説明

電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッター

【課題】複数種のガスを好適に除去することができる、FED用の非蒸発型ゲッターを提供する。
【解決手段】FED用の非蒸発型ゲッターは、チタンを含有する第1の層と、第1の層上に積層され、ジルコニウム結晶を含有する第2の層と、を有する。ジルコニウム結晶の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅は0.7°から1.5°であり、結晶子サイズの平均値は3nm以上20nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体を吸着することができる、電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッターおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の大画面化が進んでいる。従来、画像表示装置としてはブラウン管(Cathode Ray Tube:以下CRTと呼ぶ。)が主流であった。しかし、CRTには大きく重いという課題があり、これに代わるものとして、軽くて薄型の平板状画像表示装置、いわゆるフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:以下FPDと呼ぶ)が注目されている。
【0003】
現在、FPDの研究開発は非常に盛んであり、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機ELなど様々な原理のFPDが開発されている。そのような電界放出ディスプレイの一つに電界放出ディスプレイ(Field Emission Display:以下FEDと呼ぶ)がある。
【0004】
FEDは、CRTと同様に電子線を用いて蛍光体を発光させるディスプレイであるが、CRTとは異なり、冷陰極を用いて電界によって電子を放出する電子源を多数並べた構造を有している。FEDの一例としては、表面伝導型の電子放出素子をガラス基板上にマトリクス状に配置したディスプレイがある。このディスプレイは、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(Surface-Conduction Electron Emitter Display:SED)と呼ばれる。
【0005】
FEDはCRTと同様に、容器(外囲器)内部を高真空に保つ必要がある。なぜなら、容器内の圧力が上昇すると、ガスによる電子源の性能劣化、イオン化したガスによる電子源の破壊、放電による電子源及び容器の破壊等の問題が生じるためである。
【0006】
高真空の気密容器を得るために、容器内部を排気しながら加熱し、容器内面に吸着したガスを脱離させた後に容器を気密封止するという方法が用いられる。しかし、この方法だけでは、容器内の残留ガスを十分に取り除くことは難しく、また、容器内の素子の駆動等によって封止後に生じる脱ガスを取り除くことができない。そのため、封止後に容器の真空度を高水準に維持する方法として、容器内部にゲッターと呼ばれる金属薄膜を配置し、ゲッターに容器内のガスを物理的及び化学的に吸着させる方法が用いられる。
【0007】
ゲッターには、大きく分けて「蒸発型ゲッター」と「非蒸発型ゲッター(Non-Evaporable Getter:以降NEGと呼ぶことがある。)」の2種類がある。
【0008】
蒸発型ゲッターは、真空中で容器内面に蒸着した金属膜をそのままポンプとして利用するものである。蒸発型ゲッターの代表的な材料としてはバリウム(Ba)がある。蒸発型ゲッターは、ゲッターの蒸着直後から、ポンプ機能を発揮できるという特徴がある。その反面、一旦蒸着したゲッターを大気中に曝すことができないため、ゲッターの蒸着以降容器の封止までを、一貫して真空中で行う必要がある。
【0009】
一方、非蒸発型ゲッターは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)などの金属、またはそれらを主成分とする合金から成り、容器内面に蒸着やスパッタ等によって形成される。非蒸発型ゲッターは、真空中または不活性ガス等の雰囲気下で加熱されることで、その表面に存在する酸化被膜などが内部へ拡散し、最表面に清浄な金属面が露出する。これにより、真空中の残留ガスが非蒸発型ゲッターに吸着する。この加熱プロセスは「活性化」と呼ばれる。この吸着原理から明らかなように、非蒸発型ゲッターは、その表面に酸化被膜等が形成されたとしても、活性化を行うことで吸着能力を再び発揮する。そのため、非蒸発型ゲッターの形成後に、大気に曝したり、フォトリソグラフィなどの加工プロセスを経たりすることが可能である。
【0010】
この特徴により、FEDの電子源の形成前や電子源の形成中に、電子源の形成に類似したプロセスで非蒸発型ゲッターを形成することが可能となり、製造コストを抑えることができるという利点がある。そのため、FEDの外囲器を真空に維持するゲッターとして非蒸発型ゲッターが好んで用いられている。
【0011】
また、FEDは、薄型の真空気密容器に平面状に電子源が配置された構造を有するため、局所的な圧力の上昇を抑制することが求められる。そのため、電子源の近傍にゲッターが形成されることが望ましく、この点からも、フォトリソグラフィ等の加工技術を用いて微細加工の容易な非蒸発型ゲッターが好んで用いられる。
【0012】
FEDを構成する容器の内部には、封着時に混入したガス、内部の部材から生じた脱ガス、電子源の駆動による脱ガスなどにより、様々な種類のガスが存在している。電子源へのガスの影響を適切に抑制するためには、これらのガスの全てを、電子源の許容値以下の分圧になるまで取り除く必要がある。
【0013】
