説明

電磁波吸収材

【課題】製鋼ダストを再溶解して成るスラグを原料とする骨材を含む材料を用い、5〜8GHzの周波数域でS21パラメータ値が−4〜−20dBになる電磁波吸収材を提供する。
【解決手段】
製鋼ダストを再溶解して成るスラグを原料とする骨材を含む材料と結着材との混合物から成り、金属板で裏打ちした厚み50±30mmの単位に、TE波を角度30°で斜入射して測定したときのS21パラメータ値(単位:dB)が、5〜8GHzの周波数域において−4〜−20dBの範囲内にある反射吸収特性を示す電磁波吸収材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波吸収材に関し、更に詳しくは、製鋼ダスト、好適には電気炉スラグを有効利用した電磁波吸収材であって、土木建設分野や家屋建築分野などで、5〜8GHzの高周波域における電磁波障害を抑制するために用いて有効な電磁波吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種合金鋼精錬時における電気炉操業の過程では大量の酸化スラグが副生する。そして、従来からこの酸化スラグの有効利用が検討されている。
その1つは、副生した酸化スラグと還元スラグを破砕/粒度調製し、適当な比率で混合し、その粉粒体を舗装道路の建設時に最下層に敷き詰める路盤材として利用することである。
【0003】
また、電気炉の酸化スラグに対する次のような利用方法も提案されている(特許文献1を参照)。
この方法では、酸化スラグの溶融物に透磁性を高め、放射線遮蔽性や電磁波遮蔽性を向上させる例えば鉄スクラップのような第3成分を添加したのち、更に空気または酸素を吹込んで強制酸化処理を施し、ついでこの溶融物を冷却固化したのち例えば羽根付きドラムで破砕粒状化し、得られた粒状物を樹脂材料や瀝青物質と混合して、透磁性、放射線および電磁遮蔽性を備えた電磁波遮蔽材料が製造される。
【0004】
そして、この材料をシートに成形し、壁紙や自動車の床敷用カーペットの裏面に貼着する使用例などが開示されている。
【特許文献1】特開2001−319805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の材料は、電気炉の酸化スラグを電磁波遮蔽材料の構成要素として利用するという点で興味を引くが、しかし、この材料には次のような問題がある。
まず、この材料は、電気炉で副生した酸化スラグが溶融状態にあるときに、各種の第3成分を添加し、強制酸化処理を施すなどの工程を経て製造されるいわば酸化スラグの変成品である。換言すれば、精錬工程の過程で廃棄物として副生してくる酸化スラグそれ自体をそのまま利用しているのではないということである。
【0006】
一方、最近の動向として電気・電子機器とそのシステムの駆動に関しては、信号の高周波化が進んでいて、例えば室内無線LANの構築においては5GHz帯域の信号の利用が検討されており、またETCシステムの分野では5.8GHz帯域が現に利用されている。
そして、これらシステムの駆動時に発生する電磁波ノイズによって、当該システムが誤作動することを防止するために、これらシステムに電磁波吸収材を組込むことが行なわれている。
【0007】
ところで、特許文献1の材料は電磁波遮蔽能を有する、すなわち電磁波吸収能を有するとされているのであるが、その具体的な電磁波吸収能に関する検討は行なわれていない。例えば、電磁波吸収能の周波数依存性などに関する検討はなされていない。
本発明は、特許文献1の材料と異なり、電気炉で副生した酸化スラグそれ自体を構成要素とする電磁波吸収材であり、しかも5〜8GHzの高周波域における電磁波吸収曲線の形状は比較的平坦であり、また上記した高周波域における電磁波吸収能は材料の厚みが変化してもそれほど変化しないという特性を備えた電磁波吸収材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
製鋼ダストを再溶解してなるスラグを原材料とする骨材を含む材料と結着材との混合物から成り、
厚み40±30mmの単層に、TE波を角度30°で斜入射して測定したときのS21パラメータ値(単位:dB)が、5〜8GHzの周波数域において、
−4〜−20dBの範囲内にある反射吸収特性を示すことを特徴とする電磁波吸収材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
