説明

電池の製造方法

【課題】初期充電の際に発生したガスが電極体の正負極板間に溜まるのを防止または抑制できると共に、生産設備のコストを低くできる電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】電池100の製造方法は、大気圧Paよりも減圧された内圧Pbとして、電池ケース110を気密に封止する減圧封止工程と、その後、電池100に初期充電を行う初期充電工程とを備える。減圧封止工程は、圧縮具200で電池100のうちケース主壁部110c,110d間を挟んで、電極体主平面120c,120dの全面を押圧して、電極体120をその厚み方向BHに圧縮した状態で行い、初期充電工程は、電池外の部材でケース主壁部110c,110dを押圧することなく行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自身の厚み方向に直交する一対の電極体主平面を有する、扁平状捲回型または積層型の電極体と、この電極体を収容し、一対の電極体主平面にそれぞれ対向する一対のケース内主面を含む一対のケース主壁部を有する電池ケースとを備える電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、扁平状捲回型または積層型の電極体と、この電極体を収容する電池ケースとを備える電池が知られている。扁平状捲回型または積層型の電極体は、自身の厚み方向に直交する一対の電極体主平面を有し、電池ケースは、これらの電極体主平面にそれぞれ対向する一対のケース内主面を含む一対のケース主壁部を有する。
このような電池の製造過程において、電池に初期充電を行うと、電解液の一部が分解してガスが発生する。その際、電池(その電極体)が厚み方向に圧縮されていないと、発生したガスの一部が電極体から抜けずに、正負極板間に溜まり易くなる。このガスは、正負極板間内で移動し離合集散を繰り返すため、正負極板間には、ガスが接しているために充電できない部分と、電解液に接していて充電できる部分とが現れ、しかも、これらの部分が移動する。このため、正負極板全体について初期充電するのに時間が長く掛かり、製造コストが高くなる。
【0003】
また、初期充電で発生したガスが、正負極板間に局所的に溜まり続ける場合もある。このようにガスが溜まった部分では、充放電反応が十分に進行せず、正負極板内で充放電反応が不均一になるため(反応ムラが生じるため)、電池容量や内部抵抗など電池の特性バラツキが大きくなる。
従って、初期充電を行う際には、電池外の圧縮具を用いて、電池のうち一対のケース主壁部間を挟んで、その一対のケース内主面で一対の電極体主平面をそれぞれ押圧し、電極体をその厚み方向に圧縮することにより、発生したガスが正負極板間に溜まり難くなるようにしていた。
【0004】
なお、関連する先行技術文献として、例えば特許文献1〜3が挙げられる。特許文献1には、扁平形状の捲回電極体が入れられた直方体形状の電池ケースのうち、一対の幅広面を両側から挟み込み、その挟み込み方向に電池ケースを押圧する拘束状態で、充電工程やエージング工程を行う旨が記載されている(特許文献1の特許請求の範囲、図2等を参照)。
【0005】
また、特許文献2には、積層型または捲回型の電極群を有する電池において、初回充電工程を実施するよりも前に、電池の厚さ方向の両側に固定板を配置して、この固定板により電池を挟持しておき、初回充電工程等で電池が膨張するのを抑制するのが好ましい旨が記載されている(特許文献2の段落(0053)、図2等を参照)。
また、特許文献3には、初期充放電を行うよりも前に、2枚の拘束板で電池を厚み方向に拘束しておき、初期充放電等で電池の膨張を抑制する旨が記載されている(特許文献2の段落(0024)、図2,5等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−21104号公報
【特許文献2】特開2010−80105号公報
【特許文献3】特開2008−27741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電池に圧縮具を装着した状態で初期充電を行うとすると、電池を量産するにあたって、多くの圧縮具が必要となる。また、圧縮具は、適切な圧縮力を発生し維持できるように、一般に金属製とされ、重くならざるを得ない。このため、電池に圧縮具を装着した状態で初期充電を行えるようにするには、その重量に耐え得る設備が必要となる。