ここで、脱ガスレート(ガス発生の割合)はガス種によって異なるため、ガス種毎に異なる吸着性能を有するゲッターが求められる。例えば、FEDでは、HOガス(水蒸気)の脱ガスレートは、電子源駆動初期には大きいが、その後急速に減少する。そのため、HOガスに対しては、駆動初期には大きな吸着速度を必要とするが、長期間に渡って大きな吸着速度を維持する必要はない。COガス(一酸化炭素)の場合には、電子源駆動初期の脱ガスレートは小さいため大きな吸着速度は必要としないが、その後に脱ガスレートは減少し難く、長期間に渡って吸着速度を維持することが求められる。
【0014】
一方、ゲッター膜は、その組成金属または合金に応じて、ガス種に対する吸着性能が異なっている。例えば、Zrを主成分として含有する非蒸発型ゲッターは、HOガスに対する吸着能力が高く、HOガスに関してはFED用のゲッターとして十分な能力を有する。しかし、COガスに対する吸着能力が低く、COガスに関して言えば、FEDの安定駆動には不十分である。また、Tiを主成分として含有する非蒸発型ゲッターは、COガスに対する吸着能力は十分に高いが、HOガスに対する吸着能力は不十分である。
【0015】
このように、FEDでは、容器内から取り除くべき複数のガスが存在するため、単一組成膜によって構成されたゲッターでFEDの容器内部のガスを十分に取り除くことは難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2000−311588号
【特許文献2】特開2005−000916号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本願の目的は、複数種の脱ガスおよび残留ガスを、FEDを構成する容器から取り除くために好適な非蒸発型ゲッターを提供することにある。特に、本願の一目的は、活性化初期にHOガスに対する吸着速度が高く、COガスに対する吸着速度が長い時間持続する非蒸発型ゲッターを提供することにある。また、そのような非蒸発型ゲッターの製造方法や、非蒸発型ゲッターを備えたFEDも、本発明の範囲に含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッターは、チタンを含有する第1の層と、第1の層上に積層され、ジルコニウム結晶を含有する第2の層と、を有する。ジルコニウム結晶の結晶子サイズの平均値は3nm以上20nm以下である。
【0019】
本発明の電界放出ディスプレイは、上記の非蒸発型ゲッターと、電界によって電子を放出する電子放出素子と、が収容された気密容器を有する。
【0020】
本発明の非蒸発型ゲッターの製造方法は、チタンを含有する第1の層を形成する工程と、第1の層上に、結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下であるジルコニウム結晶を含有する第2の層を積層する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、FEDを構成する気密容器内から、複数種のガスを取り除くために好適なゲッターを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態における非蒸発型ゲッターの、吸着量と吸着速度との関係を示すグラフである。
【図2】Ti層上に結晶性の異なるZr層を成膜したゲッターの吸着性能と結晶性との関係を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態における非蒸発型ゲッターの、COガスの吸着特性の、Zr層の膜厚依存性を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるFEDの構成を示す図である。
【図5】吸着特性の測定に用いた、スループット法を行う実験装置の模式図である。
【図6】スループット法によって測定される、ゲッターの吸着特性のグラフである。
【図7】実施例1、および比較例1−1,1−2の非蒸発型ゲッターの、HOガスの吸着特性の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例2、および比較例2−1,2−2の非蒸発型ゲッターの、XRDによる結晶性の測定結果と、非蒸発型ゲッターの結晶性と吸着特性との関係を示したグラフである。
【図9】実施例3〜5、および比較例3−1,3−2の非蒸発型ゲッターの、Zr層の膜厚と吸着中盤での吸着速度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本願発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0024】
まず、本発明の非蒸発型ゲッターの実施の形態について説明する。本発明の非蒸発型ゲッターは、電界放出ディスプレイ用のゲッターとして用いられる。非蒸発型ゲッターは、チタンを含有する第1の層(Ti層)と、第1の層上に積層され、ジルコニウム結晶を含有する第2の層(Zr層)と、を有する。第2の層のジルコニウム結晶の結晶子サイズの平均値は3nm以上20nm以下である。このように、非蒸発型ゲッターは、Ti層とZr層の積層構造となっている。
【0025】
この非蒸発型ゲッターは、チタンを含有する第1の層を形成する工程と、第1の層上に、結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下であるジルコニウム結晶を含有する第2の層を積層する工程と、を有する方法によって製造される。
【0026】
第1の層を構成するTiや第2の層を構成するZrは、蒸発した材料の付着させることで形成される。このような蒸着の方法としては、材料を加熱するものや、スパッタリング法のように物理的エネルギーを用いるものなどがある。具体的には、電子ビーム蒸着法、ジェットプリンティング法、スパッタリング法などが好適に用いられる。
【0027】
具体的な一例として、ガラス基板上にスパッタリング法によりTi層を成膜し、続けてスパッタリング法により、Ti層上にZr層を成膜して、非蒸発型ゲッターが形成される。Ti層(下層)およびZr層(上層)共に、空隙が多く、比表面積の大きな多結晶構造になっている。これにより、Ti層とZr層の両層が、ガス分子(ガス原子)を吸着するゲッターとして機能し得る。