この電磁波吸収材は製鋼ダスト、とりわけ電気炉スラグを有効利用しているものである。それは、必ずしも特定の周波数で大きな吸収能を発揮するわけではないが、使用周波数域が5〜8GHzの範囲にある場合は、どの周波数においてもS21パラメータ値で−4〜−20dBの電磁波吸収能は発揮する。
しかも、材料の厚みが40±30mmの範囲内で変動していても、その吸収特性はほとんど同じである。
【0010】
そして、結着材として例えばアスファルトを用いれば、適温に加熱することにより材料には粘弾性が発現するので、この材料を用いた施工が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の電磁波吸収材は、製鋼ダストを再溶解して成るスラグの粒状物を骨材の材料として使用し、これと結着材を混合し、スラグの粒状物を結着材で結着したものである。
骨材として用いるスラグとしては、例えば、電気炉による溶解・精錬時に副生する電気炉スラグを再溶解してスラグ化したのち、それを粉砕して粒径40mm以下の粒状物にしたものが好適である。
【0012】
また、電気炉で発生したダスト(Fe酸化物が主成分)と副生した還元スラグ(CaO、SiOが主成分)を混合溶融して酸化スラグ化したものの粉砕品は更に好適である。
スラグの使用に際しては、スラグ塊を粉砕機にかけて粉粒体にする。そのときの粒度は格別限定されるものではないが、電磁波吸収材の使用目的に応じて粒度は適宜選定すればよい。
【0013】
なお、この電磁波吸収材を例えばETCステーション付近の舗装道路の舗装材に用いて電磁波ノイズの障害を除去する場合には、粗い粒度と細かい粒度の粒状体を適当な割合で混合して、20%以上の空隙率となるようにする。
結着材としては、例えば瀝青物質、樹脂材料、ゴム、金属粉を混合した瀝青物質などを用いることができる。
【0014】
瀝青物質はいわゆるビチューメンであって、例えばアスファルト、ピッチ、タールなどをあげることができ、これらのうち、アスファルトが好適である。
スラグと結着材の混合割合に関しては、スラグの割合が多くなりすぎると、製造した電磁波吸収材の後述するS21パラメータ値が5〜8GHzの周波数域内で大きくばらつき、電磁波吸収能が不安定になり、逆にスラグの割合が少なくなりすぎると、電磁波吸収能をほとんど発現しなくなる。このようなことから、スラグの割合は0.1〜75体積%、結着材は0.01〜10体積%の範囲内で適宜選定することが好ましい。
【0015】
なお、スラグの外に、例えば砕石、砂、石粉などを混合してもよい。しかし、これらの石材はいずれも誘電体であるため、これらが混合されている電磁波吸収材は、ある特定の周波数で特異的な吸収が発現して、5〜8GHzの周波数域でのS21パラメータ値のばらつきが大きくなるので、その混合量は適切に選定することが必要になる。
本発明の電磁波吸収材は、次のような反射吸収特性を示す。
【0016】
すなわち、厚み40mmの電磁波吸収材を、金属板(反射板)で裏打ちし、TE波を用いた斜入射測定法(アーチ法)でS21パラメータ値を測定したときに、入射角が30°である場合、5〜8GHzの周波数域におけるS21パラメータ値が−4〜−20dBの範囲内におさまるという特性である。
そして、後述するように、測定する電磁波吸収材の厚みが20〜60mmの範囲にあるときは、測定される上記S21パラメータ値はやはり、−4〜−20dBの範囲内におさまるという特性も兼ね備えている。
【0017】
ここで、S21パラメータ値は、電子部品の高周波特性を評価するパラメータの1つであって、この場合、入射点から電磁波吸収材に角度30°で入射したTE波が当該電磁波吸収材の内部へ透過していくときの減衰量を表している。換言すれば、電磁波吸収材での吸収量を表わしている。
したがって、この電磁波吸収材は、多少厚みが変化したとしても、周波数が5〜8GHzの帯域ではS21パラメータ値で−4〜−20dBの吸収能を示し、しかも、その吸収曲線の形は平滑であるという特性を備えている。
【実施例】
【0018】
電気炉ダストを溶融してスラグ化し、それを粉砕して得られた粒状物21.25体積%、6号砕石63.75体積%、粗砂10体積%、石粉5体積%の混合物100質量部に対し、アスファルト4.2質量%を温度165℃で混合して厚み50mmの本発明の材料を調製した。これを実施例1とする。
また、上記したスラグ化粒状物30体積%、6号砕石55体積%、粗砂10体積%、石粉5体積%の混合物100質量部に対してアスファルト4.2質量部を温度165℃で混合して、厚み50mmの本発明の材料を調製した。これを実施例2とする。
