説明

電気透析および直接回収方法を用いた糖化液からのキシロースの製造のための経済的な工程

本発明は、環境にやさしく、工程が単純であるために経済性に富んだキシロースの製造工程に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、a)熱帯果物バイオマスを硫酸加水分解反応で向流抽出するステップと、b)前記抽出液のpHを1.5〜2.5に調整し、脱色およびろ過を行うステップと、c)前記ろ液を電気透析装置に投入して脱塩を行うステップと、d)前記ステップc)において回収された硫酸廃液は前記ステップa)に再循環させ、前記脱塩された有機物は濃縮させ、且つ、直接的に回収してキシロース結晶を得るステップと、を含むことを特徴とするキシロースの製造工程に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のキシロースの製造工程から、中和およびイオン精製工程などの多量の廃水が発生する工程を除去して、環境にやさしいだけではなく、工程の単純化によって生産コストの節減が図れる、経済性に富んだキシロースの製造工程に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、硫酸加水分解液からキシロースを含む有用糖成分を精製する方法としては、沈殿法とイオン交換樹脂法が最も汎用されている。中でも、イオン交換樹脂法は、施設費が低く、しかも、伝統的に用いられてきている工程であるというメリットがあるため、商業的に多用されている。しかし、イオン交換樹脂の再生中に高濃度の塩を含有している廃水が多量発生してしまい、廃水処理の負担の加重が避けられないのが現状であるため、化学物質の使用量と廃水の発生量を低減し得る代替技術の開発が望まれている。
近年、新たな分離技術として、電気透析によって糖蜜および発酵液などを脱塩し、資源を有効に利用する方法がよく知られている。例えば、下記の特許文献1には、熱帯果物バイオマスから加水分解、中和、沈殿、ろ過、電気透析およびイオン交換樹脂の段階を経てキシロースを製造する方法が開示されている。しかしながら、このような電気透析装置の問題点として、イオン交換膜の汚染が指摘されており、かような汚染現象は装置の効率低下の原因となるだけではなく、膜の寿命を短縮させるということがよく知られている。
このような問題点を回避するために、硬水軟化装置または陰イオン交換樹脂による処理などの前処理を試みたが(例えば、下記の特許文献2参照)、多段階の前処理を経なければならず、しかも、副材料を用いることを余儀なくされるため、費用が嵩んでしまうという欠点があり、産業的に適用するには限界がある。例えば、下記の特許文献3は、電気透析工程による乳酸回収方法に関するものであり、分離された一部の物質(硫酸アンモニウム)の再循環工程と、電気透析工程によるメリット(効率性、環境にやさしいこと)が記載されている。しかしながら、電気透析は、依然として、産業的な適用に際して、膜の費用、膜の汚染および長期運転の安定性などの問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】大韓民国特許公開第2008−0074687号公報
【特許文献2】特開昭54−67093号公報
【特許文献3】大韓民国特許公開第2001−0107331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは上記の問題点に着目して鋭意研究を重ねた結果、電気透析に際して、イオン交換膜の汚染源となるスケールを防止し得るpHの範囲を提供して膜の汚染による生産性の低下を防ぐことにより、膨大な初期投資コストおよび運転コストなどの負担を軽減して電気透析の産業的な適用の限界を克服することができた。また、高純度抽出の長所を極大化させた直接回収工程を通じてイオン交換樹脂工程を除去することにより、高濃度塩の廃水処理に対する負担を軽減して単純化したキシロースの製造工程を完成するに至った。
そこで、本発明の目的は、向流抽出(countercurrent extraction)を通じて熱帯果物バイオマスから可溶性成分をできる限り完全に抽出するとともに、高濃度の抽出液から硫酸イオンを選択的に分離し且つ回収して抽出工程に繰り返し再使用し、電気透析装置のイオン交換膜の汚染を防ぐことにより、化学的な洗浄なしに長時間運転することができ、硫酸の分離された有機物は濃縮して直接的に結晶として回収する工程を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、a)熱帯果物バイオマスを硫酸加水分解反応で向流抽出するステップと、b)前記抽出液のpHを1.5〜2.5に調整し、脱色およびろ過を行うステップと、c)前記ろ液を電気透析装置に投入して脱塩を行うステップと、d)前記ステップc)において回収された硫酸廃液は前記ステップa)に再循環させ、前記脱塩された有機物は濃縮させ、且つ、直接的に回収してキシロース結晶を得るステップと、を含むことを特徴とするキシロースの製造工程を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る、電気透析装置および直接回収工程を用いてキシロースを産生する場合、廃水処理に伴う環境への負担を低減することができるだけではなく、工程の単純化による生産コストの節減効果も期待することができる。これにより、本発明は、原料費の節減および環境汚染の防止に能動的に対応し得る低汚染・無公害のキシロースの製造工程を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、従来の中和およびイオン交換法、電気透析工程を用いたキシロースの製造工程の系統図および本発明に係る電気透析および直接回収法を用いた単純化工程を通じたキシロースの製造工程の系統図の比較図を示すものである。