【0028】
図1は、Ti層の上にZr層を積層した非蒸発型ゲッターの性能(単位面積当たりのガスの吸着特性)を測定した結果を表したものである。なお、縦軸および横軸ともに、対数軸で表されている。
【0029】
横軸は、非蒸発型ゲッターが活性化された後からある時点までに吸着したガスの量(吸着量)を示しており、縦軸はその時点での単位時間辺りのガスの吸着速度を示している。以下、吸着速度が零になるまでに吸着したガスの総量を「吸着総量」と定義する。
【0030】
図1(a)を参照すると、本実施形態の非蒸発型ゲッター(実線)は、初期の吸着速度に関して、単層のZrゲッター(破線)とほぼ同等の性能を有することが分る。そして、吸着総量に関しては、単層のZrゲッターと単層のTiゲッター(点線)とを合算した性能を有していることが示されている。このような結果は、HOガスやCoガスなど、任意のガス分子に対して概ね同様の結果となる。
【0031】
図1(b)は、Zr層(上層)の膜厚を変化させた場合の、HOガスの吸着特性を示している。初期の吸着速度に関しては、Zr層の膜厚にほとんど依存しない。また、吸着総量に関しては、単層のZrゲッターの吸着総量と単層のTiゲッターの吸着総量とを合算した特性を有する。
【0032】
本実施形態の積層型の非蒸発型ゲッターがこのような吸着特性を持つ理由として、本発明者は現在のところ次のように考えている。非蒸発型ゲッターは、その活性な金属表面が吸着サイトとして働き、ガス分子を吸着、結合する。結合したガス分子は、ゲッターが高温であると、ゲッターの内部に拡散する。そして、ゲッター表面の吸着サイトは再度活性となる。しかし、例えば、ゲッターが室温程度の低温にある場合には、ほとんど拡散が起こらず、ガスを吸着した吸着サイトは不活性となり、それ以降のガス吸着に寄与しなくなる。
【0033】
上述したように、ガス分子を吸着した非蒸発型ゲッターを真空中又は不活性ガス中で加熱することで、ゲッターの表面付近に結合していたガス分子はゲッターの内部に拡散し、非蒸発型ゲッターは再びそのガス吸着能力を発現する(活性化)。活性化直後のゲッターにおいては、ゲッターの表面付近のほぼ全ての吸着サイトが活性である。そのため、ガス分子との衝突確率の大きな最表面における吸着サイトが、ゲッターの性能にとって支配的となる。吸着が進むと、ゲッターの最表面の吸着サイトの多くは不活性となる。しかし、ゲッター内部は、ガス分子との衝突確率が小さいため吸着ガス分子の量が少なく、その吸着性能をあまり失っていない。そのため、吸着が進むにつれて、ゲッターの内部の吸着サイトにおける特性が、ゲッターの吸着性能にとって支配的となる。本願発明の非蒸発型ゲッターによれば、最表面に存在するのはZr層である。そのため、初期の吸着速度は単層のZrゲッターとほぼ同等の性能を持つ。また、ゲッター層の内部には、ZrおよびTiがあり、これらが共にゲッターとして働くため、吸着総量は単層のZrゲッターと単層のTiゲッターとを合算した性能を持つ。
【0034】
単層のZrゲッターはHOガスに対する吸着能力が高く、単層のTiゲッターはCOガスに対する吸着能力が高い。したがって、本実施形態の非蒸発型ゲッターは、活性化開始時には、HOガスに対する吸着能力が高く、吸着が進んでもCOガスに対する吸着能力を長時間維持することができる。これにより、FEDを構成する気密容器の内部に存在する脱ガスや残留ガスなどを好適に取り除くことが出来る。
【0035】
本願発明のFED用のゲッターは、Zr層およびTi層が空隙を多く含み、比表面積の大きな多結晶構造を持つことが好ましい。これは、ガス分子がゲッター層内に侵入することが容易となり、各ゲッター層の吸着総量を合算した吸着総量が得られるようになるからである。
【0036】
図2は、多結晶のTi層上に結晶性の異なるZr層を成膜したゲッターの吸着性能と結晶性との関係を示したグラフである。Zr層の結晶性の尺度として、X線回折分析(XRD分析)における、回折ピークの半値幅を用いることができる。半値幅が十分に小さいとき結晶が高く緻密な状態であり、半値幅が十分に大きいとき結晶性が低くアモルファス状態であることが知られている。
【0037】
図2(a)は、活性化初期の吸着速度(初期吸着速度)と結晶性との関係、図2(b)は、吸着総量と結晶性との関係を示したグラフである。図2(a)において、回折ピークの半値幅の小さい緻密膜の状態や、半値幅の大きなアモルファス膜の状態では、初期吸着速度が小さい。これは、多結晶の膜状態と比較して、緻密膜の状態やアモルファス状態では、Zr層の比表面積が小さく、Zr層のゲッターとしての能力が小さいことを示している。また、図2(b)においても、図2(a)と同様に、半値幅の小さい緻密膜状態や、半値幅の大きなアモルファス状態では吸着総量が小さい。これは、上層のZr層が空隙をほとんど持たず、Ti層の空孔がZr層に覆われており、Ti層によるガス分子の吸着が抑制されていることを示している。
【0038】
後述するが、下記実施例2の結果が示すように、Zr層は、XRD分析による(100)面に対応するピークの半値幅が0.7°〜1.5°の範囲であることが好ましい。このような非蒸発型ゲッターは、Zr層およびTi層が共に吸着特性を発揮し、FEDを構成する気密容器の内部のガスを十分に除去することが可能になる。
【0039】
Zr層およびTi層が共にゲッターとして機能しうる積層膜を得るためには、上層のZr層を構成するZr結晶の結晶子サイズが重要となる。結晶子サイズが小さいとZr層が緻密な膜を形成し、下層のTi層へのガス分子の侵入が抑制される。また、結晶子サイズが大きいと、サイズの大きいZr結晶はTi層に形成された空隙を塞ぎ、当該空隙へのガス分子の侵入が抑制される。そのため、Zr層およびTi層が共にゲッターとして機能しうる積層構造のゲッターを得るためには、Zr層を構成するZr結晶の結晶子サイズに好適な範囲が存在する。本実施形態では、このような観点から、チタンの結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下となっている。
