説明

電磁石用コイル

車両のコンプレッサーのクラッチに使用する電磁石用コイルを開示する。前記コイルは,絶縁体で被覆され,かつ,ボビンに巻装された複数のアルミニウム線からなり,前記複数の線が同時に前記ボビンに巻装され,該巻装された線が互いに並列に接続される。アルミニウム線は,銅線に比べて体積が大きくなるが,全体抵抗値が低いため発熱量を低減する。前記各アルミニウム線の発熱量は等しく,前記電磁石は飽和状態で同じ性能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両のコンプレッサーのクラッチに使用する電磁石用コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,車両には冷却サイクルで車内空間から熱を抽出(除去)することを目的とするエアコンが設けられており,かかるエアコンには,高温と高圧で熱交換媒体を圧縮し,その圧縮された熱交換媒体の冷媒を熱交換器に放出して車内空間を冷却するコンプレッサーが含まれる。
【0003】
前記コンプレッサーは,車両のエンジン駆動力で駆動されると共に,そのエンジン駆動力をコンプレッサーに伝達又は遮断するクラッチを含む。より具体的に説明すると,前記クラッチが駆動されるとエンジン駆動力がコンプレッサーに伝達され,一方,前記クラッチが駆動されない場合は,エンジン駆動力はコンプレッサーに伝達されず,コンプレッサーの動作は停止する。
【0004】
図1はコンプレッサーに設けられたクラッチの構造を示す部分断面図であり,符号100は,コンプレッサー本体を示す。プーリー102が軸受を介してコンプレッサー本体100の回転軸100a上に回転自在に装着され,前記プーリー102はベルト(図示せず)を介してエンジンに連結されており,該エンジンが駆動されると前記プーリー102が回転する。
【0005】
電磁石104は,前記プーリー102に配置されると共に前記コンプレッサー本体100に固定される。前記プーリー102には,正面側に摩擦面102aが設けられている。
【0006】
ハブ106は,前記コンプレッサー本体100の回転軸100aの端部に固定され,ストッパー板108が前記ハブ106の正面側に取り付けられている。更に,円板110が,前記ストッパー板108を前記プーリー102の摩擦面102aから一定の間隔をおいて離れた位置に配置するように,前記ストッパー板108の背面側に取り付けられている。
【0007】
前記コンプレッサー本体100に固定された前記電磁石104に一定の電圧が印加されると,前記電磁石104で磁力が発生し,前記円板110は前記プーリー102の摩擦面102bに密着する。その時点で,一端が前記円板110に固定され,他端が前記ハブ106と前記ストッパー板108との間に配置されるリーフスプリングは復元力を有している。
【0008】
前記円板が前記プーリー102の摩擦面102bに接触すると,前記車両のエンジンで回転される前記プーリーの回転力は前記円板110と前記プーリー102の摩擦面102bとの間の摩擦力を介して前記コンプレッサーの回転軸100aに伝達され,前記コンプレッサー本体100を駆動する。
【0009】
かかる電圧が前記電磁石104に対する印加を行わないと,磁力が生じず,前記円板110は前記リーフスプリングの復元力で前記プーリー102の摩擦面102bから分離される。そして,前記プーリー102の回転力は前記コンプレッサー本体100の前記回転軸100aに伝達されず,前記プーリー102は空転する。
【0010】
前記クラッチでは,図2に示すように,前記電磁石104は,絶縁プラスチックからなるコイルハウジングのボビン300と,エナメルなどの絶縁体で被覆された導電性が高い線(wire)302とを含む。前記被覆された銅線は一定の巻数で前記ボビン300に螺旋状に巻装される。
【0011】
前記電磁石104は,導電性が高い銅線コイルで巻装されているが,銅は高価なので,コンプレッサーのクラッチのコストを上昇させる。
【0012】
より具体的に説明すると,導電性のある金属は,銀,銅,金,アルミニウム,マグネシウム,亜鉛,鉄,鉛及びアンチモンの順に列挙することができる。銀は導電性が最も高いが,銅に比べて非常に高価である。
【0013】
前記電磁石104のコイルは,銀に次いで導電性が高く,抵抗率と発熱が低い銅線を用いてなる。
【0014】
韓国では,ほとんどの銅は輸入に頼っていることから,銅需要が高まる又,金属相場の急変により銅の価格が上昇すると,銅線を用いる電磁石用コイルとコンプレッサーのクラッチの製造コストもそれに応じて上昇する。
