説明

電磁リレーの振動試験方法及び装置

【課題】電磁リレーの共振特性を容易に得ることができる電磁リレーの振動試験方法及び装置を実現する。
【解決手段】可変直流信号発生器8からの信号による制御によって電磁リレー1の可動接点1cを駆動する励磁コイル1bに直流励磁電流を流して可動接点の復帰ばねと電磁力を平衡させて可動接点を中立位置に移動させ、更に、可変周波数正弦波信号発振器9からの信号による制御によって励磁コイルに流す直流励磁電流に正弦波励磁電流を重畳させて電磁力を振動させることによって可動接点を中立位置で振動させ、重畳する正弦波励磁電流の周波数を変えることによって可動接点が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて可動接点の共振周波数を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁リレーの振動試験方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気設備や電気機器が振動によって誤動作する程度を確認する方法として、電気設備や電気機器を振動台に載置して振動させて誤動作の程度を試験する振動試験方法が用いられている。この振動試験は、電気設備や電気機器の共振周波数がわかっているかいないかで、試験の実施回数や実施時間が大幅に影響する。
【0003】
電気設備や電気機器の共振周波数は、被試験品に振動センサーを設置して振動台に載置し、振動台に加える振動周波数を掃引しながら振動センサーから出力する応答値を振動周波数に対応させて測定することにより共振周波数(共振特性)を得ることができる。
【0004】
しかしながら、電磁リレーが振動に共振して誤動作する程度を確認する振動試験では、可動部分(可動接点)がケーシング内にあり、また、可動部分に振動センサーを取り付けると振動特性が変化してしまうことから、共振周波数を測定することが困難である。したがって、電磁リレーの振動試験は、電磁リレーに加える振動の振幅と周波数を網羅的に変化させて誤動作の有無を探索する方法で誤動作特性を求めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−242168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電磁リレーの共振特性を容易に得ることができる電磁リレーの振動試験方法及び装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電磁リレーの可動部分(可動接点)を駆動する励磁コイルに直流励磁電流を流して前記可動部分の復帰ばねと電磁力を平衡させることにより前記可動部分を中立位置に移動させ、更に、前記励磁コイルに流す直流励磁電流に正弦波(脈動)励磁電流を重畳させて電磁力を振動させることによって前記可動部分を中立位置で振動させるようにし、重畳する正弦波励磁電流の周波数を変えることによって前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を検出する方法及び装置とする。
【0008】
具体的には、励磁コイルの誘起電圧(励磁コイルの端子電圧の正弦波成分)が急増するときの正弦波励磁電流の周波数が電磁リレーの可動部分の共振周波数である。
【0009】
電磁リレーを励磁する直流励磁電流に正弦波励磁電流を重畳して電磁リレーの可動部分を振動させることにより電磁コイルに発生する誘起電圧は、励磁コイルのインピーダンス特性に影響を及ぼす。
【0010】
インピーダンスZは、励磁コイルに現れる電圧を検出してその検出電圧から正弦波電圧成分vを取り出し、また、励磁電流を検出してその正弦波電流成分iを取り出すことにより、Z=v/iで求めることができる。そして、直流励磁電流に重畳する正弦波励磁電流の周波数を変え、各周波数における検出電圧の正弦波電圧成分vと励磁電流の正弦波電流成分iを取り出してインピーダンスZを求め、その値をプロットすることによりインピーダンス特性を得ることができる。
【0011】
