗膜を形成する工程を含み、前記塗膜が、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。
【0016】
本発明の別の一側面に係る組成物は、絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の前記電極の表面上に形成される塗膜に用いられる組成物であって、前記組成物が、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気泳動表示装置の電極の表面上に形成される塗膜であって、帯電粒子の駆動性及びメモリー性を高めることができると共に、電極の表面に均一に形成された塗膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係る塗膜が表面上に形成された電極を備えた電気泳動表示装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の電気泳動表示装置の製造方法の一例を示す工程断面図である。
【図3】一実施形態に係る塗膜が表面上に形成された電極を備えた電気泳動表示装置の別の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0020】
(電気泳動表示装置)
図1は、一実施形態に係る塗膜が表面上に形成された電極を備えた電気泳動表示装置の一例を模式的に示す断面図である。図1に示される電気泳動表示装置10は、例えば電子ペーパーである。電気泳動表示装置10は、絶縁性流体2中に分散された帯電粒子1を電界により移動させるための第一電極5a及び第二電極5bを備える。
【0021】
第一電極5aは、例えば、基板3a上に設けられた着色樹脂層4上に設けられる。第二電極5bは、例えば、基板3a上に絶縁性着色樹脂層6を介して配置された隔壁7の上面及び側面を覆うように設けられる。第一電極5a及び第二電極5bの厚さは例えば20nm程度である。隣接する隔壁7間の領域が、電気泳動表示装置10の各画素に対応する。隔壁7は、基板3aの主面において例えば格子状に配置される。隔壁7の上面には、接着層9を介して基板3bが配置される。基板3bは基板3aに対向配置されている。第一電極5a及び第二電極5bの表面上には、塗膜8が形成されている。帯電粒子1及び絶縁性流体2は、基板3a、基板3b及び隔壁7によって囲まれた空間内に収容される。
【0022】
図1(a)は、第一電極5aにマイナスの電圧が印加され、第二電極5bにプラスの電圧が印加された場合の電気泳動表示装置10を示す。この場合、帯電粒子1は第一電極5aの表面に引き寄せられる。図1(b)は、第一電極5aにプラスの電圧が印加され、第二電極5bにマイナスの電圧が印加された場合の電気泳動表示装置10を示す。この場合、帯電粒子1は第二電極5bの表面に引き寄せられる。
【0023】
帯電粒子1は、カーボンブラックやシリカ等からなる無機粒子、ポリスチレン等の高分子樹脂からなる有機粒子、又はこれらの複合粒子のいずれであってもよい。帯電粒子1の平均粒径は0.1〜8μmが好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、粒子の製造が容易になる。平均粒径が8μm以下であると、電子ペーパーを用途とする場合に必要とされる解像度が容易に得られる。平均粒径の値は、粒度分布測定装置(平均粒径0.1μm〜1μmの範囲はマルバーン社製「ゼーターサイザーナノシリーズ(ZS)」、平均粒径1μm〜8μmの範囲はベックマンコールター社製「マルチサイザーIV」によって測定される。また、帯電粒子1の形状は真球状(表面が均一)であることが好ましい。この場合、帯電粒子1の表面電荷が一定になるので、全ての帯電粒子1を均一に泳動させることができる。帯電粒子1は、必要に応じて着色されると好ましく、黒色に着色されていると特に好ましい。帯電粒子1を着色するための着色剤としては、特に限定されないが、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料、あるいは染料が挙げられる。染料化合物の種類、色彩は限定されず、二種以上を使用してもよい。染料化合物は、重合体粒子に含浸させるため、取り扱い上、水系溶剤に溶解するものであるのが好ましい。染料の種類は以下を例示できる。アゾ系染料、ナフトール系染料、アントラキノン系染料、インジゴ系染料、カーボニウム系染料、キノンイミン系染料、シアニン系染料、キノリン系染料、ニトロ系染料、ニトロソ系染料、ベンゾキノン系染料、ナフトキノン系染料、ナフタルイミド系染料、アジン系染料、フタロシアニン系染料、トリフェニルメタン系染料。染料の具体例としては、「Valifast Red」、「Valifast Black」(オリエント化学工業社製)があげられる。