【0015】
そこで,電磁石用コイルに用いる銅線に伴うコストの問題を解決するために,銅に比べて安価なアルミニウムが電磁石用コイルとして使用されている。
【0016】
アルミニウム線をコイルとして用いると,銅を用いた電磁石と比較して安価に製造することができるが,アルミニウムの導電性は銅よりも低いので,アルミニウム線を使用する場合には,銅線を用いた電磁石と同等の強さの磁力を発生させるように巻数を増やす必要がある。その結果として,電磁石の体積が増加してしまうという問題が生じる。
【0017】
より具体的に説明すると,アルミニウム線をボビンに巻装することで電磁石を製造する際に,銅線の場合と同じ線径と巻数で製造し,かかる電磁石に同レベルの電圧を印加すると,そのアルミニウム線を流れる電流量は銅線を流れる電流量よりも少ない。その理由は,アルミニウムの導電性が銅よりも低いためであり,その結果として,アルミニウム線を用いた電磁石から発生する磁力は,銅線を用いた電磁石から発生する磁力よりも小さい。
【0018】
銅線を用いた電磁石から発生する磁力と同じ磁力を有するアルミニウム線を用いた電磁石を提供するためには,ボビンに巻装するアルミニウム線の巻数を銅線の場合よりも約40%以上多くする必要があるので,アルミニウム線を用いた電磁石の体積は銅線を用いた電磁石よりも大きくなってしまう。
【0019】
かかる電磁石用コイルで誘起される電圧は次式1で表すことができる。
【数1】


上式で,Vは電圧,Lは電磁石用コイルのインダクタンス,及びBは磁束密度である。
【0020】
式1では,電磁石用コイルで誘起される電圧を増加させるために,電磁石用コイルのインダクタンスを増加させる必要があり,電磁石用コイルのインダクタンスは巻数が多くなると,それに比例して増加する。
【0021】
電磁石用コイルに銅線の代わりにアルミニウム線を用いる場合,かかる電磁石用コイルの体積が増加するため,そのコンプレッサーのクラッチの体積も増加してしまう。
【0022】
近年の銅の価格上昇に伴い,アルミニウム線を用いた電磁石が継続的に開発されている。又,アルミニウム線を用いると体積が増加してしまうという問題を解決するための手段も模索されている。
【0023】
例えば,アルミニウム線を用いる場合の体積が銅線の場合よりも増加するという問題を解決するために,コンプレッサーのクラッチを改変する技術が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
かかる改変されたコンプレッサーのクラッチは体積の増加という問題を解決することができるが,アルミニウム線は電気抵抗が高いため,銅線の場合の2倍もの熱を発生する。
【0025】
上記のように,アルミニウム線を用いると,銅線と同じ電流値を得るためには銅線の場合よりも多くの巻数を前記ボビンに巻装する必要があり,アルミニウム線の長さを延長すると,抵抗値が高くなり,高い電気抵抗のため大量の熱が発生するので,発熱の問題に対処する必要もある。
【0026】
そこで,本発明は,従来技術に含まれる問題を解決するために,アルミニウム線を電磁石用コイルとして用いる際の抵抗値を低減させることができる電磁石用コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記及びその他の目的を達成するために,本発明は,絶縁体で被覆され,かつ,ボビンに巻装された複数の線からなり,その巻装された線が互いに並列に接続される電磁石用コイルを提供する。したがって,アルミニウム線の全長が銅線の場合よりも延長され,体積が増加しているが,前記複数のアルミニウム線は互いに並列に接続されていることから,抵抗値は低減され,そのために前記電磁石から発生する熱が減少する。
【0028】
又,アルミニウム線のそれぞれは前記ボビンに順次巻装されてはいないが,共に前記ボビンに巻装されているので,各アルミニウム線の発熱量は等しく,熱放射量も等しい。その結果として,第1の線と第2の線との間に温度差がなく,前記電磁石を安定的に作動させることができる。
【0029】
その結果として,前記電磁石用コイルは,絶縁体で被覆され,かつ,ボビンに巻装された複数の線からなり,巻装された線が互いに並列に接続されることを特徴とする。
【0030】
前記複数のアルミニウム線は前記ボビンに並列に巻装されている。
【発明の効果】
【0031】
複数のアルミニウム線が前記ボビンに巻装され,巻装されたアルミニウム線は互いに並列に接続されている。その結果として,アルミニウム線の全長が銅線の場合よりも長くなっており,体積が増加しているが,抵抗値が低いため,発熱量を低減させることができる。