このようにして得たインピーダンス特性において、インピーダンスZが急減する周波数が共振周波数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、電磁リレーの可動部分を駆動する励磁コイルに直流励磁電流を流して前記可動部分の復帰ばねと電磁力を平衡させて前記可動部分を中立位置に移動させ、更に、前記励磁コイルに流す直流励磁電流に正弦波(脈動)励磁電流を重畳させて電磁力を振動させることによって前記可動部分を中立位置で振動させるようにし、重畳する正弦波励磁電流の周波数を変えることによって前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を検出するものであり、振動台により機械的に加振する必要がないことから、電磁リレーの共振特性を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電磁リレーの振動試験装置の実施例を示す電気回路図である。
【図2】本発明の電磁リレーの振動試験方法を示すフローチャートである。
【図3】電磁リレーにおける励磁コイルのインピーダンス特性を例示する特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電磁リレーの振動試験方法は、電磁リレーの可動部分を駆動する励磁コイルに直流励磁電流を流して前記可動部分の復帰ばねと電磁力を平衡させて前記可動部分を中立位置に移動させ、更に、前記励磁コイルに流す直流励磁電流に正弦波励磁電流を重畳させて電磁力を振動させることによって前記可動部分を中立位置で振動させるようにし、重畳する正弦波励磁電流の周波数を変えることによって前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を検出するように行う。
【0015】
そして、このような電磁リレーの振動試験方法を実行する試験装置は、被試験品である電磁リレーの励磁コイルに流す励磁電流の大きさを制御するトランジスタのベース電流をオペアンプによって直流励磁電流制御信号と正弦波励磁電流制御信号を重畳して制御するように構成し、
前記直流励磁電流制御信号は、電磁リレーの励磁コイルに流れる直流励磁電流による電磁力が可動部分の復帰ばねと平衡して前記可動部分を中立位置に移動させる大きさとなるように可変直流信号発生器により発生させ、前記正弦波励磁電流制御信号は、前記励磁コイルに流れる直流励磁電流に重畳する正弦波励磁電流による電磁力が前記可動部分を中立位置近傍で振動させるようにすると共に発振周波数を変えることができる可変周波数正弦波信号発振器により発生させるように構成し、
前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を検出する手段は、前記励磁コイルの端子電圧の正弦波電圧成分を検出する電圧検出回路と前記励磁コイルに流れる電流の正弦波電流成分を検出する電流検出回路と、検出した電圧と電流の正弦波成分に基づいて電磁コイルのインピーダンスを算出し、インピーダンスが急変する周波数を電磁リレーの共振周波数として認識する演算処理装置によって構成する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の実施例を示す振動試験装置の電気回路図である。
【0017】
図1において、被試験品である電磁リレー1は、電磁鉄心1aと、この電磁鉄心1aに巻回された励磁コイル1bと、この励磁コイル1bに流れる励磁電流により発生する電磁力によって駆動されて変位する可動接点1cと、常閉固定接点1dと、常開固定接点1eと、接点端子群1fを備える。前記可動接点1cは、電磁リレー1における可動部分と復帰ばねに相当する構成手段である。
【0018】
この電磁リレー1は、励磁コイル1bの一端を励磁電流制御用パワートランジスタ2と電流安定化抵抗器3を介して直流電源(+V端子)4に接続し、他端は電流検出抵抗器5を介して接地(直流電源4の−端子相当に接続)する。
【0019】
励磁電流制御用パワートランジスタ2は、リニア動作領域で使用するようにベース電流を制御することにより、電流安定化抵抗器3と協働して励磁コイル1bに流す励磁電流により発生する電磁力が前記可動接点1cを中立位置において振動させるように機能させる。
【0020】
励磁電流制御用パワートランジスタ2のベース電流を制御する制御用補助トランジスタ6は、オペアンプ7の出力信号によってリニア動作領域で使用するように制御する。このオペアンプ7は、可変直流信号発生器8から出力する直流励磁電流制御信号と可変周波数正弦波信号発振器9から出力する正弦波励磁電流制御信号を合成(重畳)して+入力端子に入力し、入力信号に応じた出力信号を発生する。この出力信号の直流成分は、励磁電流における直流成分により発生する電磁力が前記可動接点1cを中立位置に移動させる制御成分であり、正弦波成分は、電磁力を変動させて前記可動接点1cを中立位置において振動させる制御成分である。また、オペアンプ7の−入力端子には、後述する電流検出信号を入力して励磁電流を定電流制御するための負帰還制御系を構成する。抵抗器10,11,12は、直流励磁電流制御信号と正弦波励磁電流制御信号の加算制御系を構成し、抵抗器13,14は、負帰還制御系を構成する。
