説明

電気鉄道設備の保守作業支援システム

【課題】誤操作を防止して作業者の安全を確保することのできる電気鉄道設備の保守作業支援システムを提供する。
【解決手段】電気鉄道設備の保守作業支援システムにおいて、中央処理装置からの被制御所を制御する制御信号の誤出力を防止する誤出力防止装置を備え、携帯端末からの入力情報に応じて、前記中央処理装置が被制御所の遮断器を開閉制御する制御信号をロックする信号を前記誤出力防止装置に送出し、前記遮断器の開閉をロックして保守作業場所への給電を阻止する。これにより、作業環境の安全を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道設備の保守作業支援システムに係り、特に誤操作を防止して作業者の安全を確保することのできる電気鉄道設備の保守作業支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道設備は、常に安定した電力を列車に供給することが必要であり、このため、電鉄用電力管理システムが用いられている。この電鉄用電力管理システムが行う主な業務は、指令所による遠隔制御および遠隔監視、並びに保守作業の支援である。
【0003】
また、き電系統等の電鉄設備の保守に際して、設備区あるいは保守区等の現場からの直接の作業許可の要求に対して、停電あるいは安全を確認した後、作業指示を出す等の連絡業務も、前記電力管理システムの重要な役割である。
【0004】
前記保守作業は最終電車後から、き電開始までの夜間の短期間に行わなければならない。列車遅延や事故等があると前記保守作業に割り当てられる期間はさらに短縮される。このため、保守作業は速やかに開始されることが望まれる。
【0005】
特許文献1には、携帯端末を介して保守支援システムにアクセスし、アクセスされた保守支援システムは、電力系統設備の状態と加工された保守支援情報を携帯端末に送信することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−216696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来技術によれば、作業の受付あるいは監視機能の一部については作業員が所持する携帯端末からアクセス可能となっている。
【0008】
しかし、指令所の指令員は、複数(例えば十数箇所)の作業場所で作業する作業員と直接、電話等で連絡とりながら、個別に作業許可あるいは作業承認を与えなければならない。
【0009】
このため、予定されている全ての作業場所に作業指示あるいは作業承認を与えるには長時間を要する。また、この際には事務連絡等の他業務が混入するため、処理が錯綜して、指示ミスが発生する可能性がある。
【0010】
このため、指令所計算機には、インターロックとして該当区間の遮断器や整流器にロックをかけて制御を防止する機能を有している。しかし、この機能は指令員が設定するものであり作業員が行うものではない。すなわち、作業員は、指令員の指示に従い、さらに自身による安全確認の後、作業を開始するが、被制御所機器にインターロックをかけることはできない。
【0011】
一般に、最終電車通過後の夜間に、き電系統などの電鉄設備の保守作業を行う場合においては、「作業時間の確保」、「指令員の作業負担軽減」および「作業員の安全確保」は重要である。このため、特に夜間における作業では、全路線のき電停止を待ち、その後の短い作業時間内で作業員が安全にかつ迅速に作業できるように作業支援を行わなければならない。
【0012】
また、作業支援システムは、通信回線を介して、き電線の現在の状態(例えば停電状態)を作業者用携帯端末に表示でき、また携帯端末側からは、現在の作業場所が登録でき、登録した作業場所に給電する被制御所機器に対してはその誤動作を防止して作業者の安全が確保されなければならない。
【0013】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、作業員が保持する携帯端末と中央処理装置とを連携して、安全な作業環境を確保することのできる電気鉄道設備の保守作業支援システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0015】
電源装置を備え、電気鉄道の列車にき電系統を介して電力を供給する被制御所と、監視制御画面を表示する表示装置を有する指令卓を備え、該指令卓への操作入力に応じて前記被制御所を制御する中央処理装置と、保守作業者が操作する携帯端末と通信回線を介して接続され、操作入力に応じて前記被制御所および前記き電系統を含む電気鉄道設備の保守作業を支援する情報を作成して前記携帯端末に送信する保守作業支援装置と、前記中央処理装置からの前記被制御所を制御する制御信号の誤出力を防止する出力処理部を備え、前記保守作業支援装置は、前記携帯端末からの入力情報に応じて、前記中央処理装置が被制御所の遮断器を開閉制御する制御信号をロックする信号を前記出力処理部に送出し、前記遮断器の開閉をロックして保守作業場所への給電を阻止する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上の構成を備えるため、作業員が保持する携帯端末と中央処理装置とを連携することができ、安全な作業環境を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかる電気鉄道設備の保守作業支援システムを説明する図である。