【0032】
又,アルミニウム線は前記ボビンに順次巻装されてはいないが,共に前記ボビンに巻装されているので,各アルミニウム線の発熱量は等しく,熱放射量も等しい。その結果として,第1の線と第2の線との間に温度差がなく,前記電磁石を安定的に作動させることができる。
【0033】
本発明の上記目的,その他の特徴及び利点は,添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明することによって,より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】コンプレッサーに取り付けられるクラッチの構造を示す部分断面図。
【図2】銅線が巻装されたボビンを示す。
【図3】本発明の一実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す。
【図4】本発明の一実施形態に係るボビンに巻装された第1及び第2のアルミニウム線の接続状態を示す。
【図5】本発明の別の実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す。
【図6】本発明の更に別の実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す。
【図7】本発明の一実施形態に係る絶縁体で被覆された第1及び第2のアルミニウム線の接続状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ここで,本発明の好適な実施形態を,添付図面に示す本発明の実施例に基づいて詳細に参照する。
【0036】
図3は,本発明の一実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す図であり,符号400は,絶縁体であるプラスチックからなるボビンであり,該ボビン400には,前記ボビンに巻装された,エナメルなどの絶縁体で被覆された第1のアルミニウム線402と,前記第1の線402に巻装された,エナメルなどの絶縁体で被覆された第2のアルミニウム線404とが含まれる。
【0037】
図4に示すように,前記第1の線402は,前記第2の線404に並列に接続される。
【0038】
前記第1のアルミニウム線402と前記第2のアルミニウム線404とを順次巻装し,前記第1の線402と第2の線404とを並列に接続することで,次式2で示すように,結果として生じる前記第1の線402及び第2の線404の抵抗値は減少する。
【数2】

【0039】
例えば,前記第1の線402と第2の線404の抵抗値が等しいとすると,前記第1の線402が前記第2の線404に並列に接続される場合,抵抗値は半分になる。
【0040】
図3に示すように,前記第1の線402と前記第2の線404の巻数が同じである場合,前記第2の線404の抵抗値は前記第1の線402の抵抗値よりも高くなる。より具体的に説明すると,前記第1の線402が前記ボビン400に巻装された後に,前記第2の線404が前記第1の線402に巻装され,前記第1の線402と前記第2の線404の巻数が同じ場合,前記第2の線404の長さは前記第1の線402の長さよりも長くなる。その結果,前記第2の線404の抵抗値は前記第1の線402の抵抗値よりも高くなる。
【0041】
前記第1の線402と前記第2の線404に電圧を印加することで前記電磁石が駆動される場合,前記第1の線402の発熱量は前記第2の線404の発熱量と異なることから温度差が生じ,飽和状態での性能は,その温度差のために互いに異なる。その結果として,前記電磁石の安定した駆動は得られない。
【0042】
図5は,本発明の別の実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す。この実施形態では,前記ボビン400の領域が2つに分割され,エナメルなどの絶縁体でそれぞれ被覆された前記第1のアルミニウム線402及び前記第2のアルミニウム線404は各部分にそれぞれ巻装され,次いで,巻装された第1のアルミニウム線402と第2のアルミニウム線404は互いに並列に接続される。
【0043】
この実施形態では,前記第1の線402と前記第2の線404と巻数が同じである場合,前記第1の線402と第2の線404の抵抗値は等しくなる。
【0044】
前記第1の線402が内向きに配置され,前記第2の線404が外向きに配置されるとすると,内向きに配置された前記第1の線402の熱放射は不適切な空気の流れのために良好に行われないが,外向きに配置された前記第2の線404の熱放射は適切な空気の流れのために良好に行われる。
