説明

電気鋳造方法

【課題】母型に電着する面と反対側の金属層表面の形状を制御することが可能な電気鋳造方法を提供する。
【解決手段】導電性基材13の上面に重ねて形成された絶縁層14にキャビティ15を開口して母型11を作製している。この母型11を電解槽内に配置して電圧を印加し、キャビティ15の底面に金属を電着させてキャビティ15内に金属成型品12を電気鋳造する。この電着工程においては、キャビティ15の幅をW、キャビティ15の上面開口と金属層18の上面との間のヘッドスペースの垂直高さをHとするとき、金属層18の上に残すヘッドスペースの高さHが、
300μm≦W なら、 H≧W/2.85
200μm≦W<300μm なら、 H≧W/3.75
100μm≦W<200μm なら、 H≧W/4
W<100μm なら、 H≧W/10
を満たすようにして、金属層18の成長を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属製品を成型するための電気鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工では製作困難な微細金属製品を製造する方法として、電気鋳造技術(電鋳法)が知られている。これは、母型に対して金属を膜厚メッキし、その厚膜メッキ(金属成型品)を母型から剥離させることで金属製品を成型する厚付けの電気メッキプロセスであって、一般的に20μmを超える厚みの電気メッキを電鋳という。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された方法では、金属製の母型の表面にフォトレジストを塗布し、これをパターニングして所望パターンの開口を有するレジスト膜を形成し、ついでレジスト膜の開口内、すなわち母型の表面のうちレジスト膜で覆われていない表面に金属を電着させて金属層(厚膜メッキ)を成型している。この後、母型から金属層を剥離させ、所望の形状の微細な金属成型品を得ている。
【0004】
しかしながら、母型の表面に金属を電着させる工程においては、レジスト膜に遮断された電流の一部がレジスト膜近傍の電着部分に流れ込んで電着量を部分的に増加させる結果、金属層の厚みが不均一になる不具合があった。特に、金属層の表面(母型に電着する面の反対側の面)のうちレジスト膜に接している縁の部分で金属層が盛り上がって金属層の厚みが部分的に厚くなっていた。
【0005】
そのため、特許文献1に開示された方法では、金属層をレジスト膜の厚みよりも若干厚く形成しておき、金属層の表面を研磨して平滑化することで金属層の厚みを均一にしている。
【0006】
上記のように、従来の電気鋳造方法では、金属層の表面(母型に電着する面の反対側の面)の形状が制御不能であり、金属成型品の成型可能な形状に大きな制約があった。また、金属成型品の形状を整えるためには、成形後に研磨処理などを行わねばならず、製造効率が悪く、その分製造コストが高くついていた。
【0007】
【特許文献1】特開平8−225983号公報(段落0002、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、母型に電着する面と反対側の金属層表面の形状を制御することが可能な電気鋳造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、本発明にかかる第1の電気鋳造方法は、導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、前記電着工程において、前記凹部の幅が300μm以上の場合に、前記凹部の幅の1/2.85倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴としている。
【0010】
また、本発明にかかる第2の電気鋳造方法は、導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、前記電着工程において、前記凹部の幅が200μm以上300μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/3.75倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴としている。
【0011】
また、本発明にかかる第3の電気鋳造方法は、導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、前記電着工程において、前記凹部の幅が100μm以上200μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/4倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴としている。
【0012】
また、本発明にかかる第4の電気鋳造方法は、導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、前記電着工程において、前記凹部の幅が100μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/10倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴としている。
【0013】
ここで、前記導電性基材とは、電鋳により金属層を析出させるための基材である。導電性基材は、表面がフラットな形状であってもよく、表面に凸凹や段差があっても構わない。電鋳時の電極として使用されるため、導電性基材は導電性を有していなければならないが、導電性基材の全体が導電材料でできている場合に限らない。不導電材料からなる芯材の表面全体あるいはその表面の一部に導電材料からなる導電性コート部を設けたものでもよい。また、導電材料からなる芯材の表面の一部に絶縁材料からなる絶縁性コート部を設けたものでもよい。
【0014】
前記絶縁層とは、電鋳時に導電性基材の表面を電気的に絶縁し、金属の電着を抑制する層であって、一般的にはレジストが用いられる。また、母型とは、導電性基材と絶縁層からなり、成型用の1つ又は複数の凹部が形成されたマスター電極である。電着とは、電解槽内に配置した一方の電極(母型)に積算通電量に比例した金属堆積物を析出させることである。
【0015】