【0024】
絶縁性流体2は、特に限定されないが、絶縁性の有機化合物からなる液体であることが好ましい。絶縁性の有機化合物としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、油脂等が例示される。好ましくは、イソパラフィン系の脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素が挙げられる。
【0025】
基板3a及び基板3bとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリマーからなるフィルム、ガラス、石英等の無機材料からなる基板が使用され得る。基板3a及び基板3bの構成材料としては、光透過率が高い透明材料を用いるのが好ましい。また、基板3bの最表面には帯電粒子1の付着を防ぐ為に疎水性樹脂をコーティングしても良い。疎水性樹脂としてはシリコーン樹脂やアルキル基を含むポリ(メタ)アクリレート樹脂やフッ素含有樹脂等が挙げられる。
【0026】
着色樹脂層4は、特に限定されないが、白色であることが好ましい。例えば、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ノボラック樹脂、エポキシ樹脂等に酸化チタン、酸化亜鉛、鉛白、リトポン等の白色顔料を加えて白色化できる。
【0027】
第一電極5a及び第二電極5bは、導電性材料であれば特に限定されないが、金及びITO(酸化インジウムスズ)のうち少なくとも1つを含む材料からなることが好ましい。第一電極5a及び第二電極5bは、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ITO、アルミニウム等からなる。
【0028】
絶縁性着色樹脂層6は、特に限定されないが、帯電粒子1と同色であることが好ましく、黒色であることがより好ましい。例えば、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ノボラック樹脂、エポキシ樹脂等にカーボンブラックやチタンブラック、黒色酸化鉄等の黒色顔料を加えて黒色化できる。
【0029】
隔壁7は、ポリマー樹脂からなることが好ましい。ポリマー樹脂としては、例えばポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ノボラック樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、隔壁7は、パターン形成のしやすさから、感光性樹脂からなることが好ましい。具体的な材料としては、感光性エポキシ樹脂(商品名:SU−8、日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0030】
塗膜8は、活性官能基と疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である。活性官能基は、チオール基(−SH)、ジスルフィド基(−SS−)、ヒドロシリル基(Si−H基)及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つである。加水分解性シリル基は、例えばアルコキシシリル基、ヒドロキシシリル基、ハロゲン化シリル基、アセトキシシリル基、アミノキシシリル基等である。疎水性官能基は、アルキル基又はケイ素含有基であってもよい。塗膜8に含まれる上記分子は、例えば、一方の末端に活性官能基を有し、他方の末端に疎水性官能基を有している。塗膜8は、例えば単分子膜であるが、多分子膜であってもよい。
【0031】
塗膜8に含まれる上記分子は、アルカンチオールであってもよい。アルカンチオールとしては、例えばCH−(CHn−1−SHで表される直鎖状のアルカンチオールが挙げられる。nは、1〜24の整数であることが好ましく、3〜22であることが特に好ましい。アルカンチオールの炭素鎖は1又は2個以上の分岐鎖を有していてもよいが、好ましくは直鎖のものが用いられる。また、アルカンチオールは1又は2以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、エステル基、ニトリル基、アミド基、メルカプト基、ハロゲノ基、フェロセニル基、ヒドロキノン基、ピリジル基、パラヒドロキシフェニル基等が挙げられる。このような置換基の種類及び個数は特に限定されない。置換基の種類及び個数は、自己組織化分子膜(SAM)の生成を阻害せず、かつ膜の欠陥を増大しないように選択されることが好ましい。
【0032】