【0045】
その結果,前記第1の線402と前記第2の線404との間で温度差が生じるため,飽和状態での性能は,その温度差のためにそれぞれ異なり,それにより,前記電磁石に悪影響を及ぼす。
【0046】
図6は,本発明の更に別の実施形態に係るアルミニウム線が巻装されたボビンを示す。この実施形態では,前記第1のアルミニウム線402と前記第2のアルミニウム線404は並列に配置されて前記ボビン400に巻装され,前記第1の線402と前記第2の線404の両端は互いに並列に接続される。
【0047】
前記第1の線402と前記第2の線404を前記ボビン400に巻装するために,前記第1の線402と前記第2の線404は互いに並列に接続され,その後,前記ボビン400に巻装される。
【0048】
例えば,図7に示すように,エナメルなどの絶縁体800で被覆された前記第1のアルミニウム線402と前記第2のアルミニウム線404は絶縁被覆層802により並列に結合され,その結合された第1の線402と第2の線404は前記ボビンに巻装される。
【0049】
この実施形態の構造では,前記ボビンが前記第1のアルミニウム線402と前記第2のアルミニウム線404で巻装されるので,前記第1の線402と第2の線404の抵抗値は等しい。
【0050】
電圧が前記第1の線402と前記第2の線404に印加されて前記電磁石を作動させる場合,前記第1の線402の発熱量は前記第2の線404の発熱量と同一であり,その熱放射量も等しい。
【0051】
前記第1の線402と前記第2の線404との間に温度差がないので,前記電磁石を安定的に作動させることができる。
【0052】
本明細書では,前記第1のアルミニウム線402及び第2のアルミニウム線404のみを前記ボビン400に巻装することを記載したが,2本以上の線を前記ボビン400に巻装してそれらの線を互いに並列に接続することも可能である。
【0053】
本明細書中では,本発明を,その好適な実施形態を参照して説明及び図示したが,当業者であれば,本発明の精神及び範囲から逸脱することなく種々の改変及び変更を行い得ることは明らかであろう。よって,本発明には,特許請求の範囲及びその同等物の範囲内で本発明の改変及び変更をも含むことを意図するものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記の説明では,複数のアルミニウム線が前記ボビンに巻装され,その巻装されたアルミニウム線は互いに並列に接続される。その結果として,アルミニウム線の全長が銅線の場合よりも長くなり,体積が増加するが,抵抗値が低いため,発熱量を低減させることができる。
【0055】
又,アルミニウム線は前記ボビンに順次巻装されてはいないが,共に該ボビンに巻装されるので,各アルミニウム線の発熱量は等しく,熱放射量も等しい。その結果として,第1の線と第2の線との間に温度差がないので,前記電磁石を安定的に作動させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体で被覆され,かつ,ボビンに巻装された複数の線からなり,巻装された前記線が互いに並列に接続される電磁石用のコイル。
【請求項2】
前記複数の線が同時に前記ボビンに巻装される請求項1記載のコイル。
【請求項3】
前記複数の線がアルミニウムからなる請求項1又は2記載のコイル。
【請求項4】
前記複数の線が絶縁被覆層により並列に結合される請求項1又は2記載のコイル。
【請求項5】
絶縁体で被覆され,かつ,ボビンに巻装された複数のアルミニウム線からなり,前記複数の線が同時に前記ボビンに巻装され,互いに並列に接続される電磁石用のコイル。
【請求項6】
前記複数の線が絶縁被覆層により並列に結合される請求項5記載のコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−526448(P2010−526448A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507307(P2010−507307)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003005
【国際公開番号】WO2008/136553
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509308399)
【Fターム(参考)】