このため、生産設備のコストが高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、初期充電の際に発生したガスが電極体の正負極板間に溜まるのを防止または抑制できると共に、生産設備のコストを低くできる電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、自身の厚み方向に直交する一対の電極体主平面を有する、扁平状捲回型または積層型の電極体と、前記電極体を収容し、一対の前記電極体主平面にそれぞれ対向する一対のケース内主面を含む一対のケース主壁部を有する電池ケースと、を備える電池の製造方法であって、前記電極体が収容された前記電池ケースの内圧を、大気圧Paよりも減圧された内圧Pbとした上で、前記電池ケースを気密に封止する減圧封止工程と、前記減圧封止工程の後、前記電池について初期充電を行う初期充電工程と、を備え、前記減圧封止工程は、電池外の圧縮具で前記電池のうち一対の前記ケース主壁部間を挟んで、一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行い、前記初期充電工程は、電池外の部材で前記ケース主壁部を押圧することなく、前記電池ケースの内外の気圧差により一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行う電池の製造方法である。
【0010】
この電池の製造方法において、減圧封止工程では、圧縮具により、電池のうち一対のケース主壁部間を挟んで、その一対のケース内主面で一対の電極体主平面の全面をそれぞれ押圧し、電極体をその厚み方向に圧縮する。これにより、電極体主平面の全面が均一に押圧され、電極体がその厚み方向に均一に圧縮された状態(均一圧縮状態)となる。そして、この状態を保ちつつ、電池ケース内を内圧Pbに減圧して封止する。すると、封止後の電池では、電池ケース内が負圧となるので、封止後に圧縮具を取り外しても、電池ケースの内外の気圧差によって、電極体が厚み方向に均一に圧縮された均一圧縮状態を維持できる。
【0011】
このため、その後、圧縮具など電池外の部材でケース主壁部を押圧することなく、初期充電を行っても、電池ケースの内外の気圧差によりケース内主面で電極体主平面の全面を押圧して電極体を厚み方向に圧縮した状態で、初期充電を行うことができる。従って、初期充電工程を行った際にガスが発生しても、このガスが正負極板間に溜まるのを防止または抑制できる。よって、初期充電に要する時間を短くでき、製造コストを低くできると共に、電池容量や内部抵抗など電池の特性バラツキが小さい電池を製造できる。一方、初期充電工程で圧縮具を用いなくて済むので、量産に要する圧縮具の数量を少なくできる、初期充電工程のための設備を簡素化できるなど、生産設備のコストを低くできる。
【0012】
更に、上記の電池の製造方法であって、前記初期充電工程の後、前記電池についてエージングを行うエージング工程を備え、前記エージング工程は、電池外の部材で前記ケース主壁部を押圧することなく、前記電池ケースの内外の気圧差により一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行う電池の製造方法とすると良い。
【0013】
電池にエージングを行っている際にもガスが発生し得る。この場合も、電極体が厚み方向に圧縮されていないと、前述と同様、ガスの一部が正負極板間に溜まり易くなる。しかし、電池に圧縮具を装着した状態でエージングを行うとすると、エージングの期間中(例えば数日〜数十日程度にわたり)、圧縮具が必要になる。このため、特に多くの圧縮具が必要となる。また、エージングを行う設備も圧縮具の重量に耐え得る設備が必要となる。従って、生産設備のコストが特に高くなる。
【0014】
これに対し、この電池の製造方法では、前述の減圧封止工程を行うことで、封止後の電池では、電池ケースの内外の気圧差によって、電極体が厚み方向に均一に圧縮された均一圧縮状態を維持できる。このため、圧縮具など電池外の部材でケース主壁部を押圧することなく、エージングを行っても、電池ケースの内外の気圧差によりケース内主面で電極体主平面の全面を押圧して電極体を厚み方向に圧縮した状態で、エージングを行うことができる。従って、エージング工程を行った際にガスが発生しても、このガスが正負極板間に溜まるのを防止または抑制できる。よって、電池容量や内部抵抗など電池の特性バラツキが小さい電池を製造できる。一方、エージング工程で圧縮具を用いなくて済むので、量産に要する圧縮具の数量を少なくできる、エージング工程のための設備を簡素化できるなど、生産設備のコストを低くできる。
なお、「エージング」とは、所定の充電状態、所定のエージング温度で、所定のエージング時間、電池を安置する処理を指す。
【0015】