凹部とは、導電性基材の上面において絶縁層によって形成されたキャビティであって、製作する金属成型品の反転形状を有している。凹部の幅とは、幅を定めようとする位置において、かつ、凹部の幅が最も狭い方向の断面において、金属層の成長を最終的に停止させる高さで測った開口幅をいう。凹部内に残す空間の高さとは、凹部内に析出した金属層の最上端から絶縁層の上面(凹部の上面開口)までの間の空間の垂直距離をいう。ただし、絶縁層の高さが不均一な場合には、金属層の最上端から、絶縁層の高さが最も低い箇所における絶縁層の上面までの垂直距離を凹部に残す空間の高さという。
【0016】
しかして、本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法にあっては、凹部の内部空間全体に金属を電気鋳造することなく、金属層の上部に所定の空間を残して金属層の成長を停止するようにすることで、凹部の上面開口の縁の絶縁層が、対向電極の凹部に正対しない部分から既に電着されている金属層に斜めに流れ込もうとする電流を遮断するので、電着される金属の厚みがばらつかない。このため、電気鋳造される金属層は、母型の絶縁層が形成されていない部分からの距離が一定となるように、均一に成長する。
【0017】
また、本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法にあっては、凹部の幅に応じて金属層の上部に残すべき空間の最小値(つまり、絶縁層のある厚みに対する金属層の厚みの最大値)を定めているので、凹部の幅と成型したい金属成形品の厚みによって決まる必要最小量の絶縁層厚み(つまり省部材)で効率良く金属成型品を成型することができる。
【0018】
本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法のある実施態様においては、前記母型形成工程において、前記凹部の底面の周縁部の少なくとも一部分に前記絶縁層を形成してもよい。金属層は、母型の絶縁層が形成されていない部分からの距離が一定となるように成長するので、かかる実施態様によれば、底面の外周部の絶縁層の上部に曲面を形成するように金属層を形成することができる。例えば、これによって、金属成型品の母型と反対側のエッジを面取りすることが可能になる。
【0019】
本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法の別な実施態様においては、前記凹部の底面に重なる領域で、前記導電性基材の上面に窪みを形成してあってもよい。かかる実施態様によれば、導電性基材の窪みによって凹部の底面形状を種々の形状にすることができるので、種々の形状の金属成型品を成型することが可能になる。
【0020】
本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法のさらに別な実施態様においては、前記凹部の底面に露出している前記導電性基材の表面が、電圧印加方向に垂直な面に対する傾斜角度が60°以下となる面を主として構成された集合であってもよい。かかる実施態様においては、母型の絶縁層が形成されていない面が、対向電極との間の電圧印加方向に垂直な面から60°より大きく傾斜しないようにすることで、その傾斜した面が対向電極からの電流を斜めに引き込み、金属層を不均一に成長させることを防止できる。ただし、電圧印加方向に垂直な面から60°より大きな傾斜角度を有する面であっても、凹部の底面全体の面積に比べて小さな面積であれば金属層に不均一が生じにくい。
【0021】
本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法のさらに別な実施態様においては、前記母型形成工程において、前記凹部の側壁面に前記凹部の開口面積を拡大する段差部を形成していてもよい。かかる実施態様によれば、金属成型品の一部を電圧印加方向と異なる方向に突出させることができる。
【0022】
本発明にかかる第1〜4の電気鋳造方法のある実施態様においては、前記電着工程において、前記電解槽内に流れた電流の積算通電量が所定値に達したときに前記電圧を停止するようにしてもよい。電着する金属の総量は、供給した電流の積算通電量に比例するので、直接測定しなくても、成長した金属層の厚みを制御することができる。
【0023】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属層の上に凹部の幅に応じた高さの空間を残して金属層の成長を停止するので、金属層に側方から電流が流れ込んで、成型した金属層の成長方向における厚みが均一になり、母型と反対側の表面を仕上げ加工する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態1による電気鋳造方法(以下、電鋳法という。)を説明するための断面図であって、母型11とその母型11を用いて電気鋳造された金属成型品12を示す。
【0027】
実施形態1で使用する母型11は、導電性基材13の平坦な上面に厚膜の絶縁層14を積層したものであって、絶縁層14には金属成型品12の反転型となる形状のキャビティ15(凹部)が形成されている。キャビティ15の底面には絶縁層14が残っておらず、キャビティ15の底面全体で導電性基材13の上面が露出している。母型11のキャビティ15内には、電鋳法によって金属成型品12が成形される。なお、図1はキャビティ15の長手方向に直交する方向(短手方向)の断面である。
【0028】
つぎに、上記のようにな母型11を用いて金属成型品12を製作する工程を説明する。図2は電鋳法によって金属成型品12を成型する工程を表しており、図2(a)〜(f)は母型11を形成するための工程(母型形成工程)を示し、図2(g)及び(h)はキャビティ15内に金属を電着させて金属成型品12を作製する工程(電着工程)を示し、図2(i)及び(j)は母型11から金属成型品12を剥離させる工程(剥離工程)を示す。なお、実際には、母型11に複数のキャビティ15を形成しておいて複数の金属成型品12を一度に作製するが、便宜上ひとつの金属成型品12を作製する場合について説明する。
【0029】
図2(a)は上面が平坦な金属製の導電性基材13であって、少なくとも上面には電着した金属成型品12を容易に剥離させるための処理が施されている。母型形成工程では、まず図2(b)に示すように、導電性基材13の上面に、スプレーコーターやスピンコーターによってネガ型フォトレジスト16を塗布して均一な厚みの厚膜を形成する。ついで、図2(c)のようにフォトレジスト16をプリベークした後、図2(d)に示すようにキャビティ15を形成する領域をマスク17で覆ってフォトレジスト16に露光する。フォトレジスト16の露光された領域は不溶化するため現像時に溶けないので、マスク17で覆われていた領域だけが現像によって溶解除去され、図2(e)に示すようにフォトレジスト16にキャビティ15が形成される。最後に、フォトレジスト16をポストベークすることでフォトレジスト16によって導電性基材13の上面に所定厚みの絶縁層14が形成される。こうして得られた母型11を図2(f)に示す。