【0040】
公知のように、Scherrerの式「D=Kλ/βcosθ」を用いると、XRD測定結果から結晶子サイズが決定される。XRD測定による半値幅が0.7°〜1.5°の範囲の場合、[100]方向における結晶子サイズの平均値は5nm以上15nm以下と推定される。Dは結晶子サイズの平均値、KはScherrer定数、λはX線の波長、βはXRD測定におけるピークの半値幅、θはXRD測定におけるピークの回折角である。ここでは、XRD測定に対して、PANalytical社製X'Pert PRO MRDを用いた。本明細書において、測定に用いたX線の波長λは1.5Åである。また、Scherrer定数K=0.9、ピーク回折角θ=35°の値を用いた。
【0041】
実際の結晶では方向に応じて結晶子サイズが若干異なっていても良く、また測定装置に依存する係数等を考慮に入れると、Scherrerの式の「K」が0.9±0.3の範囲を持っていても良い。したがって、Zr層の結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下の範囲にあるものが、本願発明に含まれる。この場合であっても本発明の効果に影響を及ぼすものではない。
【0042】
本実施形態では、第2の層を構成する全てのZr結晶の結晶子サイズが3nm以上20nm以下である必要は無く、Zr結晶の結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下であれば良い。この場合であっても、3nm以上20nm以下の大きさの結晶を十分多く含んでおり、Zr層が十分にゲッターとして機能するからである。
【0043】
なお、任意の軸方向における、Zr結晶の結晶子サイズの平均値が3nm〜20nmであっても、特定の軸方向において結晶子サイズの平均値が3nm〜20nmであっても、十分にゲッターとしての機能を発揮する。
【0044】
図3は、Zr層の膜厚を変化させた場合の、COガスの吸着特性への影響を示すグラフでる。なお、ここでは、Ti層の膜厚を900nmにした。図1に示した場合と同様に、初期の吸着速度はZr層の膜厚にほとんど依存しない。また、吸着総量に関しては、単層のZrゲッターと単層のTiゲッターとの吸着総量を合算した吸着総量を持つ。
【0045】
しかし、図1の場合とは異なり、図3に示すように、吸着中盤での吸着速度の大きさが、Zr層の膜厚が大きくなるほど小さくなっている。このような吸着特性を持つ理由として、本発明者は現在のところ次のように考えている。
【0046】
既に考察したように、ゲッターは、その表面に近い領域ほど、気体との衝突確率が大きいため、吸着量が少ない場合には表面近傍の吸着サイトの吸着特性がゲッターとしての吸着特性に大きな影響を与える。
【0047】
COガスの場合には、Ti層がZr層よりも大きな吸着特性を示す事が知られている。そのため、活性化の初期では、最表面にあるZr層の特性を反映した吸着特性が表れ、Zr層の膜厚差の影響はほとんど見られない。しかし、吸着が進むと、上層のZr層の膜厚が小さいほど早くCO分子がTi層に吸着されるようになり、COガスに対して高い吸着性能を示す。逆に、Zr層の膜厚が大きいゲッターでは、Ti層の吸着サイトにCO分子が到達するまでに時間がかかるため、吸着中盤での吸着速度が小さくなる。これが、図3の吸着特性の中盤において、Zr層の膜厚が小さいゲッターほど高い吸着速度を示している理由である。
【0048】
そのため、本発明において、Zr層の膜厚には上限を設けることが好ましい。後述するが、下記表3の結果が示すように、Zr層およびTi層の両ゲッターの吸着性能を共に十分に発揮するために、Zr層の膜厚は1μm以下であることが好ましい。
【0049】
積層構造を有する非蒸発型ゲッターは、特許文献1および特許文献2にも開示されている。しかし、特許文献1では、上層にTi、下層にZr合金等を有している。このような構成では、FEDの容器内で駆動初期に放出されるHOガスを吸着するに十分高い吸着速度を得ることは難しい。これに対し、本発明は、上層に多結晶のZr層、下層にTi層を配することで、駆動初期に生じるHOガスを吸着するために十分高い吸着速度を得ることができる。さらに、Zr層が多結晶であるため、Ti層にもガス分子が到達し、Ti層をゲッターとして機能させることによって、FEDの駆動によって放出されるCOガスをも十分に吸着することができる。
【0050】
また、特許文献2では、上層がアモルファスである。そのため、下層へのガス分子の侵入は阻害されるため、下層の、ゲッター層としての性能は低下する。これに対し、本願発明では、上層のZr層が多結晶、つまり平均の結晶子サイズが3nm以上20nm以下であるため、Ti層のゲッターとしての機能を十分に発揮させることができる。
【0051】
次に、本発明の画像表示装置について説明する。図4は、画像表示装置の概略斜視図であり、気密容器の内部が見えるように気密容器の一部が破断して示されている。画像表示装置は、複数の表面伝導型の電子放出素子54を配置した基板上の、各電子放出素子54間を結ぶ配線上に、上記の非蒸発型ゲッターが設けられている。電界によって電子を放出する電子放出素子54としては冷陰極素子を用いると好適である。特には、電子放出素子54として表面伝導型放出素子を用いること好適である。これは、本発明の非蒸発型ゲッターが、冷陰極素子の駆動で発生するHOガスおよびCOガスを好適に吸着することができるからである。
【0052】
電子放出素子54の配列については、種々のものが採用できるが、一例として単純マトリクス配置がある。単純マトリクス配置とは、電子放出素子54をX方向及びY方向に行列上に複数個配するものである。そして、同じ行に配された複数の電子放出素子54の電極の一方を、X方向の配線52に共通に接続する。さらに、同じ列に配された複数の電子放出素子54の電極の他方を、Y方向の配線53に共通に接続する。以下、電子放出素子54を単純マトリクス配置した電子源基板(リアプレートとも呼ばれる)51について記述する。