更に、上記のいずれかに記載の電池の製造方法であって、前記減圧封止工程は、前記圧縮具により、前記電極体主平面に掛かる圧力Poが75kPa以上となる力で前記電池を挟み、前記内圧Pbを、大気圧Paを基準としたゲージ圧表記で−75kPa以下とする電池の製造方法とすると良い。
【0016】
圧縮具によって電極体主平面に掛かる圧力Poを75kPa以上とすることで、電極体が厚み方向に十分に圧縮された状態とすることができる。そして、内圧Pbを−75kPa以下として電池ケースを気密封止することで、封止後の電池ケースの内外の気圧差が十分に大きくなり、封止後の電池においても、電極体が厚み方向に十分に圧縮された状態とすることができる。従って、初期充電工程やエージング工程の際にガスが正負極板間に溜まるのをより効果的に防止できる。
なお、本明細書では、原則として、内圧Pb等を、絶対真空を基準(零点)とした絶対圧ではなく、大気圧を基準(零点)としたゲージ圧で記載する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るリチウムイオン二次電池を示す縦断面図である。
【図3】実施形態に係り、電極体を示す斜視図である。
【図4】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法に関し、圧縮具により電池を挟んで電極体を厚み方向に圧縮した状態を示す断面図である。
【図5】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法に関し、圧縮具により電池を挟んで電極体を厚み方向に圧縮した状態を示す平面図である。
【図6】実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法に関し、減圧封止工程後、電池ケースの内外の気圧差によって、電極体が厚み方向に均一に圧縮された均一圧縮状態を示す断面図である。
【図7】実施形態に係るリチウムイオン二次電池に関し、減圧封止工程において電極体主平面に掛かる圧力Poと、初期充電工程において初期充電に要する初期充電時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1及び図2に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100(以下、単に電池100とも言う)を示す。また、図3に、この電池100を構成する扁平状捲回型の電極体120を示す。なお、図1及び図2における上方を電池100の上側、下方を電池100の下側として説明する。また、本実施形態では、電池100並びにこれを構成する電池ケース110及び電極体120の厚み方向をBH、幅方向をCH、高さ方向をDHとして説明する。
【0019】
この電池100は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両や、ハンマードリル等の電池使用機器に搭載される角型電池である。この電池100は、直方体形状の電池ケース110、この電池ケース110内に収容された扁平状捲回型の電極体120、電池ケース110に支持された正極端子150及び負極端子160等から構成されている(図1及び図2参照)。また、電池ケース110内には、非水系の電解液117が保持されている。
【0020】
このうち電池ケース110(図1及び図2参照)は、金属(具体的にはアルミニウム)により形成されている。この電池ケース110は、ケース上壁部110aと、これに平行なケース下壁部110bと、これらの間を結ぶ4つのケース側壁部(第1ケース側壁部110c、第2ケース側壁部110d、第3ケース側壁部110e及び第4ケース側壁部110f)とからなる直方体形状をなす。
【0021】
4つのケース側壁部のうち、第1ケース側壁部110c及び第2ケース側壁部110dは、互いに平行に位置し、幅広で(幅方向CHの寸法が大きく)最も面積の大きいケース壁部であり、前述の一対のケース主壁部に相当する。また、第1ケース側壁部110cのうち、電池内部に位置する第1ケース内側面110cn、及び、第2ケース側壁部110dのうち、電池内部に位置する第2ケース内側面110dnが、前述の一対のケース内主面に相当する。第1,第2ケース側壁部110c,110dは、その周縁部110cm,110dmを除く中央平面部110cg,110dgが、それぞれ厚み方向BHに電池内部側に凹んで電池内部側に位置している。
また、残りの第3ケース側壁部110e及び第4ケース側壁部110fは、互いに平行に位置し、幅狭で(幅方向CHの寸法が小さく)面積の小さいケース壁部である。
【0022】