【0019】
比較のために、6号砕石とアスファルトを温度165℃で混合して、空隙率が20%で厚み50mmの材料を調製した。これを比較例とする。
これら3種類の材料を金属板で裏打ちし、その表面に入射角30°でTE波を入射してS21パラメータ値を測定した。周波数5〜8GHzの場合の結果を図1に示した。
図1から次のことが明らかである。
(1)実施例1,2は、いずれも、5〜8GHzの周波数域において、ある特定の周波数で特異な吸収能を示すというのではなく、この周波数域ではS21パラメータ値が−4〜−20dBの範囲内におさまっている。すなわち、吸収曲線の形は、5〜8GHzの周波数域で平滑になっている。
(2)一方、比較例の場合は、6.1GHz付近で鋭い吸収ピークを有し、また7.8GHz付近にも特異なピークをもち、全体の吸収曲線の形は平滑になっていない。
(3)実施例と比較例を対比すると、比較例は使用周波数が6.1GHz程度である場合の電磁波吸収材としての選択的有効性を備えていると考えられる。一方、実施例の場合、吸収能はそれほど大きくないが、5〜8GHzの周波数域において使用周波数がどの周波数であっても、電磁波吸収材としての使用が可能である。
【0020】
つぎに、実施例1と比較例の材料につき、厚みが異なる試料を作成し、それぞれの試料につき、周波数5.8GHzのTE波を用い、入射角30°の条件でS21パラメータ値を測定した。その結果を図2に示す。
図2から次のことが明らかである。
(1)実施例1の場合、厚みが変化してもそのS21パラメータ値はほとんど変動していない。換言すれば電磁波吸収能は厚みに対して無依存である。
(2)一方、比較例の場合は、厚みが変化するとそのS21パラメータ値は大きく変動している。換言すれば電磁波吸収能は厚みに依存している。
(3)したがって、比較例の試料を周波数5.8GHzで電磁波吸収材として使用する場合は、その厚みを厳密に調整することが必要になるが、実施例1の試料の場合は厚みの調整をラフにおこなっても使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の電磁波吸収材は、電気炉による精錬時のいわば廃棄物である酸化スラグを有効利用したものであって、その工業的価値は大きい。また、特定の周波数で大きな電磁波吸収能を発揮するわけではないが、5〜8GHzという高周波数域では、どの周波数においてもS21パラメータ値で−4〜−20dBの電磁波吸収能を発揮し、電磁波吸収材として充分に使用可能である。
【0022】
しかも、厚みが40±30mmの範囲内で変動していても、その電磁波吸収能はほとんど同じである。
そして結着材として例えばアスファルトを使用すれば、適当に加熱することにより粘弾性が発現して施工が容易になる。
したがって、本発明の電磁波吸収材は、施工時にmm単位で厚みが変化する例えば壁、塀などの素材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1、実施例2、および比較例の斜入射測定法における周波数とS21パラメータ値との関係を示すグラフである。
【図2】実施例と比較例の試料につき、試料の厚みとS21パラメータ値との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼ダストを再溶解して成るスラグを原料とする骨材を含む材料と結着材との混合物から成り、
厚み40±30mmの単層に、TE波を角度30°で斜入射して測定したときのS21パラメータ値(単位:dB)が、5〜8GHzの周波数域において、
−4〜−20dBの範囲内にある反射吸収特性を示すことを特徴とする電磁波吸収材。
【請求項2】
前記スラグが、電気炉ダストを再溶解してスラグ化したのち、粒径40mm以下に粉砕したものである請求項1の電磁波吸収材。
【請求項3】
前記結着材が、瀝青物質、または含金属粉瀝青物質である請求項1の電磁波吸収材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−12775(P2007−12775A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189907(P2005−189907)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】