【0053】
M本のX方向配線52は、Dox1,Dox2,・・・,Doxmからなり、導電性金属等で構成することができる(nは自然数)。配線の材料、膜厚、幅、成膜方法は、適宜設計される。Y方向配線53は、Doy1,Doy2,・・・,Doynのn本の配線からなり、X方向配線52と同様に形成される(nは自然数)。これらm本のX方向配線52とn本のY方向配線53との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している。なお、X方向配線52は行選択用端子(外部端子)2として、Y方向配線53は信号入力端子(外部端子)1として引き出されている。
【0054】
電子放出素子54を構成する一対の電極(不図示)は、m本のX方向配線52とn本のY方向配線53と導電性金属等からなる結線によって、電気的に接続されている。
【0055】
X方向配線52には、X方向に配列した電子放出素子54の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線53には、Y方向に配列した電子放出素子54の各列を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。各電子放出素子54に印加される駆動電圧は、当該電子放出素子54に印加される走査信号と変調信号との電位差として供給される。上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて個別の電子放出素子54を選択し、電子放出素子54毎に独立に駆動することができる。
【0056】
電子源基板51は、支持枠12およびフェースプレート16とともに、電子放出素子54や、本発明の非蒸発型ゲッター56を収容する気密容器(外囲器)17を構成している。気密容器17としての強度が不足する場合には、電子源基板51に補強板11を付加することもある。この場合には、電子源基板51と補強板11とでリアプレートと称されることもある。フェースプレート16は、ガラス基板13の内面に、蛍光膜14やメタルバック15等が形成されて成る。支持枠12には、リアプレート51およびフェースプレート16が、低融点のはんだやフリットガラスなどを用いて接合される。
【0057】
外囲器17は、上述のように、フェースプレート16、支持枠12、リアプレート51などで構成される。フェースプレート16とリアプレート51との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置しても良い。これにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器17を構成することもできる。
【0058】
本発明の非蒸発型ゲッターを備えた画像表示装置は、一例として、次のように作製される。Tiを含有する非蒸発型ゲッター(第1の層)の上に、Zrを含有する非蒸発型ゲッター(第2の層)を成膜して成る非蒸発型ゲッター56を、Y方向配線53上に形成する。具体的には、まず、Tiを含有する非蒸発型ゲッターを成膜する。その後、Ti層上に、Zrを含有する非蒸発型ゲッター成膜する。成膜方法としては、プラズマ溶射法、電子ビーム蒸着法、スパッタ、抵抗加熱など、Ti層またはZr層が成膜可能な任意の成膜法を用いることができる。ただし、Zr層の成膜方法としては、Zr結晶の結晶子サイズの平均値が3nm〜20nmとなる方法を選択する。
【0059】
FEDの配線や電極の電気的導通や素子構成部材の破壊を防ぐために、感光性材料やメタルマスクなどを用いてこれらの部材をマスクした後、Ti層およびZr層を成膜することが好ましい。もしくは、Ti層およびZr層の成膜後、エッチングを用いて不要な部分の膜を取り除く場合もある。
【0060】
なお、X方向配線52に、Y方向配線53とともにもしくは単独で、本発明の非蒸発型ゲッターを設置しても良い。その場合には、X方向配線52の部分に開口を設けたマスクを形成し、非蒸発型ゲッターを成膜する。もしくは、X方向配線52上も保護した上で他の部分をエッチングしても良い。
【0061】
フェースプレート16には、蛍光膜14の導電性を高めるため、蛍光膜14の外面側に透明電極(不図示)を設けてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態におけるFEDの製造方法の一例を以下に説明する。ガラス基板上に、印刷法やフォトリソグラフィ法などの種々の方法を組み合わせて、電極および配線パターン52,53を形成し、電子放出素子54を配置して、複数の電子放出素子54を備えた電子源基板(リアプレート)51を作製する。作製した電子源基板51のマトリクス配線52,53上に、非蒸発型ゲッター56を、例えば真空蒸着法(スパッタ法)によって形成する。
【0063】
非蒸発型ゲッター56は、電子源基板51を作製した後に形成されても良く、電子源基板51の作製工程中や作成工程前に形成されても構わない。また、真空中もしくは不活性ガス中でTi層を形成した後に、真空中もしくは不活性ガス中に保持しつつ、Zr層を形成しても良い。また、Ti層形成後に大気に晒した後、Zr層を形成してもよい。Ti層の形成後に、FEDにおける他の部材を構成するための成膜工程やフォトレジスト工程、エッチング工程を経た後に、Zr層を形成してもよい。
【0064】
一方で、別のガラス基板上に、例えば蛍光体のような画像形成部材を配置して、フェースプレート16を作製する。リアプレート51、支持枠12およびフェースプレート16によって外囲器17を形成する。外囲器17の形成前には、各部材を脱ガスする工程が必要であり、この工程で非蒸発型ゲッター56が活性化し、その吸着能力を発揮する。外囲器17を構成する部材51,12,16同士の接着は、半田を用いて、真空中あるいは不活性化ガス中で行うことができる。これにより、外囲器17が形成される。半田の加熱は、通電や高周波を用いて支持枠12を加熱することで行うことができる。