この電池ケース110は、ケース本体部材111とケース蓋部材113とから構成されている。このうちケース本体部材111は、前述のケース下壁部110b及び4つのケース側壁部110c,110d,110e,110fからなり、上側のみが開口した箱状をなす。また、ケース蓋部材113は、前述のケース上壁部110aからなる矩形板状であり、ケース本体部材111の開口111hを閉塞する形態で、ケース本体部材111に溶接されている。
【0023】
ケース蓋部材113には、その長手方向の中央付近に、電池ケース110の内圧が所定圧力に達した際に破断する非復帰型の安全弁113vが設けられている。
また、ケース蓋部材113のうち、この安全弁113vの近傍には、電解液117を電池ケース110内に注入するために用いられる注液孔113hが、ケース蓋部材113を貫通する形態で設けられている。この注液孔113hは、後述するように、電池ケース110内が大気圧Pa(=0kPa)よりも減圧された状態(負圧状態)で、封止部材115により気密に封止されている。この封止部材115は、電池ケース110の材質と同じ材質(具体的にはアルミニウム)からなる円板状をなし、注液孔113hを電池外部から覆う形態で、ケース蓋部材113に固着(具体的には溶接)されている。
【0024】
また、ケース蓋部材113には、それぞれ電池ケース110の内部から外部に延出する形態の通電端子部材151からなる正極端子150及び負極端子160が固設されている。具体的には、正極端子150及び負極端子160は、これらにバスバーや圧着端子など電池外の端子を締結するためのボルト153,153と共に、樹脂からなる絶縁部材155,155を介して、ケース蓋部材113に固設されている(図2参照)。
【0025】
次に、扁平状捲回型の電極体120について説明する(図2及び図3参照)。この電極体120は、絶縁フィルムを上側のみが開口した袋状に形成した絶縁フィルム包囲体119内に収容され、横倒しにした状態で電池ケース110内に収容されている(図2参照)。この電極体120は、扁平状をなし、その厚み方向BHに直交し、互いに平行で平面状をなす一対の電極体主平面(第1電極体主平面120c及び第2電極体主平面120d)と、これらを結び半円筒状をなす一対の半円筒面(第1半円筒面120a及び第2半円筒面120b)とを有する。
【0026】
このうち第1電極体主平面120cは、電池ケース110のうち第1ケース側壁部110cの第1ケース内側面(ケース内主面)110cnに対向し、第2電極体主平面120dは、第2ケース側壁部110dの第2ケース内側面(ケース内主面)110dnに対向している。また、第1半円筒面120aは、ケース上壁部110a側に位置し、第2半円筒面120bは、ケース下壁部110b側に位置している。
【0027】
この電極体120は、帯状の正極板121と帯状の負極板131とを、多孔質膜からなる帯状の2枚のセパレータ141,141を介して互いに重ねて捲回し、扁平状に圧縮したものである(図3参照)。正極板121の幅方向の一部は、セパレータ141から軸線AX方向(電池100等の幅方向CH)の一方側ACに渦巻き状をなして突出しており、前述の正極端子150と接続している(図2参照)。また、負極板131の幅方向の一部は、セパレータ141から軸線AX方向(電池100等の幅方向CH)の他方側ADに渦巻き状をなして突出しており、前述の負極端子160と接続している(図2参照)。
【0028】
次いで、上記電池100の製造方法について説明する。
まず、安全弁113v及び注液孔113h等を形成したケース蓋部材113と、通電端子部材151,151と、ボルト153,153とを用意し、これらを射出成形用の金型にセットする。そして、射出成形により絶縁部材155,155を一体的に成形して、ケース蓋部材113に正極端子150及び負極端子160を固設する(図1及び図2参照)。
【0029】
次に、別途形成した電極体120に、正極端子150及び負極端子160をそれぞれ接続(溶接)する。また、ケース本体部材111及び絶縁フィルム包囲体119を用意し、ケース本体部材111内に絶縁フィルム包囲体119を介して電極体120を収容すると共に、ケース本体部材111の開口111hをケース蓋部材113で塞ぐ。そして、レーザ溶接によりケース本体部材111とケース蓋部材113とを溶接して、電池ケース110を形成する(図1及び図2参照)。
【0030】
次に、この電池100を真空チャンバ内に入れて真空チャンバ内を減圧する。そして、注液用ノズルを注液孔113h内に挿入して、注液用ノズルから電池ケース110内に電解液117を注液する。注液後は、真空チャンバ内を大気圧に戻して、この電池100を真空チャンバから取り出す。
【0031】
次に、減圧封止工程を行う。即ち、まず、電池外の圧縮具200を用意し、これを電池100に装着する(図4及び図5参照)。なお、図4,図5及び後述する図6においては、正極端子150、負極端子160等の図示を省略してある。