【0030】
なお、図1や図2では導電性基材13の上面だけを絶縁層14で覆っているが、実際には、キャビティ15の内部以外に金属が電着しないよう、導電性基材13の下面や側面なども絶縁層で覆っている。
【0031】
電着工程では、図3に示すように、母型11を電解槽19内に配置し、直流電源20によって母型11と対向電極21との間に電圧を印加して電解液αに電流を流す。通電を開始すると、電解液α中の金属イオンが導電性基材13の表面に電着し、金属層18が析出する。一方、絶縁層14は、電流を遮断するので、母型11と対向電極21との間に電圧を印加しても、絶縁層14には直接金属が電着しない。このため、図2(g)に示すように、キャビティ15の内部にはその底面から電圧印加方向に金属層18が成長してゆく。
【0032】
このとき、電着した金属層18(金属成型品12)の厚みは、電流の積算通電量(すなわち、通電電流の時間積算量であって、図4(b)の斜線を施した領域の面積に相当する。)によって管理される。単位時間あたりに析出する金属量は電流値に比例するから、金属層18の体積は電流の積算通電量で決まり、金属層18の厚みは電流の積算通電量から知ることができるからである。
【0033】
例えば、直流電源20の電圧が、図4(a)に示すように、通電開始からの経過時間とともに次第に、かつ段階的に増加するとすると、対向電極21と母型11の間に流れる電流も、図4(b)に示すように、通電開始からの経過時間とともに次第に、かつ段階的に増加する。そして、通電電流の積算通電量を監視することによって金属層18が目的とする厚みに達したことを検知したら、直流電源20をオフにして通電を停止する。この結果、図2(h)に示すように、所望の厚みの金属層18によってキャビティ15内に金属成型品12が成型される。
【0034】
また、キャビティ15内に金属層18(金属成型品12)を成長させる電着工程においては、キャビティ15の幅が300μm以上の場合には、キャビティ15の幅の1/2.85倍以上の高さを有する空間(以下、ヘッドスペースという。)を残すように金属層18を成長させる。また、キャビティ15の幅が200μm以上300μm未満の場合には、キャビティ15の幅の1/3.75倍以上の高さを有するヘッドスペースを残すように金属層18を成長させる。また、キャビティ15の幅が100μm以上200μm未満の場合には、キャビティ15の幅の1/4倍以上の高さを有するヘッドスペースを残すように金属層18を成長させる。また、キャビティ15の幅が100μm未満の場合には、前記凹部の幅の1/10倍以上の高さを有するヘッドスペースを残すように金属層18を成長させる。つまり、本発明では、キャビティ15の幅をW、キャビティ15の上面開口(すなわち、絶縁層14の上面)と金属層18の上面との間のヘッドスペースの垂直高さをHとすると、金属層18の上に残すヘッドスペースの高さHが、
300μm≦W なら、 H≧W/2.85
200μm≦W<300μm なら、 H≧W/3.75
100μm≦W<200μm なら、 H≧W/4
W<100μm なら、 H≧W/10
を満たすように、金属層18の成長を停止させる。
【0035】
金属成型品12が成型されたら、図2(i)に示すように、エッチング等によって絶縁層14を剥離させ、さらに図2(j)に示すように、金属成型品12を導電性基材13から剥離させ、母型11の形状を反転転写した金属成型品12を得る。
【0036】
本発明の電鋳方法では、上記のように導電性基材13の上面に重ねるようにして厚膜の絶縁層14を形成し、絶縁層14を開口させることによって母型11にキャビティ15を形成しているので、フォトリソグラフィ技術などを利用して微細なキャビティ15を精密に作製することができ、そのため電鋳法によって微細で精密な金属成型品12を作製することが可能になる。
【0037】
(ヘッドスペースについて)
また、本発明の電鋳方法では、上記のようにキャビティ15の上部に所定の高さのヘッドスペースを残すようにして金属層18の成長を停止しているので、金属層18の上面とキャビティ15の上面開口との間にある距離Hを保つことができ、キャビティ15内に流れ込んで析出する金属イオンのうち、キャビティ15の上面開口周縁部でキャビティ15内へ斜めに流れ込む金属イオンをキャビティ15の上面開口の縁の絶縁層14によって遮断し、金属層18の上面全体に均一な電流を流して、金属層18を均一に成長させる。このため、金属層18が成長してなる金属成型品12は、導電性基材13と反対側の対向電極に対向する面が、導電性基材13の上面から一定の距離を有し、キャビティ15に倣った形状となる。
【0038】
以下においては、金属成型品12を成型する際に、金属成型品12の上に残すヘッドスペース高さHを、
300μm≦W なら、 H≧W/2.85
200μm≦W<300μm なら、 H≧W/3.75
100μm≦W<200μm なら、 H≧W/4
W<100μm なら、 H≧W/10
と定めた根拠を説明する(以下、これらの条件を成長停止条件と呼ぶ。)。
【0039】
なお、金属成型品12としては、円形板状や矩形板状など板状をしたものでもよく、一方向に長い形状をしたもの(例えば、図20を参照)でもよく、特に本発明によって製作される金属成型品12の形状には限定はない。よって、板状の金属成型品12を作製する場合では、断面の最も狭い方向における断面で上記成長停止条件を満たすようにすればよい。特に、一方向に長い形状をした金属成型品12では、幅方向(短手方向)の断面において上記成長停止条件を満たすように電着工程を管理すればよい。以下においては、一方向に長い形状をした金属成型品12を作製する場合を例にとって説明する。
【0040】