塗膜8に含まれる上記分子は、Si−H結合含有ポリシロキサン(ケイ素−水素結合含有ポリシロキサン)であってもよい。Si−H結合含有ポリシロキサンとしては、例えば下記式で表されるSi−H結合含有ポリシロキサンが挙げられる。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】

【0033】
式中、Xは1〜300の整数であることが好ましく、Yは1〜300の整数であることが好ましい。具体的な商品名としては、東レ・ダウコーニング社製のSH1107、荒川化学工業社製のXL91A、XL12031、XL97A、XL96A等が挙げられる。
【0034】
塗膜8に含まれる上記分子は、シランカップリング剤であってもよい。シランカップリング剤としては、CH3―(CH2)n―1―Si(OR)3、CH3―(CH2)n―1―Si(CH3)(OR)2、CH3―(CH2)n―1―Si(CH3)2(OR)で表されるシリコーン化合物(−SiOR基)、CH3―(CH2)n―1―SiCl3、CH3―(CH2)n―1―Si(CH3)Cl2又はCH3―(CH2)n―1―Si(CH3)2Clで表されるシリコーン化合物(−SiX基。Xはハロゲン元素)が挙げられる。nは、1〜24の整数であることが好ましく、3〜22であることが特に好ましい。Rは、例えばCH3、C2H5、COCH3である。
【0035】
シランカップリング剤として、一方の末端にアルコキシシリル基を有し、他方の末端にメルカプト基を有する化合物(メルカプト基を有するアルコキシシラン)が挙げられる。そのような化合物の具体例としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
シランカップリング剤として、一方の末端にアルコキシシリル基を有し、他方の末端にイソシアネート基を有する化合物(イソシアネート基を有するアルコキシシラン)が挙げられる。そのような化合物の具体例としては、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランや3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
塗膜8の厚さは、例えば1〜50nmである。塗膜8の表面にテスターを当てて測定される抵抗値R1は、100MΩ以下であることが好ましい。抵抗値R1は、第一電極5a及び第二電極5bの表面にテスターを当てて測定される抵抗値R2を用いた場合、式(R2×0.9≦R1≦R2×100)を満たすことが好ましい。また、塗膜8の表面と水との接触角は、第一電極5a及び第二電極5bの表面と水との接触角よりも大きいことが好ましい。
【0038】
電気泳動表示装置10では、第一電極5a及び第二電極5bに電圧を印加することによって第一電極5aと第二電極5bとの間に電界が形成される。この電界によって、帯電粒子1が第一電極5aの表面又は第二電極5bの表面に移動する。また、電界の向きを反転させることによって、第一電極5aと第二電極5bとの間で帯電粒子1を駆動させることができる。さらに、第一電極5a及び第二電極5bに印加する電圧を停止して電界を解除すると、帯電粒子1がその場で留まることになる。
【0039】
ここで、電気泳動表示装置10は塗膜8を備えている。塗膜8の分子は疎水性官能基を有しているため、帯電粒子1が第一電極5a又は第二電極5bに貼り付くことが抑制される。その結果、帯電粒子1の駆動性を高めることができる。また、塗膜8の分子は活性官能基を有している。活性官能基は第一電極5a又は第二電極5bの表面と化学結合するので、第一電極5a又は第二電極5bの表面に対するぬれ性が高まる。このため、第一電極5a又は第二電極5bの表面上に塗膜8を均一に形成することができる。さらに、電界により帯電粒子1が第一電極5a又は第二電極5bの表面に移動した後に電界を解除した場合、塗膜8が絶縁性を示さない分子膜であるので帯電粒子1が十分に除電される。そのため、同一電荷を有する帯電粒子1同士の反発を抑制することができるので、帯電粒子1が第一電極5a又は第二電極5bの表面から脱離することが抑制される。よって、帯電粒子1のメモリー性を高めることができる。
【0040】
したがって、本実施形態では、帯電粒子1の駆動性及びメモリー性を高めることができると共に、第一電極5a又は第二電極5bの表面に均一に形成された塗膜8を得ることができる。
【0041】
(電気泳動表示装置の製造方法)
図2は、図1の電気泳動表示装置の製造方法の一例を示す工程断面図である。電気泳動表示装置10は例えば以下の工程を経ることによって製造される。
【0042】