この圧縮具200は、金属(具体的にはアルミニウム)からなる2枚の拘束板(第1拘束板210及び第2拘束板220)と、これらの拘束板210,220を連結するための4つのボルト231,231,…及びナット233,233,…とを有する。
【0032】
第1拘束板210は、板状部211と圧縮部213とからなる。このうち板状部211は、電池ケース110のケース主壁部(第1,第2ケース側壁部110c,110d)及び第1,第2ケース内主面110cn,110dnよりも、幅方向CH及び高さ方向DHの寸法がそれぞれ大きくされた矩形板状をなす。一方、圧縮部213は、ケース主壁部(第1,第2ケース側壁部110c,110d)及び第1,第2ケース内主面110cn,110dnよりも、幅方向CH及び高さ方向DHの寸法がそれぞれ小さく、かつ、第1,第2電極体主面120c,120dよりも、幅方向CH及び高さ方向DHの寸法がそれぞれ大きくされた矩形板状をなす。同様に、第2拘束板220も、板状部221と圧縮部223とからなる。
【0033】
この圧縮具200は、次のようにして電池100に装着する(図4及び図5参照)。即ち、第1拘束板210の圧縮部213を、第1ケース側壁部110cに当接させると共に、第2拘束板220の圧縮部223を、第2ケース側壁部110dに当接させて、電池100のうち第1ケース側壁部110cと第2ケース側壁部110dとの間を挟む。その際、圧縮部213の外周縁213fと第1ケース側壁部110cの外周縁110cfとの間、及び、圧縮部223の外周縁223afと第2ケース側壁部110dの外周縁110dfとの間に、それぞれ所定の間隔ができるように位置合わせをして、第1,第2拘束板210,220を電池100に配置する。
【0034】
その後、ボルト231,231,…及びナット233,233,…の締結により、第1拘束板210と第2拘束板220との間隔を狭めていき、第1,第2拘束板210,220の圧縮部213,223により第1,第2ケース側壁部110c,110dをそれぞれ厚み方向BHに電池内部側に凹ませて塑性変形させる。この塑性変形により、第1,第2ケース側壁部110c,110dには、それぞれ電池内部側に位置する中央平面部110cg,110dgと、それらの周囲をなす周縁部110cm,110dmとが形成される。これと共に、第1,第2ケース側壁部110c,110dのうち中央平面部110cg,110dgの第1,第2ケース内主面110cn,110dnが、電極体120の第1,第2電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120(詳細には、電極体120のうち第1,第2電極体主平面120c,120d間の部分)をその厚み方向BH(図4中、上下方向)に圧縮する。
【0035】
ボルト231,231,…及びナット233,233,…の締め付け具合は、第1,第2電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poがそれぞれ75kPa以上(具体的には80kPa)となる力で、第1,第2拘束板210,220の圧縮部213,223が電池100を挟むように調整する。このようにして圧縮具200で電池100を挟むことにより、第1,第2電極体主平面120c,120dの全面がそれぞれ均一に押圧され、電極体120(そのうちの第1,第2電極体主平面120c,120d間の部分)が厚み方向BHに均一に圧縮された状態(均一圧縮状態)となる。
【0036】
次に、この圧縮具200を装着した電池100を、真空チャンバ内に入れて真空チャンバ内を減圧する。本実施形態では、電池ケース110内の内圧Pbを−75kPa以下(具体的には−80kPa)とする。そして、封止部材115を用意し、この封止部材115で注液孔113hを電池外部から覆い、更に、封止部材115を電池ケース110のケース蓋部材113に溶接して、封止部材115とケース蓋部材113との間を気密に封止する。これにより、電池ケース110が気密に封止される。減圧封止後は、真空チャンバ内を大気圧に戻して、この電池100を真空チャンバから取り出す。
【0037】
このように電池ケース110内を減圧して封止すると、封止後の電池100では、電池ケース110内が負圧となる。このため、図6に示すように、封止後に圧縮具200を取り外しても、電池ケース110の内外の気圧差(具体的には約80kPa)によって、第1,第2ケース内主面110cn,110dnで第1,第2電極体主平面120c,120dの全面がそれぞれ押圧されて、電極体120(そのうちの第1,第2電極体主平面120c,120d間の部分)が厚み方向BHに均一に圧縮された均一圧縮状態を維持できる。