【0065】
本例では、画像表示領域内の配線53上に非蒸発型ゲッター56を形成した。しかし、画像表示領域内の他の電極上や配線間の隙間、もしくは画像表示領域外の画像表示領域周辺や支持枠12近傍、さらには支持枠12表面やフェースプレート16上に非蒸発型ゲッターを形成してもよい。
【0066】
以下、本発明の実施例を示す。まず初めに、非蒸発型ゲッターの吸着能力の測定に用いたスループット法について説明する。図5は、スループット法を用いて、非蒸発型ゲッターの吸着能力を測定するために用いた装置の概略図である。この装置は、測定室81と、ガス導入室82と、ガスボンベ83とを有する。測定室81とガス導入室82は、既知のコンダクタンスを持つ配管84で接続されている。ここでは、便宜上、この配管84のコンダクタンスをCと表記する。ガスボンベ83には、非蒸発型ゲッターの吸着能力を測定するガスが封入されている。ガスボンベ83とガス導入室82とは、バリアブルリークバルブ85などを用いて、ガスの導入量を制御することができるように接続されている。
【0067】
測定室81およびガス導入室82には排気装置86が取り付けられており、夫々の室81,82内を真空状態に排気することができるようになっている。排気装置86と各室81,82との間には、ゲートバルブ87が設置されている。測定室81およびガス導入室82には、それぞれ、室81,82内のガス圧力を測定することのできる真空計88、89が取り付けられている。ここでは、便宜上、測定室81に取り付けられた真空計88の示すガス圧力をP1、ガス導入室82に取り付けられた真空計89の示すガス圧力をP2とする。
【0068】
測定室81内にはゲッター基板90を保持するための基板ホルダー91が設置されている。本例においては、基板ホルダー91にはヒーターが取り付けられており、ゲッター基板90を加熱して、非蒸発型ゲッターを活性化させることができるようになっている。
【0069】
以下に実際の測定手順を示す。ゲッター基板90を測定室81内に設置した状態で、測定室81とガス導入室82とを十分に排気する。これは、残留ガスが、測定用のガスに混合したり、活性化中に非蒸発型ゲッターが残留ガスを吸着して劣化することを防いだりするためである。測定室81とガス導入室82とが十分に排気されたら、基板ホルダー91のヒーターを用いてゲッター基板90を加熱し、非蒸発型ゲッターを活性化させる。非蒸発型ゲッターが活性化し、その吸着能力を発揮するようになったら、ゲートバルブ87を閉め、測定室81とガス導入室82とを気密にする。その後、ガスボンベ83のバリアブルリークバルブ85を操作して、ガス導入室82および測定室81へと測定用のガスを導入する。
【0070】
このとき、ガスボンベ83から導入されたガスは、ガス導入室82から配管84を経由して測定室81に入り、ゲッター基板90の非蒸発型ゲッターに吸着される。配管84を通過するガスの量Qは、コンダクタンスの定義から、「Q=C(P2−P1)」と与えられる。ただし、ガス導入室82から測定室81へ、ガスが進入する方向を正とした。
【0071】
この場合、排気装置86と各室81,82との間のゲートバルブ87は閉じられているため、配管84を通ってガス導入室82から測定室81に進入したガスは、ゲッター基板90の非蒸発型ゲッターに吸着される。よって、真空計88、89の示すガス圧力P1,P2を測定し、配管84を通るガスの流速および流量を算出すれば、非蒸発型ゲッターの吸着速度および総量を測定することができる。
【0072】
図6に測定結果の一例を示す。横軸は、ある時点までに非蒸発型ゲッターが吸着したガスの量、縦軸はその時点での吸着速度である。図6(a)に示すように、ガスの吸着量が増えるにつれて吸着速度は小さくなる。これは、吸着サイトにガス分子が吸着し、活性な吸着サイトが減少するためである。なお、特定のガス種のみではなく、一般的なガス種に対して図6(a)と同様のグラフが得られる。図6(b)は、初期の吸着速度は同じであるが、吸着総量の異なるゲッターの吸着特性の一例であり、図6(c)は、吸着総量は同じであるが初期の吸着速度が異なるゲッターの吸着特性の一例である。
【0073】
以下では、便宜上、COガスの吸着総量を、その吸着速度が10−2[m/s/m]になった時の吸着量で規定する。便宜上、COガスの駆動初期の吸着速度を、吸着量が10−3[Pam/m]になった時の吸着速度で規定する。便宜上、HOガスの吸着総量を、吸着速度が10−1[m/s/m]になった時の吸着量で規定する。以下、便宜上、HOガスの駆動初期の吸着速度を、総吸着量が10−1[Pam/m]になった時の吸着速度で規定する。
【実施例1】
【0074】
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続きスパッタリング法によりTi層上にZr層を成膜した。成膜条件は下記表1に示す。
【0075】
[比較例1−1]
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層のみを成膜した。成膜条件は下記表1に示す。
【0076】
[比較例1−2]
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりZr層のみを成膜した。成膜条件は表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
こうして作製したゲッターを、それぞれ、10−3Pa以下の雰囲気中で、400℃、1時間の活性化処理を施し、室温まで冷却後、吸着性能を測定した。ガス吸着性能は、HOガスを用いてスループット法により行った。
【0079】
