説明

電磁型レシーバ

【目的】 製造が容易で、且つキャビティー容積が安定した電磁型レシーバを提供する。
【構成】放音側及び裏面側に開口を有し、該両開口近傍の内壁に段差部61、62を形成した外周ケース6に、前記放音孔21を有する磁性体金属支持体2、コイル3及び磁石4と、磁性体振動板5を配置し、さらに裏面側開口を閉塞する裏面側ケース7を配置した電磁型レシーバ1において、前記磁性体金属支持体2を前記外周ケース6の放音側開口近傍の段差部61に配置し、且つ前記磁性体振動板5を該外周ケース6の裏面側開口近傍の段差部62に配置した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、難聴者用ヒアリングエイドコンパチブル(HAC)レシーバであり、漏れ磁束が発生する電磁型レシーバに関するものである。
【0002】
【従来技術】従来、難聴者が電話などを支障なく通話できるように、音声及び音声に対応する漏れ磁束を発生する電磁型(マグネチック)レシーバが既に提案されている。
【0003】本発明者は、先に、放音孔を有する凹状の放音側ケース部材内に、放音側から、前記放音孔と実質的に同一の貫通孔を有する磁性体金属支持体、コイル及び磁石と、磁性体振動板を順次積層収容し、凹状の放音側ケース部材の開口を皿状の裏面側ケース部材で閉塞した電磁型レシーバを提案した。
【0004】具体的な製造方法は、先ず、放音側の凹状のケース部材内に、ケースの開口から磁性体金属支持体を挿入、ケース部材に接着固定し、次に、磁性体金属支持体上にコイル及び磁石を接着固定し、さらにコイル及び磁石上に所定間隙を有するように磁性体振動板を配置して、ケース部材に接着固定していた。前記ケースの開口の閉塞するように皿状の裏面側ケース部材を配置していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の構造では、特性の安定及び製造工程に時間を要するという問題点があった。
【0006】即ち、特性の安定は、磁性体振動板とコイル及び磁石を接着固定した磁性体金属支持体との間隔を一定に保つこと、及び磁性体振動板を境界として、磁性体振動板と放音穴が形成される磁性体金属支持体との空間(放音側キャビティー)容積と、磁性体振動板と裏面側ケース部材との空間(裏面側キャビティー)容積の一定に制御することによって達成される。
【0007】上述の製造方法においては、凹状のケース部材の開口側から磁性体金属支持体及び磁性体振動板を挿入して、夫々を接着固定するが、この時、接着剤、例えばシリコーン接着剤が硬化する間に、このシリコーン接着剤の挙動が発生して、磁性体金属支持体や磁性体振動板が持ち上げたりする。このため、磁性体金属支持体や磁性体振動板に所定位置より変動してしまう。これにより、磁性体振動板と磁性体金属支持体との間隔が、複数のレシーバ間で異なり、磁性体金属支持体から放たれる磁力でもって磁性体振動板を振動させた時、各レシーバ間で音圧レベルが変動してしまうという問題点があった。
【0008】また、同時に、磁性体振動板の放音側キャビティー容積、裏面側キャビティー容積が変動してしまい、安定した特性が得られないという問題点があった。
【0009】このため、磁性体金属支持体や磁性体振動板を固定する接着剤を保持用治具などを用いて、磁性体金属支持体を完全に接着した後、磁性体振動板を接着することが考えられるが、少なくとも接着剤が完全に硬化するまで放置しなくてはならず、組立工程に時間を要していた。
【0010】本発明は、上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、組立工程が容易となり、且つ特性の変動が少ない電磁型レシーバを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための具体的な手段】本発明は、放音側及び裏面側に開口を有し、該両開口近傍の内壁に段差部を形成した外周ケース内に、前記放音孔を有する磁性体金属支持体、コイル及び磁石及び磁性体振動板を配置し、さらに裏面側開口に裏面側ケースを配置した電磁型レシーバにおいて、前記外周ケースの放音側の段差部に前記磁性体金属支持体を、裏面側の段差部に前記磁性体振動板を夫々配置したことを特徴とする電磁型レシーバである。
【0012】
【作用】上述のように、外周ケースの一方の開口から、コイル及び磁石を接着した磁性体金属支持体を、他方の開口から磁性体振動板とを配置して、接着固定するため、たとえ接着剤が硬化する際に、その挙動などが発生し、磁性体金属支持体及び磁性体振動板が配置位置よりも若干の変動しようとしても、磁性体金属支持体上の磁石によって、磁性体金属支持体と磁性体振動板とが互いにひっぱられるため、磁性体金属支持体及び磁性体振動板が外周ケースの両開口近傍の内壁に形成した段差部に規制された配置位置で確実に接着固定される。このため、磁性体振動板と磁性体金属支持体との距離が安定し、磁性体金属支持体から放たれる磁力でもって磁性体振動板を振動させた時、設計どおりの磁力でもって、磁性体振動板を振動させることができるので、音圧レベルなどの特性が安定する。
【0013】また、放音側及び裏面側のキャビティー容積が安定するので、特性の変動が少ない電磁型レシーバとなる。