【0021】
励磁コイル1bの端子電圧の正弦波電圧成分を検出する電圧検出回路は、電磁リレー1の励磁コイル1bの端子電圧を分圧抵抗器15,16によって分圧してオペアンプ17の+入力端子に入力し、このオペアンプ17の出力信号からコンデンサ18と抵抗器19,20によって直流成分を除去した正弦波電圧成分を抵抗器21を介してオペアンプ22の−入力端子に入力する。オペアンプ22の−入力端子と出力端子の間に接続した抵抗器23は、電流検出抵抗器5の電圧降下分による検出誤差を抑制する機能手段であり、コンデンサ24はノイズ誤差を抑制する機能手段である。また、オペアンプ22の+入力端子には、後述する電流検出回路を構成する電流検出抵抗器5に発生する電圧降下の正弦波成分を抵抗器25と抵抗器26により分圧して入力する。そして、このオペアンプ22は、出力端子から励磁コイル1bの端子電圧における正弦波電圧成分検出信号vを出力する。
【0022】
励磁コイル1bに流れる励磁電流の正弦波電流成分を検出する電流検出回路は、励磁コイル1bに直列接続された電流検出抵抗器5の端子電圧をオペアンプ27に入力し、このオペアンプ27の出力信号は、前記抵抗器13を介してオペアンプ7の−入力端子に入力すると共に、コンデンサ28によって直流成分を除去して得た正弦波電流成分を励磁コイル1bの正弦波電流成分検出信号iとして出力する。また、この励磁電流に応じて得た前記正弦電流波成分は、前記抵抗器25を介して前記オペアンプ22の+入力端子に誤差補正信号として入力する。
【0023】
そして、電磁リレー1の共振周波数を認識制御する制御装置29は、制御入力信号に基づいて制御信号を出力し、各種検出信号を入力して表示信号を出力する演算処理装置291と、前記制御入力信号を発生させるキーボード入力装置292と、前記表示信号を可視化するマルチメーター293及び表示ランプ群294を備える。この表示ランプ群294は、可動接点1cが常閉固定接点1dに接しているときにはランプ294aのみが点灯し、可動接点1cが常閉固定接点1dから離れるとランプ294aが消灯してランプ294bのみが点灯し、可動接点1cが常開固定接点1eに接触するとランプ294bが消灯してランプ294cのみが点灯するように制御される。
【0024】
なお、端子30,31は、電磁リレー1の励磁コイル1bを接続するコイル接続端子である。
【0025】
このような振動試験装置を使用する電磁リレーの振動試験は、図2にフローチャートで示すように実行する。
【0026】
ステップS1
被試験品である電磁リレー1の励磁コイル1bをコイル接続端子30,31に接続し、キーボード入力装置292を操作して直流励磁電流を徐々に増加させると共に電磁リレー1の接点端子群1fにより該電磁リレー1の可動接点1cと固定接点1d,1eの開閉状態を監視し、検出(監視)入力をマルチメーター293と表示ランプ群294により可視化し、可動接点1cが常閉固定接点1dから離れて常開固定接点1eに接触するときの直流励磁電流値(動作開始電流値)を読み取って記憶するように演算処理装置291を設定し、この設定を実行させる。
【0027】
ステップS2
励磁コイル1bの直流励磁電流を遮断して電磁リレー1を初期状態に戻す。
【0028】
ステップS3
ステップS1において記憶した動作開始電流値の所定の割合の直流励磁電流を励磁コイル1bに流すように可変直流信号発生器8を制御する。この所定の割合の直流励磁電流は、可動接点1cを中立位置に移動させる直流励磁電流値であり、例えば、前記動作開始電流値の80%である。この割合は、被試験品の電磁リレーについて、事前に準備試験を行って決めておくことが望ましい。
【0029】
ステップS4
直流励磁電流の動作開始電流値の10〜15%のピーク値の正弦波励磁電流を直流励磁電流に重畳するような正弦波励磁電流制御信号を発生するように可変周波数正弦波信号発振器9を制御する。これにより、励磁コイル1bに流れる励磁電流は、動作開始電流値の90〜95%となる。このように直流励磁電流に正弦波励磁電流を重畳させた励磁電流を励磁コイル1bに流した状態では、直流励磁電流による電磁力によって可動接点1cが常閉固定接点1cから離れた中立位置に移動し、正弦波励磁電流による電磁力によって可動接点1cが中立位置で振動する。
