説明

電波発射源可視化装置及びその方法

【課題】電波発射源がTDMA方式の携帯電話端末であっても、これを容易に特定できるよう、到来方向推定結果を高速かつ繰返し二次元画像化し、表示可能とする。
【解決手段】リファレンスアンテナA0及びアレーアンテナA1で受信した電波を周波数変換部30でAD変換可能な中間周波数へ変換する。アンテナ切替部20は、アレーアンテナA1のアンテナ素子出力を順に切り替えつつ、リファレンスアンテナA0の出力と同時に取り込む。アレーアンテナA1の選択された素子とリファレンスアンテナA0で同時に受信した電波をAD変換部40でデジタル化し、間欠波検出処理部50で携帯電話端末のタイムスロットごとに到来方向推定処理部60で到来方向推定処理を行い、二次元画像化して、表示部70で表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDC(Personal Digital Cellular:デジタル携帯電話)方式に代表されるTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)方式による携帯電話端末からバースト的に発射される電波の到来方向を推定し、電波を発射している端末を容易に特定するため、到来方向の方位角、仰角のように二次元的な到来方向を二次元画像として出力するための電波発射源可視化装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波発射源を特定するためには、指向性アンテナや電界プローブなどと受信機を用い、受信レベルが最大となる部位を探索し、いわば手探りで電波発射源を特定していた。また、近年では、アレーアンテナ利用の到来方向推定装置等を用いて電波の到来方向を推定し、発射源の近くまで突き止めることも行われている。しかしながら、電波を発射している部位あるいは場所までは特定することは、未だ極めて困難な状況にある。
【0003】
特に、PDC方式に代表されるTDMA方式による携帯電話端末については、その電波が間欠(バースト)的に発射されるため、単純に到来方向推定を行うだけでは、到来方向の推定の信頼性に欠ける。これは、到来方向推定を行う場合、アンテナからの受信信号をAD変換器でデジタルデータに変換し処理するが、原理的に変換されたデジタルデータの中に携帯電話端末の電波が含まれないデータが発生して、到来方向推定に大きな誤差を生じてしまうからである。
【0004】
尚、特許文献1には、電波ホログラフィ法による波源像を可視化する方法及び装置が記載されているが、本発明で課題対象とするバースト的な電波を発射している携帯電話端末(TDMA方式)を容易に特定するための方法及び装置については開示されていない。
【特許文献1】特開平09−134113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来の電波発射源可視化装置及びその方法では、バースト的に電波を発射するTDMA方式の携帯電話端末(電波発射源)からの到来方向を推定しようとすると、変換されたデジタルデータの中に携帯電話端末の電波が含まれないデータが発生して、到来方向推定に大きな誤差を生じてしまう。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、電波発射源がTDMA方式の携帯電話端末であっても、これを容易に特定できるよう、到来方向推定結果を高速かつ繰返し二次元画像化し、表示することのできる電波発射源可視化装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明に係る電波発射源可視化装置及びその方法は、互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出させ、前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から、時分割多元接続方式の携帯電話端末のタイムスロットごとの間欠波を検出し、間欠波検出結果から電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定し、二次元画像化した結果を表示部に出力して、到来方向推定結果を二次元表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
前記構成による電波発射源可視化装置及びその方法では、TDMA方式の携帯電話端末が電波発信源であっても、そのタイムスロット毎の間欠波を検出し、その間欠波から電波の到来方向を推定するようにしているので、連続波と同様の精度で到来方向推定が可能となり、高速かつ繰返し二次元画像化し、表示することで、電波発射源がTDMA方式の携帯電話端末であっても、これを容易に特定することができる。
【0009】
したがって、本発明によれば、電波発射源がTDMA方式の携帯電話端末であっても、これを容易に特定できるよう、到来方向推定結果を高速かつ繰返し二次元画像化し、表示することのできる電波発射源可視化装置及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電波発射源可視化装置の構成を概略的に示すブロック図である。この装置は、アンテナ部10、アンテナ切替部20、タイミング制御部25、周波数変換部30、AD変換部40、間欠波検出処理部50、到来方向推定処理部60、及び表示部70から構成されている。
【0012】