【図2】図2は、本発明に係る電気透析工程を通じて有機物と硫酸を分離し、このときに回収された硫酸を繰り返し再使用すると共に、有機物は直接結晶化を行うことによりキシロースを製造する工程の詳細を示す図である。
【図3】図3は、本発明に用いられる向流多段抽出工程の流れの詳細を示す図である。
【図4】図4は、本発明に用いられる電気透析装置における、処理時間による電気伝導度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、a)熱帯果物バイオマスを硫酸加水分解反応で向流抽出するステップと、b)前記抽出液のpHを1.5〜2.5に調整し、脱色およびろ過を行うステップと、c)前記ろ液を電気透析装置に投入して脱塩を行うステップと、d)前記ステップc)において回収された硫酸廃液は前記ステップa)に再循環させ、前記脱塩された有機物は濃縮させ、且つ、直接的に回収してキシロース結晶を得るステップと、を含むことを特徴とするキシロースの製造工程を提供することを特徴とする。
【0009】
前記本発明のキシロースの製造工程は図2に示されており、以下、添付図面に基づき、本発明のキシロースの製造工程を詳述する。
【0010】
前記熱帯果物バイオマス9は、乾いたココナット殻、パーム殻またはパーム空房(Oil Palm Empty Fruit Bunch;OPEFB)であってもよい。
前記加水分解は、前記熱帯果物バイオマス9に、2、000〜50、000ppmの硫酸溶液10を添加して、反応温度100〜200℃、反応圧力0〜10kgf/cm2にて0.5〜10時間反応させることにより行われる。
【0011】
前記加水分解反応の条件下で抽出が行われ、図2に示す抽出器1を用いて向流抽出を行うことができる。
【0012】
前記向流抽出工程によって得られた抽出液11の糖組成比は、分離された混合糖液の60〜90%、好ましくは、80〜90%であることが好ましい。
【0013】
前記抽出液11は、活性炭を用いて脱色を行い、フィルタープレス(filter press)2または限外ろ過装置2によってろ過して浮遊物質を除去する。本発明の具体例として、0.5μm網目のろ過布を用いたろ過、フィルタープレスによるろ過、限外ろ過装置によるろ過が挙げられる。
【0014】
前記浮遊物質の除去されたろ液12のpHを1.5〜2.5に調整する。これは、タンパク質、色素およびフミン質など電気透析膜を汚染させる物質が含まれている加水分解液にスケールが形成されることを防ぐことにより、イオン交換膜が汚染されることを防ぐためである。
【0015】
前記ステップc)において、回収された硫酸廃液13は、前記ステップa)の抽出工程によって再循環させて、次の抽出に再使用することができる。前記回収された硫酸は、連続して繰り返し再使用することができ、好ましくは、回収された硫酸廃液に2、000〜4、000ppmの硫酸をさらに添加し、さらに好ましくは、抽出硫酸の最終濃度が25、000ppmになるように添加して再使用することができる。
【0016】
前記ステップb)において、pHの調整された前記脱色ろ液12は、電気透析装置3の希釈槽に投入し、有機物14の電気伝導度(Conductivity)が1、500μS/cm以下、好ましくは、1、000μS/cm以下になるまで脱塩を行う。
【0017】
前記脱塩された有機物14は、濃縮器4に送って糖濃度50〜70ブリックス(Bx)に濃縮した後、直接回収工程を通じて前記濃縮された濃縮液15を真空結晶または冷却結晶してキシロースを回収した。前記直接回収工程は、好ましくは、3ステップ5、6、7に亘って行うことができる。
【実施例】
【0018】
下記の実施例は、本発明をより詳述するためのものであり、これらの実施例が本発明の技術的な範囲を限定するものではない。
実施例1
【表1】

【0019】
実施例2 向流抽出による高濃度キシロースの産生
抽出方法のうち最も簡単な方法は、純粋な溶媒によって繰り返し抽出を行うことであるが、本発明においては、原料から可溶性成分をできる限り完全に抽出すると共に、高濃度の抽出液を得るために向流抽出を行った。
【0020】
熱帯果物バイオマスと硫酸溶液を抽出機を用いて所定時間反応を行うと、上層の溶液と下層のスラリーとに分離されて順次に反対方向に移動する。すなわち、溶媒と溶質とからなる溶液の1次抽出液bおよび2次抽出液cは、固体相とは反対方向に各段を順次に移動し、各段を移動する間に溶質を溶解して抽出する。向流多段抽出の工程の流れは、図3に示す。
【0021】
具体的に、抽出器は、ステージ1抽出反応器とステージ2抽出反応器とから構成され、連続式の向流多段抽出工法は、下記のステップを含む:ステージ1抽出反応器から得られたBrix3〜7の低濃度の1次抽出液bをステージ2抽出反応器に送液するステップおよび送液された低濃度の1次抽出液bをステージ2抽出反応器に通させてBrix10〜20の高濃度および高純度のキシロース2次抽出液cを得るステップ。
【0022】
実施例1と同じ条件下で、純粋な溶媒によって繰り返し抽出を行う単純回分式抽出法と多段向流抽出法における抽出収率を比較した。多段向流抽出によって90〜80%といった高い抽出収率が得られた。
【0023】
【表2】

【0024】
前記向流抽出によって得られたpH0.8〜1.2の酸加水分解液cを苛性ソーダでpH1.5〜2.5に調整した後、活性炭と共に0.5μm網目のろ過布を用いてフィルタープレスでろ過して脱色し、浮遊物質を除去した。
【0025】