まず、図2(a)に示されるように、基板3a上に設けられた第一電極5aと、基板3a上に配置された隔壁7の側面を覆うように設けられた第二電極5bとを備えた構造体を準備する。基板3aと第一電極5aとの間には着色樹脂層4が配置される。基板3aと隔壁7との間には絶縁性着色樹脂層6が配置される。
【0043】
次に、図2(b)に示されるように、第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗膜8を形成する。具体的には、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗布する。これにより、当該分子と第一電極5a及び第二電極5bの表面とが反応して化学結合する。反応温度及び反応時間は、特に限定されないが、例えば室温(22℃)で反応させる際の反応時間は数秒から数十時間程度が好ましく、1時間〜18時間であることがより好ましい。反応時間を数秒以上とすると、秩序だった分子膜が形成され易くなる。反応時間を数十時間以下とすると、膜の破壊が生じるリスクを低減することができる。
【0044】
なお、活性官能基及び疎水性官能基を有する分子を有機溶媒で希釈して第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗布してもよい。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、n−ペンタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。有機溶媒は、論文(Yamada, R. et al., Chem. Lett., 667, 1999)を参照しつつ、第一電極5a及び第二電極5bの構成材料や反応温度等に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0045】
次に、図2(c)に示されるように、隔壁7の上面に接着層9を形成し、絶縁性流体2と絶縁性流体2中に分散された帯電粒子1とを含む分散液を隔壁7間に充填する。その後、基板3bを接着層9に貼り付けて封止を行うことにより、図1に示される電気泳動表示装置10が得られる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、塗膜8は、第一電極5a及び第二電極5bのうち少なくとも1つの表面上に形成されてもよい。また、電気泳動表示装置10は、第一電極5a及び第二電極5bに加えて第三電極を備えてもよい。
【0047】
図1に示される電気泳動表示装置10の駆動方式はIn-Plane方式であるが、これに限定されない。例えば、図3は、一実施形態に係る塗膜が表面上に形成された電極を備えた電気泳動表示装置の別の例を模式的に示す断面図である。図3に示されるように、一対の対向する基板3a,3b上にそれぞれ第一電極5a及び第二電極5bが形成されてもよい。この場合、帯電粒子は観察方向(基板3a,3bの法線方向)に沿って移動可能である。例えば、図3(a)に示される電気泳動表示装置20では、黒色の帯電粒子1が正の電荷を有しており、白色の帯電粒子1aが負の電荷を有している。図3(b)に示される電気泳動表示装置30では、黒色の帯電粒子1が正の電荷を有しており、赤色の帯電粒子1bが負の電荷を有している。図3(c)に示される電気泳動表示装置40では、黒色の帯電粒子1が正の電荷を有しており、緑色の帯電粒子1cが負の電荷を有している。図3(d)に示される電気泳動表示装置50では、黒色の帯電粒子1が正の電荷を有しており、青色の帯電粒子1dが負の電荷を有している。
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
撹拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を付けた2000ml容のセパラブルフラスコにスチレン157g、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン157g、ポリビニルピロリドン79g、メタノール1170gおよび水41gを仕込み、窒素気流下で62℃まで昇温した。その後、4,4’―アゾビス(2―メチルブチロニトリル)12gを投入し、6時間析出重合させることにより、加水分解性シリル基を有する架橋性重合体粒子を含有するスラリーAを得た。
【0050】
分子中にアミノ基を有する染料(オリエント化学工業株式会社製、VALIFASTBLACK3810)10g、3―イソシアネートプロピルトリエトキシシラン4gおよびメチルエチルケトン100gを200ml容のフラスコに仕込み、50℃まで昇温して1時間保持した後、冷却した。次いでメタノール4gを加え、エバポレーションしたところ、加水分解性シリル基を有する染料化合物を含む反応液Bが得られた。