【0014】また、磁性体金属支持体や磁性体振動板が、磁石の磁力によって互いに引き合うため、保持治具が不要となり、さらに接着剤が硬化するまで放置する必要がなく、迅速且つ容易に組立可能な電磁型レシーバとなる。
【0015】
【実施例】以下、本発明の電磁型レシーバを図面に基づいて説明する。図1(a)は本発明の電磁型レシーバの放音側の平面図であり、(b)は、裏面側の平面図である。また、図2(a)は図1(a)のA−A線断面、(b)は図1(a)のB−B線断面である。
【0016】本発明の電磁型レシーバ1は、切り欠け部21が形成された磁性体金属支持体2、コイル3、磁石4、磁性体振動板5とから主に構成され、さらに上記構造物を収納する外周ケース6、裏面側ケース7とから構成されている。
【0017】磁性体金属支持体2は、鉄などの磁性体材料からなり、磁性体金属支持体2は、直径19mmの円板状を成し、内部側中心には、コイル3を保持するための突起22が形成されている。また、磁性体金属支持体2の外周には、図1(a)に示すように、例えば8つの切り欠け部21が形成されている。この8つの切り欠け部21のなかで、例えば4つは、放音穴となり、他の切り欠け部21は、位置決め用の切り欠け部となる。
【0018】コイル3は、約50μm の銅などの芯材と、3〜5μm のポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆膜と、3〜5μm のエポキシ樹脂等からなる熱融着層とから成り、このような巻線が所定数だけ巻かれている。具体的にはボビン状の治具にコイル3の巻線を、所定治具に巻着して、最上層の熱融着層のみが融解される熱を与え、各巻き線間を熱融着で固定し、所定治具から離脱してリング状のコイル3とする。尚、絶縁被覆膜の融解は約220℃であり、熱融着層の融解は約120℃である。このため、リング状のコイル3を形成するためには、120〜220℃の熱を印加すればよい。
【0019】磁石4は、プラスチック樹脂で固めたマグネットなどからなり、リング体から成る。磁石4は、磁性体金属支持体2の内部でコイル3の外周側に配置される。
【0020】尚、磁石4によって磁性体金属支持体2に形成した切り欠け部21を閉塞するような場合には、磁石4に貫通するような貫通孔を形成する必要がある。
【0021】前記端子部材8a、8bは、外部の駆動回路から所定信号をコイル3に与えるためのものである。1つの端子部材、例えば8aには、端子部材の主面から上下にそれぞれ立設したハタ部81、82が形成されている。このハタ部81は、ケース6に嵌合して、端子部材8aの位置固定を行うためのものである。またハタ部82は、コイル3の巻線の先端部近傍の一部を仮保持するものであり、端子部材8a上にコイル3の先端部を載置して、該ハタ部82をコイル3の巻線を挟持するように屈曲してカシメ処理されるものである。尚、端子部材8a、8bは、例えば鉄材にNiメッキ及び半田メッキを施した材料から成る。
【0022】磁性体振動板5は、例えば鉄などの磁性金属から成り、例えば直径が18mm、厚み50〜100μmの円板状となっている。
【0023】上述の磁性体金属支持体2、コイル3、磁石4、端子部材8a、8b、振動板5は、外周ケース6に配置され、さらに、外周ケース6の裏面側の開口には、裏面側ケース7が嵌着されている。
【0024】外周ケース6と裏面側ケース7は、例えばABS樹脂、又はガラスフィラーが添加された樹脂などからなる。
【0025】外周ケース6の内壁には、図2、図3に示すように磁性体金属支持体2、振動板5を保持するための段差61、62が夫々形成されており、磁性体金属支持体2と振動板5との間の空隙が、放音側の第1のキャビティーXとなる。放音側の開口近傍に形成された段差部61は、段差部61の平面部に、磁性体金属支持体2の外周の切り欠け部21の幾つかと嵌合する突起部61aが形成されている。
【0026】図の例では、4つの突起部61aが形成されている。即ち、磁性体金属支持体2に形成された切り欠け21部の4つは、外周ケース6の位置決めに作用し、残りの4つの切り欠け部21は、外部と第1のキャビティーXとの空間を連通する放音穴として作用する。
【0027】また、皿状の裏面側ケース7によって振動板5と裏面側ケース7との間には第2のキビティーYが形成され、該裏面側ケース7の表面には、音響抵抗体膜71が被覆された漏洩孔72が形成されている。また、裏面側ケース7の外周部の一部には、端子部材8a、8bを固定するための延出部73が形成されている。
【0028】上述の構造の電磁型レシーバに、端子部材8a、8bを介して音声信号に対応した電流を与えると、コイル3には電流に対応した磁束が発生する。この磁束と磁石4の固有の磁束とが、磁性体金属支持体2の突起22から放たれ、または収束され、磁性体振動板5に作用することにより、磁性体振動板5が所定振動特性で振動する。これにより、第1及び第2のキビティーX、Yの空気が振動し、特にキャビティーAの空気振動が放音孔と作用する切り欠け部21から放たれ、音声信号に対応した音声が発生する。また、コイル3及び磁石4との磁束が、放音側の所定距離にまで作用し、難聴者用の補聴器のピックアップコイル(図示せず)に音声信号に相当する誘導起電力が発生させる。
【0029】次に、上述の電磁型レシーバの組立方法を図3に基づいて説明する。