図5(a)はキャビティ15の幅Wとヘッドスペースの高さHとの関係を定めるために用いたサンプル22の形状を示す平面図である。また、図5(b)は図5(a)のA部の断面図である。このサンプル22は、帯状をしたフープ部23a、23b、23c間に一定ピッチ毎に細線部24(長さ4.5mm)を配列したものであり、その厚みは20μm〜300μmとした。この細線部24は、図20に示した成形品のように一方向に長く、かつ、3次元形状を有するものである。サンプル22は、サンプル22の反転形状をしたキャビティ15を有する母型11を用いて、そのキャビティ15内に金属を電着させるようにしたものである。そして、キャビティ15の幅W(短手方向の幅)やヘッドスペースの高さH、絶縁層14の幅Lなどを変化させたサンプルを作製し、図5(a)において破線で示した領域を解析用にカットし、その細線部24の厚みの均一具合を調べた。
【0041】
測定の結果によれば、ヘッドスペースの高さHをキャビティ15の幅Wと等しくするか、あるいはキャビティ15の幅Wよりも大きな高さとすれば(H/W≧1)、キャビティ15の幅W(つまり、細線部24の幅)に関係なく、細線部24に厚みばらつきが発生しないことが分かった。また、キャビティ15の幅Wが小さくなるほど、細線部24の厚みばらつきは小さくなる。(これらの様子は、図6から分かる。)
【0042】
図6は、金属層18の上に残すヘッドスペースの高さHを変化させて、キャビティ15内に金属を電着させて種々のサンプル22を作製し、ヘッドスペースの高さHと細線部24における厚みばらつきとの関係を実測により調べた結果を表している。母型11としては、キャビティ幅Wが100μmのもの、200μmのもの、300μmのもの、400μmのものを用いた。細線部24(金属成型品)の厚みばらつきとは、細線部24の幅方向に沿ってもっとも薄い箇所の厚みをT1、最も厚い箇所の厚みをT2としたとき、T2/T1で表されるものである。
【0043】
電鋳による金属成形品の厚みばらつきは、近年の部品の精密化によって1%以下であることが望まれている。したがって、図6において、細線部24の厚みばらつきが1.01以下であるための条件を定めると、キャビティ幅Wが400μmの場合には、ヘッドスペース高さHを140μm以上とする必要があり、キャビティ幅Wが300μmの場合には、ヘッドスペース高さHを80μm以上とする必要があり、キャビティ幅Wが200μmの場合には、ヘッドスペース高さHを50μm以上とする必要があり、キャビティ幅Wが100μmの場合には、ヘッドスペース高さHを10μm以上とする必要がある。
【0044】
細線部24の厚みばらつきとキャビティ幅Wに対するヘッドスペース高さHの比H/Wとの間に相関が見られたので、図6に基づいて、厚みばらつきが1.01となる場合の条件を横軸にキャビティ幅Wをとり、縦軸にH/Wの比をとって表したものが図7である。
【0045】
図6又は図7によれば、厚みばらつきを1.01以下に抑えるためには、キャビティ幅Wが300μm以上の場合には、キャビティ幅Wに対するヘッドスペース高さHの比を
H/W≧140/400=1/2.85
とする必要がある。また、キャビティ幅Wが200μm以上300μm未満の場合には、キャビティ幅Wに対するヘッドスペース高さHの比を
H/W≧80/300=1/3.75
とする必要がある。また、キャビティ幅Wが100μm以上200μm未満の場合には、キャビティ幅Wに対するヘッドスペース高さHの比を
H/W≧50/200=1/4
とする必要がある。また、キャビティ幅Wが100μm未満の場合には、キャビティ幅Wに対するヘッドスペース高さHの比を
H/W≧10/100=1/10
とする必要がある。
【0046】
図8は、金属層18の上に残すヘッドスペースの高さHを変化させて、キャビティ15内に金属を電着させて種々のサンプル22を作製し、ヘッドスペースの高さHと細線部24における厚みばらつきとの関係を実測により調べた結果を表している。母型11としては、キャビティ幅Wが300μmのものを用い、絶縁層14の幅Lを100μm、200μm、300μmと変化させた。
【0047】
この測定結果によれば、絶縁層幅Lがキャビティ幅Wの1/3倍よりも狭くなると、細線部24の厚みばらつきが小さくなることが分かる。なお、理論計算によれば、絶縁層幅Lがゼロになると、細線部24の厚みばらつきは発生しない。
【0048】
また、絶縁層幅Lとキャビティ幅Wの比L/Wが2/3以上である場合には、ヘッドスペース高さHが上記のような条件を満たせば、細線部24の厚みばらつきはキャビティ幅Wが300μmの場合とほぼ変化がない。すなわち、キャビティ幅Wが300μmの場合と同様に、比H/W≧1であれば、細線部24に厚みばらつきが発生せず、キャビティ幅Wが小さくなるほど、細線部24の厚みばらつきが小さくなる。また、
300μm≦W のとき、 H/W≧1/2.85
200μm≦W<300μm のとき、 H/W≧1/3.75
100μm≦W<200μm のとき、 H/W≧1/4
W<100μm のとき、 H/W≧1/10
であれば、細線部24の厚みばらつきを1%程度に小さくできる。特に、極端に絶縁層幅Lが大きくなったとしても、ヘッドスペース高さHとキャビティ幅Wの比H/Wが1/2.85以上であれば、細線部24の厚みばらつきを小さくできる。
【0049】
(絶縁層の形成方法について)
本発明では、導電性基材13の上面に重ねるように絶縁層14を形成しているので、スプレーコーターやスピンコーター(好ましくは、スプレーコーター)によって絶縁層14を均一な厚みに形成でき、またシャープな形状のキャビティ15を形成することができるため、シャープな形状の金属成型品12を作製することが可能になる。特に、スプレーコーターによれば、後述の実施形態のように導電性基材13の上面に凹凸がある場合にも、均一な厚みに絶縁層14を形成することができる。この点を比較例と対比しながら説明する。
【0050】
図9は比較例を示す断面図である。この比較例の母型101は、金属製の導電性基材103に直接にキャビティ105を形成し、キャビティ105の底面を除いて導電性基材103の表面に絶縁被膜104を形成したものである。そして、この母型101を電解槽内に設置し、キャビティ105の底面に金属イオンを電着させて金属成型品12を成長させたものである。
【0051】