【0051】
スラリーA中に存在する未反応の重合性ビニル単量体を除去したメタノール分散液100gに対し、前記反応液Bを50g加え、60℃まで加熱した。次いで、架橋触媒としてp―トルエンスルホン酸11.5gをメタノール50gに溶解したものを加えて3時間反応させ、冷却、中和した。その後、該スラリーを濾過・洗浄した。さらに、同染色架橋工程を再度行い、着色架橋重合体粒子Cを得た。
【0052】
該着色架橋重合体粒子Cを、粒子内部に存在する加水分解性シリル基由来のシラノール基を脱水縮合せしめるため、180℃で16時間熱処理を行った。これにより粒子表面に加水分解性シリル基由来のシラノール基(分散媒と接しているので結合しなかったもの)を有する着色架橋重合体粒子Dを得た。
【0053】
着色重合体粒子D(10g)をメチルエチルケトン30gに分散し、メタクリロイルイソシアナート3gを仕込み、室温で30分反応させた後洗浄し、着色重合体粒子D表面に重合性ビニル基を有する着色架橋重合体粒子Eを得た。
【0054】
着色架橋重合体粒子E(1g)に対して、メチルエチルケトン20g、2―エチルヘキシルメタクリレート10g、ベンゾイルパーオキサイド0.2gを反応器に仕込み、窒素気流下80℃まで昇温した後60分反応させることにより、平均粒径2.4μmの帯電泳動粒子Fを得た。帯電泳動粒子F(3g)に脂肪族炭化水素溶媒(商品名:アイソパーH、エクソンモービル社製)97gを加え分散させ、帯電泳動粒子分散液A1を得た。
【0055】
1画素サイズを60μm×60μmとし、画素数を300個×300個として、以下のようにして図1に示される電気泳動表示装置10を製造した。基板3a及び基板3bとしては厚さ0.5mmの無アルカリガラスを使用した。基板3a上に、酸化チタンで白色化させたポリアクリル樹脂層を着色樹脂層4として配置した。着色樹脂層4の表面には厚さ20nmの金を蒸着して第一電極5aを形成した。画素の境界部には、まずポリアクリル樹脂にカーボンブラックを加えて黒色化させた絶縁性着色樹脂層6(幅5μm、高さ2μm)を配置した。さらに、絶縁性着色樹脂層6上に感光性エポキシ樹脂(商品名:SU―8)からなる隔壁7(幅5μm、高さ18μm)を配置した。隔壁7の表面には厚さ20nmの金を蒸着して第二電極5bを形成した。
【0056】
次に、第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗膜8を形成した。ケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)1gに脂肪族炭化水素溶媒(商品名:アイソパーH、エクソンモービル社製)9gを加え良く撹拌して混合溶液を作製した。その後、混合溶液を第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗布し、反応温度を室温(22℃)、反応時間を1時間として反応させた。さらに、塗布部をアイソパーHにて洗い流し乾燥させ、第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗膜8を形成した。
【0057】
次に、隔壁7の上面に接着層9を形成し、帯電泳動粒子分散液A1を画素内に充填し、隔壁7の上面に接着層9を介して基板3bを接着させ、封止を行った。このようにして、実施例1の電気泳動表示装置を製造した。
【0058】
(比較例1)
第一電極5a及び第二電極5bの表面上に、塗膜8に代えて、ポリジメチルシロキサン含有ポリアクリル樹脂(商品名:パピレス、ナトコ株式会社製)を厚さ1μmとなるように塗布したこと以外は実施例1と同様にして比較例1の電気泳動表示装置を製造した。
【0059】
(実施例2)
撹拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を付けた2000ml容のセパラブルフラスコにスチレン157g、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン157g、ポリビニルピロリドン79g、メタノール1170gおよび水41gを仕込み、窒素気流下で62℃まで昇温した。その後、4,4’―アゾビス(2―メチルブチロニトリル)12gを投入し、6時間析出重合させることにより、加水分解性シリル基を有する架橋性重合体粒子を含有するスラリーAを得た。
【0060】
スラリーA中に存在する未反応の重合性ビニル単量体を除去したメタノール分散液100gに対し、架橋触媒としてp―トルエンスルホン酸11.5gをメタノール50gに溶解したものを加えて3時間反応させ、冷却、中和した。その後、該スラリーを濾過・洗浄し、架橋重合体粒子Gを得た。