こうして測定した3種類の非蒸発型ゲッターは、図7に示すような吸着性能を示した。実施の形態でも述べたように、実施例1のZr/Ti積層型のゲッターは、初期の吸着速度に関して単層のZrゲッターと同等の性能を持ち、吸着総量に関しては単層のZrゲッターと単層のTiゲッターとを合算した性能を持っていることを示している。
【実施例2】
【0080】
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法によりTi層上にZr層を成膜した。Zr層の成膜条件としては、Zr結晶が多結晶になる条件を選択した。実施例2での成膜条件を下記表2に示す。作製した非蒸発型ゲッターは、XRDによる結晶性分析によれば、(100)面に対応するピークの半値幅が1.2°であった。
【0081】
[比較例2−1]
厚さ1.8mmのガラス基板上にスパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法によりTi層上にZr層を成膜した。本例では、緻密なZr膜を成膜した。成膜条件を下記表2に示す。作製したZr層は、XRDによる結晶性分析によれば、(100)面に対応するピークの半値幅が0.6°であった。
【0082】
[比較例2−2]
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法によりTi層上にZr層を成膜した。本例ではZr層の成膜条件を変化させることで、アモルファスなZr層を成膜した。成膜条件を表2に示す。作製したZr層は、XRDによる結晶性分析によれば、(100)面に対応するピークの半値幅が1.7°であった。
【0083】
【表2】

【0084】
こうして作製した3種類の非蒸発型ゲッターを10−3Pa以下の雰囲気で400℃、1時間の活性化処理を施し、室温まで冷却後吸着性能を測定した。ガスの吸着性能は、COガス及びHOガスを用いて、スループット法により行った。これらの測定結果を、図8に示す。
【0085】
図8(a)は、3種類の非蒸発型ゲッターのXRD分析による結晶性評価の結果である。点線が実施例2の結果、太い実線が比較例2−1の結果、細い実線が比較例2−2の結果を示している。図8(b)は、HOガスの駆動初期の吸着速度と結晶性との関係を示しており、図8(c)はCOガスの吸着総量と結晶性との関係を示している。実施例2のように、上層に多結晶なZr層を配置した非蒸発型ゲッターは、比較例1および比較例2のものに比べて、高い吸着性能を示している。
【0086】
画像表示装置の外囲器内のガスの影響を抑制するためには、HOガスに対して、18[m/s/m]以上の駆動初期の吸着速度があることが好ましい。そのため、本願発明において、Zr層は、XRD分析によって得られるZr結晶の(100)面に対応するピークの半値幅が0.7°〜1.5°の範囲の多結晶膜であることが好ましい。この場合、図8(c)に示すように、COガスの吸着総量のグラフは、Zr層とTi層とが、両方とも吸着能力を発揮するという本願発明の特徴を有していることを示している。
【実施例3】
【0087】
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法により、Ti層上にZr層を成膜した。Zr層の成膜条件としては、多結晶なZr層を形成する条件を選択した。成膜条件を下記表3に示す。
【実施例4】
【0088】
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法によりTi層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法により、Ti層上にZr層を成膜した。Zr層の成膜条件としては多結晶なZr層を形成する条件を選択した。成膜条件を下記表3に示す。
【実施例5】
【0089】
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法により、Ti層を成膜した。その後、大気に晒すことなく、引き続いてスパッタリング法により、Ti層上にZr層を成膜した。Zr層の成膜条件としては、多結晶なZr層を形成する条件を選択した。成膜条件を表3に示す。
【0090】
[比較例3−1]
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法により、Ti層のみを成膜した(Ti単膜)。成膜条件を表3に示す。
【0091】
[比較例3−2]
厚さ1.8mmのガラス基板上に、スパッタリング法により、Zr層のみからなるゲッターを成膜した。Zr層の成膜条件としては、多結晶なZr層を形成する条件を選択した(Zr単膜)。成膜条件を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
実施例3〜5および比較例3−1,3−2の5種類の非蒸発型ゲッターを10−3Pa以下の雰囲気で400℃、1時間の活性化処理を施し、室温まで冷却後吸着性能を測定した。ガス吸着性能は、COガスを用いてスループット法により測定した。
【0094】
実施例3〜5の3種類の非蒸発型ゲッターは、図3に示すような吸着性能を示した。実施の形態でも述べたように、吸着中盤での吸着速度の大きさが上層のZr層の膜厚が大きくなるほど小さくなっている。
【0095】
図9は、吸着総量が0.1[Pam/m]の時点での吸着速度と、Zr層の膜厚との関係を示したグラフである。図9では、図3に示す3種類のゲッターの吸着特性に加え、比較例3−1および3−2におけるTiゲッターとZrゲッターの吸着特性が示されている。グラフ中、破線は単層のTiゲッター(比較例3−1)の結果を示しており、点線は単層のZrゲッター(比較例3−2)の結果を示している。グラフから、単層のTiゲッターと単層のZrゲッターの両性能を発揮させるためには、Zr層の膜厚は、1μm以下であることが好ましいことが分る。
【実施例6】
【0096】