このような母型101の場合には、電着レジストによって導電性基材103の表面に絶縁被膜104を形成する。図10(a)〜(d)は、電着レジストを用いた絶縁被膜104の形成方法を説明する図である。絶縁被膜104を形成する工程においては、図10(a)に示すように、キャビティ105を形成された導電性基材103は、対向電極106と対向させて電解槽107の電着レジスト液β中に配置される。直流電源109に通電すると、水が電気分解されて対向電極106には水素イオン108a(H)が吸着され、導電性基材103の表面には酸素イオン108b(O2−)が吸着される。さらに、図10(b)に示すように、電着レジスト液β中の成分である感光剤110(樹脂)が導電性基材103の表面の酸素イオンと反応して導電性基材103の表面で固化する。こうして導電性基材103の表面は、粒状をした感光剤110の固化物によって覆われる。この導電性基材103は、電解槽107から取り出した後、図10(c)に示すようにプリベークされる。80℃〜100℃程度の温度でプリベークすると、感光剤110の溶剤が揮発すると同時に感光剤110が流動し、感光剤110の穴などの欠陥部分が埋められる。ついで、図10(d)に示すように、120℃〜140℃程度の温度でポストベークして感光剤110の熱重合反応を促進させると、感光剤110がさらに流動して滑らかな被膜となり、導電性基材103の表面で感光剤110が焼き固められて絶縁被膜104が形成される。そして、キャビティ105の底面で絶縁被膜104を除去して導電性基材103を露出させ、母型101を形成する。
【0052】
しかし、このように電着レジストによって絶縁被膜104を形成する場合には、ポストベークされた感光剤110が流動する結果、図10(d)に示すように、導電性基材103の外エッジ部分(角部分)では導電性基材103が薄くなり、キャビティ105内の内エッジ部分(内隅部分)では導電性基材103が厚くなりやすい。その結果、導電性基材103によって形成されたキャビティ105(絶縁被膜形成前のキャビティ)に比べて絶縁被膜104で覆われたキャビティでは、短手方向の断面において内エッジ部分や外エッジ部分が丸味を帯びやすくなり、シャープな形状の金属成型品12を得にくくなっていた。
【0053】
図11は上記のようにして作製した母型101を用いて作製した金属成型品12を撮影した顕微鏡写真の平面図であって、併せてその一部を拡大して示している。図10において説明したように、電着レジスト法では、短手方向の断面において内エッジ部分や外エッジ部分が丸くなるが、実際には3次元形状のキャビティ105の角(辺)が丸くなるので、平面で見たときにもキャビティ105の内エッジ部分は丸味を帯びている。そのため、このキャビティ105内で成型された金属成型品12も、図11のように平面視で角が丸くなっている。図11から分かるように、この母型101を用いて金属成型品12を作製した場合、キャビティ105の内エッジ部分や外エッジ部分が絶縁被膜104によって丸味を帯びるため、導電性基材103にシャープな形状のキャビティ105が形成されていたとしても金属成型品12にシャープな形状を転写させることが困難であり、特に角や隅が丸くなる。
【0054】
これに対し、導電性基材13の上に形成した絶縁層14にキャビティ15を開口する方法では、導電性基材13の表面にスプレーコーターやスピンコーターを用いてレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術によってキャビティ15を開口するので、キャビティ15を精密に、かつシャープに形成することができる。図12はスプレーコーターとフォトリソグラフィ技術を用いて導電性基材13の上に形成した絶縁層14の断面写真を示す図である。なお、図12のサンプルでは、母型11をカットする際に絶縁層14の形状が崩れるのを防止するため、絶縁層14の上面とキャビティ15内部を樹脂111で固めている。
【0055】
本発明の母型11では、図12に示したようなシャープな形状のキャビティ15を形成することができるので、このキャビティ15内に金属成型品12を成型することでシャープな形状の金属成型品12を作製することが可能になる。
【0056】
(絶縁層の厚みについて)
また、本発明の電気鋳造方法にあっては、キャビティ15の幅に応じて金属層18の上部に残すべきヘッドスペースの最小高さ(つまり、絶縁層のある厚みに対する金属層の厚みの最大値)を定めているので、凹部の幅と成型したい金属成形品の厚みによって決まる必要最小量の絶縁層厚み(つまり省部材)で効率良く金属成型品を成型することができる。
【0057】
さらに、絶縁膜14の厚みを薄くできると、フォトリソグラフィ工程において絶縁層14のエッジ形状を高精度化しやすいので、金属成型品12の電鋳精度もそれに伴って高くなる。また、絶縁層14の厚みを薄くできると、フォトレジストの成膜時間や剥離時間が短くなり、金属成型品12の生産効率が向上する。その結果、金属成型品12の高品質化とローコスト化を図ることができる。
【0058】
(本発明の第2の実施形態)
図13(a)は本発明の実施形態2による母型31を示す断面図である。この母型31では、キャビティ15内において導電性基材13の上面に所望の形状の窪み32を形成してあり、この窪み32がキャビティ15の一部を構成している。よって、このキャビティ15内に金属を電着させることにより、より高度な形状の金属成型品12を成型することができる。
【0059】
また、図13(a)に示す実施形態ではキャビティ15の底面の一部に窪み32を形成したが、図13(b)に示す別な実施形態のように、キャビティ15の底面の全体に窪み32を形成していてもよい。
【0060】
また、図14に示すさらに別な実施形態では、キャビティ15の底面よりも広い範囲にわたって導電性基材13の上面に窪み32を形成してあり、窪み32の一部を絶縁層14によって埋めている。
【0061】
なお、図13(a)、(b)、図14のように金属成型品12の上面が平坦でない場合には、ヘッドスペース高さHは、金属成型品12の最も高い位置から測るものとする。また、図13(a)、(b)のように絶縁層14の高さが均一でない場合には、ヘッドスペース高さHは、絶縁層14の最も低い箇所の上面までの高さを測るものとする。従って、図13(a)、(b)のような場合には、ヘッドスペース高さHは、金属成型品12の最も高い位置から、絶縁層14の最も低い箇所の上面までの垂直距離となる。また、図13(a)、(b)、図14のように短手方向の断面において、導電性基材13の上面(窪み32)が傾斜面で形成されている場合には、厚みばらつきは、その傾斜面に垂直な法線方向における厚みで評価する。
【0062】
(本発明の第3の実施形態)