【0038】
次に、初期充電工程において、この電池100について初期充電を行う。この初期充電工程は、圧縮具200等の電池外の部材で第1,第2ケース側壁部110c,110dを押圧することなく、電池ケース110の内外の気圧差により第1,第2ケース内主面110cn,110dnで第1,第2電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120を厚み方向BHに圧縮した状態(図6参照)で行う。
【0039】
この初期充電は、常温(25℃)環境下で、定電流−定電圧方式により、SOC100%まで行う。具体的には、1C(具体的には5A)の定電流で、電池電圧値が所定の充電終止電圧値4.1V(SOC100%のときの電池電圧値)に至るまで充電し、その後、電池電圧値を4.1Vに維持しつつ充電を行い、充電電流値が0.02C(具体的には0.1A)に低下した時点で初期充電を終了する。
【0040】
この初期充電の際には、電解液117の一部が分解して水素ガスなどの気体(ガス)が発生する。しかし、本実施形態では、この初期充電の期間中、電極体120が厚み方向BHに均一に圧縮された均一圧縮状態にあるので、発生したガスの殆ど全てが電極体120から抜け出る。このため、この初期充電工程でガスが正極板121と負極板131との間に溜まるのを防止できる。
【0041】
次に、エージング工程において、この電池100についてエージングを行う。このエージング工程は、前述の初期充電工程と同様に、圧縮具200等の電池外の部材で第1,第2ケース側壁部110c,110dを押圧することなく、電池ケース110の内外の気圧差により第1,第2ケース内主面110cn,110dnで第1,第2電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120を厚み方向BHに圧縮した状態(図6参照)で行う。
このエージングは、電池電圧値4.1V(SOC100%に相当)の状態にて、所定のエージング温度(具体的には50℃)で、所定のエージング時間(具体的には15時間)、電池100を安置する。
【0042】
このエージングの際にも、電解液117の一部が分解して水素ガスなどの気体(ガス)が発生する場合がある。しかし、本実施形態では、このエージングの期間中においても、電極体120が厚み方向BHに均一に圧縮された均一圧縮状態にあるので、発生したガスの殆ど全てが電極体120から抜け出る。このため、このエージング工程においても、ガスが正極板121と負極板131との間に溜まるのを防止できる。かくして、電池100が完成する。
【0043】
以上で説明したように、この電池100の製造方法では、減圧封止工程において、圧縮具200により、電池100のうち一対のケース主壁部(第1,第2ケース側壁部)110c,110d間を挟んで、一対のケース内主面(第1,第2ケース内主面)110cn,110dnで一対の電極体主平面(第1,第2電極体主平面)120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120をその厚み方向BHに圧縮する。これにより、電極体主平面120c,120dの全面がそれぞれ均一に押圧され、電極体120が厚み方向BHに均一に圧縮された状態(均一圧縮状態)となる(図4参照)。そして、この状態を保ちつつ、電池ケース110を内圧Pbに減圧して封止する。すると、封止後の電池100では、電池ケース110内が負圧となるので、封止後に圧縮具200を取り外しても、電池ケース110の内外の気圧差によって、電極体120が厚み方向BHに均一に圧縮された均一圧縮状態を維持できる(図6参照)。
【0044】
このため、その後、圧縮具200など電池外の部材でケース主壁部110c,110dを押圧することなく、初期充電を行っても、電池ケース110の内外の気圧差によりケース内主面110cn,110dnで電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120を厚み方向BHに圧縮した状態で、初期充電を行うことができる。従って、初期充電工程を行った際にガスが発生しても、このガスが正負極板121,131間に溜まるのを防止できる。よって、初期充電に要する時間を短くでき、製造コストを低くできると共に、電池容量や内部抵抗など電池の特性バラツキが小さい電池100を製造できる。一方、初期充電工程で圧縮具200を用いなくて済むので、量産に要する圧縮具200の数量を少なくできる、初期充電工程のための設備を簡素化できるなど、生産設備のコストを低くできる。
【0045】