次に、本発明のFEDについての一実施例を示す。本実施例のFEDは、図4に模式的に示された装置と同様の構成を有し、電子源基板51と支持枠12とフェースプレート16とを封着することで、気密容器17を形成している。電子源基板51は、基板上に複数(1080行×5760列)の表面伝導型の電子放出素子54が、単純マトリクス配線された電子源を備えている。支持枠12は、鉄とニッケルの合金からなる金属枠に金メッキしたものを用いた。フェースプレート16には、ガラス基板13の上に蛍光膜14とメタルバック15が形成されている。電子源基板51は、フォトリソグラフィによって形成したX方向配線(上配線)52を持ち、X方向配線52上には非蒸発型ゲッター56が配置されている。
【0097】
図4は電子放出素子をマトリクス状に配置した電子源を用いて構成したディスプレイパネルの一例を示す模式図であり、内部がわかるように一部を切り欠いて示している。図4において、51は電子源基板、52はX方向配線、53はY方向配線である。また、54は電子放出素子を模式的に示している。尚、X方向配線52は、カソード電極を共通に接続する配線であり、Y方向配線53はゲート電極を共通に接続する配線である。ここでは、電子放出素子54が、X方向配線52とY方向配線53との交差部に設けられた例を模式的に示しているが、電子放出素子は、X方向配線52とY方向配線53との交差部付近の電子源基板51上に設けることもできる。56はX方向配線52上の非蒸発型ゲッターである。
【0098】
以下に、本実施例の非蒸発型ゲッターの製造方法について、図4を参照しつつ説明する。
【0099】
(工程a)X方向配線52は、銅(Cu)膜の上に窒化タンタル膜を積層して形成された。銅膜は電界メッキ法を用いて形成し、厚さは19μmとした。銅膜のパターニングはウェットエッチング法を用いて行った。窒化タンタル膜はスパッタリング法を用いて形成し、厚さは100nmとした。窒化タンタル膜のパターニングはドライエッチング法を用いて行った。
【0100】
(工程b)工程aで作製したX方向配線が存在する領域に開口が形成されたフォトレジストをパターニングした。その後、スパッタリング法を用いてTi層を形成した。Ti層の厚さは900nmとした。その後、続けてスパッタリング法を用いて、Ti層上にZr層を形成した。Zr層の厚さは300nmとした。フォトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、Zr/Ti積層膜をリフトオフし、X方向配線52上に非蒸発型ゲッター56を形成した。
【0101】
(工程c)電子源基板51、フェースプレート16、支持枠12を、内部を真空に保った装置中で加熱した。電子源基板51と支持枠12は約10−5Paの真空度下で400℃で1時間加熱し、フェースプレート16は約10−5Paの真空度下で450℃で1時間加熱した。この工程により、各部材の脱ガスが行われるのと同時に、非蒸発型ゲッターは活性化し、その吸着能を発揮するようになる。
【0102】
(工程d)電子源基板51とフェースプレート16を、支持枠12を挟むように対向させ互いに封着する。電子源基板51と支持枠12、フェースプレート16と支持枠12を、それぞれ、金属はんだを用いて接合した。
【0103】
このようにして、本発明の非蒸発型ゲッター56と、電子放出素子54とが収容された気密容器17を備えたFEDが製造される。
【0104】
[比較例4]
実施例6に示す工程a、c、dによってFEDを製造した。比較例4のFEDは、X方向配線上に非蒸発型ゲッターを持たない点以外は、実施例6のFEDと同じ構成になっている。
【0105】
実施例6と比較例4のFEDを駆動し、輝度の経時変化を測定した。測定の結果、実施例6のFEDの輝度の経時的な減衰は、比較例4のFEDの輝度の経時的な減衰よりも明らかに小さく、非蒸発型ゲッターによる、FEDの輝度劣化抑制効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の非蒸発型ゲッターは、真空気密容器内のガスの除去に利用可能であり、特に、FEDに用いられる外囲器の内部のガスの除去に有用である。
【符号の説明】
【0107】
56 非蒸発型ゲッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有する第1の層と、
前記第1の層上に積層され、ジルコニウム結晶を含有する第2の層と、を有し、
前記ジルコニウム結晶の結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下である、電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッター。
【請求項2】
前記第2の層は、X線回折分析によって得られる前記ジルコニウム結晶の(100)面に対応するピークの半値幅が0.7°〜1.5°の範囲である、請求項1に記載の電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッター。
【請求項3】
前記第2の層の膜厚が1μm以下である、請求項1または2に記載の電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッター。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の非蒸発型ゲッターと、電界によって電子を放出する電子放出素子と、が収容された気密容器を有する電界放出ディスプレイ。
【請求項5】
チタンを含有する第1の層を形成する工程と、
前記第1の層上に、結晶子サイズの平均値が3nm以上20nm以下であるジルコニウム結晶を含有する第2の層を積層する工程と、を有する、電界放出ディスプレイ用の非蒸発型ゲッターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−204594(P2011−204594A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72952(P2010−72952)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】