【図2】図1に示す保守作業支援システムにおける情報の流れを説明する図である。
【図3】携帯端末が作業支援装置より情報を取得する処理を説明する図である。
【図4】携帯端末を操作して作業支援装置に入力する情報を説明する図である。
【図5】携帯端末の操作に応じて行われる作業支援装置2の処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる電気鉄道設備の保守作業支援システムを説明する図である。
【0019】
図1に示すように、保守作業支援システムは、中央処理装置1、作業支援装置2、現地作業時に使用する携帯端末3、電力系統を監視制御する指令卓5、前記中央処理装置1より被制御所に至る通信回線6、前記通信回線6を介して制御される被制御所7―1、7−2、…7−nを備える。なお、4は前記作業支援装置2より中央処理装置に送信される誤出力防止信号である。
【0020】
前記中央処理装置1は各被制御所から収集した情報および作業支援装置2の情報を処理する表示/操作制御部11、各路線毎のき電線停電状態を表示する路線停電情報処理部12、乗り入れ運転を実施している他社路線のき電線状態あるいは運用業務上必要な情報を処理・表示する他社路線情報部13、路線別にき電線の状態の情報を表示するき電停電情報処理部14、各作業員等が被制御所に入出所した情報、および被制御所の異常情報を表示する被制御所入出所情報部15、停電作業あるいは線路上での作業を指令所指令員が管理する作業承認情報処理部16、被制御所の遮断器等の機器を投入/遮断を行う投入/遮断指令部17、前記投入/遮断部からの被制御所への出力信号を処理する出力処理部18を備える。
【0021】
前記作業支援装置2は、作業員より作業着手時の問合せに電子音声等により応答する音声問合せ応答部21、前記路線停電情報処理部及び前記き電停電情報処理部からの情報を通信回線を介して前記携帯端末に表示させるき電情報表示部22、前記き電情報のうち作業員が入場する作業場所に関連する区間の状況を表示する区間情報表示部23、時刻情報部24、作業員が入場する区間に関連する被制御所の機器の出力をロックする処理を前記出力処理部へ出力する誤出力防止処理部25を備える。なお、3は携帯端末、3−1は携帯端末を操作する作業員である。
【0022】
前記指令卓5は、中央処理装置が処理する各種情報を表示する指令卓監視制御画面5-1を備える。なお、5−2は指令卓を介し被制御所および全体き電系統を制御する指令員である。
【0023】
き電設備は、被制御所7−1、7−2、…、7−n、被制御所より電力を供給されるき電線、遮断器H11、H12、H21、H22、…、Hn1、Hn2、Hn3、Hn4を備える。なお、き電線は前記遮断器により複数のき電区間j1〜jnに分割される。
【0024】
図2は、図1に示す保守作業支援システムにおける情報の流れを説明する図である。
【0025】
図2において、作業員3-1は携帯端末3を操作して路線名、き電情報、作業場所、作業時間からなる入力情報3-3を入力し、電話回線3-2を介して前記作業支援装置2へ送信する。作業支援装置2は、前記入力情報3-3をもとに路線情報201、当日作業情報202、音声応答203、入所登録204、現在状況205、停電情報206、および制御除外の情報207を生成し、該情報を誤出力防止信号4として中央処理装置1内の作業承認情報処理部16へ送信する。これにより出力処理部18内の誤出力防止ロック41の第2段ロック412が作動する。
【0026】
また、指令員は指令卓を操作して、前記中央処理装置1の表示/操作制御部11、投入/遮断指令部17を介して被制御所を制御する。このとき、指令員52は指令卓5を介して、前記投入/遮断指令部17の制御にロックをかける誤出力防止信号4を出力処理部18の第1段ロック411に供給する。これにより第1段ロック411が作動する。
【0027】
実運用時には、前記指令員5−2は前記指令卓5を操作して前記被制御所7の機器を投入/遮断する。前記被制御所の遮断器を投入する際の投入信号は、前記投入/遮断指令部17、出力処理部の第1段ロック411および第2段ロック412介して被制御所7に送信される。出力処理部18は、前記第1段ロック411あるいは第2段ロック412の何れにロックがかかっている場合には、前記投入信号の前記被制御所への到達を阻止する。
【0028】
図3は、前記携帯端末3が作業支援装置2より情報を取得する処理を説明する図である。
【0029】
中央処理装置1は、各被制御所の状態およびき電線10の情報を通信回線を介して収集する。収集した情報は中央処理装置1内の路線停電情報処理部12、他社路線情報部13、き電停電情報処理部14によりそれぞれ処理され、作業支援装置2はこれらの情報をもとに線路情報を生成する。
【0030】
