説明

電熱化学砲及びその発射方法

【目的】 本発明は電熱化学砲及びその発射方法に関し、特に、高温生成ガスの質量を分離して軽ガスの運動を滑らかにし、低温下ででも高速発射できることを特徴とする。
【構成】 本発明による電熱化学砲及びその発射方法は、電熱化学部(80)で発生した高温生成ガス(111)を砲身(51)内で回転させることにより質量分離し、軽ガスのみによって弾丸を駆動する構成である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電熱化学砲及びその発射方法に関し、特に、高温生成ガスの質量を分離して軽ガスの運動を滑らかにし、低温下でも高速発射できるようにするための新規な改良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、用いられていたこの種の電熱化学砲としては、一般に、図3、図4で示す構成を挙げることができる。すなわち、図4において符号10で示されるものは電気絶縁体よりなる筒形の容器であり、この容器10の一端10aには、電流導入端子11が螺合して設けられ、この容器10の他端10bには、金属体の筒形をなす連結子12が螺合されている。この連結子12と容器10間には、アルミニウム製の円板13が設けられ、前記電流導入端子11と円板13の一面11a,13aは、前記容器10内に形成された空隙部10c内に露出している。前記各一面11a,13a間には、前述の各アルミニウム体3,4が接続して設けられ、この空隙部10c内には水14が充填されている。尚、前記各アルミニウム体3,4の各一面11a,13aとの接続部は、水14による腐触が起こらないように処理されている。また、前記連結子12内には、弾15が装填され、この弾15の底部15aには、酸素を発生する装薬16、例えば、硝安が装填され、後述の砲身(銃身)の砲口(銃口)から発生する水素の爆轟を防止するように構成されている。
【0003】なお、前記アルミニウム体3,4、水14及び容器10等により、アルミニウムと水の化学反応による高温生成ガスを発生するための電熱化学部80を構成している。
【0004】図3は、前述のようにして得られた電熱化学弾50を用いた電熱化学弾発射装置100を示す断面図である。前記電熱化学弾50は、筒形をなす砲身51の砲腔51a内に装填されており、この砲身51の砲尾51bには、端子52および固定子53が設けられ、この端子52は電熱化学弾50の底部50aに機械的に接続し、前記固定子53は前記電流導入端子11に接続している。前記固定子53は、スイッチ2に接続され、このスイッチ2と端子52間には、前記コンデンサ1と同作用をなす電流源55が接続されている。前述の構成において、スイッチ2をオンとすると、各アルミニウム体3,4の時定数に応じて電流が立ち上がり、水との化学反応を爆発的に開始できる温度(約600℃)に達し、各アルミニウム体3,4は順次高温水素気体を発生する。従って、このアルミニウム体3,4のインダクタンスと抵抗を適切に選択することにより、水素の圧力を所定の時間にわたって維持でき、電熱化学弾50は、砲身51の砲口51cから強力に発射される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の電熱化学砲は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。すなわち、電熱化学部から生成される高温生成ガスは、水素ガスと重い酸化アルミニウムガスとの混合ガスよりなり、この混合ガスにより弾丸の弾底を駆動するため、高速を出すにはこの混合ガスを高温としなければならず、大きい追加熱電源を必要とすると云う欠点が存在していた。
【0006】本発明は、以上のような課題を解決するためになされたもので、特に、高温生成ガスの質量を分離して軽ガスの運動を滑らかにし、低温下でも高速発射できるようにした電熱化学砲及びその発射方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明による電熱化学砲は、電熱化学部の電熱化学反応で発生した高温生成ガスにより、砲身に設けられた弾丸を発射するようにした電熱化学砲において、前記砲身の尾部に設けられ前記砲身の第1軸方向と異なる第2軸方向を有すると共に前記電熱化学部を備えた入射筒を備え、前記入射筒は前記砲身に偏心した状態で設けられている構成である。
【0008】さらに詳細には、前記砲身の尾部における前記弾丸の後方には、砲尾溝が形成されている構成である。
【0009】また、本発明による電熱化学砲の発射方法は、電熱化学部の電熱化学反応で発生した高温生成ガスにより、砲身に設けられた弾丸を発射するようにした電熱化学砲の発射方法において、前記高温生成ガスを前記弾丸の弾底へ回転運動を伴って供給し、前記高温生成ガス中の重い成分と軽ガスとを遠心分離し、前記軽ガスで前記弾丸を加速する方法である。
【0010】
【作用】本発明による電熱化学砲及びその発射方法においては、電熱化学部で発生した高温生成ガス中における反応生成物は、各成分がよく混合されており、各成分の流速が等しいため、入射筒から砲身に入射すると、砲身に対する入射筒の偏心によって高温生成ガスが渦運動を伴う。この渦運動時に、高温生成ガス中の重い成分は砲身の砲尾溝によって砲身の壁面近くに滞留される(質量分離)と同時にこの壁面によって冷却され、例えば、重い成分が酸化アルミニウムの場合には、3000℃以下となった時点で固体化し、軽ガスのみが弾丸を駆動するため、高効率の高速弾丸発射を達成することができる。