実施例3:脱塩電気透析(Electrodialysis)
向流抽出工程によって産生された酸加水分解液を脱塩電気透析装置を用いて精製した場合における、硫酸イオンの脱塩率および有機物(sugar)のロス率など、本発明による脱塩電気透析工程を用いた有機物(sugar)と硫酸の分離可能性と経済性を調べるために、電流効率、エネルギー消耗量を調べてみた。
脱塩およびろ過の行なわれた反応液の糖濃度は、Brix10〜15、pH1.5〜2.5であった。電圧は、DC電源(120V、30A)を用いて40〜70Vの定電圧にし、溶液の温度は、熱交換コイルを用いて約40〜70℃に一定に維持した。脱塩は、流速6〜8L/minにて、100〜150分間、電気伝導度が1、500μS/cm以下になるまで行った。
このとき、電気透析器としては、3−コンパートメント(3−compartment)型のものを用い、イオン膜は、強酸性陽イオン交換膜と強塩基性陰イオン交換膜とからなり、合計の有効膜面積は0.6m2であった。電気透析の実施結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
硫酸脱塩率は、希釈槽の電気伝導度の値から求めることができ、有機物のロス率は、希釈槽のBrix値の変化によって確認することができる。
【0028】
硫酸脱塩率=100−{(電気伝導度の終了値/電気伝導度の処理値)*100}
有機物のロス率=100−{(最終Brix値/最初Brix値)*100}
計算の結果、硫酸の脱塩率は98%であり、有機物(sugar)のロス率は3.4%であった。
【0029】
実施例4:イオン交換膜の汚染指標の測定
実施例3と同じ条件下で、酸加水分解液のpHの調整によるイオン交換容量および性能を測定した。pH1.5〜2.5の場合には、膜のイオン交換容量および性能の低下があまり認められず、これは、膜の汚染がほとんど発生していないことを示唆する。その結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
実施例5:回収された硫酸の再使用
電気透析工程から回収された硫酸の再使用の可能性と経済性を調べるために、回収された硫酸を次の抽出工程に再使用した場合のキシロース抽出収率を測定した。
測定の結果、表5に示すように、回収された硫酸のみを用いた場合の抽出収率は10.61%であり、硫酸と回収硫酸を混合して濃度を高めた場合の抽出収率は12.80%であって、対照区とほとんど同じ実施結果を示した。なお、表4に、回収された硫酸に最小限の硫酸を添加して繰り返し再使用したときの抽出収率を示す。合計で6回繰り返し再使用した硫酸を用いた抽出実験において、平均収率は12.57%であり、これを表6に示す。これより、回収された硫酸を連続して繰り返し再使用することができるということが判る。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
実施例6:直接回収工程を通じたキシロースの回収
電気透析工程からの脱塩された有機物の直接結晶回収率を調べるために、回収された有機物の糖濃度を10〜15Brixから50〜70Brixへと濃縮し、3ステップに亘っての直接回収工程を通じてキシロースの回収収率を測定した。
測定の結果、表6に示すように、回収されたキシロースの回収率(図2における5、6、7)は33.5%であり、2〜3次結晶母液(図2における16、17)を再回収結晶した場合のキシロースの総回収率は87%であって、既存のイオン精製工程を経た工程とほとんど同じキシロースの回収率を示していた。
【0035】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱帯果物バイオマスを硫酸加水分解してキシロースを製造する工程であって、
a)熱帯果物バイオマスを硫酸加水分解反応で向流抽出するステップと、
b)前記抽出液のpHを1.5〜2.5に調整し、脱色およびろ過を行うステップと、
c)前記ろ液を電気透析装置に投入して脱塩を行うステップと、
d)前記ステップc)において回収された硫酸廃液は前記ステップa)に再循環させ、前記脱塩された有機物は濃縮させ、且つ、直接的に回収してキシロース結晶を得るステップと、
を含むことを特徴とするキシロースの製造工程。
【請求項2】
前記ステップc)において回収された硫酸廃液に、2、000〜4、000ppmの硫酸をさらに添加して、前記ステップa)に再循環させることを特徴とする請求項1に記載のキシロースの製造工程。
【請求項3】
前記ステップb)における前記ろ液のキシロース糖の組成比が、80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のキシロースの製造工程。
【請求項4】
前記ステップc)において、前記ろ液の電気伝導度が1、000μS/cm以下になるまで脱塩を行うことを特徴とする請求項1に記載のキシロースの製造工程。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507953(P2013−507953A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535100(P2012−535100)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006359
【国際公開番号】WO2011/052824
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(508064724)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (32)