図15は本発明の実施形態3による母型41と金属成型品12の長手方向に沿った断面図である。本実施形態では、キャビティ15の底面形状について、長手方向を例にして説明をするが、これは短手方向の底面でも同様のことが言え、長手および短手が両方とも斜めの場合も成立する。ただし、どの場合においても、あくまで短手方向は実施形態1で述べた範囲内で電着を行っている。本実施形態においては、短手方向の断面においては、実施形態1において説明したような条件で電着を行っているが、さらに長手方向においても実施形態1で述べたような条件に従って電鋳を行うことにより、実施形態1のように上段の平面部42aと下段の平面部42cで比較した場合、1%以内の厚みばらつきに入らないまでもかなりの高精度に厚みばらつきを小さくすることができる。この母型41に形成されたキャビティ15は、その底面の深さが異なり、それぞれ対向電極に正対(電圧印加方向に垂直)する3つの平面部42a,42b,42cと、各平面部42a,42b,42cを接続し、電圧印加方向に垂直な面に対して傾斜する傾斜面部43a,43bとからなる。
【0063】
ここで、ヘッドスペースの高さHは、キャビティ15の最も浅い部分に残る空間の高さである。この図15が示すように、キャビティ15の長手方向においては、ヘッドスペースの高さHに比してキャビティ15の長さが長くても、ヘッドスペースの高さHがキャビティ15の幅(紙面の奥行き方向の長さ=凹部の幅)Wに対して前記のいずれかの条件を満たしていれば、金属成型品12の厚みばらつきを小さくすることができる。
【0064】
また、傾斜面部43a,43bを有する底面に対して、金属層18は、平面部42a,42b,42cおよび傾斜面部43a,43bにそれぞれ厚みが等しくなる(底面からの距離が一定になる)ように積層して電着される。平面部42aと傾斜面部43aとが形成する角部、および、平面部42bと傾斜面部43bとが形成する角部でも、金属層18は、その厚みがほぼ等しくなる(キャビティ15の底面からの距離が一定になる)ように積層して電着する。図15に示す矢印は、金属層18の成長方向を示すベクトルである。
【0065】
なお、図15は長手方向の断面を表しているが、仮にこれが短手方向の断面であると仮定した場合には、厚みばらつきを算出するに当たっては、傾斜面部における金属層18の厚みは考慮せず、底面が水平な各面における金属層18の厚みを測定し、最も薄い箇所の厚みT1に対する最も厚い箇所の厚みをT2の比T2/T1を厚みばらつきとする。すなわち、短手方向の断面において、実施形態1のようにキャビティ15の底面が水平面である場合や、実施形態2のようにキャビティ15の底面が傾斜面である場合には、水平面あるいは傾斜面の法線方向の厚みを評価するが、水平面と傾斜面が混在している場合には、水平面における厚みだけで評価する。
【0066】
図16に、傾斜面部43a,43bの傾斜角度θ(電圧印加方向に垂直な面との間になす角度)を変えて、金属層18の厚みばらつきを測定した結果を示す。図示するように、傾斜面部43a,43bの傾斜角度θが60°以下であれば、金属層18の厚みばらつきは、1%以下であり、全く問題がない。しかしながら、傾斜面部43a,43bの傾斜角度θが60°を超えると、金属層18の厚みばらつきが生じる。尚、この金属層18の厚みばらつきは、中段の平面部42bに比べて、上段の平面部42aおよび下段の平面部42cにおいて、大きくなる傾向がある。
【0067】
よって、キャビティ15の底面に露出している導電性基材13の窪み32の表面は、電圧印加方向に垂直な面に対する傾斜角度がほぼ60°以下となるようにすることが望ましい。図17は、導電性基材13の上面に傾斜角度が60°以上の傾斜面を有する窪み32を設けた場合に、金属層18の成長する様子を示す図である。このように傾斜角度が60°を超えると、電流が不均一になって金属層18の厚みを制御することが困難になる。しかし、図18に示すように、窪み32の周縁部分の傾斜角度が60°以上となっている場合のように、傾斜角度が60°以上の領域が存在しても一部分であればほとんど影響はない。また、この図18のように導電性基材13の上面に鋭い変曲点部分が存在する場合には、図18に矢印で示すように当該変曲点部分では金属層18は変曲点を中心として均等な厚みとなるように成長するので、導電性基材13の変曲点部分に対応する金属層18の上面の変曲点部分はアール形状になだらかとなる。図13、図14、図23(b)等の図示例では、金属層18の上面も導電性基材13の上面と同じように屈曲しているが、実際の金属成型品12では屈曲部分が丸味を帯びてアール形状になる。
【0068】
このように、本発明では、傾斜面部43a,43bの傾斜角度θをほぼ60°以下にするように、底面に深さの変化を設けることで、金属成型品12のデザインを、厚みを一定に保ちながら、電圧印加方向に屈曲したものとすることもできる。換言すると、キャビティ15の底面は、必ずしも対向電極に正対する必要がない。
【0069】
なお、絶縁層14の高さは均一でなくともよいので、図19に示すように、長手方向における絶縁層14の高さの低い箇所では、金属層18の上面の最も高い位置よりも低くなっていて差し支えない。ただし、図19のような場合でも、短手方向の断面で見た場合の絶縁層14は、金属成型品12に対して実施形態1のような条件は成立している。
【0070】
実施形態3の一例として、図20に、本発明により形成した電子部品用の接点部材の形状を示す。本発明によれば、このような形状の金属部品を、いかなる仕上げ加工も必要とせず、電気鋳造のみによって形成できる。
【0071】
(本発明の第4の実施形態)
図21は、本発明の実施形態4による母型51のキャビティ15と、金属層18の成長過程とを示す。図21における矢印は、金属層18の成長する方向と成長量を示すベクトルである。このキャビティ15は、キャビティ15の側壁面の中程に、段差部52を形成することで、キャビティ15の断面積を途中から拡大して、キャビティ15の開口面積を底面よりも大きくしている。また、絶縁層14がキャビティ15の底面上の周縁部の一部を覆うように延伸している。底面における絶縁層14の延伸部分を絶縁層14aで示す。
【0072】
このキャビティ15を用いて電気鋳造すると、先ず、キャビティ15の底面のうち絶縁層14aに覆われていない領域に金属が電着して金属層18が形成される。さらに電圧を印加し続けると、金属層18は、底面の絶縁層14aに覆われていない部分からの距離が一定になるようにして、かつ、絶縁層14aの上に覆い重なるように成長する。
【0073】
さらに、電流を流して金属層18を成長させると、段差部52の上にも金属層18が張り出して成長する。このとき、絶縁層14aに覆われていない底面から見て段差部52の陰になる部分には、段差部52のエッジからの距離が一定になるように金属層18が成長する。