【0061】
架橋重合体粒子Gに対して、粒子内部に存在する加水分解性シリル基由来のシラノール基を脱水縮合せしめるため、180℃で16時間熱処理を行った。これにより粒子表面に加水分解性シリル基由来のシラノール基(分散媒と接しているので結合しなかったもの)を有する架橋重合体粒子Hを得た。
【0062】
架橋重合体粒子H(10g)をメチルエチルケトン30gに分散し、メタクリロイルイソシアナート3gを仕込み、室温で30分反応させた後洗浄し、架橋重合体粒子H表面に重合性ビニル基を有する架橋重合体粒子Iを得た。
【0063】
架橋重合体粒子I(1g)に対して、メチルエチルケトン20g、2―エチルヘキシルメタクリレート10g、ベンゾイルパーオキサイド0.2gを反応器に仕込み、窒素気流下80℃まで昇温した後60分反応させることにより、平均粒径2.4μmの帯電泳動粒子Jを得た。帯電泳動粒子J(3g)に脂肪族炭化水素溶媒(商品名:アイソパーH、エクソンモービル社製)97gを加え分散させ、帯電泳動粒子分散液A2を得た。
【0064】
帯電泳動粒子分散液A1に代えて帯電泳動粒子分散液A2を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例2の電気泳動表示装置を製造した。
【0065】
(実施例3)
テトラメチロールメタントリアクリレート82gとジビニルベンゼン31gとアクリロニトリル37gとを均一に混合し、これに顔料としてアニリンブラック14gを添加し、ビーズミルを用いて48時間かけて顔料を均一に分散させた。この顔料分散の単量体混合物に、ベンゾイルパーオキサイド2gを均一に混合し、これを濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液850gに投入しよく攪拌し、これをホモジナイザーで粒径が約1〜8μmの微粒子状に懸濁させた。
【0066】
この懸濁液を、温度計と攪拌機と還流冷却器とを備えた2リットルのセパラブルフラスコに移し、窒素雰囲気中で攪拌しながら85℃に加熱し7時間重合反応を行い、さらに90℃で3時間加熱し重合反応を行った。その後、重合反応液を冷却し、生成した着色重合体微粒子を濾過、洗浄した後乾燥させて、分級処置を施し、平均粒径2.4μmの着色重合体粒子Kを得た。
【0067】
セパラブルフラスコに着色重合体粒子K(10g)、ジメチルスルホキシド80g、メチルメタクリレート40gを加えて、ソニケーターにより充分分散させたのち、均一に撹拌を行った。系に窒素ガスを導入し、30℃にて1時間撹拌を続けた。これに1Nの硝酸水溶液で調整した0.1mol/Lの硝酸 第二セリウムアンモニウム溶液70gを添加し5時間反応させた。その後、重合終了後反応液を取り出し、濾過、洗浄した後乾燥させて、着色重合体粒子Lを得た。
【0068】
着色重合体粒子L(10g)をメチルエチルケトン30gに分散し、メタクリロイルイソシアナート3gを仕込み、室温で30分反応させた後洗浄し、着色重合体粒子L表面に重合性ビニル基を有する着色架橋重合体粒子Mを得た。
【0069】
着色架橋重合体粒子M(1g)に対して、メチルエチルケトン20g、2―エチルヘキシルメタクリレート10g、ベンゾイルパーオキサイド0.2gを反応器に仕込み、窒素気流下80℃まで昇温した後60分反応させることにより、平均粒径2.4μmの帯電泳動粒子Nを得た。帯電泳動粒子N(3g)に脂肪族炭化水素溶媒(商品名:アイソパーH、エクソンモービル社製)97gを加え分散させ、帯電泳動粒子分散液A3を得た。
【0070】
帯電泳動粒子分散液A1に代えて帯電泳動粒子分散液A3を用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例3の電気泳動表示装置を製造した。
【0071】
(実施例4)
第一電極5a及び第二電極5bの材料として金に代えてITOを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例4の電気泳動表示装置を製造した。
【0072】
(実施例5)
塗膜8の材料としてケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)に代えて1―ブタンチオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例5の電気泳動表示装置を製造した。
【0073】
(実施例6)
塗膜8の材料としてケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)に代えて1―オクタンチオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例6の電気泳動表示装置を製造した。