【0011】
【実施例】以下、図面と共に本発明による電熱化学砲及びその発射方法の好適な実施例について詳細に説明する。なお、従来例と同一又は同等部分については同一符号を用いて説明する。図1において符号1で示されるものは弾丸15を装填した砲腔51aを有する砲身であり、この砲身51の尾部51bには入射筒110が一体に設けられ、この入射筒110の筒孔110aと前記砲腔51aとは互いに連通している。なお、この砲身51の第1軸方向51Aと入射筒110の第2軸方向110Aとはほぼ直交して配設されている。
【0012】前記入射筒110は、図2に示すように、砲身51の砲腔51aの軸心51aAとは偏心量Dだけ偏心した位置に形成されており、この入射筒110から発射した高温生成ガス111は矢印にて示すように、回転運動して渦を形成するように構成されている。
【0013】前記入射筒110の筒孔110a内には、前述の図4で示した電熱化学部80が装填され、この電熱化学部80に設けられた固定子53はスイッチ2を介して電流源55に接続されていると共に、この電流源55は前記入射筒110の端部に設けられた端子52に接続されている。
【0014】また、前述の腔51a内における前弾丸15の弾底15a位置には、前記砲腔51aの径より大きい形状で且つ前記筒孔110aと連通する砲尾溝112が形成され、この砲尾溝112の近傍位置に形成された弾丸挿入孔51aBには栓113が螺入されている。
【0015】次に、前述の構成において、実際に電熱化学砲を発射させる場合について述べる。まず、図1に示す弾丸15を砲身51に装填した状態で、スイッチ2をオンとすると、図4の従来例で説明した電熱化学部80におけるアルミニウム3,4と水14の急激な化学反応により高温生成ガス111を発生する。
【0016】この高温生成ガス111は、図2で示されるように、入射筒110の筒孔110aから砲尾溝112をへて砲腔51aに入射するが、入射筒110と砲身51の偏心によりこの高温生成ガス111が回転運動をすると同時に渦状となる。
【0017】この高温生成ガス111の渦状の回転により、そのガス中の重い成分は砲尾溝112の壁面112a近傍に滞留すると同時に、この壁面112aによって冷却され、例えば、その成分が酸化アルミニウムの場合には、3000℃以下の温度となった時点で固化し、軽ガスのみで弾底15aを駆動するため、重い成分は軽ガスによる駆動の妨げとはならなくなる。
【0018】なお、前述の実施例では、1個の入射筒110を用いる場合について述べたが、1個に限ることなく、複数個設けることにより、順次発射型又は同時に発射する構成とすることができる。
【0019】
【発明の効果】本発明による電熱化学砲及びその発射方法は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。すなわち、電熱化学部から発生した高温成分ガスに回転運動を加えて質量分離を行っているため、重い成分と軽ガスとが確実に分離され、軽ガスにより高効率の弾丸駆動を行うことができ、低温状態でも軽ガスによる超高速発射を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による電熱化学砲を示す断面構成図である。
【図2】図1の要部を示す拡大断面図である。
【図3】従来の電熱化学砲を示す断面構成図である。
【図4】図3における要部の拡大詳細断面図である。
【符号の説明】
15 弾丸
15a 弾底
51 砲身
51b 尾部
80 電熱化学部
51A 第1軸方向
110 入射筒
110A 第2軸方向
111 高温生成ガス
112 砲尾溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電熱化学部(80)の電熱化学反応で発生した高温生成ガス(111)により、砲身(51)に設けられた弾丸(15)を発射するようにした電熱化学砲において、前記砲身(51)の尾部(51b)に設けられ前記砲身(51)の第1軸方向(51A)と異なる第2軸方向(110A)を有すると共に前記電熱化学部(80)を備えた入射筒(110)を備え、前記入射筒(110)は前記砲身(51)に偏心した状態で設けられている構成よりなることを特徴とする電熱化学砲。
【請求項2】 前記砲身(51)の尾部(51b)における前記弾丸(15)の後方には、砲尾溝(112)が形成されていることを特徴とする電熱化学砲。
【請求項3】 電熱化学部(80)の電熱化学反応で発生した高温生成ガス(111)により、砲身(51)に設けられた弾丸(15)を発射するようにした電熱化学砲の発射方法において、前記高温生成ガス(111)を前記弾丸(15)の弾底(15a)へ回転運動を伴って供給し、前記高温生成ガス(111)中の重い成分と軽ガスとを遠心分離し、前記軽ガスで前記弾丸(15)を加速することを特徴とする電熱化学砲の発射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−223497
【公開日】平成5年(1993)8月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−26665
【出願日】平成4年(1992)2月13日
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)