更に、本実施形態では、初期充電工程と同様に、エージング工程も、圧縮具200など電池外の部材でケース主壁部110c,110dを押圧することなく、電池ケース110の内外の気圧差によりケース内主面110c,110dで電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120を厚み方向BHに圧縮した状態で行う。従って、エージング工程を行った際にガスが発生しても、このガスが正負極板121,131間に溜まるのを防止できる。よって、電池容量や内部抵抗など電池の特性バラツキが小さい電池100を製造できる。一方、エージング工程で圧縮具200を用いなくて済むので、量産に要する圧縮具200の数量を少なくできる、エージング工程のための設備を簡素化できるなど、生産設備のコストを低くできる。
【0046】
また、本実施形態では、減圧封止工程において、圧縮具200により、電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poが75kPa以上(具体的には80kPa)となる力で電池100を挟むので、電極体120が厚み方向BHに十分に圧縮された状態とすることができる。そして、電池ケース110の内圧Pbを−75kPa以下(具体的には−80kPa)として電池ケース110を封止するので、封止後の電池100においても、電池ケース110の内外の気圧差(約80kPa)が十分に大きくなり、電極体120が厚み方向BHに十分に圧縮された状態とすることができる。従って、初期充電工程やエージング工程の際にガスが正負極板121,131間に溜まるのをより効果的に防止できる。
【0047】
(実施例)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験の結果について説明する。減圧封止工程において、圧縮具200によって電極体主平面(第1,第2電極体主平面)120c,120dに掛かる圧力Poを、0〜150kPaに変えて製造した複数の電池100を用意した。具体的には、電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poを、0kPa、25kPa、50kPa、75kPa、100kPa、125kPaまたは150kPaとした電池100をそれぞれ用意した。そして、各々の電池100について、実施形態と同様に減圧封止工程を行った後、実施形態と同様に充電工程を行った。その際、各電池100について、初期充電を開始してから初期充電が完了するまでの時間をそれぞれ測定した。その結果を図7に示す。
【0048】
図7のグラフから明らかなように、圧縮具200により電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poが0〜75kPaの範囲では、圧力Poの値が大きくなるほど、初期充電に要する時間が短くなった。一方、圧縮具200により電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poが75〜150kPaの範囲では、圧力Poの大きさに拘わらず、初期充電に要する時間が短くほぼ一定となった。
【0049】
このような結果を生じた理由は、以下であると考えられる。即ち、電池100に初期充電を行うと、電解液117の一部が分解してガスが発生する。その際、電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poが0〜75kPaの範囲では、電極体120が厚み方向BHに全く圧縮されていない、或いは十分に圧縮されていないために、圧力Poの値が小さいほど、発生したガスが電極体120から抜けきれずに、正負極板121,131間に多く溜まる。このガスは、正負極板121,131間内で移動し離合集散を繰り返すため、正負極板121,131間には、ガスが接しているために充電できない部分と、電解液117に接していて充電できる部分とが現れ、しかも、これらの部分が移動する。このため、圧力Poの値が小さいほど、正負極板121,131全体について初期充電するのに時間が長く掛かると考えられる。
【0050】
一方、電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poが75〜150kPaの範囲では、電極体120が厚み方向BHに十分に圧縮されているため、圧力Poの大きさに拘わらず、発生したガスの殆ど全てが電極体120から抜け出て、正負極板121,131間には溜まらない。このため、正負極板121,131は、そのいずれの部位でも電解液117に接していて充電できるので、正負極板121,131全体について初期充電するのに掛かる時間が短くなり、一定時間になると考えられる。