【0074】
(実施例7)
塗膜8の材料としてケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)に代えて1―ドデカンチオールを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例7の電気泳動表示装置を製造した。
【0075】
(実施例8)
塗膜8の材料としてケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)に代えてジブチルジスルフィドを用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例8の電気泳動表示装置を製造した。
【0076】
(実施例9)
塗膜8の材料としてケイ素―水素結合含有ポリシロキサン(商品名:SH1107)に代えて1―ヘキシルトリメトキシシランを用いて、反応温度を80℃、反応時間を3時間としたこと以外は実施例1と同様にして実施例9の電気泳動表示装置を製造した。
【0077】
(比較例2)
第一電極5a及び第二電極5bの表面上に塗膜8を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例2の電気泳動表示装置を製造した。
【0078】
(評価結果)
実施例1〜9及び比較例1〜2の電気泳動表示装置に対して、電圧の実効値30Vrms、周波数1Hzの正弦波電圧を印加した。実施例1〜9及び比較例1では、帯電粒子が第一電極及び第二電極に貼り付くことなく駆動した。しかし、比較例2では、帯電粒子が第一電極又は第二電極に貼り付いて駆動しなかった。
【0079】
その後、帯電粒子が隔壁に引き寄せられた際に電圧を解除した。実施例1〜9では、帯電粒子が隔壁に貼り付いてメモリー性が得られた。しかし、比較例1では、帯電粒子が隔壁に貼り付かず基板の表面に移動し、メモリー性が得られなかった。
【0080】
また、実施例1〜9及び比較例1〜2の電気泳動表示装置の電極の表面にテスターを当てて抵抗値を測定した。比較例1では、電極の表面上に絶縁性の樹脂層が形成されているので、抵抗値が大きくなっていた。一方、実施例1〜9では、電極の表面上に何も形成されていない比較例2と同等の抵抗値が得られた。
【0081】
評価結果を表1に示す。表中の駆動性の列において、○は帯電粒子が駆動したことを示し、×は帯電粒子が電極に貼り付いて駆動しなかったことを示す。表中のメモリー性の列において、○は電圧を解除した際に帯電粒子が隔壁に貼り付いたことを示し、×は電圧を解除した際に帯電粒子が隔壁に貼り付かなかったことを示す。
【0082】
【表1】

【符号の説明】
【0083】
1…帯電粒子(例えば黒色)、1a…帯電粒子(例えば白色)、1b…帯電粒子(例えば赤色)、1c…帯電粒子(例えば緑色)、1d…帯電粒子(例えば青色)、2…絶縁性流体、5a…第一電極、5b…第二電極、8…塗膜、10…電気泳動表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性流体中に分散された帯電粒子を電界により移動させるための電極を備えた電気泳動表示装置の前記電極の表面上に形成される塗膜であって、
前記塗膜が、チオール基、ジスルフィド基、ヒドロシリル基及び加水分解性シリル基のうち少なくとも1つの活性官能基と、疎水性官能基とを有する分子を含む分子膜である、塗膜。
【請求項2】
前記疎水性官能基が、アルキル基又はケイ素含有基である、請求項1に記載の塗膜。
【請求項3】
前記分子が、アルカンチオールである、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項4】
前記分子が、Si−H結合含有ポリシロキサンである、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項5】
前記分子が、シランカップリング剤である、請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項6】
前記電極が、金及びITOのうち少なくとも1つを含む材料からなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−57875(P2013−57875A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197201(P2011−197201)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(392007566)ナトコ株式会社 (42)
【Fターム(参考)】