【0074】
このように、キャビティ15に段差部52を設けることで、金属成型品12は、段差部52の上部に張り出した形状に鋳造される。また、キャビティ15の底面の周縁部を絶縁層14aで覆うことで、その上部において金属成型品12を面取りした形状にすることができる。すなわち、本変形例を用いることで、母型11の形状を反転転写した形状の表面に、アール状の面取りを追加した金属部品を形成することができる。
【0075】
図22は、キャビティ15の底面に絶縁層14aを設けた別な例を示す断面図である。この母型61では、ている。キャビティ15の底面の両側部もしくは外周縁に沿って絶縁層14が底面の一部を覆うように延伸して底面の絶縁層14aを形成している。この母型61を用いた場合にも、底面の絶縁層14aに覆われていない部分からの距離が一定になるようにして、かつ、絶縁層14aの上に覆い重なるように金属層18が成長することで、金属成型品12の上面外周部がアール状に湾曲して形成される。
【0076】
なお、この実施形態のように、キャビティ15の底面の一部絶縁層14aによって覆われていて金属層18の上面の一部が湾曲している場合には、金属層18の厚みばらつきは、導電性基材13が露出している領域の上の金属層18の垂直方向における厚みがほぼ均一となっている領域で評価する。
【0077】
(その他の実施形態)
以下においては、種々の形状の母型71〜88を示す。
【0078】
図23(a)は、上方で幅が狭くなるように両側面にテーパーのついた絶縁層14を有する母型71を用いたものである。
【0079】
図23(b)に示す母型72は、導電性基材13の上面に窪み32を有し、一方の側壁面の絶縁層14は窪み32の外にあり、他方の絶縁層14は窪み32内に入り込んだものである。
【0080】
図24(a)に示す母型73は、絶縁層14を絶縁層91a、91bの2層構成とし、開口幅の狭い絶縁層91aの上に開口幅の広い絶縁層91bを重ねている。
【0081】
図24(b)に示す母型74は、上方で狭くなった断面テーパー状の絶縁層91aの上に、それよりも開口幅の広い絶縁層91bを重ねて2層構成の絶縁層14としたものである。
【0082】
図24(c)に示す母型75は、キャビティ15の底面にV溝状の窪み32を形成すると共に、開口幅の狭い絶縁層91aの上に開口幅の広い絶縁層91bを重ねて絶縁層14を2層構成としたものである。
【0083】
図24(d)に示す母型76は、図23(b)の母型72をもとにして、その絶縁層14を開口幅の狭い絶縁層91aと開口幅の広い絶縁層91bの2層構成としたものである。
【0084】
図25(a)に示す母型77は、不導電材料(絶縁材料)からなる芯材92aの表面を導電材料からなる導電性コート部92bで被覆した導電性基材13を用いたものである。
【0085】
図25(b)〜(d)に示す母型78〜80も、不導電材料(絶縁材料)からなる芯材92aの表面を導電材料からなる導電性コート部92bで被覆した導電性基材13を用いたものであり、さらに図25(b)の母材78ではテーパー状の絶縁層14を用いており、図25(c)、(d)の母型79、80では窪み32を有する導電性基材13を用いている。
【0086】
図26(a)〜(d)に示す母型81〜84は、いずれも絶縁層14を絶縁層91a、91bの2層構成とし、開口幅の狭い絶縁層91aの上に開口幅の広い絶縁層91bを重ねると共に、不導電材料(絶縁材料)からなる芯材92aの表面を導電材料からなる導電性コート部92bで被覆した導電性基材13を用いたものである。
【0087】
図27(a)に示す母型85は、導電性基材13の上面に窪み32を形成し、絶縁層14を窪み32の一部に入り込むように形成すると共に、キャビティ15の底面において絶縁層14aを延出させたものである。また、図27(b)の母型86は、さらに絶縁層14を絶縁層91a、91bの2層構成としたものである。また、図28(a)、(b)の母型87、88は、さらに不導電材料(絶縁材料)からなる芯材92aの表面を導電材料からなる導電性コート部92bで被覆した導電性基材13を用いたものである。
【0088】
本発明に用いる母材としては上述のように種々の形状、構造のものを用いることができるが、どのような母材においても、ヘッドスペース高さHやキャビティ幅Wは、つぎのように定義される。ヘッドスペース高さは、例えば図23、図24などに示すように、作製された金属成型品12の最も高い位置からキャビティ15の上面開口の高さ(すなわち、絶縁層14の上面の位置する高さの平面)までの垂直距離である。但し、絶縁層14の上面の高さにばらつきがある場合には、図13(a)、(b)に示すように、最も低い位置における絶縁層14の上面までの垂直距離とする。また、キャビティ幅Wは、金属成型品12の上面が位置する高さにおけるキャビティ15の幅である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、本発明の実施形態1による電気鋳造方法に用いる母型を示す断面図である。
【図2】図2(a)〜(j)は、実施形態1の電鋳法によって金属成型品を成型する工程を表した概略断面図である。
【図3】図3は、電解槽内に配置した母型を示す断面図である。
【図4】図4(a)は、電解槽の電極間に印加する電圧の変化を示す図、図4(b)は、電解槽内に流す電流の変化を示す図である。
【図5】図5(a)は、キャビティの幅とヘッドスペースの高さとの関係を定めるために用いたサンプルの形状を示す平面図である。図5(b)は、図5(a)のA部の断面を拡大して示した図である。
【図6】図6は、金属層の上に残すヘッドスペースの高さHを変化させて、キャビティ内に金属を電着させて種々のサンプルを作製し、ヘッドスペースの高さHとサンプルの細線部における厚みばらつきとの関係を調べた結果を示す図である。
【図7】図7は、細線部の厚みばらつきが1.01となる場合の条件を横軸にキャビティ幅Wをとり、縦軸にH/Wの比をとって表した図である。
【図8】図8は、金属層の上に残すヘッドスペースの高さHを変化させて、キャビティ内に金属を電着させて種々のサンプルを作製し、ヘッドスペースの高さHとサンプルの細線部における厚みばらつきとの関係を調べた結果を示す図である。
【図9】図9は、比較例を示す断面図である。
【図10】図10(a)〜(d)は、電着レジストを用いた絶縁被膜の形成方法を説明する図である。
【図11】図11は、比較例の母型を用いて作製した金属成型品の平面図である。