アンテナ部10はリファレンスアンテナA0、アレーアンテナA1を備える。リファレンスアンテナA0、アレーアンテナA1は、同一周波数帯を測定可能な受信アンテナである。アレーアンテナA1は、N個のアンテナ素子A11〜A1Nを平面上に格子状に配置したもので、アンテナ素子の形状・種類、アンテナ素子の総数、アンテナ素子を配置するための間隔などは、測定対象、測定目的などにより任意である。アレー面の反対側から入射する電波の感度を抑えるため、アンテナ素子A11〜A1Nを配置する平面を反射板とすることも可能である。
【0013】
尚、アンテナ素子A11〜A1Nのいずれか一つをリファレンスアンテナA0として利用することも可能である。この場合は、リファレンスアンテナA0を別に取り付ける機械的な構造が不要となるという利点がある。
【0014】
アンテナ切替部20は、アレーアンテナA1に対し、タイミング制御部25からの制御信号に基づいて順次受信するアンテナ素子を予め決められた順序、間隔で切り替え、選択されたアンテナ素子A1i(iは1〜Nのいずれか)の受信信号を導出するものである。このように、選択されたアレーアンテナA11〜A1Nのうちの一つの受信信号は、リファレンスアンテナA0の受信信号と共に周波数変換部30に送られ、後段の到来方向推定処理でリファレンスアンテナA0と選択されているアレーアンテナA1iの受信波間の位相差を検出することができる。
【0015】
周波数変換部30は、到来した電波を増幅するとともに、後段のAD変換部40においてAD変換可能な中間周波数に変換する。AD変換部40は、上記タイミング制御部25からの制御信号に基づいて、リファレンスアンテナA0及びアレーアンテナA1で選択されたアンテナ素子A1iからの受信信号を同時にサンプリングしてAD変換し、デジタル化する。このAD変換部40でデジタル化されたデータは、間欠波検出処理部50、到来方向推定処理部60の各処理を受けて表示部70に供給され、到来方向推定結果が二次元画像化され、表示される。
【0016】
上記構成において、具体例として、TDMA方式の携帯電話端末のうち、PDC方式の携帯電話端末(以下、PDC端末)が電波発射源として存在する場合について説明する。ここで、PDC方式では、図2に示すようなタイムスロットで電波を発射している。1タイムスロットあたり6.67msecで、6タイムスロットで1フレーム40msecが構成されている。すなわち、PDC方式では、1タイムスロットごとに1端末を割り当てることができ、最大で6端末を割り当てることができる。
【0017】
図3は上記構成による装置の全体の処理フロー、図4は間欠波検出処理部50の処理フロー、図5は到来方向推定処理部60の処理フローを示している。
【0018】
すなわち、全体の処理では、図3において、まず、ステップ11で間欠波検出処理を行い、PDC端末の電波が存在する期間のみのデジタルデータを取得し、ステップ12で到来波推定処理を行い、電波を発射しているTDMA端末を容易に特定できるような二次元的な到来方向推定結果を出力する。ステップ13で繰返し処理の有無を判断し、繰り返しを選択する場合は、ステップ11の間欠波検出処理に戻り、繰り返し不要の場合には、一連の処理を終了する。
【0019】
上記間欠波検出処理部50では、図4に示すように、初期捕捉処理(ステップ101)、間欠波データ取得処理(ステップ102)から構成される間欠波検出処理を実行する。この間欠波検出処理の概要について図6を参照して説明する。
【0020】
まず、初期捕捉処理(ステップ101)では、デジタル化されたデータの中にPDC端末から発射される間欠的な電波が検出されるかどうかを繰返し測定する。図6中、「AD」は、リファレンスアンテナA0に対するADサンプリング(デジタルデータ取得)を意味している。また、「検波」は電波の有無を確認する検波処理を行うことを意味している。「AD1」は、リファレンスアンテナA0及びアレーアンテナA1の素子番号A11についてADサンプリングを行うことを意味している。
【0021】
上記検波処理は、ADサンプリングしたデジタルデータの中に、携帯電話端末の電波が含まれるかどうかを確認する処理である。検波する処理については、いくつか方法があるが、ここでは、ヒルベルト変換による方法を示す。ヒルベルト変換についての説明は割愛する。
【0022】
ヒルベルト変換による方法では、ADサンプリングデータから必要な周波数帯域をフィルタリングした後に、ヒルベルト変換を用いて同相成分、直交成分を求め、それらの自乗和の平方根を求めることにより、受信信号の振幅情報を得ることができる。この振幅情報が予め設定されている値より大きい場合信号有りと判定する。判定自体は、ADサンプリングデータの1サンプルあたりでも判定ができるが、ADサンプリングデータがMサンプルの場合、Mサンプル中の予め設定された割合以上に振幅情報が設定値を超えた場合に、信号有りと判定することも可能である。
【0023】
信号が検出された場合、ステップ102で、タイムスロットごとに、測定を行う全ての素子についてデータ取得を行う。データ取得が終了した後、ステップ103でアンテナ素子A11またはA12の各タイムスロットのデジタルデータにPDC端末の間欠的な電波が検出されるかを確認する。電波の確認されたタイムスロットのみについて、後段の到来方向推定処理を行う。
【0024】
到来方向推定処理部60において、その処理には様々な方式があるが、ここでは図4を参照して電波ホログラフィ法による処理について説明する。この電波ホログラフィ法による到来方向推定処理では、アレーアンテナA1のアンテナ素子数をN個としたとき、リファレンスアンテナA0のN個のデジタルデータとアレーアンテナA1のN個のデジタルデータが得られる。アレーアンテナA1の素子番号をi=1,…,Nとした場合、素子番号iについてリファレンスアンテナA0のデジタルデータとアレーアンテナA1のデジタルデータが得られる。1素子あたりのデジタルデータをMサンプルとする。