【0051】
以上より、減圧封止工程を、圧縮具200で電池100を挟み、一対の電極体主平面120c,120dの全面をそれぞれ押圧して、電極体120を厚み方向BHに圧縮した状態で行うことで、その後の初期充電工程を、圧縮具200を取り外して行っても、初期充電に要する時間を短くできることが判る。また、圧縮具200により電極体主平面120c,120dに掛かる圧力Poを75kPa以上とすることで、初期充電に要する時間を最も短くできることが判る。
【0052】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、「電極体」として、各々帯状をなす正極板121及び負極板131をセパレータ141,141を介して互いに重ねて扁平状に捲回してなる扁平状捲回型の電極体120を例示したが、電極体の形態はこれに限られない。例えば、電極体を、各々所定形状(例えば矩形状など)をなす複数の正極板及び複数の負極板をセパレータを介して交互に複数積層してなる積層型としてもよい。
【0053】
また、実施形態では、「電池ケース」として、直方体形状の電池ケース110を例示したが、電池ケースの形状はこれに限られない。例えば、電池ケースを、一対のケース主壁部を有し、ケース上壁部及びケース下壁部がそれぞれ長円状をなす長円筒形状としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
100 リチウムイオン二次電池(電池)
110 電池ケース
110a ケース上壁部
110b ケース下壁部
110c 第1ケース側壁部(ケース主壁部)
110cn 第1ケース内主面(ケース内主面)
110d 第2ケース側壁部(ケース主壁部)
110dn 第2ケース内主面(ケース内主面)
110e 第3ケース側壁部
110f 第4ケース側壁部
111 ケース本体部材
113 ケース蓋部材
120 電極体
120c 第1電極体主平面(電極体主平面)
120d 第2電極体主平面(電極体主平面)
120a 第1半円筒面
120b 第2半円筒面
150 正極端子
160 負極端子
200 圧縮具
210 第1拘束板
220 第2拘束板
BH 厚み方向
CH 幅方向
DH 高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の厚み方向に直交する一対の電極体主平面を有する、扁平状捲回型または積層型の電極体と、
前記電極体を収容し、一対の前記電極体主平面にそれぞれ対向する一対のケース内主面を含む一対のケース主壁部を有する電池ケースと、を備える
電池の製造方法であって、
前記電極体が収容された前記電池ケースの内圧を、大気圧Paよりも減圧された内圧Pbとした上で、前記電池ケースを気密に封止する減圧封止工程と、
前記減圧封止工程の後、前記電池について初期充電を行う初期充電工程と、を備え、
前記減圧封止工程は、
電池外の圧縮具で前記電池のうち一対の前記ケース主壁部間を挟んで、一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行い、
前記初期充電工程は、
電池外の部材で前記ケース主壁部を押圧することなく、前記電池ケースの内外の気圧差により一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行う
電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の製造方法であって、
前記初期充電工程の後、前記電池についてエージングを行うエージング工程を備え、
前記エージング工程は、
電池外の部材で前記ケース主壁部を押圧することなく、前記電池ケースの内外の気圧差により一対の前記ケース内主面で一対の前記電極体主平面の全面を押圧して、前記電極体を前記厚み方向に圧縮した状態で行う
電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池の製造方法であって、
前記減圧封止工程は、
前記圧縮具により、前記電極体主平面に掛かる圧力Poが75kPa以上となる力で前記電池を挟み、
前記内圧Pbを、大気圧Paを基準としたゲージ圧表記で−75kPa以下とする
電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−93122(P2013−93122A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232874(P2011−232874)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】