【0030】
ステップS5
正弦波励磁電流制御信号の周波数を掃引するように可変周波数正弦波信号発振器9を制御し、各周波数に対する励磁コイル1bの端子電圧の正弦波電圧成分である正弦波電圧成分検出信号Vと励磁電流の正弦波電流成分である正弦波電流成分検出信号iを読み取って記憶する。
【0031】
ステップS6
各周波数に対応させて励磁コイル1bのインピーダンスZ(=v/i)を計算により求める。
【0032】
ステップS7
各周波数に対応させて励磁コイル1bのインピーダンスZをプロットしたグラフを作成する。
【0033】
ステップS8
インピーダンスZが急変する周波数を電磁リレー1の可動接点(可動部分)1cの共振周波数として認識する。
【0034】
図3は、このようにして得たインピーダンス特性を例示している。このインピーダンス特性において、インピーダンスZが急減する周波数が共振周波数である。
【実施例2】
【0035】
前記実施例1は、被試験品である電磁リレー1の可動接点1cが共振状態となったときの励磁コイル1bのインピーダンスZの急減現象に着目する構成であるが、励磁コイル1bの端子電圧における正弦波電圧成分の急変現象や励磁電流における正弦波電流成分の急変現象に着目する構成に変形することも可能である。
【0036】
端子電圧における正弦波電圧成分の急変現象に着目する構成に変形する場合には、正弦波電圧成分検出信号vを各周波数に対応させてプロットしたグラフを作成し、急変する周波数を電磁リレー1の可動接点(可動部分)1cの共振周波数として認識するように変形する。
【符号の説明】
【0037】
1…電磁リレー、1a…電磁鉄心、1b…励磁コイル、1c…可動接点、1d…常閉固定接点、1e…常開固定接点、1f…接点端子群、2…励磁電流制御用パワートランジスタ、5…電流検出抵抗器、6…制御用補助トランジスタ、7…オペアンプ、8…可変直流信号発生器、9…可変周波数正弦波信号発振器、29…制御装置、291…演算処理装置、v…正弦波電圧成分検出信号、i…正弦波電流成分検出信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁リレーの可動部分を駆動する励磁コイルに直流励磁電流を流して前記可動部分の復帰ばねと電磁力を平衡させて前記可動部分を中立位置に移動させ、更に、前記励磁コイルに流す直流励磁電流に正弦波励磁電流を重畳させて電磁力を振動させることによって前記可動部分を中立位置で振動させるようにし、重畳する正弦波励磁電流の周波数を変えることによって前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を検出するように行うことを特徴とする電磁リレーの振動試験方法。
【請求項2】
請求項1において、前記可動部分の共振周波数を検出は、励磁コイルの端子電圧の正弦波電圧成分と電流の正弦波電流成分を検出して電磁コイルのインピーダンスを算出し、インピーダンスが急変する周波数を電磁リレーの共振周波数として認識することにより行うことを特徴とする電磁リレーの耐振動試験方法。
【請求項3】
被試験品である電磁リレーの励磁コイルに、可動部分の復帰ばねと平衡して前記可動部分を中立位置に移動させる電磁力を発生させる大きさの直流成分と、前記可動部分を中立位置で振動させる大きさの電磁力を発生させると共に周波数を変化させることができる正弦波成分を重畳した励磁電流を流す励磁電流制御回路と、
前記可動部分が共振して励磁コイルの誘起電圧が急変する現象を捉えて前記可動部分の共振周波数を認識する検出手段を備えたことを特徴とする電磁リレーの振動試験装置。
【請求項4】
請求項3において、前記検出手段は、前記励磁コイルの端子電圧の正弦波電圧成分を検出する電圧検出回路と、前記励磁コイルに流れる励磁電流の正弦波電流成分を検出する電流検出回路と、検出した電圧と電流の正弦波成分に基づいて電磁コイルのインピーダンスを算出し、インピーダンスが急変する周波数を電磁リレーの共振周波数として認識する演算処理装置を備えたことを特徴とする電磁リレーの振動試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−11497(P2013−11497A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143821(P2011−143821)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)