【0030】まず、外周ケース6の放音側の開口の近傍に形成した段差61に、接着剤を介して磁性体金属支持体2を配置する。外周ケース6の外周部に形成した切り欠き部63の平面部の溝部64に、端子部材8a、8bを固定する。
【0031】次に、外周ケース6の裏面側の開口から磁性体金属支持体2上に所定リング状に形成されたコイル3、磁石4を夫々接着剤を介して配置固定する。
【0032】次に、コイル3の夫々の巻線の先端を端子部材8a、8b側の外部に延出して、外周ケース6の裏面側の開口から磁性体振動板5を、該開口近傍に形成した段差部62に接着剤を介して、配置固定する。
【0033】次に、外周ケース6の裏面側から、外周ケース6に裏面側ケース7を接着剤を介して嵌着する。この時、裏面側ケース7から延出した延出部73によって端子部材8a、8bを完全に固定する。
【0034】最後に、端子部材8a、8aに延出したコイル3の巻線の先端部付近を立設したハタ部82を屈曲処理することにより、コイル3の巻線を仮保持して、さらに端子部材8a、8b上に溶融した半田を供給する。この時、半田接合のための熱により、巻線の熱融着層及び絶縁被覆層が完全に消失してしまい、半田によって巻線の芯材と端子部材8a、8bとが電気的に接合されることになる。
【0035】上述の組立方法において、磁性体金属支持体2及び磁性体振動板5との固定において、磁性体金属支持体2が外周ケース6の放音側開口近傍に形成した段差部61に配置され、磁性体振動板5が外周ケース6の裏面側開口近傍に形成した段差部62に配置され、さらに磁性体金属支持体2及び磁性体振動板5が、磁性体金属支持体2に配置した磁石4から発生する磁力により、互いに引き合い、段差61、62に密着するように配置され、接着固定される。このため、段差部61、62上で、磁性体金属支持体2及び磁性体振動板5の固定位置が変動することがない。従って、磁性体金属支持体2と磁性体振動板5との間隔が、段差部61と段差部62との間隔で実質的に規定されることになり、磁性体金属支持体2と磁性体振動板5との間隔及び磁性体振動板5の放音側及び裏面側に形成されるキャビティーX、Yの容積が一定となる。
【0036】これにより、磁性体金属支持体2から磁性体振動板5に及ぼすコイル3及び磁石4の磁束が、各レシバー間で安定し、これにより、特性、特に音圧レベルが安定したレシバーとなる。
【0037】また、キャビティーX、Yの容積が設計どおりとなるで、設定どおりの音圧特性が維持できることになる。
【0038】また、磁性体金属支持体2と磁性体振動板5との外周ケース6への固定が、磁石4により、磁性体金属支持体2と磁性体振動板5とが互いに引っ張られる力で、夫々がセルフアライメント効果により、配置接着されるので、磁性体金属支持体2や磁性体振動板5を保持する治具が不要となり、また、接着剤が硬化するまで放置する必要がなく、組立が容易かつ確実の電磁型レシバーとなる。
【0039】以上のように、本発明は、磁石4、コイル3が配置された磁性体金属支持体2と磁性体振動板5とが外周ケース6に対して、夫々両開口側から夫々挿入され、且つ磁石4の磁力により、磁性体金属支持体2と磁性体振動板5とが互いに引っ張られるように配置されればよく、その他の構造などについては、種々の変更が可能である。
【0040】
【発明の効果】以上、本発明では、磁性体金属支持体と磁性体振動板との間隔の変動がなく、またキビティーの容積が安定するので、特性が設計どおりに安定し、さらに組立が容易、確実となる電磁型レシーバとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の電磁型レシーバの放音側の平面図、(b)は、本発明の電磁型レシーバの裏面側の平面図である。
【図2】(a)は、図1(a)のA−A断面平面図、(b)は、図1(a)のB−B断面平面であり、夫々、放音側を下側として示した。
【図3】本発明の電磁型レシーバの分解断面図である。
【符号の説明】
1・・・・・・電磁型レシーバ
2・・・・・・磁性体金属支持体
3・・・・・・コイル
4・・・・・・磁石
5・・・・・・磁性体振動板
6・・・・・・外周ケース
61・・・・・段差部
62・・・・・段差部
7・・・・・・裏面側ケース
8a、8b・・端子部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 放音側及び裏面側に開口を有し、該両開口近傍の内壁に段差部を形成した外周ケース内に、前記放音孔を有する磁性体金属支持体、コイル及び磁石及び磁性体振動板を配置し、さらに裏面側開口に裏面側ケースを配置した電磁型レシーバにおいて、前記外周ケースの放音側の段差部に前記磁性体金属支持体を、裏面側の段差部に前記磁性体振動板を夫々配置したことを特徴とする電磁型レシーバ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開平5−211698
【公開日】平成5年(1993)8月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−15326
【出願日】平成4年(1992)1月30日
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)