【図12】図12は、スプレーコーターとフォトリソグラフィ技術を用いて導電性基材の上に形成した絶縁層の断面を示す図である。
【図13】図13(a)は本発明の実施形態2による母型を示す断面図である。図13(b)は実施形態2の別な母型を示す断面図である。
【図14】図14は、実施形態2のさらに別な母型を示す断面図である。
【図15】図15は、本発明の実施形態3による母型と金属成型品の長手方向に沿った断面を示す断面図である。
【図16】図16は、傾斜面部の傾斜角度θを変えて、金属層の厚みばらつきを測定した結果を示す図である。
【図17】図17は、導電性基材の上面に傾斜角度が60°以上の傾斜面を有する窪みを設けた場合に、金属層の成長する様子を示す図である。
【図18】図18は、導電性基材の窪みの一部で傾斜角度が60°以上となっていても金属層の成長にほとんど影響がないことを説明するための断面図である。
【図19】図19は、実施形態3の異なる例を示す断面図である。
【図20】図20は、本発明により形成した電子部品用の接点部材の形状を示す斜視図である。
【図21】図21は、本発明の実施形態4による母型のキャビティと、金属層の成長過程とを示す図である。
【図22】図22は、実施形態4の別な例を示す断面図である。
【図23】図23(a)、(b)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【図24】図24(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【図25】図25(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【図26】図26(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【図27】図27(a)、(b)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【図28】図28(a)、(b)はそれぞれ、本発明の異なる実施形態の母型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0090】
11、31、41、51、61、71〜88 母型
12 金属成型品
13 導電性基材
14、14a 絶縁層
15 キャビティ
18 金属層
19 電解槽
21 対向電極
32 窪み
42a,42b,42c 平面部
43a,43b 傾斜面部
52 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、
前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、
前記電着工程において、前記凹部の幅が300μm以上の場合に、前記凹部の幅の1/2.85倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴とする電気鋳造方法。
【請求項2】
導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、
前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、
前記電着工程において、前記凹部の幅が200μm以上300μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/3.75倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴とする電気鋳造方法。
【請求項3】
導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、
前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、
前記電着工程において、前記凹部の幅が100μm以上200μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/4倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴とする電気鋳造方法。
【請求項4】
導電性基材の上面に重ねて絶縁層を形成し、前記絶縁層に凹部を設けると共に前記凹部の底面の少なくとも一部で前記導電性基材を露出させて母型を形成する母型形成工程と、
前記母型を電解槽内に配置して電圧を印加し、前記凹部内における前記導電性基材の露出面に金属を電着する電着工程とを備えた電気鋳造方法であって、
前記電着工程において、前記凹部の幅が100μm未満の場合に、前記凹部の幅の1/10倍以上の高さを有する空間を残すようにして前記凹部内に金属層を成長させることを特徴とする電気鋳造方法。
【請求項5】
前記母型形成工程において、前記凹部の底面の周縁部の少なくとも一部分に前記絶縁層を形成することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気鋳造方法。
【請求項6】
前記凹部の底面に重なる領域で、前記導電性基材の上面に窪みを形成していることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気鋳造方法。
【請求項7】
前記凹部の底面に露出している前記導電性基材の表面は、電圧印加方向に垂直な面に対する傾斜角度が60°以下となる面を主として構成された集合であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気鋳造方法。
【請求項8】
前記母型形成工程において、前記凹部の側壁面に前記凹部の開口面積を拡大する段差部を形成したことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気鋳造方法。
【請求項9】
前記電着工程において、前記電解槽内に流れた電流の積算通電量が所定値に達したときに前記電圧を停止することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−84158(P2010−84158A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251085(P2008−251085)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)