【0025】
図4において、ステップ201では、図3のステップ103で得られたデジタルデータをFFT(高速フーリエ変換)処理する。FFT処理結果を用いて、到来方向を推定したい周波数範囲について複素相関値を計算する。
【0026】
ステップ202では、ステップ201で得られた複素相関値から相関マトリクスCを得る。相関マトリクスCは、アレーアンテナA1の物理的な配置と同じ配列に、複素相関値を配置し、数学上の行列とするものである。
【0027】
ステップ203では、ステップ202で得られた相関マトリクスの周囲をゼロ埋めして拡張相関マトリクスDを得る。拡張相関マトリクスDは、例えば256×256の行列などのように拡張する。
【0028】
ステップ204では、ステップ203で得られた拡張相関マトリクスDについて、二次元FFTを行い、これによって到来方向推定結果Eを得る。到来方向推定結果としては、到来方向別の推定電波強度が得られる。推定電波強度の強い方向に電波発射源があると推定される。
【0029】
二次元FFTは、例えば、まず拡張相関マトリクスDの全ての行ごとに一次元FFTを行い、その後、全ての列ごとに一次元FFTを行う。到来方向推定結果Eは、行列として得られ、各行列の要素は、それぞれ到来する角度に対応している。
【0030】
上記のように相関マトリクスCを拡張相関マトリクスDとする理由は、二次元FFTを行う際にサンプル数を故意に増やし、到来方向推定分解能を向上させるためである。
【0031】
到来方向推定処理部60で得られた到来方向推定結果を受けた表示部70では、方位角、仰角別に推定電波強度に色付けして二次元画像化し表示する。測定を繰り返す場合、繰返し表示する。
【0032】
以上述べたように、本発明に係る到来方向推定処理では、二次元可視化に二次元FFTを用いているため、他の一般に知られているMUSIC法やインターフェロメトリ法に比べ、高速に処理を行うことができる(MUSIC法やインターフェロメトリ法は、到来方向を検出する際に、細かい角度間隔で走査する必要があるため、計算量が多く、特に二次元可視化には、不向きである。)。
【0033】
したがって、上記実施形態によれば、携帯電話端末(PDC方式)から発射された電波について、到来方向別電波強度が二次元的画像化され、高速かつ繰返し表示されるので、電波を発射している携帯電話端末(PDC方式)を容易に特定することができる。
【0034】
本発明は、不法携帯中継装置などの違法電波の発射源を発見することを目的とする電波監視分野や、携帯電話の使用を控えるべきところでの通話を発見するなど様々な分野で応用可能である。
【0035】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る一実施形態の電波発射源可視化装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す装置で特定する携帯電話端末のPDC方式のタイムスロットを説明するための図。
【図3】図1に示す装置の全体の処理の流れを示すフローチャート。
【図4】図1に示す間欠波検出処理部の処理の流れを示すフローチャート。
【図5】図1に示す到来方向推定処理部の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】図1の実施形態において、電波発生源がPDC方式の携帯電話端末であるときの、初期捕捉及びデータ取得処理を説明するための概念図。
【符号の説明】
【0037】
10…アンテナ部、A0…リファレンスアンテナ、A1…アレーアンテナ、A11〜A1N…アンテナ素子、20…アンテナ切替部、30…周波数変換部、40…AD変換部、50…間欠波検出処理部、60…到来方向推定処理部、70…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置と、
前記アンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出するアンテナ切替手段と、
前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から、時分割多元接続方式の携帯電話端末のタイムスロットごとの間欠波を検出する間欠波検出手段と、
前記間欠波検出手段の検出結果から電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定し、二次元画像化した到来方向推定結果を出力する到来方向推定処理手段と、
前記到来方向推定結果を表示するための表示部と
を具備することを特徴とする電波発射源可視化装置。
【請求項2】
前記リファレンスアンテナは、前記アレーアンテナの一部のアンテナ素子であることを特徴とする請求項1記載の電波発射源可視化装置。
【請求項3】
互いに同一周波数帯の到来電波を受信するリファレンスアンテナ及び複数のアンテナ素子を平面上に配列してなるアレーアンテナを備えるアンテナ装置から前記アレーアンテナの各素子の受信出力を順次切り替えて、前記リファレンスアンテナの受信出力と同時に導出する過程と、
前記アレーアンテナの個々の素子出力と前記リファレンスアンテナとの同時出力から、時分割多元接続方式の携帯電話端末のタイムスロットごとの間欠波を検出する過程と、
間欠波検出結果から電波の到来方向を電波ホログラフィ法で推定し、二次元画像化した結果を出力する過程と、
前記到来方向推定結果を表示する過程と
を具備することを特徴とする電波発射源可視化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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