また、作業支援装置2は、中央処理装置1内の作業承認情報処理部16が備える作業承認情報をもとに当日作業情報202を生成する。
【0031】
生成した線路情報および当日作業情報は、電話回線3−2を介し前記携帯端末3に送信する。
【0032】
図4は、携帯端末3を操作して作業支援装置2に入力する情報を説明する図である。
【0033】
作業員3−1は携帯端末を操作して作業支援装置2内の前記音声応答203、入所登録204、前記現在状況入力205、前記停電情報206の各システムに情報を入力する。作業支援装置2は、これらの情報をもとに制御除外情報207を生成し、生成した情報を前記中央処理装置1の作業承認情報処理部16に送信する。作業承認情報処理部16は、受信した制御除外情報をもとに出力処理部18の第2段ロック412を作動させる。これにより、作業員の意に反して被制御所の遮断器が投入されることはない。
【0034】
図5は、携帯端末の操作に応じて行われる作業支援装置2の処理を説明する図である。図5において、ステップ121において、作業員は携帯端末を操作して路線名選択を行う。選択した路線名が正常であれば、ステップS122において区間選択を行う。ステップS122における区間選択が正常であれば、ステップS123において選択した区間が停電状態か否かを判断し、停電状態であれば、ステップS124において作業時間を入力する。前記作業時間を入力した後、ステップS125において、入力された全ての情報を中央処理装置に登録する。その後、ステップS126において、指令所指令員の承認を経た後、誤出力防止信号として出力処理部18の第2段ロック412に供給する
以上説明したように、本実施形態によれば、作業支援装置2を利用することにより夜間等に行われる保守作業を、現地作業員および指令所指令員等に分担させることができる。このため保守に要する作業量を均一化して、ヒューマンエラーに基づく事故を防止することができる。また、作業員の作業場所を簡易に把握することが可能であり、指令所指令員による作業員の安全確認作業を簡易化することができる。
【0035】
このように、本実施形態によれば、最終電車通過後から始発電車到着までの短時間に現地作業を効率よく実施できる。また、全体の作業量を軽減することが可能であり、ケアレスミスを抑制して事故を防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 中央処理装置
2 作業支援装置
3 携帯端末
5 指令卓
6 通信回線
7 被制御所
17 投入/遮断指令部
18 出力処理部
411 第1段ロック
412 第2段ロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源装置を備え、電気鉄道の列車にき電系統を介して電力を供給する被制御所と、
監視制御画面を表示する表示装置を有する指令卓を備え、該指令卓への操作入力に応じて前記被制御所を制御する中央処理装置と、
保守作業者が操作する携帯端末と通信回線を介して接続され、操作入力に応じて前記被制御所および前記き電系統を含む電気鉄道設備の保守作業を支援する情報を作成して前記携帯端末に送信する保守作業支援装置と、
前記中央処理装置からの前記被制御所を制御する制御信号の誤出力を防止する出力処理部を備え、
前記保守作業支援装置は、前記携帯端末からの入力情報に応じて、前記中央処理装置が被制御所の遮断器を開閉制御する制御信号をロックする信号を前記出力処理部に送出し、前記遮断器の開閉をロックして保守作業場所への給電を阻止したことを特徴とする電気鉄道設備の保守作業支援システム。
【請求項2】
電源装置を備え、電気鉄道の列車にき電系統を介して電力を供給する被制御所と、
監視制御画面を表示する表示装置を有する指令卓を備え、該指令卓への操作入力に応じて前記被制御所を制御する中央処理装置と、
保守作業者が操作する携帯端末と通信回線を介して接続され、操作入力に応じて前記被制御所の前記き電系統を含む電気鉄道設備の保守作業を支援する情報を作成して前記携帯端末に送信する保守作業支援装置と、
前記中央制御装置からの前記被制御所を制御する制御信号の誤出力を防止する出力処理部を備え、
該出力処理部は、指令卓からの信号により前記中央処理装置が被制御所を制御する制御信号をロックする第1のロック装置と、前記保守作業支援装置からの信号により前記制御信号ロックする第2のロック装置を備えたことを特徴とする電気鉄道設備の保守作業支援システム
【請求項3】
請求項2記載の電気鉄道設備の保守作業支援システムにおいて、
前記携帯端末からの操作入力は、線路名、作業場所、作業時間であることを特徴とする電気鉄道設備の保守作業支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−128865(P2011−128865A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286427(P2009−286427)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153443)株式会社日立情報制御ソリューションズ (359)